ある新米冒険者の女性は、フードを被った自らを緑の月の管理者と称する男の前にいた。
彼女の手には、かつて同郷で幼馴染の男性剣士の遺品を抱えていた。
かつての記憶が、彼女の胸を痛く締めつける。
かつて…洞窟の中、彼女の前で剣士は無惨に殺された。
フードの男は、冷たい笑みを浮かべながら言った。
「この新たな世界で、彼を蘇らせるのです」
その言葉は、この知らない世界で唯一の希望だった。
緑の月の管理者を名乗る男の姿が煙のように揺らぎ、彼女の前から消えた。
二人の居た、遺跡は突然の静けさに包まれ、彼女は一人残された。
ここが何処なのか、自分が何故ここに来たのかも分からず、遺跡から出ると森の中を彷徨った。
森は深い緑に覆われ、木々の間から差し込む緑と赤の二つの月光が道を示すように見えたが、彼女の足取りは重かった。
剣士の唯一残された遺品を胸に抱き、涙が止まらない。
彷徨ううちに、森の奥で小さな湖に辿り着いた。
水面に映る自分の姿は、血と泥に汚れ、疲れ果てていた。
緑の月の管理者の、あの男の言葉が頭をよぎる。
「蘇らせる」とは? この世界で、本当にあの人を蘇らせられるの?
彼女は立ち上がり、手に持った遺品に話しかけた「ここなら見つかるよ…あなたを復活させる方法を…」
しかし突然、後ろから鈍い音がして、女性は倒れた。
森の木々が揺れ、頭に衝撃が走り、視界が暗くなる。
彼女の体が地面に崩れ落ち、幼馴染の剣士の遺品を握った手だけは離さなかった。
痛みと混乱の中で、彼女の意識は急速に遠ざかった。
次に目が覚めた時は、薄暗い洞窟の中だった。
湿った空気が肌を刺し、地面の冷たさが体に染み込む。
彼女はゆっくり体を起こし、周囲を見回した。
洞窟の壁は苔に覆われ、微かな水滴の音が響く。
彼女の近くには、剣士の遺品が転がっていた。
「良かった…彼は無事ね……」
だが、その時、洞窟の奥から低くうめくような声が聞こえてきた。
彼女の視線が動くと、そこにゴブリンがいた。
小鬼たちの群れが、汚らしい体を寄せ合い、彼女を囲むように近づいてくる。
目は血走り、下卑た笑みを浮かべる。
そして、一際大きいゴブリンが1匹が前に出た。
群れのボスらしい、そいつは彼女の衣服を破り、巨大なそそり立つペニスを無理矢理突っ込み、犯し始めた。
女性の体が激痛に震え、悲鳴が洞窟に響く。
「いや……やめて……!」彼女の抵抗は虚しく、ボスの巨体が彼女を押さえつけ、容赦なく動きを繰り返す。
ゴブリンの群れは周囲で嘲るように笑い、彼女の苦痛を楽しむように見守る。
剣士の遺品は彼女を見守る様に…転がっている。
ボスの動きが激しくなり、絶頂を迎える時、女性はゴブリンを見上げて、確信した。
あぁ…これこそ彼に相応しい…大きいゴブリンの逞しい肉体…
横に転がる、彼の遺品…『彼の生首』の目が光った。
彼女の心が喜びに満ちた。
「やっと……あなたの身体が見つかったよ……」
その時、熱い白濁液が彼女のを中を満たすと同時に巨大なゴブリンの首が飛んだ。
女性の笑い声とゴブリンの悲鳴が洞窟内に広がった。
ある日の辺境の街のギルドでは、竜騎士と女武闘家、そしてゴブリンスレイヤー達が談笑していた。
カウンターの隅のテーブルに皆が集まり、酒のグラスを傾けながら、怪談話を交わす。
竜騎士はグラスを回しながら、エオルゼアの不思議な話をしていた。
「僕のいた世界のエオルゼア時間の午前2時の雨の降る日に、グリダニア、リムサ・ロミンサ、ウルダハと呼ばれる主要三国のどれかに真っ白な姿をした幽霊が出るんだ……。霧のように現れて、街を彷徨い、誰もその正体を知らないけど、雨音に混じって、悲しい声が聞こえるらしいよ」
