―――朝練をするには少し遅いがそれでも筋トレする時間は充分にあった。よって体育館倉庫で筋トレに励むことにした。
葉月「私、見学してもいい?」
莉己「いいですよ。暇なら先に教室へ行っても構いませんからね。」
それから黙々と筋トレを行った。せっかくなので葉月さんに回数を数えてもらうことにした。
葉月「100㎏越えのバーベルでベンチプレス100回、続いてスクワット100回、腹筋1000回、拳立て1000回、指立伏せ300回……凄い、凄すぎるよ⁉ 本当に私と同い年⁉」
途中から汗をかいたのでパンツ1枚姿になりタオルで汗を拭う。見ているのは葉月さんだけなので構わなかった。
莉己「本当ですよ。」
葉月「いや…本当に凄いよ…⁉ 何でそんなに平然としていられるの…⁉」
莉己「本来なら頭がフラフラになるまでやり続けたいですけど授業も部活もありますから余裕をもって抑えときました。そろそろホームルームになりますので教室へ行きましょう。」
葉月「そうだね!」
「…………。」
教室へ入る。麗奈さんは…いた。
莉己「おはようございます。麗奈さん。」
麗奈「今日は朝練出なかったんだね、どうしたの?」
莉己「中途半端に目が覚めたので体育館で筋トレしてました。あ、それから加藤葉月さんと付き合うことになりました。よろしくお願いします。」
麗奈「……そう、おめでとう。」
莉己「ありがとうございます。」
麗奈「ただし、恋愛に羽目を外してオーディションに落ちるなんてことになったら許さないからね⁉ わかった⁉」
莉己「はい、わかりました。」
麗奈「本当かしら…もう…⁉」
それから部活の後の居残り練習をしては葉月さんと一緒に帰って俺の部屋でお互いの体を貪り、朝練に励む日々を過ごした。そしてオーディション当日を迎えた。
晴香「はあ~緊張するね…。あ、そうだ! 神坂くん! 景気づけに1曲どうかな⁉」
莉己「楽譜がありませんが思いっきり吹いてもよろしいですか?」
葵「うん⁉ 思いっきりやっちゃって⁉」
莉己「では…いきます…。」
脳内に刻み込まれた曲と音符を一致させる。よし…、皆さんの期待に応える準備は出来た。イントロはゆっくりと繊細に…それからは思いっきり吹く。エレキギターパートもボーカルパートも思うが儘に吹いた。
莉己「ご清聴ありがとうございました。」
「「「「「おー⁉」」」」」
晴香「ノリの良い曲だね⁉ 何ていう曲⁉」
莉己「『Still Alive』という曲です。」
葵「私⁉ 鳥肌立っちゃった⁉」
「私も⁉ 本当に凄い⁉」
「気合い入ったよ⁉ ありがとう⁉」
「私も⁉ 緊張なんてどこかに吹っ飛んじゃった⁉」
莉己「お役に立てたのなら何よりです。」
待機している教室の扉が開きサックスパートが呼ばれた。ズラリと廊下の端に列を作る中、俺は最後列に並んだ。部長を元として次々に呼ばれては退室していく。「お疲れ様でした。」と挨拶する。ちかおくんからは「莉己くん、頑張って!」と励まされた。「ありがとうございます。」とお辞儀した。ついにサックスパートの最後…俺の番になった。「失礼します」と声を掛けて入室する。
莉己「1年、アルトサックス、神坂莉己です。よろしくお願いします。」
松本「症状の方はどうだ?」
莉己「充分な睡眠時間を確保して薬も効いているので現状は問題ありません。」
滝「そうですか、それは良かったです。準備はよろしいですか?」
莉己「はい、お願いします。」
指定された箇所を吹く。それを繰り返す。
滝「はい、結構です。次は…トロンボーンパートの方々を呼んで来ていただけますか?」
莉己「はい、かしこまりました。」
指定された教室の扉をノックして開ける。
