※この作品はR-18です。

僕のヒーローアカデミア  ─MEGADILE─   作:餅米蒟蒻

10 / 11


久しぶりの投稿です。 

夜風が少し涼しくなってまいりました。もうすぐ秋ですね。

皆様、季節の変わり目で体調を崩さないように気を付けて健康的に過ごして下さい。





Episode10 COMBAT TRAINING"戦闘訓練"

 

 

 

 

戦闘訓練──戦術とお互いの"個性"が絡み合う第二試合が開始。

 

ヴィラン側の拠点となるビルの一室。

 

 

 

迎撃体勢をとる尾白とストーン、そして核の前でじっと防御体勢を取る葉隠。

 

不気味な静寂の中、緊張を紛らわせるように葉隠が口を開いた。

 

 

 

【葉隠】

「よーし……こうなったら覚悟決めちゃうぞ!轟君でも障子君でも、どっからでもかかってこーい!」

 

 

【尾白】

「葉隠さん、声が大きいよ!それに油断しちゃダメだ。相手はあの推薦入学者と冷静そうな障子だ。必ずしも正面の入り口から入ってくるとは限らないよ。一応、そっちの窓も警戒しておいて!」

 

 

【葉隠】

「!確かに言われてみれば!!ありがと尾白君、見てみるね!」

 

 

 

 

葉隠は身を低くしながら背後の窓へと忍び寄り、テケテケテケと爪先立ちになって下の様子を慎重に覗き込む。

 

すると、下に見える異様な光景に違和感を覚えたのか、思わず声を漏らした。

 

 

 

 

【葉隠】

「あれぇ……?ねぇねぇ、下には障子君しか居ないんだけど……何だかあの人ワサワサしてて変だよ……?」

 

 

【尾白】

「ワサワサ……? そういえば障子の"個性"はよく知らないな……」

 

 

【ストーン】

「あぁん?あのタコか!確か昨日握力測る時に、ニョキニョキ腕を沢山生やしてただろ!!シンプルに腕をいくらでも増やせる"個性"なんじゃねえのか!?」

 

 

【尾白】

「葉隠さん、一応どんな感じかもう少し詳しく教えてくれるかな?向こうにこっちの存在を警戒されない程度にね」

 

 

 

尾白はストーンと共に正面入り口の警戒を解かないまま葉隠に尋ねる。

だが───。

 

 

 

【葉隠】

「うん、えーっと……!?ええっ!?こっち見た!?障子君こっち見てた!!もしかして私の位置、完全にバレてる!?」

 

 

【尾白】

「そんなはずは……!かなり下と距離があるし、流石にこの中の声までは聞こえないはず……」

 

 

【葉隠】

「(やばい、バレてるならもう思いっきり堂々と見ちゃえ!)……えーと……な、なんか……腕増やす"個性"じゃないっぽいよ!あの、餃子の皮みたいなビヨビヨがついた腕がニョキニョキいっぱい伸びてて……あれ耳!?耳だ!腕の先からいっぱい耳が生えてる!!」

 

 

【尾白】

「(餃子の皮……あ、多分腕の間の膜のことかな)……耳!? もしかして単に腕を増やす"個性"じゃなくて、『自分の身体のパーツなら何でも生やせる腕』の"個性"なのか……?」

 

 

【ストーン】

「だとしてもだ。ただ耳を数個生やした程度で、この密閉された部屋の声を拾えるわけねぇだろ。多分生やしたその耳は、本物の耳以上に性能が研ぎ澄まされてやがるんじゃねえか?……俺様と少し似てやがる!」

 

 

【尾白】

「そういう事か……!尋常じゃないほど強化された身体のパーツか……」

 

 

 

障子の脅威的な索敵能力を察知した尾白は、咄嗟に口を閉じると、足元の埃っぽい床に指で文字を書き始めた。

 

そして葉隠の肩をトントンと叩き、ストーンにも手招きしてその地面を示した。

 

 

 

『なら、なるべく会話でのやりとりは不味い。簡単なジェスチャーと合図で頑張ろう』

 

 

書かれた文字を読んだ葉隠は深く頷き、ストーンも納得したように首を縦に振った。

 

通常のストーンなら「知るか!」と大声で叫んで暴れ出すところである。

 

だが、短い期間に尾白と打ち解けて多少信頼しているのか、素直に従った。

 