彼の声は低く、皆の視線を集めた。
女武闘家はそれを聞き、思わず竜騎士に抱きついた。
「わ、私、幽霊とか……苦手なのよ……」
彼女の声は震え、竜騎士の服の袖を握りしめる。
普段の強靭な武闘家の姿とは違い、怖がる様子が可愛らしかった。
竜騎士は苦笑し、彼女の肩を抱いた。
「大丈夫、ただの異世界の噂話だよ」
妖精弓手は弓をテーブルに置き、笑いながら言った。
「異世界の怪談話も中々だったわね! しかし、鉱人道士の鉱人の女鍛冶屋の亡霊の話、何なの? 怖いと言うより笑えたわよ!秘蔵の酒を飲まれた恨みで金槌振り回して追いかけるって…」
彼女の細身の体が揺れ、森人らしい軽やかな笑いが響く。
鉱人道士は髭を撫で、不満げに言った。
「鉱人に伝わるとっておきの怪談じゃったのにの……まぁ、森人にこの高度な話は理解出来んかったかのぉ?」
蜥蜴僧侶は「次は巫女殿の番ですぞ」と促した。
皆が好奇心に満ちた目で女神官を見た。
女神官は少し照れくさそうに杖を握り、
「怪談か分からないのですが、この辺境の街から少し離れた場所に、かつて貴族が住んでいた廃墟があるのですが、最近、女の笑い声がするんです……そして羽の生えた生首が飛び回り、赤ん坊の鳴き声が聞こえるそうです」
彼女は普段の純粋な声ではなく低く恐怖を煽る様な喋り方が部屋に響き、皆の背筋を少し寒くした。
廃墟のイメージが、怪談にぴったりだった。
ゴブリンスレイヤーはグラスを置いて、低く言った。
「ゴブリンか?」
彼の目はいつものように鋭く、兜の下の視線が女神官を見つめる。
妖精弓手はゴブリンスレイヤーの肩を叩いて、「いやいや、今の話の何処にゴブリン要素あったのか、逆に聞きたいわ!」とツッコミを入れる。
彼女の明るい声が部屋を和ませ、皆の笑いが広がった。
女神官は顔を赤らめ、「ど、どうでしたか?……」と照れる。
後ろの方から「ゴブリンの話、あながち間違っていないかも知れませんよ」と声がした。
一同が振り向くと、後ろに受付嬢がおり、話しかけていた。
ギルドの喧騒の中で、彼女の声は穏やかだが、皆の注意を引いた。
怪談話の余韻が残るテーブルで、ゴブリンスレイヤーたちはグラスを置いて耳を傾けた。
女武闘家は前回の報告の際に受付嬢に非がないのに怒りに任せて問い詰めてしまったので、少し気まずそうな顔をした。
受付嬢は皆の視線を感じながら、続けた。
「実はその噂の廃屋敷に、ゴブリンが出没する噂があるんですよ。ただ、よく分からないのが、ゴブリンを率いているのが只人の女だって言うんですよ……」
ゴブリンスレイヤーは兜の下の目を細め、「女がゴブリンを率いている? 混沌の勢力の者か魔物か…幽霊ではないだろう」
彼の声は低く、いつものように冷静で、ゴブリン絡みの話に敏感だった。
グラスを置いて身を乗り出した。
受付嬢は首を振り、「それは私には分からないですね。ただ、討伐依頼は出ているので、受けますか?」
彼女は書類を広げ、依頼の詳細を皆に見せた。
廃屋敷の地図と、目撃証言のメモが記されている。
ゴブリンスレイヤーは無言で頷き、「ゴブリンなら決まっている……」と低い声で言った。
彼の目は決意に満ち、兜の下から覗く視線が鋭い。
この依頼を放っておけない様子だった。
妖精弓手は目を丸くし、「本当にゴブリン絡みだったとは……」と驚いていた。
弓をテーブルに置き、グラスを回しながら皆を見回す。鉱人道士は、「ふむ、女の霊が率いるゴブリンか……ワクワクするのぉ」蜥蜴僧侶はチーズを頬張りながら、「これは興味深いですな」女神官は少し不安げに杖を握りしめた。
