※この作品はR-18です。

女武闘家と竜騎士   作:蒼月あお

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北の砦の決戦

エオルゼアにて邪竜と呼ばれし、ニーズヘッグは、四方世界の雪深い山脈の遺跡で目を覚ました。

冷たい石床の上に横たわり、体を覆う鱗が微かに震え、眠りから解き放たれた巨体がゆっくりと動き始める。

目の前に立つ男、緑の月の管理者を名乗るフードの男の言葉が、邪竜の心に響き渡っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

異世界。復活。妹の仇。呪われた血筋。新たな秩序。

邪竜の瞳が、赤く燃えるように輝いた。

低く、雷鳴のような咆哮が遺跡の壁を震わせる。

 

「……許せるか、だと? 愚かな問いだ、ヒトよ」

 

ニーズヘッグの声は、風を切り裂くように鋭く、恨みの炎を宿していた。翼を広げ、遺跡の天井を突き破る勢いで立ち上がる。

 

雪が舞い散り、冷たい風が渦を巻く。

 

「あの血筋……ヒトの裏切り者どもが、再びこの世に生を与えられただと? 妹のラタトスクを謀殺し、俺の目を抉り、千年もの苦痛を与えた奴らの末裔が……」

 

緑の月の管理者は、フードの下で薄く笑った。

影のような存在は動じず、静かに言葉を続ける。

 

「そうだ、ニーズヘッグよ。彼らは今、この世界でも蒼天騎士団と名乗り、教皇トールダンⅦ世を頭に据え、この世界でもイシュガルドという国を築こうとしている。愚にも、この世界のヒトどもは、英雄として彼らを崇め、信仰を広めている。君のいた世界の因縁が、ここで再び繰り返されようとしているのだ。君の恨みは、まだ終わっていないはずだ、この世界を、奴らの血で染め上げるんだ」

 

ニーズヘッグの巨体が遺跡を揺らし、翼が雪を巻き上げる。

邪竜の咆哮が山脈全体に響き渡り、遠くの村や砦にまで届くほどだった。

 

「許せぬ……許せぬぞ! あの血筋が、再び生き、秩序などとほざくなど……! 千年もの恨み、今こそ果たす時だ。ヒトよ、奴らの居場所を教えろ。俺の牙で、奴らを粉砕してやる!」

 

管理者は満足げに頷き、手を差し伸べた。

 

「ならば、導いてやろう。北の砦、そこで奴らは新たな国を夢見ている。君の力で、それを灰に変えろ。ニーズヘッグよ、復讐の炎を燃やせ!」

 

邪竜は翼を広げ、空高く飛び立った。雪山を震わせる咆哮が、異世界の空に轟く。

 

新たな脅威が、蒼天騎士団の野望に影を落とす。

 

 

一方で、竜騎士と女武闘家は、村長から頂いた古びた地図を頼りに、雪の積もった裏山へ向かった。

 

苔の生えた岩の割れ目を押し開くと、隠し通路の入り口が現れた。

冷たい空気が吹き出し、暗闇が二人を飲み込む。

ここは、元々は砦の脱出路として作られた古い通路で、二人は逆に砦に向かって進むことになる。

女武闘家はランタンを掲げ、地図を確かめながら言った。

 

「この通路、湿ってるけど、意外としっかりしてるわ」

 

竜騎士はゲイボルグ・アルテマを構え、周囲を警戒した。

 

「そうだね。でも、音を立てないように。万が一気づかれたら面倒だ」

 

二人は足音を殺して長い通路を抜けた。

 

壁は苔と古い石で覆われ、時折、水滴が落ちる音が響く。

空気は重く、砦の秘密を秘めたような静けさが満ちていた。

 

女武闘家は拳を握りしめると

 

「あのシャリベルという男……絶対に許さない。あの残虐なやり方、信仰の名を借りたただの暴虐よ」

 

竜騎士は頷き、「確かに…ここに来ても、奴等のやり方は変わらない、必ず目的を果たそう」

 

やがて、通路の先に地下倉庫の隠し扉が現れた。

扉は古いレバーで開き、中は暗く埃っぽい。

人の気配はなく、物資の貯蔵庫になっているようだった。

 

木箱や樽が積まれ、食料や武器、布地が詰まっている。竜騎士は周囲を素早く確認しする。

 

「無人だ。砦の備蓄庫か……。ここから内部へ抜けられるはず」

 

二人は倉庫を出ると、砦の内部を目指して走り出した。

階段を上り、薄暗い廊下を進む。

 

巡回の騎士の足音が遠くに聞こえ、二人は影に隠れながら慎重に移動した。

 

竜騎士は頷き、ゲイボルグを握りしめた。

 

「行こう。緑の月の管理者や、騎士団の計画……ここで手がかりを掴むんだ」

 

砦の内部は迷宮のように複雑で、二人は地図を頼りに奥へ進む。

 

巡回の騎士を避けながら、ついに教皇の間に辿り着いた。重い扉を押し開くと、そこは荘厳な部屋があり、壁に戦神ハルオーネの彫像が立ち、絨毯が敷かれ、窓から雪山の景色が広がる。

 

中央の玉座に、トールダンⅦ世が待ち受けていた。白いローブを纏い、杖を握った老人の目は、鋭く輝いていた。

 

「英雄殿か……ワシの首を取りに来たのか? たった二人でか?」

 

トールダンⅦ世の声は低く響き、部屋の空気を震わせた。彼の周囲には蒼天騎士団の気配がなく、まるで二人の到来を予期していたかのように、静かに座っていた。

 

竜騎士はゲイボルグ・アルテマを構え、青白い光を放つ槍の刃先をトールダンに向けた。

 

「前回は不覚をとったが、今回はそうはいかない。ここに来て分かった、やはりお前達とは分かり合えないと。自分達の秩序の為には他者の犠牲を厭わない、そのやり方はやはり間違っている」

 

彼の声は静かだが、決意に満ちていた。村での惨劇、シャリベルの残虐な行為が、胸に焼きついていた。

 

トールダンⅦ世はゆっくり立ち上がり、杖を地面に突いた。

 

「やはり若いな……お主も英雄と呼ばれているなら、色々見てきたであろう。この世界もエオルゼアも同じだ、実に不安定な状態だ。ここの王と会った、強きものではあったが指導者としては周りに流されて絶対的な力はない。だから腐敗を許し、貴族達は増長する。だがワシは違う、戦神ハルオーネの元、絶対的な力を!そして新たな秩序で民を導くのだ」

