※この作品はR-18です。

女武闘家と竜騎士   作:蒼月あお

37 / 37
坑道での戦い

竜騎士たちは盗賊団の砦の前に立っていた。

森の奥に隠された石壁の砦は、崩れかけた門と松明の炎が不気味に揺れ、内部から酒の匂いと笑い声が漏れ聞こえてくる。

女武闘家は拳を軽く握りしめ、緊張が体を走るのを感じた。

スファライ・アルテマの青白い光が微かに輝き、彼女の目は砦の闇を睨みつける。

闇人の魔術師はフードの下で薄く笑い、杖を軽く回した。

 

「たかが盗賊団……どれ程の規模であろうが、敵ではない」

 

彼の声は冷たく、闇の鎖の魔法を放つ。

次の瞬間、砦の門の上に立つ見張りの盗賊が、突然体を硬直させた。

闇の鎖のが首に巻きつき、息を詰まらせ、静かに倒れる。

息の根を止められた見張りの体が、門の上から転がり落ち、地面に鈍い音を立てた。

 

竜騎士はゲイボルグ・アルテマを構え、低く言った。

 

「よし、中に入るぞ。」

 

三人は門を押し開け、砦の内部へ踏み込んだ。

女武闘家は拳を握り、闇人の魔術師は杖を掲げ、竜騎士は槍を振りかざして進む。

 

 

 

一方で、頭目は砦の奥の部屋で奴隷商人と取引中だった。

部屋の隅に繋がれた女性たちが怯えた目で震え、商人たちは金貨の袋を数えながら、品定めをしていた。

奴隷商人はニヤリと笑い、袋を頭目に渡した。

 

「これで決まりだな。いい女たちだ……高く売れそうだ!」

 

頭目は袋を受け取り、重さを確かめて満足げに頷いた。

その時、部屋の扉が勢いよく開き、盗賊の一人が息を切らして飛び込んできた。

 

「頭目! 冒険者が攻めて来ました!!」

 

頭目は眉を上げ、冷静に聞いた。

 

「数は?」

 

盗賊は慌てて答えた。

 

「さ、三人です!」

 

奴隷商人は笑い声を上げた。

 

「三人なら問題ありませんね。うちの用心棒もいるし、すぐに片付きますよ」

 

しかし、頭目は顔を曇らせ、小声でぼそっと独り言を言う。

 

「三人で攻めて来るとは……かなりの手練かも知れんな…」

 

彼は金貨の袋を懐にしまい、立ち上がった。

 

「取引はこれで終わりだ。俺は部屋に戻る!」

 

盗賊たちは慌てて武器を構え、頭目に向かって言った。

 

「頭目、どうしましょう?」

 

頭目は手を振り、冷たく命じた。

 

「お前らでやってしまえ。相手は三人だ!!」

 

しかし、頭目は部屋に戻るふりをしながら、かつての冒険者仲間の戦士と魔法使い、そして側近の部下を連れて、裏口から馬に乗って逃げ出した。

馬の蹄が地面を蹴り、夜の闇に溶けていく。

戦士の男は馬を飛ばしながら、頭目に聞いた。

 

「相手は三人だぜ? どうしたんだ?」

 

魔法使いの男は馬を操りながら、冷たく答えた。

 

「だからお前は馬鹿なんだよ。頭に血をのぼせた村人ならともかく、わざわざギルドから冒険者三人で来るぐらいだ、かなりの実力者のはずだ。そんな奴等とまともにやり合う馬鹿はいないだろ?」

 

頭目は前を向いたまま、笑った。

 

「そう言う事だ。別のアジトに向かうぞ。それに金もある。あの砦は用済みだ!」

 

三人は馬を駆り、森の闇へ消えていった。

砦では、残された盗賊たちが慌てて武器を構え、侵入者たちを迎え撃とうとしていた。

砦の門では、竜騎士、女武闘家、闇人の魔術師が静かに立っていた。

三人は砦の門を押し開け、内部へ踏み込んだ。

盗賊たちの叫び声と武器の衝突音が響き渡り、松明の炎が揺らめく中、竜騎士の槍が次々と敵を薙ぎ払っていた。

青白い光の軌道が闇を切り裂き、盗賊の一人が胸を貫かれて倒れる。

女武闘家は拳を閃かせ、飛びかかってきた盗賊の顎を砕き、別の盗賊を蹴り飛ばした。

スファライ・アルテマの青白い輝きが、彼女の動きをより鋭く、速くしていた。

 

