【R18】英梨々が処女卒業するまで終わらない話【画像付き】 作:きりぼー
ボツになる理由はどうしても登場人物が多くなり、原作と今以上にかけ離れたものになってしまうからです
そういう裏事情もあり、倫也ー英梨々の関係もだいぶ煮詰まってきている感じがします
初期から読んでいただいている方には、英梨々の成長が感じられているのではないでしょうか
英梨々の成長よりも加藤を抑えることに苦労しましたががが
新学年の最初のイベントといえばクラス替えだ。進学校なので特進クラスがある。2年生の時はゲーム作りに没頭して成績が凡下がったが、1学年時の優秀な成績、3学期に大きく挽回したこと、何よりも担任や各教科の先生と良好な関係性を築いていたことが功を奏して、なんとか特進クラスに選ばれた。
加藤も成績は悪くなかったが特進クラスに進まなかったようだ。英梨々は美大の推薦を狙っているので特進クラスには進む必要がない。
「あんた・・・つまんないわね」
「現実的に考えてこの選択しかないだろ」
「それはわかるわよ。わかるけど高校生活最後を受験に費やして後悔はないわけ?」
「受験に専念しろといったのは英梨々だろ・・・」
「そうだけど、そういう問題かしら」
「何もかも手に入れるのは難しいんだよ・・・」
学校の理事に顔がきく澤村家は、いかがわしい権力を行使してクラス替えぐらいは自由に出来たはずだ。俺と英梨々が同一クラスになることも可能だったようだが、俺は特進クラスを希望した。
「まぁ恵のことを考えたら妥当かもしれないけど、学校ではあたしたちのことは内緒にするつもりなのね」
「アイドルと変わらんような英梨々と付き合っていることがバレたら、やっかみと嫉妬でめんどいだろ。特進クラスなんて学園祭すら参加せずに特別授業が行われるんだし、その点では気が楽だ」
「そうなの!?」
「そうだよ。だから学校にいる間は交流イベントなんてほぼないんだぞ」
「へぇ・・・」
「英梨々だって受験生なんだから、部活だって引退するだろうし、推薦が決まるまでは勉強するだろ」
「あたしは希望の美大入りは決まっているようなものだもの。理事長とも面識あるし」
「はいはい・・・」
そういうわけで新学期が始まり、俺と英梨々は新しい学校での関係性を模索する4月になった。
登校時は英梨々が迎えにきて一緒に地元の駅まで歩く。学校の最寄り駅からは別々に行動する。学校内でもほぼ交流することがない。昼食時間に食堂で見かけることがある程度だ。
これができたてのラブラブカップルなら、「寂しい」とか、「もっとイチャイチャしたい」とか不満も出るのかもしれないが、何しろ俺と英梨々だ。自宅で一緒にいられるのでそんな感情は芽生えない。
少し距離をとって離れられるのでちょうどいいという熟年カップル並みに悟りを開いてしまっている。
地元の駅で待ち合わせて一緒に帰ることも考えたが、待っている時間で家についてしまうので時間の無駄だ。学校帰りに英梨々がうちによるということで話がついた。英梨々が先の時は英梨々が俺の部屋で待つことになる。
「なんか付き合っている感じがしないんだけど」
「そうか?」
「あんたは付き合っている感じがするわけ?」
「するぞ」
「何もしていないのに?」
「ああ」
「なんでよ」
「英梨々しかうちにこないからな。ああ、英梨々が彼女になったんだなぁとしみじみ思っているよ」
「嘘臭いね」
「英梨々だと合鍵を渡されて部屋で待っている時なんかは、彼女って感じがするんじゃないか?」
「・・・それはそうかもしれないけど。あんまり変わらないわね」
「幼馴染っていうのは兄妹みたいになるからな、なかなか劇的な恋愛関係にはならないらしいぞ」
「ふーん」
もちろん俺としては彼氏らしいことをしたいとは思っているのだけど、いかんせん受験生だ。デートを重ねることもできないし、英梨々との関係性を縮めて体を接近させるわけにもいかない。節度あるお付き合いをするつもりだ。
「ねぇねぇ、じゃあゴールデンウイークはどうするのよ?うちの別荘もこないわけ」
