朝の陽光が宿屋の窓から差し込み、部屋を柔らかく照らしていた。
竜騎士はベッドで目を覚ましたが、身動きが取れなかった。
女武闘家が彼に後ろから、抱きつきながら寝ていたのだ。
彼女の腕が彼の胸に回され、温かな体温と穏やかな寝息が伝わってくる。
「参ったな、これじゃ身動きが取れないんだけど…」
竜騎士は心の中で苦笑し、彼女の寝顔をそっと見つめた。
昨夜の照れくささとドキドキがまだ残っていたが、彼女の穏やかな表情に、彼の心も少し落ち着いた。
何とか起きようと体を動かすと、女武闘家も目を覚ました。
彼女はぼんやりとした視線で状況を把握し、自分がギュッと抱きついていることに気づくと、パッと離れてベッドの端に飛び退いた。
顔を真っ赤に染め、手で口を覆って、「ご、ごめんなさい…!」と慌てて謝った。
彼女の寝巻きが少し乱れ、濡れた髪の残り香が部屋に漂っていた。
竜騎士は体を起こし、優しく微笑んで言った。
「いいんだよ。ぐっすり寝れたかい?」
彼の声は穏やかで、昨夜の出来事を気まずくさせないよう配慮していた。
女武闘家はまだ頰を赤らめながら、ベッドのシーツを握りしめて頷いた。
「久々にゆっくり寝れました…。あの日の…初めての依頼時の……悪夢を見る時があって、昨日はゆっくり熟睡できたんです」
彼女の言葉には、過去のトラウマ――ゴブリンの巣での絶望、仲間たちの死、自身の屈辱――が影を落としていた。
あの悪夢が彼女を苦しめ続けていたが、竜騎士の存在がそれを和らげたようだった。
竜騎士はベッドから立ち上がり、彼女の肩に軽く手を置き、
「それは良かった。僕も君がそばにいて、安心して眠れたよ」と答えた。
彼女は照れくさそうに目を伏せたが、口元に小さな笑みが浮かんだ。
二人は顔を洗い、着替えを済ませ、宿屋の朝食を一緒に取った。
パンの香りと温かなスープが部屋に広がり、街の喧騒が窓から聞こえてくる。
今日も新たな冒険が待っているが、二人の絆はさらに強くなっていた。女武闘家は心の中で誓った。
この人と一緒に、過去を乗り越えていくと。
ギルドの掲示板は、様々な依頼書で埋め尽くされていた。
二人はコルクボードの近くで立ち止まり、依頼を一つ一つ眺めた。
低ランクの魔物の討伐、素材の収集、護衛任務など、新米の白磁ランクでも受けられるものがいくつかあった。
女武闘家は一つの依頼に目を留め、指で示した。
それはゴブリン退治の依頼だった。
内容は、近くの村娘がゴブリンに拐われ、助け出してほしいというもの。
報酬はそこまで高くもなく、ゴブリンの残忍さを思うと、油断できない。
竜騎士は彼女の横顔を見ながら心配だった。
彼女の過去を考えると、ゴブリン以外の依頼をやった方がいいのではないかと思っていた。
ジャイアントラットのような簡単なものなら、彼女の心を傷つけることもない。
だが、女武闘家は違う。
彼女の目は決意に満ち、少しでも自分のような被害者を増やしたくないと思っているのだろう。
あの巣での記憶が、彼女を駆り立てている。竜騎士はそれを尊重し、静かに見守った。
女武闘家は依頼書を掲示板から剥がし、竜騎士に振り向いて尋ねた。
「これでいいかな?」
彼女の声は少し震えていたが、目はまっすぐだった。
過去の恐怖を乗り越え、誰かを守るための強さを示すように。
竜騎士は彼女の視線を受け止め、穏やかに答えた。
「分かった。でも、僕が少しでも危険と判断したら引き上げる。それでいいかな」
彼の言葉には、彼女を守る決意が込められていた。
二人はカウンターへ依頼書を提出した。ギルドの喧騒の中で、新たな戦いが始まろうとしていた。
二人は馬を借り、街から数時間の道のりを進み、村に到着した。
村は辺境の小さな集落で、木造の家々がまばらに並び、周囲を森が囲んでいた。
村の入り口で、村長が待ち構えていた。
年配の男は顔を青ざめ、疲れた目で二人を出迎えた。
「冒険者さんたちか…よく来てくれた。拐われたのは私の娘と、村の鍛冶屋の息子だ」
村長の声は震え、娘の名を口にするだけで涙がにじんだ。
竜騎士は依頼書を思い浮かべ、疑問に思った。依頼書の内容は村娘の救出だけだったが、鍛冶屋の息子のことは書かれていなかった。
彼は静かに尋ねた。「依頼書には娘さんのことしか書かれていませんでした。もう一人のことはどうして…?」