「この冒険者強いぞ! 頭目はどうした!?」

 

盗賊の一人が叫び、仲間たちを見回すが、頭目の姿はどこにもない。

奴隷商人の自慢の用心棒たちも次々と倒れていく。

用心棒の一人が大剣を振り回すが、竜騎士の槍がそれを弾き、胸を貫いた。

血が噴き出し、用心棒は地面に崩れ落ちる。

奴隷商人は檻の陰に隠れ、顔を青ざめさせた。

 

「ヒッ……こんなの聞いてないぞ……!」

 

闇人の魔術師は杖を掲げ、黒い鎖を放った。

鎖は生き物のように盗賊の一人を締め上げ、息を詰まらせる。

盗賊は苦しみながら地面に膝をつき、震える声で言った。

 

「俺は知らねぇよ……俺たちは見捨てられたんだ……!」

 

竜騎士は槍を構えたまま、盗賊に近づき、低く聞いた。

 

「なら、何処に行った?お前たちを見捨てる様な奴だ。隠さない方が、後々お前の為になるぞ」

 

盗賊は恐怖に震えながら、声を絞り出した。

 

「恐らくは……別の場所にアジトがある……。森の北、廃鉱山の奥だ……頭目は金を持って逃げた……!」

 

女武闘家は檻に近づき、鍵を砕いて女性たちを解放した。

彼女たちは怯えながらも、女武闘家の優しい手にすがりつき、泣き出した。

女武闘家は生き残りの盗賊や奴隷商人を縄で縛り、檻の中に押し込んだ。

 

「とりあえず、一度近くの村に連れて行き、ギルドの報告と女性達の保護を手配して貰うわ」

 

彼女の声は優しく、しかし強い決意に満ちていた。

竜騎士は頷き、槍を収めた。

 

「そうだな。ギルドに連絡して、援軍を呼ぼう。頭目は……僕たちで追う!!」

 

闇人の魔術師は杖を握りしめ、静かに言った。

 

「……当然、俺も行く!奴を、この手で殺すまでは……」

 

女武闘家は女性たちを優しく抱きしめ、竜騎士に視線を向けた。

 

「早く彼女達を安全な場所に行って安心させてあげたい!」

 

三人は砦を後にし、女性たちを安全な場所へ運んだ。

近くの村に着くと、竜騎士たちはすぐにギルドの援軍の手配を村人に頼み、女性たちを保護してもらう手配をした。

しかし、この村も盗賊団の被害に遭っており、家屋の多くが焼け落ち、畑は踏み荒らされていた。

助け出した女性たちの中には、この村の娘もいた。

彼女は母親に抱きつき、泣きじゃくりながら「帰ってきた……帰ってきたよ……」と繰り返す。

 

村人たちは涙を流しながら、竜騎士たちに深く頭を下げた。

村長は疲れた顔で、しかし温かく言った。

 

「今日は遅い。一晩泊まって行きなさい。こんな夜に森を抜けるのは危ない」

 

竜騎士達は互いに視線を交わし、言葉に甘えて泊まることにした。

村人たちが用意してくれた粗末だが温かな食事と、藁のベッドで一夜を過ごす。

女武闘家はベッドに横になりながら、静かに呟いた。

 

「この村も…酷い状況なのに、ここまでしてくれて…」

 

竜騎士は昼間の村の様子を思い浮かべて言葉を返した。

 

「盗賊団の襲撃の跡が結構残っていたね…」

 

闇人の魔術師は壁に寄り掛かりながら「只人の村がどうなろうが興味は無いが、奴だけは殺す」

 

それぞれの想いを胸に就寝した。

 

 

 

翌日、朝早くギルドから援軍が到着した。

若い戦士を始め、銀髪の武闘家を含む数名の冒険者たちが、馬を連れて村に現れる。

 

村長の部屋にて竜騎士は若い戦士に近づき、軽く頭を下げた。

 

