二人は水の街に着いた。
運河が街中を網の目のように張り巡らされ、船がゆったりと行き交う。
辺境の街とは違い、人の行き来も多く商人たちの活気ある声が響く。
石畳の道が水辺に沿って続き、橋が優雅に架かっている。
陽光が水面に反射し、街全体がキラキラと輝くようだった。
女武闘家は目を輝かせ、運河の景色に息を呑んだ。
「凄いね〜街の中に川がある! 綺麗な街だね!」
彼女は竜騎士の腕を掴み、興奮した声で言った。
辺境の村や街の素朴さとは違い、この賑わいが新鮮だった。
竜騎士も辺りを見渡し、想像以上の街並みに感心した。
「そうだな……船で移動できるなんて、便利そうだ。観光に来て良かったよ」
彼は地図を広げ、街の中心を指さした。
「法の神殿と言うのがあるらしいよ!せっかくの観光だし、後で見に行ってみようか?」
竜騎士は指差すと丘の上に神殿があった。
女武闘家はうん!と即答し、「絶対行こう! どんなところだろうね」と笑顔で答えた。
二人は手を繋ぎ、運河沿いの道を歩き始めた。
運河沿いの小さな食堂に入ると、魚料理を注文した。
やはり水の街に来たからには魚介類は外せない。
二人は新鮮な魚のグリルやムニエル、貝のスープなど、様々な魚料理を楽しんだ。
店内は水辺の風が通り抜け、船の行き来が見える窓辺の席が心地よかった。
竜騎士はフォークで魚を一口食べながら「肉もいいけど、魚も中々美味しいね」と感心した。
この街の新鮮な味わいに満足げだった。
女武闘家もムニエルを頰張り、「本当、このムニエルも美味しいわね。バターの風味が染みてて……」と目を細めた。
竜騎士は「僕はシンプルに塩焼きが好きだよ。魚の本来の味が活きるよね」と笑い、二人の会話が弾んだ。
街の賑わいや旅の思い出を語り合い、食事がさらに楽しくなった。
食後は街を歩いていると、アイスクリンの屋台があり、二人は一緒に買って食べ歩いた。
冷たい甘さが口に広がり、運河の風が心地よい。
女武闘家は「冷たくて甘い!私、これ大好き!」と頰張る姿が可愛かった。
アイスクリンが溶けそうになり、慌てて舐める彼女の表情に、竜騎士は心が癒された。
彼女は照れくさく肩を叩いた。
二人は運河沿いを歩き続け、この街の魅力に浸るのだった。
二人はアイスクリンを食べ終わると、街を探索して商店街を見て回った。
運河沿いの市場は活気にあふれ、魚屋の新鮮な魚介、布地の店で色鮮やかな生地、宝石屋の輝くアクセサリーが並ぶ。
女武闘家は窓辺で可愛いドレスを見て、「これ、似合うかな?」と竜騎士に尋ねる。
彼は笑って「君なら何でも似合うよ」と答えた。
女武闘家は困った顔をして、「そう言ってくれるのは嬉しいけど、ちゃんと意見を言うのも大切よ」と竜騎士に言う。
二人は手をつなぎ、街の賑わいを楽しみながら歩いた。
そして、法の神殿に立ち寄ってみた。
壮大な建物で、女武闘家は目を丸くし、「立派な建物だね……」と感嘆した。
竜騎士は頷き、「中入ってみようか」と提案した。
彼女は少し不安げに、「でも、ここ勝手に入ったらマズイんじゃない? なんかそんな雰囲気の場所じゃない?」と周囲の神聖な空気を感じ取った。
荘厳な門と静かな庭が、侵入を躊躇わせる。
竜騎士は「まぁ怒られたら怒られたで謝ればいいさ」と呑気に言う。
そして更に「観光だし、大丈夫だよ」と言うと、二人は門をくぐり、中に入った。
神殿の内部は神聖な雰囲気がただよっていた。
高天井のホールにステンドグラスから差し込む光が七色に広がり、静かな祈りの声が響く。
壁には法の象徴たる天秤の彫刻が刻まれ、荘厳さが心を落ち着かせる。
奥に行くと、一人の美しい女性がいた。
白いローブを纏い、目は布で隠されており、こちらを振り向くと優しく「どなたかしら?」と聞いて来た。
彼女の声は穏やかで、存在感が神殿の空気に溶け込んでいた。
竜騎士が、「辺境の街から観光に来ていて、神殿があると聞いて見学していたんです」と言う。