「いけないな。宿題が腐るほどあるし、特別授業もあるから学校だ」
「そうなの!?」
「日程渡しておくか」
年間スケジュールを英梨々のケータイに送った。
「なにこれ・・・バカなの・・・」
「そういうわけで日曜ぐらいしか休みがないが、その日曜を遊ぶと宿題が溜まって終わる」
「はぁ・・・東大でもいく気なわけ?」
「そこまで学力があがるかはわからねぇな。詩羽先輩のいる私大が目下の目標だな」
「詩羽の尻をまだおっかけるつもりなの!?」
「そうじゃねーよ。現実的に目指せる限界がそれぐらいだって話だろ」
「ふ~ん」
毎日合っているのだから、それで充分だとも思うだが、英梨々とはスケジュールが違いすぎて確かに面白くないかもしれない。
「俺もせっかく英梨々と付き合いはじめたわけだし、何かこう・・・楽しい思い出作りというかイベントはやりたいし、正式な彼氏になれるようにがんばりたいとは思っているんだがな」
「そういえばバイトもやめちゃったのよね」
「ああ、ゲームの方でひと儲けしたから当面の財政は大丈夫だしな。受験中は流石にアニメを追うわけにもいかないし」
「じゃあ、どうするのよ」
「ゴールデンウイークもずっと勉強するわけじゃなくて、半日ぐらいは時間をつくれるだろうからさ、その時に何かしようぜ」
「・・・何かって何よ」
「だから、それをこれから考えるわけで」
英梨々が口をとがらせて拗ねている。
俺としては半日デートで一気にキスまで進めてしまおうと思っている。付き合って三か月以内が一番熱いというし、あまり惰性で付き合うのも良くないだろう。
「こんな言い方も変なんだけど、英梨々は自宅の方が漫画を書きやすいだろ?」
「それはそうよ」
「だから・・・俺が英梨々の部屋で勉強してもいいぞ?」
「勉強はするわけね」
「受験生だからな」
「どうしようかしら」
俺の家に入り浸っても文句を言わない英梨々の両親なので、もちろん俺が英梨々の家に長くいても文句を言われたことはない。何しろうちの両親よりも英梨々の両親と過ごす時間の方が長かったのだ。
ちなみに『付き合い始めた報告』は英梨々から両親に伝えたらしく、『あらそう、良かったわね』とそっけない返事があったそうだ。反対されることはないと思ったが、もう少し変化があってもいいような気がした。
「そうねぇ・・・じゃあ、倫也はうちで夕食食べなさいよ」
「毎日はなぁ・・・」
「部屋に運ばせるわよ。なにしろ将来の・・・」
「止まるなよ」
「と・・・とにかくあんたが出世するためにも応援してあげるわよ」
「そりゃどうも」
英梨々は眉間に皺をよせて何やら必死に考えている。そもそも暇になってしまうから余計なことを考えるのだ。英梨々だって漫画制作やイラストを描き始めたら集中して時間はあっという間に過ぎる。俺が隣で勉強していようが、遊んでいようが関係なくなる。
そもそも英梨々は自宅で趣味に没頭し、俺も自宅で受験に専念するというのがあるべき姿なわけで、そこを同じ空間で過ごすメリットはほぼない。
メリットがないけど、せっかく付き合ったので同じ空間で過ごす。まずは新しい距離感を模索するのは大事だろう。
「じゃあ倫也、さっそく帰るわよ」
「わかった。用意するから少し待っててくれ」
「でも、倫也がうちに来るメリットってないわよね?」
「決めたそばからそれ言っちゃう?」
「なんかあんたの受験を邪魔している感じがするじゃないの」
「飯が食えるだけで充分だ」
「・・・別にいいけど」
俺にわかるのは英梨々がゴールデンウイークの予定を立てられずに気分がしょげてしまったということぐらいだ。
4月も中旬を過ぎたので強風は落ち着いてきた。だいぶ暖かい日も続いて春らしい長閑な時間が流れている。
手をつないで坂道を上っていく。途中に小さい公園があって、ひとつだけブランコがある。俺と英梨々が幼稚園の頃に作ってもらったものだ。世の中には誕生日プレゼントにブランコを送ってもらえるという事実に衝撃を受けたのを覚えている。
