少年は幼い頃、冒険者になって未知の遺跡を探り、怪物と戦って財宝を見つけ、お姫様を助け、時には世界を救う。
そんな英雄や勇者に憧れていた。
物語の本から飛び出してきたような輝かしい存在に、心を奪われていた。
あの頃の自分は、村の仲間たちと木の棒を振り回し友達と遊び、笑いながら夢見ていた。
ゴブリンが村を襲うまでは。
姉は殺され、故郷の村は国から存在しなくなった日、少年はそんな誰もが憧れる勇者や英雄ではなく、ひたすらにゴブリンを殺すだけを目的に生きてきた。
復讐の炎が胸を焼き、夢などという甘い幻想は灰と化した。
ゴブリンを殺す。
それだけが生きる理由。
剣を振るうたび、血の臭いが鼻を突き、姉の叫び声が耳に蘇る。
英雄など、ただの物語。現実には、ただの殺戮者しかいない。
あの異世界の英雄と言われている男の武器を手にした時、忘れていた思いが僅かに蘇ったのかも知れない。
ゲイボルグ・アルテマを手にするだけで力を感じた。
ゴブリンパラディンの盾を最も容易く貫き、鋼鉄を紙切れのように切り裂いた。
武器から意思のような物を感じた。
これが英雄や勇者なのだと感じた。
胸が躍った。久しぶりの感覚。幼い日の興奮が、ほんの一瞬、よみがえった。
だが、自分のではないそれを持ち主に返す時に、一瞬だけ、もう少し英雄でいたいと思い、手が止まった……俺のせいだ。
ゴブリンスレイヤーは自分を責めた。
槍を握る手がわずかに震え、視界がぼやける。
竜騎士の無意識の体が、女武闘家の腕の中で重く沈む。
この槍は、ただの道具ではない。
英雄の意志を宿したものだ。
だが、自分は英雄ではない。ただの小鬼を殺す者 (ゴブリンスレイヤー)だ。
女武闘家はベッドの上で目を覚ました。
村の医者の小屋は静かで、窓から差し込む朝の光が埃を舞わせ、柔らかな暖かさを部屋に広げていた。
彼女の頰を、冷たい涙の軌跡が伝う。
息を切らし、心臓の鼓動がまだ速い。
夢……あの忌まわしい夢が、また訪れた。
幼い頃から憧れていた冒険者の道。
幼馴染の青年と一緒に村を出て、広い世界を旅する。
途中で出会った賢者の学院を卒業したという魔法使いの女性と、ギルドで仲間になった神官の女の子。
初めての冒険に胸を膨らませた。あの時は、すべてが輝いていた。
依頼は簡単だった。ゴブリンに拐われた女の子を助ける。巣穴は暗く、湿った空気が鼻を突く。
幼馴染が先頭を切り、剣を振るう。
だが、ゴブリンの群れは予想以上に狡猾だった。
幼馴染はゴブリン囲まれ、袋叩きにあい、見るも無惨な姿になった。
魔法使いの女性は毒のナイフで重傷を負い、苦しげに倒れる。
女武闘家は二人に「逃げて!」と言う。
女武闘家は拳を握りしめ、ゴブリンに立ち向かった。
だが、ホブゴブリンの巨体が彼女を捕らえ、足を掴んで地面に叩きつけた。
激痛が走り、視界が揺れる。周囲には大量のゴブリン、緑色の肌が蠢き、低い笑い声が響く。
服は引き裂かれ、下着も剥ぎ取られて。
身体は押さえつけられ、ゴブリンのそそり立つそれに後ろから突かれた。
純潔を奪われた激痛が走る
密かに思っていた幼馴染のアイツじゃなく、汚らしくて異臭漂うゴブリンに、何度も犯された。
ゴブリンの汚く悪臭をするモノを口に入れられ、吐き気がした。
身体は傷つけられて、ゴブリンの汚らしい体液が身体の外も中も満たしていく……。
絶望と痛みが混じり、叫び声さえ出せなかった。
あの時、女武闘家の心は砕け散り、感情が無くなった。
女武闘家はベッドの上で体を起こし、涙を拭った。
竜騎士と出会う前の記憶。
最近は彼と一緒に寝てから見なくなった夢だったのに、今日に限って蘇った。
