ドラクエ4の世界に異世界転生したら進化の秘法で巨大金玉男にされたので憧れのマーニャ に連続種付けする 作:古のもの
廃村の夜は、意外と静かだった。
石造りの粗末な家屋が点在し、中央の広場には焚き火がいくつか燃えている。強化兵たちはそこで肉を焼き、低声で何かを語り合っていた。狩りで獲った獣の骨を齧る者、城から届いた物資の袋を開けている者。約二百体。かつての人間だった彼らが、今はこの廃村を拠点にしている。
リーダーは、一番大きな家の入口に座っていた。
体は満足している。筋骨は隆々とし、力は以前の何倍もある。傷を負ってもすぐに塞がる。痛みも鈍い。盗賊時代に何度も味わった「弱さ」が、今はほとんどない。だが、顔だけは気に入らなかった。鏡に映る自分の顔は、灰色がかった肌に牙がわずかに覗き、目は濁った黄色をしている。人間だった頃の面影は、ほとんど残っていない。
「……顔まで変えやがって」
低く呟くと、近くにいた強化兵がちらりとこちらを見た。リーダーは手で制した。文句を言うつもりはない。ただ、納得がいかないだけだ。
彼はかつて、盗賊団の頭だった。
フレノールで偽の姫を人質に取り、黄金の腕輪と交換した、あの一件の実行者の一人だ。腕輪を渡した後、この国に逃亡。仲間内で分配を巡って揉め、結局自分は城の兵士に捕まった。地下牢に繋がれ、いつ殺されるかと怯えていたところを、進化の秘法の実験台にされた。
最初は激しい苦痛だった。骨が軋み、筋肉が引き裂け、意識が飛びそうになる。だが、終わってみれば、この体になっていた。力は強く、死ににくく、命令に従うように術式で調整されている。それでも、生前の記憶は消えていなかった。狡猾さも、残忍さも、指揮の取り方も、残っていた。そのおかげで強化兵たちをまとめる事が出来た。狩りと略奪で食いつないでいる。城からは時折物資が届くが、それだけに頼るつもりはなかった。自活できなければ、ただの実験動物のままだ。
リーダーは焚き火の炎を見つめたまま、考えを巡らせる。
城で聞いた話では、進化の秘法を完成させるには黄金の腕輪が必要だという。自分はその隠し場所を知っている。当時、道具屋に売った腕輪は偽物で仲間をも欺いていたのだ。
交渉の材料になる。
いつか、城の連中とやり取りする機会が来たら、これを出す。力だけではない。情報も、生き延びるための武器だ。
「おい」
背後から声がした。副にしている強化兵が近づいてくる。元は同じ牢の囚人だった男だ。
「明日の狩りだが、西の森に鹿の気配がある。あと、近くの街道で馬車を見たという報告も入っている」
リーダーはゆっくりと立ち上がった。体の重みと力が、足元に伝わる。顔の違和感はまだ残るが、この体で指揮を取る分には問題ない。
「街道の方を優先しろ。生け捕りにできるなら、そうしろ。殺すのは最後でいい」
残忍で、狡猾で、それでも指揮能力だけは高い。強化兵たちは、彼の言葉に従った。術式で従順にされたわけではない。ただ、この男の下にいた方が生き延びられると、本能で理解しているだけだ。
リーダーは夜空を見上げた。
黄金の腕輪。
いつか、それを手札にして、もっと上の立場に立つ。顔が怪物でも、力と知恵があれば、十分だった。
焚き火が、ぱちぱちと音を立てて弾けた。
小高い丘の上。
はるなは息を潜め、手に持った槍を構えた。デーモンスピアではない。街で束にして買った、ただの投擲用の槍だ。軽く、扱いやすい。前世で鍛え上げた腕が、距離と風を正確に測る。
最初の一本が、夜の闇を切って飛んだ。
集落の端で、強化兵の一人が喉を押さえて倒れる。続いて二本、三本。移動しながら投げる。同じ場所に留まらない。槍が命中するたびに、集落に動揺が広がっていく。
「敵だ! どこだ!」
「高所だ、丘の方だ!」
