女武闘家はベッドの上で体を起こし、森人の女性を見つめた。
彼女の声はまだ弱々しかったが、はっきりとした響きがあった。
「この人と……彼女のお兄さんが助けてくれたの」
森人の女性は静かに頷き、包帯を巻き直しながら答えた。
「ええ……兄が森で貴女を見つけて、運んで来てくれたの」
竜騎士は部屋の入り口に立ち、森人の女性をじっと見つめた。
ゲイボルグ・アルテマを軽く握り、静かに、しかし鋭く言った。
「本当の事を話して貰えますか?貴方のお兄さんがゴブリンをけしかけた事は、分かっているんですよ」
女武闘家は意味が分からず、目を丸くした。
「えっ……?」
部屋に沈黙が流れた。
森人の女性は手を止め、ゆっくりと目を伏せた。
彼女の肩が小さく震え、長い髪が顔を覆うように落ちる。
「……分かりました」
森人の女性は静かに話し始めた。
声は穏やかだが、深い悲しみと諦めが混じっていた。
「かつて、今から数十年前……ここには小さな森人の集落があったの。私と兄、そして十名くらいの森人が、慎ましく暮らしていた。森の恵みを受け、木の実を採り、薬草を育て……争いもなく、静かな日々だったわ」
彼女の瞳に、遠い記憶がよみがえる。
「ある日、ゴブリンの襲撃を受けた。突然の襲撃で、集落は崩壊した。兄は狩に出ていて難を逃れたけど……私を含む数名が、ゴブリンの巣穴に連れて行かれたの」
森人の女性は息を吐き、続けた。
「兄は辺境の街のギルドに行き、女性たちの救出とゴブリン討伐を依頼した。ベテランの冒険者が依頼を受けてくれたわ」
彼女の声が少し震えた。
「冒険者達はゴブリンの巣穴に行き、ゴブリンを退治した。 兄は心配で、こっそり後から付けて行ったの。そして、兄が見たのは……ゴブリンの死体と、私たちを犯している冒険者だった」
森人の女性の目から、涙が一筋落ちた。
「冒険者の一人が言ったの。『ゴブリンに散々もて遊ばれたんだ、俺たちも楽しませてもらうぜ!』もう一人が笑いながら、『森人は奴隷商人に高く売れるって聞いたぜ。こいつら全員死んだ事にして売り飛ばそうぜ。ゴブリン退治なんて安い報酬だしな』って……」
彼女は唇を噛み、声を絞り出した。
「冒険者の笑い声と、私たちの叫び声が洞窟内に響いた。
兄は助けようと飛び出したけど……冒険者たちに返り討ちにされてしまったの……」
部屋に重い沈黙が落ちた。
女武闘家は息を飲み、胸を押さえた。
竜騎士は槍を握る手に力を込め、静かに森人の女性を見つめた。
「それで……お兄さんは?」
竜騎士の声は低く、抑揚がない。
森人の女性は涙を拭い、ゆっくりと言った。
「兄は……生き延びた。奴隷商人に売られてしまった私を何年もかけて探し出して救ってくれた…でも、あの日から変わってしまったの。冒険者への憎しみが、兄の心を蝕んで……」
彼女は女武闘家の手を優しく握った。
「貴女を助けたのは……本当は、貴女の傷を見たからよ。
ゴブリンの爪痕……かつての私と同じだったから……」
女武闘家は森人の女性の手を握り返し、静かに頷いた。
「……ありがとう。でも……お兄さんは、今……」
森人の女性は目を伏せ、悲しげに微笑んだ。
「兄は……もう、戻らないかもしれない。この先の神殿で魔神王の復活の儀式をするって言っていたわ…貴女を助けたのも、きっと……最後の良心だったのよ」
部屋に静けさが戻る。
外の森から、風が木々を揺らす音が聞こえてくる。
女武闘家は体を起こし、ゆっくりと言った。
「私……行かなきゃ。お兄さんを……止めないと…」
女武闘家はベッドから降り、よろめきながらも立ち上がった。
竜騎士は女武闘家を静止する。
「無理はするな、ここは僕だけで大丈夫だ」
女武闘家は「ありがとう……でも、止めないと…」
竜騎士は少し考えて「どうせ君は止めても付いて行くのだろうから…仕方ない…一緒に行こう」
そして、森人の女性に静かに言った。
「君のお兄さんは、必ず連れ戻す。だから……待っていてくれ」
彼の声は低く、しかし確かな決意に満ちていた。
