翌朝、竜騎士が目を覚ますと、隣には女武闘家がピッタリくっつきながら寝ていた。
彼女の体温が彼の肌に伝わり、穏やかな寝息が耳に心地よい。
朝の光が差し込み、新鮮な空気が満ちていた。
だが、その時、二人の前に軽やかな声が聞こえた。
「あらあら、仲が良くていいわね」
妖精弓手が悪戯っぽく言って、顔を覗かせていた。
彼女の瞳がからかうように輝いている。
竜騎士は慌てて体を起こし、「い、いや、これは…ただ、寒くて…!」と必死に誤魔化した。
顔が熱くなり、言葉が詰まる。
女武闘家もその声で目を覚まし、ぼんやりと体を起こした。
妖精弓手はくすくす笑いながら、「ふふ、いいのよ。でも、私って耳が良いから、聴こえちゃうんだよね」
彼女の言葉に、竜騎士の顔がさらに赤くなった。
昨夜の寝る前の二人の会話が、丸聞こえだったらしい。
女武闘家は目を丸くし、「聞いていたの…?」とびっくりした声で言った。彼女の頰も赤く染まり、手で口を覆った。
妖精弓手は笑顔で忠告した。
彼女の声は軽やかだが、親切心が込められていた。
「私たち森人は、耳が鋭いからね。次はもっと静かにね」
彼女はウィンクしてテントから去っていった。
二人は顔を合わせて、照れくさそうに笑った。
夕方、遺跡の入り口に着いた一行は、森の奥深くで息を潜めた。
遺跡は古い石の壁が崩れかけ、蔦に覆われ、夕陽の赤い光が影を長く引きずっていた。
ゴブリンは夜に活動する生き物で、今の時間は連中にとっての朝方らしい。
眠そうにしているゴブリンたちが、入口近くでうろついていた。
妖精弓手は弓を構え、鋭い視線を向けると、矢を放った。一見、矢が右に逸れたように見えたが、風を読み、軌道が変わり、二匹のゴブリンを同時に射抜いた。
ゴブリンの体が貫かれ、血を噴きながら倒れる。
さらに、もう一回弓を射ると、近くにいた狼も射抜いた。
竜騎士は感心しながら、「風の流れを読み方、タイミング、全てが完璧だ!あの曲がり方も計算のうちだ」
彼の目は妖精弓手の技を正確に捉えていた。
妖精弓手は驚いた顔をして、弓を下ろしながら言った。
「よく分かるね。大体驚くんだけどな。君、やっぱり、ただの新米冒険者じゃないみたいね」
彼女は竜騎士に好奇の視線を向けた。
竜騎士は少し照れくさそうに笑い、「ちょっとだけ弓術を習った事があるだけですよ」と誤魔化した。
エオルゼアでの経験、弓術士や吟遊詩人で弓の扱いを少し学んだ過去を思い浮かべながら、言葉を濁した。
妖精弓手は「ふふ、謙遜ね」と笑った。
ゴブリンスレイヤーは無言で剣を握り直し、皆は遺跡へと向かった。
遺跡の入り口は、暗い通路が口を開けていた。
夕陽の残光が奥まで届かず、湿った空気が不気味に淀む。
一行は息を潜め、ゴブリンスレイヤーが先頭に立って中へ踏み込もうとしたその時、彼は見張りの妖精弓手の矢で射抜かれたゴブリンの死骸に近づいた。
無言でナイフを抜き、死体の傷口に突き刺し、血を布に染み込ませた。
赤黒い血が滴り落ち、ゴブリンの体臭と混じった酷い匂いが広がる。
彼はそれを絞るようにして、全員の身体に振りかけた。服や鎧に血が飛び散り、粘つく感触が肌にまとわりつく。
「匂い消しだ」
ゴブリンスレイヤーの声は低く、ぶっきらぼうだった。
皆は顔をしかめ、血の嫌な感じに耐えた。
女神官は虚ろな目で、慣れた様子で呟いた。
「…慣れますよ」
彼女の白と青の神官服に血が染みて悪臭を放つ。
女武闘家は「これはちょっと…」と苦笑いしながら竜騎士の方を向いた。
彼女の顔は青ざめ、スファライ・アルテマを握る手がわずかに震えていた。