「はぁ・・・」
英梨々が隣で溜息をついた。
「なんちゅーため息だよ。桜もすっかり散ってしまったな」
「そうね。こうして青春時代の最期の春が何事もなく終わっていくんだわ」
「えらく悲観的だな」
「だって、せっかく恋人ができたんだしやりたいことぐらいあるでしょ」
「例えば?」
「デートとか」
「どんな?」
「どんなって、映画みたり、ボート乗ったり、観覧車乗ったり」
「したことあるよな・・・」
「・・・あるわね」
関係性ははっきりしなかったが英梨々と二人ででかけることは何度もあった。だいたい泊まりででかけることがあるのだから、いまさらデートも何も関係ない気がする。
「あとはもうエッチなホテルに行くぐらいだろ」
「それも取材目的で入ったわよね・・・」
「・・・入ったな」
「何もなかったけど」
「だから、今度は何かあるためにいくこともあるだろ」
「うーん・・・」
英梨々がエロ同人作家でもあるので、R18的な取材を手伝ったことも何度かある。ラブホテル、大人の玩具屋、ピンク映画館。年令を偽ったので補導案件だが幸い捕まることはなかった。
英梨々の屋敷にはすぐ着いた。通用口の電子ロックを解除して中へと入る。昔は飼い猫が迎えにきたのだが残念ながら今はもういない。その話はえらく長くなるので割愛する。
正面玄関から入って螺旋階段で2階へと上がる。2階の洗面所で手を洗ってうがいもする。廊下には赤い絨毯が敷いてある。本来は洋館なので土足のままで歩くのだが、ここは日本なので玄関でスリッパに履き替えている。
英梨々は部屋に荷物をおくと夕食の件を伝えに降りていった。執事かメイドさんがいつもいる。
俺は英梨々の部屋に入って勝手に待つ。俺用の机は流石にないので低いテーブルにノートと参考書を置いて、クッションに座った。
しばらくすると英梨々がワゴンにお茶とお菓子をのせて戻ってきた。
「紅茶とクッキーだけどいいわよね」
「充分だ。いただきます」
「どうぞ」
英梨々がティーポットからカップにお茶を注いでくれた。昔は高級なカップに違和感もあった気がするが、今はもう気にしない。そうそう割るものでもないし、普段使い用のカップは意外と傷などもあるし年季が入っているのがわかるようになったからだ。
「・・・倫也」
「なんだ?」
「着替えるんだけど」
「ほう・・・」
「ほうじゃないわよ・・・」
「それはそれは・・・なかなか恋人らしいイベントが」
「って、出てきなさいよ」
「・・・」
「・・・」
「そこはちょっとサービスタイムとかないのか?」
「ないわね。そういうつもりじゃないから」
「ふむ、ではしょううがないな」
俺は立ち上がって部屋から出て行った。
もっとも英梨々の部屋はでかい。俺の部屋の3倍ぐらいの広さがあって横長だ。半分がフローリングで漫画制作や勉強スペース。もう半分が厚手の絨毯が敷いてある寝室。さらに奥には別に衣装部屋がある。
だからその気になれば衣装部屋で着替えることもできるのだ。というか衣装部屋で着替えていた時は何度かある。こういうのは意識してしまうとダメなのだろう。
しばらくすると内側からノックがされたので中へと戻った。英梨々はずいぶんとシックな紺色のワンピースを着ていた。
俺が何も言わずに元の場所に座ると、英梨々が腰に手を当ててポーズをとった。
「あんたね、衣装変えた時ぐらい何か感想言いなさいよ。そういうとこよね」
「んあっ?ああそうか・・・そうだよな。ごめん英梨々。俺が全面的に悪かった」
「そこまで謝らないでいいわよ」
英梨々を褒めるというのも照れる。しかし彼氏(仮)に昇格した以上は役割があるのも当然だ。
「英梨々。今日も可愛い。長いツインテールは今日も綺麗だし、紺色の服は英梨々のスタイルの良さもよくわかるし、スマートでカッコいい。長い手足も白い肌もいつもよりも映えて見える」
「あら、ずいぶんと口が回るじゃないの」
「ああ、でも英梨々。確かにいいもんだぞ?」
「何がよ?」
「こう・・・思ったことを素直に口に出せるというのは」
