竜騎士と女武闘家は、街の外れを並んで歩いていた。
かつて村があったというその場所は、今では見渡す限りの草原となり、風に揺れる草の音だけが残っている。
「ここに訓練所が出来るらしいね」
そう言って竜騎士が足を止めると、女武闘家も草原を見渡しながらうなずいた。
「そうだね。新人さんも増えてきたし、訓練所みたいなのがあるといいよね」
竜騎士は視線を遠くに向けたまま、低く言葉を続ける。
「……この場所にあった村も、ゴブリンに滅ぼされたと聞いた。こういう村が、一つでも減ればいいんだけどね……」
女武闘家は少しだけ表情を曇らせ、短く息を吐いてから答えた。
「……そうね」
草原を渡る風が、二人の間を静かに吹き抜けていった。
二人が辺境の街のギルドに入ると、見覚えのある一団がテーブルを囲んでいた。
ゴブリンスレイヤーたちだ。
竜騎士は気づくと、手を振って歩み寄った。
「この前は……依頼を取り違えてしまったみたいで、すまなかった」
ケーキ屋の店番と、ゴブリン退治。
まさかの取り違えだった。
ゴブリンスレイヤーは一瞬だけ間を置き、いつもの無機質な声で答えた。
「……いや。中々、貴重な体験が出来た」
その言葉を聞いた瞬間、隣にいた女神官が、何かを思い出したように口元を押さえ
クスクスと、堪えきれない笑いをこぼし始めた。
竜騎士はゴブリンスレイヤーが店番している姿を想像したら、少し吹き出しそうになった。
慌てて、咳払いをして言った。
「では、僕たちはこれから依頼を見て来ます」
そう告げると、女武闘家と共にゴブリンスレイヤーたちのテーブルを離れ、
ギルド内の奥、依頼書がずらりと並ぶ掲示板へと向かった。
冒険者たちのざわめきが、再び二人を包み込む。
女武闘家はギルドのカウンター近くで、新人冒険者たちをぼんやりと眺めていた。
辺境の街のギルドはいつも以上に賑やかで、依頼の掲示板前に集まる若者たちの姿が、彼女の視界に映る。
皆、無邪気で、冒険の始まりに胸を膨らませているようだった。
「もう……あれから一年経つんだね……」
彼女の心に、ふとそんな思いが浮かんだ。幼馴染の青年と、赤髪の魔法使いの女性、そして女神官……。
あの頃の仲間たちの顔が、鮮やかによみがえる。
あのゴブリンの巣穴での惨劇を思い出すと、胸が締め付けられるような痛みが、突然襲ってきた。息が苦しくなり、手が無意識に拳を握りしめる。
この一年で、女武闘家はかなり実力を付けた。竜騎士との出会い、数々の依頼、戦いの経験が彼女を強くした。竜騎士から貰った武器、スファライ・アルテマの輝きは今や、ゴブリンの群れなど軽く吹き飛ばすほど。
だが、やはり過去のゴブリンに仲間を殺され、自身がゴブリンに凌辱された記憶は忘れる事は出来なかった。
あの臭い、痛み、絶望…強くなったはずなのに、心の傷は癒えていない。
「どうしたの? 顔色が悪いよ」
突然、隣から声が掛かり、女武闘家はハッとして振り返った。
竜騎士が心配げに彼女の肩に手を置いていた。
彼の優しい目が、彼女の心を少し癒しを与える。
「あ……ううん、何でもないわ。ただ、ちょっと昔のことを思い出しただけ……」
彼女は無理に笑みを浮かべ、手を彼の手に重ねた。
竜騎士は彼女の目を見つめ、静かに言った。「あの時のことか……。無理に忘れなくていいよ。でも、僕がいる限り、君を守るよ」
彼の言葉が、胸の痛みを少し和らげた。
女武闘家は頷き、彼の腕に寄りかかった。
「ありがとう……。これからも、よろしくね」