女武闘家は受付嬢に、申し訳なさそうに「あの……こないだは、ごめんなさい」と頭を下げた。
奴隷女性たちの保護の件で、苛立って問い詰めてしまったことを後悔していた。
受付嬢は優しく女武闘家の肩に触り、「貴女は間違っていない。上には要望あげておいたわ。私に出来ることは少ないけど、同じ女として出来る限りの事はするわ……」と答えた。
女武闘家は「ありがとうございます」と感謝し、頭を下げて礼を言った。
受付嬢は微笑み、依頼書を渡した。
「では、皆さんでこの廃屋敷の調査をお願いしますわ。気をつけてね」
皆は頷き合い、ゴブリンスレイヤーを中心にパーティーを組んだ。
一行はギルドを後にし、廃屋敷へ向かう道中を馬車で進んだ。
辺境の街から少し離れた森の道は、木々が密集し、陽光が斑に差し込む。馬車の揺れに身を任せ、皆は軽い会話を交わしていた。
女武闘家は隣に座る女神官に、ふと思い出したように尋ねた。
「さっきの話、本当なの? 女の霊と生首の話……」
女神官は杖を膝に置き、優しく微笑んだ。
「私は噂で聞いただけなので、正直なところ分からないんですよ。ただ、廃屋敷の近辺で不気味な声が聞こえるというのは、複数の目撃談があるみたいですけど……」
竜騎士は馬車の反対側から、女武闘家の様子を見てクスッと笑った。
「君が幽霊とか苦手だなんて知らなかったな……」
彼の声はからかうように軽く、彼女の肩を抱くように手を伸ばした。
彼女の可愛らしい弱点が新鮮だった。
女武闘家は頰を少し赤らめ、竜騎士の腕を軽く叩いた。
「だって、幽霊は殴れないじゃない……」
彼女の言葉は本気で、怖い理由が武闘家らしい。
ゴブリンスレイヤーは馬車の隅で兜を被ったまま、低くハッキリと言った。
「相手はゴブリンだ。幽霊ではない」
皆の視線が集まり、妖精弓手が笑いながら
「確かに! ゴブリンの生首が飛び回るなんて、聞いたことないわよ」とツッコミを入れた、蜥蜴僧侶は「それが本当なら、面白いですな」と軽快に笑った。
一行の笑い声が馬車に響き、廃屋敷への道中を少し和やかにした。
女武闘家は竜騎士に寄りかかり、心の不安を少し払った。
一行は馬車を降り、廃屋敷の前に到着した。
深夜の森の奥に佇む古い建物は、かつての栄華を思わせる石壁が蔦に覆われ、崩れた門が不気味に口を開けていた。
女神官が杖を握りしめ、周囲を見回しながら説明した。
「ここは、かつてこの地域を収めていた貴族の屋敷だったそうです。当時の王都に反旗を翻げて戦を仕掛けて、敗北して、一族は全て処刑されたって言われていますね」
風が枯葉を舞わせ、屋敷の窓から冷たい空気が流れ出るようだった。
女武闘家は拳を軽く握り、屋敷の朽ちた姿を眺めた。
「やっぱり噂の幽霊って、その時の貴族や屋敷の人達の怨念って事なの……?」
彼女の声にはわずかな怯えが混じり、幽霊の噂が、心をざわつかせた。
竜騎士は槍を肩に担ぎ、冷静に答えた。
「目撃されているのは、ゴブリン、それを率いている女らしき者だから、ちょっと違うんじゃないかな? 怨念より、魔物や混沌の勢力が者が絡んでるみたいだ」
彼の言葉は、女武闘家の不安を和らげようとするものだった。
女武闘家は「そ、そうよね……」と、ちょっとだけ安心した顔をした。
肩の力が抜け、竜騎士に視線を向けて軽く微笑んだ。
「あなたがいるから、大丈夫かも……」
屋敷はかつての華やかさを失い、雑草が生え、辺りは朽ち果てていた。