女武闘家は慌てて「あ、勝手に入ってごめんなさい。」と頭を下げた。
彼女の頰が少し赤くなる。
女性は二人の方を見ると、微笑んだようだった。
「あら、可愛らしい武闘家さんと素敵な騎士様ですこと」
彼女の視線が竜騎士の青白く光る槍が目に止まった。
「貴方の事はこの街にも噂は流れておりますよ。異世界の英雄様」
竜騎士は一言だけ「僕達は只の冒険者ですよ、そんな大それた物じゃありません」
エオルゼアから来た事が、こんなところまで広まっているのには驚いた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は大司教をしております。皆は私の事を剣の乙女と呼びますの」
彼女の言葉は優雅で、神殿の主らしい威厳があった。
竜騎士と女武闘家も自己紹介をした。
二人は頭を下げ、剣の乙女は優しく頷いた。
女武闘家は竜騎士に説明した。
「剣の乙女様といえば、10年前に魔神王の一つを撃ち滅ぼした仲間の一人で金等級の英雄よ! 父さんに聞いた事あるわ!」
彼女の声は敬意に満ち、武闘家としての憧れが溢れていた。
この世界の英雄譚を、父から何度も聞かされたのだろう。
まさか水の街の神殿で出会うとは思わなかったようだ。
竜騎士は彼女の横で頷き、剣の乙女のただらなぬ気配を肌で感じた。
「確かに穏やかに見えるが、かなりの手練だと言うのは分かる」
彼の目は剣の乙女の白いローブの下に隠された強さを察知していた。
数々の強者を見てきたが、彼女の存在感は本物だった。
剣の乙女はふふと優しく笑い、二人の言葉を穏やかに受け止めた。
「まあ、そんな昔話ですわ」
彼女の声は優雅で、布の下の視線が二人を優しく包むようだった。
「せっかくですから、お茶でもご一緒しませんか? ここで出会ったのも、何かのご縁ですわ、異世界の英雄譚でもお聞かせ下さいますか?」
竜騎士と女武闘家は互いに視線を交わした。
せっかく誘ってくれたのに断るのもと思い、一緒にお茶にする事にした。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えます」
竜騎士が礼を言い、女武闘家も「一緒にお茶なんて…光栄です」と笑顔で答えた。
剣の乙女は頷き、神殿の奥の部屋へ二人を案内した。
三人は応接室でお茶をしながら、雑談をした。
神殿の奥の部屋は静かで、柔らかな陽光が差し込む。
テーブルに置かれた紅茶の香りが部屋に広がり、剣の乙女は布で隠された目を向け、優しく二人を促した。
「どうぞ、遠慮なくお召し上がりください」
二人は紅茶を一口啜り、剣の乙女の質問に答える形で雑談が始まった。
彼女はエオルゼアの出来事に興味があるらしく、生活や価値観の違い、あとは竜騎士が今まで戦って来た強敵達の事を尋ねた。
「異世界の英雄様……エオルゼアとは、どんな場所なのでしょう? 貴方たちの戦い、聞かせていただけるかしら」
彼女の声は穏やかで、興味深く耳を傾ける様子だった。
竜騎士は槍を壁に立てかけ、ゆっくりと話し始めた。
イシュガルドの竜詩戦争のドラゴン族との戦い、ガレマール帝国との戦い、第一世界における光の氾濫に立ち向かった話など、竜騎士の光の戦士、そして時には闇の戦士として、それらの脅威と戦った話をした。
剣の乙女は静かに、そして興味深く話を聞いていた。
布の下の視線が二人の言葉を追うように動き、時折「まあ、素晴らしいですわ」と感嘆の声を上げた。
エオルゼアの戦いの詳細、価値観の違いに、彼女は深く頷いた。
「貴方たちの世界は、力だけでなく絆が鍵なのですね。この街の法も、同じく人々の調和を重んじますわ」
雑談は自然と続き、剣の乙女も自身の過去の戦いを少しだけ明かした。
そうこうしているうちに時間が経ってしまい、外の空が夕暮れに染まっていた。
剣の乙女は紅茶のカップを置き、優しく提案した。