ギルドの喧騒の中で、二人は新しい依頼を探し始めた。新人冒険者たちの笑い声が、彼女の心に少しの希望を灯す。あの過去は消えないが、未来は二人で切り開ける、そんな思いが、彼女を前へ進ませた。
二人がギルドの掲示板の前に立つと、様々な依頼書が所狭しと貼られていた。
魔物退治、素材集め、護衛任務など様々な依頼が目立つ中、女武闘家は一枚の紙に目を留めた。
「依頼は何かあるかな?」と見て回る彼女の視線が、ふと止まる。
掲示板の隅に、新人らしき冒険者たちが集まる中、ある少年に目が行った。
赤髪で眼鏡をかけた、瘦せた体躯の少年だった。
女武闘家は一瞬、息を飲んだ。あの赤髪の色、眼鏡の奥の鋭い目……。
もし彼が女性だったら……かつての仲間の賢者の学院を卒業したと言う、女魔法使いにそっくりだった。
あの時、ゴブリンの巣穴で毒に苦しみながら彼女を逃がそうとした、赤髪の女性の顔がよみがえる。
胸が締め付けられるような痛みが走り、彼女は視線を逸らした。
竜騎士はどうしたんだい? と尋ねると、彼女は慌てて首を振った。
「ううん……何でもないの。ただ、少し懐かしい顔を見た気がして……」
彼女の声は少し震え、過去の記憶を振り払うように依頼書に視線を戻した。
竜騎士は心配げに彼女の肩に手を置き、「無理しないでね」と優しく言った。
二人は遺跡調査の依頼を受けると、ギルドを後にした。
掲示板から剥がした紙を手に受付に持って行き、依頼を受けると、街の外へ向かう道を歩く。
久々に冒険の匂いがする依頼だった。
女武闘家は歩きながら、深呼吸をして心を落ち着かせた。
あの過去は消えないが、今の仲間で恋人の竜騎士がいる。
それだけで、彼女は前を向ける。
街の門をくぐり、二人の影が草原に伸びる中、新たな冒険が始まる。
今から数ヶ月前、小さなゴブリンの子供は震えていた。
自分の住んでいた巣穴は冒険者たちの襲撃に遭い、全滅した。
剣の閃光、魔法の炎、斧の重い一撃で仲間たちの断末魔の叫びが、まだ耳に残っている。
ゴブリンの仲間たちは次々と倒れ、血の海に沈んだ。
子供のゴブリンは、冒険者の一人が
「子供までは可哀想」と呟いたおかげで、命だけは助かった。
だが、それで救われたわけではなかった。
巣穴は崩壊し、仲間は皆殺しにされ、一人ぼっちになった。
それから、彷徨う日々が始まった。
小さく非力なゴブリンは、森をさまよい、他のゴブリンの巣穴を探した。
ようやく一つを見つけた時、喜びに胸を膨らませて近づいた。だが、そこにいたゴブリンたちは彼を見て嘲笑した。
「小さくて弱い奴など、いらない」と言わんばかりに、石を投げつけられ、追い出された。
非力な体は傷だらけになり、腹は空き、仲間を殺された恨みと、孤独の苦しみが、彼の小さな心を蝕んだ。
そんなある日、彷徨いの果てに、古い遺跡を見つけた。倒れた木に、半ば埋もれた石の遺構は、無人だった。
苔むした壁、崩れた柱、暗い通路、誰もいない静かな場所。
ゴブリンはここを拠点にすることにした。
遺跡の奥に身を潜め、近くの森で果実や小動物を探して飢えをしのいだ。
日々が過ぎ、遺跡の近くで食べ物を探していると、女性が一人で薬草採取をしていた。
只人の女だった。柔らかい髪、穏やかな顔立ち、優しい香り。
ゴブリンは近くにある石を手にすると、後ろから女性の頭を殴りつけた。
鈍い音が響き、女性は倒れた。自分たちの居場所を奪ったアイツらの仲間、こんな惨めな思いをするのも、こいつらのせいだと思った。恨みが胸を焦がす。
だが、女性の姿を見て、女性の匂いを嗅ぐと。今までの恨みとは違った感情が芽生えた。
熱く、渇望するような何か、ゴブリンの本能が疼いた。