隣のベッドでは、竜騎士がまだ意識を失ったまま、静かに息をしていた。
彼女は彼の手を握り、そっと囁いた。
「あなたがいれば、もう怖くないのに……」
暫くすると、ドアが静かに開き、ゴブリンスレイヤーが部屋に入ってきた。
村の医者の小屋は簡素で、木のベッドと小さな暖炉が部屋の中心を占め、かすかな薬草の香りが漂っていた。
竜騎士はまだベッドに横たわり、深い眠りについていた。
女武闘家は彼の傍らに座り、手を握ったまま窓の外を見つめていたが、ゴブリンスレイヤーの足音に振り返った。
部屋には今、竜騎士と女武闘家、そしてゴブリンスレイヤーの三人だけだった。
外の村人たちの声が遠くに聞こえる中、部屋の空気は重く張りつめていた。
ゴブリンスレイヤーは無表情のまま近づき、女武闘家に視線を向けた。
「……大丈夫か?」
女武闘家は少しやつれた笑みを浮かべ、頷いた。
「大丈夫よ。ありがとう……彼も、きっと目を覚ますわ」
彼女の声は優しかったが、目元には疲労の影が残っていた。夢の余韻がまだ胸に疼く。
ゴブリンスレイヤーは黙ってゲイボルグ・アルテマを差し出した。
青白い光が槍の刃先から弱く輝き、部屋の薄暗さを照らす。
女武闘家はそれを受け取り、竜騎士のベッドサイドに置いた。
そして、ゴブリンスレイヤーは低い声で言った。
「俺のせいだ。すまない」
女武闘家は突然の謝罪に戸惑い、目を丸くした。
「え……どうして? あなたは何も悪くないわよ。あの状況で、よく戦ってくれたじゃない」
彼は兜の下で視線を落とし、ゆっくりと理由を話し始めた。
「あの槍を……返すのを、ためらった。俺のせいで、遅れたんだ」
声は淡々としていたが、言葉の端に自責の念がにじむ。
「幼い頃、俺は英雄や勇者に憧れていた。冒険者になって、怪物と戦い、財宝を見つけ、お姫様を助け、世界を救う……そんな夢を見ていた。だが、ゴブリンが村を襲い、姉を殺し、すべてを奪った日から、俺はただゴブリンを殺すだけの存在になった。英雄なんて、ただの幻想だと思っていた」
女武闘家は息を呑み、黙って聞き続けた。
「あの槍を手にした時、忘れていた思いが蘇った。力を感じた。鋼鉄を紙のように切り裂く……武器から、意思のようなものを感じた。これが英雄のものか、と。胸が躍った。一瞬、もう少し英雄でいたいと思って、手が止まった。返すのを遅らせたせいで……彼が傷ついた。俺のせいだ」
女武闘家はベッドサイドで竜騎士の手を握りしめ、ゴブリンスレイヤーの言葉を静かに受け止めていた。
女武闘家の心に以前の記憶が蘇った。
ゴブリンの巣穴から助け出した冒険者の女性の顔を、彼女が女武闘家に言った言葉を、彼女は今でも忘れていなかった。
彼女は視線をゴブリンスレイヤーに戻し、ゆっくりと口を開いた。
「ねえ……前にね、私と彼が助け出した女性が、こんな言葉をくれたの。『それでも、貴女は立ち直って私を助けてくれた。私にとっては、どんな勇者や英雄よりも貴方達の方が本当の英雄です。だから、自信を持ってください』って。だから、私を救ってくれた貴方は、私にとって英雄です。それに、今まで救った人にとっては、貴方はどんな勇者や英雄よりも本当の英雄だと思います」
ゴブリンスレイヤーは兜の下で目を細め、無言で立ち尽くした。
女武闘家の言葉が、彼の心の奥底を揺さぶる。英雄、そんな言葉は、自分とは無縁だと思っていたのに。
その時、弱々しい声が部屋に響いた。
「そうだ、君は英雄さ……あの武器は使う者を選ぶ。貴方があそこまで使いこなせたのは、武器が貴方を信頼できる人間と見抜いたからだ。それに、僕だって君が羨ましかったさ……」
ゴブリンスレイヤーと女武闘家が視線を向けると、竜騎士がベッドの上に体を起こしていた。
