十二人の騎士達は、雪山の鉱人砦の一室で、窓から差し込む冷たい月光の下に集まっていた。
部屋は石壁に囲まれ、暖炉の火がパチパチと音を立てて暖を取るが、空気は緊張に満ちていた。
教皇の命を受けた彼ら蒼天騎士団は、緑の月の管理者によりこの異世界に復活した身として、新たな役割を議論していた。
一人の騎士が口を開けた。
「あれが小鬼聖騎士 (ゴブリンパラディン)だとよ……我等、蒼天騎士団とは似ても似つかない物だな」
彼の声は低く、蔑みの色がにじむ。
ゴブリンの群れを率いるという異形の騎士を育てて欲しいと緑の月の管理者に頼まれていたのだ。
だがイシュガルドの誇り高き騎士として、そんな下等な存在を同列に置かれるのは耐えがたい。
別の騎士が剣を壁に立てかけ、ため息をついた。
「しかし、緑の月の管理者は我々をこの地に復活なさったのだ。一つぐらいは頼み事を聞かねばな……」
彼の目は遠くを見据え、管理者の謎めいたフードの影を思い浮かべた。
死後の世界から呼び戻され、新たな力を与えられた代償として、ゴブリンパラディンを育てよ、いう命令。
教皇トールダンⅦ世の意向も絡み、拒否はできない。
さらに別の騎士が手を振って笑った。
「ゴブリンに騎士道なんて分かるんですか? あれじゃ騎士団ごっこで遊んでいる子供の方がマシですよ」
オマカ口調の騎士が「アイツらドブネズミみたいに臭くてたまらないワ! こんな汚い仕事、さっさと終わらせて帰りましょ!」
騎士団長らしき騎士が大剣を腰に下げ、厳しい声で締めくくった。
「どちらにせよ、教皇猊下に仇なす様であれば倒すまでだ」
彼の言葉に皆が頷き、部屋の空気が引き締まる。
そこに教皇と呼ばれる老人が現れた。トールダンⅦ世だ。
白いローブを纏い、杖を突きながらゆっくりと歩み寄る彼の目は、鋭く輝いていた。
騎士団の面々が一斉に膝をつき、頭を下げる中、トールダンは低く響く声で言った。
「我等は緑の月の管理者に対する義理は果たした。これ以上、あの小鬼共と一緒にいる事も無かろう。我等の砦に引き上げる準備をせよ」
杖が地面を叩く音がすると、騎士たちは即座に立ち上がり、準備を始めた。
蒼天騎士団のグリノーは斧を肩に担ぎ、
先程のオカマ口調で喋っていたシャリベルはため息をつく。
騎士団長のゼフィランは教皇の傍らに立った。
異世界での新たな基盤を築くため、騎士団は動き始める。
一人、シャリベルは、杖を構えながら周囲の気配を探っていた。
彼の魔法が空気を震わせ、この鉱人砦から微かな人の気配を察知したらしい。
ニヤリと笑う。
「ドブネズミみたいな連中が、うろちょろしてるわよ」
騎士団長のゼフィランは眉を寄せ、シャリベルに視線を向けた。
「この世界の冒険者か…しかし、ここからは我々の知るところではない。よいですな、教皇猊下」
彼の声は冷静で、大剣の柄に手を置く。
トールダンⅦ世は杖を地面に叩き、ゆっくり頷いた。
「構わぬ。奴らの相手は小鬼共に任せよ。我等はイシュガルド正教の教えを広め、世界を正しい方へと導くのだ」
騎士団が全員引き上げようとした時、シャリベルが再び杖を構え、笑みを深めた。
「残念だけど、また侵入者よ。しかも…これは英雄サマよ!」
彼の言葉に、皆の動きが止まった。
エオルゼアの英雄、竜騎士とそして女武闘家が近づいて来ていた。
一方で、雪山の風が吹きすさぶ中、竜騎士と女武闘家は鉱人砦の入り口の門前に立っていた。
灰色の石壁は高く、鉄の扉は厚く閉ざされ、普通には到底入れなさそうだった。
壁の上には見張りもおらず、まるで無人の廃墟の様な静けさが漂っている。
竜騎士はフードを深く被ったまま、女武闘家に小声で言った。
「捕まる様に」
女武闘家はニヤリと笑って即座に理解し、竜騎士の首に腕を回し、ギュッと抱きついた。
「飛ぶのね」
竜騎士は頷くと、膝を軽く曲げ、ゲイボルグ・アルテマを地面に軽く突き立てて反動を加える。
次の瞬間、二人を抱えたまま空高くジャンプした!