竜騎士は彼女の肩に軽く手を置き、「終わったら一緒にお風呂入って、美味しい物食べに行こう」と囁き、彼女を安心させた。
妖精弓手がじっとこっちを見ている
二人はハッとして黙ってしまう。
血の臭いが鼻を突き、皆の表情が硬くなったが確かに匂い消しには友好なのだろう。
ゴブリンスレイヤーの戦法に異論はなかった。
一行は遺跡の奥へ進んだ。ここはどうやらかつての神殿らしい。
崩れた石壁に古い壁画が残り、苔の生えた床に足音が響く。
ゴブリンスレイヤーは道中、トーテムがない事を気にしているみたいだった。
粗末な骨や布切れなどで作られたゴブリンの呪術的な印が一つもない。
「いない…」
彼の呟きは重く、皆に緊張を走らせた。魔術師系のゴブリンがいないという事は、別に指揮するものがいるという意味らしい。
シャーマン以上の何かホブゴブリンか、それ以上のボス級の存在が、群れを統率している可能性が高い。
妖精弓手は弓を構え直し、「気味悪いわね…」と呟き、一行はさらに奥へ進んだ。
遺跡の闇が深まるにつれ、ゴブリンの気配が濃くなっていく様な気がした。
遺跡の通路はさらに暗く、湿った空気が肌にまとわりつくように重かった。
一行はゴブリンスレイヤーを先頭に進んでいたが、彼は突然、ゴブリンのねぐらとは別方向に進み始めた。
妖精弓手が不思議そうに声を上げ、「ちょっと、オルグボルグ! 説明しなさいよ。どこ行くの?」
一行が向かう先に、古い扉があった。鉄の蝶番が錆び、隙間からもの凄い臭いが漏れ出している。
ゴブリンスレイヤーは無言で扉を開けた。
瞬間、皆の顔が歪んだ。そこはゴブリンの汚物溜めだった。
排泄物と腐った残骸が溜まった穴で、吐き気を催すほどの臭いが充満し、壁や床がべっとりと汚れていた。
奥には、鎖で繋がれた森人の女性がいた。
彼女はボロボロの体で壁に寄りかかり、虚ろな目で虚空を見つめていた。
肌は傷だらけで、服はつけておらず、ゴブリンの残虐な凌辱の痕跡が、痛々しく残っていた。
その瞬間、竜騎士がもう一つの気配を察知した。
竜騎士は突然ゲイボルグ・アルテマを振るった。
ゴブリンスレイヤー以外はいきなりの事で驚いていた。
青白いエーテルの衝撃波が放たれ、隠れていたゴブリンを切り裂いた。
ゴブリンの体が二つに分かれ、血と臓物が飛び散る。
皆の驚きが収まらない中、竜騎士は冷静に鎖を槍で切り落とした。女性は倒れそうになり、彼が素早く抱え込んだ。
女性の体は深刻だった。
竜騎士はケアルでは足りないと判断し上位魔法のケアルガをかける。
眩い光が彼女を包み、傷が急速に癒え、肌が元の美しさを取り戻した。
女神官が目を丸くし、「凄い、傷が綺麗に無くなっている」と驚いた。
だが、体力が回復しただけで、女性はまだ弱っていた。栄養失調と水分不足が酷く、部屋の外に出すと、パンと飲み物代わりにポーションを与えた。
女性はゆっくりと体を起こし、涙を浮かべて感謝した。
しかし彼女をこのままにする訳にはいかない
蜥蜴僧侶が女性を見て、静かに言った。
「なら、拙僧の竜牙兵で森人の里まで連れて行きましょうぞ」
彼は竜牙兵を召喚し、骨のような兵が現れた。
女性を抱え上げ、竜牙兵は遺跡の外へ向かって走り去った。
女性の安全が確保され、一行は安堵の息を吐いた。
しかし竜騎士の顔は険しかった。
ゴブリンの非情な行いに拳に力が入る。
だが、ゴブリンの脅威はまだ終わっていない。
遺跡の奥から、さらに気配が近づく中、一行は武器を構え直した。
一行は途中で休憩を挟んだあと、遺跡の回路に出た。