中に入ると、調度品や骨董品など金目の物は荒らされたのか何もなく、割られたガラスや破壊された壁などがあった。
床は埃に覆われ、階段は軋みを上げ、部屋ごとに蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
ゴブリンスレイヤーは剣を抜き、無言で周囲を警戒。
妖精弓手は弓に矢をつがえ、「不気味ね……」と呟く。
鉱人道士は辺りを見渡し「ふむ、確かに屋敷だが、ゴブリンの巣の様な不気味さがあるのぉ…」と警戒する。
蜥蜴僧侶は、「たしかに、この空気……何かおかしいですな」と鉱人道士の意見に同意する。
一行は奥へ進み、廃屋敷の謎を探る。
女の笑い声が、遠くから微かに聞こえてきたような気がした。
屋敷の前に到着した一行は、慎重に中へ入った。
崩れた壁の隙間から風が吹き込み、埃が舞う。
廊下を進むと、ゴブリンがたむろしているのが見えた。
二匹の小鬼たちは棍棒を地面に置き、粗末な鎧を纏い、低い声で何かを囁き合っている。こちらには気づかない様子で、油断しきっていた。妖精弓手は弓を素早く引き、矢を放った。
風を切る音が響き、一気にトドメを刺す。
二匹のゴブリンの体が貫かれ、血を噴き出して倒れる。
皆は息を潜め、静かに進んだ。
さらに進むと、女性の声が聞こえて来た。
うめき声のような、苦痛に満ちた響きが、屋敷の奥から漏れる。
女武闘家はビクッとして竜騎士の後ろに隠れた。
彼女の体が震え、先程の怪談の内容が蘇るようだった。
「あ……あれ……」
彼女の声は小さく、拳を握りしめる。
ゴブリンスレイヤーは剣を構え、低く言った。
「奥のあの部屋に、女が捕らえられている」
彼の兜の下の目は鋭く、ゴブリンの気配を察知していた。
女神官は杖を握りしめ、妖精弓手は矢を番え、鉱人道士と蜥蜴僧侶も武器を構える。
竜騎士は女武闘家の肩を抱き、「幽霊じゃないらしいよ」と安心させる。続いて「だけど、女性が捕らえられているなら、助け出さないとな」
彼女は少し顔を上げ、頷いた。「うん……行こう」一行は罠やゴブリンの伏兵に気をつけつつ、部屋に入った。
崩れた扉を押し開け、薄暗い空間に飛び込む。
中ではゴブリン達と捉えられていた女性達がいた。
小鬼の群れが女性たちを鎖で繋ぎ、必死に犯しながら腰を振っている、女性たちは全裸で傷つき、怯えた目で一行を見た。
女武闘家がゴブリンは許せないと、ゴブリンに攻撃を仕掛ける。
彼女のスファライ・アルテマが青白く輝き、拳が最初のゴブリンの頭を砕いた。
竜騎士やゴブリンスレイヤー達も後に続く。
竜騎士のゲイボルグ・アルテマが風を切り、ゴブリンを薙ぎ払う。
ゴブリンスレイヤーの剣が効率よくゴブリンの命を刈り取る。
妖精弓手の矢が遠くの敵を貫く。
鉱人道士の術が小鬼に命中する、蜥蜴僧侶の竜牙兵が咆哮を上げて群れを蹴散らす。
女神官の奇跡が皆を支え、部屋は戦いの渦に吞み込まれた。
制圧が完了すると、女性は鎖を解かれ、口を開いて話始めた。
彼女たちは震える声で、怯えながら一行に感謝を述べた。
一人の女性が息を整えながら訴える「女がゴブリン達を率いて村を襲ったわ……目的は村の女達……気味の悪い女で、ゴブリン達を私の子供と呼んでいたわ……」
彼女の恐怖の記憶がよぎる。
「あと、顔が只人の気色悪いゴブリンもいたわ……女はそいつを、アヴィールって呼んでいたわ……」
竜騎士はその名前に聞き覚えがあった……。
エオルゼアのタムタラの墓所で命を落とした剣士、一人先行して回復範囲から外れて魔物達に嬲り殺しにされた男だった。