女武闘家も隣で頷き、村長の表情を観察した。
彼女の心には、ゴブリンに拐われ、犯される屈辱を知っている身としては、少しでも被害者を減らしたいという決意が、彼女をここに駆り立てていた。
村長は顔を歪め、怒りをあらわにした。
「アイツは娘を誑かした男だ! どうなろうと知らん!」
彼の声は荒く、拳を握りしめた。
どうやら、後から住人に聞いた話によると、村長の娘は良いところの貴族の息子との縁談が決まっていたにもかかわらず、同じ村の鍛冶屋の息子と恋仲だったらしい。
二人は村の外で密会しているところをゴブリンに襲われ、拐われたのだ。村長は娘の名誉を汚した鍛冶屋の息子を許せず、依頼書に彼の名を記さなかったのだろう。
「娘だけを助けてくれ。あの男は…自業自得だ」
村長の目は憎しみに満ちていたが、その奥に娘への心配が隠れていた。
女武闘家は眉をひそめ、竜騎士に視線を向けた。彼女の心は複雑だった。
恋を理由に罰せられるなんて、理不尽だ。
それにゴブリンの巣の恐怖を知る彼女は、二人とも助けたいと思った。
竜騎士は静かに頷き、村長に言った。
「わかりました。でも、状況次第で判断します。巣の場所は?」
村長は森の奥を指差し、地図を渡した。
二人は準備を整え、森へ向かった。
女武闘家の拳を強く握り、過去の影を振り払うように。
竜騎士のゲイボルグ・アルテマはエーテルの光を淡く放ち、二人の決意を照らしていた。
村娘と青年の運命が、二人の手に委ねられていた。
数日前の村外れの出来事
村の外れ、木々が密集する森の奥で、村娘は恋人と密会していた。
夕陽が葉っぱを赤く染め、二人は草の上に座り、手を繋ぎ、未来の夢を語り合っていた。
村娘の父親である村長は、良いところの貴族の息子との縁談を決めていたが、彼女の心は彼しかなかった。
村の掟を破る危険を承知で、二人はこの場所を秘密の楽園にしていた。
だが、その穏やかな時間は突然、崩れ去った。森の闇から、不気味な笑い声が響き、無数の小さな影が飛び出してきた。
ゴブリンだった。汚れた緑色の身体、鋭い爪を剥き出しにした怪物たち。
村娘は悲鳴を上げ、恋人は即座に立ち上がった。
「君は逃げろ!」
武器も持たない彼は素手でゴブリンに立ち向かった。
村の鍛冶屋の息子として、体力には自信があったが、相手は数で勝る。棍棒や爪で滅多打ちにされ、鍛冶屋の息子の体は血まみれになった。
村娘は逃げようとしたが、ゴブリンの手が彼女の腕を掴み、引き倒した。
ゴブリンの爪が村娘の服を切り裂き、粗雑に引きちぎった。白い肌が露わになり、冷たい空気が彼女を震わせた。
「やめて…お願い…!」
彼女は痛みで悲鳴を上げようとしたが、別のゴブリンが彼女の口に汚らしいモノを突っ込み、声を封じた。
吐き気が込み上げ、涙が頬を伝う。
ゴブリンたちは下卑た笑いを浮かべ、彼女の体を欲望のままに犯した。
痛みと屈辱が彼女を襲い、ゴブリンの精液が彼女の体内に注がれる感覚が、魂を砕くようだった。
村娘の視界がぼやけ、意識が遠のいた。
彼の叫び声が最後に聞こえたが、それも闇に溶けていった。
次に目を覚ました時、村娘はゴブリンの巣穴の中にいた。
薄暗い洞窟の奥、土の臭いと血の匂いが混じり、彼女の体は痛みで火照っていた。
気を失っている間も、ゴブリンに犯されていたのだ。
身体は汚れと傷で覆われ、抵抗する力さえ残っていなかった。
彼女は震える手で周囲を探り、目の前に横たわる恋人の姿を見つけた。彼は動かなかった。
彼女は犯されながらも、彼の名を呼び、手を伸ばした。
指先が彼の体に触れた瞬間、彼の首だけがこちらに転がった。
彼は既にゴブリンに滅多打ちにされ、短剣で刺されてすでに息絶えていた。
村娘の悲鳴が洞窟に響き渡った。
ゴブリンたちはその光景を見て、甲高い嘲笑を上げた。
彼女の心を折るためだけに、その様にしたのだ。
残忍な遊びのように、恋人の死体を弄んでいた。
絶望が彼女の心を飲み込み、すべてが無になった。
感情が消え、ただの殻のような存在に変わってしまった。
ゴブリンの笑い声が遠くに聞こえる中、村娘の目は虚ろに闇を見つめていた。
竜騎士と女武闘家はゴブリンを蹴散らしながら、洞窟の最奥の部屋に辿り着いた。
そこはゴブリンの巣の中心で、骨の散らばった残骸と血の跡が広がっていた。
部屋の中央に、村長の娘がいた、だが、その光景は二人の顔を凍りつかせた。