「・・・っ!」
英梨々の顔が赤くなった。
「やっぱりただの幼馴染ではあんまりバカ正直に褒めるわけにもいかなかったからな」
「なによそれ。あんたは前からあたしをカワイイと思っていたわけ?」
「そりゃそうだろ?」
「そうなの!?」
「驚くことかよ・・・お前だって毎日鏡見ているんだろ?」
「そりゃ見ているわよ。あたしはあたしが可愛い事ぐらい自覚もしているわよ。でもそれとこれとは別でしょーが」
「そうか?」
「ならもっと口に出しなさいよね。まったく」
「そうもいかんだろ・・・」
「なんでよ・・・」
「適正な距離というのが人間にはあるだろ」
「あ~あ~理屈っぽい。まっ、素直になれたならいいわよ。恋人になって良かったわね」
「・・・そうだな」
「そうよ」
今度は俺の方も顔が赤くなってしまった。
「まぁいいわよ。倫也。あんたの気持ちはわかったわ」
「どうした?」
「(仮)を外してあげるわ」
「ほう・・・?」
「だから、あとでもう一回ちゃんと告白しなさいよね」
「あとで?」
「あとでよ」
「なんで後なんだよ」
「まだ夕食も食べてないし、従業員がいるからよ」
「よくわからんな」
「ふん!」
そういうわけで、それから俺はお茶を飲みつつ勉強を始めた。英梨々は机で最初はぼんやりとネットサーフィンをして、それから徐々にアプリを立ち上げて漫画制作にとりかかりはじめた。
そうなると部屋の中は静かになって、俺の勉強も捗るようになった。だいたい昔からこんな感じなので変な意識をすることはない。
18時になるとメイドさんが夕食を2人分もってきてくれた。一人前ずつトレイにのって定食のようになっている。お礼を言って受け取る。今更俺のことを詮索されることはない。
夕食は八宝菜で御飯とスープと杏仁豆腐がついている。家庭で作る八宝菜と違って本格的というか本物だ。安い街中華で食べるよりも食材がしっかりしているのは海老やイカなどの海鮮類をみればわかる。ぷりぷりしているのだ。
テーブルの上を片付けて、俺と英梨々のトレイを並べる。プーアル茶がポットに入っていたので茶器に注ぎ入れる。
「いただきます」「いただきます」
一緒に手を合わせてから食べはじめる。
「なんか、新婚になってもこんな感じになりそうね」
「ずいぶん気が早いな・・・」
「・・・もう少し照れなさいよ」
「お前がな」
「べ・・・別にあたしは口が滑ったなんて思ってないんだからねっ!勘違いしないでよ。ふん!」
「それ認めちゃってるじゃねーか」
「・・・いいでしょ。妄想する自由ぐらい誰にだってあるんだから」
「それはまぁそうだな」
「ご飯食べたら、倫也はいったん家に戻ってシャワー浴びてきなさいよ」
「ええっめんどくさいじゃん」
「うるさいわね。今日だけでいいわよ。ちゃんと歯も磨いてね」
「ん?わかったよ・・・」
それからしばらく沈黙が流れて、もくもくとご飯を食べ。それから思い出したように制作中の同人漫画の話をした。英梨々としては当面の目標が8月のコミュケなのだ。
俺もアイデアぐらいは出せる。いつもならおまけの制作を手伝うのだが、今年は流石に免除だろう。そうこうしている内に晩御飯を食べ終わった。
「ごちそうさま」
「それじゃ、お腹いっぱいのところ悪いけど一度帰ってくれる?」
「パジャマの方がいいのか?」
「泊めるわけないでしょーが。そんなことならあんたの部屋にあたしが泊まりにいくわよ」
「それいつも通りだな」
「だいたいなんでみんな無事なのよ。あんた男でしょ?」
「男だし、紳士だからな」
「ヘタレの倫理君だったわね」
「ふっふっふっ・・・もう彼氏だからな、保証はしないぞ」
「あんたが襲ってくるぐらい肉食獣なら、あたしはこんなに苦労しなかったと思うわよ」
「どういう意味だ?」
「そのまんまよ。ほらほら、時間なくなるわよ」
俺は追い立てられて、一度家に帰ってシャワーを浴びた。別に急ぐ必要はないだろう。英梨々だってシャワーを浴びているはずだ。歯も磨いてマウスウォッシュもしておく。