「折角ですから、今晩はここに泊まってください。神殿の客室をご用意しますので」
二人は互いに視線を交わした。確かに今から宿を探すのも手間だと感じたのもあって「助かります、ではお言葉に甘えて」と竜騎士が頭を下げた。
女武闘家も「ありがとうございます」と感謝した。
剣の乙女は微笑み、「では、ご案内しますわ」と立ち上がった。
暫くして法の神殿の浴場に女武闘家はいた。
広々とした石造りの部屋で、湯気が立ち上り、温かな湯船が広がっていた。
「うわ〜凄いお風呂!」
彼女は目を輝かせ、服を脱くと洗い場で身体を洗い、湯に浸かった。
辺境の街の簡素な湯とは違い、ここは神殿らしい荘厳さと清潔さが漂う。
湯船に入ると、知っている顔がいた。
女神官だった。
二人は顔を合わせると、偶然に驚いた。
女武闘家は湯の中で体を隠しつつ、「あれ? 貴女も観光で来たの?」と聞いた。
女神官は優しい笑顔で、「いえ、私は大司教様からの依頼でゴブリンスレイヤーさん達と一緒に来ているんですよ」と答えた。
彼女の純粋な目が、湯気の向こうで輝いていた。
女武闘家は少し照れくさく笑いながら
「私はあの人とちょっとした旅かな?」と答えた。
竜騎士とのデートを思い出し、頰が少し赤くなる。
女神官はふふ、と優しく笑い、「仲がいいんですね」と答える。
その時、「二人はお知り合いでしたか?」と後ろから、剣の乙女が入って来た。
白いローブを脱ぎ、湯に浸かる彼女の姿は優雅だった。
女神官と女武闘家が振り向くと、剣の乙女の体に無数の傷が浮かび上がっているのが見えた。
布で隠された目の下、白い肌に刻まれた古い傷跡が、湯の熱で赤く浮かんでいた。
女神官が「あぁ、それは……」と尋ねると、剣の乙女は静かに答えた。
「ああ、これ……少し失敗してしまったの……うしろからガツンと、もう10年以上前の事よ……」
彼女の声は淡々としていたが、過去の痛みがにじむ。ゴブリンに捕まり…そして、彼女の凄惨な過去が想像出来る。
女武闘家は「私と……一緒ですね」と呟いた。
彼女の体にも所々に傷が浮かんでいた。
ゴブリンの巣窟で受けた傷跡が、湯に浸かって赤く目立っていた。
剣の乙女は少し驚き、「そう……貴女もなのね……」と答えた。
身体に刻まれた共通の過去が、二人の間に静かな絆を生む。
女神官は申し訳なさそうに黙ってしまった。
彼女の純粋な心が、二人の傷に触れて痛むようだった。
女武闘家は湯の中で体を少し縮め、「それでもあの人は私のこの傷すら愛おしいと言って愛してくれたんです……」と顔を少し赤らめて言った。
剣の乙女は少し間をおいてから、「そう……羨ましい、私にはその様な殿方はいませんでしたから……」と寂しげに答えた。
英雄の孤独が、湯気の向こうに漂う。
女神官は黙って聞いていたけど、意味が分かると顔を真っ赤にして驚いた。
「え……あ、あの……!」
彼女の純粋さが、恋愛の話題に慌てふためく姿が可愛らしかった。
剣の乙女は、そんな女神官に向かって、「ふふ可愛いわね」と言い、女武闘家には、「貴女のその話、詳しく知りたいわと」言って来た。
彼女の声は好奇心に満ち、布の下の視線が輝くようだった。
女武闘家は顔を真っ赤にして、「そ、それは言えませんよ!」と慌てて答えた。
湯気が彼女の羞恥を隠すように立ち上った。
お風呂から出て客室に戻ると、竜騎士がベッドの端に座っていた。
神殿の客室は豪華で、窓から街の夜景が見える。女武闘家は扉を閉め、湯上がりの頰を赤らめながら近づいた。
「ただいま」
竜騎士は彼女を見て微笑みながら「お風呂どうだった? 僕も入ってきたよ、凄かったね」
彼の髪がまだ湿っており、神殿の浴場の広さを思い浮かべたようだった。
女武闘家はうん、と頷き、「あんなに大きなお風呂初めてだったわ。あなたと一緒に入れたら良かったのに……」
彼女の声はからかうように甘く、浴場の思い出を振り返った。
女神官と出会った事や剣の乙女の話をした。
