新たな棟梁に選ばれた主人公の命を奪いに来た女アサシン達を返り討ちにして犯し奪い娶る現代ファンタジー 作:三流木青二斎
肉体の倦怠感を覚えた状態で漆篠夕は学園へと登校する。
二人は彼の登下校を見守りつつ、鬼月愛露は皐めゐに視線を促す。
「ご主人様、このまま行かせて良いんゃね?」
心配しつつある鬼月愛露は責める様に皐めゐに言うのだが、彼女は微笑みを崩すことなく静かに言い放つ。
「御心配には及びません……この天和の地は、我々の様な闇の末裔が活躍する事は出来ない」
闇の末裔が表舞台に出ず裏社会でしか生きられない理由。
それは、彼らの力を無力化する闇を照らす瞳を持つ者で溢れるが故。
「むしろ、人気の無い私有地を陣取られる事こそが坊ちゃまにとって不利になる事でしょう」
「逆ゃないの?死之技が使えん方が不利ゃって」
鬼月愛露の言葉に溜息を吐く皐めゐ。
「貴方がたにとってはそうなのでしょうね、けれど坊ちゃまは……幼い頃から人の眼の前で生きているのです、即ち……他の暗殺師よりも地の利を得ていると言う事」
この人が溢れる世に、漆篠夕が敗ける事は無いと、そう皐めゐは断言するのだった。
學園まで向かう道中。
漆篠夕は電車に乗り込む。
明朝の通勤ラッシュ、人込みが多い車両の中、彼は慣れた様子で自分のスペースを確保する。
背中に壁を凭れかけて、周囲の人間が此方に敵意が無いかを確認。
例え暗殺師が来ようとしても、人を掻き分けて来る流れを感じ取る事が出来る。
「……」
人気のない場所を歩くよりも、人込みが多い方が安全であった。
そう思っていた漆篠夕だったが、思い切り深い溜息を吐くと共に指を鳴らす。
電車が次第に減速する最中、扉が開く寸前。
ぴんっ、と。
栓を引き抜く音と共に、からん、と何かが転がる。
ドンッ。
瞬時、車両の中で響く爆発音。
周囲を包み込む閃光に車両に乗り込んだ乗客達は悲鳴を挙げる。
シュゥゥ……。
鼻腔を突き、眼球を蝕む煙が発生すると、瞬時に乗客達はパニックに陥る。
「な、げほっッげほっ!!」
「ば、爆発だッ!!」
「おい、押すなッ!!止めろッ!!」
乗客達の声が響く車両の中。
扉が開き、空気の流れを感じた乗客はその流れに進む様に電車の中から飛び出る。
漆篠夕は顔を俯き、何も言わずに声を押し殺す。
今、この状況で一般人と共に紛れて逃げても、目が使えない乗客と、煙で視界が遮られた状態では、闇を照らす瞳は期待出来ない。
静かに彼は鞄の中から布を取り出す。
それは、闇の末裔である暗殺師が作成した技術由来の仮面である。
顔面に装着すると、ゆっくりと漆篠夕は目を見開き、顔を挙げた。
保護フィルターとしての効果を持つ仮面は、煙による催涙効果を打ち消し、視界を確保する。
「―――漆篠夕だな?」
車両の中に残るのは、その場に腰が抜けて動けない一般人。
そして、黒い衣装に身を包む殺し装束の男……暗殺師。
漆篠は敵を見据えた状態で首の関節を鳴らす。
「俺の登校時間を邪魔したな?」
殺意を滾らせる漆篠は指先から黒髄を生み出し、漆黒のナイフを生成した。
相手は一歩、前に出ると共に両腕を振るう。
服の隙間から細長い両刃剣を生成すると、それを構え漆篠へと接近。
「ふッ」
息を吐く様に刃を振るう。
それを軽くいなして漆篠は相手の腹部に向けてナイフを突き刺す。
「っ」
だが、彼の腕力を以てしてもナイフが深々と腹部に突き刺さる事は無い。
屈強な肉体、と言うよりかは、肉体の皮膚、そのものが鋼の様に出来ている。
(あの鋼とか言う男の血筋か、衣服の手触りと感触から察するに)
再度、腕を大きく振るい、男の攻撃を回避する漆篠夕は車両の後ろへ詰まる。
(後ろへ逃げる気か……だがッ)
別車両へ逃げるつもりかと、暗殺師は思った。
人込みに紛れ込まれれば、少なくとも死之技は使えない。
しかし、漆篠は後ろから感じる殺意に反応する。
(車両の扉の先にも暗殺師か)
別の車両へ逃げ込めば、他の暗殺師が攻撃をしてくる。
恐らくは反対側の車両も同じ事だろう。
死之技を使えば、多少は有利にはなるだろうが……それは漆篠の性格からして使えない。
(この程度の雑魚に俺の力は使う気は無い、何よりも、他に暗殺師が居るのなら、情報を取られる事の方が厄介だ、忌々しい)
舌打ちを打ちながら、漆篠夕は地面を蹴って暗殺師に接近する。
同様に暗殺師も両腕を構えて攻撃を行う。
漆篠夕は相手の攻撃を回避した相手の背後に向けてナイフを振るう。
しかし暗殺師は振り向き様に腕を振るい攻撃する瞬間を潰す。
そのまま距離を取る漆篠夕は、上着を盾の様にして構えた。
(なにを)
身を屈める様な仕草、同時に漆篠夕の手元から転がるのは……暗殺師が所有していた予備の閃光弾だった。
(っ?!何故)
予備を持っている事を知っていたのか。
既に一度目の接触時に相手の腹部にナイフを突き刺した瞬間、其処で漆篠夕は衣服に閃光弾を所有している事を、接触した時に知ったのだ。
そして、二度目の接近した時、攻撃する為に近付いたのではなく、懐の閃光弾を盗む為に行動していた。
結果、閃光弾は漆篠夕の手の中に。
ピンを引き抜き、数秒後、目を焼く程の眩い光が発生する。
車両の中では煙と共に散る光の飛沫に、騒ぎを聞きつけて一般客が車両に視線を向けていた。
閃光弾が発光した十秒後、車両の中から出て来る漆篠夕は、近くに居た一般客を支えながら出て来る。
「大丈夫ですか?」
そう聞きながら、漆篠夕はその女子生徒の顔の上に上着を掛けて好青年を演じていた。
(……くッ、これでは迂闊に近づけない)
(今回の作戦は失敗だッ)
周囲の、一般客に紛れる暗殺師達は息を潜めながらその光景を見据える。
車両の中は段々と煙幕が晴れていき、警備員が車両の中を確認すると、一人の大柄の男が横たわって息絶えているのを発見した。
首元を大きく斬られた男は、懐から複数の爆弾を所有している事が分かると、一種のテロ行為だとして、後日その様に処理される事となった。