取り調べ室へ向かって、長い廊下をズンズンと力強い足取りで進むオールマイト。
すれ違う警官達や、騒ぎに驚いて遠巻きに見つめる市民達へ「やあ!」「ご苦労様!」と爽やかな笑みで軽く挨拶を交わしながら、厳重に施錠されたドアノブに大きな手を掛け、一気に扉を開き放つと───────。
ドタンバタン!!!ガタタッ!!!
ゴガガッ!!!
室内では、正に机や椅子が倒れ跳び、床が激しく震動する大惨事が繰り広げられていた。
【警官A】
「首だ!!誰か首を抑えろ!!いいか、絶対に口の前に手を出すな、噛み千切られるぞ!?お前達は手足を取れ!!そのまま体重をかけて床に押さえつけろ!!」
【警官B】
「くっそ!!手応えがまるでダンプカーだ!!腕の感覚が痺れてきたぞ……!!おい本当にどんな力してんだこのガキは!!」
【警官C】
「うおおおおお!!!これ以上は無理だ!!もうテーザーガンを持ってこい!!いや、それか大型獣用の麻酔銃だ!!効くかどうかも分からんが!!」
先程の7名を更に上回る、10名もの警察官が死に物狂いで圧し掛かり、ガッチリと拘束しようと試みているが、圧倒的な怪力によって全員が今にも吹き飛ばされそうな状態だった。
全く手が付けられないその惨状の中へ、朗らかな声が響き渡る。
【オールマイト】
「ウオッホン!!!!君達、少し良いかな?」
【警官10名】
「お、オールマイト!!?ご、ご苦労さまです!!!(助かった……!いや、しかしこの暴れ馬は危険すぎる!!)」
【ストーン】
「テメェらいい加減に離れやがれぶっ殺……!!!!あ……?お、オールマイト……!?ほ、本物か……!?嘘だろ、テレビの画面から飛び出してきた本物のオールマイトなのか!!?」
オールマイトは焦る警官達に向かって、ポンと肩を叩きながら優しく語りかけた。
【オールマイト】
「少し彼と二人きりで話をしたいのだ。後の事は私に任せてくれたまえ!」
【警官A】
「しかしオールマイト!お気持ちはありがたいですが、こいつは本当にヤバいんです!加減を知らない猛獣なんですよ!?」
【オールマイト】
「ハッハッハ!心配はいらないよ!誰だと思っているのだい?私は平和の象徴だぜ?大丈夫さ、少し外で休憩して来たまえ!」
圧倒的オーラと包容力で警官達を落ち着かせると、宥めるようにして一人残らず部屋の外へと退出させた。
重厚な扉が閉まり、取調べ室の中に残されたのは──今や世界最高のヒーローであるオールマイトと、巨躯を震わせるストーンの二人だけとなった。
【オールマイト】
「ハッハッハ!!!朝から随分と血気盛んで大変そうだね、ストーン少年!!!だが安心したまえ、今は私と君だけだ!取調べの堅苦しい感じは抜きにして、気楽に行こうじゃないか!」
【ストーン】
「オールマイト……!!!本物の、世界最強の男……!!!ほ、本当に本物なんだな……!?テレタビーズみてぇな着ぐるみじゃねぇよな、本当の本当に本物なんだな!!?Wow…………!!すげぇ……!!生で見るとデカさがハンパじゃねぇ……!!!」
アデレード一番の暴れん坊と恐れられているとはいえ、彼はまだ14歳の中学生。
やはり誰もが憧れ、世界を照らす男の中の男を前にして、黄色い目をキラキラと輝かせた。
先程までの警官達を殺気で威嚇していた凶暴な暴れっぷりが、嘘のように吹き飛んでしまっていた。
【ストーン】
「俺様……いや、俺、あんたの活躍はずっと見続けてきたんだ!!!!圧倒的な拳一つでどんな強ぇヴィランもぶっ倒してきた無敵の存在!!!世界で一番『最強』の男!!!特に4年前のアメリカで、あの収容所から脱走した大物ヴィラン『アボミネーション』と3時間も殴り合い続けて、最後はぶちのめして勝ったやつ!!あれはマジで痺れたぜ!!最高のバトルだった!!!」
【オールマイト】
「(懐かしいな!……あの時協力してくれたバナー君は元気にしてるだろうか)そうかそうか!!!君にそう言ってもらえると嬉しいよ!まぁ立ち話もなんだ、そこへ座ろうじゃないか!!」