雪煙を巻き上げながら、十メートルはあろうかという高壁を軽々と越え、砦内の石畳に音もなく着地する。
女武闘家は降りてからも腕を離さず、感心したように囁いた。
「やっぱりすごい……!」
竜騎士は周囲を見回し、耳を澄ます。
「……気配は無い。先に進もう」
静まり返った砦の中は、雪が薄く積もり、足跡一つない。
まるで人がいなくなった後の、廃墟のような雰囲気だった。
二人は奥の建物へと静かに進んだ。
雪が舞う中、鉱人砦の奥深くで、何かが待ち受けている予感がした。
廊下を進む中、薄暗い光の下で異様な光景が広がっていた。
床には殴り殺されたゴブリンの死体が転がり、血の海に沈んでいる。
別の場所にはナイフで刺されたゴブリンの死体もあった。
ゴブリンの血が滴り落ちていた。
女武闘家は拳を握りしめ、「これ……ゴブリンスレイヤーさんたちの仕業ね……」と呟いた。
竜騎士は槍を構え、周囲を警戒しながら頷いた。
さらに進むと、部屋があり、女性達がいた。隠れる様に、数名の女性たちが座り込み、ぼろ布のような服を纏い、怯えた目で二人を見た。
ゴブリンスレイヤー達が助け出した様だが、女性達に話を聞くと下手に連れて歩くよりは安全との事だった。
女性たちはまだ震えが止まらず、互いに体を寄せ合っていた。
ゴブリンの残虐な痕跡が彼女たちの体に残り、傷や汚れが痛々しい。
竜騎士は女性達の前で膝をつき回復のケアルをかけると、優しく言った。
「先程の冒険者か僕達が必ずあとで来ますから、ここで待っていてください。外はまだ危険ですから」
女性の一人が涙を浮かべ、「本当に……助けてくれるの……?」と呟いた。
女武闘家は拳を緩め、女性に手を伸ばした。
「約束するわ。私たち、絶対に戻ってくる」
女性たちは少し安堵の表情を浮かべ、二人は先に進んだ。
二人は廊下を進みながら、ゴブリンスレイヤーたちの痕跡を追う。
更に廊下を進み、薄暗い空気に警戒を強めた。
遠くから突然、ラッパやら太鼓の音が聞こえてきた。
低く響くラッパの音と、ドンドンと叩く太鼓の振動が、砦の壁を伝って届く。
女武闘家は拳を構え、耳を澄ませて言った。
「ゴブリンのお祭り? 何かしら……?」
竜騎士は槍を握りしめ、周囲を見回しながら答えた。
「それか、何かの儀式かも知れないね。ゴブリンの巣窟でこんな音、ただ事じゃない」
二人は足音を殺して進み、音の源を探った。暫くすると、女の叫び声が先の方から聞こえてきた。
苦痛に満ちた鋭い悲鳴が、廊下に反響する。
女武闘家は「な、何?!」とびっくりして、体を震わせた。
竜騎士は「先を急ごう!」と声を低くして、先に向かった。
彼女も拳を握りしめ、追うように走る。
叫び声が近づくにつれ、ゴブリンの下卑た笑い声が混じり、心臓の鼓動が速くなる。
先に進むと、中庭みたいになっており、よく見ると城壁の上の方ではゴブリンスレイヤー達が大量のゴブリンと戦闘状態だった。
ゴブリンスレイヤーが剣を振るい、女神官ともう一人の女性がいた。
竜騎士は女武闘家に「援護に行こう! 僕に捕まって!」と言い、彼女を抱き寄せた。女武闘家はギュッと抱きつき、頷く。
竜騎士はゲイボルグ・アルテマを地面に突き刺し、反動で空高くジャンプすると、一気に城壁の上に上がった。
着地と同時に槍を振り、近くのゴブリンを薙ぎ払う。
女武闘家も降りて拳を構え、ゴブリンの背後から襲いかかる。
女神官が二人の姿を見て、驚きの声を上げた。
「まさか来てくれるなんて!」
隣の女性は「え、誰?」と聞く。
彼女は、ゴブリンスレイヤー達が捜索しているという冒険者の一人だろう?