開けた空間が広がる。そこは天井はなく、夜空が開け、緑の月の明かりが地面を青白く照らしていた。
崩れた柱の残骸が影を落とし、風が冷たく吹き抜ける。皆は息を潜め、下方を覗き込んだ。
地面にはゴブリンの群れがいた。50匹はいるだろうか。
粗末な焚き火を囲み、棍棒を振り回したり、寝ていたり、甲高い笑い声を上げている。
夜の闇に溶け込む汚れた体が、無数に蠢いていた。
「どうする…?」妖精弓手が小声で尋ね、パーティーの視線がゴブリンスレイヤーに集まった。
彼は兜の下から静かに見据え、剣を握り直した。妖精弓手は弓を構え、鉱人道士は酒を取り出し、蜥蜴僧侶も武器を構える。
女武闘家はスファライ・アルテマを嵌め、竜騎士の横で息を潜めた。
相談が始まろうとしたその時、竜騎士が静かに言った。
「排除すればいいだけだ。問題ない」
皆が驚いて振り向く中、彼はゲイボルグ・アルテマを構え、高い位置からジャンプした。
月明かりの下、竜騎士の体が弧を描き、急降下で地面に槍を突き刺した。
轟音が遺跡を震わせ、エーテルの衝撃波が爆発的に広がった。
周囲のゴブリンが吹っ飛ばされ、体が引き裂かれ、血と肉片が飛び散る。
槍が突き刺さった場所はクレーター状の穴になり、土煙が舞い上がった。
ゴブリンの断末魔が一斉に響き、群れは混乱に陥った。
鉱人道士は目を丸くし、「ワシが眠らせようとしたのに、無茶しよるわ!」と叫んだ。
妖精弓手は不満そうに弓を下ろし、「どいつもこいつも好き勝手やって!」と文句を言った。
蜥蜴僧侶はふむと頷き、女神官は杖を握りしめて息を呑んだ。
女武闘家は「すごい…!」と言う言葉とは裏腹に不安がよぎる
あの森人を助け出した時から何かが変だと…
ゴブリンスレイヤーは無言でクレーターに降り立つと倒れたゴブリンにナイフを突き刺した。
一匹、また一匹と、息絶えぬ者を確実に仕留める。
「まだ息があるのがいるかもしれないからな」
彼の声は冷たく、容赦なかった。
皆は感心しつつ、残りのゴブリンに散開した。遺跡の夜は、戦いの火蓋を切った。
突然、奥の方から怒号が響いた。
「一体何の騒ぎだ! 貴様ら、我が砦と知って狼藉か!」
石壁が震え、巨大な影が現れた。
出てきたのはオーガだった。筋肉質の巨体に、粗野な顔立ち、角が生えた頭部が月明かりに照らされ、巨大な剣を握っていた。威圧的な存在感を放つ。
竜騎士はゲイボルグ・アルテマを構え、静かに尋ねた。
「ゴブリンの親玉か? デカい何とかってゴブリンとは違うのか?」
彼の声は冷静だが、四方世界に来てからゴブリンや、以前の村での非情な対応が知らぬうちに彼の心を蝕んでいた。
妖精弓手が即座にツッコミを入れ、「いやいや、全然違うから! オーガよ、オーガ! ゴブリンなんかじゃないわよ!」
彼女の弓を構えながら呆れた顔をした。
ゴブリンスレイヤーも兜の下から短く「…ゴブリンじゃないのか?」と確認した。
彼の剣がわずかに震え、いつでも飛びかかれる構えだ。
オーガは自分がゴブリン扱いされていることに腹を立て、顔を真っ赤に歪めた。
「魔神将より軍を預かる、この我を侮っているのか!!」
咆哮とともに巨大な剣を振りかざし、地面を震わせて斬りかかってきた。
剣風が一行を襲うが、竜騎士の槍が受け止めた。
エーテルの光が激しく輝き、金属の衝突音が遺跡に響く。
竜騎士の目は普段以上に好戦的になっていた。
「ゴブリンが軍勢? 魔神何とかっていうのも、大した事ないな」
彼の声は低く、挑発的だった。
妖精弓手が女武闘家に小声で囁いた。
「アイツ、熱くなりすぎじゃない?」
