月明かりが静かに差し込む、遠月学園・薙切邸のえりなの私室。
シルクのパジャマに身を包んだ薙切えりなは、バルコニーに通じる窓辺で夜風に吹かれながら、ぼんやりと夜空を見上げていた。その頭から離れないのは、昼間に叩きつけられた一皿——幸平創真が作った『化けるふりかけごはん』の、あまりにも圧倒的で温かな衝撃だった。
「……信じられませんわ。あんな庶民の料理で、この『神の舌』が屈してしまうなんて……」
ぽつりと漏らした言葉は、いつもなら怒りに満ちているはずだった。しかし今のえりなの声には、胸の奥をキュッと締め付けられるような、甘く切ない熱が混ざっている。
そこへ、温かいハーブティーを載せたトレイを手にした新戸緋沙子が静かに部屋へ入ってきた。
「えりな様、お飲み物をお持ちしました……あら?」
えりなのどこか物思いに耽るような横顔を見て、緋沙子はハッと息をのむ。その表情は、緋沙子自身がここ数日、鏡を見るたびに目にしていたものと全く同じだったからだ。
「……緋沙子。あなたも、まだ起きていたのね」
「はい。……えりな様、何かお悩みですか? もしかして……昼間の、幸平創真の件でしょうか」
創真の名が出た瞬間、えりなの肩が跳ね、頬がカッと赤く染まる。
「っ……! べ、別に彼のことを考えていたわけではありませんわ! ただ……あの料理の『温もり』が、頭から離れないだけよ……」
強がるえりなだったが、その声の震えを緋沙子が見逃すはずもなかった。緋沙子はそっとティーカップをテーブルに置くと、えりなの目の前に歩み寄り、胸に手を当てて静かに口を開いた。
「……分かります、えりな様。実は……私にも身に覚えがございますの」
「え……? 緋沙子、あなたも……?」
「はい。私は今日、幸平くんに『特製まかない薬膳スープ』を作ってもらいました。……あんなにも自分のことを気遣い、心と体を温めてくれた料理は初めてでした。……私、彼に触れられた時、胸が苦しくなるほどときめいてしまったのです」
緋沙子は恥ずかしそうに目を伏せながらも、真っ直ぐに己の気持ちを打ち明けた。
えりなは目を丸くし、やがてふっと力を抜くように小さく吐息をつく。
「……そう。あなたも、あの男に……」
「申し訳ありません、えりな様! えりな様のお心を惑わすような者を、私が好きになるなんて……っ」
焦って頭を下げようとする緋沙子の手を、えりなは優しく包み込んだ。
「謝る必要なんてありませんわ、緋沙子。……だって、私も同じなのですから。認めたくなかった……不合格にして追い払いたかった。けれど、あの温もりを知ってしまった以上、もう嘘はつけません。……私は、幸平創真のことが好きなのですわ」
月光の下、ふたりの少女はお互いの秘密を分かち合った。
創真の料理の凄まじい美味しさ、食べた瞬間に身体を駆け巡ったあの情熱的な熱気、そして彼に抱き寄せられた時に感じた男らしい温もり。語り合えば語り合ほど、ふたりの胸の中に燻っていた恋心は熱を帯び、お互いの瞳は潤みを増していく。
「えりな様……」
「緋沙子……。私達、同じ人を好きになってしまいましたのね」
お互いの指先が絡み合う。創真への恋心を共有したことで、ふたりの間にはこれまでにない濃密で甘やかな絆が芽生えていた。えりなは緋沙子の華奢な身体をそっと抱き寄せ、その柔らかい髪に顔をうずめた。
「えりな様……あたたかいです……」
「ふふ、緋沙子も……。創真の料理みたいに、心がポカポカしてきますわね……」
同じ少年に恋をした乙女たちは、お互いの火照った身体と温もりを確かめ合うように、深く寄り添い合っていった。
「えりな様……」
緋沙子は熱い吐息を零しながら、えりなの頬へそっと指先を滑らせる。指先が触れた瞬間、えりなの体がピクリと反応し、その過敏な神経が緋沙子の触れた一点から全身へと温もりの波紋を広げていく。
「あ……っ。緋沙子……そんな風に触れられたら……」
普段はどんな高級食材でも完璧に味わい尽くす『神の舌』の持ち主であるえりなが、いまはただの少女のように頬を赤らめていた。創真に触れられた時の熱と感触を思い出し、胸が苦しくなる。
「あの……幸平くんに触れられた時のことを……思い出してしまいました」
緋沙子も同じ感覚を覚えていたようで、恥じらいながらも率直に心情を吐露する。二人の共通の秘密が、夜の静寂に淫靡な香りを漂わせる。
「わたくしもよ……。あの庶民の男に……創真に触れられた時の熱が……まだ消えていないみたい……」