怒号が飛び交う。強化兵たちが次々と武器を手に、丘の方角へ散っていく。はるなは木の陰に身を伏せ、さらに位置を変えた。狙い通りだ。手が薄くなる。
その隙に、ライアンとブライが集落の裏側から潜入する。
はるなは丘からその様子を伺っていた。ブライが杖を振り、見張りの強化兵をラリホーで眠らせていく。ライアンははぐれメタルのよろいを鈍く光らせ、無言で先導する。リーダーのいる中央の家屋を目指して、静かに、しかし確実に距離を詰めていく。
——うまくいっている。
そう思った、矢先だった。
ライアンとブライが家屋の前に到達した瞬間、闇の中から複数の影が一斉に浮かび上がった。捜索に出たはずの強化兵たちだ。最初から回り込み、待機していたらしい。完全に囲まれている。
「……罠、か」
はるなの喉が凍った。
中央に立っていたリーダーが、ゆっくりと口を開く。灰色がかった顔に、牙がわずかに光った。
「もう一人を呼べ。投降すれば、お前たちだけは殺さずに済む」
ライアンが剣を構えたまま、後ろを向いた。はぐれメタルのヘルムの隙間から、はるなのいる丘の方を一瞬だけ見る。
「勇者様っ! お逃げ下さい!!」
その声が、夜の空気を裂いた。
次の瞬間、戦闘が始まった。
ライアンが剣を振るう。はぐれメタルの装備が、強化兵の斧を火花と共に弾く。一人、また一人と切り伏せていく。ブライが後ろで杖を高く掲げた。
「マヒャド!」
冷気が爆発し、囲む強化兵の動きを鈍らせる。続けて「ピオリム!」。ライアンの動きがさらに加速する。剣が風を切り、黒い血が飛び散る。二人は凄まじい勢いで抵抗した。
だが、数が違いすぎた。
十、二十と押し寄せる強化兵に、徐々に押し込まれていく。ライアンのよろいにヒビが入り、ブライの魔力も限界に近い。はるなは歯を食いしばり、丘を駆け下りた。デーモンスピアを握りしめ、援護に入る。
「ライアン! ブライ!」
槍が強化兵の胸を貫く。別の一体の首を薙ぎ払う。怒りが先に立っていた。二人を助けなければ、という思いだけが、体を動かしていた。
しかし、届かなかった。
ライアンが大斧を受けて膝をつく。はぐれメタルのよろいが、ついに耐えきれず大きく抉れる。ブライが最後の魔法を放とうとしたところを、複数の槍が同時に突き立てられた。二人は、無残な形で石畳に倒れた。
「……あぁ」
はるなの声が、虚ろに漏れる。
視界が赤く染まる。理性より先に、体が動いた。デーモンスピアを握りしめ、目の前の強化兵を次々と薙ぎ払う。刺し、殴り、蹴る。前世で培った身体能力が、怒りに燃料を注がれて限界を超えていく。
だが、スタミナは有限だった。
息が切れ、足が重くなる。腕が上がらなくなる。強化兵たちは、彼女を生け捕りにしようと、徐々に距離を詰めてきた。
そのときだった。
「はるなさんっ!!」
男の声がした。
続いて、煙幕弾が炸裂する。白い煙が集落の一角を覆い、視界を奪う。煙の中から飛び込んできたのは、大灯台で出会った健太と金髪をポニーテールにまとめた女だった。
女は両手に斧を握り、アクロバティックな動きで強化兵の間を翻弄する。緑の軽装に茶色のレザー。短いプリーツスカートを翻しながら、軸足を変えて二丁の斧を交差させる。まるで体操のような動きで、敵の攻撃をかわし、急所を削っていく。
男はポンプアクション式のクロスボウを構え、短く鋭い音と共に矢を連射する。近づいてきた一体には、レイピアを抜いて喉を貫いた。動きは洗練されていて、無駄がない。
「ここは一旦引く! 煙に紛れて!」
健太が叫ぶ。はるなは一瞬だけ躊躇したが、ライアンとブライの亡骸を見て、歯を食いしばった。今は、生き延びるしかない。
三人は煙の中を駆け、集落の外へと脱出していった。
背後で、リーダーの低い笑い声が聞こえた気がした。
はるなは走りながら、握りしめた槍の柄に、力を込め続けた。