女性は非力なゴブリンには重かったが、何とか抱えながら、自分の拠点にしている遺跡に運んだ。
暗い通路を進み、奥の部屋に女性を下ろす。
彼女の息は浅く、まだ意識はなかった。
ゴブリンは女性の体を縄でしっかりと拘束した。暴れられたら、あの時の仲間の様に殺されると思ったからだ。
細い縄が彼女の白い肌に食い込み、手首と足首を固定する。
女性はまだ意識を失ったまま、微かに息を吐くだけだった。
ゴブリンは彼女の体を眺め、興奮を抑えきれなかった。
初めての獲物、女の柔らかい曲線が、遺跡の薄暗い光に照らされ、妖しく輝いていた。
ゴブリンは長い舌を出し、彼女の白い肌を舐めた。何とも滑らかで、少し汗の味がした。
塩辛く、甘酸っぱい人間の味、ゴブリンの本能を刺激する。
爪の先で彼女の衣服を優しく、しかし容赦なく引き裂くと、布地が破れる音が響き、白い肌が剥き出しになる。
下着も剥ぎ取り、彼女の胸が露わになった。
ゴブリンは赤子の時にヒトの母親に貪りついていた事を思い出し、胸に口を寄せ、吸い付いた。
柔らかい乳房が口の中に収まり、温かな感触が広がるが、母乳は出なかった。
ただ、彼女の体温と柔らかさが、ゴブリンの欲をさらに掻き立てる。
そして、下半身の方に顔を向けると、何とも言えない匂いがした。甘く、むせ返るような雌の香りはゴブリンの下半身が疼き、硬く膨張する。
長い舌を出し、秘部を舐め始める。湿った花びらが舌に絡み、温かな蜜が溢れ出す。
女性が少し反応した、体がビクッと震え、微かな吐息が漏れる。何とも言えない味だった。
塩辛く、甘く、ゴブリンの舌をさらに貪欲にさせる。
暫く舐め続けていると、女性は目を覚ました。
「え?! ここは、何で……ゴブリン!! いやー!!」と叫び、暴れ始める。
縄がきしみ、彼女の体がもがくが、手足を拘束されているので抵抗出来ず、身体をくねらせるだけだった。
ゴブリンは女性の足を強く掴み、押さえつけた。
彼女の叫びが遺跡の壁に反響する中、ゴブリンの硬くなったモノを、女性の秘部に無理矢理挿入した。
狭く熱い内側がゴブリンのモノを包み込み、彼女の純潔が奪われる痛みが、血として溢れ出す。
女性の悲鳴が響き、体がのけぞるが、ゴブリンはお構いなしに乱暴に腰を振った。
初めての女の味、熱く湿った感触、締め付けられるような快楽がゴブリンを狂わせる。
彼女の内壁が抵抗するように収縮するたび、ゴブリンの動きが激しくなる。
「あ……痛い……やめて……!」
女性の涙声が響くが、ゴブリンの耳には届かない。ただ、原始的な欲求だけがゴブリンを駆り立てる。
ゴブリンは飽きる事なく貪欲に一晩中、女性を犯し続けた。
彼女の体を縄で固定したまま、何度も挿入を繰り返し、彼女の秘部を乱暴に抉る。
最初は抵抗していた女性の体も、痛みと疲労で徐々に反応が薄れ、ただ震えるだけになる。
ゴブリンの長い舌が彼女の胸を舐め、首筋を這い、秘部を再び刺激する。
彼女の蜜と血が混じり合い、ゴブリンの体を濡らすたび、彼の興奮は増す。
何度も中に出し、中を自分のもので満たす、温かな感触が、彼の欲をさらに煽る。
女性の泣き声が途切れ、ただ喘ぎのような吐息が漏れるようになる頃、ゴブリンはようやく満足したように動きを止めた。
遺跡の闇の中で、彼女の体は縄に縛られたまま、ぐったりとしていた。
ゴブリンは彼女の傍らに座り、満足げに息を吐いた。
それから数週間が過ぎ、女性の体に異変が訪れた。
彼女はゴブリンの子を宿したのだ。
最初は吐き気と疲労が彼女を苛み、女性らしい健康的な肌が、徐々に青白く変わっていった。