森人の女性は目を潤ませ、ゆっくりと頷いた。
「……ありがとう……。どうか、兄をお願いします……」
女武闘家はベッドから立ち上がり、森人の女性に優しく微笑んだ。
「手当、ありがとう……。お兄さんの事は、心配しないで」
彼女の声は穏やかだが、彼女も強い意志が込められていた。
森人の女性は涙を堪え、二人の背中を見送った。
二人は外に出た。集落のはずれにある遺跡が目の前にある。
今、ここで女武闘家のスファライ・アルテマを媒体に召喚の儀式を行おうとしているはずだ。
夜の森は静かで、月光が苔むした石畳を冷たく照らす。
崩れた柱と倒れた壁の間を、風が低く吹き抜けていく。
竜騎士はアーマリチェストから予備の手甲を取り出し、女武闘家に渡した。
「素手よりはマシのはずだ」
彼の声は優しく、しかし心配げだった。
女武闘家は手甲を腕に嵌め、軽く握りしめてみた。
多少の違和感はあるが、彼女の拳にピッタリとハマった。
「ありがとう……」
彼女は小さく微笑み、竜騎士の手を握り返した。
そして、二人は遺跡の中に入っていった。
暗い通路を進む。足音が石畳に響き、遠くから魔力の揺らぎが感じられる。
闇人の気配が濃く、召喚の儀式が始まろうとしている。
女武闘家は拳を握りしめ、竜騎士の横を歩いた。
「絶対に……連れ戻すわ…」
竜騎士は頷き、ゲイボルグ・アルテマを構えた。
「そうだな…彼女の為にも」
二人の影が遺跡の闇に溶け込み、儀式の場へ向かう。
森の風が背中を押し、決戦の時が近づいていた。
神殿に入る前に、竜騎士は女武闘家に回復魔法をかけた。
彼はゲイボルグ・アルテマの柄を地面に軽く突き立て、癒しの光を彼女の体に注いだ。
柔らかな光が傷口を包み込み、切り傷や打撲がみるみる塞がっていく。
血の跡が薄れ、肌に元の白さが戻る。
女武闘家は体を軽く伸ばし、驚きと安堵の息を吐いた。
「ありがとう……。体が軽くなったわ」
彼女は竜騎士の腕に触れ、優しく微笑んだ。竜騎士は静かに頷き、槍を構え直した。
「よし……行こう」
神殿内部はゴブリンが大量にいた。
崩れた柱の影や、苔むした床に、緑色の小鬼たちが蠢き、低い唸り声を上げている。
数十体はいるだろう。空気は腐敗と汗の臭いで重く、松明の炎が壁に不気味な影を落としていた。
竜騎士は女武闘家に素早く指示を出した。
「君はなるべく僕の後ろに。撃ち漏らした奴を頼む」
女武闘家は拳を握りしめ、頷いた。
「わかった……任せて」
竜騎士は槍を構え、一歩踏み込んだ。
ゲイボルグ・アルテマが青白く輝き、彼は槍を大きく振り抜いた。
衝撃波が放射状に広がり、ゴブリンの群れをまとめて吹き飛ばす。
「グギャアア!」
悲鳴と肉が砕ける音が響き、数体のゴブリンが壁に叩きつけられて動かなくなる。
残ったゴブリンたちが慌てて飛びかかってきたが、竜騎士は冷静に槍を回転させ、次々と貫いていく。
青白い光の軌道が闇を切り裂き、血飛沫が舞う。
女武闘家は彼の背後に立ち、撃ち漏らしたゴブリンを素早く仕留めた。
拳が閃き、一匹の頭蓋を砕き、もう一匹の胸を抉る。
「これで……!」
彼女の動きは流れるように速く、武闘家としての鍛えが光る。
ゴブリンの棍棒が空を切るが、彼女は軽く身をかわし、カウンターの蹴りで吹き飛ばした。
神殿の奥に向かって二人は進んで行った。
倒れたゴブリンの死体を踏み越え、血の臭いがさらに濃くなる中、竜騎士の槍が道を切り開く。
女武闘家は彼の背中を守り、時折拳を振るって残敵を掃討した。
奥へ進むほど、闇人の魔力が強くなり、儀式の気配が濃くなる。
二人は互いに視線を交わし、決意を新たにした。
「もう少しだ……」
竜騎士の声が低く響き、女武闘家は拳を握りしめて頷いた。
神殿の最深部では、闇人が儀式を行っていた。
広大な円形の祭壇に、スファライ・アルテマが中央に据えられ、青白いエーテルが渦を巻いて膨張していく。
封じられたアルテマウェポンの力が解放されていく。
空気が震え、魔力の奔流が天井を突き抜け、闇の霧が立ち込める中、巨大な影が徐々に形を成し始めていた。