 

彼の目は遠くを見据え、死後の世界から蘇った者の叡智を湛えていた。

杖の先が光り、部屋の空気が重くなる。

 

女武闘家は拳を構え、竜騎士の横に並んだ。

 

「秩序? それが、あの村の女性たちを焼き殺すことなの? 犠牲を強いるのが、あなたたちの正義? そんなもの、ただの独裁よ!」

 

彼女の声は怒りに震え、スファライ・アルテマの輝きが強まる。女性達の悲鳴と焼け焦げた姿がよみがえり、拳に力がこもる。

 

トールダンⅦ世は静かに笑った。

 

「犠牲は避けられぬ。新世界を築くため、弱き者を切り捨てる覚悟も時には必要だ。お主らは英雄として戦ってきたが、知らぬのか? 真の秩序は、血と争いから生まれるものだ、だからこそ、かつてのイシュガルドは千年の竜詩戦争を戦い抜いてこられたのだ!」

 

彼は杖を掲げ、光の奔流を放つ。部屋が震え、魔法の波が二人に迫る。

 

竜騎士はジャンプで避け、槍を振り下ろした。

 

「所詮は自分達だけの正義ではないか!エオルゼアでも偽りの歴史を知っていながら、それを正そうともせず、竜詩戦争で民を苦しめて来たお前達の好きにはさせない!」

 

槍の刃がトールダンのローブを切り裂き、血が滴る。

女武闘家は横から拳を叩き込み、トールダンの杖を弾き飛ばす。

 

「そんなやり方は間違っている!だから貴方達は負けたのよ!」

 

二人の連携が部屋を駆け巡り、トールダンは後退を強いられる。

教皇は息を荒げ、壁に寄りかかった。

 

「ふふ……この姿ではやはり勝てぬか…なら…」

 

トールダンⅦ世は壁から体を起こし、杖を地面に叩きつけた。

次の瞬間、彼の体が膨張し、蛮神のような巨体へと変貌を遂げる。

白いローブが裂け、巨大化した肉体が部屋を圧倒する。

手に現れたのは聖剣アスカロン、伝説の剣が光を放ち、刃先が空気を切り裂く。

教皇の目は狂気に満ち、声は雷鳴のように響いた。

 

「ワシと蒼天騎士団、十二人相手に、二人でどこまで戦えるかの?」

 

その時、部屋の扉が開き、十二人の蒼天騎士団が教皇の間に駆け込んできた。

 

騎士団長のゼフィランを先頭に、副団長のヴェルギーン、グリノー、シャリベル、アデルフェル、ジャンルヌ、ポールクラン、オムリク、ゲリック、エルムノスト、ヌドゥネー、イニアセル、全員が揃い、厳しい表情で武器を構える。

 

彼らもトールダンに倣い、体を巨大化させ、蛮神のような威容を現す。

鎧が光を帯び、剣や斧、杖が一斉に輝く。部屋の空気が重く張りつめ、戦いの気配が満ちた。

 

竜騎士はゲイボルグ・アルテマを握りしめ、女武闘家と背中合わせに立った。

 

「来るぞ……!」

 

女武闘家は拳を構え、息を飲む。

 

「十二人と教皇……これは、きついわね……」

 

トールダンは聖剣を振り上げ、叫んだ。

 

「新しき秩序の為だ! この世界にはお主の様な英雄は必要ないっ!」

 

蒼天騎士団も一斉に動き、シャリベルが杖を構えて火魔法を放つ。赤い炎の渦が二人に迫る。

 

その時、竜騎士は懐にしまっていたアゼムのクリスタルが光を感じた。

 

クリスタルが熱く輝き、まるで呼びかけるように脈動する。

 

しかるべき星を喚び寄せるという、このクリスタルが、まさかこの異世界で発動するとは…

 

竜騎士は驚きながらも、クリスタルを握りしめ、力を注いだ。

光が爆発的に広がり、部屋を照らす。

 

女武闘家は目を丸くした。「そ、それは何??」

 

竜騎士の前世でもある、アゼムの座を持つ古代人のクリスタル。

そして、その能力はしかるべき時に仲間を呼び出せる力。

時空の扉が今開く…

 

 

シャリベルの炎が迫る中、光の渦から氷の刃が飛び出し、炎を貫いた。

 

ダイヤモンドダスト…凍てつく氷の嵐がシャリベルの魔法を打ち消し、部屋の空気を急激に冷やす。

 

シャリベルは後退し、「あら! 何これ、冷たいわね!」と叫ぶ。

竜騎士は驚きの声を上げた。「ダイヤモンドダスト!?」

目の前には、シヴァ…そう…イゼルだった。

冷たい風を巻き起こす彼女は、静かに立っていた。

 

「再びあなたと共に…戦おう」

 

トールダンは目を細め、聖剣を構えた。

 

「氷の巫女だと? 異世界まで邪魔をするか……面白い」

 

次の瞬間、ゼフィランが大剣を振り下ろし、二人の隙を突こうとした。

 

だが、一角獣の模様の入った盾がそれを防いだ。

 

金属の衝撃音が部屋に響き、ゼフィランは「ぬぅ!まさか、あの男は…」と後退する。

 

盾の主は、オルシュファンだった、鎧を纏った騎士の姿で、静かに剣を構えていた。

 

「我が友よ、今一度共に戦いましょう」

 

竜騎士は盟友のその姿を見た瞬間、目から涙が溢れ出て、槍を握る手が震えた。

 

「まさか…オルシュファン……君が来てくれるなんて……!」

 

オルシュファンは笑顔で「今は泣く時ではありませんぞ、まずは奴等を倒さねばなりません!」

 

アゼムのクリスタルが呼び寄せた仲間たち、かつて竜騎士を護る為にそれぞれ生命を散った二人、イゼルとオルシュファンが、異世界で再び竜騎士の傍らに立つ。

 

部屋の空気が変わり、戦いの天秤が傾き始めた。トールダンは眉を寄せ、聖剣を掲げた。

 

「小癪なっ!クリスタルの力で幻体を呼び出したか!しかし、この異世界では二人が限界か?その程度ではワシらの秩序は揺るがぬ!」

 

蒼天騎士団が一斉に攻撃を仕掛け、部屋は魔法と剣の嵐に包まれる。

 

竜騎士は槍を振り、イゼルとオルシュファンと共に反撃した。

 

