やさしい魔王のつくりかた♪【TSBSS純愛全部のせ♡】 作:よるのけだま
魔王は人間に魔法をあたえるが、魔族にもあたえる。
神であり王であるものどもは、人間にも魔族にも与しない。魔族と魔王はべつものなのだ。
王立魔法高等学院・ヘルメロイラ校
魔法大国ルースデン王国の7大魔法学校に数えられ、空間系魔法が伝統的に得意な校風である。
従属魔王は腐敗魔王・メロイラ。
15歳以上の全国民に入学資格があるが入学試験の門戸は狭く、同時に卒業条件が厳しいことでも有名。1千人の生徒の平均年齢は22。
これはルースデン王国7大魔法学校のうちでもっとも高い。
近年はメロイラの禊の時期が近く、入学希望者数はやや下落傾向にある。
そう。ヘルメロイラ校にいま入ることは、贄のリスクがある。
すべての魔法は魔王いてこそ成り立つものだが、しかし、魔王は無敵ではない。人間も魔族も魔法を使いつづけるためには、魔王の健在が必要不可欠であるが、やはり魔王は無敵ではないのだ。不老不死に近いが、不老でも不死でもない。それでは魔法の安定のため問題がある。
そこで人間や魔族が贄を捧げて魔王の健在を永らえさせるものである。禊とその対価となる贄だ。
通例ではどの魔王でも禊をする必要がおおよそ100年に1度程度出てくる。そのときの回復儀式に参加するのが贄の役目である。
贄の役割の内容はさまざま。死亡することも当然あるし、体のどこかが不自由になることもある。魔法がまったく使えなくなることもあったと伝わっている。極めて危険だが、死ぬと決まったわけではない、という表現が適切だろう。
贄になる条件はよくわかっていないが、最終的には贄になることに合意した候補の中から魔王が指定するプロセスのようだ。老若男女関係がない。唯一の共通点は、
——極めて魔法力が強いこと。
これだけだ。メロイラの禊は記録では前回から84年経過している。もし今年なら最短間隔ということになるイレギュラー寄りの時期だ。20年後ということも30年後ということもふつうにありうる。魔王本人ですらある程度の時期調整しか行なえないとされているため、いつ起こるかはだれにもわからない。
「このようなことを辺境の開闢魔術師にお願いに上がるのもこころ苦しいのですが、どうかご入学いただけませんか?」
「確実に俺になるんですか?」とロイはスカウトに来た魔法学園の職員に尋ねた。
「まったく。むしろそれほど確率は高くないです。4年後の卒業時でも前回からの間隔では90年に満ちません。我が校に入学いただけそうな年齢という条件をつけますと、単純にあなたが王国で最上級なだけです。率直に申しますと、贄がいないことはふつうですが、贄の候補がいないことは学園にとっては問題なのです」
「申し訳ないんですが、俺はアリアを残して死ねないんですよね。そもそも入学する動機があまりないですし」
「ですから、金額は積ませていただきますし、義理の妹であられるアリアさんについても入試免除とさせていただくというかたちでいかがでしょうか、とお願いにあがった次第で……」
「悪い話ではないのはわかるので、ようするにアリアの面倒は見てくれるから、万一のときは俺に贄になれ、ということですよね?」
「とても大雑把に言えばそういうことです。そして、もちろん候補をおくわけでして、ぜったいないとは言えないのですが、禊が起こる確率は高くはない。国からの支援もありますし、魔王メロイラもアリアさんへの庇護を確約するとおっしゃっております」
「魔王の確約というのは、またなぜ」
「魔王の考えることは我々には正確にはわかりかねるのですが……ただ魔王メロイラは、なるべくならば禊で犠牲を出さない方針でして、贄の候補は強いものを選べ。金はある程度までなら自分が用立てよう、と」
「魔王なのにずいぶんと慈悲深い」とロイはすこし疑いながら言った。
「あとは、ここだけの噂ではありますが、魔王メロイラはつぎの贄が魔王成りする可能性をわずかながら見ているようです」
「新しい魔王が生まれるかも、ということですか?」
「あくまでそのような噂、ですが。ロイさまは魔王メロイラの庇護である空間魔法をかなり使えるとお聞きしており、魔王メロイラとしては、万一のときに自分に近いロイさまに魔王成りいただくことを望んでいるようなのです。ただ魔王成りは記録がほぼありませんので……」
「そもそも魔王になりたいとは思わないですけどね」とロイは苦笑いした。
贄の候補と明言されてなお、辺境の開闢魔術師の異名をとるロイ・ファイファールがヘルメロイラ校への入学を悩むのは、それなりに積まれた金と、アリア・ファイファールのためだった。