女神官は味方ですよ!と答えた。彼女の声は安心に満ち、戦いの合間に二人の援護に感謝する。
その時、目の前に騎士の格好をしたゴブリンパラディンが現れた。騎士の様な鎧を纏い、盾と剣を構えた異形の小鬼が一行に襲いかかる。
女神官と一緒にいた女性…令嬢剣士は「私の剣…私から奪った…」と呟いていた。
その小さな声は、竜騎士の耳に届いた。彼は鋭い視線を彼女に向け、静かに尋ねた。
「あれは君の剣なのかい?」
令嬢剣士は、目の前のゴブリンパラディンを睨みつけ、唇を噛みしめた。彼女の目は怒りと決意に燃え、声は震えながらも力強かった。
「アイツが私から奪った……全てを。だから、取り戻すわ!」
竜騎士は頷き、視線を戦いの中心に移した。そこではゴブリンスレイヤーがゴブリンパラディンと対峙していたが、彼の剣はすでに折れ、刃先が欠け落ちていた。
奪った剣を振り回すその動き、ゴブリンスレイヤーは無表情だが苦戦しているのは明らかだった。
「くっ……」竜騎士は即座に判断を下した。
自身のゲイボルグ・アルテマを強く握りしめ、力一杯投げつけた。青白く輝く槍は空を切り裂き、ゴブリンスレイヤーと小鬼聖騎士の間に突き刺さった。
雪煙が舞い上がり、地面に深い溝を刻む。
「それを使ってください!!」
ゴブリンスレイヤーは一瞬、目を細めたが、迷わず槍を引き抜いた。青白い光が彼の手に宿り、槍の刃先が微かに震える。
普段の剣とは異なる重みを感じつつも、彼はすぐに構えを整えた。
小鬼聖騎士が咆哮を上げて襲いかかる中、ゴブリンスレイヤーはゲイボルグ・アルテマを振り回し、反撃に転じた。槍の軌道がゴブリンパラディンの盾を弾き、金属音が中庭に響き渡る。
その時、後方から新たな脅威が迫っていた。女武闘家が叫んだ。
「後ろからもゴブリンが来てるわ!」
彼女は拳を構え、振り向くが、武器を投げ渡した竜騎士の姿に心配の色を浮かべた。
無防備な彼をゴブリンの群れが囲み、鋭い爪や粗末な武器を振り上げる。
女武闘家は駆け寄ろうとしたが、竜騎士はすでに動き始めていた。素手でゴブリンの一匹に近づき、流れるような体術でその首を捻じ曲げ、倒す。
続いて飛びかかるもう一匹を蹴り飛ばし、雪の上に叩きつけた。動きはモンクの修行を思わせるほど洗練され、力強く、正確だった。
女武闘家は目を丸くして見つめた。「え……素手でもそんなに強かったの?」
竜騎士はゴブリンを次々と倒しながら、にっこりと笑って答えた。「僕はモンクの修行もしているの、忘れたかい? それに君の武器の元持ち主は僕のだからね」
彼女は自分の手甲、スファライ・アルテマに視線を落とした。竜騎士から譲り受けたこの武器は、青白く輝く光を放ち、ゲイボルグ・アルテマと同じ材質で作られていた。
同じ強度、同じ輝き。女武闘家は拳を握りしめ、改めて戦いに身を投じた。
ゴブリンの群れを蹴散らし、竜騎士の背中を守るように動く。
二人の連携は完璧で、中庭の戦いは次第に冒険者たち有利に傾き始めた。
竜騎士と女武闘家が新たなゴブリンの群れに囲まれ、戦闘に突入した。
緑色の小鬼どもが牙を剥き、粗末な武器を振りかざして襲いかかる。
二人は背中合わせに立ち、息を合わせて動き始めた。
竜騎士は素手でゴブリンの一匹を掴み、投げ飛ばす。