「引き継ぎ、ありがとうございます」

 

若い戦士は竜騎士に「そうか…盗賊のアジトは鉱山か……。アジトにしているくらいだから大丈夫だと思うが、岩喰怪虫 (ロックイーター)だけは気をつけた方がいい」

 

竜騎士は頷き、尋ねた。

 

「ロックイータ……?」

 

若い戦士は苦笑し、説明した。

 

「文字通り岩を噛み砕きながら移動して獲物を捕食する魔物だ、鉱山などに潜んでて、不意打ちを喰らえばひとたまりもない。岩の壁から突然出てくるんだ」

 

竜騎士は静かに頷いた。

 

「なるほど……気を付けないと、足元をすくわれるな…」

 

一方、女武闘家は銀髪の武闘家と少し離れた場所で話をしていた。

銀髪の女性は穏やかに微笑んだ。

 

「実は……貴女の事、気になっていたの!異例の銅等級の昇格した武闘家の女の子、どんな子だろうって!」

 

女武闘家は少し照れくさそうに笑い、拳を軽く握った。

 

「実は私も同じ武闘家として気になっていました、今度一緒に色々お話ししたいです」

 

銀髪の武闘家は目を細め、嬉しそうに頷いた。

 

「ええ、ぜひ。貴女の拳術、見てみたいわ」

 

二人は軽く拳を合わせ、互いに笑みを交わした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

若い戦士たちは女性たちの保護と村の様子と聞き取りをしている、竜騎士たちは次の目的地の盗賊のアジト、廃鉱山へ向かう準備を整えた。

竜騎士は女武闘家に近づき、低く言った。

 

「準備はいいか?」

 

女武闘家は拳を握りしめ、力強く頷いた。

 

「もちろん。奴らを……絶対に逃がさないんだから!」

 

三人は馬に跨り、村を後にした。

 

朝陽が背中を照らし、廃鉱山への道が広がる。

 

 

 

一方で廃鉱山にいる門番は、暇そうにあくびをしていた。

 

もう一人の門番はため息をつきながら「砦の奴等、今頃捕らえた女達とよろしくやっているんだろうな……羨ましいぜ…」とぼやきながら、槍を地面に突き立てて体を預けた。

あくびをしていた門番も「本当だぜ! こんな辺鄙なアジトなんて見張っている意味はあるのかねぇ……」と周囲の岩肌を眺めた。

廃鉱山の入り口は、岩と崩れた坑道の残骸に囲まれ、昼間でも薄暗く、風が低く唸るだけだ。

その時、遠くから何かが集団でこちらに向かっている姿と音が聞こえてきた。

馬の蹄の音、金属の擦れる音、慌ただしい息遣い、門番たちは慌てて立ち上がり、目を凝らした。

 

よく見てみると、頭目たちだった。

 

頭目を先頭に、かつての冒険者仲間である戦士と魔法使い、そして側近の部下たちが、馬を飛ばして近づいてくる。

顔は汗と埃にまみれ、荷物は金貨の袋と最低限の武器だけ。

砦から逃げてきたのは明らかだった。

門番は慌てて頭目を出迎え、敬礼のように槍を地面に立てた。

 

「頭目! どうしたんですか!?」

 

頭目は馬から飛び降り、息を荒げながら門番に聞いた。

 

「ここは大丈夫か?」

 

門番は首を振り、

 

「こっちは暇な位ですよ。砦の方、何かありましたか?」

 

頭目は顔を歪め、短く吐き捨てた。

 

「冒険者が攻めて来た。かなりのやり手みたいだ。恐らくここにも来る。ここに貯めてある財宝や金を持ってずらかる! 急げよ!」

 

門番たちは目を丸くし、慌てて動き始めた。

 

「わ、わかりました! すぐ荷物を……!」

 

坑道内にある建物内の隠し倉庫から金貨の袋や宝石を引っ張り出し、馬の背に積み始める。

頭目は周囲を警戒しながら、戦士と魔法使いに指示を出した。

 

「早くしろ!恐らく冒険者……銀等級クラスだろう、油断したら全員死ぬぞ!」

 

戦士は剣を握りしめて

 