アリアはロイより4つ下。今年18歳になったばかりの村娘で、身寄りはない。ロイの13歳の初陣で、壊滅した村にいたところを救出され、当時はまだ存命だったロイの父に引き取られた。
アリアは魔法が得意ではあったが、ロイのように一線級とはいかない。ヘルメロイラ校には入学できる可能性もある程度の出来で、極ふつうの村娘だった。
それを特待内容でいれてくれるというのだから、ロイにとっては昔からの責任がひとつ剥がれるような感覚があった。
アリアの将来を考えれば悪くない話だ。将来安泰とまでは行かないが、このまま貧しい辺境の村で暮らすよりはずいぶん可能性は開ける。
「兄さん、わたしはその……このままでも」と夕食のときにアリアは言った。「それよりもですね、あしたわたしの誕生日だと……お伝えしたかと思うのですが」
「ああ、今日は悪かったな。朝、山崩れの復旧を優先させてしまって。まあ、道が崩れていれば今日の使者は到着できなかったから、そこはよかったのかもしれんが」
ロイはアリアの兄ではもちろんないが、アリアはずっとロイのことを「兄さま」とか「兄さん」とか呼んでいる。
「兄さま、わたしはその……あまり行きたくは……」
「いや、この村でずっと過ごすわけにもいかんだろ。俺は貧しいところもふくめて気に入っているが、アリアにはアリアの未来がある」
「あの、ご迷惑なのはわかっているのです。18にもなって、その縁談もいくつか断っていますし……。ただ、あの……おそばにその……おいていただくわけには……」
「出ていけと言っているわけではないよ」とロイはあきらかに意気消沈しているアリアをなだめる。
「いやあの、そうではなくて……何度もお伝えしてるのですけど……兄さまをお慕いしていてですね……」
「わかってるよ。おまえの気持ちはうれしい。兄として俺が必ずしあわせにするから」とロイは笑った。
アリアの微妙に頑張り切れない性格と幼いころから世話になっているのにそこの息子に手を出してはいけないという負い目、ロイの妹としての大きな好意がふたりの関係を何年も前進させずにここまで来た。
「アリアはヘルメロイラ校には行きたくないの?」
「いえ、通常ならわたしが入れるかそもそも怪しいですし、兄さまといっしょならどこでもお供したいです」
「俺は危険な任務もあるかもしれないから、ひとりで学んでもらうことも増えると思うが。今回も聞いた感じ、入学から2、3週間は贄候補としてほぼ学園にはいないようなスケジュールだったからね。すこし会えなくはなると思う」
「え……それは……すこしさみしいです。……やっぱり、このままではダメですか?」
「いやだから、アリアはいつまでもこうしているわけには……」
「そう……ですよね……わかりました。そうしましょう、兄さまがそれでいいなら。……でも、あしたは誕生日なのですこしだけ甘えさせてくださいね?」
結果、半月後にアリアの特待優遇もつけることで、ロイは入学を承諾した。
「ただ1点、寮はいま特待の空きがなく……そこだけ一般生の寮でもよろしいでしょうか? 空きが出ればもちろんお移りいただくということで」とヘルメロイラ校側からは回答があった。
「混合じゃないなら。あとアリアは村の男の子くらいしか話したことがないので、コミュニケーションが苦手かもしれません」
「もちろん寮はすべて男女別ですが、交友関係すべて管理するとなると、それこそ生徒の自由恋愛まで口出しすることになるので……」
「ああいや、それは彼女の選択なので問題ないんですが、一般生の治安ですかね」
「ああ。それは。正直、歴史上で事件がゼロではないですし、まあ、若い男女数百人おりますので毎年トラブルの相談くらいはありますけど……」
「一般的な、と申しました」
「それならアリアさんに関しては、ある程度は自信がありますよ。女子寮も完備していて、一般的な交際については並ですが、セキュリティはわりとしっかりしています。たしかに贄がそういった要求になることは稀にあるようですが、それもあなたが対象ですし……逆に禊や贄にサキュバスがからんでくると、そういったことはあなたのほうが気をつける必要があります。肉体変化などは贄ではないではない」
アリアは小さいが学校からとても近い女子寮に入ったと、初日に入寮してすぐロイに魔法で手紙を送った。
ロイはそれを1週間後で知った。
アリアが一足先に魔法学校に入学したのは、直前でクエストが入ったからだ。村でロイくらいしか受けられない難易度が年役でかされてしまった。2週間程度になる予定だった。
これからはアリアも自立を考えなくてはならないので、2週間くらいはちょうどいい、とロイは考えた。
もしホームシックになっていても、2週間程度ならさすがにアリアも我慢ができるだろう、と。もしかしたら、村での生活のようにすぐ慣れるかもしれない。