竜騎士も自分の事を話す
「 僕は男湯だったけど、誰もいなかったから貸切状態だったよ」
彼は肩をすくめ、神殿の静かな浴場を思い出した。広々とした湯船が、一人で独占するのは贅沢だった。
そして女武闘家はベッドに飛び乗ると、ふかふかの感触に目を輝かせた。
「このベッドふかふかだよ! 凄くない?」
彼女は体を弾ませ、子供のように喜んだ。
神殿の客室らしい上質な寝具が、辺境の宿とは違う。
竜騎士ははしゃぎすぎだよと嗜め、ベッドに近づいて彼女の肩を軽く叩いた。
「嬉しいのはわかるけど、静かにね。神殿だよ?」
二人はふかふかのベッドで一緒に旅の疲れを癒すように眠りについた。
神殿の客室は静かで、運河の水音が遠くに聞こえる中、互いの温もりが心を落ち着かせる。
女武闘家は竜騎士の胸に顔を埋め、昨日の浴場の会話や街の思い出を振り返りながら、穏やかな眠りに落ちた。
竜騎士も彼女の髪を優しく撫で、静かな夜を過ごした。
翌日、目が覚めると朝食を頂いて、お礼を言いに剣の乙女のところに行った。
シンプルだが朝食はパンと果物、スープを食べ、元気を取り戻した二人は、大司教の部屋へ向かった。
剣の乙女は窓辺で祈りを捧げているようだったが、二人の気配に気づき、布で隠された目を向けた。
「おはようございます。よくお休みになれましたか?」
だが、剣の乙女の表情は少し曇っていた。
彼女が少々困った顔をしている。
話を聞くと、地下水路に行った冒険者がゴブリンと交戦中で、援護に向かって欲しいとの話だった。
「ゴブリンの群れが予想以上に多く、戦いが長引いているようですわ」
竜騎士は悩んだ。彼女をゴブリンから遠ざける為の旅だったのに、彼女を巻き込みたくは無かった。
相手はゴブリン、援護に行くなら自分達以外の地元の冒険者で済む話ではないだろうか。
「申し訳ありませんが、その依頼はお断りします。地元の冒険者を当たってください」
彼の声は穏やかだが、決意に満ちていた。
女武闘家のトラウマを遠ざけるための旅だ、無理をする必要はない。
その時、女武闘家は「行きます!」と力強く言った。
彼女の目は揺るがず、拳を握りしめていた。
竜騎士に視線を向け、「私の事を思って言ってくれるのは凄く嬉しい……でも、私は大丈夫!」彼女の言葉は、過去の自分を思い出しながらの決意だった。
そう言葉にしながらも、あのゴブリンの巣窟で味わった恐怖が、記憶と共に蘇って来る。
「確かに今でもゴブリンは怖い……でも私は……あの時の私とは違う……だから行きます。それに、先行しているのはゴブリンスレイヤーさん達ですよね?」
剣の乙女は頷いた。
「ええ……彼らの実力は知っていますが、ゴブリンの数が多くて……」
竜騎士は女武闘家に「余計な気を使ってしまった、すまない……」と謝り、剣の乙女に向き直った。
「その依頼、受けさせて頂きます」
彼の声は静かで、彼女の成長を認め、共に戦う決意だった。
剣の乙女は安堵の息を吐き、女武闘家に対して「本当にありがとうございます。それにしても、貴女は私なんかより強いのですね……羨ましい」
彼女の言葉は本心からで、布の下の視線が女武闘家を優しく見つめていた。
二人は神殿を後にし、地下水路への道を急いだ。
地下水路に入り、進む。湿った空気が肌を刺し、水の滴る音が響く中、暗い通路が続いていた。
運河の水が染み込み、足元が滑りやすい。女武闘家はスファライ・アルテマを腕に装着し、竜騎士はゲイボルグ・アルテマを手に、慎重に歩みを進めた。
ゴブリンの気配はまだ遠いが、剣の乙女の言葉が心に残る。
しかし、竜騎士は腑に落ちない表情だった。
眉を寄せ、地図を時折確認しながら、何かを考え込んでいるようだった。
女武闘家は彼の横で気づき、声を潜めて聞いた。
「どうしたの? 何か変?」
竜騎士は歩みを少し緩め、女武闘家に視線を向けた。