莉己「サックスパート終わりました。トロンボーンパートの方々、どうぞ。」
秀一「莉己くん⁉ さっきの演奏、莉己くんだろう⁉ 俺、感動したよ⁉ ありがとう⁉」
「そうそう⁉ 緊張感なんてどこか行っちゃった⁉」
「神坂くん⁉ ありがとう⁉」
莉己「……? ……あっ⁉ 聞こえてたんですか⁉ お恥ずかしいです…⁉」
秀一「恥ずかしくなんてないって⁉ 俺も頑張ろうって思った⁉ じゃあ行ってくる⁉」
莉己「はい、頑張ってください。」
手を振って見送った。このままひとりで帰ろうか低音パートが終わるまで待とうか迷いながら昇降口へ向かう。見慣れた人影、麗奈さんだった。
麗奈「お疲れ様。さっきの演奏、莉己くん?」
莉己「トランペットパートにまで聞こえてたんですか…⁉」
麗奈「丁度廊下に並んで待ってた時に聴こえてたの。『莉己くんって相変わらずだね』って皆喜んでたよ。ふふっ、私まで嬉しくなっちゃった。」
麗奈さんの笑顔、相変わらず美しい。
莉己「雑音になりませんでしたか?」
麗奈「もう…⁉ 皆喜んでたってさっき言ったでしょ⁉ 雑音なんかじゃないよ⁉ 凄くいい曲だった。初めて聴いたけど何ていう曲?」
莉己「『Still Alive』という曲です。」
麗奈「『まだ生きている』って意味?」
莉己「『何ひとつ終わりじゃない』って歌ってますね。」
麗奈「『何ひとつ終わりじゃない』……そうだね。まだコンクールが始まってすらいないもんね。そこまで考えて吹いたの?」
莉己「それはありますけど、先輩から『思いっきり吹いて』って頼まれたので思いっきり吹きたい曲を吹きました。」
麗奈「それでどうだったの、サックスパートの反応は?」
莉己「感謝されました。」
麗奈「それはそうだよ…⁉ あんなに上手でいい曲生演奏で聴いたら誰だって感謝するよ…⁉」
莉己「お褒めの言葉として受け取らせていただきます。」
麗奈「うん…⁉ 受け取って…⁉」
「おーい! 莉己くん! …と高坂さん⁉」
麗奈「それじゃお先に。彼女さんと仲良くね。」
莉己「はい、お疲れ様でした。」
葉月「高坂さんと何話してたの…?」
莉己「俺がサックスパートの皆さんの緊張を和らげるために吹いた曲が色々なパートの方々にも聴こえてたみたいで恥ずかしかったって話をしてました。」
葉月「あっ⁉ それなら低音パートにも聞こえてたよ⁉ 皆絶賛してたよ⁉ 私も感動した⁉」
莉己「それだったら良かったです。思いっきり吹いた甲斐がありました。」
葉月「それで…その…今日も莉己くんの部屋に寄っていいかな…? 皆が莉己くんのこと褒めてるの見てたらあそこが疼いちゃって…今も凄いことになってると思う…。」
莉己「それでは早く帰りましょう。」
葉月「うん!」
手を繋いで帰る。途中で葉月さんは電車に乗る。俺は走って帰る。先に俺が着く。鍵を開けて待つ。チャイムが鳴る。ドアを開ける。勢いよく葉月さんが入ってくる。いつものことだった。抱き合って舌を絡める。スカートをめくって下着のあそこの部分を指でなぞる。湿っていた。ビクンと反応する。
莉己「下着の匂い嗅いでいいですか?」
葉月「恥ずかしいけど…いいよ…⁉」
スカートの中に潜って下着の匂いを嗅ぐ。物凄く興奮する。思考が麻痺しそうになった。
莉己「とってもいやらしい匂いがします。よっぽど我慢してたんですね。」
葉月「うん…⁉ 早く莉己くんの…⁉ 欲しい…⁉」
莉己「きちんとおねだりしてくれないとわかりませんよ。」
葉月「お願い…⁉ 焦らさないで…⁉ 莉己くんのちんぽを…私のまんこに突っ込んで…⁉ 滅茶苦茶にして…⁉」
葉月さん自ら片手で壁に手をつき、お尻を突き出してもう片手で下着をズラしてあそこを見せる。濡れて光っていた。