ゴブリンは彼女の腹が少しずつ膨らむのを、好奇心と興奮を持って眺めた。
あの夜の行為が、こんな結果を生むとは、彼の本能は喜びに震えたが、女性は違う。
彼女は悲しそうにしていることが多かった。狩りで得た食料、森の小動物や果実などを差し出しても、彼女はあまり食べないようだった。
縄で拘束された体を丸め、暗い遺跡の隅で涙を浮かべ、時折「家に……帰りたい……」と呟く。
ゴブリンはそんな彼女を不思議に思いながらも、毎晩のように体を求め続けた。
彼女の体は温かく、蜜は甘く、彼の欲を満たすものだった。
さらに暫くすると、彼女はゴブリンの子を産んだ。
遺跡の奥、薄暗い部屋で、彼女の悲鳴が響き渡った。
ゴブリンは初めての出産を、興奮と戸惑いで見守った。
生まれた子は緑色の肌をした小さなゴブリンで彼の血を引くものだった。
女性は産後の体を震わせて涙を流した。
ゴブリンは彼女の苦しみを理解せず、ただ新しい命に満足した。
この遺跡を新たな自分の居場所にする為に、再び彼女を犯した。
彼女の体は産後で弱っていたが、ゴブリンの欲求は止まらなかった。
彼女の内側を乱暴に抉り、蜜と血が混じり合う感触を楽しむ。
彼女の声は次第に弱くなり、抵抗は消えていった。
暫くすると、女一人では効率が悪いので、あれから何人か女性を拐って犯した。
森の道で一人歩く旅の女性、村の外れで洗濯をする主婦など、ゴブリンは石や棍棒で後ろから襲い、遺跡に運び込んだ。
新しい女性たちの肌は白く、匂いは甘く、ゴブリンの欲を刺激した。
縄で拘束し、長い舌で舐め、硬くなったものを無理矢理挿入する。
彼女たちの悲鳴と涙が、遺跡の壁に反響する。
最初の女は汚く、臭く、痩せ細って、見窄らしくなってきたので、もう興味は無かった。
ただ成長した子供たちが、母親である彼女を犯していた。
あの最初の子は今や強く育ち、母親の体を貪る姿を、ゴブリンは満足げに眺めた。
自身は新しい新鮮な女に夢中だった、柔らかい胸を吸い、秘部を舌で探り、腰を乱暴に振る。蜜の味が違い、反応が新しく、毎夜の宴は続いた。
ある日、冒険者が討伐に来た。
最初にいた巣穴の時とは違う。
ゴブリンは成長し、賢くなっていた。罠を仕掛け、ボロボロになった最初の女性を盾に反撃した。
肉の盾で冒険者たちの攻撃を封じる。
間抜けな冒険者は罠に掛かり、肉の盾で奴等は攻撃出来なかった。
ゴブリンは棍棒を振り回し、子供たちと共に冒険者を襲う。
男の冒険者は殺して、食料にした。
肉を切り裂き、骨を砕き、血の味を楽しむ。
女の冒険者は自身が楽しんだ後に、子供たちに孕み袋にする為に与えた。
彼女の叫びが遺跡に響き、新たな命の種が植えられる。
そこにはもう、非力なゴブリンは居なかった。
逞しく、狡猾で残忍な小鬼英雄 (ゴブリンチャンピオン)だった。
体は筋肉質に膨れ上がり、ヒトに恨みを晴らす為、村を襲い、略奪して、女を犯した。
夜の闇に紛れ、村の家々を焼き、男たちを殺し、女性たちを遺跡に連れ帰る。
彼女たちの体を貪り、子供たちに分け与え、巣を拡大する。
恨みの炎が彼を駆り立て、ゴブリンの小さな帝国が、遺跡の闇から広がっていった。
ゴブリンチャンピオンは、遺跡の奥深くで低い笑みを浮かべていた。
冒険者たちの足音が、通路の石畳を踏む音として響いてくる。
暗闇に慣れた彼の目は、侵入者の影を捉えていた、男と女、二人だけ。
間抜けな連中だ。多分、村から依頼された冒険者であろう。
男は殺して食料にし、女はゆっくりと犯して、孕ませてやる。
