やさしい魔王のつくりかた♪【TSBSS純愛全部のせ♡】 作:よるのけだま
「授業はもう今日は終わりですか」とロイは言った。
「ええ、今日はロイさんは2コマですね。お着きになってそうそうにお呼び立てしてもうしわけない」
まだ新しい年度の匂いがするある日、ロイは魔法学校にようやく入学した。
教務と校長だけのわびしい入学式を終えると、さっそく2コマ授業を受けた。アリアとはべつだったらしく、教室で見かけることはなかったが。
午前が終わるとすぐに教務に別室に呼ばれた。
「こちらこそ、昨日は到着がおそかったので特待寮の方々にはいろいろご迷惑を……」
「ああいえ、それはもう」
「ところで、アリアは元気ですか? 午前の授業は被ってなかったものですから」とロイは言った。
この2週間、つねに気にしていた。
「ああええ、ほとんど授業は被らないと思いますね。ロイさんは学園カリキュラムの最終学年が受けるもの中心でして……。アリアさんは1年目で受ける基礎講義ですから。ただアリアさんはふつうに過ごされてますよ。ロイさんからお預かりしている大切な生徒さんなので、授業の様子は見るように担任にも伝えてありまして……。初日ちょっと緊張してらっしゃいましたが、2日目からは
「それはよかった。ただこれ、もしかするとかなり会いにくいですか?」
「実態として学年と寮がちがうことになりますから……毎日会うということはないのではないかと……まあ、昼食は学食なのですがそれも学年でわけられていますので……うーん。たしかに。考えたこともありませんでした。兄妹でも学校では1年会わなかったということはあるので、そうだな。うん。たしかに。ご心配ですよね? あまり派手にフォローしすぎるとまわりから浮いてしまうのではないかと……ただロイさんがご心配なのであれば、なにか昼食のときに学年の隔たりをなくすような対応もおそらく……いや、ちょっと確認してみないとですけども」と教務は汗をかきながら言った。
「ああいや、それはそうですよね。浮きますね、たしかに。いつまでも自分がついているわけにはいかないし。ところで、いま最高学年が受けてる授業を受けてるなら、来年からはどうなるんですか、俺は」とロイはすこし自分の過保護さを恥じて話題を変えた。
「なにぶんその贄の件もありますので」と教務は小さめの声で言った。「ロイさんの実力がすこしでも上がってリスクを減らせるよういま王立魔法学園のすべてを集中させています」
「ああ、いや、それは恐縮です」とロイは言った。
「いえ、お誘いしたのはこちらですから、無事に帰っていただきたく。それにこれで贄の生存率が上がるのは、人類の悲願でもありますから」
「俺もご期待に応えられるよう邁進します」とロイ。「ところで、アリアの様子だけわかる範囲で教えてもらえますか?」
「あー、これは、すみません、気が回らず……2週間お会いになってらっしゃらないんでしたもんね。そんなことはこれまであまりなかったんでしょうし」
「ええまあ、これは村の都合ですので。むしろ入学が遅れてもうしわけない」
「そんな、そんな」と教務は恐縮そうにしている。「アリアさんは基本的には4コマ授業ですね。ええと……これか」
教務が出したのは出席票となにかの課題で作ったであろう簡易的な魔法陣だった。
「出席はまだ2週間ですので当然と言えばそうなんですが、全出席ですね。これがさいしょの課題で作った魔法陣です。担当教員が言うには、まずまずみたいでしたね。ていねいでやさしそうな魔法陣を描く、と」
「そうですか」とロイは言った。
ロイにとって、魔法陣のよしあしは範囲外というか、これほど基礎的な魔法陣は何年も描いていないので逆に馴染みがない。
正直に言えば初級の魔法陣など誰が描いてもよさなどでない。未熟なものはわかるが、うまいかはわからない。残念ながらこの魔法陣も未熟さはある。なんの魔法陣かはしらないが、最低限のラインは守ってあるように見えるものの、自分が使うかと言われるとかなり怪しい。