莉己「はい、よく言えました。ご褒美です。」
ロクに前戯もせず突き入れる。快感の声を上げて体をのけ反らせる。制服姿のまま行為に耽る。先に絶頂を迎えるのは決まって葉月さんだった。
莉己「本当に葉月さんはいやらしいですね。もうイッたんですか?」
葉月「うん…⁉ 私…⁉ いやらしい女なの…⁉ 莉己くんのちんぽでもっと可愛がって…⁉」
葉月さんに卑猥な言葉を言わせるのが癖になっていった。学校では決して見せない、俺だけに見せる姿、益々興奮した。そのままお尻に股間をぶつけ続ける。両手で鳴らすような音が部屋に響く。お尻の穴が見える。物欲しそうにひくひくと痙攣している。繋がっている部分に指を割り込ませ濡らす。それからゆっくりとお尻の穴に指を入れる。体をのけ反らせる。指と腰の動きを激しくする。甲高い声を上げて絶頂に達した。向きを変える。葉月さんの片脚だけ抱えて腰を動かす。あそこが俺のを咥えこんでいるのがよく見える。とてもいやらしかった。空いた手であそこの突起物を擦る。腰の動きも激しくする。喘ぎ声も激しくなる。
葉月「あはぁっ⁉ ああんっ⁉ あんっ⁉ ああっ⁉ イクッ⁉ イッちゃう⁉ イクッ⁉」
立っている片脚が崩れ落ちて倒れそうになるのを慌てて抱えている片脚と空いている手で抱きしめ支える。汗をかいたのでお互い全裸になる。葉月さんが布団に仰向けになり自ら両脚を開きあそこを両手で広げる。とてもいやらしかった。彼女の前に跪いて突き入れる。体をのけ反らせる。両胸を揉み乳首を刺激しながら突きまくる。涎を溢れさせながら快感に悶える葉月さんの姿を見て興奮度が高まる。のしかかり上下運動しながら舌を絡める。唾液塗れの彼女の味を堪能した。呻き声が段々甲高くなりまた絶頂を迎えた。股間を締め付けられる感覚。抗った。
莉己「リクエストはありますか?」
葉月「仰向けに寝て…私がしたい…。」
彼女を抱きしめて仰向けになり俺の股間に跨らせる。素早く、滑らかに腰を前後に動かす。
葉月「はあ…⁉ はあ…⁉ どう…⁉ 初めての時より…上手くなった…⁉」
莉己「とても気持ちよくて…とてもいやらしいですよ。物凄く興奮します。」
葉月「はあ…⁉ ううっ⁉ もっと…⁉ いやらしい私を見て…⁉ ううんっ⁉」
片手であそこの突起物を、もう片手で乳首を刺激する。
葉月「はぁんっ⁉ ま、待って⁉ 私の方が…⁉ 先に⁉ イッちゃう⁉ ああっ⁉ イクッ⁉」
全身を痙攣させて腰の動きが止まる。起き上がって抱きしめながら引き抜く。口に押し込む。震える手で根元を握り唇をすぼめ手と頭を動かす。気持ちいい。放った。その後もしばらく口での行為が続いた。1滴残らず搾り取られる。彼女が布団の上に四つん這いになる。
葉月「お願い…後ろからして…私を犯して…⁉」
すっかり元気になった俺のを後ろから一気に突き入れる。体をのけ反らせる。覆い被さり両胸を乱暴に揉みながら激しく腰を動かす。うなじに舌を這わせる。耳の裏を舐める。ひと通り葉月さんの体の味を堪能した後、体液塗れのお尻の穴を眺める。相変わらず物欲しそうにひくひくと痙攣している。腰を動かしながら指を2本出し入れする。ビクンと反応する。お尻がぶつかる音と葉月さんの喘ぎ声が部屋に響く。汗まみれの背中とお尻が日の光に照らされていた。とてもいやらしかった。やがて彼女が限界を迎える。
葉月「うっ⁉ ううっ⁉ ううんっ⁉ はぁんっ⁉ ああっ⁉ イクッ⁉ イッちゃう…⁉」
そのままうつ伏せになり眠ってしまった。そっと仰向けにして両脚を開く。あそこを眺める。とてもいやらしかった。指を2本出し入れしながら親指で突起物を刺激する。やがて葉月さんが反応する。静かな呻き声が喘ぎ声に変わる。目を覚ます。喘ぎ声が激しくなる。