目を輝かせて興奮を隠しきれないストーンを、包み込むような爽やかな笑みで受け入れ、互いに向かい合って着席した。
【ストーン】
「ん?そういやオールマイト、あんた何で俺の名前を知ってるんだ?俺達、会うのは今日が初めてだと思うんだが……」
【オールマイト】
「あぁ、さっきそこの廊下で君の事を聞いてね!リジオラ・ストーン少年。この周辺じゃあ有名な暴れん坊だってね!若いうちに血気盛んなのは素晴らしい事だが……大事な青春の時間を警察の取調べ室で過ごすなんて、少し勿体無いと思わないかい?」
【ストーン】
「勿体無くなんかねぇ!!!これこそが俺の青春だ!!!自分より強ぇ奴、骨のある奴、調子に乗った奴を見つけては戦い、経験値を手に入れて、ブチのめす!!そして誰にも負けねぇ最高の『最強の男』になる為にな!!!」
【オールマイト】
「ふむふむ……ストーン少年、君はなぜそこまでして『最強』を目指しているんだい?何か目指すきっかけがあったのかな?」
【ストーン】
「勿論だ!!!親父みてぇにメチャクチャカッコいい男になるためだ!!!!!それ以外の理由なんかねぇよ!!!」
【オールマイト】
「? 君のお父さん?一体どんな人なんだい?」
【ストーン】
「あぁ!俺の親父はな──」
そこからストーンは、胸を張り、これ以上ない程誇らしげにオールマイトへ熱弁し始めた。
自分の父親であるスニッグ・ストーンは、プロレス界でその名を轟かせる有名な悪役(ヒール)プロレスラー「ギガダイル」であるという事。
これにはオールマイト自身もプロレスの大ファンである為、「あのギガダイルか!!」と非常に驚いていた。
幼少期から父親に「強ければそれだけ世界が広がる!誰にも文句を言わせない男になれ!」と熱い魂を叩き込まれ、父親を心から尊敬して育ってきた事。
トレーニングも大事だが、何より実戦での経験値こそが強さの糧になると物心がついた時に学び、それ以来ずっと町中で強そうな者や喧嘩を売ってきそうな者見つけては勝負を挑み、勝利を重ねて来た事。
【ストーン】
「そして俺は今日まで、次から次へと強そうな奴を見つけては片っ端から勝負し、時には完膚なきまでにブチのめし、今に至るってわけだ!!!親父みてぇな世界一の最強になるためにな!!!!どうだ!!!!俺の親父はすげぇだろ!!!クソカッコいいだろ!!!!世界中で『最強のヒールレスラー』って恐れられ、愛されてるんだぜ!!!!」
【オールマイト】
「ハッハッハ!!!!まさかあのマット界を震撼させる『ギガダイル』の息子さんだったとは!!!そりゃあこれ程までに力が有り余っていて、身体も規格外に大きいわけだ!!納得がいったよ!」
【ストーン】
「そうだろそうだろ!!!親父はスゲェんだ!!」
【オールマイト】
「時に話は変わるが…君、一昨日にヴィランの残党を倒し、人質を助けたそうだが……それも最強になる為にしたのかい?」
【ストーン】「よく知ってるな!?まぁそれもあるが……ああいう奴らから助けるのは当然だろ?まぁ人質が調子に乗った屑なら纏めてぶっ殺すがな!!ガハハハハ!!!」
【オールマイト】(ふむ………助けるのは当然、か……粗野で非常に乱暴、だが…)
オールマイトは、ストーンが語る情熱的な言葉と、警察から聞いていた事件の報告データを頭の中で照らし合わせ、冷静に推測と整理を行っていた。
確かにストーンは筋金入りの戦闘狂であり、非常に凶暴だ。
何が何でも自分が一番でなければ気が済まない強烈な自意識を持っている。
過去に起こしてきた暴力事件の記録も、一歩間違えれば惨事に繋がりかねない恐ろしいものばかりだ。
しかし、その行動の根底を辿れば、彼が牙を剥いて倒してきたのは「自ら喧嘩を売ってきた者」や「弱い者を不当に傷付ける者」……つまり、ストーンの中で「自身に自信があり、ぶちのめしても良い者」もしくは「不快な事を進んでしてくる屑」と認識した対象だけなのだ。
一昨日の事件でも、多分深くは考えてないが結果的に人質助ける為に残党を叩きのめしている。
