桜がカズキの命令を受け入れ、新しい女たちを連れてくるようになってから、ちょうど71日目の夜だった。
今や彼女は、完全にカズキの掌中にあった。
昼は大学の後輩やSNSの友人、闇金アプリで知り合った女たちを誘い、パーティーへ連れていく。夜になれば六本木にあるカズキのマンションへ戻り、彼の果てしない欲望に付き合う。
それが桜の日常になっていた。
体はすでにカズキの好みに合わせて飼い慣らされ、心だけが少しずつ空っぽになっていった。
その夜、カズキはいつもより遅い時間に桜を呼び出した。
リビングのソファに深く腰掛け、ウイスキーを飲んでいた彼は、桜が入ってくるとグラスをテーブルに置いた。
そして珍しく真剣な表情で言った。
「桜、座れ。今日は大事な話がある」
桜は黙って向かいのソファに腰を下ろした。
カズキはしばらく彼女をじっと見つめていたが、やがてゆっくり口を開いた。
「お前、本当によくここまで持ったな。正直、俺もここまで来るとは思ってなかった。だから、お前に本当の意味で最後の選択をさせてやろうと思ってな」
そう言って、テーブルの上に二枚の書類を並べた。
「一つ目は、お前を正式な『管理者』に上げる道だ」
カズキは一枚目の書類を指で叩いた。
「これからは俺の会社の社員になる。客の相手は最低限に減らして、その代わりに新しい女子大生を自分で探して、連れてきて、教育して、管理する。必要なら客への割り振りまで、お前が担当するんだ」
桜は何も言わずに聞いていた。
「毎月最低三人は連れてこい。その代わり、借金はかなり減らしてやる。給料とは別に金も出す。それから、お前は正式に俺の女になる」
カズキは口元をわずかに歪めた。
「そうしておかないと、管理者として下の女どもに示しがつかないからな。お前だから任せようって言ってるんだ。よく考えてみろ」
さらに彼は続けた。
「お前ももう三年生だろ? そろそろ就活もしなきゃならない。いつまでも今みたいな生活を続けるわけにもいかないだろ。俺だって明治大出身の社員がいるなら悪くない。お前にも俺にも都合がいい話じゃないか?」
そこで一度言葉を切り、桜の反応を窺った。
しかし桜が黙ったままだったため、カズキはもう一枚の書類へ手を伸ばした。
「二つ目は、このままだ」
低い声で言った。
「今まで通り俺の愛人を続けながら客も取る。新しい女も連れてくる。ただし、こっちを選ぶなら特別扱いはほとんどなしだ」
カズキはウイスキーを一口飲んだ。
「薬も今まで通り。体は今以上に酷使されるだろうな。この生活がいつまで続くかも分からない。お前はただの『商品』の一つとして扱われる可能性も高くなる」
そして、何でもないことのように付け加えた。
「俺も最近、お前には少し飽きてきたしな」
桜の胸がわずかにざわついた。
カズキはグラスを置き、低く重い声で言った。
「これが本当に最後だ。もう先延ばしもできないし、後戻りもできない。どっちを選ぶかはお前が決めろ」
桜は、すぐには言葉を返せなかった。
自分がカズキの女だということは、すでに周囲の誰もが知っている。
しかし今、彼が求めているのはそれだけではない。
正式に社員になれと言っているのだ。
カズキが運営する違法な組織の一員となり、女たちを管理する側へ回れということだった。
桜はゆっくり立ち上がり、窓際へ歩いた。
眼下には東京の夜景が広がっていた。
果てしなく続くネオン。
笑いながら行き交う、数え切れないほどの人々。
街は明るく輝いていた。
けれど今の桜には、そのすべてが冷たく、意味のない巨大な監獄のようにしか見えなかった。
彼女は、この二ヶ月あまりを思い返した。
カズキの重い体の下で毎晩泣いたこと。
新しい女を連れてくるたび、胸が張り裂けそうになったこと。
ユキやユイが薬で朦朧としながら男たちに連れていかれる姿を、何もできず見ていた夜。
体に刻まれ、消えることのなかった無数の痣や痕。
そしてカズキが、
「いい子だ。俺の可愛い子」
と囁きながら自分を抱くたびに覚えた屈辱と、それとは矛盾する奇妙な安堵。
『俺も最近、お前には少し飽きてきたしな』
カズキの言葉が、頭の中で繰り返された。
『私に飽きてきたって……どうして?』
桜は考えた。
『女を連れてくる数が減ったから?』
実際、最近の桜は以前ほど女を連れてこられなくなっていた。
大学で噂が広がり始めたからだ。
ここへ引き込まれた女たちは、自分自身のことを知られるのが怖くて口を閉ざすはずだと桜は思っていた。
だが、彼女を恨んでいる女があまりにも多かった。