魔神王の姿だ。黒い鎧に覆われた巨体、燃えるような赤い瞳、背中に広がる闇の翼。
まだ完全ではないが、その威圧感は遺跡全体を圧倒していた。
近くにいたオーガは、棍棒を地面に突き立て、魔神王の姿を眺めながら呟いた。
「素晴らしい……これが、魔神王様……」
その声は畏怖に満ち、巨体が震えるほどだった。
周りには大量のゴブリンと、儀式を手伝うシャーマンの姿が。
シャーマンたちは杖を掲げ、低い呪文を唱え続け、エーテルを魔神王へ注ぎ込む。
ゴブリンたちは怯えながらも、オーガの命令で周囲を固め、儀式の成功を祈るように地面に額を擦りつけていた。
闇人はフードの下で狂ったように笑った。
「これで……この腐り切った世界を破壊して、新たな世界を作る事が出来る……フハハハ!」
彼の笑い声が神殿に反響し、魔神王の巨体がさらに実体を増していく。
そして、遂に魔神王が復活した。
黒い鎧が軋み、赤い瞳が開き、巨大な体がゆっくりと立ち上がった。
神殿の天井が震え、石が崩れ落ちる。
魔神王は静かに周囲を見渡し、ゴブリンの方を向いた。
次の瞬間、魔神王は突然ゴブリンを踏み潰し、殺し始めた。
巨大な足が地面を叩きつけ、数十体のゴブリンが一瞬で肉塊に変わる。
血と肉片が飛び散り、悲鳴が上がる間もなく、魔神王の足が次々と降り注ぐ。
オーガは棍棒を握りしめ、目を剥いて叫んだ。
「魔神王様、どうなされたのですか!!」
魔神王は答えず、ただ無表情でゴブリンを踏み潰し続けた。
シャーマンたちは混乱し、呪文を止めようとするが、魔神王の視線が彼らを捉え、次の瞬間、闇の奔流がシャーマンたちを飲み込んだ。
一方で、竜騎士と女武闘家は神殿の最深部に向かっていた。
通路を抜けた先で突然、何故か傷ついたゴブリンたちが、一目散に逃げ出してきた。
血まみれの体で、怯えた目をして、二人の横をすり抜けていく。
竜騎士は槍を構えたまま、眉を寄せた。
「何だ……? 逃げてる……?」
女武闘家も拳を握りしめ、ゴブリンを一匹蹴り飛ばしながら言った。
「一体何が起こっているの……?」
二人は逃げるゴブリンを倒しつつ、最深部へと進んだ。
ゴブリンの悲鳴が遠くから聞こえ、神殿全体が震えていた。
魔神王の復活、そして、その異常な行動。
二人は互いに視線を交わし、覚悟を決めて最深部へ踏み込んだ。
神殿の扉が開き、魔神王の巨体が姿を現す。
血と肉片にまみれた床、壊滅したゴブリンたちの死体、そして中央に立つ黒い鎧の魔神王。
オーガが棍棒を構え、混乱した顔で魔神王を見上げていた。
竜騎士は槍を構え、女武闘家と共に立ちはだかった。
「これは……何だ?」
魔神王の赤い瞳が二人を捉え、低い声が神殿に響いた。
「ヒトよ……お前たちも、滅びの時だ」
オーガは巨体を震わせ、魔神王の前に立ちはだかった。
棍棒を地面に突き立て、必死に叫ぶ。
「魔神王様、おやめください! ゴブリンどもは貴方の配下ですぞ!」
しかし、魔神王は無表情のまま、ゆっくりとオーガを見下ろした。
赤い瞳に感情はなく、ただ冷たい虚無だけが宿っている。
「ヌシも……我の邪魔をするか!」
その声は低く、地響きのように神殿全体を震わせた。
「ヒトとゴブリンは一体も残らず皆殺しだ!」
次の瞬間、魔神王の巨大な手がオーガの顔を掴んだ。
怪力でゆっくりと締め上げ、オーガの灰色の肌が潰れ、骨が軋む音が響く。
オーガは最後の力を振り絞り、震える声で呟いた。
「な……なぜ……」
そして、動かなくなった。
巨体が崩れ落ち、血と肉片が飛び散る。
魔神王は手を振り払い、オーガの死体を踏みつけた。
足音が神殿に響き、ゴブリンの悲鳴がさらに高まる。
闇人は呆然と突っ立っていた。
ローブの袖を握りしめ、信じられないという表情で魔神王を見上げる。
「な……何がどうなっているのだ……」
彼の声は震え、杖を握る手が白くなる。
儀式は成功したはずだった。魔神王は復活し、世界を破壊する力を持つはずだった。
なのに、なぜ、自分の配下であるゴブリンたちを、無差別に殺し始めた?