顔は青白く、傷の痛みが残っているはずなのに、穏やかな笑みを浮かべている。
女武闘家は慌てて彼に駆け寄り、「無理しないで! まだ傷が……」と声を掛けたが、竜騎士は優しく手を振って制した。
ゴブリンスレイヤーは戸惑いを隠せなかった。「俺が?!」
竜騎士は頷き、続ける。
「そうさ、僕は彼女を襲われた所を知らない。大切な人を守る機会さえ無かった。彼女を助け出した君が羨ましいんだ。何故、彼女を救ったのが僕じゃ無かったのか……子供みたいな嫉妬心だろ? 周りは僕の事を勝手に英雄だなんだと祭り上げるが、そんな小さな事でも嫉妬してしまう男なんだよ」
部屋に静かな笑いが広がった。女武闘家は涙を浮かべながらも笑い、ゴブリンスレイヤーは兜の下でわずかに肩を緩めた。
竜騎士の言葉は、皆の心を繋ぐ糸のように優しく、村の外で吹き荒れる雪風を忘れさせるほどだった。この瞬間、三人はただの人間として、互いの弱さを分かち合っていた。
竜騎士が部屋を出ると、他のメンバーも集まっていた。
皆の顔には安堵と疲労が混じり、雪山の戦いの余韻が残る。
女神官が最初に駆け寄り、明るい声で言った。
「目が覚めたのですね、本当に良かったです!」
鉱人道士はにこやかに、竜騎士の肩を軽く叩いた。
「おう! やっとお目覚めか。そこの娘っ子が一晩中お前さんにくっついて泣いておったぞ。あんまり心配かけるでない」
彼は女武闘家の方を向き、からかうような笑みを浮かべた。
竜騎士は女武闘家に視線を向け、優しく言った。
「ああ、君には心配かけたな。ありがとう」
女武闘家は頰を赤らめ、涙ぐみながら答えた。
「そうよ! 全く心配かけて! でも……良かった……」
彼女の声は震え、竜騎士の手をそっと握った。
令嬢剣士は剣を腰に下げ、部屋の隅で腕を組んでいた。
「無事で良かったわ。でも、あの騎士団がゴブリンを操っていたのね……許せない……」
彼女の目は遠くを見据え、ゴブリンに殺された仲間のことを考えていた。過去の痛みが、再び胸を抉る。
蜥蜴僧侶は穏やかな声で口を挟んだ。
「連中の事を蒼天騎士団と申しておりましたな?」
竜騎士は興味を引かれ、尋ねた。
「ああ、何か知っているのですか?」
蜥蜴僧侶はゆっくりと語り始めた。
「拙僧も噂話程度なのですが、前に魔神王の配下のデーモンが都の内部まで大量に侵入した事がありまして、その時に突如、現れたのが十二人の蒼天騎士団と言われております。たった十二人で百体以上のデーモンを倒したとか……」
その時、妖精弓手が診察室から現れて、明るく声を上げた。
「意識戻ったんだ! 良かったわ! これ薬貰って来たからちゃんと飲んでね!」
彼女は薬とコップを竜騎士に渡し、廊下の椅子に座った。
竜騎士は薬を飲みながら、皆の顔を見回した。
苦い味が口に広がるが、仲間たちの存在がそれを和らげる。
妖精弓手は続けた。
「さっきの話、私も聞いたわ。あの騎士団一人一人は金等級以上って言われていて、半信半疑だったけど、アイツら強いわ……」
ゴブリンスレイヤーは無表情のまま、部屋の入口に立っていた。
「それでどうする? もう一度行くのか?」
竜騎士は薬を飲み終え、コップを置いて答えた。
「いや、一度戻ろう。彼等は規律を重んじる。流石に村を襲ったりとかはしないだろうし、きっとまた出会う事になるさ……」
妖精弓手は明るく手を叩き、皆の顔を見回した。
「それじゃあ! 帰ろうか!!」
一行はようやく安堵の息をつき、雪山の麓の村を後にした。
竜騎士と女武闘家は手を取り合い、互いの温もりを確かめ合うように歩く。
女武闘家は竜騎士の手に指を絡め、ふと尋ねた。
「水の街に罪喰いの報告、行かなくていいの?」