 

 

………………が。

 

 

 

その直後。

 

ストーンの太い首が、バッ!!と一定方向──部屋の右斜め下に向かって素早く向けられた。

 

 

尾白と葉隠も「?」となり、思わずストーンの顔を見つめる。

 

ストーンは巨大な鼻孔をスゥー……っと深く鳴らし、何かを嗅ぎ取ると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間。

 

ストーンは、二人の思考を遥かに置き去りにする予想外の行動へと打って出た。

 

 

 

【ストーン】

「ヴオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 

 

地響きのような咆哮と共に、いきなり太い腕を振りかざし、葉隠と尾白目掛けて突進してきたのだ。

 

味方からの突然の奇襲に、二人は回避行動すら取れず完全に硬直する。

 

 

 

【葉隠】

「きゃぁぁぁあっ!!?何するのっ!?」

 

 

【尾白】

「えっ!?ストーン、何を……!!」

 

 

 

バシッ!!!!!!!

 

 

 

【葉隠】

「ひぐっ!?」

 

 

【尾白】

「ぐはっ!?」

 

 

 

容赦のない薙ぎ払いによって、尾白と葉隠は猛烈な勢いで部屋の最も遠い両端の壁際まで叩き飛ばされた。

 

そして、二人が吹き飛んだコンマ数秒後。

 

 

 

ゴヒュウウウウッ!!!!!!!!

 

 

 

極寒の冷気が部屋全体を包み込み、壁も、床も、天井も、一瞬にして完全に凍りついていた。

 

しかし、尾白と葉隠の二人はストーンによって部屋の隅へと力任せに弾き飛ばされていたおかげで、間一髪、身体が氷漬けになる惨事を免れる事が出来たのである。

 

 

 

【葉隠】

「ゔぅっ……痛ったぁぁぁ……!お尻打ったぁぁ……っ!なんで急にぶつのー……!」

 

 

【尾白】

「ストー……えっ。なっ!?これっ……まさか!?」

 

 

 

必死に起き上がり、頭を振って視界を確保した尾白は、目の前の絶望的な光景に言葉を失う。

 

視界には──巨大な氷の塊と化し、全身をガチガチに凍結されたストーンの姿があった。

それを見た尾白は、一瞬で誰の"個性"による攻撃かを理解した。

 

 

 

【葉隠】

「ストーン君!!?私たちを庇ってくれたの!?どうしよう!! な、何か溶かす物探さなきゃ……!」

 

 

【尾白】

「ダメだ葉隠さん!探してる間に防御が手薄になる!!ストーン、少しの間だけ我慢しててくれ!俺が少しでも轟を止める!葉隠さんは外の障子を相手にしてくれ!二人まとめて挑むと、あの攻撃で一網打尽にされるのがオチだから、別ルートから向かってくれ!!」

 

 

 

事態の緊迫さに、先程決めた「ジェスチャーでやり過ごす」ルールすら吹き飛び、大声で指示を飛ばす尾白。

 

しかし────。

 

 

 

【ストーン】

「……いいや尾白。お前は下のタコを相手にしに行け。お前は確かに体術は強えが、こういう特殊な攻撃は弱い……じゃなくて苦手だろ」

 

 

【尾白】

「それは……認めるけど!でも、お前は一体その状態でどうs」

 

 

【ストーン】

「オルァ!!!!」

 

 

 

バキャァァァァッ!!!

 

パキッ……カランカラン……ッ!

 

 

 

ストーンは尾白の問いに言葉ではなく行動で答えた。

 

身体を覆っていた分厚い氷塊を単純な力だけで、まるで薄い飴細工でも割るかのように粉々に砕き割って脱出したのだ。

 

 

 

【尾白】

(……生身の筋力だけで氷を砕いた!?本当にデタラメなパワーとタフネスだな……ん?こいつの肌……デコボコの鱗が浮き出てる?凍らされる直前、咄嗟に"個性"を発動させたのか……?)

