ひしゃげた鍵で釣った魚は、間男の給餌を受け入れる。 作:鯛と琴
「……ニナ?」
ひん剥いた白目。無造作にでろんと投げ出された舌。ふぅふぅと荒々しい鼻呼吸。
その無様極まりないアクメ顔っぷりは、ニナが到底晒すとも思えない表情だった。
ガニ股に開かれた腰は今なお絶頂の余韻にガクガクと震えており、性器からは精液と共に空気の抜ける音が、ぶぴっ、と下品に漏れていた。
「おい、大丈夫か!? ニナ!」
「ほぉ゛……っ、お……? ご、しゅじん、さま……? 彼、は……?」
あまりの異常事態に司令官は思わず駆け寄り、彼女の肩を揺する。すぐに意識を取り戻したことにこそほっとしたものの、求めるような声色でいなくなった男を探す目線にずきりと胸が痛む。
しかし目前には愛を誓った男しか見当たらない。快楽でぐちゃぐちゃになっていた脳が思考を取り戻し状況を察すると、ニナの顔は赤く染まった。
「……っ、し、失礼しました、御主人様。情けのないところを見せてしまって……」
「い、いや、いい。その、なんだ、こちらこそ勝手に入ってしまってすまん」
「……まだ時間は残っているようですね。彼はどこへ行かれたのでしょうか。支払いを踏み倒すようなことをできるほど肝の座った方ではないので、そこは大丈夫かと思いますが……」
膣に注がれた精液を掻き出し拭き取りながら、まるで随分と知り合ったかのように相手の性格から予測を立てるニナ。
最悪の想像が司令官の中に駆け巡り、目前の淫らな彼女の姿と接続されていく。悍ましくも蠱惑的な結末に、陰茎が熱を帯びる。
「御主人様……その、こ、こんな風に乱されている私を見て、勃起していらっしゃるのでしょうか……?」
「どうやら、そうみたいだ。情けない話だが……」
「いえ、むしろ安心いたしました。彼との話を報告するのは少々心苦しかったので……」
報告。そうだ、そんな話もあった、と司令官は思い出す。ここで何が起きたのかを知ることができることに、つい心が弾んでしまう。
ここ数日の出来事はすっかり司令官に「自分の女と他人が行為に及ぶこと」への興味を植え付けるに至っていた。
「っ、ニナちゃん、そいつ、誰!?」
期待を膨らませたところに、横入りする声。ニナの予想通りに戻ってきた男は、珍しく怒りを露わにしていた。
「すみません、お客様、こちらはこの店のオーナーで……」
「悪い、邪魔したな。気絶してるみたいだったから、つい確認に入ってしまった」
「あっ、お、オーナー……い、いや、僕こそごめんなさい、怒鳴っちゃって……あの、ニナちゃんが気絶しちゃって、それで、どうしたらいいかわからなくなって、お店の人を呼ぼうと……」
司令官がオーナーであることを聞いた途端、彼は急に萎縮して、言い訳をするように事情を話す。
ニナの言う通り控えめな性格のようだが、尚更このような男にニナがいいようにされたというのが不自然に思えて、もやっとした感情が残る。
「そういう時は、そこの受話器から受付と話せるようになってるから活用してくれ。まあ、謝る必要はない。俺もそれがどういう技術なのかはよくわかってないからな」
「あっ……は、はい」
「では御主……いえ、オーナー。先ほども申した通り、まだ時間が残っていますので」
「ん、ああ……今出ていくよ」
言葉では冷静に振る舞っていたが、内心、司令官は扉を閉めるのを恐れていた。ドアの隙間からこちらを見送るニナが、閉めてしまえばどこかへ行ってしまう気がしていた。
ぱたん。
「では続きを……っお゛ほ゛ぉっ!?」
悪い予想が、概ねその通りに現実となる。
恐らくは尻を掴まれて急に挿入されたのだろう。聞いたこともないような野太いオホ声が再び廊下中まで響き渡る。その行為の激しさを物語るように、ドアがギシギシと音を立てて揺れていた。
呆然と立ち尽くすことしかできない司令官は、しかしながら目前の絶望的な光景に心臓を高鳴らせ、下半身に血を滾らせていた。
───
──
─
「ええ、御主人様の想像通り、扉を閉めた直後に彼は私のお尻を掴んできまして。そのまま奥までずっぷりと挿入されてしまいました……♡」
翌日。
報告を待ちきれないの司令官の寝室にに、見透かしたかのように訪れたニナ。
あの後のことを尋ねると、ニナは少し恥じらいながらも、うっとりと頬を緩ませて昨日の情事を語り出した。
「ニナ……もっと、聞かせてくれるか……?」
「ええ、もちろんです御主人様。そうですね、約束通り、私の胸で挟みながら報告させていただきます」
メイド服のボタンを外すと、純白の下着に包まれた果実がぶるん、と飛び出した。
「あのお客様は本番ばかりで、最近あまり使っていないので……今このおっぱいは、御主人様専用のようなもの、になりますね」
優越感を煽るようにニナは言う。だが、それよりもあの男と本番を繰り返している事実の方にこそ興奮していることに2人は薄々気がついていた。
まるで男に染められたことを示すように、昨日のことを思い返して溢れてきた愛液が、ニナのパンツを濡らしている。