「二人とも、ありがとう……一緒に倒そう!」

 

女武闘家も拳を閃かせ、シャリベルに飛びかかる。

 

「今度こそ、許さないわよ!」

 

 

 

教皇の間は、光と影の渦に包まれていた。

 

イゼル…シヴァとして蘇った彼女の姿は、魔大陸アジス・ラーへの向かう途中、ガレマール帝国の戦艦の攻撃から竜騎士達を先に生かせる為に、犠牲になったあの時と同じだった。

 

そして、オルシュファン、教皇庁での戦いで、ゼフィランの魔力の槍から竜騎士を盾で守り、命を落とした盟友。

彼の剣と鎧を構える姿は不屈の意志を体現していた。

 

竜騎士の攻撃に力強さが増す。

ゲイボルグ・アルテマの輝きが増し、青白い光が槍全体を覆い、まるで意志を持ったように脈動した。

 

蛮神化したトールダンⅦ世に向かって突進する。聖剣アスカロンが振り下ろされるが、竜騎士はジャンプで避け、槍を突き刺す。刃が教皇の肩を抉り、血が噴き出す。

 

蒼天騎士団の連続攻撃を弾く。グリノーが巨大化した両手斧を振り回し、竜騎士に襲いかかる。斧の刃が空を切り裂く重い一撃だったが、竜騎士はゲイボルグを回転させて受け止め、反撃に転じる。槍の一撃がグリノーの顔を掠め、血が飛び散る。

 

「くそっ!!」

 

グリノーは後退し、斧を握る手が震えた。

竜騎士の動きは、仲間との絆の力で強化され、速さと力強さを帯びていた。

 

一方、イゼルのシヴァがシャリベルの火魔法を封じる。

シャリベルは杖を構え、炎の渦を放ったが、イゼルの周囲に氷の嵐が巻き起こり、ダイヤモンドダストが炎を凍てつかせて粉砕した。

 

「この地でも貴方達は…同じ過ちを繰り返すのかっ!」

 

イゼルの声にシャリベルは目を細めた。

 

「あら、流石は氷の巫女、アナタも蛮神になるの? 面白いワネ……!」

 

女武闘家のスファライ・アルテマの拳が空を切り、イゼルに気を取られいた、シャリベルの腹部に直撃。

 

衝撃波が彼を吹き飛ばし、壁に叩きつけられる。

 

「こ、この小娘がっ!!」シャリベルは血を吐き、杖を握りしめて立ち上がったが、動きが鈍い。

 

女武闘家は息を弾ませ、拳を構え直した。「あんたは絶対に許さないわよ!」

 

オルシュファンはゼフィランと対峙していた。

 

大剣を構えるゼフィランが突進し、剣を振り下ろすが、オルシュファンの盾がそれを完璧に防ぐ。金属の衝突音が部屋に響き、火花が散る。

 

「ゼフィラン卿……君も竜詩戦争の真実を知るものなら、教皇が間違っている事は分かっているはずだ!」

 

オルシュファンの声は静かだが力強い。

 

ゼフィランは歯噛みし、「黙れ……教皇猊下は絶対だ!」と反撃を仕掛けるがオルシュファンの剣が彼の肩を斬りつける。

 

部屋は戦いの嵐に満ち、蛮神化した騎士団の咆哮と魔法の爆音が響く。

 

トールダンⅦ世は聖剣を掲げ、光の奔流を放つが、竜騎士の槍とイゼルの氷がそれを相殺する。

 

女武闘家はシャリベルを、オルシュファンはゼフィランを相手に戦いを続け、徐々に優勢を握り始めたかに見えた。

 

しかし……

 

オルシュファンがゼフィランの大剣を盾で受け止め、火花が散る中、突然横から新たな影が飛び出した。

 

蒼天騎士のポールクラン、フォルタン家に仕えていたが、素行の悪さで家を追放された男が、槍を構えてオルシュフォンを狙い、彼に対して。

 

「フォルタン家の犬がっ! ブッ刺しちまうぞ!」

 

彼の声は恨みに満ち、槍の刃が風を切り裂く。

 

オルシュファンは一瞬の隙を突かれ、体勢を崩した。

だが、竜騎士が咄嗟に飛び込み、ゲイボルグ・アルテマでポールクランの槍を弾いた。

 

金属の悲鳴が響き、二本の槍がぶつかり合う。

 

竜騎士は歯を食いしばった。

 

「オルシュファン……大丈夫か?」

 

ポールクランは舌打ちし、後退しながら笑った。

 

「お前か、英雄……邪魔だぜ!」

 

 

 

 

一方、シャリベルは杖を振り、ニヤリと笑った。

 

「いいですね、おフタリさん! アタシに合わせなサイ!」

 

彼の声は同じ魔術師の蒼天騎士である、ヌドゥネーとオムリクが即座に応じた。ヌドゥネーが「承知した!」と低く答え、オムリクが「チッ、仕方あるまい……」と舌打ちしながら杖を構える。

 

三人の魔道士の魔法が一斉に女武闘家を狙った。

 

女武闘家はスファライ・アルテマを構え、身を低くしたが、イゼルのシヴァ姿が前に出て、氷魔法で迎撃した。ダイヤモンドダストの嵐が三人の魔法を凍てつかせ、迎撃する

 

しかし、数の差が徐々に竜騎士たちを追い詰めていく。

 

蒼天騎士団の十二人が蛮神化した巨体で攻め立て、部屋の壁が崩れ始める。

 

グリノーの斧が床を割り、ヴェルギーンの槍が空を切る。

 

竜騎士はゲイボルグを振り回し、ポールクランとグリノーを同時に弾くが、背後にアデルフェルとジャンルヌの影が迫る。

 

「このままじゃ……持たない!」

 

オルシュファンも援護に向かうとするが、他の蒼天騎士に阻まれて先に進めない。

 

「友よ、諦めるな……!」

 

イゼルも氷の嵐を放ち続けるが、三人の魔道士の魔法が彼女の防壁を溶かし始める。

 

トールダンⅦ世は聖剣アスカロンを掲げ、笑った。

 

「見ろ、 これが我々の正義の力だ!」

 

竜騎士達は追い詰められる。女武闘家は竜騎士の背中を守り、拳を握りしめた。

 

「まだ……終わらない…」

 

だが、騎士団の波状攻撃が続く

 

ゼフィランが竜騎士より少し離れた場所から、魔力を込めた槍で狙いを定める。

 