「例え銀等級クラスとはいえ三人なら敵じゃねぇ…頭目は慎重過ぎるんだよ…」

 

戦士は頭目の逃げ惑う姿に、反感を持っていた。

たかが三人、凄腕の冒険者か知らないが、俺達だって名の通った盗賊団だ。

それに、まだ奴等の姿も見ていない。戦士は腕に自信もあった。

 

「頭目! 部下を数人貸してくれれば、奴等はこの俺がやる!」

 

頭目は少し考えて、残った部下の中から数人を戦士に付けた。

 

「分かった!好きにやれ。だが、死ぬなよ!」

 

頭目は最後に一言付け加えた。

 

「俺達は例の場所に行く。お前も倒したら後で付いてこいよ!」

 

戦士はニヤリと笑い、部下たちを率いて廃鉱山の入り口へ向かった。

残された頭目は馬に跨り、魔法使いと側近を引き連れて反対方向へ逃げ出した。

廃鉱山を出た頭目に、魔法使いは馬を並べて聞いた。

 

「頭目……いいんですか? あいつらを置いて……」

 

頭目は前を向いたまま、冷たく笑った。

 

「ああ、奴も馬鹿な男だ、勝てばそれも良し、負けても足止めになるだろう……」

 

頭目は馬の手綱を握りしめ、続けて言った。

 

「おい! あの廃鉱山の、あの山の斜面に穴が空いているだろ!あそこにお前の魔法をぶっ放せ」

 

魔法使いは眉をひそめた。

 

「あんな山の穴に魔法なんか撃ってどうするのですか?」

 

頭目はニヤリと笑い、目を細めた。

 

「いいからやれ! 面白い事になるからよ」

 

魔法使いは渋々頷き、杖を掲げた。

炎の魔法を凝縮し、山の斜面に空いた穴に向かって放つ。

炎の奔流が穴の奥へ吸い込まれ、数秒後に爆発音が響き、土煙が立ち上った。

山肌が崩れ、穴がさらに広がり、岩が転がり落ちる。

頭目は満足げに笑った。

 

「ありゃ、ロックイーターが開けた穴だ!ビックリして大暴れだ!冒険者を襲うだろうよ!」

 

魔法使いは杖を下ろし、ため息をついた。

 

「……頭目、相変わらず汚い手を使いますね、アイツもいるって言うのに…」

 

頭目は馬を駆りながら、笑い声を上げた。

 

「汚くても勝てばいいんだよ。それに頭の悪い馬鹿は俺の盗賊団には必要ねぇ!さあ、急げ! 新しいアジトへだ!」

 

 

 

竜騎士たちは廃鉱山にたどり着いた。

 

森の奥、岩肌にぽっかりと開いた坑道の入り口は、薄暗く、風が低く唸るように吹き抜けていた。

入り口の周囲には古い木の支柱が傾き、崩れ落ちた岩が散らばっている。

 

女武闘家は入り口を見上げ、拳を軽く握りしめた。

 

「鉱山の入り口があるわね……特に見張りもいないみたいだし、中に入って行きましょう」

 

竜騎士はゲイボルグ・アルテマを構え、闇人の魔術師に視線を向けた。

 

「罠の可能性を視野に入れて、慎重に行こう」

 

闇人は杖を握りしめ、頷いた。

 

「了解だ!」

 

三人は坑道を進んだ。

 

内部は予想以上に整備されており、壁や天井に新しい支柱が立てられ、地面は踏み固められていた。

最近人の手が加えられた跡があちこちに残り、松明の残り火が壁に黒い煤を付けていた。

空気は湿り気を帯び、土とカビの臭いが鼻を突く。

坑道を進むと、徐々に広くなっている場所があった。

天井が高く、粗末だが小屋のような建物がいくつか建てられていた。

しかも、中から明かりが漏れ、人の気配がする。

その時、小屋の扉が開き、戦士風の男と盗賊数名が出て来た。

 

 

戦士は剣を肩に担ぎ、こちらを見ている。

彼は三人の姿を見て、最初は驚いた顔をしたが、すぐにゲラゲラと笑い出した。

 

「何だ? ベテラン冒険者かと思ったが、小僧二人に小娘一人か……」

 