告白しろと言われら、改めて告白する必要があるのだろう。何事も儀式は大事だ。しゃれた言葉の1つも言いたいがセリフが浮かばない。
※ ※ ※
夜。通用口のパスコードを入力して中へと入る。英梨々が玄関まで迎えに来て扉を開けてくれた。従業員の業務は夕食を提供したところで終わるのが基本なので今日はもういない。
英梨々ママの小百合さんは1階のアトリエにいることが多い。英梨々パパのスペンサーおじさんは多忙なので家にいることはあまりないし、いる時は部屋に引き籠ってあまり出てこない。
英梨々は風呂に入ったようで髪型はストレートだ。着心地の良さそうな長袖のパジャマを着ている。色はシンプルな白だ。
英梨々にはツインテールの戦闘モードと、髪の毛ぼさぼさの腑抜けモードがある。風呂上りのプレイベートモードは珍しい。歩くたびに長い髪がゆらゆらと揺れていい香りがする。
「はいこれ」
英梨々が俺に棒状のものを渡した。
「・・・懐中電灯か」
「静かにね」
「ふむ・・・」
英梨々は螺旋階段で2階へ上がり、廊下の反対側の階段で1階へと降りた。このルートなら両親とは遭遇しにくい。
1階の奥は従業員スペースがいろいろとある。男女別のロッカー、休憩室、それにキッチンだ。キッチンは大きくて3~4人の大人が働けるスペースがある。これは英梨々の家でパーティーをする機会が多いためだ。20~30人規模の会合や、クリスマスのように100人規模の時もある。
このキッチンの横を抜けると鉄の扉があり、そこから地下室に降りることができる。
何しろ歴史ある建物で戦火の中も焼けずに残った。明治時代からあるらしく改築や改装を重ねているとはいえ、基本の形はそのままなのだ。この地下室は備蓄倉庫として使われているが、当時は緊急時のエスケープルームとしても機能していたらしい。世相の不安定な時代もあったのだろう。
鉄の扉を開けて狭い階段を降りていく。コンクリートが剥き出しでかなり怖い雰囲気がある。子供の頃は探検を兼ねて英梨々と潜入して遊んだ。
階段を降りるとまた鉄の扉がある。鍵がかかっているので英梨々がスペアキーで開けた。この階段の照明はないため、ここで懐中電灯が役立ったのだ。
地下室はかなり広い。保存のきく食料品や非常用の水などが備蓄されている。ここも英梨々は電気を付けずに懐中電灯で進んでいった。奥に通路がある。
「相変わらず不気味だな・・・」
「慣れればどうってことないけどね」
「でも驚かしたら怒るだろ?」
「そりゃ怒るわよ」
英梨々は泣き虫なので、英梨々を置いて走って逃げたら後でめちゃめちゃ怒られたことがある。
狭い通路には3つの小部屋の扉があり、1つがワインセラーになっている。高いものはロマネコンティーなど一本100万円を超えるものもあるらしい。冗談半分でも遊んではいけない場所として教えられた。中を覗いたことが何度かあるぐらいだ。ワインが無数に並んでいるだけで別に面白いものじゃない。
一番奥の扉が分厚い金属の扉で、映画の銀行のような物々しいロックがされている。隠し財産があるように思わせて実はたいしたものが入っていないと英梨々が言っていた。結婚したら見る機会があるかもしれない。
ただ、たいしたものが入っていないというのは本当だろう。それこそ1000万程度の現金や多少の貴金属なら入っているかもしれないが、こんなにわかりやすくは隠さないものだ。
そういうわけで中央の扉を開ける。こちらは巨大な南京錠でロックされていて、その鍵はRPGさながらのレトロな大きな鍵だ。
「まったく使いにくい事この上ないわよね」
英梨々がガチャリと鍵を回して南京錠を外した。「ギィー」と大きな音がなって鉄の扉を開ける。この「ギィー」という錆び着いた音もわざとなるように調整されているのだ。中二病心の分かる人だ。