竜騎士と女武闘家の二人は息を飲み、魔神王の巨体と血の海を見た。
竜騎士は槍を構え、静かに呟いた。
「もしかして……」
女武闘家は拳を握りしめ、震える声で言った。
「あ、あれが魔神王なの……?」
竜騎士は首を振り、冷静に答えた。
「違う。あれは……魔神王の姿をした蛮神だ」
闇人は二人の声に気づき、振り向いた。
フードの下で赤い目が輝き、杖を構える。
「違うとはどういう事だ?」
竜騎士はゲイボルグ・アルテマを握りしめ、静かに説明した。
「お前が行ったのは復活の儀式ではない。あれは神降しだ。大量のエーテルと術者の祈りにより、具現化する偽りの神、僕のいたエオルゼアにおける蛮神と呼ばれる存在だ」
女武闘家は目を丸くした。
「蛮神って……イゼルさんや、あの教皇トールダンみたいなのと一緒なの?」
竜騎士は頷き、魔神王の巨体を見据えた。
「そうだ。自分を依代にしている彼らとは違い、あれには恐らく言葉は通じない。蛮神は術者の祈り、願いが反映される。お前の妹さんと苦しめた、人とゴブリンに対しての憎悪が反映されているんだ」
闇人は杖を握りしめ、笑い声を上げた。
「フハハ……なるほどな! ならばなおさらだ!この蛮神は私の願いそのもの……只人もゴブリンも、すべて滅ぼす!
新たな世界を築くための、完璧な破壊者だ!」
しかし、魔神王はゆっくりと振り向き、闇人を見下ろした。
赤い瞳に感情はなく、ただ冷たい虚無だけが宿る。
そして、次の瞬間、魔神王の巨大な足が闇人に向かって振り下ろされた。
「な……何!?」
闇人は杖を掲げ、闇の障壁を張るが、魔神王の足はそれを粉砕し、彼の体を踏み潰そうとした時だった。
女武闘家が飛び出して、闇人を抱えながら回避した。
闇人の最後の叫びが神殿に響く。
「なぜ……私を助ける?!」
女武闘家は「妹さんと約束したの、貴方を連れ戻すって」
魔神王は再びゴブリンたちに向き直り、無差別に踏み潰し始めた。
神殿は血と悲鳴に満ち、崩壊の音が響く。
竜騎士は槍を構え、女武闘家に言った。
「倒すしかない。あれはもう、誰の支配も受けない……ただの破壊者だ、しかも蛮神は周囲のエーテルを無尽蔵に吸収する、放って置けば、ここら一体、不毛の大地になるぞ」
女武闘家は拳を握りしめ、頷いた。
「放っては置いたら、とんでも無いことになるわね」
魔神王の姿をした蛮神は、ゆっくりと振り向いた。
黒い鎧が軋み、赤い瞳が竜騎士と女武闘家を捉える。
その視線は感情を欠き、ただ破壊の意志だけが宿っていた。
「ヒトの冒険者……冒険者は根絶やしだ!!」
巨大な剣を手にすると、振り上げた。
剣は闇そのもののように黒く、刃先が空気を切り裂き、神殿全体を震わせる。
魔神王の巨体が動くだけで、床の石が砕け、壁に亀裂が入る。
竜騎士は即座にゲイボルグ・アルテマを構え、女武闘家に言った。
「僕が奴の注意を引く。君は彼を守るのに集中してくれ」
女武闘家は拳を握りしめ、頷いた。
「分かったわ! 思いっきりやって頂戴!」
二人は視線を交わし、即座に動き出した。
竜騎士はジャンプで魔神王の懐へ飛び込み、槍を振り下ろす。
青白い光が弧を描き、魔神王の鎧に火花を散らす。
魔神王は剣を振り回し、竜騎士を弾き飛ばすが、彼は空中で体勢を立て直し、再び突進する。
一方、女武闘家は闇人の前に立ちはだかった。
闇人はフードの下で目を細め、低く聞いた。
「何故……俺を助ける様な真似をした?」
女武闘家は拳を構え、静かに答えた。
「貴方の為じゃないわ。貴方の妹さんと、連れ戻すと約束したからよ!」