 

 

【葉隠】

「ええっ!?全然寒そうにしてないけど…本当に大丈夫なの!?」

 

 

【ストーン】

「はっ!この程度、俺様からすりゃ屁でもねえわ!!!お前等グズグズしてねぇで早く行け!!お前等は下のタコをぶっ殺してこい!俺様はあのストロベリーシェイクを完全にぶっ殺す!!!」

 

 

【葉隠】

「え!?じゃあ核を守るのはどうするの!?誰も居なくなっちゃうよ!?」

 

 

【ストーン】

「それもこの俺様一人で十分だ!!さっさと行け!!一番強え大将首は俺様に全部任しとけ!!手ぇ空いたら下のタコもぶっ殺しに行ってやるからよ!!」

 

 

【葉隠】

「えええ!? いくらなんでも無茶だよ!!それにチーム戦は助け合いだって言っ」

 

 

 

しかし。

 

意外にも、ここで尾白がストーンの暴論に賛成を示した。

 

……ただ、その大声のトーンにはどこか不自然なわざとらしさが混ざっていた。

 

 

 

【尾白】

「うん!それ凄く良い案だ!!葉隠さん!俺と二人で下の障子を倒しに行こう!葉隠さんはバレないように向こうから降りて、障子を挟み撃ちで無力化するんだ!!」

 

 

 

先程「こちらの会話は障子に筒抜けだ」と分析したばかりの尾白が、わざわざ大声で作戦を叫んだ事に、葉隠は「ええ!?」とワタワタしながらツッコもうとした。

 

すると尾白は目線と指先で足元の床を強く指し示した。

 

 

 

埃っぽい床にはストーンが氷を砕いた際に落ちた棒切れで、尾白が即座に書いた新しい指示が残されていた。

 

尾白はストーンにもそれを見るよう促す。

 

その意図を瞬時に察した二人は──。

 

 

 

【葉隠】

「(!!了解任せて!頑張っちゃうからね!)……え、ええー……分かったよー……じゃあ私、先に下に降りて挟み撃ちにするねー……!」

 

 

【ストーン】

「(なるほどな……本来俺様一人で全員ぶっ殺せば済む話だが、『最強チーム』の提案だ。乗ってやるぜ!!)オラさっさと行けチビ共!! 視界の邪魔だ!!もうすぐお出ましだぞ!!」

 

 

 

 

一方、ビルの外に位置する轟チーム。

 

轟は1階の正面入口から極限の冷気をビル内部へと送り込み、ストーン達の居る階の部屋を一瞬で凍結させた後、念のため耳を張り巡らせている障子に内部の状況を確認させていた。

 

 

 

【障子】

「……どうやら全員無事のようだな。尾白と葉隠が二人がかりで俺を挟み撃ちにし、下に降りて倒すらしい。そしてストーンが一人で核を守りつつ、お前を迎撃する構え…みたいだ」

 

 

【轟】

「(……どうやって氷から脱出した?……いや、あのワニ男なら砕くくらい容易か。)……分かった。なら望み通り相手になってやる」

 

 

【障子】

「……?一人で向かう気か?相手は常識の通用しない怪物みたいな奴だぞ。二人で行った方が確実じゃないか?」

 

 

【轟】

「あいつは随分と自分の力に自信があるようだが……特に警戒するほどの相手じゃない。ああいう単細胞なタイプは、肉弾戦以外の攻め手を持ってないから対処しやすい。……それに……」

 

 

【障子】「……何だ?」

 

 

轟は振り返ることもせず、どこか投げやりで怠そうな冷めた声を残した。

 

 

【轟】

「……こんな訓練に、これ以上無駄な時間をかけてる余裕はねぇんだ」

 

 

 

揺るぎない自信を漂わせながら、轟は単身ビル内へと足を踏み入れ、階段を上り始めた。

 

取り残された障子は、降りてくるであろう尾白と葉隠を迎え撃つ為、全神経を研ぎ澄ませる。

 

 

 

【障子】(…………来たな。右側の曲がり角…壁の陰か!)

 

 

 

ビルの右壁の陰──つまり障子のすぐ目と鼻の先から、太くとしなやかな尻尾が風を切って飛び出してきた。

 

 

 

シュバッ!!!!