えりなはそっと緋沙子の手を取り、自らの胸元へと誘導する。パジャマの上からでも分かる柔らかな膨らみが緋沙子の指先を受け止めた。
「はぁっ……んんっ♡」
予想以上の柔らかさと弾力に緋沙子は驚く。薙切家の至宝とも言うべきえりなの肢体。それを今までにない近さで自らの指で確かめている事実に、背徳感と興奮が沸き上がる。
「えりな様……すごく熱いです……。まるであのふりかけごはんの情熱みたいに……」
緋沙子は自分の指先に伝わってくるえりなの体温を創真の料理になぞらえる。えりなの身体は確かに創真の料理から受けた熱量を記憶しており、その記憶が肌を通じて蘇っているかのようだった。
「そう……あの時の温もりが……んっ……消えないの……っ♡」
えりなは緋沙子の手の動きに合わせて身を捩る。自分だけでは届かない背中側までそっと撫でられる感覚が新鮮で心地よかった。さらに緋沙子はえりなを後ろから包み込む姿勢になり、背中に胸を押し当てながら、耳裏やうなじへしっとりとした唇を這わせる。
れろ……ちゅぷっ……
「んぁっ……後ろからそんな……首筋を舐められたら……私……っ♡」
「えりな様のうなじ……すごくお熱いですわ。創真くんに強く抱きしめられた時のことを思い出していらっしゃるのですね……」
背後からの甘い囁きと舌の刺激に、えりなは全身の力を抜いて緋沙子の体に預けてしまう。
「こちらはいかがですか? 創真くんにしていただいた時はここがとても気持ち良かったのですが……」
緋沙子はパジャマのボタンを一つずつ外しながら鎖骨の辺りを優しく舐める。
ちろっ……れろぉっ……
「ひゃあっ! そ……そんな所舐められたら……汚いですわよ……っ♡」
「とんでもございません。えりな様の肌は極上のスイーツよりもずっと甘くて清らかです」
丁寧かつ執拗な舌の動きにえりなは悶絶する。創真にされた時は全身を強烈な熱量で包み込まれるような快感だったが、今は繊細で優しい愛撫によりじわじわと昂ぶりが募っていく。
「んっ……そこ……弱いんですの……もっと……強く……っ♡」
「承知しました」
緋沙子は意を決してパジャマを脱がせると直接肌を愛撫し始める。えりなの乳首がぷっくりと勃起しているのを見つけた。
「可愛らしいですわ……ここも創真くんを想ってこんなに……」
「や……やだぁ……見ないで緋沙子……っ♡」
羞恥で身を縮めるえりなだったが内心ではもっと触れてほしいと願っていた。緋沙子はそんな気持ちを見透かしたようにそっと口に含む。
ちゅぱっ……くちゅっ……れろぉっ……
「あぁっ! 喉の奥まで来るような感じ……すごい……っ!♡」
敏感な先端が温かい口腔内で弄ばれる感覚にえりなの身体が跳ねる。同時に緋沙子の指先はショーツの中に潜り込み始めている。
「こちらもかなり湿っていらっしゃいますね。創真くんのあの熱いお料理と、彼の手つきを思い出してしまわれたのでしょうか?」
「やだ……そんな言い方……でも……ほんとに創真の感触を思い出しちゃって……っ♡」
答えているうちにショーツが完全に下ろされる。緋沙子は指で愛液を掬い取り潤滑油として使用した。
「えりな様……失礼致します」
ぬぷぅっ!
「ひぃんっ! 急に二本も入れないでくださいましっ!♡」
前触れなく挿入された中指と薬指が膣壁を探る。しかしその動きは創真の荒々しさとは正反対で慈愛に満ちていた。
くちゅっ……くぷぷっ……にゅるっ……
「痛かったら申し上げてくださいませ。でも……すごく熱くて……私まで興奮してしまいそうです」
「大丈夫ですわ……むしろもっと欲しいくらい……んっ……そこです……!♡」
Gスポットを擦られるとえりなの声が一段と艶を増す。二人だけの空間で主従という関係性は完全に忘却の彼方に追いやられていた。
緋沙子はベッドの上で倒れ込むえりなの上にかぶさり、お互いの脚を絡め合わせるような対面座位の体位へと移行する。胸と胸を密着させ、肌の温もりを直接分かち合いながら、下腹部を擦り合わせた。
「あぁっ……緋沙子……密着して……お腹の底から熱くなってきますわ……っ♡」
「えりな様……私をもっと強く抱きしめてくださいませ……っ!」
「緋沙子……もっと傍にきて……っ♡」
えりなは手を伸ばし緋沙子を深く抱き寄せるとそのままキスを求める。唇が触れ合うと同時に舌が絡み合う濃厚なものとなった。
ちゅぱっ! ぢゅるるっ! くちゅくちゅっ!