「おかしいと思わないか? あの剣の乙女の言い方さ。この水路の状況を、自分の目で見て来たような感じだ。ゴブリンの規模が予想以上なんて、普通言わないだろ」
彼の声は低く、疑念がにじむ。
神殿の応接室での会話、地下水路の異変の詳細、まるで剣の乙女が現場を直接見たようなニュアンスがあった。
女武闘家はうーん、と首を傾げ、「難しい事は分からないけど、流石にゴブリンの味方だとは思わないよ。あの人、英雄でしょ? そんな事する訳ないわ」
彼女は剣の乙女の穏やかな姿を思い浮かべ、首を振った。
10年前の魔神王討伐の話が、彼女の信頼を強めていた。
竜騎士は頷き、「それはそうさ、何かの理由でこの場所には入れないから依頼した、そして監視しているとみるべきかな。理由は分からないけどね」
彼は剣の乙女の困った表情を思い出した。
彼女が地下水路の状況を知っているのに、援護を依頼した理由、もしかすると、彼女自身が何かを隠しているのかもしれない。
「とにかく危ないらしいから、急いだ方が良さそうだ」
女武闘家は拳を握りしめ、「わかった。ゴブリンスレイヤーさんたちも心配だしね」二人は地下水路を更に進んだ。
湿った空気が肌を刺し、水の滴る音が響く中、散発的なゴブリンの襲撃があった。
棍棒を振り回す小鬼たちが影から飛び出してきたが、竜騎士の槍が風を切り、女武闘家の拳が骨を砕く。
囚われた女性などは居らず、ただの待ち伏せだったようだ。
二人は息を合わせ、敵を倒しながら奥へ奥へと進んだ。
血の匂いが濃くなり、ゴブリンの死体がかなりの数が転がっていた。
血が水路の床を染め、剣や棍棒が散乱する惨状。
女武闘家は眉を寄せ、「ここで相当の戦いがあったわね……」と呟いた。
竜騎士は槍を構え、警戒を強めた。
「向こうだ!!急ごう」
そして奥の方の部屋からは、「ゴブリンスレイヤーさん!」と叫ぶ女神官の声が聞こえてきた。
切実な叫びが水路に響き、二人は駆け足で部屋へ飛び込んだ。
そこは広間のような空間で、ゴブリンの死骸が山積みになり、血の海が広がっていた。
傷つき、座り込んでいるゴブリンスレイヤー一行がいた。
ゴブリンスレイヤーが動かずに倒れていた。
竜騎士は槍を構え、周囲を警戒しながら言った。
「剣の乙女様に頼まれて援護に来ました……これは……」
部屋の凄惨な光景——斬られたゴブリン、散らばった破片を見れば、どれだけ死闘を繰り広げたのかは容易に想像できた。
ゴブリンスレイヤーがかなりのダメージで動けないみたいだった。兜の下の目が閉じ、息が浅い。
女武闘家も拳を握りしめ、部屋の惨状に息を呑んだ。「こんなに……」彼女の心に、自身の過去のトラウマがよぎったが、今は仲間を助ける時だ。
妖精弓手が二人の姿を見て、安堵の声を上げた。「いいところに来たわ! オルグボルグが動かないの、回復を!」彼女の声は疲れに震え、他のメンバーも傷と疲労が酷い。
広範囲のケアルガをかける、エーテルの光が部屋を包み、傷が癒えていく。
しかし、ゴブリンスレイヤーの意識は戻らない。身体の傷は塞がったが、目が開かない。
蜥蜴僧侶が尾を振り、低く言った。「肉体の傷は癒えている様ですが、意識が戻りませぬな」
竜騎士はゴブリンスレイヤーの傍らに膝をつき、額に手を当てた。
「恐らく、魂と肉体が分離しているかも知れない。このままでは本当に死んでしまうぞ」
女神官は涙目で懇願するように、「私の奇跡じゃダメなんです! ゴブリンスレイヤーさんを助けて下さい……」彼女の杖が震え、純粋な祈りが部屋に満ちた。
竜騎士は頷き、蘇生魔法のレイズをかけた。エーテルの光がゴブリンスレイヤーを包み、魂を呼び戻すはずの呪文が発動する。
しかし、効果が無かった。
彼の体は動かず、息がさらに浅くなる。
鉱人道士が髭を撫で、「身体の傷は綺麗に消えているの…」
「肉体的には回復している。魂を呼び戻すレイズも何故か効かない…まずいな」
地下水路の広間で、竜騎士は一行の状況を素早く把握した。