 

 

 

コンマ数秒の反応でバックステップを踏み、間一髪で回避する障子。

 

その視線の先には、構えを取る尾白の姿があった。

 

 

 

【障子】

「……葉隠はどうした?俺を二人で挟み撃ちにする作戦だったんじゃないのか?」

 

 

【尾白】

「(やっぱり聞こえてたか。だけどそれで良い……計画通りだ。後は……頼むぞ葉隠さん、ストーン!俺の見立てが当たっていれば……)……さあ、どうだろうね。……それより良いのか?轟を一人で行かせて。あいつがストーンと戦っている隙に、お前が核を取りに行った方が確実だったんじゃないか?それとも、今ここで俺と戦うか!?」

 

 

 

両者の間に、じっとお互いを探り合う緊張感のある沈黙が流れる。

 

 

 

【障子】

(……本来なら轟に同行してサポートすべきだが……轟の力なら、奴一人でストーンを抑え込み確保出来るだけの実力がある。轟が戦闘と核の確保を確実にこなせるようここは……俺がここで尾白と葉隠の意識を引きつけ、足止めに徹するべきか)

 

 

 

決断を下した障子は尾白に警戒しつつ、無言のままササッと素早い足取りで奥の路地へと走り去った。

 

すかさず尾白がそれを追う。

 

その口元には、敵に悟られない程度の僅かな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

【尾白】

(!!良かった……何となくだけど思っていた通りだ。障子、お前は冷静で臨機応変にベストを尽くそうとする奴だって!後は上手く誘導することが出来れば……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、核のある部屋を目指す轟。

 

ストーンが待ち構える階へと向かって階段を一段ずつ登りながら、絶え間なく冷気を上階へと送り続けていた。

 

 

【轟】

(氷による拘束が駄目なら、冷気による体温低下なら……爬虫類の"個性"なら冷やされ続けば体温を奪われて、満足に動けなくなるはずだ)

 

 

 

直接的な氷結ではなく、空間の温度そのものを極限まで下げる冷気を絶え間なく送り続ける。

 

 

本来、冷たい空気は重く下に溜まるのが自然の摂理だが、そこは"個性"。

 

 

轟ならある程度、物理法則を無視して冷気を上層階へと集中して送り込むことも可能なのだ。

 

走りながらでは集中が乱れるため、一歩一歩踏みしめるような歩調ではあるが、着実に上の階は極寒の空間へと変貌していく。

 

 

相手は爬虫類の力を持つ"個性"。

 

低温の環境に晒され続ければ、体温調節が出来ずに動きが急激に鈍るはず。

 

対して"個性"の副作用で寒さに耐性がある自分ならば、この極寒の中でも苦もなく完璧に活動出来る。

 

轟はそう確信していた。

 

 

 

 

 

 

……轟と障子だけは、そう思い込んでいたのだ。

 

 

 

そして、ついに目的の階に到着した。

 

案の定、部屋の中央でストーンは力尽きたように倒れていた。

ピクリとも動かない。

 

 

 

【轟】

(……やっぱりな。いくら腕力が凄まじかろうと"個性"の相性だけは覆せねえ。弱点さえ把握してしまえばどうとでも……)

 

 

 

自分の分析の正しさを確信し、視界の奥に鎮座する核(ダミー)へと無防備に近付こうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

 

 

【ストーン】

「どぉるああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

待ってましたと言わんばかりの咆哮と共に、倒れていたはずのストーンが突如として跳ね起き、巨大な拳を振り下ろしてきた。

 

 

 

【轟】

「!!?」

 

 

 

ズドゴオオオオオオオン!!!!

 

 

 

まるで城門を打ち破るバタリングラムの如き衝撃が床を突き抜ける。

 

凄まじい爆音と巨大な振動がビル全体を激しく揺らした。

 

 

間一髪のところで後ろへ飛んだ轟は、その一撃を回避。

 

ストーンが床からゆっくりと拳を引き抜くと、そこには大人が丸々一人落ちるほどの巨大な穴が開いており、周囲のコンクリートには蜘蛛の巣状の亀裂が走っていた。

 

 

 

【轟】

「…………驚いたな。もうこの部屋は冷凍庫並みの低温になっているのに。その半裸の姿で、よくそれだけ動けるな(……?あいつの肌……いつもと微妙に違う……?気のせいか?)」

 

 

【ストーン】

「ナメた口叩いてんじゃねぇぞ。この程度、寒くもクソもねぇわ。この舐め腐ったシャーベット野郎が」

 

 

 

ストーンは全身から激しい怒りを剥き出し、仁王立ちになって轟を鋭い眼光で睨みつける。

 

 

先程まで『強い奴と戦える』と上機嫌だった彼が、ここまで不快感を全開にして苛立っているのには理由があるのだが、目の前の轟はそれを知る由もない。

 