だというのに、その卑しい蜜壺を暴く体力が司令官には残されていないのだ。たっぷりとローションを垂らされた谷間に、なす術なく陰茎は飲み込まれていく。
にゅぷ♡
にゅぷぷぷ……っ♡
「御主人様のちんぽ、私の谷間に全部隠れてしまいましたね……♡ では、このままパイズリしながらご報告いたします……♡」
ずり……♡ ずり……♡
にゅる……♡ にゅる……♡
柔らかな脂肪が、陰茎にゆるい刺激を与えていく。身体全体に人肌の暖かさが快楽を伴って広がっていく。
「普段は相手がどのようなプレイを求めているか探りながら、言葉を交えて奉仕するのですが……彼の場合は、激しすぎて意識を保つのもやっとですので……♡」
乳房をゆっくり擦り合わせられている今の状況と、比較するように語る。
気持ちよさと羨ましさに腰が浮き上がりそうになるが、胸ごと体重をかけられていて思い切り動くことができない。
「昨日もつい、失言を、2度ほど……」
「それって、俺が来た時の……っ」
「はい、あの時は頭がぼんやりしていましたので、ついお客様の前で御主人様と呼びそうになってしまいました……」
ニナは両乳を交互に持ち上げながら、縦向きに陰茎を扱いていく。谷間に空気が流れ吸い込まれるような感覚が心地いい。
次第にローションが渇きかけると、代わりに自らの唾を垂らした。急に飛び込んできた新たな興奮材料に瞳孔が開いてしまう。
「あの時、彼に聞かれてしまっていたようで……御主人様との関係を問いただされながらピストンされてしまいました……♡」
「……ッ、それで、なんて答えたんだ……?」
「もちろん、あくまでメイドとしてお仕えしている御主人様だと説明させていただきましたが……心の中ではどこか納得していない様子でしたね……」
当然だ。雇い主と従業員というには、昨日の雰囲気はあまりに痴話喧嘩のそれだった。
「彼は嫉妬して後ろから私に抱きついて……『僕のっ♡ ニナちゃん♡ どこにも行かないでっ♡ 僕だけのものになってっ♡ お嫁さんになってぇっ♡』と懇願されてしまい……♡」
ニナは身体ごと胸を激しく揺らす。恍惚の表情で記憶を手繰りながらぴょんぴょんと跳ねる彼女の姿は、まるで後ろから誰かに突かれているかのように見えた。
「それで……これが2つめの失言なのですが……頭がおかしくなるほど犯されていましたので……♡ 私もそれについ『はい♡ お嫁さんになります♡』と答えてしまいました……♡」
「え……?」
ドアの前で浮かんだ、最悪の想像を思い出す。火照っていた身体が急激に冷え上がっていくような感覚に襲われる。
嫌だ。
ニナを取られたくない。
行かないでくれ。
だというのに、陰嚢はどくんどくんと鼓動し、射精感が込み上げてくるのを止められない。
「それを聞いた彼は満足したように、私の膣内に──」
びゅるるるるぅ〜っ♡
びゅーっ♡ びゅっ♡
びゅくびゅくびゅくっ♡
こんなことを聞かされていながら、普段よりも激しく精子を吐き出す。量も濃さもあの客と遜色ないほどだったが、明確に出した場所が違う。
びゅぷっ♡ どぷっ♡
どくどくっ♡
どぷ、どぷん……♡
ニナが胸元を広げると、無駄撃ちされた精液たちが谷間の間に橋をかけていた。そんな場所に張り付いても、子宮には届きようがないというのに。
「あっ……♡ 御主人様も、出してしまいましたね……♡」
「ニナ……っ、うぅ、嫌だ、行かないで、くれ……」
まるで赤子に戻ったかのように、司令官はぐずぐずと泣きだす。今までずっと人に甘えることなんてできなかったというのに、今更になってニナに縋り付いていた。
「ふふっ、随分と素直になられましたね、御主人様。ご安心ください、あくまでプレイ中の失言ですから。私も彼も、本気にはしていません」
「本当か……?」
「ええ、当然です。娼館の仕事で公私混同など、あってはなりませんから」
奉仕とは時に、嘘をつくことだ。
客を喜ばせるための方便と、それこそ嘘か本当かわからない言葉で司令官を慰める。
ただ、少なくとも、初めて心からすすり泣く司令官を見て、彼を守りたいと改めて思ったこと、それだけは事実だった。
「……そうか、そうだよな、すまん、ニナ。取り乱した」
「いかがでしたか? 御主人様」
「ああ……すごく、良かったよ」
司令官は、またスイッチが切り替わるかのように普段の仮面を被り直す。だがその内面は、不思議と晴れやかな気持ちになっていた。
どれだけ取り繕っても嫉妬してしまうのなら、いっそ気持ちよく壊された方が良いのかもしれない、とまで思い始めていた。
「……実のところ、心が傾きかけていたのも事実です。ですが、御主人様が仰るのであれば……私は彼との関係を……いえ、娼館を辞めるつもりでいます。これ以上、御主人様に嫉妬はさせません」
これ以上は本当に堕とされてしまう。
ニナにもそれはわかっていた。
いや、むしろ、もうとっくに堕ちているのかもしれない。
司令官が望んだことだと理由をつけて、あの男のものになってしまいたいのかもしれない。
それは、ニナにもわからなかった。
だからこそ、司令官の答えを待つ。
「俺は────」