やさしい魔王のつくりかた♪【TSBSS純愛全部のせ♡】 作:よるのけだま
魔王廟にはなにもない。
なにもないし、だれもいない。
魔法はすべて使えている。ように感じられる。ここは全世界でもっともメロイラの力が大きい場所だ。なにが起きてもおかしくはない。
「ひとの寝所にみだりに入らないでくれたまえよ」と魔王メロイラは言った。
「お目にかかれるとは思いませんでした、魔王メロイラ。辺境の開闢魔術師・ロイと申します。妹を探してまして」
「ここに? 人探し? いるわけないでしょ、そんな図太いやつ。この学校でいちばん恐れるべき——あ゙!?」とメロイラの顔色が変わる。「索敵魔法、学園の中でこの廟だけは生きてるからかけてご覧よ。生徒のプライバシー守る必要がないからね。で、それからいいわけしな。おまえがそれに絡んでるなら、いくら贄でも殺すよ?」
「妹を探しているだけです」とロイは言って、索敵した。
3階だ。
あきらかに魔力道具が使われた痕跡がある。
走って階段を登る。
魔力で妨害はされ——物理だった。物理的にあきらかに部屋の一角が隠されていた。雑多な装飾品や棚が隅にスペースをつくっていることがわかった。
窓が開いていて、男子寮の3階の窓とは目と鼻の先だった。
おそらくここから出て、いや、アリアは男子寮には入れない。下に降りて逃げたのかもしれない。
「ここ、いま倉庫にしててね。つぎの禊用の。だからまあ、ここ80年くらいほぼ使ってなかった。油断したよ。まさか魔力じゃあなく、物理的に忍んでたなんてね」と思い切り不愉快そうにメロイラは言った。
スペースを隠してあった布を剥ぎ取る。
いろいろなおもちゃ。
ひどく汚れた床。
持ち込んだシーツ。
書き置き。
——探さないでください。真面目に勉強はしますから。数日、彼と一緒にいたいです。
魔力署名は前回同様「アリア・ファイファール」。
そして、さいごに少量の血と透明な液体。
思わずロイはネックレスを見たが、オーバルはオーバルのままである。
「いいわけはある?」
「魔王、私は妹を、アリアを探しに来たのです」
「それを証明するものは? なんでいまこんな時間に? 妹ちゃんにこれ逃げられたとかじゃなくて?」
「いや、ほんとうに妹になにが起こったのかわかりません」
「彼と、って手紙にはあるけどねえ……。魔力は通ってるけど、これ本人の魔力?」
「そう……ですね」とロイは魔力署名に手を触れて確認した。
「液体探知苦手なんだよなあ。でも、これ液体は愛液だろうね。血は……破瓜か? ん? ちがいそうだけど……まあでも魔力的にはその近辺……あ。きみ、魔力が急に切れたとか感じてない?」
「急に電信魔法が切れたと感じたので、アリアの居場所を探して、それでここにたどり着いたんですよ」
「あー。なるほど。儀式だな。魔力封じの。どっかに映像あるかもねこれ。ふつうは録画して縛っておくから。たぶんクリトリスにピアッシングしたときの血液だろう。しかし、禁呪に近いのに、まあ際どい……。封印完成させてるし。なあ、きみはあれか、貴族に恨みを?」
「いや、覚えはないですけど」
「魔王として命ずるが、数日動かないでいることはできるか?」
「この状態でですか?」
「きみ、アルメロイのアイテム持ってるだろ?」
「ああ、はい」
「だよね。これよくできてるよね。まあ、ことはもうだからなんだというレベルでしかないけど」
「まだわからないですよ」
「だから急ぎたい?」
「はい」
「これね、じつは不思議なんだよ。おそらくきみの妹ちゃんはすでに魔力がゼロで電信魔法すらもう使えない。だけど魔力署名はしてある。つまり、魔力署名をして、クリトリスの血を塗ったわけ。これ完全に決別なんだよね。魔法との。だからこれはどう見えてると思う?」
「駆け落ち……?」
「正解。魔力をなくした女の子の逃亡劇」
「なんで魔力をなくしたんですか?」