 

 

【轟】

「……だから俺は轟だ。轟焦凍。シャーベットだのシェイクだの、俺をいちいち食いものみたいな名前で呼ぶな」

 

 

【ストーン】

「やかましいわ!!!俺様をコケにして舐め腐った野郎なんざデザートで充分だ!!!そのムカつく澄まし顔に全力パンチをお見舞いしてやる……!!ゔおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

ストーンは拳をバキバキと響かせ──轟に向かって全力の拳の雨を叩きつけ始めた。

 

ブォン!ブォン!と空気を引き裂く凶悪な風切り音が部屋中に轟く。

 

轟は冷静に間合いを取って回避し続けるが、内心ではストーンの予想外のタフネスと、かすっただけで即死しかねない圧倒的な破壊力に、僅かに冷や汗を流していた。

 

 

 

【轟】

(大振りで大雑把な動きだ。だが、一発でも当たれば確実に骨が砕けて終わる。……それにしても、これだけの冷気を全身に浴び続けて、何故こいつは衰えるどころかここまで動けるんだ……?)

 

 

 

轟の「爬虫類は変温動物であり、寒さに極めて弱い」という生物学的な推測そのものは間違っていない。

 

ストーン自身も過去の経験から熟知している紛れもない事実。

 

 

 

しかしストーンは、先ほど凍結される直前に僅かな空気の変化を嗅ぎ取り、"個性"で『ある爬虫類の力』を全身に宿していたのだ。

 

その爬虫類とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

穴蔵の牙。

 

泥中の鎧。

 

 

 

───ヨウスコウワニ。

 

 

ワニでありながら、ワニ類としては非常に珍しく巧みな穴掘りの名手。

 

 

だが、この種にはそれ以上に特筆すべき驚異的な能力が存在する。

 

それこそが、氷点下の過酷な環境や低酸素状態に耐えうる、極めて高い耐寒・潜伏能力である。

 

 

ワニ類の中でもヨウスコウワニは変温動物でありながら例外的に低温に対する耐性が優れており、冬場に水面がカチカチに凍結するような過酷な環境であっても、鼻先だけを氷の上に露出させて凍結に耐え抜くという、驚くべき耐寒能力を持っているのだ。

 

 

本来のヨウスコウワニの能力は、冬眠時や天敵から身を隠すために冷たい水底でじっとやり過ごすための防衛手段に過ぎず、極寒の中で活発に戦闘を行えるわけではない。

 

 

 

 

 

しかし、それをストーンの"個性"で再現する事で、戦闘に完全適応した規格外の力へと昇華される。

 

生物の特性を『本物以上に強化して宿す』──これこそが彼の"個性"の恐ろしい側面であった。

 

 

彼がヨウスコウワニの力を肉体に宿す事で、冷気を殆ど遮断し、自身の弱点である低温環境を完全に踏み倒した上でフルパワーで暴れまわる身体にする事が可能となっていたのだ。

 

 

勿論、そんな生物学的うんちくを轟が知る由もなく、ストーン自身も「寒さに強いワニの力」程度のざっくりとした認識しかしていない。

 

 

 

 

だが、戦いにおいてはそれで十分だった。

 

 

なぜなら今、轟の瞳に映るストーンは、弱点を克服した解読不能の怪物そのものだったから。

 

 

しかし、いつまでも防戦一方に甘んじる轟では無い。

 

氷の壁も効かない、冷気の充満も効かない。

 

ならば───。

 

 

 

 

【ストーン】

「クソったれがぁぁぁぁ!!!!当たれ!!当たれや!!ちょこまかとハエみたいに逃げ回りやがって!!!」

 

 

【轟】

(……さっき以上の分厚い氷でこいつの全身を固めるか……いや、部屋の半分を埋め尽くすほどの巨大な氷で丸ごと閉じ込めれば流石にいけるか……!)

