下町の賑やかな空気から一歩踏み込んだ『食事処ゆきひら』の店内には、重苦しい静寂が漂っていた。
「……ふん。肉もないくせに店を開けてるなんて、いい度胸じゃない」
高級ブランドのスーツに身を包んだ女性——峰ヶ崎八重子は、爪先で床を軽く叩きながら冷ややかな笑みを浮かべていた。彼女の手下たちが仕掛けた嫌がらせにより、店の厨房にあった精肉類はすべて台無しにされている。肉をメインに扱う定食屋にとって、それは致命的な痛手のはずだった。
「これで分かったでしょう? この土地を立ち退いて、もっと大きなビルを建てた方がお互いのためなのよ。こんな古臭い定食屋、守る価値なんてないわ」
八重子は胸を張り、隙のない完璧な「地上げ屋」としての笑みを浮かべる。都会の過酷な不動産業界で舐められないよう、彼女は常に完璧なメイクと冷徹な態度という鎧を纏って生きてきた。男たちを顎で使い、感情を殺して結果を出す。それが彼女の誇りであり、身を守る術だった。
しかし、調理場に立つ少年——幸平創真の表情には、悲壮感など微塵もなかった。
「肉がねぇなら、あるもんで作ればいいだけの話だろ?」
創真は平然とした顔でフライパンを煽り、香ばしい匂いを店内に充満させていく。ジュウジュウと弾ける油の音とともに、白いバンダナをきゅっと締め直すと、厚みのある見事な肉塊——『なんちゃってローストポーク』を八重子の前に突き出した。
「おあがりよッッッ!」
堂々たる叫びとともに出された一皿に、八重子は思わず気圧される。
「は? なによこれ……肉はないはずでしょう?」
「いいから食ってみなよ。ゆきひら特製の裏メニューだ」
バカにされたと感じた八重子は、鼻で笑いながらナイフとフォークを手にとった。とっとと食べて不味さを指摘し、引導を渡してやるつもりだった。
しかし、ひとくち口に含んだ瞬間——八重子の思考は完全に停止した。
「ッ……!? な、なにこれ……!?」
カリッとした表面のベーコンから溢れ出す塩気と脂の旨味。そして、その中にぎっしりと詰まったマッシュポテトの濃厚なコクと、じっくり炒められたキノコの深い風味が口いっぱいに広がる。濃厚な肉汁風のソースが全体を包み込み、噛み締めるたびに熱い旨味が広がっていく。
「じゃがいも……!? これ、お肉じゃないの……!? なのにどうして、こんなに満足感があって……こんなに、身体の奥が熱くなるの……っ!?」
強がりで塗り固めていた心が、熱々のじゃがいもと濃厚なソースの温もりに溶かされていく。
幼い頃、家族と囲んだ温かい食卓の記憶。必死に突っぱねて生きてきた日々の孤独と緊張。創真が作った料理の優しさと圧倒的な熱量が、八重子が長年着込んでいた重い鎧を容赦なく引き剥がしていく。
「定食屋の知恵ってやつさ。お前さんみたいに気取ってる奴も、腹が減ればただの『客』だろ?」
創真が手ぬぐいで汗を拭い、いたずらっぽく笑う。その飾らない真っ直ぐな眼差しで見つめられた瞬間、八重子の胸の奥で固く結ばれていた何かが、解けていくのを感じた。
「あ……くっ……私……私は……っ」
あまりの美味しさと、胸を突き上げる愛おしさに目頭が熱くなる。膝の力が抜け、崩れ落ちそうになる八重子の身体を、カウンターを回り込んできた創真が優しく抱き止めた。
「おっと、危ねぇな。……美味しかったか?」
「……っ、負けたわよ……私の……負け……っ」
創真の身体から漂う、スパイスとほのかな汗の匂い。男らしい胸板の厚みを感じた瞬間、八重子の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。自分を買いかぶりもせず、下に見もせず、ただ一人の女性として温かい料理で満たしてくれたこの少年に、彼女は生まれて初めて「すべてを委ねて甘えたい」という激しい感情を抱いたのだった。
「……創真くん……私を……好きにしていいわ……っ」
八重子は自ら創真の首に細い腕を回し、潤んだ瞳で彼の唇を求めた。
「……えっ、本気か?」
創真から問いかけられた瞬間、八重子はハッと息を呑み目を見開いた。その顔には混乱と羞恥が混在している。地上げ屋として築き上げてきた自分の虚勢が完全に崩れ去り、あまりの自分勝手さと恥ずかしさにパニックになりかけた。
「ちょっ、待ってよ! 何言ってるの、私——」
言い終わる前に、八重子は自分から溢れ出す感情を止められず、創真の胸元にしがみついた。戸惑う気持ちを抱えながらも、彼の手を引き寄り添うように唇を重ねていく。
「んっ……!? んむぅ……♡」