竜騎士は優しく笑い、頷いた。
「大丈夫だよ。さっき、ちゃんと報告書を手紙で書いて出したから。一緒にみんなと帰ろう」
一行は辺境の街に戻っていった。旅の疲れを癒すように、馬車に乗り道を進む。
道中、皆は静かに語り合い、戦いの余韻を振り返った。
数日後、辺境の街のギルドに戻ると、受付嬢が一行を出迎えた。彼女は竜騎士の姿を見つけ、すぐに声を掛けた。
「お帰りなさい。お疲れのところ、申し訳ありませんが、応接室に来て頂けますか?まずはあなたから」
竜騎士が部屋に入ると、受付嬢と監督官が待っていた。
部屋の机の上に書類が並び、厳かな雰囲気が漂う。
受付嬢が微笑みながら切り出した。
「面接をするんですけど、実は昇格の話が来ておりまして。あなたには特例で銀等級にする様に、上から話が来ております」
竜騎士は目を丸くした。
「え?」
確かに、同じ等級の冒険者よりはそれなりの働きをした自信はあるが、まさか飛び級をするのは想定外だった。
異世界の英雄として、多少の力はあったが、ギルドの規律は厳しいはずだ。
受付嬢は続けた。
「貴方の相方さんも、この後にお話しますが、銅等級に昇格ですよ! 凄いですね」
竜騎士は驚きを抑え、尋ねた。
「理由は何ですか?」
監督官が書類をめくりながら答えた。
「大司教様からの御推薦だと聞いております」
竜騎士は心の中で頷いた。剣の乙女様からか……。
罪喰いの事か、それとも追加の報告に書いた、蒼天騎士団の事だろうか?
竜騎士は新しい認識票を手にした。銀等級の輝きが、掌に重く感じる。
このペースで昇級するのは、英雄か勇者くらいらしい。ギルドの歴史でも稀なケースだ。
応接室を出ると、女武闘家が待っていた。
彼女は銀等級の認識票を見るなり、目を輝かせた。
「凄い!! やったね!」
興奮した声が部屋に響く。
そして、彼女も入れ替わりで応接室に入っていった。
暫くすると、女武闘家も興奮した様子で出てきた。
「私も銅等級に上がったよ! 嬉しい!」
彼女は竜騎士に飛びつき、喜びを分かち合った。
二人は互いの認識票を確かめ合い、笑い合う。
一行が応接室から出てくると、仲間たちがテーブルでくつろいでいた。
妖精弓手は弓を磨きながら、竜騎士と女武闘家に視線を向けた。
「さっき、呼ばれていたけど、なんだったの?」
女武闘家は自慢げに胸を張り、銅等級の認識票を皆に見せびらかした。
「ふふん、これよ! 私、銅等級に昇格したの!」
妖精弓手は目を丸くして立ち上がり、近づいてきた。
「え? 銅等級?! 凄いじゃない! あんなに短期間で……おめでとう!」
女武闘家はさらに得意げになり、竜騎士の腕を引っ張って皆の前に連れ出した。
「彼は銀等級よ! 見て見て、この輝き! 特例だってさ」
彼女の声は自慢たっぷりで、竜騎士は苦笑しながら頭を掻いた。
鉱人道士は杖を地面に叩きつけ、大きな声で笑った。
「おぉ! これは二人ともめでたい! ギルドの歴史に残る昇格じゃぞ。酒でも奢らんとな!」
女神官は手を叩き、目を輝かせた。
「凄いですね! 私も負けてられないです。もっと頑張らなきゃ……おめでとうございます!」
蜥蜴僧侶は斧を担ぎ、穏やかに頷いた。
「これはめでたい! これは金等級や白金も期待出来ますな。拙僧も励みになりますぞ」
ゴブリンスレイヤーは壁にもたれ、無表情のまま一言だけ言った。
「良かったな」
令嬢剣士は剣を握りしめ、静かに微笑んだ。
「おめでとう……。あなたたちなら、当然ね」
妖精弓手は皆の喜びに乗じて、話題を変えた。
「そういえば、今年も終わりだね! 二人はどうするの? 私達はギルドでみんなと騒いで過ごすけど。年越しパーティー、楽しみだわ!」