闇人は一瞬、動きを止めた。
拳を握りしめ、震える声で言った。
「俺は……この生命など、どうなろうが構わない。只人とゴブリンを全て滅ぼす為なら!妹はゴブリンに連れ去られてどんな目に遭ったか……その後、助けに向かった冒険者に何をされたか!分かるまい!! 俺は絶対に許さない!」
女武闘家は拳を緩めず、しかし優しく、静かに答えた。
「知っているわ……妹さんから聞いたわ。私を助けた理由も……。それに、私達も色々見てきたわ。ゴブリンに犯された女性が助け出された後に、奴隷商人に売られて性奴隷にさせられている光景を、奴隷商人と盗賊団がグルになって村を襲う為に、奴隷の女性達をゴブリンの巣穴に入れようとした事もあった」
彼女の目は真っ直ぐに闇人を見つめ、言葉を続けた。
「確かに貴方の言う通り、酷い人も多い……でも、それを正そうとしている人もいるのよ……」
闇人は杖を握りしめ、声を荒げた。
「だから何だと言うのだ!我々は慎ましく生きていただけなのだ!只人がいくら正そうとしていても、それは只人の問題だ!根本的な解決じゃない!」
女武闘家と闇人が話をしている間、横では竜騎士と蛮神の魔神王の戦闘が続いていた。
竜騎士の槍が魔神王の鎧を切り裂き、青白い光が闇を照らす。
魔神王の巨大な剣が振り下ろされるが、竜騎士はジャンプでかわし、槍を突き刺す。
衝撃波が神殿を震わせ、石が崩れ落ちる。
二人の戦いは激しく、互いに一歩も引かない。
女武闘家は闇人に向き直り、拳を構えた。
「貴方の気持ちはわかる……。でも、憎しみだけで世界を壊すのは、妹さんの望みじゃないはずよ」
闇人は杖を強く握り、涙を浮かべながら叫んだ。
「黙れ……!俺は……もう、止まれないんだ……!」
魔神王の咆哮が再び響き、神殿全体が震える。
竜騎士は槍を構えたまま、闇人に向かって一歩踏み出した。
青白い光がゲイボルグ・アルテマの刃先で揺らめき、神殿の闇を切り裂くように輝く。
魔神王の咆哮が遠くで響き、崩落する石の音が混じる中、彼は静かだが力強い声で言った。
「今はもう、そういう問題じゃないんだ!」
闇人は杖を握りしめ、フードの下で目を細めた。
その赤い瞳に、わずかな動揺が走る。
竜騎士は槍の柄を地面に軽く突き立て、言葉を続けた。
「アイツは君を襲った…もう、只人とか森人という種じゃなく、人全体を憎んでいる。お前が呼び出した蛮神は、君の願いを映した鏡だ。妹さんを苦しめた人間への憎悪……それが、すべての人を焼き尽くす破壊衝動に変わったんだ」
闇人の手が震え、杖の先がわずかに揺れる。
竜騎士はさらに一歩近づき、声を低く、しかしはっきりと響かせた。
「僕達がやられたら、次に狙われるのは、この近くにいる君の妹さんなんだぞ!妹さんを危険に晒すのは、君の本意ではないはずだ!」
その言葉が、闇人の胸を貫いた。
彼の体が硬直し、フードの下から漏れる息が荒くなる。
「ま……まさか……そんな……」
闇人は杖を握る手に力が抜け、膝が少し折れかけた。
「俺は何の為に魔神王を……くそっ!」
彼の声は震え、憎しみと後悔が混じり合っていた。
妹を守るため、復讐するため、すべてを賭けて呼び出したはずの魔神王が、今や制御不能の破壊者となり、自分自身や妹を脅かす存在に変わってしまった。
その事実に、闇人は初めて直面した。
魔神王の咆哮が再び響き、神殿の天井が崩れ落ちる。
石が降り注ぎ、闇人は杖を地面に突き立て、よろめきながら立ち上がった。
「俺は……俺は……!」
竜騎士は槍を構え直し、静かに言った。