いや、男が惨めに殺されるところを見せつけながら女を犯すのも楽しそうだと考え、ゴブリンチャンピオンは長い舌を出し、牙を剥いた。
彼は息子たちに合図を送った。
奴らは武器を手に、通路の奥から飛び出していった。
冒険者や村から奪った、剣や槍を振り上げ、侵入者たちに襲いかかるはずだった。
だが、聞こえてきたのはゴブリンの悲鳴だけだった。
短い断末魔の叫び、肉を裂く音、骨が砕ける響き、息子たちの声が、次々と途切れていく。
ゴブリンチャンピオンは眉を寄せ、爪を立てて立ち上がった。
使い物にならない奴等だ。まぁ、減ったら減ったで、また女を犯して増やせばい、今までそうして来たのだから。
遺跡の奥に縛り付けた女性たちが、怯えた目でゴブリンチャンピオンを見上げる。
あの最初の女性は更に、痩せ細って傷だらけで汚らしくなっていた。
息子たちも、あの女には興味が無くなって、誰も手を出さない。
そろそろ殺して食料にでもするか…
新しい冒険者の女は新鮮だろう、今夜の楽しみだ。
通路から、二つの影が現れた。
男は槍を構え、青白い光を放つ武器が遺跡の闇を切り裂く。
女は拳を握り締めて、拐った女達を見て、目が燃えるよにゴブリンチャンピオンを睨み付ける。
ゴブリンチャンピオンは嘲笑った、こういう強気な女を屈服させて犯すのは堪らなく興奮する、楽しみだ。
巨大な棍棒を振り上げ、息子たちの死骸を踏み越えて突進した、筋肉質の体が遺跡を震わせる。
だが、男の槍が閃き、棍棒を弾き飛ばした。
青白い光が弧を描き、ゴブリンチャンピオンの肩を抉る。
痛みが走り、彼は後退した。
女の拳が空を切り、息子の一体を吹き飛ばす。速い、今までの冒険者とは違う。
ゴブリンチャンピオンは自慢の腕力で女を狙って殴りかかるが、そこにいた筈の女の姿は無く、拳が空を虚しく切り裂いた。
しかも二人の連携が完璧でゴブリンチャンピオンの攻撃を次々と封じる。
ゴブリンチャンピオンは咆哮を上げ、遺跡の床を蹴って跳躍した。棍棒を振り下ろすが、女の拳が腹部に直撃し、内臓が震える。
「ぐふっ!」吐き気が込み上げ、動きが鈍る。
男の槍が首筋を狙い、光の刃が鎧を切り裂く。
血が噴き出し、彼の体が傾いた。
女性たちを盾にしようと、女性たちの繋がれている縄へ手を伸ばすが、女の蹴りがそれを阻む。
「お前みたいな奴……絶対に許さないわ!」
女の声は怒りに満ち、拳が連続で彼の体を叩き込む。
ゴブリンチャンピオンは膝をつき、息を荒げた。
痛みと吐き気で自慢の肉体は動かない。
男の槍がトドメを刺し、光が彼の体を貫く。
自身の断末魔の叫びが響き、ゴブリンチャンピオンは倒れた。
遺跡の闇に、静けさが戻る。
二人は女性たちを助け出し、縄を解いた。彼女たちの怯えた目が、解放の喜びに変わる。
「これで……終わりね」
女武闘家は息を吐き、竜騎士の肩に寄りかかった。
竜騎士は槍を収め、頷いた。
「ああ……まさか調査対象の遺跡がゴブリンの巣になっていたなんて…」
ゴブリンチャンピオンは薄れゆく意識の中で、自分は何の為に生を受けて来たのだろうかと考えた。
冷たい遺跡の床に倒れ、血の海に体を沈めながら、視界がぼやけていく。
生まれてすぐに冒険者に居場所を奪われて、同族には爪弾きにされて……。
やっと居場所を見つけて、数を増やしただけなのに、この仕打ち……。
恨みの炎が胸を焦がしたが、今はただの虚しさだけが残る。
仲間を失い、獲物を失い、すべてが崩れ落ちる中、最初に拐った女性の姿が、幻のように浮かんだ。
そうだ、彼女だけは……常に自分と一緒にいてくれた……ずっと一緒にいた彼女なら……今の自分の気持ちを分かる筈だ……。