盗賊たちは戦士の言葉に合わせて笑い声を上げ、武器を構えた。

 

「頭目はこんな奴等にビビっていたのかよ!」

 

闇人の魔術師はフードの下で目を細め、戦士の顔に見覚えがあった。

 

あの時の妹と仲間を陵辱した冒険者の一人だ、当時より歳はとっているが、ハッキリと分かった。

彼は杖を握りしめ、低く、しかし抑えきれない憎悪を込めて言った。

 

「お前……俺の顔を忘れたとは言わせないぞ、妹と仲間を陵辱したお前は、万死に値する」

 

戦士は一瞬目を丸くしたが、すぐに下卑た笑いを浮かべた。

 

「なんだぁ? 小僧? 今まで色々な女犯して来たからな、いちいち顔なんて覚えてねーよ!! 敵討ちか? 俺が返り討ちにして、今度はお前の目の前で、その女を犯してやるよ!」

 

戦士は女武闘家の方を見て、盗賊たちと一緒に馬鹿にした笑い声を上げた。

 

「へへっ、いい体してるじゃねえか、お前達の悔しそうな顔眺めながら、たっぷり可愛がってやるよ!」

 

女武闘家は拳を握りしめ、静かに前に出た。

 

「ふざけないで……」

 

竜騎士は槍を構え、戦士たちを見据えた。

 

「話はそれだけか?なら容赦はしない」

 

戦士は剣を振り上げ、笑い声を上げた。

 

「やってみろよ、小僧ども!」

 

盗賊たちが一斉に襲いかかる。

闇人の魔術師は杖を掲げ、闇の鎖を放ち、盗賊の一人を絡め取った。

女武闘家は拳を閃かせ、飛びかかってきた盗賊を吹き飛ばす。

竜騎士は槍を回転させ、戦士の剣を受け止め、青白い光の衝撃波で周囲の盗賊を蹴散らした。

 

戦士は周囲の盗賊が一瞬でいなくなり、何が起こったのか理解出来なかった。

仲間たちの叫び声が途切れ、血の臭いが急に濃くなった。

彼は剣を握りしめたまま、呆然と立ち尽くす。

 

「な……何だ……? みんな……!?」

 

その直後、闇人の魔術師の魔力の闇の鎖が戦士の身体を締め上げた。

黒い鎖が蛇のように体に巻きつき、腕を、胸を、首を締め上げる。

金属の軋む音ではなく、骨がきしむような不気味な音が響く。

戦士は顔を青ざめ、息を詰まらせながら呻いた。

 

「く……苦しい……た、すけて……くれ……!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

闇人の魔術師は無表情で鎖の締め付けを強くする。

戦士は鎖に締め上げられながら、必死に言葉を絞り出した。

 

「お、お前さんの……妹の事は悪かったよ……す、すまねぇ……!」

 

闇人は鎖をさらに締め上げ、冷たく問う。

 

「そうか……なら、妹の事は覚えているんだな……。

どんな目に遭わせたか……どんな風にさせたか……分かるよな」

 

戦士は息も絶え絶えに、震える声で答えた。

 

「あ、ああ……ダーク……え……エルフの肌の黒い……女だ……三年くらい前に犯して、売り飛ばした……アイツの兄貴……なんだろ?ゆ、許してくれよ……!」

 

闇人の魔術師の目が、わずかに揺れた。

鎖が一瞬緩み、戦士の体が少し落ちる。

しかし、次の瞬間、鎖は再び強く締め上げた。

 

「俺の妹は森人だ……闇人ではない!」

 

戦士は苦しみながら、混乱した声で言った。

 

「そ、そうだ……森人の里から……はぐれた森人の女か……そうだろ? い、いや……森人の女冒険者か? それとも……」

 

女武闘家は呆れて、拳を握りしめたまま呟いた。

 

「救いようが無いわね……」

 

彼女の声は静かだが、深い怒りと失望が混じっていた。

戦士の男は鎖に締め上げられながら、顔を歪めて喘いだ。

息も絶え絶えに、震える声で言葉を絞り出す。

 

「そ、そうだ……思い出したぞ……森の中の小さな……ゴブ……リンに滅ぼされた……村……そして。ゴブリンに犯されていた……あの……女達……」

 