部屋の中は本棚が天井まであり、漫画本と同人本でぎっしり詰まっている。推定5千冊。ちょっとしたマンガ喫茶ぐらいの数だ。メジャーどころはだいたいそろっているが、現在は更新されていない。もう本を置くスペースがないのとデジタル化が進んでいるからだ。本棚にはビニールの暖簾がかかっていて埃が積もらないようになっている。地下室なので温度と湿度は安定していて本の状態は非常に良い。
『R18この先立ち入るべからず』とわざわざ警告がされている。この先はエロ同人本コーナーで本棚にぎっしりと薄い本が並んでいる。その他にもガラスのショーケースの中には作者のイラスト入りサインやサイン本が並べておいてある。マニアにはたまらない品々に驚かされる。要するにここは小百合さんの趣味の部屋だったのだ。あるいは今もそうなのだ。
英梨々がこの部屋のスイッチを押して電灯を点けた。なんどか点滅したあと蛍光灯が光った。
「じゃあ倫也頼むわよ」
「あそこにいくのか・・・」
「わかってるくせに」
金持ちの考えることはよくわからんもので、これがスペンサーおじさんの遊び心なのか、小百合さんの趣味なのか、あるいはさらに先代や祖先による真剣な仕組みなのかはわからない。ただこの部屋の本棚にはギミッグあるのだ。ある本を傾ける事でスイッチがはいって本棚が動くようになる。
これをはじめて発見した時のわくわく感は今でも忘れられない。小学生の低学年の時だった。
本棚が動かすと白い壁が現れる。この壁が実は扉になっている。扉といっても人が屈んでやっとくぐりぬけるぐらいの大きさしかない。しかもドアノブがないのだ。この扉は押して引いても横にスライドさせても動かない。
正解は上方向に持ち上げるのだが、持ち手が一切ないのだ。ガラスのショーケースの中に『吸盤フック』がある。これを隠し扉にペタンと貼り付けることで上に持ち上げやすくなる。他にも方法があるのかもしれない。少し持ち上げれば指を入れて開けることができる。
おそらくだが、この屋敷にはこんなギミックが他にもいくつかあるはずだ。俺がこの屋敷を自由に探索できたのは小学生の3年生頃までの話だ。そこで英梨々と喧嘩して疎遠になってからは流石に探索できていない。
その頃までは澤村家の実の子のように自由に出入りをしていたので、英梨々よりも間取りに詳しかった。部屋と部屋の間にはスペースがあると推測されるところもあったし、部屋の奥行が違っている場所もあるのだ。果たしてスペンサーおじさんや小百合さんが全部把握しているのかも怪しいと思っている。
「英梨々先にはいっていいぞ」
「そうするわ」
俺が懐中電灯を下に置いた。英梨々が四つん這いになって中へと入っていく。俺は入口にもどって電気を消した。もっとも南京錠が開いたままなので英梨々がいることはバレバレなのだが、小百合さんが夜にくることはもうないだろう。何しろ『そういう場所』なのだから。だから今は英梨々が鍵をもっているのだ。電気を消したのは暗黙のルールのようなもんだ。
俺も中へと入った。中は電池式のランプが1つ天井に吊り下げてあるだけで薄暗い。部屋もとても小さい。そこにどうやって運び込んだのかわからない真っ赤なソファーが置いてあり、それが全体の半分を占める。
昔はここでゆっくりと本でも読むのかと思っていた。実際そういう使い方もしたと思うし、俺と英梨々もここで漫画を読むのが好きだった。
「なんか・・・こう・・・怪しい場所よね」
「大人になると心が汚れるんだよ」
「・・・そうね」
「マンガでも持ってくるか?」
「いらないわよ。そういえばあんたの今日の宿題は終わったのかしら」
「終わったといえば終わったが気にするな。勉強は果てしなく続いているからな」
「ふーん。問題があったらいいなさいよ。たまには遊びたいけど邪魔をしたいわけじゃないんだからね」
「わかってる」
そういうわけで英梨々の隣に座った。一応3人掛けのソファーでそこそこ大きい。壁が目の前にあるので圧がすごい。
「これどうやって運び込んだんだろうな?やっぱりボトルシップみたいなもんかな?」
「そうでしょうね」
「小百合さん変わっているものなぁ・・・」