女武闘家はスファライ・アルテマを握りしめ、頷きながら答えた。
「あんな姿見るのは初めて…何か嫌な、ゾワッとする感覚がするわ」
竜騎士の鬼気迫るオーラに、皆が息を呑んだ。
オーガは押され、巨大なファイアボールを放った。
炎の玉が轟音とともに飛来し、熱波が遺跡を焦がす。
だが、竜騎士の後ろには、それよりも巨大な竜のオーラが立ち上がっていた。
青白いエーテルの渦が渦巻き、竜の幻影が彼を包む…竜騎士のリミットブレイク技、蒼天のドラゴンダイブが発動した。
竜騎士の体が空高く跳躍し、槍を構えて急降下。
槍先がオーガのファイアーボールを貫き、爆発的な衝撃波が広がった。
オーガはファイアボールごと吹っ飛ばされ、石壁に叩きつけられて崩れ落ちた。
遺跡が震え、土煙が舞う中、オーガの巨体は動かなくなった。
各メンバーは竜騎士の鬼気迫る戦いに言葉を失った。
新人の白磁冒険者とは思えない強さだった。
これは金等級、白金等級と言われてもおかしくない。
ゴブリンスレイヤーは無言で剣はまだ握ったまま、妖精弓手は弓を下ろし、鉱人道士は呆然とした。
蜥蜴僧侶はじっと見つめ、女神官は杖を握りしめて息を吐いた。
女武闘家は竜騎士の背中を見つめていた。
「…すごい…でも何が違う…」
彼女の不安は更に強くなっていた。
竜騎士はオーガの巨体が崩れ落ちるのを確認し、ゆっくりと槍を収めた。
息を吐き、戦いの興奮が引く中、女武闘家の方を振り向いた。
先程とは違い、いつもの優しい顔に戻っていた。
月明かりの下で彼の表情は穏やかで、彼女への想いが静かに浮かぶ。
「大丈夫か?」
彼の声は低く、気遣いに満ちていた。
女武闘家は安堵の笑みを浮かべ、竜騎士の元に向かって歩き出した。
「うん…」
(良かった…いつもの彼だ…)
彼女の足取りは軽く竜騎士に向かって行く。
パーティーの皆も息を吐き、互いに視線を交わした。
妖精弓手が弓を下ろし、鉱人道士が駆け寄った。
ゴブリンスレイヤーは剣を握ったまま無言だった。
だが、その瞬間、オーガの巨体が、傷ついてはいたが、ゆっくりと回復しながら立ち上がっていた。
肉体が再生しながら、血塗れの目が竜騎士の背中を睨む。
巨大な手が後ろから不意打ちで振り下ろされ、鈍い衝撃音が響いた。
竜騎士の体が吹き飛び地面に叩きつけられる。
彼の慢心が隙を作ったのだ。
女武闘家が叫び、彼を庇おうと駆け寄った。
オーガの拳が再び振り上げられ、彼女を狙う。
影が彼女を覆い、絶望の瞬間。
妖精弓手が弓を射った。矢は風を切り、オーガの目を正確に射抜いた。
巨体が咆哮を上げ、拳が空を切る。
「今よ!!彼を安全な場所へ!」
妖精弓手の声が鋭く響き、女武闘家は頷いて竜騎士を抱え上げた。
彼女の腕に彼の重みがのしかかり、血の臭いが鼻を突く。
女神官の元に駆け寄ると「 ヒールをかけて…お願い!!」
女武闘家は叫び、女神官の元へ駆け寄った。
女神官は杖を掲げ、淡い光を放つ。「はい…!」ヒールの光が竜騎士を包み、傷を癒すが、完全ではない。
鉱人道士がオーガの攻撃を避けながら、石弾(ストーンブラスト)を放った。
岩の破片がオーガを襲い、蜥蜴僧侶は竜牙兵を召喚しながら自ら短刀を手に飛びかかった。
オーガに肉薄し、短刀が巨体の隙を突く。
だがオーガの目は回復しており、咆哮を上げながらも、拳を振り回した。
「その騎士がいなければ、お前らの攻撃など…女は孕み袋にしてやる!」
その時、オーガの正面にゴブリンスレイヤーが立った。
そして巻物を開いた。古びた羊皮紙が広がり、転移のスクロールが発動。