「ぼくの加護を外れたかったんじゃない? つまりまあ、男子寮に逃げ込んだ、ということになるだろう」
「そんなことのためにアリアは……」
「そもそもあまり魔法が好きではなかった可能性ない?」
「……わかりません。そうかもしれません」とロイは力なく言った。
「まあ、生徒が探すなとこう言っている以上、自主的な逃亡なんだろうから、ぼくにはなにもすべがない。このおちょくりはぜったいに許さないけど」とメロイラは言った。
「自由恋愛に見える、と?」
「さあ。人間の情愛などわからない。そもきみも同意したと聞いたぞ。妹ちゃんには恋愛感情はない様子と報告が来ている。ぼくはもっとガチガチに固めたかったが。彼女の恋愛には手出しするな、と言われたらね」
「それはそうですが……」
「まったく、ひとというのはわからんね。アルメロイも魔王成りできたらもっと生きてられたんだけど。ああ、やつはもともと贄なんだよ。500年くらい前のね。ぼくは可能だったらぼくのところで修行するを禊にするから。時間を死ではなく、努力で納めてもらう感じだね。ただまあ、アルメロイはとても才能はあったんだけど、魔王には成れなくてね」
「ぼくを魔王にしようとしてるんですか?」
「きみを?」
「ええ」
「んー、そこコントロールできるならいいんだけどね。まあ、そもそも魔王成りはぼくと並ぶってことだからね、力で。さすがになってしばらくはぼくのほうが強いだろうけど、1年か2年かもっと早くか。そのくらいで対等になっちゃうんだよ」
「つまり、危ない」
「そう。きみを丁重に扱ってる理由もわかるだろ。きみが得意とする魔法はぼくのものだし、そのきみが魔王になってぼくに恨みを持つのはまあまあ可能性は低い。となるとこのままきみにはいい顔をしていたい。万一に備えてね。きみに恨まれることは、もしかするとぼくにとって死活問題になるかもしれない。だから、きみが守ってほしいと言っていた妹ちゃんはもっとガチガチに固めたかった。ただたぶん、妹ちゃんは自由恋愛をしちゃったんだろうね。アルメロイのアイテムがあるなら一線越えてはないんだろうけど」
「それが結論ですか?」
「うん。まさか魔王廟でいちゃつくとは思わなかったから、必ずオトシマエはつけさせるけど」
「どこのどいつか調べても?」
「索敵魔法?」
「はい」
「いや、そいつはさすがに。事件だってきみに確信があるならいいけど、それ以外で生徒の情報をはいどうぞ、ってわけにはいかないでしょ。王国と敵対する気があったら魔法学校の魔王なんかやってないよ。なんかあるの?」
「いえ。卑猥なことばをアリアが電信魔法で飛ばしてくる、というのが私のもつ情報のすべてです」
「それだとね……。そういうプレイにも見えちゃう。まあ、言った通り、オトシマエはつけるから、こんなナメたマネをしてくれた生徒はぜったい見つけるよ。男のほうね。妹ちゃんもここを使ったのは同罪だけど、不問にはする」
「しかし……」
「わかった。じゃあ、男子寮の防護をぼくの名において、ぜったいに生徒以外通さないことにしよう。持久戦だ。それならいいだろう? 自主的に限界を迎えるのを待つ。まあ、アルメロイのネックレスはほぼ割れるだろうが、それはかまわないんだろう?」
「……アリアの意志なら」とロイは言った。
こぶしは強く握られていた。
「ただ、ただ、魔王メロイラ。本日、男子寮をすべて魔法を使わずにあらためていいでしょうか」
「個室?」
「はい」
「……まあ、それくらいなら目をつむろう。見つけたいんだね、どうしても」
「はい」とロイは言った。
「まあ、よほどのミスをきみがしなかったら、見つかるだろう。ぼくはおそらくあるだろう魔力封じの映像でも見つけてみるよ。見つかったり、まあ、万一寮内にいなくても調べ終わったらまたここによってくれたまえ」とメロイラは言った。
そして、深夜近くになるまでロイは全部屋を調べたが、アリアの姿はどこにもなかった。