「んぅ……緋沙子……っ。もっと……っ♡」
「えりな様……素敵ですわ……♡」
唾液の交換だけでも至福の悦びを得ながらも下肢では指が更に活発に動き出した。愛液が溢れ出しシーツを濡らしていく。
「だめ……イキそう……っ!♡」
「構いませんわ。私の前でいくらでもお見せくださいませ」
耳元での囁きが最後の引き金となる。
「あぁっ! イクぅっ!!♡」
びくんっ! びくびくびくんっ!!
えりなの身体が弓なりに反り返り絶頂を迎えた。膣壁が激しく収縮し緋沙子の指を食いちぎらんばかりに締め付ける。
「はぁ……はぁ……すごかったですわ……緋沙子……♡」
余韻に浸るえりなを見つめながら緋沙子も自分のショーツが湿っていることに気づく。
「わたくしも……そろそろ限界みたいです」
「わたくしが……今度はあなたの番よ……?」
えりなは妖艶な笑みを浮かべると緋沙子を寝かせた。今度は攻守交代である。
えりなは緋沙子の制服のブラウスを丁寧に脱がせ、露わになった華奢な肩や胸元へ情熱的な口づけを落としていく。
ちゅっ……れろっ……
「あっ……えりな様……そんなに激しく吸われたら……跡が……っ♡」
「いいではありませんか。あなたも創真の熱を感じてこんなにも求めているのですもの……」
えりなは緋沙子を四つんばいの姿勢にさせると、後ろからその豊満な胸を手で包み込みながら、下着の隙間に細い指を滑り込ませた。背後から耳元へ息を吹きかけ、創真に攻め立てられた時の秘所を意地悪く再現していく。
「さっきのお返しよ。緋沙子も創真のこと考えて濡らしてしまったのでしょう?」
見透かされていたことに恥じらいを覚えつつも拒否する気力は残っていなかった。えりなの細い指が緋沙子の秘所へ滑り込む。
「ひゃんっ!? いきなりそこ……っ!♡」
「わたくしと同じ所がこんなに……興奮していたのね」
くちゅっ! じゅぽっ! ぐちゅぐちゅっ!
先程とは違い多少の荒々しさもある愛撫。しかし二人の気持ちは完全にシンクロしていたため痛みではなく快感へ変換される。
「あぁっ! そこ……っ! 創真くんにされた時みたい……!♡」
「一緒に思い出してあげるわ。あの男のことを考えながら……イッてしまいなさい」
「やぁあっ! 出ちゃうっ! いきますぅぅっ!!♡」
ぷしゅっ! ぴゅるるるっ! どぷどぷっ!!
潮を噴き上げながら絶頂する緋沙子。その姿を愛おしそうに見つめながらえりなは微笑んだ。
「可愛いわ……緋沙子」
「えりな様……ありがとうございます……♡」
二人は疲れ果てたように抱き合い眠りについた。創真への想いを共有した特別な夜の余韻に包まれながら……
やわらかな天蓋付きのベッドの上。
激しい情熱と快楽の余韻が漂う中、えりなと緋沙子は一枚のシーツに包まれ、ぴったりと身体を重ね合っていた。
乱れた髪をベッドに散らし、えりなは緋沙子の頬を優しく指先で撫でる。緋沙子はうっとりと目を細め、えりなの胸元にすっぽりと顔をうずめていた。
「……不思議ですわね、緋沙子。あなたとこんな風に温もりを分け合うなんて……」
「はい……。えりな様とこうしてひとつになれて、私……胸がいっぱいです……っ」
緋沙子は微かに耳まで赤くしながら、えりなの背中に回した腕にギュッと力を込めた。
「幸平くんへの気持ちを打ち明け合えたからこそ……私、えりな様の本当の温かさに触れられた気がします」
「……あんな庶民の男に振り回されるのは癪ですけれど……彼が私たちを引き合わせてくれたようなものですわね」
えりなはくすりと可憐に微笑むと、緋沙子の額にそっと優しいキスを落とした。
「ねぇ、緋沙子。……これからは、えりな様と秘書という関係だけではなく……恋のライバルとして、そして一番大切な存在として……ずっと側にいてくださる?」
「はい……! もちろんです、えりな様……ううん、えりな」
初めて名前を呼び捨てにした緋沙子に、えりなは嬉しそうに目を細めた。
創真という存在によって開かれた少女たちの情熱は、お互いを深く愛おしむ甘い夜の中に、いつまでも温かく溶けていくのだった。
(第4話 おわり)