女武闘家はスファライ・アルテマの輝く拳で別のゴブリンの腹を抉り、雪の上に倒れ伏せさせる。
連携は圧倒的だった、竜騎士のモンクらしい流れるような体術が敵を引きつけ、女武闘家のパワフルな一撃がそれを仕留める。
ゴブリンの数はみるみる減っていき、ゴブリンの血が雪を染めた。「これで最後よ!」女武闘家が叫び、最後の一匹を蹴り飛ばす。
息を切らしながらも、二人は互いに頷き合った。
一方、城壁の上ではゴブリンスレイヤーがゲイボルグ・アルテマを自在に操り、ゴブリンパラディンを圧倒していた。
普段の剣とは異なる切れ味に、彼は内心で興奮していた。
「これが英雄の…伝説の武器……」
槍の刃先が空を切り、ゴブリンパラディンの盾を貫く。
異形の騎士は咆哮を上げて抵抗するが、ゴブリンスレイヤーの動きは冷徹で正確だった。
ついに、ゲイボルグ・アルテマがゴブリンパラディンの胸を突き刺し、緑色の体躯が崩れ落ちた。
倒れた敵の体から、奪われた剣と鞘を引き抜く。
ゴブリンスレイヤーは無表情のまま、令嬢剣士にそれを差し出した。「これで奪われた物は取り戻せたか」
令嬢剣士は剣と鞘を受け取り、胸に抱きしめた。涙が頰を伝い、彼女の声は震えていた。
「ありがとう……本当に、ありがとう……」
剣の冷たい感触が、失われた誇りを呼び戻すようだった。
女神官がそっと彼女の肩に手を置き、優しい光の魔法で傷を癒す。
竜騎士と女武闘家もゴブリンの殲滅を終え、ゴブリンスレイヤー達も城壁の下まで降りて合流した。
竜騎士は周囲を見回し、妖精弓手や鉱人道士、蜥蜴僧侶の姿がないことに気づいた。
「みんなはどこに?」
その言葉が終わらないうちに、砦の外から足音が近づいてきた。
鉱人道士たちが、先ほど助け出した女性たちを連れて入ってきたのだ。
女性たちはまだ怯えた表情を浮かべていたが、安全を確信したように互いに支え合っていた。
妖精弓手が先頭に立ち、目を丸くして中庭を見渡した。
「全然来ないから気になって来たけど……貴方達が来ていたのね。ゴブリンもすっかり片付いちゃったのね!」
彼女の声は驚きに満ち、弓を肩から下ろす。
蜥蜴僧侶は穏やかな笑みを浮かべた。
「これはいい方の想定外でしたな。皆、無事で何よりですぞ」
女武闘家はみんなの顔を見て、喜びの声を上げた。
「みんなも無事だったのね! よかった……本当に、よかったわ!」
彼女は拳を緩め、仲間たちに駆け寄った。砦の空気はようやく安堵に包まれたと思った、その時だった。
砦の上から人の声がした。雪風に混じって響く、低く威厳のある声だった。
「流石は英雄殿と言ったところだな」
皆が視線を上げると、城壁のさらに上部、砦の高い塔のような場所から、12人の騎士とトールダンⅦ世がこちらを見下ろしていた。
蒼天騎士団の面々は、厳しい表情を浮かべ、白いローブを纏った教皇が杖を突きながら立っていた。
彼らの鎧を冷たく照らし、侵入者たちを見下ろす。
竜騎士は息を呑み、目を細めた。
「ま、まさか……蒼天騎士団に教皇トールダン……まさか緑の月の管理者に蘇らせられたのか?」
トールダンⅦ世はゆっくりと頷き、声は静かだが力強かった。
「そうだ。だが我々は奴の目論見に乗るつもりはない。今回は義理を果たしただけだ。敵対する事もあったが、ここはイシュガルドではない。英雄殿よ、我等と新しい秩序をこの世界に作る気は無いか?」