 

 

 

轟は精密なステップでストーンの猛攻をすり抜けながら、ストーンの立ち位置を中心へと誘導していく。

 

核兵器のダミーまではあと数歩。

 

しかし、今ここでストーンに背を見せれば、確実に背後から致命的な打撃を叩き込まれる。

 

 

 

【ストーン】

「くたばれフニャチン野郎おおおおおおお!!!」

 

 

グオオオッ!!とストーンが咆哮と共に渾身の左ストレートを振りかぶる。

 

 

だが───。

 

 

 

【轟】

「それを待ってた」

 

 

 

ゴバッ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

轟の足元から、これまでとは桁違いの強力な冷気が爆発的に放たれた。

 

一瞬で視界を奪うほどの白い冷気が部屋を埋め尽くし、モニタールームのカメラ映像すら一瞬真っ白に染まる。

 

そして吹き荒れる白いモヤが晴れた時……そこには、部屋の約半分をみっちりと埋め尽くす巨大な氷塊が出現していた。

 

その中心には、隙間なく完璧に氷漬けにされたストーンの姿が。

 

 

冷気のフルパワー出力に加え、ストーンが暴れまわった事で砕けた瓦礫や金属片が芯となり、より強固で破壊が困難な氷塊となってストーンを完璧に封印していたのだ。

 

 

 

【轟】

「………流石にこれだけ頑丈に閉じ込められたら、砕く以前に動けないだろ。それだけ寒さに強いなら凍傷の心配もなさそうだしな……訓練が終われば解凍してやる。さて……」

 

 

 

息を整えた轟はストーンの沈黙を確認し、ゆっくりと後ろに鎮座する核へと手を伸ばした。

 

モニタールームで観戦していた誰もが、敗北を確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────轟の敗北を。

 

 

ペタッ!!

 

 

不思議な触感が轟に走る。

 

 

 

【轟】

「……えっ」

 

 

【葉隠】

「よしっ!!捕獲完了っ!……相手を倒さなくても、相手の身体に捕獲テープを巻きつけさえすれば勝利……だったよね!!」

 

 

【轟】

「なっ……えっ?葉隠…!? 居たのか……?いつから……尾白と一緒に下で障子を倒しに行ったんじゃ……」

 

 

【葉隠】

「ふっふっふー!ずーっと最初からここに居たよ!!騙されちゃったね!」

 

 

 

あまりにも予想外すぎる展開に、呆然と目を見開いて困惑している轟。

 

 

 

 

 

 

───種明かしをすれば、こういう事だ。

 

 

最初に部屋で障子に聞こえるよう「尾白と葉隠で障子を挟み撃ちにする」と大声で宣言した際、葉隠は自身のコスチュームである手袋とブーツを尾白に託し、完全な透明状態で部屋に残る。

 

 

そして轟によって部屋全体に冷気が送られている間は、気絶したフリをして倒れていたストーンの巨大な背中にピッタリと密着し、彼の体温を分けてもらう事で凍えずに生存していた。

 

 

そして轟が部屋に踏み込んできたタイミングで素早くストーンから離れ、核の下に丸めて隠しておいた捕獲テープを回収。

 

 

轟がストーンとの戦闘に集中し、核へ接近してくるその瞬間まで、息を殺して核の後ろでじっと待っていたのだ。

 

核の至近距離であれば、轟も大規模な攻撃は打てない。

 

 

 

その間の寒さに耐える術は……気合いと根性だったが。

 

 

 

 

【葉隠】

「尾白君が教えてくれたんだよ!『最初の戦闘訓練だから皆熱くなりがちで相手を倒す事を意識しちゃうから、オールマイトが言ってたこの捕獲テープを相手に巻きさえすれば、どれだけ強い人でも戦闘不能の扱いになるって事を忘れがちになってるはず』ってね!私には轟君や尾白君、ストーン君みたいに凄い技は無いけど……隠れてテープを巻くだけなら出来るもんねー!!」

 

 

【轟】

「……チッ…(……そんな勝ち方が……そういやあったな。クソッ……完全に力勝負に気を取られて油断してた……!)」

 

 

 

家庭環境に起因する心の焦りと視野の狭さ、そして相手を「単細胞」と見下した軽率さ。

 

まさか自分自身が戦力的に劣るはずの相手に、ましてやこんな単純な策で敗北するなど思いもしなかった轟は、屈辱に唇を噛み締め、悔しそうに強く舌打ちをした。

 

 

 

その瞬間、訓練終了を告げる甲高いサイレンが響き渡る。

 

 

 

プァァァーン!!!!!!!!

