やさしい魔王のつくりかた♪【TSBSS純愛全部のせ♡】 作:よるのけだま
ロイは2週間遅れてヘルメロイラ校に入ったが、その力は圧倒的と言わざるをえなかった。
わずか数回の授業出席であきらかに異質な魔法力を使い、教師でさえもよくて互角だった。
それでも当人は、こういうカタログスペックが試されるのは苦手なんですよね、もっと総合的なのだと100%出せるんですけど、と悔しそうにしている。
しかし、その圧倒的な評判でさらに忙しくなる。
贄の説明や対策、偉いひとたちとの会食、あっという間に日曜になった。日曜になると今度は翌週に魔王メロイラとの謁見予定が組まれ、ロイはしかたなく通例に従って、故郷の産物を奉じるために一時帰宅した。
アリアとは会えてはいなかったが、教務が話をしてくれたらしく、2通学内からの手紙が届けられた。さいしょの手紙はロイが着いた翌日で、授業の話が中心で寂しいが頑張るというもの。ロイは忙しくて会えに行けてなくてもうしわけないことと、今週はメロイラ関連でダメだが、来週末は空けておくからどこか出かけるか、としたためた。
つぎの手紙は土曜で、けっこう頑張っていると思うので、兄さまがいいなら来週にはお出かけがしたい、ごほうびがほしい、と明確に書いてあった。
ただ2通目は魔術式署名の魔力が大きく乱れていて、サインのよこには水滴のあとがあった。
おそらく、感極まって泣いてしまったのだろう、とロイは思った。1通目は平気そうで魔力に乱れもなかったので、自分が学園にいてなかなか会えないだけでこれだけ心細くさせてしまうのは、やはりすこし甘やかしすぎたのかもしれないと思った。
3週間会っていないだけなのだ。アリアはロイの中では妹であり、いっしょうそばにいることはできない、と思っていた。
もうすこし、18歳らしく、兄がめんどうだと思ってくれてもよかった、とロイは思ったのだ。
ただ、ロイも3週間もアリアに会わないことはなかったので、会いたかったし、心配ではあった。ただ会う時間がなかった。
日曜日、故郷からとんぼ帰りして、故郷の作物を預けると教務棟を出た。月明かりにネックレスを見る。
アリアと対になっているネックレスで、空間魔法の叡智と呼ばれる高価な恋愛アイテムである。ロイが空間魔法を習得しているときに、値が張ったものの数ペア買い求めた。なぜなら、高価ではあるが魔力装飾具のコスパとしてはとてつもなくいいからだ。最上級のシステムで最低にくだらないものを作ったため、と言えばわかるかもしれない。
このアイテムは、メロイラの500年前の眷属・アルメロイが基礎を完成させたと言われる。効果は、契約した相手がたがいに貞操を守っているかぎりは割れない、というだけのものだ。くだらないことこの上ない。
ただし、メカニズムとしてはやっていることがわからないレベルで高度である。ロイは長年解析しているが、なぜそうなっているのかはわからない。一度パーティーアイテムと間違っているのではないかと思い、村中のカップルで試してみて、中には持った瞬間片方が砕け、そのまま崩壊して非常に気まずい思いをしたこともあった。ただ、正確に過去のことすら把握できることが証明された。
ロイは正直に言えば、解ける気がしていない。さすが魔王メロイラである。
ただ、アリアはそれをききつけて、兄さまが持っているならわたしが片方持ちます、と自信満々に宣言して、もう5年くらいたつ。
こういうのもよくないのだろうか、とまん丸でひびひとつないオーバルの黄色いネックレスをロイは眺めた。
夜はすでに暮れている。
(んぐっ……やめ……うしろやだぁ……)
やはり、男子寮からだ。
「さかってんなあ」とロイは言った。
オーバルはアリアの潔白を誇るかのように月明かりに輝く。
ロイはわらう。もしこれがいま割れたら、と嫌な想像もしてしまう。
このような嬌声がこのあたりでは届くからだ。
(だめっ……ゆるし……やだ……)