そして何より、こうして目を見て落ち着いて語りかければ、オールマイトの言葉に対しても素直に「なるほど……!!」と耳を傾ける純粋さを持っている。
つまり、短気で極めて凶暴、一番に固執する過剰な自尊心はあるが、父親を深く尊敬し(解釈にかなりのズレはあるものの)、驚く程真っ直ぐで素直な性質を秘めているのだ。
このまま放置し、社会から孤立させれば、いずれその力は間違いなくヴィランとして爆発する。
だが、この未熟な力を正しく導く事さえ出来れば──彼は間違いなく、悪を寄せ付けない立派なヒーローになる。
客観的な推測だけでなく、何よりヒーローとしての直感で、オールマイトはそれを確信した。
【オールマイト】
「ふむ……ストーン少年!」
【ストーン】
「ん?何だオールマイト!!!」
【オールマイト】
「君、ヒーローを目指してみないか?」
【ストーン】
「ならねえ!!!!!」
【オールマイト】
「えっ!?は、早いな君!!?即答かい!?何故だい?」
【ストーン】
「俺は親父の後を継いで、世界最強のプロレスラーになるって決めた夢があるんだからよ!!だからヒーローなんかハナから興味ねぇ!!!」
【オールマイト】
「(ふむ……待てよ、この少年の性格なら……)ストーン少年、世間における『ヒーロー』という存在はだな、プロレスラーよりも遥かに……」
【ストーン】
「『よりも』……だと……!?今、プロレスよりも上だって言おうとしたのか……!?」
【オールマイト】
「ゴホン!!!!プロレスと同じくらい、世界中への知名度と影響度が高い職業なんだよ!つまりだ!!!ヒーローを目指してその頂点に立てば、自ずと『君が世界で一番最強』だという事実を地球全土に知らしめる事が出来るのさ!!!!そうすれば、素直な君の事だ!本当の意味での『最強』が何なのかも、君なら理解出来るはずだ!!!!」
【ストーン】
「本当の最強……!!!!!?世間全員に俺様の強さを知らしめられるのか!!?ならなる!!!!俺、ヒーローになるぜ!!!!」
【オールマイト】
「(思ったより食いつきが早過ぎた!!?ま、まぁ結果オーライとして良いか……)そうこなくっちゃな!!!!では早速…………む?」
【ストーン】
「ん?早速どうしたんだ?なるぞ、最高のヒーローに!!!今すぐトレーニングか!?」
【オールマイト】
(待てよ……ヒーローを目指すとなっても、これほど頻繁に問題行動を起こし続けて警察のお世話になっている身だ……このオーストラリア国内の内申点や書類審査では、まともなヒーロー校に受かる見込みは殆ど無いのではないか……ふーむ……)
目の前でワクワクと拳を握り締め、ソワソワと体を揺らすストーンを「落ち着きなさい」と手で宥めながら、オールマイトは思考を巡らせる。
そして、彼自身の未来を大きく変える、かなり思い切った提案を口にした。
【オールマイト】
「ストーン少年!!!これも何かの運命的な縁だと私は思っている……君、日本のヒーロー科高校を目指してみないか?」
【ストーン】
「ニホン……?……!まさか、あのユーエイハイスクールか!?毎年ユーエイスポーツフェスティバルがテレビの中継でやってる、あの超ド派手な学校か!?」
【オールマイト】
「大正解!!!!実は私は2年後……つまり君が高校生になる頃には、あそこの教師として勤務する予定なんだ!言葉や文化が違う遠い国で大変だとは思うが、あそこには留学生枠もある!ぜひ受験してみないか!?」
【ストーン】
「ガハハハハ!!!!無理だ無理だ!!!あそこは日本一の超エリート校だろ!!勉強なんかからっきしの俺みたいな馬鹿には絶対無理だね!!!ハッハッハ!!」
【オールマイト】
「いやストーン少年!君のその真っ直ぐな素直さがあれば、入学までの残りの期間で猛勉強を重ねれば絶対に受かるはずだ!!!勿論、何か問題があれば私が全て責任を持とう!!!言わば私が君を推薦するのだからね!受験の際は、私が渡航関係や航空会社に連絡して、特別にチケットや手配を提供してくれるよう掛け合ってみせる!!!!どうだい!?」