アリアの実力からするとたしかにこのくらいかもしれない、とロイは思った。
と。
ロイは電信魔法のような刺激を感じた。ただ電信魔法にしては対象があいまいだ。ロイに話しているという初歩の初歩の意識向けみたいなものができていない。
アリアも練習中だったが、これよりはうまかった。
(うっ……♡ やめっ……♡)
しかし、あまり質のいいものではないようだった。
ロイはあたりを見渡す。学園の建物しかない。
「どうされました?」と教務。
「ああいや、なんでしょうね」とロイは言い澱む。
(おっ……♡ もう……♡)
「失礼、すこし索敵魔法を使ってよろしいですか?」とロイが言うと、教務は慌てた様子で、
「な、なにかまずいことが!?」と恐怖している。
「ああいえ、ちょっと電信魔法かな、というのがあって、出どころを知りたく」
「ええ、もちろん使っていただいてかまいませんが」
ロイが索敵魔法を無詠唱で使うが、うまくいかない。
こんなことはふつうならば起こり得ない。
「使えない……!?」とロイは慌てたがすぐに思い当たる。「そうか、メロイラのテリトリーだ」
「なるほど……?」
「ああいや、索敵魔法は空間魔法で、魔王メロイラの加護で使える代表的な魔法なんですよね。ここはメロイラの総本山ですから、広範囲に敵対的な索敵魔法が使えるわけがないなと。メロイラからすると攻撃ですからね」
「なるほど。聞いたこともありませんで……」
「ふつうはまあ、学校で索敵魔法は使わないですよね。友だちと落ち合うのは電信魔法で充分なので、あえて敵と探る魔法を使う必要がない。いや、盲点でした。不躾さを謝っておいてください。もしメロイラにお会いできることがあれば、謝罪します」
「ああいえ、そこまで魔王メロイラは気にされないと……」
「まあそうですよね。それはそうだ」とロイは今日はじめて笑った。
(ンン……♡)
「……しかしなあ」とロイはあたりを見渡す。「気にはなる電信ですねこれ。どこからだろう」
もちろん、自分以外にはだれもいない。
教務棟からは3、4階建ての大きめの建物が見える。学習施設には見えないので、寮だろうとはわかる。
(あ……がっ♡)
視線にきづいたのか、教務が言う。
「あれは学園でいちばん大きな男子寮ですな。200人くらい生徒がいるのと、教師も職員も使う寮ですよ。もうとにかく男性が泊まるいちばん雑多なやつです。まあ、特待寮のロイさんはあまり行くこともないでしょう」
(い……う……♡ お゙っ……♡ それやだ……考えられな……♡)
「なんだ……?」
「どうかされました?」
「うーん。いや、まあ、そうですね。男子寮には女性連れ込めますか?」
「なにを!? いやまあ、注意はしていますが……毎年罰を受ける生徒はいますね。突然……あ、特待寮はとくにそう言ったチェックもないので、実質、学園の生徒でもなければフリーですよ」
「いや、そういう意味では。あれ、学園の生徒は?」
「生徒は性別のちがう寮には入れないですね。全学生に在学中はメロイラの加護があるので。アリアさんはその中でもさらに強い庇護でして。ま、ご安心ください。そのあたりは抜け道もないです。処分はなにか特殊なことがなければ、外部の子を連れ込むパターンですね」
「そうですか。まあ、魔王メロイラの気まぐれだけが怖いですね」とロイは笑った。「ちなみにいまはあなたにはなにも聞こえないですか?」
「はい。たぶん電信魔法失敗じゃないですかね。個人指定の。範囲指定を失敗したときにほかのひとに電信してしまうやつ。よくありますよ。あなたほどの力をおもちなら電信魔法失敗は想像のそとでしょうけど。学生ですからね」
(……ふっあ♡ 深いっ♡ 入ってるっ♡)
そういう声か……? なんの目的……そもそもだれだ? とロイはわずかに悩んだが、
「まあ、すこし気になっただけですから」と言った。
生徒の情事に口を挟みすぎるわけにもいかないし、アリアがすくなくともこの声の主でないことはロイには確信があった。