空間が歪み、海底と繋がる裂け目が生まれた。
水が噴出し、水圧が巨大なカッターのように渦を巻き、オーガを切り裂いた。
巨体の肉が裂け、血が噴き出し、オーガは断末魔を上げて崩れ落ちた。
海水が遺跡を満たし、ゴブリンの死体をも飲み込む。
一行は息を荒げ、互いに顔を見合わせた。
竜騎士は女神官のヒールで体を起こし、女武闘家に支えられながら立ち上がった。
「…すまない、油断した」
オーガは身体半分になっていたが、まだ息があった。
最後の息で驚愕の表情を浮かべ、目を見開いた。
一行は息を荒げ、互いに視線を交わした。
竜騎士は女武闘家に支えられながら槍を構え直した。
「このオーガは今の僕の姿だ…一歩間違っていたら死んでいたのは僕だ…」
だが、その時、遺跡の回路の上の方から、奇妙な声が響いた。
マスクから漏れるような、コフォ…コフォ…という息遣い。
そして、冷たい嘲笑。
「所詮はヒトのメスと交わる事しか脳の無い劣等種のゴブリンと我々の区別が付かぬ愚か者よ」
オーガは上の方を向き、血塗れの顔で呻いた。
「お前…そんなところに…隠れていたのか。魔神王様のために働く…と言うのは…」
その言葉は途切れ、遺跡の上層から銃声が轟いた。
バン!という乾いた音が響き、オーガの頭を銃弾が貫いた。
巨体の首が不自然に曲がり、完全に絶命した。
月明かりが遺跡の上層を照らし、影が揺らめく中、そこに現れたのは機械仕掛けのゴブリンだった。
奇妙なマスクを被ったリーダー格のゴブリンと、その部下と思われる数匹のマスクを着けたゴブリンたち。
リーダーのゴブリンの体は金属の義肢や歯車で強化され、蒸気のような煙を吐き、銃や奇妙な装置を手にしていた。
マスクからコフォ…コフォという息遣いが漏れ、緑の月光が彼らの機械の目を冷たく輝かせる。
ゴブリンスレイヤーは兜の下から、低く呟いた。
「…ゴブリンか?」
剣を握る手がわずかに震え、いつもの殺気が宿った。
機械仕掛けのゴブリンは、マスクの隙間から甲高い笑いを漏らし、銃を構えながら答えた。
「この世界の劣等種のゴブリンと一緒にして貰っては困る。我々は緑の月の使者、選ばれし者だ。貴様らのような原始人どもが、理解できるはずもない」
その声は機械的に歪み、部下のマスクゴブリンたちが一斉に銃を構え、遺跡の空気を緊張で張り詰めさせた。
一行は息を呑み、武器を構えた。
竜騎士のゲイボルグ・アルテマがエーテルの光を放ち、女武闘家のスファライ・アルテマが輝く。
妖精弓手が弓を引き、鉱人道士が術の準備をし、蜥蜴僧侶が短刀を握り、女神官が杖を掲げた。
ゴブリンスレイヤーは剣を構える。
竜騎士は遺跡の上層に立つ機械仕掛けのゴブリンたちを見上げて見る。
月明かりの下、その姿が見えて来た。
竜騎士はその姿に見覚えがある、この世界では無い…元いた世界で見た。
マスクの隙間から漏れるコフォ…コフォという息遣い、機械と金属の義肢が融合した体、部下のマスクゴブリンたちが銃を構える異様な姿、それは、過去の記憶を鮮やかに蘇らせた。
ゴブリンの科学者であり、秘密結社「青の手」の総帥、万能のクイックシンクスだ。
エオルゼアで、シドやミーデたちとアレキサンダーの超巨大蛮神を巡る調査で敵となった相手。
未来予知の力を持つアレキサンダーを利用し、選ばれしゴブリンたちを導く王となろうとした、あの狂気の科学者。
青の手の野望は、竜騎士たちの手で阻止され、最後はアレキサンダーの内部で倒したはずだった。
何故、部下を含めてここにいるのだろうか? 緑の月の使者を名乗っているが…関係あるのか?