噂が立たないほうがおかしかったのかもしれない。
大学を歩けば、以前とは明らかに違う視線を向けられるようになった。
まるで汚いものでも見るような目だった。
そのせいで、新しい女へ声をかけることは日に日に難しくなっていた。
桜はその事情をカズキへ何度も説明したし、自分なりに必死で努力もしてきた。
窓枠に両手を置き、ゆっくり息を吐いた。
完全な管理者になれば、今よりも「安定」した立場を手に入れられる。
借金も早く減る。
より質のいい薬も手に入る。
そして何より、カズキの保護下にいられる。
今でさえ、彼の女になったことで借金は少しずつ減っていた。
しかし、その安定を得るためには、これからも何人もの女子大生の人生を壊し続けなければならない。
逆に、今のままでいることを選べばどうなるのか。
カズキの愛人として欲望を受け入れながら、客の相手まで続ける。
体はさらに酷使される。
そして、この生活がいつ終わるのかも分からない。
そう考えると、社員になって管理の仕事をするほうが、まだわずかに希望があるようにも思えた。
すでに桜の体は限界に近づいていた。
太ももや胸、首から痣が消える日はなくなった。
薬がなければ強い不安に襲われるようにもなっていた。
それでも、心のどこかではまだすべてを諦めきれずにいた。
二つの思いが、何度も行き来した。
最近のカズキは桜ではなく、ユイに夢中になっていた。
以前ほど桜を求めることもなくなった。
かつてはあれほど頻繁に体を求めてくることが気味悪く、嫌で仕方なかった男だった。
それなのに今、その男が自分ではなく別の女を求めている。
その光景を見るたび、桜の胸には説明のつかない不安が生まれた。
見捨てられるかもしれない。
そんな恐怖だった。
カズキの要求に従ってさえいれば、きっと自分を捨てない。
桜はいつの間にか、そう信じるようになっていた。
『もしカズキに捨てられたら、どうなるんだろう……』
今なら安定して薬をもらえる。
借金のことで毎日怯える必要もない。
カズキの望む歪んだ要求に応えてさえいれば、とりあえず今の生活は維持できる。
体だって、すでに嫌になるほど彼に慣れてしまっている。
それよりも怖いのは、ユイに夢中になったカズキが自分を必要としなくなることだった。
『私を捨てるんじゃないか……?』
そんな考えのほうが、今でははるかに強い不安になっていた。
もし見捨てられたら、自分はどうなるのだろう。
以前、このマンションから追い出された女。
ナナミ。
自分も彼女と同じ気持ちになるのだろうか。
桜は今になって、あの日ナナミが残した言葉を少しだけ理解できるような気がしていた。
カズキに捨てられた後、ナナミは女たちの間ですらまともに扱われず、いじめのような仕打ちまで受けていると聞いていた。
カズキ自身も完全に彼女を無視し、面倒を見るどころか、以前よりさらに酷い扱いをしているらしい。
ほかの女たちでは相手をするのが難しいような客ばかりを、ナナミへ回している。
そんな噂まで耳にしていた。
薬もまともにもらえず、カズキの姿を見るたびにすがりついているという。
自分がこの提案を断れば、いずれナナミと同じ立場になる可能性は高かった。
だが、カズキの要求を受け入れれば。
今度こそ、本当に抜け出せなくなる。
社員になるということは、命令されるまま手伝うだけではない。
自分自身がカズキの犯罪へ、本格的に加担する側になるということだった。
『もし断ったら……どうなるんだろう』
それ以上考えるのも苦しかった。
カズキの性格を知っているだけに、何をされるのか想像すらできない。
カズキはソファに背を預けたまま、黙って桜の答えを待っていた。
その目には冷静な計算と期待が浮かんでいた。
そしてもし桜が再び拒絶した場合、次にどう扱うか。
そんな冷酷な考えまで、すでに決めているように見えた。
桜は長い間、窓の外だけを見つめていた。
やがてゆっくりと振り返った。
そしてカズキを見つめ、ごく小さく口を開いた。
**あなたの選択は?(最終分岐点)**
カズキは桜に、正式な管理者となることを求めている。
桜はその要求を受け入れるのか?
**[選択1] 完全な管理者として社員になる。**
**[選択2] 拒否し、今まで通りの生活を続ける。**
(※ 選択した分岐の次話をご購入いただくと、桜の残酷な運命、その最後の結末が始まります。)
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