女武闘家は竜騎士の腕を優しく握り、答えた。
「彼の怪我もあるし、一度村に戻って二人で新年は過ごそうかなって思っています。ゆっくり休みたいわ」
竜騎士も頷き、付け加えた。
「暫く戻っていないし、家も気になるからね。みんなも、良い年越しを」
二人はみんなに「よいお年を」と声を掛け、ギルドを出て自分達の辺境の村へと戻っていった。
街の灯りが背中を照らし、雪の残る道を歩く二人の影は、静かに溶け込んでいった。
ギルド内では仲間たちの笑い声が続き、新たな年の始まりを予感させる。
二人は辺境の村に戻ってきた。
雪の残る道を歩き、二人の家に入る。
綺麗に片付けてはあったが、暫く留守にしていたので、埃が薄く積もり、窓辺に蜘蛛の巣が張っていた。
女武闘家はため息をつき、「まずは掃除ね」と袖をまくり上げた。
竜騎士も頷き、二人は分担しながら作業を始めた。
女武闘家が床や棚を拭き、竜騎士が床下や隅の埃を払う。
時折、協力し合って重い家具を動かし、笑い声が部屋に響く。
女武闘家が竜騎士の背中を軽く叩き、「そっち、もっと丁寧に!」とからかうと、彼は笑って応じる。
家がピカピカになる頃には、午前の陽光が窓から差し込み、温かな空気が満ちていた。
「お腹空いたわね。マスターのところで食べましょうか」
女武闘家が提案し、二人は家を出て酒場に向かった。
村の道は静かで、住民たちが畑仕事や家畜の世話をしている姿がちらほら見える。
酒場に着くと、相変わらずの賑わい。マスターの豪快な笑い声がドアの外まで聞こえてきた。
「よう、二人は村に戻ってきたのかい? じゃあ年越しはこの村で過ごすのかな?」
マスターはカウンターから身を乗り出し、大きな手で二人を迎えた。
竜騎士は笑って頷き、「そうですね。ゆっくりしたいんですよ」
女武闘家の目は、マスターの隣にいる綺麗な女の人にいった。歳は30代半ばくらいの、落ち着いた感じの美女だった。
黒髪を優しく結い上げ、穏やかな笑みを浮かべ、酒場の皿を拭いている。
女武闘家はニヤリと笑い、「マスターも隅に置けないな〜。あの人、誰?」
マスターは大笑いし、肩を叩いた。
「何言っているんだい? お前さん達が助け出した、子供達の母親だろうが?」
竜騎士はびっくりした。
少し前に依頼で訪れた村で、彼女は長年、村の男達の性奴隷にされ、子供を生まされ、二人が助け出した時は骨と皮で老婆のような姿だった。
あの時の彼女は、絶望の影に覆われ、目には光がなく、身体は傷だらけだった。
竜騎士と女武闘家が協力して救い出し、村に連れ帰った後も、長い回復の時間がかかったはずだ。
今、彼女は健康を取り戻し、穏やかな表情で酒場を手伝っている。
子供達も相変わらず元気に走り回り、酒場のテーブルを拭いたり、注文を運んだりしている。
あの時の子供たちは今、笑顔でマスターにじゃれつき、母親の傍で活発に動いていた。
女武闘家は感慨深げに頷き、「本当に……良かったわ。あの時はかなり衰弱していたのに、今はこんなに綺麗で……」
母親は二人の視線に気づき、微笑んで近づいてきた。
「おかえりなさい。あなたたちのおかげで、私たちは今、ここにいられるんです。ありがとう……」
子供の一人が駆け寄り、女武闘家の足に抱きつき、「お姉ちゃん、久しぶり!」と笑う。
竜騎士は胸が温かくなり、子供の頭を撫でた。
「みんな、元気そうで何よりだよ」
マスターはビールを注ぎながら、「さあ、昼飯は俺のおごりだ。年越しもここで賑やかにやろうぜ!」と豪快に笑った。
村の空気は穏やかで、二人はここで過ごす新年を想像し、互いに視線を交わした。この小さな村が、二人の帰る場所になっていた。