彼女の白い肌、甘い香り、産んだ子供たちの母親の彼女が、きっと理解してくれる……。
一方、竜騎士は廃墟の闇の中で、助け出した女性たちに目を向けた。一番衰弱の激しい女性は、痩せ細り、目が虚ろで、息も絶え絶えだった。
彼は懐からハイポーションを取り出し、優しく彼女の唇に近づけ、飲ませた。
液体が喉を伝い、彼女の傷が急速に癒え、血色が良くなった。
肌に光沢が戻り、目が少しずつ焦点を結ぶ。
女武闘家も駆け寄り、「良かった、大丈夫……!」と声をかけ、手を握った。
女性はゆっくりと体を起こし、周囲を見回した。
彼女の目は、倒れたゴブリンチャンピオンの体に止まる。
女性は、ゆっくりと立ち上がり、竜騎士の槍を掴んだ。
傷自体は回復しているが栄養失調と脱水で動くのは危険な状態だ。
竜騎士は驚いたが、彼女の目に宿る憎しみを見て、黙っていた。
女性はよろよろとゴブリンチャンピオンの元に向かう。
ゴブリンチャンピオンは、薄れゆく視界で彼女の姿を捉え、心の中で喜んだ。
やはり、自分を理解してくれるのは彼女だけ……彼女が自分を助けに来てくれる……。彼女の微笑みが、優しい手が、きっと……。
しかし現実は、女性は槍をゴブリンチャンピオンに突き下ろした。
憎しみの籠った目で、「まだこいつ息がある……コイツだけは私の手でぶっ殺さないと気がすまない!」と叫び、槍を何度も何度も刺し込んだ。
血が噴き出し、ゴブリンチャンピオンの体が震える。
「こいつで私達を苦しめたんだっ!」とさらに叫び、ゴブリンチャンピオンの汚らしいモノをブッ刺した。
槍の刃が肉を抉り、血と肉片が飛び散る。
ゴブリンチャンピオン信じられないという顔をしながら最後の息を吐き、息が止まった。
女性は「あははは、ざまあみろ!!」と笑っていたが、顔は笑っておらず、涙がとめどなく溢れていた。
彼女の体は震え、槍を落として膝をついた。
この数ヶ月の屈辱、凌辱、絶望、すべてが涙となって溢れ出す。
女武闘家は駆け寄り、ギュッと抱きしめた。
「もう……大丈夫よ……終わったわ……」
彼女の声は優しく、女性の背中を撫でる。
女性は女武闘家の胸に顔を埋め、嗚咽を漏らした。
竜騎士は二人の姿を静かに見守っていた。
竜騎士は遺跡を隈なく調べたが、特に何も無かった。
崩れた石壁の隙間をくまなく探り、古い棚や瓦礫の下をひっくり返したが、埃と蜘蛛の巣ばかりであった。
ゲイボルグ・アルテマの青白い光が遺跡の闇を照らし、助け出した女性たちの足音が遠くから聞こえる中、彼はため息をついた。
廃墟の空気が重く、戦いの余韻がまだ体に残っていた。
女武闘家は彼の横に立ち、拳を軽く回しながら聞いた。
「やはり、緑の月の管理者が気になるの? あいつがどうやってあなたの世界の者たちを蘇らせてるのか……」
彼女の声は穏やかだが、目には警戒の色が浮かんでいた。
竜騎士は槍を肩に担ぎ、ゆっくりと頷いた。
「ああ、奴が何を企み、何故、自分のいた世界の者達を蘇らせられるのか、ヒントでもあるんじゃないかって思ったけど……ここには無かった。でも、無駄では無かったさ。あの女性たちを救えたんだから」
彼は微笑み、女武闘家の肩に手を置いた。
遺跡の外から差し込む陽光が、二人の顔を優しく照らす。
女性たちの感謝の声が遠くから聞こえ、竜騎士の心に温かな光を灯した。
女武闘家は彼の笑顔を見て、少し頰を赤らめ、拳を軽く握った。
「うん……そうだね」
二人は互いの視線を交わし、遺跡を後にした。辺境の街への道を歩きながら、遺跡がある森を後にした。