ゴブリンスレイヤーの動かない体、仲間たちの疲弊した表情は深刻だった。
彼は槍を構え、周囲のゴブリンの気配を探りながら言った。
「とにかく彼をここから連れ出すのが最優先だろう、ゴブリンは僕達が対応しますから」
一行は出口を目指して引き揚げた。
妖精弓手と鉱人道士がゴブリンスレイヤーの体を支え、蜥蜴僧侶が後衛を固め、女神官が祈りを捧げながら進む。
散発的なゴブリンの襲撃があったが、竜騎士と女武闘家が倒して行く。
二人は一行を守り抜き、神殿の入り口まで到着した。
ゴブリンの死体を踏み越え、皆の息が荒い。
法の神殿まで連れて行き、剣の乙女に報告した。
応接室で待っていた彼女は、一行の姿を見て顔色を変えた。
「これは……予想以上に深刻ですわ」
ゴブリンスレイヤーの体をベッドに横たえ、彼女は女神官に視線を向けた。
「貴女に処女同衾の奇跡、リザレクションをお願いします。魂を呼び戻すには、それしかありませんわ」
女神官は頷き、震える手で杖を握った。「わかりました……私に出来ることなら」
竜騎士は寝室にゴブリンスレイヤーを運ぶと、剣の乙女が「後は私たちが……」と言い、女神官と中に入り、扉を閉めた。
部屋の外で、一行は静かに待った。
奇跡の儀式、恐らくは処女の純粋な力で魂を繋ぎ止めるのだろう。
竜騎士は妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶に挨拶を済ませ、「後は頼みます…」と声をかけ、神殿を後にした。
皆の疲れた顔に、わずかな希望が宿っていた。
外の運河沿いを歩きながら、女武闘家が心配そうに言った。
「大丈夫かな……ゴブリンスレイヤーさん」
彼女の目は神殿の方を振り返り眺めている。
竜騎士は彼女の肩を抱き、優しく答えた。
「僕達に出来るのはここまでだ。あとは彼女達の奇跡に任せるしかない」
剣の乙女の力と女神官の祈りが、ゴブリンスレイヤーを救うはずだ。
二人は手を繋ぎ、水の街の夜を歩いた。
女武闘家はなんだかホッとしたらお腹空いちゃったわ、と言い、竜騎士の腕を軽く引いた。
地下水路の緊張が解け、体が自然と食事の欲求を訴えていた。
竜騎士は笑い、「そうだね、何か食事しようか」と答えた。
二人は神殿を後にし、運河沿いの通りを歩きながら、近くのレストランに寄った。
「たまには贅沢しちゃおうか」
竜騎士が提案すると、女武闘家は目を輝かせ、「うん!」と喜んだ。
水の街のレストランは雰囲気が良く、窓から運河の景色が見える席を選んだ。
二人は魚のフルコースを頼んだ。新鮮な魚介の前菜から始まり、グリルした白身魚のメイン、貝のスープ、デザートのフルーツタルトまで。
贅沢な料理が二人の疲れを癒し、胃袋を満たしていく。
女武闘家はナイフとフォークで魚を一口食べ、「このソース、絶妙ね……」と目を細めた。
竜騎士も頷き、「水の街に来て良かったよ。魚の新鮮さが違うね」二人はワインを軽く傾け、今日の出来事を少し語り合った。
食事が終わり、デザートを食べて二人は満足そうに店を出た。
夕陽が運河を橙色に染め、街の賑わいが心地よい。
宿屋に着くと、二人は部屋で水の街の出来事を話した。行く途中の小さな村の話、少女の依頼や森の冒険、観光の話、法の神殿での大浴場の話、そして今日の出来事。
女武闘家はベッドに座り、「あの村の料理、美味しかったわよね。お母さんの笑顔が忘れられない」とニコニコしながら言った。
竜騎士は隣に座り話を聞く、そして自然と目が合い、キスをして優しく抱き寄せる。
唇が触れ合い、互いの息が混じる。女武闘家は竜騎士の胸に手を当て、「私、幸せだよ……」と甘く囁いた。
彼は彼女の腰を抱き、キスを深くした。
今夜も二人の甘い時間が始まる……。服が静かに落ち、体が絡み合い、優しい愛撫が続く。
彼女の肌の柔らかさ、彼の強靭な体が、互いを求め合う。戦いの記憶が遠ざかり、ただの恋人として、夜を溶かすように愛し合った。