竜騎士の表情が硬くなった。
彼は周囲の助け出した女性たちの怯えた姿を見て、声を荒げた。
「秩序だと? ゴブリンは女性を拐い、犯し数を増やす。ここには拐われた女性がいた。騎士なら何故助けなかった? それとも知りながら見て見ぬふりをしていたのか? そんな奴等の言う事は信頼に置けない!」
ゼフィランは眉を吊り上げ、怒りを露わにした。
「教皇猊下に何という態度! 万死に値する」
彼の大剣が鞘から抜かれ、雪の粒子を切り裂くように構えられた。
トールダンⅦ世は手を挙げ、ゼフィランを制した。
「まぁ、よい。英雄殿よ、物事はもっと大局的に見ねばならぬぞ」
彼の目は深く、死後の世界から蘇った者の叡智を湛えていた。
竜騎士は会話を切り上げ、ゴブリンスレイヤーに向き直った。
「槍を……」彼は手を差し出し、ゲイボルグ・アルテマを受け取ろうとした。
ゴブリンスレイヤーは「………」と一瞬動きを止め、無表情のまま槍を握りしめていたが、少し経ってからゆっくりと渡そうとした。
その瞬間、蒼天騎士団のゼフィランが塔から飛び降り、大剣を振り下ろして来た。
空気を切り裂く重い一撃が、竜騎士とゴブリンスレイヤーに向かって落ちる。
二人とも咄嗟に身をかわし、剣の刃が地面を抉って雪煙を巻き上げた。
「いきなり攻撃仕掛けてくるなんて!」女武闘家が拳を構え、叫んだ。
女神官は杖を握りしめ、令嬢剣士は取り戻した剣を抜く。
鉱人道士たちも武器を構え、戦いの気配が再び中庭を満たした。
竜騎士は素早くアーマリチェストから予備の槍を取り出し、構えた。
青白い光を放つゲイボルグとは異なるが、信頼できる一振りだった。
「話が通じないなら、仕方ないね……」
彼の目は鋭く、蒼天騎士団の面々を睨み据えた。
雪山の鉱人砦は、再び戦いの渦に飲み込まれた。
蒼天騎士団の騎士たちは、突如として巨大化し、蛮神のような威容を現した。
体躯は通常の人間の数倍に膨れ上がり、鎧が光を帯びて輝く。
トールダンⅦ世自身も変貌を遂げ、白いローブが剥がれ落ち、巨大な甲冑を纏った騎士の姿となった。
手に構えるは聖剣アスカロン、伝説の剣が光を反射し、冷たい輝きを放つ。
かつて竜騎士が仲間と共に死闘を繰り広げた、十二人の騎士とトールダンからなる蛮神『ナイツオブラウンド』
「これがイシュガルドの正義だ!」
ゼフィランが咆哮を上げ、大剣を振り回す。
騎士団は次々と攻撃を仕掛け、砦の中庭を震わせた。
グリノーの斧が雪を割り、シャリベルの魔法が炎の渦を巻き起こす。
他の騎士たちも剣や槍を閃かせ、冒険者たちを包囲する。
竜騎士は予備の槍を構え、必死に反撃した。
槍の刃がゼフィランの大剣を弾き返すが、背後から別の騎士の攻撃が迫る。
横からも、斜めからも、十二人の連携は完璧で、竜騎士の動きを封じ込める。
息を切らし、汗が額を伝う中、彼は槍を振り回して何とか耐えていた。
ついに、グリノーの巨大な斧が竜騎士の槍に直撃した。
ガキン! と金属の悲鳴が響き、槍が真っ二つに折れる。
無防備になった竜騎士に、シャリベルの火魔法が襲いかかった。
炎の渦が彼を包み込み、熱波が体を焼く。
竜騎士は耐えきれず、膝をついて倒れた。息が荒く、視界がぼやける。
周囲には十二人の巨大化した騎士と、トールダンが立ちはだかっていた。