そして同郷で恋人だった、エッダはその後、パーティーが解散になった後、故郷に戻って行った……彼の首と共に。
そして暫く経ち、次に出会った時の彼女はあのタムタラの墓所で結婚式を挙げると言う……彼女は彼の肉体に竜騎士の身体を手に入れようとするが、アヴィールを失い、蝋燭の火が服に燃え移り、彼女は奈落の底に落ちて行った。
更に暫くして、最後に出会ったのは、グリダニアにある死者の宮殿の地下50階、何者かに操られ生き返った彼女は再び襲いかかった。
そして倒したあと、魂は浄化されて、穏やかな眠りへとついたはずだった。
竜騎士は顔を青ざめ、槍を握りしめた。
「クイックシンクスの言っていた通り…倒したはずの敵が…再び」
この世界で蘇ったゴブリンが言った最後の言葉を思い出す。
救出された女性たちは鎖を解かれ、女神官の回復魔法で傷を癒され、妖精弓手と蜥蜴僧侶が彼女たちを屋敷の入り口まで護衛した。
残りの一行の竜騎士、女武闘家、ゴブリンスレイヤー、鉱人道士は奥へ向かう。
ゴブリン達の数も増えていき、攻撃も激しくなってきたが、蹴散らしながら先に進む。
一番奥の広間に向かうにつれて、ゴブリンの巣とは違った異様さが出て来た。
空気が重く、血の臭いが濃くなり、洞窟のような湿気が肌を刺す。
薄暗い廊下には大量の蝋燭が置かれており、夜の暗闇の部屋を怪しく照らす。
蝋燭の炎がゆらゆらと揺れ、壁に不気味な影を落とす。
廊下の壁も血塗られたような跡があり、赤黒い染みが不規則に広がっていた。
乾いた血の臭いが鼻を突き、女武闘家は拳を握りしめた。
「この感じ……ただのゴブリンの巣じゃないわね……」
彼女の声は低く、恐怖を抑えながら進む。
一行はゴブリンを倒しながら進む。
小鬼たちが蝋燭の炎に照らされ、血走った目で襲いかかってくるが次々と倒していく
「この奥に……何かある」
竜騎士の言葉が一行を駆り立て、広間への扉が近づく。
そして扉を開けると広間の奥は異様な光景だった。
無数のゴブリンの赤子が這い回り、奇妙な泣き声が響く中、一人の女性が立っていた。
黒い帽子に黒のドレス、彼女の目は狂気に満ち、やはりエッダだった。
歪んだ笑みが不気味に浮かぶ。
竜騎士は槍を構え、声を震わせた。
「やはり……エッダ、君だったのか」
エオルゼアの記憶が鮮やかに蘇る。タムタラの墓所での悲劇、グリダニアの死者の宮殿での一件で彼女は安らかな眠りについたはずだった。
エッダはふふふと笑い、鎌を取り出すと軽く回した。
「久しぶりね、冒険者さん」
彼女の声は甘く、しかし狂気の響きが混じる。
竜騎士はエッダに向かって「君はあの時に安らかな眠りについたはずなのに……何故……?!」
エッダはゆっくりと答えた。
「私、緑の月の管理者と言う人に、ここに連れて来て貰ったの。アヴィールが生き返る事が出来るって。そして、見つかったのよ……アヴィールの身体を見て……」
そこに現れたのは、アヴィールの顔を無理矢理付けたゴブリンチャンピオンだった。
巨大な体はゴブリンの筋肉質なものだが、顔だけが人間のアヴィールのもので歪んだ表情が一行を睨む。
アヴィールは棍棒を振り上げ、咆哮を上げた。
エッダは恍惚の表情で、「そして彼との愛の結晶が、こんなに産まれたわ」彼女の周りの赤子ゴブリンたちが、奇妙な鳴き声を上げて彼女に寄りつく。
鉱人道士は斧を構え、顔を歪めた。
「な、なんじゃ……この女……狂っておるわ……」
竜騎士は槍を構え、エッダに問いかけた。
「何故、女性を拐う? 彼女達には罪はないはずだ!」
エッダは鎌を肩に担ぎ、笑った。