教皇庁の時と違い、オルシュファンは他の蒼天騎士に阻まれている。

今回は邪魔はいない。

ゼフィランの魔力が槍状の光の奔流が形成される。

 

「喰らえっ!スピア・オブ・ハルオーネ!」彼の声は冷徹で、槍を竜騎士に放つ。

 

光の軌道が空を切り裂き、回避の隙を与えない。

 

オルシュファンが気づき、「友よ!」と叫ぶが、間に合わない。

イゼルも氷の嵐を放ちながら三人の魔道士に押され、女武闘家も助けに入れない。

 

トールダンⅦ世と戦闘中の竜騎士は途中で異変に気づき、振り向いた時には回避不能だった。

光の槍が彼の胸を狙い、迫る。

 

その瞬間、聖壁(プロテクション)との声が響き、光の壁が魔法の槍を防いだ。

 

障壁が現れ、ゼフィランの攻撃を弾き返す。

槍の衝撃が部屋を震わせ、火花が散る。竜騎士は目を丸くし、振り向いた。

 

「これは……!」

 

そこにいたのは女神官だった。杖を構え、息を切らしながらも決意の目で立っていた。

 

「間に合いました……! みんな、無事でよかった……」

 

彼女の声は優しく、しかし強く響く。

 

プロテクションの光が部屋を照らし、蒼天騎士団の動きを一瞬止めた。

 

副団長のヴェルギーンが女神官に向かい、槍を構えて突進した。

 

「まさか伏兵がいたとは…」

 

彼の槍が振り下ろされるが、突然、横から火炎瓶が飛んできて当たり、燃え上がった。

 

炎がヴェルギーンの甲冑を包み、熱気が広がる。

 

「ぐあっ!」

 

彼は後退し、槍を振って炎を払おうとするが、オムリクの氷魔法が即座に反応し、ヴェルギーンの体を凍てつかせて炎を消した。

 

ヴェルギーンが振り向くと、煙の向こうに影が立っていた。

 

「やはり、あの時の男か……」

 

彼の声は低く、その先にいたのはゴブリンスレイヤーだった。兜の下の視線が冷たく、無表情に剣を構える。

 

そして、もう一人、妖精弓手の矢がシャリベルに放たれた。

 

不意を突かれたシャリベルは、杖を構え直す間もなく、肩に矢が射抜かれる。

鋭い痛みが走り、赤い血が白いローブを染めた。

 

「伏兵なの? 油断しタワッ!!」

 

シャリベルは歯を食いしばり、杖を振り上げて反撃を試みたが、体勢が崩れ、魔法の詠唱が遅れる。

 

その時の隙を女武闘家は見逃さなかった。彼女の目は鋭く、スファライ・アルテマがエーテルに反応して青白く輝き始めた。

 

拳に力が集中し、女武闘家はシャリベルの腹部に向かって突進した。

一撃が直撃し、シャリベルの体が折れ曲がる。

 

「ま、まさか、こんな小娘に……」

 

シャリベルは血を吐き、杖を落として膝をついた。

倒れ、息絶える寸前まで信じられない表情を浮かべていた。

 

女武闘家は息を荒げ、倒れたシャリベルを見下ろした。

 

「敵は取ったからね……」

 

彼女の呟きは低く、村の惨劇を思い浮かべる声だった。

 

過去の自分を重ね、拳をゆっくりと解く。

 

鉱人道士や蜥蜴僧侶も駆けつけていた。

 

鉱人道士は黒蝗の王 (パズズ)よ、太陽の子よ、恐れと怖れを従えて、風に乗りて参られよ!」

その言葉が終わるや否や、鉱人道士の周囲に黒い霧が渦巻き、無数の蟲の影が現れた。グリノーに向かって恐怖 ( フィアー)の魔法が発動し、幻影の蟲たちが彼の周りを包囲する。

 

無数の蟲が脚を這い、羽音が耳を劈く。グリノーの巨体が一瞬硬直し、幻影の蟲が皮膚を食い破るような痛みが襲う。

 

「くそっ! こんな蟲如きに……!」

 

グリノーは咆哮を上げ、巨大な斧を振り回した。瓦礫を蹴散らし、空気を切り裂く一撃が幻影を薙ぎ払うが、蟲たちは散らばり、再び集まる。幻影なのに、痛みは本物のように心を蝕む。

 

その瞬間、上空から影が落ちてきた。竜騎士がジャンプし、ゲイボルグ・アルテマを握りしめ、グリノーの肩口に向かって槍を突き刺す。

 

青白い光が閃き、槍の先端がグリノーの甲冑を貫通する。血が噴き出し、グリノーの体がよろめく。

 

「ぐっ……幻影かっ! 貴様、ミンチにしてやる!」

 

グリノーは痛みを堪え、斧を振りかざした。竜騎士に向かって斧が振り下ろされるが、竜騎士は素早く身を翻し、避ける。

斧の刃が地面を抉り、石畳の瓦礫が飛び散る。

 

今度は、蜥蜴僧侶は竜牙兵たちを召喚し、武器を構えグリノーを包囲する。

 

「また幻影かっ! 惑わされんぞ!」

 

グリノーは無視して突き進んだ。

 

次の瞬間、竜牙兵の一体がグリノーの脇腹に剣を突き刺す。血が噴き出し、痛みが本物だったことに気づく。

 

「ば、馬鹿なっ!」

 

次々と竜牙兵がグリノーの身体を突き刺す。

 

グリノーの巨体が膝をつき、斧が地面に落ちる。体が傾き、地に倒れ伏す。

息が荒く、目が虚ろになる中、最後の力で睨みつけるが、力尽きた。

 

竜騎士は槍を構えたまま振り向き、鉱人道士を見た。鉱人道士は倒れたグリノーに向かって、嘲るように言った。

 

「油断するからじゃい。幻影に惑わされ、本物を無視するとはのう」

 

蜥蜴僧侶は周囲の戦場を見回し、息を整えながら言った。

 

「まだ、教皇と十人の騎士が残っております。一気に攻めましょうぞ」

 

オムリクは杖を構え、イゼルに向かって氷魔法を放った。青い氷の刃が空を切り裂き、シヴァの化身を狙う。

 

「いくら氷神だろうと!これで凍てつかせてやる!」

 

魔法の波が部屋を冷やした。

 

しかし、シヴァの姿のイゼルは静かに微笑んだ。

氷の刃は彼女の体に触れるやいなや、逆に増幅され、オムリク自身に返ってきた。

 