トールダンは聖剣アスカロンを高く掲げ、ゆっくりと振り下ろす。
「これで終わりだ……アルティメットエンド!」
剣から放たれる強力な一撃は、中庭を裂き、雪を蒸発させるほどの威力だった。
地面が抉れ、衝撃波が広がる。
だが、間一髪で女武闘家が駆けつけ、竜騎士を抱えて回避した。
彼女の拳が地面を蹴り、素早い動きで爆風を逃れる。
竜騎士は既に意識を失っており、女武闘家の腕の中でぐったりとしていた。
「彼の意識がないの!!」女武闘家が叫ぶ中、ゴブリンスレイヤーは状況を冷静に分析した。
彼はゲイボルグ・アルテマを構え直し、低い声で提案した。「ここはひとまず撤退だ」
一同は頷き、砦を後にした。女神官が治癒の魔法をかけながら、令嬢剣士や鉱人道士たちが女性たちを支える。
蜥蜴僧侶は竜騎士を担ぎ、妖精弓手は弓を構えて後方を警戒。
雪山を降りながら走る一行の背後で、蒼天騎士団の声が風に混じって追ってきた。
雪山の急な斜面を、一行は必死に駆け下りていた。
風が雪を巻き上げ、視界を悪くする中、足元は滑りやすく、いつ転落するかわからない。
蒼天騎士団の巨大化した騎士たちは、遠くからでもその巨体を震わせて追ってくる。
妖精弓手が息を切らしながら叫んだ。
「オルクボルグ! この先崖じゃないの!!」
彼女の弓が風に揺れ、目が崖の端を指す。
そこは切り立った絶壁で、底知れぬ闇が広がっていた。
逃げ場などない、このままでは全員が転落するか、追いつかれるかだ。
鉱人道士が息を切らしながら声を上げた。
「どうするんじゃかみきり丸、今の状態じゃ勝てんぞ!!」
彼の小さな体は疲労で震え、竜騎士を抱えた蜥蜴僧侶も顔を歪めていた。
ゴブリンスレイヤーは無表情のまま走っていたが、突然クルッと向きを変えた。剣を握りしめ、令嬢剣士に鋭く命令する。
「撃て!!」
令嬢剣士は、すぐに理解した。雪山の斜面に向かって術を放った。
稲妻の矢が飛び、雪の塊に直撃する。轟音が響き、雪面が崩れ始めた。
「ま、まさか……」妖精弓手が目を丸くして呟く。
次の瞬間、雪崩が発生した。白い奔流が山肌を滑り落ち、轟音とともに蒼天騎士団を飲み込んだ。
巨大化した騎士たちが雪に埋もれ、ゼフィランの大剣が無駄に空を切る。
トールダンⅦ世の聖剣アスカロンが光を放つが、雪の壁に阻まれ、追跡は一瞬で止まった。
雪崩の勢いは一行にも迫り、雪の粒子が顔を叩く。
女神官が叫び、杖を高く掲げた。聖壁 (プロテクション)光の結界が一行を包み込み、雪崩の奔流を食い止めた。
雪が結界にぶつかるが、内部は安全だった。
女神官の額に汗が浮かび、息を荒げながらも、結界を維持する。
雪崩が収まると、周囲は静けさに戻った。
蒼天騎士団の気配は消え、雪の下に埋もれたようだった。
一行はようやく息をつき、崖の端で立ち止まる。
雪の壁が蒼天騎士団を飲み込んだものの、完全な勝利とは程遠い。
女神官の聖壁(プロテクション) 解け、冷たい風が再び吹き抜ける中、妖精弓手がゴブリンスレイヤーに視線を向けた。
彼女の目は不安が入り混じっていた。
「やったの? あれで終わり?」
ゴブリンスレイヤーは無表情のまま、借りていたゲイボルグ・アルテマを握りしめていた。
槍の刃先が青白く光を強め、まるで警告を発しているかのようだった。