「だって、子供達がお嫁さんを欲しがるんだもの。母親として、子供が欲しい物は与えないとね。」
彼女の言葉は狂気の理屈で、女性たちを子供に与える玩具のようにしか見ていなかった。
女武闘家は「ふざけるな!」と叫び、エッダに殴りかかった。拳が空を切り、スファライ・アルテマが青白く輝く。
しかし、アヴィールが前に立ちはだかり、棍棒で攻撃を防ぐ。衝撃波が部屋を震わせ、女武闘家は後退した。
エッダは鎌を構え、女武闘家に視線を向けた。
「貴女も綺麗ね、子供達のお嫁さんにならない?」
竜騎士は「悪いが先約がいるんでな」と槍を構える。
女武闘家は「えっ?」と顔を赤らめるが、すぐに拳を構え直した。
ゴブリンスレイヤーは無言でゴブリンの赤子を殺しながら進む。
剣が小鬼たちの体を容赦なく斬り裂く。
彼の兜の下の目は冷たく、ゴブリン狩りの本能が全開だった。
そんな中、女性達を安全な場所まで避難させた女神官、妖精弓手、蜥蜴僧侶が戻ってきた。
妖精弓手は「な……なによあれ……身体はゴブリン、顔が只人の……」とアヴィールの姿に驚き、弓を構える。
女神官はその異様な姿に顔を引き攣らせ、杖を握りしめた。
「こ、こんな……」
蜥蜴僧侶は「中々、珍妙なゴブリンですな」と武器を構える。
一行は二手に分かれ、竜騎士と女武闘家はエッダと交戦状態。
ゴブリンスレイヤーと鉱人道士はアヴィールと赤子のゴブリンと対峙していた。
アヴィールは周りにいる赤子のゴブリンをお構い無しに踏み潰しながら、棍棒を振り回した。
巨体が地面を震わせ、赤子たちの小さな体が無惨に潰され、血が飛び散る。
赤子たちの泣き声が断末魔に変わり、部屋に響く。
アヴィールの顔は歪んだ笑みを浮かべ、棍棒が風を切り裂く。鉱人道士が、髭を震わせて呟いた。
「こやつ、見境がないのぉ……」
彼の声は驚きに満ち、狂気の光景に体を引く。
ゴブリンスレイヤーは兜の下の目を細め、棍棒の攻撃を軽く避けながら言った。
「だが、動きは単調だ」
頭が入れ替わった事で本来のゴブリンチャンピオンより動きがぎこちない、棍棒の軌道を読み、身を翻す。
無駄のない動きで、アヴィールの巨体を翻弄する。
棍棒の攻撃がゴブリンスレイヤーを襲う時、女神官のプロテクションが受け止めた。
光の障壁が棍棒を弾き、衝撃が部屋を震わせる。
「ゴブリンスレイヤーさん!」
女神官の声は心配げだが、祈りを続ける。
その時、妖精弓手の弓が首の繋ぎ目を狙って射られた。
矢が風を切り、命中して首がぐらついた。アヴィールの顔が不自然に揺れ、縫い付けられた跡から血が滴る。
ゴブリンスレイヤーはその隙を見逃さず、剣を振り上げて首を刎ねた。
剣閃が青い光を残し、首が胴から離れる。
ゴブリンチャンピオンの巨体は音を立てて倒れ、地面を震わせたが、アヴィールの首は羽を生やして飛び、難を逃れた。
羽ばたきのような音が響き、首が部屋の天井を飛び回る。不気味な笑い声が漏れ、皆の視線を追う。
エッダは鎌を構え、竜騎士を見て笑った。「アヴィール……やはり冒険者さんの肉体じゃないとダメなのね」
アヴィールの首は羽をばたつかせ、部屋の空気を切りながらエッダの肩に止まった。
歪んだ顔が彼女の肩に着地し、血の滴がドレスの黒をさらに染める。エッダはふふふと笑いながら鎌を振るった。
鎌の刃が青白く輝き、空を弧を描いて一行に向かって振り下ろされる。
狂気の笑いが部屋に響き、赤子のゴブリンたちが泣き声を上げる。
彼女の目はアヴィールの首を見つめ、愛おしげに撫でた。
「さあ、アヴィール……一緒に貴方の身体を……」