氷の嵐が彼を包み込み、体が急速に凍てつき、ガラス細工のように砕け散った。

 

「こ、こんな……!」

 

オムリクの最後の言葉は、氷の破片とともに消えた。

 

一方、オルシュファンはポールクランの槍を盾で受け止め、反撃に転じた。

剣が弧を描き、ポールクランの胸を貫く。

 

「フォルタン家の……汚点が何故……!」ポールクランは血を吐き、膝をついて倒れた。

 

オルシュファンは剣を収め、低く呟いた。

 

「私は家や名誉の為だけに戦っているのではない……君もそれが理解出来ていたら良き友になれたのであろうな…」

 

副団長のヴェルギーンは、混戦の中でゴブリンスレイヤーと対峙していた。

 

ヴェルギーンは槍を構え、兜の男を睨みつけた。

 

「君の噂はこの地にも轟いているよ、小鬼殺し」

 

ゴブリンスレイヤーは黙っていた。

兜の中の表情は読み取れない。ただ、剣を握る手が微かに動くだけだ。無言の圧力が、部屋の空気を重くする。

 

ヴェルギーンは槍を軽く回し、続けた。

 

「あの砦の雪崩の判断、見事だ。君の実直な戦い方、そして咄嗟の判断力、素晴らしい。実力的にはまだ荒削りだが、今の蒼天騎士団に無いものを君は持っている。どうだ? ゴブリンなどではなく、この世界の為に共に戦わないか? 私は君を評価しているのだよ」

 

ゴブリンスレイヤーはようやく口を開いた。

 

「ゴブリンは女を拐って数を増やし、村を滅ぼす」の一言だけ。

 

兜の下から漏れる声は、感情を欠いた鋼のような響きだった。ゴブリンの脅威だけが、彼の全てを定義する。

 

ヴェルギーンはため息をつき、肩をすくめた。

 

「そうか……惜しいな……」

 

彼の表情が硬くなり、槍を構えた。

 

次の瞬間、二人は激しく激突した。剣と槍がぶつかり、火花が散る。

 

 

その時だった……大地を震わせる様な、竜の咆哮が轟く。

 

教皇の間全体が振動し、壁の石が完成に崩れ落ち、外の雪風が部屋に吹き込み、二人は体を低くして耐えた。

 

トールダンⅦ世は玉座から外に見える竜を見つめてた。

 

巨大な竜が憎しみの炎を燃やして現れた。

空を覆うほどの翼を広げ、瞳が怒りの炎を宿す。砦の街の人々はその竜の姿に恐怖した。

 

通常のドラゴンとは比べ物にならない程の巨大な姿は、爪の一振りで家屋を粉砕し、尾の掃討で人々を吹き飛ばす。

 

街はパニックに陥り、住民たちの悲鳴が雪の大地に響き渡った。

 

竜騎士のいた世界で七大天竜と呼ばれし竜の一翼、邪竜ニーズヘッグ、千年もの恨みを抱え、異世界に蘇った復讐の化身。

 

ニーズヘッグの咆哮が再び轟き、口から吐き出されるブレスが街を焼き払う。

炎の奔流が建物に当たり、木造の小屋が溶け、火の海と化す。

極寒の大地が一瞬で灼熱の地獄に変わり、逃げ惑う人々が炎に飲み込まれた。

 

騎士団が剣を持ち、ニーズヘッグに向かうが、巨大な爪が切り裂き、人々を踏み潰して行く。

 

更に別の騎士たちが槍を構えて突進するが、ニーズヘッグの翼の一振りで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

ブレスは建物を溶かして、街の中心部を灰に変える。

砦の壁が崩れ、住民たちの絶望の叫びが空に吸い込まれた。

 

トールダンは崩れた教皇の間の壁跡からニーズヘッグが現れた事を知る。

窓から見える巨大な影に「邪竜まで呼び寄せたと言うのか……あの男は……!」

 

邪竜ニーズヘッグは、崩壊した砦の最上階に降り立ち、瞳を憎しみのの炎に燃やしながら教皇トールダンⅦ世を睨みつけた。

 

巨大な翼を広げ、風を巻き起こして教皇の間へと飛ぶ。

 

部屋の壁がさらに崩れ、雪と瓦礫が舞い上がる。

ニーズヘッグの咆哮が部屋を震わせ、口を開けた瞬間、黒い炎のブレスが吐き出されそうになった、すべてを焼き払う、復讐の業火。

 

その時、ゴブリンスレイヤーは兜の下で瞬時に判断を下した。

懐からスクロールを取り出し、発動させる。

紙が光り輝き、空間が歪む、海の底と繋がっており、一気に海水が雪崩れ込んだ。

轟音とともに、水の奔流が部屋を埋め尽くす。

海水が砦全体を飲み込み、ニーズヘッグの巨体を押し流し、トールダンⅦ世や蒼天騎士団の騎士たちも水の渦に巻き込まれ、蛮神化した体躯が流される。

 

街の方まで水が流れ、建物や道は水浸しになるが、住人の被害は無さそうだった。

 

妖精弓手は目を丸くし、怒りを露わにした。

 

「オルクボルグ! 何やってんのよ、そんな無茶な……! みんな巻き込まれるじゃない!」

 

彼女の弓が震え、水の奔流を睨む。

 

オルシュファンは静かに首を振り、水の流れを避けながら言った。

 

「いや、この場合はあれでいい。あの邪竜を止めるには、有効な手段だ」

 

妖精弓手はオルシュファンを振り返り、目を細めた。「貴方は? 森人らしいけど……?」

 

オルシュファンは竜騎士の方を向き、顔の表情をわずかに緩めた。

 

「私は彼と同じ世界の人間だ、エレゼン族だ。……彼の力によって、呼ばれたんだ。友を助けるために」

 

彼の言葉に、妖精弓手は驚きを隠せなかったが、頷いた。

 

「へえ……異世界の仲間か。まあ、助かったわよ」

 

鉱人道士は杖を地面に突き、濡れた体を震わせながらニヤリと笑った。

 

「しかし仕方ないとはいえ、無茶をしよるな……かみきり丸…」

 

水の流れが収まり始め、砦の残骸が露わになる中、生き残った仲間たちと合流した。

 

 

 

 

砦の街は、海水の奔流が収まった後、泥と瓦礫の海に変わっていた。

雪が溶け、崩れた建物が水に浮かび、生き残った住民たちが呆然と立ち尽くす中、イゼルはシヴァの姿から元の人間の姿に戻り、皆と合流した。

 