彼は低く呟く。「恐らく時間稼ぎにしかならない。この槍がそう伝えている気がする……」
皆の視線が槍に集まる。ゲイボルグ・アルテマは普段の輝きを超え、脈動するような光を放っていた。
まるで持ち主の危機を察知し、呼びかけているかのようだ。
女武闘家と蜥蜴僧侶は意識を失った竜騎士を抱え、顔をしかめた。
「早く、下山して安全な場所へ……」
一行は蒼天騎士団が雪崩で動けないうちに撤退を決めた。
鉱人道士が先導し、女武闘家と蜥蜴僧侶が竜騎士や女性たちを支える。
令嬢剣士は剣を握りしめ、後方を警戒した。
雪山の斜面を慎重に降りながら、ゴブリンスレイヤーは槍を返そうと女武闘家に近づく。だが、心のどこかで、この武器を手放したくない気持ちが心の片隅に残っていた…
一行は雪山の急な斜面を降り、ようやく麓の村まで戻ってきた。
息を切らし、雪にまみれた体で村の入り口に立つ。
村は数日前の罪喰いの被害の傷跡がまだ生々しく残っていた、焼け落ちた家屋の残骸、荒れた道、住民たちの疲れた表情。
空気には焦げ臭さが漂い、静かな緊張が張りつめている。
村長は一行の姿を遠くから見つけ、最初は笑顔で近づいてきた。特に女武闘家に目を向け、「温泉はどうじゃった? ゆっくりできたか?」と陽気に声をかける。
だが、一行の憔悴しきった顔や泥と血に汚れた服、竜騎士を抱えた女武闘家の重い息遣いを見るなり、笑顔が瞬時に消えた。
「これは……一体、何があったんじゃ?」
村唯一の医者の小屋に急ぎ、ベッドに竜騎士を寝かせた。
蜥蜴僧侶と女神官が交互に治癒の魔法をかけ続けるが、竜騎士の傷は深く、意識は戻らない。
女武闘家はベッドサイドに座り、彼の手を握りしめた。
「早く、目を覚まして……」
ゴブリンスレイヤーは無言で、令嬢剣士は窓辺で外を睨む。
妖精弓手は村長と一緒に皆に温かいスープを配り、疲労を癒そうとする。
一方、雪山では雪崩の雪の中から、蒼天騎士団とトールダンⅦ世が這い上がっていた。
白い雪の塊を払いのけ、巨大化した体躯をゆっくりと起こす。
ゼフィランは周囲を確認し、教皇に近づいて報告した。
「蒼天騎士団は全員無事です、教皇猊下」
彼の声は冷静だが、雪に埋もれた屈辱がにじむ。
シャリベルは杖を振り回し、火魔法で雪を溶かしながら驚きの声を上げた。
「まさか英雄サマより、あのドブネズミ達の方がやるとはネ。あの連中」
彼は、ニヤリと笑いつつも、目には苛立ちが浮かぶ。
ジャンルヌはアデルフェルを雪から引き上げ、肩を貸しながら心配げに問うた。
「大丈夫か、相棒」
アデルフェルは雪の上に立ち上がり、すまなげに頭を振った。
「すまない……大丈夫だ」二人は互いを確かめ、騎士団の誇りを再確認する。
副団長のヴェルギーンは槍を雪に突き立て、静かに呟いた。
「中々あの冒険者達は曲者でしたね。特に鎧の男は……手強い」
彼の髭に手を当てながら、遠くの雪山を睨みつけていた。
トールダンⅦ世は聖剣アスカロンを構え直し、ゆっくりと頷いた。
「まぁ、よい。いずれまた会う機会もあろう。まずは英雄よりも、この世界に新たな秩序を与えて、世界を我らが導くのだ」
彼の声は低く響き、騎士団の面々が一斉に膝をつく。
雪山の頂は再び静けさに包まれ、異世界の新たな陰謀が息を潜めていた。