闇人の魔術師の顔色が変わった。

フードの下で赤い目が一瞬大きく見開かれ、杖を握る手の力が強くなる。

彼の体が微かに震え、抑えきれない憎悪が声に滲み出た。

戦士は鎖の締め付けに耐えながら、必死に言葉を続けた。

 

「テメェ! あ、あの時の森人の……くっ……生きていたのかよ!」

 

闇人の魔術師は声を荒げ、鎖をさらに強く締め上げた。

 

「そうだ! 思い出したか!!」

 

彼の声は低く、しかし鋭く響いた。

闇人は戦士の顔を間近で見据え、冷たく問う。

 

「お前達の頭目は何処に行った?話せば……楽に殺してやるぞ……」

 

戦士の男は、鎖に締め上げられながら、顔を歪めて喘いだ。

 

「く、くそっ!」

 

その時、竜騎士は僅かに上の方からの振動に気がついた。

坑道の天井が微かに震え、石の粉がパラパラと落ちてくる。

空気が重く、地面が低く唸るような音が響く。

次の瞬間、上の方から巨大な物体が女武闘家に向かって落ちて来た。

岩の塊のような影が、轟音と共に崩れ落ちる。

 

竜騎士は咄嗟に女武闘家を抱えて回避した。

体を横に跳ばせ、彼女を腕に抱きかかえながら転がる。

巨大な岩が地面に激突し、土煙が舞い上がり、坑道の床が大きく抉れた。

女武闘家は呆気に取られてきょとんとしている。

 

「え……?」

 

しかし目の前には、巨大なロックイーターの姿が現れた。

岩を食い破るように体を現し、灰色の肌に岩の様な巨体。

口は鋭い歯が並び、ゆっくりと体を起こす。

その巨体は壁を崩しながら動き出した。

 

女武闘家は拳を構え、声を震わせた。

 

「な、何……あれ?」

 

竜騎士は槍を構え直し、静かに答えた。

 

「あれが……ロックイーターなのか……。」

 

ロックイーターはそのまま壁に穴を開けて入り、姿を消した。

 

岩を噛み砕く音が遠ざかり、坑道に静けさが戻る。

しかし、闇人の鎖はロックイーターの登場と同時に千切れてしまった。

黒い鎖が音もなく消え、戦士の体が地面に崩れ落ちる。

戦士は咳き込みながら、ゆっくりと体を起こした。

 

「はあ……はあ……助かった……」

 

闇人は杖を握りしめ、顔を歪めた。

 

「くそ……あの化け物……」

 

竜騎士は槍を構えたまま、周囲を警戒した。

女武闘家は叫んだ。

 

「あいつ逃げちゃう!!」

 

戦士は必死に走り出した。

血まみれの体を無理やり動かし、坑道の奥へ向かって転がるように逃げる。

 

しかし、竜騎士は二人を止めた。

低く、しかし鋭い声で。

 

「動かないで」

 

三人は気配を殺すかの様に動きを止めた。

坑道の闇がさらに深くなり、わずかな風の音だけが聞こえる。

竜騎士はゆっくりと槍を構え、耳を澄ます。

再び振動を感じる、地面が低く唸り、岩が微かに震える。

 

次の瞬間、戦士の横の壁からロックイーターが現れた。

 

灰色の岩肌に埋め込まれた巨体が、岩を噛み砕きながら飛び出し、戦士の腕を食いちぎった。

 

血が噴き出し、戦士の悲鳴が響く。

再び別の穴に入り込もうとする瞬間、竜騎士の槍が閃いた。

青白い光の軌道が岩を貫き、怪物の体に傷を負わせる。

しかし、巨体は勢いを失わず、岩壁を突き破って姿を消した。

傷は負わせたが、逃げられてしまった。

闇人の魔術師は杖を握りしめ、竜騎士に聞いた。

 

「やはり……音に反応しているのか?」

 

竜騎士は槍を構え直し、静かに答えた。

 

「恐らくは。でなければ、岩を噛み砕きながら的確に獲物を狙えないさ」

 

戦士は無くなった腕を押さえ、地面に膝をついて呻いた。

 