青白い光が収まり、彼女の長い髪が風に揺れる。

息を切らしながら、竜騎士の傍らに立つ。

 

女武闘家は目を丸くし、彼女の姿を指さした。

 

「さっきの姿は……あれは何だったの? 氷の女神みたいだったけど……」

 

彼女の声は驚きに満ち、戦いの余熱が残る体が震えていた。

 

イゼルは優しく微笑み、髪を耳にかけた。

 

「自らを依代として蛮神を呼び出せるの……あまり使うべきではないのだろうけど……」

 

彼女の目は疲労を隠しきれず、竜騎士を見つめる視線が優しかった。

 

「貴方はあの人の恋人なのね……見てて分かったわよ」

 

イゼルは女武闘家に視線を移し、くすっと笑った。

 

しかし、イゼルの表情がすぐに引き締まった。

 

「しかし、ニーズヘッグはあの程度ではやられないわ……海水で流されたくらいで、止まるはずがない……」

 

遠くで、邪竜の咆哮が低く響き、巨大な影が再び動き始めた気配がした。

 

その時、流されて砦の外に出されたトールダンⅦ世と蒼天騎士団の生き残りが、泥だらけの体を起こした。

ただ、蛮神の姿ではなく、本来のヒトとしての姿に戻っていた。

トールダンはローブを払い、杖を突きながらゆっくり立ち上がり、ゼフィランやヴェルギーン、アデルフェル、ジャンルヌ、ゲリック、エルムノスト、ヌドゥネー、イニアセルらが続いた。

 

神の力が失われ、巨大化の余韻が消え、皆が疲弊した人間の姿に戻っていた。

トールダンは竜騎士たちに視線を向け、低く言った。

 

「英雄殿との戦いで力を使い果たし、神の力を失った……我々は負けを認めよう。だが、あやつを討ち取らねば、世界を憎しみの炎で焼き払うだろう……ここは奴を倒してはくれぬか……」

 

彼の声は弱々しく、もはやかつての威厳は残っていなかった。

 

ゼフィランは眉を吊り上げ、大剣を握りしめた。

 

「教皇猊下……何を、例え力を失い数名欠けようと、我々、蒼天騎士団がおるではないですか! 戦い続けましょう!」

 

彼の目はまだ燃え、騎士の誇りが揺るがなかった。

 

しかし、トールダンⅦ世はへたり込んで動くことすら出来なかった。

 

ヴェルギーンもゴブリンスレイヤーに向き、槍を構えた。

 

「小鬼殺しよ、我等の最後の戦いを見届けてはくれないか……。君の目で、蒼天騎士団の生き様を…」

 

ゴブリンスレイヤーは無言で兜を傾け、剣を構えた。

 

「ああ……分かった」

 

一言だけ返した。彼の視線は冷たく、戦いの準備を整える。

 

残りのアデルフェル、ジャンルヌ、ゲリック、エルムノスト、ヌドゥネー、イニアセルも立ち上がり、武器を握った。皆の顔には疲労が浮かぶが、目には決意が宿っていた。

 

イゼルは目を丸くし、彼らを見つめた。

 

「まさか、お前らテンパート化(洗脳)解けて……いるのか? あのトールダンの神の力が失われた事により……」

 

彼女の声は驚きに満ち、かつての敵が今、変わった姿を見せていた。

 

ゼフィランは皆を振り返り、静かに言った。

 

「我々、蒼天騎士団は本来の役目を果たす時だ。あとは頼んだ……」

 

彼はニーズヘッグに向かって走り出した。

騎士団の生き残りたちは一列に並び、剣や斧、杖を構えて邪竜に立ち向かっていった。

 

砦の街の住人たちは、蒼天騎士団の登場に歓喜をし、声援を送った。

 

「英雄たちが来た!」「蒼天騎士団、万歳!」

 

崩れた壁や瓦礫の上で、人々が手を振り、希望の光を見出した。

 

しかし、蛮神化していない彼等ではニーズヘッグに対抗する力は残っていなかった。

 

ニーズヘッグの爪が一振りされ、騎士の一人が吹き飛ばされる。

ブレスが吐き出され、もう一人が焼き払われる。一人また一人と、ニーズヘッグに倒されて行く。

 

ヴェルギーンの槍が邪竜を突き刺すが、邪竜の爪で肉体が引き裂かれた。

 

ゼフィランの大剣がドラゴンの鱗を傷つけるが、反撃の尾の一撃で地面に叩きつけられ、邪竜の顔がゼフィランの前に現れる。次の瞬間、邪竜に噛み砕かれ、剣を必死に最後の力で、刺そうとするが、厚い鱗の前では無力だった。

 

竜騎士は彼等の戦いを見て、静かにゲイボルグを構えた。

 

仲間たちは頷き、邪竜に向かって進む。

 

ニーズヘッグの咆哮が、砦の廃墟を震わせた。

 

巨大な翼が風を巻き起こし、雪と瓦礫を舞い上げながら、邪竜は蜥蜴僧侶の方を向いた。

 

竜の瞳が彼を捉え、低く響く声が皆の耳を貫く。

 

「貴様、竜でありながらヒトに媚を売るのか?」

 

蜥蜴僧侶は首を傾げた。ニーズヘッグの言葉の意味がよく分からず、穏やかな声で答える。

 

「拙僧は自分の意志でここに立っておりますぞ。決して媚び売ったりはしておりませぬぞ。ただ、仲間と共に戦うのみですな」

 

彼の目は純粋で、ニーズヘッグの威圧にも動じない。

 

ニーズヘッグは嘲るように鼻を鳴らし、翼をわずかに震わせた。

 

「貴様が真の力に目覚め、竜の力を得る時、小賢しいヒトはお前のその力を利用し、手に入れようとするであろう。奴らは常にそう……裏切り、奪い、滅ぼす。貴様のような竜が、ヒトの側に立つなど、愚かなことだ」

 

邪竜の声は恨みに満ち、千年もの復讐の炎を宿していた。

 

妖精弓手は弓を構え、声を張り上げた。「そうよ! そんな事は私達がさせないわ! そうなったとしても、絶対に守るわよ!」

 

ニーズヘッグはさらに咆哮をあげ、巨大な体を揺らした。

 