唇同士が触れ合う柔らかい感触と共に、創真の熱い舌が押し入ってくる。抵抗することなく素直に受け入れた口腔内で舌が絡み合い、創真の唾液と自分のものがぐちゅぐちゅと混ざり合っていく。
ぢゅぷっ♡ くちゅっ♡
「んんっ……はぁ……っ♡ 創真くん……私ね……ずっと……っ♡」
息継ぎの合間に零れる言葉とともに、八重子の両手は強く創真の背中にしがみついた。十数年もの間、誰にも隙を見せまいと鍛え上げた心の鎧が、今まさに内側から溶けて砕けていく。
「……創真くん、奥へ行きましょ……?」
八重子は自ら創真の手を握りしめ、小上がりの奥座敷の座布団の上へと引き寄せるように導いた。煌々と灯る電球の光がふたりを照らす。
「ほんとに……いいのか?」
耳元で低く囁かれる声に、八重子はゾクゾクと全身を震わせた。
「ううん……いいの……私のほうが……あなたに抱かれたいの……っ♡ 私のすべてを……捧げたいの……っ♡」
八重子は自分からブラウスのボタンに手をかけ、一つひとつ外していった。露わになった薄いピンク色のブラジャーとショーツは、意外にも可憐なデザインだった。地上げ屋としての威厳とのギャップに、創真は思わず感嘆の笑みを漏らす。
「へぇ……似合ってるぜ。俺の好きなタイプかもな」
「そんなに……見ないでよ……恥ずかしいでしょ……♡ もう……バカぁっ♡」
創真の唇が鎖骨から胸元へと滑るように移動する。八重子は小さく体をよじらせながら甘い吐息を漏らした。ブラジャー越しに伝わる温かい舌の感触と、直接触れる硬い指の質感が交錯する。
「あっ……そこぉ……っ♡ 強く……吸っちゃ……ダメぇ……っ♡」
吸い付かれるたびに背中が弓なりにしなる。長年抑圧してきた女の歓喜が堰を切ったように湧き上がっていた。
「気持ちいいんだろ? 俺の料理と同じくらいにな」
意地悪そうに問いかける創真に対し、八重子は顔を真っ赤にして自ら甘く囁いた。
「んぁ……もう……我慢できないわ……♡ だから……下も……触って……?♡」
普段なら決して言えないような媚びる言葉が自然と出てくる。創真の指がショーツの中へ侵入すると、熱く湿った秘裂が彼の指を容易く受け入れた。
くちゅっ……くちゅっ……♡
「すげえ濡れてるじゃんか。地上げの時よりずっとな」
「はぁっ……言わないで……そんなことぉ……っ♡」
言葉責めに羞恥心を煽られつつも、奥から湧き上がる快感に抗えない八重子だった。
「じゃあ……次は俺を味わってもらう番だ」
創真が立ち上がりズボンを下ろすと、八重子の眼前には隆々と勃起した男性器が現れた。大きさに思わず息を呑む。
「すごい……これが……あなたの……♡」
戸惑いながらも惹きつけられるように手を伸ばす八重子。その滑らかな指が竿に触れると、創真が小さく唸った。
「おおっ……いいぜ……好きにやってみろよ」
促されるまま八重子は両手で包み込むと上下にゆっくりと擦り始めた。同時に尖端に唇を近づけて恐る恐るキスをする。
ちゅぷっ♡ ちゅぱっ♡ ぬちゅっ♡
「うぉっ……フェラうまっ……慣れてんじゃねえのか?」
「んむぅ……そんなわけ……ないでしょ……っ♡ 創真くんだから……したくなったの……っ♡」
初めての奉仕に戸惑いながらも一生懸命に舌を這わせる。硬い亀頭を優しく舐め上げたり、喉の奥まで飲み込んでみたりと、創真の反応を見て次第に動きが大胆になっていった。
「イキそうになる……出そうだ……」
「んっ……ちょうらい……私の口に……全部……っ♡」
その瞬間、創真が大きく震える。
どぴゅっ! びゅるるっ! どくどくっ!!
「んんんぅ~~~っ!?♡」
噴き出した濃密な精液が八重子の口中を満たす。独特な苦味と熱さに戸惑いながらも、必死に嚥下しようと喉を鳴らす。
ごくんっ♡ ごくっ♡
「はぁ……飲んじゃった……♡ すごい味……♡」
顎を伝う滴を指ですくって舐め取りながら恍惚とした表情を浮かべた。
「よくやったな」
創真が頭を撫でると八重子は目を細める。まるで猫のように甘えて彼の膝に顔を埋めた。しかし次の瞬間、再び硬くなった創真のものを感じて驚愕の表情に変わる。
「え……嘘でしょ……もうこんなに……?♡」
「まだまだこれからだぜ。お前の身体……味わい尽くしたいからな」
創真が八重子のショーツを脱がせると、露わになった股間からとろりとした愛液が溢れているのが見えた。自分でも信じられないほどの興奮状態にあることに気づき、八重子は羞恥と期待が入り混じった声で叫んだ。
「ひぃっ……こんなに濡れてる……おかしいわ……私ったらぁ……っ♡」
創真がその部分に指を二本もぐり込ませる。既に十分すぎるほど準備万端な蜜壺が容易く受け入れた。
ぐちゅっ! ぐちょっ! ずちゅっ!