女の子が嫌がることはするものではないと思う反面、来なかったらよいのではないかと思う。さすがにひとさらいのような生徒をのんびり生活させるほど王立魔法学園は甘くはないはずだ。
(きもちいいっ♡)
声が1週間くらい前よりも艶めかしくなっている。ロイも年頃ではある。いくら鍛錬で精神を安定させているとはいえ、気にはなる。
何人もが同じ電信魔法失敗をしているとも思えないから、おそらくひとりの女の子がいつもセックスをしているということになる。
それは、ロイをひどく勃起させた。
魔法の精度が落ちるので、ロイは自慰があまり好きではない。それにこのあいだまでは家にアリアもいたので、そうそう発散することはできなかった。
(このままじゃいっちゃう♡)
なぜこのようなメッセージを電信魔法してしまうのかはわからない。
あえて絶頂時に「イク、イッチャウ」などと思考するのはどういうことなのか、とも思ってしまう。
気分を盛り上げるために頭をハックするという感じだろうか。
もしくはこの電信魔法自体が軽い露出のようなものなのかもしれない。
(認めたい♡ おちんちん気持ちいい♡)
ロイはすこし、前かがみになった。露出はおそらく成功している。
そこでふとアリアの姿が思い浮かぶ。なぜかロイにはわからない。いや、わからないフリをする。
兄なのだ、と。
電信魔法は声色まではわからない。音声がとんでいるわけではないので、自分のイメージの声でしかない。だから、電信魔法を使うときはなるべく自分の中のプレーンで無機質な音を定義することからはじめる。
だが、きづいていた。
ロイはこの艶めかしい声を、アリアのものとして再生していることに。
脳は愚かだ、とロイは思う。声など聞こえていない。そういう魔法ではないのだ。
だが、ロイにはアリアの艶めかしい、育ってきた肢体が浮かんでしまう。月がきれいなのがいけないのだ、とロイは思った。
(いや……それおしまい……だめ、にいさま! や——)
にいさま?
なぜ電信魔法は切れたのだろう?
もう2度と聞こえてくることはなかった。ロイのネックレスはこわれていない。
だが、兄さま、とはなんだ。いや、どこかの妹か。すがるところはネックレスだけだ。
つぎの瞬間ひび割れてもなにもおかしくないのだと急に理解した。
索敵魔法をうちたくなるが、しかし、無駄だし、メロイラの機嫌を損ねてはいけない。
落ち着け。まずは、とロイは思う。知れることを知れるかぎり知ろう、と。
まだ明かりのついている校舎に入って、女生徒を見つけた。
「こんにちは」とロイは声をかける。
「あら、ロイさんじゃないですか!? 光栄です」と女生徒は知名度に対してあいさつした。
「どうも。あのじつはいま妹の寮の場所が知りたいんだけど」
「女子寮? どの女子寮ですか? たぶん入れませんけど」
「かまわない。顔を見られればいいんだ。手紙では校舎の近く、と」
「じゃあ、あれしかないですね」と女生徒はすこし離れた古い建物を指さした。「ただ3、4年用ですけど……。新入生は使えないですよ」
「学校から近い綺麗な建物ときいたんだがな……」
「これきれいですか」と女生徒は笑った。「まあ、掃除はされてますが……。人気ない寮ですけどね、ここ。やっぱり学校近いとこは基本的に特待寮ですね。あ、ロイさんの妹さんなら特待寮でしたかね、すみません」
「いや、一般寮だと」
「えー……うーん、校舎以外だと特待寮くらいしか。男子寮の古くてデカいやつも近いけど、女子寮ですもんね? いやキレイじゃないか……。あとはほんとに壁の外だと思いますね。魔王廟はきれいですけど」と笑った。
「魔王廟って魔王いるの?」
「たまーにいるというか、お会いできるのがそこしかないみたいです」
「あの、いちばん大きい男子寮のちかくの、3階建てのやつです」
電信が、飛んでくるときに近かったのは魔王廟だったのかもしれない、とロイは思った。