「そうか……ならば、聞け……ヒトと、ヒトに与する竜よ! 次にとどろく竜の咆哮は、最後の戦を告げる合図……貴様らのすべてを、宿怨の炎で焼き尽くしてくれる。恐れ、嘆き、絶望せよ。それらすべてを蹂躙してこそ、我が怒りも晴らせよう……!」

 

ニーズヘッグの翼が広がり、空を覆う影が街に落ちた。

 

口から黒い炎のブレスが漏れ始める。

 

女武闘家は拳を握り、女神官は杖を掲げ、ゴブリンスレイヤーは剣を抜く。イゼルは再び氷の光を纏い、オルシュファンは盾を構えた。鉱人道士は魔法を準備し、蜥蜴僧侶は武器を振り上げ、妖精弓手は矢を番える。

 

 

だが、竜騎士は皆を静止する。

 

 

崩れた砦の瓦礫の上で、ゲイボルグ・アルテマを握りしめ、仲間たちに向き直った。

息を切らした女武闘家が拳を構えようとするのを、手を挙げて止める。

 

「待ってくれ。ここからは僕が一人でやる。それは仮にも蒼の竜騎士を名乗る僕の役目だからだ」

 

仲間たちは一瞬、動きを止めた。女武闘家は目を丸くし、「何言ってるの? 一人でなんて、無茶よ! みんなで一緒に……!」と声を上げた。

 

ゴブリンスレイヤーは兜の下で無言のまま剣を構え、女神官は杖を握りしめて心配げに竜騎士を見つめる。

 

イゼルは静かに見守り、オルシュファンは盾を下ろして静かに待った。

 

妖精弓手は弓を緩め、「あんた一人じゃ……!」と叫ぶが、竜騎士の目は揺るがなかった。

 

 

この世界には本来の蒼の竜騎士である、エスティニアンはいない。

だが、自分も竜騎士の試練を受け、蒼の竜騎士となり、彼と対等に相棒と呼ばれるまでになった。

あのエオルゼアでの戦い、ニーズヘッグとの因縁、それはエスティニアンの宿命だったが、この異世界で再び蘇った邪竜と対峙するのは、僕の宿命なのであろう……。

 

竜騎士は心の中でそう思い、ゲイボルグの青白い光を強く輝かせた。

 

「みんな、ありがとう。ここまで来てくれただけで、充分だ。ニーズヘッグの恨みは、僕のいた世界のもの。この戦いは、僕が終わらせる」

 

女武闘家は唇を噛み、拳を震わせた。「でも……!」しかし、竜騎士の決意の目に、彼女は言葉を飲み込んだ。

 

ゴブリンスレイヤーは剣を収め、無言で頷いた。

 

「……わかった」

 

女神官は祈るように杖を握り、「気を付けて……無事に戻ってきてくださいね」

 

イゼルは優しく微笑み、「あなたなら、きっと…」

オルシュファンは盾を叩き、「友よ、勝利を」

 

仲間たちはそれぞれの想いを込めて、竜騎士を見送った。

 

竜騎士は一人、ニーズヘッグに向かって走り出した。崩れた街の瓦礫を跳び越え、雪と炎の混じった大地を駆ける。

 

ドラゴンの咆哮が再び響き、巨大な影が彼を睨む。

 

「愚かな竜騎士よ……貴様を殺してヒトを根絶やしにする!」

 

ニーズヘッグの声は恨みに満ち、翼を広げてブレスを吐き出そうとした。

 

竜騎士はゲイボルグを構え、ジャンプで高く飛び上がり、ドラゴンの首筋を狙う。

 

竜騎士とニーズヘッグの一騎討ちは熾烈を極めた。

 

崩壊した砦の瓦礫の上、雪と炎の混じった大地で、二つの影が激しくぶつかり合う。

 

ニーズヘッグの巨大な翼が風を切り、咆哮が空を震わせる中、竜騎士はゲイボルグ・アルテマを握りしめ、ドラゴンの首筋を狙ってジャンプした。

青白い光の軌道が弧を描き、槍の刃がニーズヘッグの黒い鱗を貫く。

 

「ぐおおおっ!」

 

邪竜の断末魔のような叫びが響き、血が噴き出す。

槍の刺さったニーズヘッグは首を振りながら、竜騎士を振り落とそうとする。

 

巨体が暴れ、尾が大地を抉り、翼が雪を巻き上げる。

 

竜騎士は槍の柄を両手で握りしめ、渾身の力を込めて押し込んだ。

筋肉が悲鳴を上げ、体が限界を訴えるが、彼の目は揺るがなかった。

 

槍の輝きが増し、青い光が邪竜の体を侵食するように広がる。

 

 

 

 

女武闘家はその様子をじっと見ていた。

仲間たちと少し離れた瓦礫の陰から、竜騎士の背中を凝視する。

 

村でのゴブリン襲撃、二人で巣穴に潜った事、数々の依頼をこなしながら、いつの間にか彼を愛していた事、何故か涙が出て来た。

 

最初はただの相棒だった彼が、いつの間にか心の支えになり、笑顔を分かち合う存在になった。

あの温かな手、優しい声、戦いの後の安堵の抱擁……。

ずっと、これからも一緒にいると信じていた彼が居なくなりそうな気がして、胸騒ぎが止まらない。

涙が頰を伝い、拳を握る手が震えた。

 

「お願い……無事でいて……」

 

そんな時、オルシュファンが女武闘家の隣に来て話しかけた。

彼の鎧が雪に映え、盾を下ろした姿は穏やかだった。

 

「大丈夫ですよ。彼は貴女を残して行ったりしませんよ」

 

オルシュファンは優しく微笑みかけた。目には、友を思う温かさがあり、女武闘家の心を少し和らげた。

 

「あの男は、強い。君のような大切な人がいる限り、絶対に負けない…」

 

女武闘家は涙を拭き、オルシュファンの言葉に頷いた。

 

「ありがとう……。彼を、信じる…」

 

二人は竜騎士の戦いを見守り、ニーズヘッグの巨体がゆっくりと崩れ落ちるのを待った。

 

邪竜の最後の咆哮が響き、槍が深く刺さる音が響く、戦いの結末が、近づいていた。

 

ニーズヘッグの巨体が、ついに大地に倒れた。

黒い鱗が雪に埋もれ、翼が折れ曲がり、瞳から最後の光が消える。

 

千年もの恨みを宿した邪竜の体は、静かに沈み、砦の廃墟に巨大な影を落とした。

 