竜騎士はゲイボルグ・アルテマを構え、エッダの姿を睨んだ。
エオルゼアの記憶が鮮やかに蘇り、彼女の狂気が胸を痛くする。
「可哀想だが、トドメを刺させて貰う」
彼の声は低く、槍が青白いエーテルを纏って突き出された。
槍先が風を切り、エッダの胸を貫く。血が噴き出し、彼女の体がよろめく。
同時に、妖精弓手の矢がアヴィールの顔を貫いた。弓弦の音が鋭く響き、矢が風を裂いて首の中心を射抜く。
アヴィールの歪んだ顔が痛みに歪み、羽がばたつきながら地面に落ちる。血の池が広がり、首はピクリとも動かなくなった。
ゴブリンの赤子達も蜥蜴僧侶と竜牙兵によって一掃されていた。
エッダは鎌を落とし、胸の傷を押さえながら、最後に「やっと……これで、アヴィールと一緒になれる……」と息を引き取った。
彼女の体が崩れ落ち、黒いドレスが血に染まる。
部屋の空気が静まり静寂が訪れる。
狂気の宴が終わり、一行は息を吐いた。
女神官は杖を下げ、せめて彼女達が天に召される様に祈りを捧げた。
妖精弓手は弓を収めた。鉱人道士と蜥蜴僧侶は互いに視線を交わし、ゴブリンスレイヤーは無言で剣を拭う。
竜騎士はエッダの体を見つめ、静かに槍を収めた。
女武闘家は彼の横に立ち、肩を優しく触れた。
「……大丈夫?」
一行は部屋を後にし、廃屋敷を出た。
帰りの馬車で、一行は揺れに身を任せながら廃屋敷の戦いを振り返っていた。
朝日が登り始め、馬車の車輪が土を転がる音が心地よく、森の緑が流れていく中、女神官が竜騎士に尋ねた。
「そう言えば、あの女の人と知り合いだったのですか?」
彼女の純粋な目は好奇心に満ち、杖を膝に置いて皆の輪に加わっていた。
竜騎士は槍を馬車の隅に立てかけ、静かに頷いた。
「ああ……エッダとアヴィールは、僕がエオルゼアで初めてのダンジョン攻略で別のパーティだったんだ」
彼はエッダとアヴィールの事を話した。
最初に出会った時、アヴィールはエッダの回復が遅いと、彼女のお金でポーションを買いに行かせて、エッダはパーティメンバーに罵倒されていた事。
タムタラの墓所で剣士アヴィールが一人で先行し、回復範囲から外れて魔物に嬲り殺されたこと。
その恋人エッダがアヴィールの首と一緒に故郷に戻り、狂気に落ちたこと。
墓所で結婚式をあげると言い、エッダがアヴィールの肉体に竜騎士の体を手に入れようとしたこと。
蝋燭の火が服に燃え移り、彼女が奈落に落ちたこと。
そして、死者の宮殿の地下で操られて蘇り、倒すことで魂が浄化されたはずだったこと。
そしてアヴィールが酔って無くした指輪を探して、彼女と一緒に弔ったことを全て話しした。
皆は息を潜めて聞き入り、馬車の空気が重くなった。
話が終わると、妖精弓手が手をテーブル代わりの箱に叩きつけ、「アヴィールって奴、とんでもないクズ野郎じゃない!」と怒っていた。
彼女の細身の体が震え、感情豊かな表情が歪む。
女武闘家も拳を握りしめ、同意した。
「大体二人で買った大切な指輪を酒場の近くの川に酔って落とすなんてあり得ない! そんな奴、信じられないわ……」
鉱人道士は髭を撫で、斧を膝に置きながら言った。
「じゃが、例の緑の月の管理者絡みとはな。前のおぬしの世界の何とかってゴブリンもそうじゃが、誰かがお主に倒された者達を蘇らせているのは確かじゃの」
彼の声は低く、がっしりした体躯が馬車の揺れに合わせて揺れる。
蜥蜴僧侶は顎に手を当てて「今後も警戒が必要ですな。異世界の敵に対して我々は無知ですからな」
竜騎士は自分がこの世界に飛ばされた理由と関係あるのだろうかと考えていた。