「はぁああっ! 指ぃ……深い……っ♡ そんなに掻き混ぜたら……イッちゃうぅっ!♡」
激しい水音と快感に翻弄されながら背中を弓なりに反らせる。膣内が痙攣し始めても創真の容赦ない指責めは続いた。
「もう我慢できねえな」
創真は自身の先端を八重子の入口に押し当てると、一気に貫いた。
ずぶぶぶっ! ずちゅうぅぅっ!!
「きゃあああぁぁっ!! 奥まで……届いてるぅぅっ!♡」
待ち望んでいた圧倒的な存在感に八重子の全身が歓喜に打ち震えた。彼女の弱点を探るように緩急をつけながら創真が腰を動かす。
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ずちゅっ♡ ぐちゅっ♡
「すごっ……これぇ……最高……っ! やみつきになっちゃうぅっ!♡」
創真の荒い息遣いと混ざって響く淫靡な音。結合部から溢れる透明な愛液が座布団に染みを作っていく。
「お前の中……すげえ締まって……離そうとしねえな」
「だって……幸せなの……っ♡ こんなに気持ちいいの……初めてなんだもんっ♡」
これまで積み上げてきた偽りの仮面は完全に剥がれ落ちた。素直になった八重子は創真の首にしがみつくと、さらなる快楽を求めて腰を振る。
ぐりゅっ♡ くちゅっ♡ ずりゅりゅっ♡
創真が八重子の両脚を抱え上げると、更に深くまで挿入が可能になった。最奥を突き上げる角度に変わったことで新たな快感が迸る。
「ひゃうぅっ! 奥……当たってるっ! そこ……弱いのにぃっ!♡」
「ここがいいのか? もっと突いてやるよ!」
ずこんっ! ずんっ! どちゅっ!
「イクっ! イっちゃうっ! やめてぇっ!♡」
泣き叫ぶような嬌声を上げながらも身体は正直に反応してしまう。絶頂に向かって急上昇していく快感の波が頭の中で弾けた。
「一緒に……イこうぜ!」
ずぶぶぶっ! どちゅんっ! びゅるるるぅぅっ!!!
「いやああぁぁっ! 熱いの……出てるぅぅっ!!♡」
大量の熱い精子が注ぎ込まれるのを感じながら八重子は全身を仰け反らせた。長い長いオルガスムスの最中、彼女の意識は真っ白に染まっていく。
「はぁ……はぁ……創真くん……」
ぐったりとした八重子を創真が優しく抱き起こす。お互いの汗で湿った肌を寄せ合って抱擁すると、心臓の鼓動が共鳴しているようだった。
「美味しかったか? 俺の『特大サイズの極太ジャンボフランク定食』はよ」
創真が茶化すように言うと、八重子は涙ぐみながらも嬉しそうに微笑んだ。
「最高でした……ご馳走様でした……♡」
こうして峰ヶ崎八重子は地上げ屋としての矜持を捨て、創真の愛情と料理に完全降伏することとなった。二人の関係はこの夜を境に決定的なものへと変わり始めていた……
静まり返った『ゆきひら』の小上がり。
激しい情熱の余韻が漂う空間で、八重子は創真の胸の中にすっぽりと収まっていた。
先ほどまでの高慢な地上げ屋の面影は微塵もない。乱れた着衣のまま、創真の肌に頬をすり寄せ、愛おしそうに彼の腕を強く抱きしめている。
「……もう、地上げなんてやめるわ」
八重子は小さく甘い吐息をつきながら、創真の胸元を細い指先となぞった。
「こんなに温かくて……美味しい料理を作る店を壊そうとしてたなんて、私、どうかしていたわ……っ」
「はは、気づいてくれたならいいさ。またお腹が空いたら、いつでも食べに来てくれよな」
創真がぽんぽんと優しく彼女の頭を撫でると、八重子は「ん……」と心地よさそうに目を細め、さらに深く身体を寄せてきた。
「見に来るわよ……毎日でも。……ううん、本当はここから帰りたくないくらい……」
彼女は創真の顔を見上げ、上目遣いで甘い微笑みを浮かべた。バリバリ働く大人の女性が見せる、完璧に恋に落ちた乙女の顔だった。
「ねぇ、創真くん。また私に……あの温かい料理、作ってくれる?」
創真は胸を張り、爽やかな笑顔とともに八重子の手を取った。
「お粗末!」
その力強い決め台詞を聞きながら、八重子は彼の首筋にそっとキスを落とした。彼女の心も身体も、創真の料理と温もりに完璧に征服されていたのだった。
(第1話 おわり)