竜騎士はゲイボルグ・アルテマを地面に突き立て、息を荒げながらゆっくりと立ち上がった。

体は傷だらけで、青白い光が槍から弱々しく漏れていたが、勝利の余韻が彼の目を輝かせた。

 

仲間たちの元に駆け寄ると、皆が安堵の笑みを浮かべた。女武闘家は彼に飛びつき、強く抱きしめた。

 

「生きてて……よかった、本当に……!」

 

彼女の声は震え、涙が頰を伝う。

 

女神官は杖を握りしめ、「無事で良かった……!」と祈るように呟き、妖精弓手は弓を下ろして拳を握った。

 

「やったわよ! あんた、すごい……!」

 

鉱人道士はニヤリと笑い、「おう、よくやった!」

 

蜥蜴僧侶は斧を担ぎ、「これは見事な戦いでしたな」と頷く。

 

イゼルは優しく微笑み、オルシュファンは喜び、「勝利だ……友よ」

 

竜騎士は皆の顔を見て、笑みを浮かべた。「みんな、ありがとう……君たちのおかげだよ。一緒に戦ってくれて、本当に……」

 

勝利の喜びが響き、皆が互いの肩を叩き合い、笑い声が響く。

 

 

ただ一人を除いて。

 

教皇トールダンⅦ世は、倒れたニーズヘッグを見ていた。

 

蛮神の力が失われ、老人の姿に戻った彼は、血まみれのローブを纏い、杖を握りしめてゆっくりと近づいた。

 

皆の喜びの声が遠くに聞こえる中、彼の目は狂気に満ち、邪竜の巨大な体を睨みつける。

 

「……まだ、こやつの目がある…」低く呟き、杖を掲げた。

 

残された全ての魔力を集中し、ニーズヘッグの目に注ぐ。

青い光の奔流が教皇の手から迸り、邪竜の瞳を抉り取るように吸収される。

 

ニーズヘッグの目が光り、トールダンの体に取り込まれ、老人の体が震えた。

 

竜騎士は異変に気づき、目を瞠った。

 

「トールダン……まさかっ!」

 

彼の声に皆が振り返る。教皇の体が膨張し、邪竜の力が流入する。

 

しかし、その時だった。後ろからゴブリンスレイヤーが、無言で剣を突き刺した。

兜の下の視線が冷たく、剣の刃がトールダンの心臓を正確に刺し貫く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

血が噴き出し、教皇の体が前のめりに倒れた。

杖が転がり、魔力の奔流が途切れ、ニーズヘッグの目から光が消える。トールダンは最後の息で呟いた。

 

「……何故…ワシの行動が分かった…」そして、動かなくなった。

 

ゴブリンスレイヤーは、剣を抜くと一言だけ言った。

 

「お前が何かする事は予想出来た、それだけだ…」

 

兜の隙間から漏れる視線は、ただの敵を倒したという冷徹なものだった。

皆が息を飲む中、彼は剣を拭き、鞘に収めた。

 

 

妖精弓手は息を吐き、「オルクボルグ……本当に、容赦ないわね……」

 

竜騎士はゴブリンスレイヤーに視線を向け、感謝の言葉を呟いた。

 

「助かった、あのまま竜の目の力で復活されていたら…」

 

ゴブリンスレイヤーは無言で頷き、皆の輪に加わった。

 

砦の街は廃墟と化したが、生き残った人々が集まり始めていた。

ニーズヘッグの脅威は去り、蒼天騎士団の野望は潰えた。

 

 

 

 

全て終わり、瓦礫の山が残る中、竜騎士はゴブリンスレイヤー達の方を向いた。

 

「貴方達が来てくれるとは思わなかった……一体どうして? 」

 

ニーズヘッグの巨体が倒れ、皆の安堵の息が漏れる中、彼は仲間たちに視線を向けた。

息を切らし、ゲイボルグ・アルテマを地面に突き立てて体を支えながら、疑問を口にする。

 

ゴブリンスレイヤーは兜の下で無表情のまま答えた。

 

「お前に借りを返したくて、あの騎士団を追っていたら、ここに辿り着いた」

 

彼の声は淡々と、いつものように無駄がない。

しかし、兜の隙間から漏れる視線は、ただの義務感ではなく、微かな信頼を宿していた。

 

妖精弓手は弓を肩にかけ、明るく声を上げた。

 

「そういえば、エオルゼアの仲間見つかったんだ、良かったじゃん!」

 

彼女はオルシュファンとイゼルを見て、ニヤリと笑う。

戦いの余韻が残る中、彼女の言葉が皆の緊張を少し和らげた。

 

しかし、オルシュファンは静かに首を振り、剣を下ろした。

 

「我らは、彼の持っているクリスタルによって呼び出された身、いわばこの身体は実際の肉体ではなく幻体であり、戦いが終わった今、消え去る運命です」

 

彼の声は穏やかで、銀色の鎧が雪に映える中、消えゆく運命を淡々と語った。

イゼルも優しい笑みを浮かべた。

 

「私たちは、元の世界で既に死した身です…だから…」

 

女神官は目を丸くし、杖を握りしめて声を上げた。

 

「そ、そんな……! 」

 

イゼルは皆を見回し、静かに続けた。

 

「しかし、再びこうして皆と一緒に戦えた事、嬉しく思う」

 

彼女の目は竜騎士に向けられ、感謝の光を宿していた。

 

オルシュファンは皆に視線を移し、「我が友よ、お前には笑顔が一番だ。だから笑顔で我々を送り出してくれ」

 

竜騎士は黙ったまま、俯いていた。

かつての盟友たちが、再び去っていく、教皇庁での別れ、アジス・ラーでの犠牲がよみがえり、胸が締めつけられる。涙がこみ上げ、声が震えた。

 

「二人とも……ありがとう。君たちのおかげで、勝てたよ……」

 

彼は顔を上げ、涙を堪えて笑みを浮かべた。皆もそれに倣い、静かに頷く。

 

オルシュファンは女武闘家の方を見ると、「彼の事、頼みましたぞ」と一言言った。

 

彼女は頷き、拳を握りしめた。

 

イゼルは皆に優しく微笑み、「また魂のエーテルが巡り、再び会う事もありましょう……お元気で…」

 

そう言うと、二人は皆に見送られながら、光の粒子となって消えていった……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

砦に静けさが訪れ、皆の心に別れの余韻が残った。竜騎士は女武闘家の手を取り、皆に視線を向けた。

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