クイックシンクスはマスクの下で甲高い笑いを漏らし、竜騎士に気づいた。
機械の目が赤く輝き、銃口を向ける。「コフォ…コフォ…向こうでは、アレキサンダーに拒絶されたが…緑の月は違う! 仲間たちを呼び寄せ、様々な物を再構築させた。完全にアクセス出来れば、今度こそ王に…!」
その言葉に、竜騎士の目が鋭くなった。
クイックシンクスはマスクの下で「コフォ…コフォ」と息を吐き、手を挙げた。
先程、オーガが来た方向から、ガチャガチャという金属の擦れ合うエンジン音が響き始めた。
「コフォ…お前達に構ってる暇はない。我々の理想郷が待っている…」クイックシンクスは嘲るように言い、部下たちと共に引き上げた。
緑の月光が彼らの影を長く伸ばす。
竜騎士は槍を構えたまま睨みつけたが、クイックシンクスの言葉が頭に残った、緑の月、アレキサンダー、再構築…エオルゼアの因縁が、この世界にまで及んでいるのか?
だが、代わりに出てきたのは、ゴブリンタンクだった。
ゴブリンの顔を模した鉄製の戦車、醜悪な目がデザインされ、煙を吐く排気口から黒煙が立ち上る。
キャタピラが地面を抉り、装甲は厚く、砲台が一行を狙う。
鉱人道士は目を丸くし、「な、なんじゃありゃ!?」と叫んだ。
ゴブリンタンクの上に備え付けられた砲台が火を吹いた。
轟音とともに砲弾が飛来し、遺跡の壁を吹き飛ばす。
妖精弓手が即座に弓を射たが、木の矢は鉄製の装甲に跳ね返され、ダメージなど入らない。
「くそっ、効かないわ!」
蜥蜴僧侶の竜牙兵が突進したが、タンクのキャタピラに跳ね返され、一撃でバラバラに砕け散った。
「これは…!」
蜥蜴僧侶は直接攻撃に移ろうとするが、近づけない。
女武闘家は心配そうに竜騎士を見た。
彼は再びゲイボルグ・アルテマを構え、静かに言った。
「もう大丈夫だ。心配かけてごめん…弱点は関節部だ!」
油断の反省を胸に、ゴブリンタンクに対して突撃をかけた。
エーテルの光が槍に宿り、竜騎士の体が風を切る。
厚い装甲に槍が突き刺さり、衝撃波が内部を破壊。
金属が軋み、ゴブリンタンクの砲台が不規則に火を噴く。
「今だ!」
竜騎士の声が響き、全員で集中砲火を浴びせた。
妖精弓手の矢が装甲が剥がれた部分を射抜き、鉱人道士の術が更に脆い部分の装甲を割り、蜥蜴僧侶の短刀が隙を突き、女神官の奇跡が砲撃を防御する。
ゴブリンスレイヤーの剣がキャタピラを斬り裂き、女武闘家のスファライ・アルテマが砲台を砕いた。
タンクは爆発音を上げ、煙を上げて動かなくなった。
ゴブリンタンクは歪み、炎に包まれる様だった。
一行は息を荒げ、互いに顔を見合わせた。
竜騎士は槍を収め、女武闘家に微笑んだ。
「終わったよ」
死んだはずのクイックシンクスが何故復活したのかは今はまだ分からない。