葉月「ま、待って…⁉ お願い…⁉ 駄目…⁉ また…⁉ イクッ⁉ 駄目⁉ 待って…⁉」
待たなかった。グチャグチャにかき回した。あそこから溢れる体液が布団に飛び散り濡らす。とてもいやらしかった。全身を痙攣させてあそこが締め付けられる。
葉月「もう…⁉ 待ってって言ったのに…⁉ ごめんね…布団汚しちゃって…。」
莉己「汚れてませんから気にしないでいいですよ。」
葉月「じゃあ…いつものお礼していい?」
莉己「お願いします。」
後ろ向きに俺に跨りしゃぶりつく。相変わらず痙攣しているあそことお尻の穴を眺める。それに加えて素早く上下する葉月さんの頭をじっと見つめた。物凄く興奮した。気持ちいい。限界が来た。放った。
葉月「ん…⁉ ん~。ぷはぁっ⁉ もうすっかり飲まないと気が済まない体になっちゃった⁉」
莉己「中に出すわけにはいきませんからね。」
葉月「大丈夫な日にしてるんだから中に出してもいいと思うけど…。」
莉己「万が一っていう可能性もありますので。」
葉月「それはそうだけど…バスタオル借りるね!」
葉月さんが汗を拭く。ふと下着に目を向ける。まだ湿った跡がある。そっと匂いを嗅いだ。やはり物凄く興奮する。
葉月「何してるの…?」
莉己「せっかくなので葉月さんの下着の匂い嗅ぎたくなりました。」
葉月「何が『せっかくなので』かわからないけど…感想は?」
莉己「物凄く興奮しました。」
葉月「そうみたいだね。物凄く元気そうだもんね。じゃあ私の前に立って!口でしてあげる!」
莉己「いいんですか? また汗かいちゃいますよ。」
葉月「だって莉己くんのこんな状態のまま放っておけないよ⁉」
莉己「すみません…。」
葉月「謝らなくていいよ! 私で興奮してくれて嬉しい!」
結局萎えるまで69の体勢になってお互い攻め合った。お互い絶頂を迎えて口でして飲んでもらった。最高に気持ちよかった。暗くなったので葉月さんの家の近くまで一緒に帰った。
そして数日が経った。オーディション結果発表はまだかと待ち遠しかった。松本先生がいらっしゃった。これから合格者の名を読み上げるのでしっかりと返事をするように言われた。俺の名が呼ばれた。気合いを入れて返事をした。葉月さんの名は呼ばれなかった。悔しかった。最後にトランペットパート、麗奈さんの名が呼ばれソロも彼女が選ばれた。凛とした声が音楽室に響く。一方音楽室はどよめいていた。「(やかましいんだよてめえら)」と怒鳴りつけたい気分だった。
更に数日後、部活の時間に滝先生が余った毛布があったら貸してほしいという申し出があった。俺の部屋にそんなものはないが葉月さんの家にはあると言うので早朝に待ち合わせて加藤邸へ向かった。応対してくださったのはお母様だった。葉月さんがそのまま年齢を重ねたような…そんな愛らしい女性だった。
莉己「初めまして神坂莉己と申します。娘さん…葉月さんのお母様らしい可愛らしい女性で―――。」
葉月「ちょ⁉ ちょっと⁉ 何言ってるのよ⁉ 早く毛布運んで⁉」
「まあ…⁉ お上手ね…⁉」
グイグイと背中を押されて玄関の中まで連れていかれる。積んである毛布を持ち上げる。意外と軽かった。
莉己「あービックリしました…⁉ 葉月さんってお母様似だったんですね…⁉」
葉月「ビックリしたのはこっちだよ⁉ 人の母親に変な事言わないで⁉」
莉己「あまりの感動につい事実が口から出ただけです。」
葉月「熱弁してるけど開き直らないで⁉」
音楽室に毛布を置いてそのまま朝練に励んだ。放課後、部活の時間になった。滝先生の命により床に、壁に毛布を貼り付ける。さっきから視界の隅に映る女子部員…確かトランペットパートの先輩だったか…滝先生を睨んだままだ。嫌な予感がした。いつでも動けるように準備した。