ストーンは腕を組み、うーむと唸りながら少しの間考え込み……そして、ギラギラとした目に強い決意の光を宿した。
【ストーン】
「……他でもねぇ、あのオールマイトがそこまで言ってくれたんだ。やってやるぜ!!!!俺様は日本のユーエイに行って、世界で一番最強のヒーローになってやる!!!家に帰ったら早速親父に頼んでみるぜ!!!!」
【オールマイト】
「よぉく言ってくれた!!!!アッハッハッハ!!!!よし、そうと決まれば善は急げだ!!!君の家まで私が送っていこう!!!」
【ストーン】
「ぬぁ!?でも俺、まだサツの取り調……」
【オールマイト】
「大丈夫大丈夫!!!!警察には『私が全て問題を解決した』と言っておくからね!!!ただし!!!……受験勉強の期間中はなるべく、いや絶対に、他人に手を出さず大人しく過ごすようにね!これも君が『最強の道』へ至るための厳しい修業なのだから!!!」
こうして話はトントン拍子にまとまり、ストーンの巨体を引き連れて取調べ室の外へ出るオールマイト。
待機していた警官達には「全て解決した!!後で上層部には私からしっかりと説明しておくから大丈夫だ!」と説得。
……まあ、その説得と書類手続きには結局3時間程掛かってしまったが、無事にストーンの自宅まで送り届け、ちょうど在宅していた父親へ事の経緯を説明した。
話を聞いたストーンの父親は「オールマイトがそこまで仰るなら!!」と快く息子の留学を了承し、同席していたストーンの姉も深く同意した。
父親は、親思いではあるものの凶暴で、学校でも街でも手が付けられないバカ息子に密かに頭を悩ませていたらしく、深々とオールマイトに感謝の言葉を述べ、固い握手を交わした。
特に姉の方は、日常茶飯事だった弟の暴れっぷりに胃を痛め続けていたらしく、急に「ヒーローになる」と言い出した弟に対して、「このヤンチャ坊主で頭パープリンのバカ弟が、急にまともな事を言い出して……っ!!!」と感極まって少し泣きながら、力強いサムズアップを贈った。
それからオールマイトが日本へ帰国した後、ストーンのもとへ膨大な量の受験問題資料や参考書が送られてきた。
ストーンは「最強のヒーロー」になる為、約束通り暴れ回るのをピタリと止め、試験の日が来るまで死に物狂いで猛勉強に励んだのだった。
やがて時が満ち、一度日本へ来日。
学科試験をその執念で突破し、別会場で行われた実技試験では、圧倒的な破壊力と身体能力で仮定ヴィランを粉砕して圧倒的ポイントを獲得。
更に……レスキューポイントにおいても、背後から襲い来る仮想ヴィランに気付かなかった人を突き飛ばしたり、他の受験生の攻撃で倒れてきた仮想ヴィランを吹き飛ばした事で、下敷きになりかけた人を結果的に助けた等「本当にたまたま」ではあるものの僅かに評価され──見事、難関を突破して合格を果たしたのだった。
そして、月日は流れ────────。
現在、雄英高校入学初日。
桜舞い散る雄英高校の校門前にて。
ザッ、ザッ、と一人の巨大な男が、いよいよ自分の時代が始まるのだと言わんばかりの堂々たる足取りでやって来た。
【ストーン】
「……来たぜ、オールマイト!!!!俺様が最強だって事を証明してやる!!!」
これから始まる3年間の高校生活、一体どんな嵐が巻き起こるのか。
それは、オールマイト…………ではなく、神のみぞ知る。
[今回のステータス]
●ストーン:
憧れのオールマイトと話し、雄英高校に入学出来た事で現在テンションが最高潮。
まずは雄英で自分が「最強」である事を証明する気満々。
オールマイトの助言を純粋に受け入れ、猛勉強をやり遂げ合格する等、努力は惜しまない一面を持つ。
●オールマイト:
問題児だったストーンを無事に合格まで導けた事への達成感。
彼が1年A組とどう化学反応を起こすか楽しみにしている………が四割くらい、学校生活でクラスメイトや教師陣と衝突しないか少し心配。
●ストーンの父親、姉:
バカ息子が日本の難関校である雄英高校に合格した事を知った瞬間大号泣した。