「今なら、まだ間に合う。蛮神を止めるんだ。妹さんを守るためにも」
闇人はフードを深く被り直し、杖を握りしめた。
涙が一筋、頰を伝う。
「……くそ……くそぉぉ!!」
闇人は祭壇に走り始めると、召喚の儀式で使用したスファライ・アルテマを手に取った。
青白い光が彼の掌で脈打ち、蛮神の咆哮が神殿を震わせる中、闇人はそれを女武闘家に向かって投げた。
「これは返す! 奴を……妹を……助けて欲しい……!」
女武闘家は飛び上がって受け取り、予備の手甲を外してスファライ・アルテマを手に装着した。
青白い光が彼女の腕を包み、拳全体が輝きを増す。
彼女は拳を握りしめ、強く頷いた。
「ありがとう! これで私も戦えるわ!」
闇人も杖を構え直し、闇の魔法を呼び起こした。
彼のローブが風に翻り、赤い目が決意に燃える。
「俺も……戦う……!」
魔神王の姿をした蛮神は無表情で三人を見下ろし、巨大な剣を振り上げた。
神殿の天井が崩れ、石が降り注ぐ中、戦いは再開した?
竜騎士はゲイボルグ・アルテマを振り、ジャンプで魔神王の懐へ飛び込む。
槍の刃が鎧を切り裂き、青白い光が爆発的に広がる。
魔神王は剣を振り下ろすが、竜騎士は空中で体を捻り、回避して反撃を加える。
女武闘家はスファライ・アルテマを輝かせ、拳を振り上げた。
青白い光が拳に集中し、魔神王の脚部へ連続で叩き込む。
「これで……!」
衝撃波が魔神王の巨体を揺らし、膝が少し折れかかる。
闇人は杖を掲げ、闇の鎖を呼び起こした。
黒い鎖が魔神王の腕に巻き付き、動きを封じようとする。
「これで……少しは……!」
鎖が軋み、魔神王の腕を拘束するが、蛮神の力は強大で、徐々に鎖が引きちぎられていく。
魔神王は咆哮を上げ、剣を横薙ぎに振るった。
衝撃波が神殿を吹き飛ばし、三人はそれぞれ回避する。
竜騎士は槍を地面に突き立て、衝撃波を弾き返す。
女武闘家はジャンプで飛び上がり、拳を魔神王の胸に叩き込む。
闇人は闇の障壁を張り、衝撃を防いだ。
三人の連携が光り、魔神王の動きを徐々に封じていく。
竜騎士の槍が鎧を貫き、女武闘家の拳が関節を砕き、闇人の魔法が動きを鈍らせる。
魔神王の咆哮が次第に弱くなり、巨体が膝をつく。
「今だ……!」
竜騎士が叫び、槍を高く掲げた。
青白い光が頂点に達し、魔神王の胸を貫く。
女武闘家は拳を振り上げ、最後の打撃を加える。
闇人は杖を振り、闇の奔流を注ぎ込む。
魔神王の巨体が崩れ落ち、黒い鎧が砕け散り、エーテルが霧のように消えていく。
神殿に静けさが戻り、崩れた石の音だけが響く。
三人は息を荒げ、互いに視線を交わした。
闇人は杖を下ろし、ゆっくりと膝をついた。
「……終わった……のか……」
女武闘家は彼に近づき、静かに言った。
「妹さんのところへ……行きましょう」
闇人は涙を浮かべ、頷いた。
「……ああ……ありがとう……そして、本当にすまない事をした…」
竜騎士は槍を収め、二人に微笑んだ。
「行こう。妹さんが待ってる」
神殿の闇が薄れ、朝の光が差し込む。
全てが終わった……。
神殿の崩落した天井から差し込む朝の陽光が、埃と血の混じった床を優しく照らしていた。
魔神王の姿をした蛮神は、砕け散った黒い鎧の残骸となって倒れ、エーテルの残滓が霧のようにゆっくりと消えていく。
竜騎士はゲイボルグ・アルテマを地面に突き立て、息を整えながら女武闘家と闇人を見た。
女武闘家は拳を緩め、汗と埃にまみれた顔で、しかし明るく笑った。
「私達三人だけで魔神王倒したんだよ! 凄いね、勇者と一緒だね」
彼女の声は少し震えていたが、喜びに満ちていた。