滝「これでこの部屋の音は毛布に吸収されてより響かなくなります。響かせるためにはより大きな音を正確に吹くことが要求されます。実際の会場はこの音楽室の何十倍も大きい。会場いっぱいに響かせるために普段から意識しなくてはいけません。」
「「「「「はい‼」」」」」
滝「では皆さん、練習を始めましょう。」
「「「「「はい‼」」」」」
「先生⁉ ひとつ質問があるんですけど――――。」
莉己「そこまでです。1年生の麗奈さんがソロに選ばれたのが気に入らないのでしょうが結果は結果です。受け入れてください。上手い人が吹く。何か問題がありますか?去年や一昨年のことは知りませんが私情を挟まないでください。迷惑です。」
駆け寄って先輩と滝先生の間に割って入った。
「何よアンタ⁉ 知ったような口聞かないでよ⁉」
莉己「俺が知るわけないでしょう。その場にいなかったんですから。俺の知ったことじゃないです。」
「でも私聞いたんだから⁉ 滝先生と高坂さんが知り合いだって⁉」
莉己「……つまり去年も一昨年もその前も万年府大会銅賞に終わった北宇治吹奏楽部を全国大会に導こうとしてくださる滝先生がこの土壇場で私情を挟んだと、そう言いたいんですか?聞き逃せませんね。滝先生を信じて付いて来た俺たちを侮辱してるって自覚あります? 舐めてるんですか、俺を?」
「……。」
莉己「はああぁぁぁぁ……。しょうがねえなあ。」
先輩の首を絞めて持ち上げようと片手を伸ばしたその時
「「やめて⁉」」
手が止まる。ふたり同時に声が音楽室に響いた。ひとりは…中世古先輩とかいったか…幹部のひとりだ。
「神坂くんが怒る気持ちはわかる⁉ 優子ちゃんの代わりに謝るから許して…ごめんなさい…⁉」
「香織先輩⁉」
もうひとりは麗奈さん。俺をじっと見ている。
麗奈「そこまでする必要ない。どうか落ち着いて…⁉ お願い…⁉」
再び先輩と睨み合う。怯えた表情、どこかへ行ってしまった。
滝「準備の手を止めないでください。練習を始めましょう。」
その日以降、くだらない噂が飛び交った。
「やっぱりさぁ、贔屓するつもりなくても知ってる知らないじゃ違うと思うんだよねぇ。」
「結局、高坂さんをソロにするためのオーディションだったって話もあるらしいよ。」
「高坂さんのお父さんって結構有名なトランペット奏者なんでしょ?」
「じゃあ先生嫌とは言えないね。」
「神坂くんて鬱病と不眠症と強迫症患ってるんだって⁉ 同情で合格したんじゃないの⁉」
「えっ⁉ そうなんだ⁉ それじゃあオーディションに落ちて自殺でもされたら困るよね…⁉」
「案外、滝先生脅してオーディション合格したのかも⁉ 人殺しの顔だったよあれは…⁉」
くだらなかった、心底くだらなかった。今度のミーティングでひと言もの申そうと思った。その日は早くやってきた。
部長が音楽室に入りミーティングが始まる。挙手して立ち上がろうとしたが部長と目があった。首を横に振る。黙って座った。部長曰くオーディションに不満がある人は挙手をしてその意見を滝先生に伝えるということだった。そこに滝先生が現れた。来週にホールを借りて練習することは伝えられていたがそこで再オーディションを希望する者は手を挙げるようにと告げられた。中世古先輩が手を挙げた。俺は甘っちょろいと思った。挙手した。名前を呼ばれ立ち上がる。
莉己「1年生の小僧の身で生意気を承知で申し上げますが、せっかく部室に毛布が敷き詰められていることですし今ここで再オーディションしませんか? 俺個人の意見としては今すぐこのクソくだらない一件にカタをつけてこのジメジメ湿気た空気を一掃して合奏練習に励むべきだと思います。来週まで引っ張るのは時間の無駄だと申し上げます。」