娘はゴブリンに犯されながら、床に押さえつけられていた。表情はなく、目は虚ろで、魂が抜け殻のように抜け落ちていた。
ゴブリンの汚れた体が彼女を覆い、下卑た笑い声が響く。
彼女の服は引きちぎられ、体は傷と汚れで覆われていた。
だが、それだけではなかった。
彼女の傍らには、無惨な姿の体が転がっていた。
村の青年の遺体だった。
体はバラバラにされ、二人が辿り着いた時にはゴブリンに食べ散らかされていた。
ゴブリンの一匹が娘を犯しながら、嘲るように笑った。
娘は抵抗すらせず、ただ体を揺らされるだけ。
彼女の心はすでに折れ、感情が無くなっていた。
あの拐われの瞬間から始まった悪夢が、ここで頂点に達したのだ。
二人はその光景に息を呑み、女武闘家の手が震えた。
「こんな…ひどい…」
彼女の声は掠れ、過去の自分が重なる。
竜騎士の目は明らかに怒りに燃え、ゲイボルグ・アルテマがエーテルの光を放った。
「お前らだけは許さない!」
彼の槍が一閃し、部屋のゴブリンたちを切り裂いた。女武闘家も鋭い回し蹴りが炸裂して、復讐のように敵を倒した。部屋は血の海と化し、静寂が訪れた。
娘を助け起こしたが、彼女の目はまだ虚ろだった。バラバラになった青年の遺体は回収し、二人は重い足取りで洞窟を後にした。
村長の娘は救われたが、心の傷は深く、青年の生命は救えなかった。
二人は重い足取りで村に戻った。娘を竜騎士が抱え、女武闘家が後ろから支えていた。
娘の目はまだ虚ろで、心が折れたままだった。
村の入り口では、村長や村人達が待っていた。
ちょうど婚約者の貴族の息子も来ていて、馬車を横付けにし、優しそうな青年で立っていた。
彼は娘の姿を見ると、駆け寄り、ボロボロになった彼女を抱きしめた。
「私のせいだ…全部、私のせいだ…」
彼の声は震え、涙が頰を伝った。
貴族の息子は娘を馬車に運び、すぐに連れて去っていった。
村長はホッと胸を撫で下ろし、肩の荷が下りたような表情を浮かべた。
だが、その目には娘の無事よりも、縁談の行方が気になっているようだった。
自分の利益を考えている様子が、ありありと見て取れた。
次に、二人は近くにいた鍛冶屋の元へ向かった。青年の遺品、血まみれの服の断片等をを渡そうとした。
鍛冶屋は遺品を見ると、顔を歪め、「貴族様が連れて行ったから良いものを…この親不孝者が!」と叫び、遺品を地面に投げつけた。
服の断片が泥にまみれた。鍛冶屋の目は怒りに満ち、息子の死などどうでもいい様だった。
竜騎士はそれを見て、怒りが爆発した。
「アンタらは自分の事しか考えられないのかっ!!」
彼の声は村に響き渡り、ゲイボルグ・アルテマを握る手が震えた。
娘の心が壊され、青年の体がバラバラにされた光景が脳裏に焼きついていた。
村人たちのただ人を駒のように扱い、死者を侮辱する姿に、耐えられなかった。
女武闘家は慌てて彼の腕を掴み、止めた。
竜騎士が何とか振り向くと、彼女は静かに首を振った。彼女の目には、諦めと悲しみが混じっていた。
村長が嘲るように言った。
「白磁の冒険者風情が偉そうに言うな!」
鍛冶屋も口を揃え、「勝手な事を言うんじゃねえ!」他の村人も集まり、口々に非難した。
「貴族様との縁談を邪魔した息子のせいだ」「娘は助かったんだ、それで十分だろ」
村人たちの目は利益と保身に染まり、青年の死をただの不幸として片付けようとしていた。
女武闘家はため息をつき、竜騎士の袖を引いた。
「何を言っても無駄よ。行きましょう」
彼女の声は静かだったが、過去のトラウマがよぎり、村人たちの冷たさが胸を刺した。
竜騎士は村人たちを睨みつけ、怒りの炎を目に宿したまま、踵を返した。
二人は馬に乗り村を後にし、森の道を走り抜けた。
背後で村人たちのざわめきが遠ざかり、二人は無言で街へ戻る道を急いだ。
一方で、破壊されたゴブリンの巣の前では、1匹の見張りのゴブリンが瀕死の状態で生き延びていた。
体は傷だらけで、血を流しながら這いずり、洞窟の外へ出た。
このゴブリンが渡りとなり、暫くして別の群れを率いて村を襲った。夜の闇に紛れ、無数のゴブリンが村を包囲し、村人たちは虐殺された。
村長の叫び、鍛冶屋の絶叫が森に響き、村は炎に包まれ、灰となった。
だが、竜騎士と女武闘家がその事を知ることはなかった。