 

 

 

【オールマイト】

『ヴィランチーム……WIiiiiiiiiiiiiN!!!!』

 

 

【轟】

「!?……障子までやられたのか……」

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

ビルから少し離れた路地裏にて。

 

 

 

【尾白】

「!良かった……!葉隠さんとストーン、上手くいったみたいだ」

 

 

【障子】

「!!…………轟がやられてしまったというのか。やはり、いくらあいつが強いとはいえ…一人にして離れるべきではなかったか……」

 

 

 

そこには全身を捕獲テープでガチガチに巻きつけられ、壁にもたれている障子の姿があった。

 

 

 

尾白と障子の裏の激闘は、こうだ。

 

 

轟とストーンが激突している最中、尾白は一時撤退を図る障子を上手く『ある特定の場所』へと誘導するように追い詰める。

 

電柱や街灯、路地裏の障害物やガラスの入っていない窓など、立体的な支点が多いこのエリアは、身軽かつ尻尾を持つ尾白にとって、地上を走る以上に素早く自由に跳躍出来る絶好のフィールドなのだ。

 

 

そして尾白は、障子を誘い込む。

 

その『特定の場所』とは。

 

 

 

先ほど葉隠から受け取った手袋とブーツ、そして障子と対峙する直前に拾っておいた針金を使って、あたかも『曲がり角の陰で、葉隠が待ち構えている』かのように見せかけた罠の場所だった。

 

観察眼が鋭く慎重な障子であればこそ、その「違和感」に一瞬だけ思考を奪われ、足が止まると尾白は読んでいたのだ。

 

 

案の定、障子は曲がり角の手袋を見て一瞬だけ隙を見せ、その僅かな隙を見逃さなかった尾白が、尻尾による渾身の打撃を叩き込んで気絶させた。

 

そして気絶している間に捕獲テープを巻きつけたのである。

 

わざわざ捕獲テープを巻く前に一撃で気絶させたのは、武道を嗜む尾白なりの礼儀と配慮なのだろう。

 

 

ともあれ──ストーンの怪力とタフネス、葉隠の協調性と忍耐力、そして何よりチームの勝利を決定づけた尾白のリーダーシップと判断力が、見事な勝利を引き寄せたのだった。

 

 

 

 

場面は変わり、モニタールーム。

 

 

【峰田】

「す、すげええええ……!あの三人、轟と障子に勝っちまったぞ……」

 

 

【砂藤】

「尾白も葉隠も凄かったけど、ストーンもハンパねぇな!!真っ白になる程のあの寒そうな部屋で、あんなに暴れ回って轟を追い詰めるとは……!」

 

 

【耳郎】

「……ねぇ、でもさ。何か途中からあいつ、めちゃくちゃブチ切れてなかった……?」

 

 

【上鳴】

「あ、俺もそれ思った……!あれ、氷が解けたらストーンのやつ大暴れすんじゃねえの……?」

 

 

 

モニターの画面には、巨大な氷塊の中で怒気を含んだ顔のまま固まっているストーンと、その横で「ストーン君が風邪引いちゃうー!」とオロオロしている葉隠、そして自分の敗北を受け入れられず、無言で氷を溶かし始める轟の姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

[今回のステータス]

 

●ストーン:

 

実は地獄耳で轟が自分に言い放った『単細胞』『警戒するほどの相手じゃない』『対処しやすい』と言う発言と、『こんな訓練』とやる気の無さを漏らした発言をバッチリ聞いていたのでブチギレていた。

(※実はワニって耳が良いんです)

 

 

●尾白:

自分の立てた戦略が完璧にはまり、無傷で格上のペアに勝利出来た事にホッとしている。

心地良い達成感。

 

 

●葉隠:

圧倒的強者である轟から見事に一本取り、勝利の立役者になれたことで大興奮。

ただマジで寒かった。

全裸だから仕方無い。

 

 

●轟:

油断と視野の狭さを突かれて完全敗北を喫し、己の未熟さに激しい苛立ちとショックを感じている。

結局ストーンの異常なタフネスの仕組みが解明出来なかった。

 

 

 

 

●障子:

尾白の見事な誘導と心理戦にハメられたが認め、素直に相手の勝利を称えている。

強面で大きいが良い奴なのだろう。

 

 

 






話は変わりますが、ワニって実は美味しいんですよ。
肉はあっさりしてて淡白で、舌はぷるぷるで。



コレステロール値を下げる効果もあるなど、身体にも良いんです。食べる機会があれば是非食べてみて下さい。 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。