滝「なるほど…神坂くんはこう言っていますがおふたりはどうですか?」
麗奈「私は賛成です。」
香織「私も賛成です。」
滝「それでは再オーディションを始めます。おふたりは準備に取り掛かってください。」
ふたりが音楽室を出る。麗奈さんを追いかけた。
莉己「麗奈さん、すみません。こんな流れになっちゃって。」
麗奈「謝らなくていいよ。私は莉己くんに感謝してる。この機会を作ってくれたことに。」
莉己「覚悟は出来ていますか?」
麗奈「それこそ心配ご無用よ。いつだって覚悟してる。」
莉己「それなら良かったです。頑張ってください。応援しています。」
音楽室に戻る部員の皆さんの視線が突き刺さるが無視した。椅子に座る。ふたりが音楽室へ入ってくる。先に先輩が吹いた。目を閉じて集中して聴く。完成度は高い…と思う。だが物足りない気がした。次に麗奈さんが吹く。また目を閉じて聴く。感覚的だが香織に足りないものを麗奈さんは補って吹き切ったと思う。1年生にしてこの強心臓。彼女しかいないと思った。思わず立ち上がって拍手した。
滝「中世古さん、貴女がソロを吹きますか?」
滝先生が尋ねる。
香織「吹かないです、吹けません。ソロは高坂さんが吹くべきだと思います。」
滝「高坂さん、貴女がソロです。中世古さんではなく貴女がソロを吹く。いいですか?」
麗奈「は い!」
自信に満ちた美しい表情で確かに高坂さんはそう返事をした。挙手をした。滝先生に名を呼ばれ立ち上がる。
莉己「俺がオーディションに合格したのも精神疾患を理由に同情されただの自殺されたら困るだの滝先生を脅しただの好き放題噂が飛び交っているので俺がコンクールメンバーにふさわしいか、皆さんにご判断いただきたいと思います。課題曲、自由曲、俺ひとりで吹きます。滝先生、指揮をお願い出来ますか? 時間の計測、お願いします。」
滝「……わかりました。準備はよろしいですか?」
莉己「はい、お願いします。」
先生の手の振りに合わせて吹き始める。休むところは休む。吹きたい衝動を必死に堪える。そしてまた吹き始める。課題曲が終わる。自由曲に移る。手の振りを見るがここは吹くところではない。トランペットのファンファーレから始まる。じっと耐えた。ファンファーレが終わるタイミングで吹き始める。細かいところは吹き、休むところは休む。鎧塚先輩のソロパートをイメージする。じっと待つ。やがて合奏パートに移り吹く。最後の大合奏をイメージして吹き終わる。
「11分1秒です!」
ゆっくり立ち上がり壇上に立つ。
莉己「俺がコンクールメンバーでいることに異論のある方、いらっしゃいますか?」
音楽室を見渡す。静まり返っている。部員ひとりひとりの目を見る。目を逸らさなかったのはコンクールメンバーの中で部長と副部長、斎藤先輩、塚本くん、瀧川くん、麗奈さんくらいだった。
莉己「聞いてます?」
頭に血が昇る、こめかみがズキズキする。たぶん血管が浮いているのだろう。深呼吸する、何度も。拍手が聞こえる。音源は…麗奈さんだった、塚本くん、瀧川くん、斎藤先輩、部長、副部長、そして見る限りほぼ全員に拍手が広がった。
莉己「滝先生、俺がコンクールメンバーでよろしいでしょうか?」
滝「私は始めからそのつもりでしたよ。さっきの演奏を聴いて合格者に選んだのは正解だったと確信しました。」
莉己「そうでしたか、お邪魔をして申し訳ございませんでした。」
滝「謝る必要はありません。納得しましたか?」
莉己「一応は…ですがね。」
席に着いた。こうしてクソ面倒なオーディションの一件は幕を閉じた。