「いてぇよ! クソっ!! 助けてくれ……頭目の場所なら言うから……!」

 

しかし、再びロックイーターが現れた。

岩壁を突き破り、巨体が戦士を飲み込んだ。

 

一瞬の悲鳴が上がり、戦士の姿は跡形もなく消えた。

血と肉片が飛び散り、坑道の壁を汚す。

 

闇人の魔術師は即座に杖を振り、闇の鎖を放った。

黒い鎖がの巨体に巻きつき、動きを止める。

岩の体が軋み、鎖が食い込む音が響く。

竜騎士の槍と女武闘家の手甲が同時に閃いた。

青白い光の槍が胸を貫き、拳が頭部を砕く。

 

巨体が崩れ落ち、岩の破片が散らばる。

 

ロックイーターは動かなくなった。

 

しかし、戦士が死んだ事で手がかりを失ってしまった。

頭目の逃げた先の情報は、永遠に闇の中へ消えた。

女武闘家は拳を緩め、息を吐いた。

 

「……逃げられたわね」

 

竜騎士は槍を収め、静かに言った。

 

「だが……奴はまだ近くにいる、追うぞ」

 

闇人は杖を握りしめ、赤い目で建物を睨んだ。

 

「……待て、あそこに手かがりがあるかも知れない…」

 

三人は坑道の奥の建物へ進んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【R18】種を求められる異世界放浪(作者:ボルメテウスさん)(原作:色々)

ある日、突然、別の世界へと転移した場所。▼そこは様々な異世界の要素が多く混じった世界だが、ここにはとんでもない事があった。▼それは、男性のほとんどが種なしである事。▼生命力の溢れる久世は、欲求不満な人妻に次々と襲われる事を知らず▼こちらで様々なキャラの募集を行っています。皆さまの応募、お待ちしています。▼https://h.syosetu.org/?mode…


総合評価:519/評価:8/連載:32話/更新日時:2026年10月15日(木) 01:15 小説情報

【R18】賭ケ堕チル ——黒いチョーカーと快楽ハッキング調教——(作者:坂本太郎)(原作:賭ケグルイ)

ギャンブルの勝敗がすべてを決する狂気の魔窟、私立百花王学園。勝者は王として君臨し、敗者は「家畜」の首輪を嵌められる絶対的カースト制度のなかへ、一人の異分子・神代朔夜が編入してくる。▼彼の武器はカードの強運ではない。人間の心理、欲望、そして肉体のシステムそのものを完全に解析し、上書きする圧倒的な「支配のハッカー」としての才能だった。▼高傲なプライドで武装した女…


総合評価:377/評価:6/完結:39話/更新日時:2026年08月25日(火) 00:00 小説情報

【R18】【R18版】争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい(作者:大気圏突破)(原作:ハイスクールD×D)

全年齢向けで執筆していた『争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい』のR18作品になります。あくまで作者の妄想の産物をぶつけるだけなので箸休め程度に受け取ってください▼基本は1話完結です


総合評価:571/評価:8/連載:5話/更新日時:2026年09月14日(月) 13:21 小説情報

【R18】FF7ntR(作者:夜叉五郎)(原作:Final Fantasy Ⅶ Remake)

ニブルヘイムの村長の息子ハメルに転生した読者(貴方)が、無双してティファを寝取る話。


総合評価:4287/評価:8.84/完結:25話/更新日時:2026年07月31日(金) 07:07 小説情報

【R18】機動戦士ガンダム エロ短編集 女達の地獄の黒史録(作者:みなぽん)(原作:ガンダムシリーズ)

一年戦争も、グリプス戦役も、ネオ・ジオン抗争も――それらはすべて歴史書に刻まれているだが、語られることのなかった戦争があった。▼地球連邦政府によって記録を抹消され真実を語られない宇宙世紀の闇に封印された”黒歴史”。▼禁断の資料に手を伸ばえた時、封印され人類が忘れることを選んだ惨劇が甦る――。▼これは、宇宙世紀最大の秘密を巡る戦記であり、人間の暗部を探る旅でも…


総合評価:267/評価:7.2/短編:31話/更新日時:2026年09月29日(火) 21:10 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>