竜騎士は槍を肩に担ぎ、静かに首を振った。
「正確には……蛮神は術者がイメージしている姿だから、実際の魔神王を知らない僕達が比較する事は出来ないさ。
実物より弱いかも知れないし強いかも知れない。見た目だって恐らくは実物とは違うはずだ……」
女武闘家は少し肩を落とし、でもすぐに笑みを戻した。
「そっか……でも、私たちで倒せたんだから、それでいいよね」
闇人は杖を地面に突き立て、膝をついたまま俯いていた。
フードの下から、震える声が漏れる。
「俺は……君達の新人冒険者をゴブリンに襲わせた……そして何人かは死なせてしまった……その罪は消えない……どうすればいい……」
彼の声は弱く、憎しみと後悔が混じり合っていた。
妹を守るため、世界を壊すため、すべてを賭けたはずの計画が、蛮神の暴走によって崩れ、自分自身も傷つけた。
その事実に、彼はただ膝をついて震えるだけだった。
女武闘家はゆっくりと彼に近づき、膝をついて目線を合わせた。
彼女の目は優しく、しかし強く輝いていた。
「なら……助けを求めている人や苦しんでいる人を助けてあげて。冒険者になってとは言わないけど……妹さんみたいな人を一人でも救ってあげて……」
彼女の言葉は静かで、しかし心に響くものだった。
過去に受けた痛み、守れなかった仲間たちの記憶、それでも彼女は、憎しみの連鎖を断ち切ろうとしていた。
闇人は長い沈黙の後、ゆっくりと顔を上げた。
涙が頰を伝い、赤い目が初めて人間らしい光を宿す。
「……ああ……分かった」
一言だけ。
それが彼の答えだった。
竜騎士は槍を収め、静かに頷いた。
女武闘家は立ち上がり、闇人の肩に軽く手を置いた。
「妹さんのところへ……行ってあげて…」
闇人はゆっくり立ち上がり、杖を支えに体を起こした。
彼はもう一度二人を見て、深く頭を下げた。
そして、フードを被り直し、森の闇へ消えていった。
神殿に静けさが戻る。
崩れた石の隙間から朝陽が差し込み、二人の影を優しく包んだ。
女武闘家は竜騎士の腕に寄りかかり、静かに呟いた。
「……終わったね」
竜騎士は、崩れ落ちた遺跡の残骸を見下ろしながら、静かに呟いた。
「いや……まだ終わりじゃない……」
女武闘家はビックリした表情で、思わず声を上げた。
「えっ……?」
彼女の拳が緩み、汗と埃にまみれた顔で竜騎士を見つめる。
崩れた石の隙間から差し込む朝陽が、二人の影を長く伸ばしていた。
竜騎士はゲイボルグ・アルテマを地面に突き立て、ゆっくりと顔を上げた。
彼の目は遠くを見据え、しかし決意に満ちていた。
「数十年前とはいえ、妹さんを奴隷商人に売り飛ばした冒険者……もし今も生きているなら、放っておけない」
女武闘家は息を飲み、拳を再び握りしめた。
竜騎士は言葉を続けた。
「彼の心の闇を、本当の意味で解放するためにも必要だ、まずはギルドに戻り、調べるぞ」
彼の声は静かだが、確固としたものだった。
女武闘家はゆっくり頷き、竜騎士の手を握った。
「……うん。行こう」
二人は互いに視線を交わし、遺跡の崩れた入り口を後にした。
朝陽が二人を照らし、森の風が髪を揺らす。
戦いは終わったわけではない、過去の闇を清算し、未来を切り開くための、新たな一歩が始まろうとしていた。
ギルドに戻る道中、女武闘家は竜騎士の横を歩きながら、静かに言った。
「貴方は……本当に優しいね」
竜騎士は苦笑し、槍を肩に担ぎ直した。
「優しいかどうかはわからない。ただ……誰もが、救われるべきだと思うだけさ」
二人は手を繋ぎ、街へ向かった。