「そうね。同人作家なんてまともな人がなるものじゃないわ。ママも一人っ子だったし、自由にお金が使えたんじゃないかしら」
「ろくなことに使ってないよな・・・」
「お金なんてそんなもんでしょ。隣のワインセーラー見たってわかりそうなもんじゃないの」
「そうかもなー」
俺も人のこと言えないぐらいオタクアイテムと沢山集めた。そしてスペースの問題もあってなくなく手放している。場所と金があったらこれに近いものを作ってしまうかもしれない。
「あたしはねー、庭にログハウス建ててもらおうと思っているの」
「ログハウス?」
「美大にいったら制作することも多いだろうし、アトリエが欲しいと思って」
「ほう・・・」
アトリエをねだればアトリエを作ってもらえるのか。ブランコいらいの衝撃だな。
「アトリエは絵を制作するためのもので、エッチなことは禁止だからね」
「まだ何も言ってないんだが?」
「だからって、ここも嫌よね・・・」
「あはははっ・・・」
さてさて、ここで小百合さんが秘め事をしていたかどうかは謎ではある。とはいえ、おそらくわざとであるがそれらを示唆した悪戯もある。例えばショーケースの本の中にはコンドームが隠されていたし、この部屋の中にある小さな隠しスペースには大人の玩具も入っていたのだ。
「じゃあそろそろはじめようかしら」
「何をだ?」
「バカね。告白タイムに決まってるでしょ」
「ロマンティックのねぇ場所だな・・・」
「まったくね」
何もこんな場所でなくたって・・・と思わなくもないが、他に適当な場所がなかったのか、何らかの思惑があるのかはわからない。
「では改めて・・・英梨々好きだ!俺と付き合ってください」
「どれくらい好き?」
「ここにある全部の本よりも好きだ」
「1千万円ぐらいかしらね・・・」
「換金するなよ・・・」
「もう少しプライスレスな感じにしなさいよ」
「そうだな・・・」
まったくこんな密室で呑気なものだな。少しは危機感みたいのはないんだろうか?むしろ誘われているような感じは・・・ないな。
「15光年離れてもいても毎年会いにいくぐらい好きだよ」
「織姫と彦星だっけ?」
「こいつ・・・学習してやがる・・・」
「そんな言い方ないでしょうが。これでも毎年倫也の天体観測に付き合ってあげているんだからねっ」
「そりゃ覚えるか」
「他には?」
「五劫の擦り切れずというのがあってな、これは100年に一度天女が岩肌をさっとなでるだろ」
「なんで寿限無始めているのよ」
「最期まで聴く?」
「聞かないわよ、真面目にやりなさいよ」
この密室やばい。英梨々のいい香りでクラクラしてきた。押し倒してもいいのかな?
「窓から差し込むひだまりで畳がやけてしまわないように毛布を敷いたら、そこにいつの間にか猫が陣取って丸くなってしまうぐらい好きだ」
「悪くないわね」
「ペンギンがシロクマに氷を送るぐらい好きだよ」
「それは心配になるわね」
「バニラアイスの蓋についたアイスだけ集めて一人前作るぐらい好きだよ」
「それは嫌ね」
「池のコイに餌をあげてたらゆりかもめが全部横取りしていってしまうので、爆竹投げたらコイの方が気絶」
「武勇伝武勇伝」
「でんでんででんでん」
「ネタが古いのよねぇ・・・令和よ?」
「ミルクボーイが7年前か・・・」
「それにしても、好きというのはあまり言葉じゃ伝わらないものなのかしら?」
「そんなこともないと思うぞ」
「じゃあ、さっさと答えなさいよ」
やれやれ、わがままな英梨々だな。言葉で伝えないのが一番カッコいいと思うのだが。
「小さな扉が開かなくなって、ここで2人で死んでも後悔しないぐらい英梨々が好きだよ」
「・・・なんか暗くない?」
「世界が終わっても、英梨々だけいれば俺は幸せになれる自信があるぐらい好きだ」
「・・・」
「ここにずっとこうしていたいし、帰りたくない」
「・・・うん」
「英梨々はここの漫画を換金したらと言ったけど、俺はこのまま英梨々をここに閉じ込めて・・・」
「監禁したい」
「オチいうなよ」
おかしいな、さっきから真面目に口説いているつもりなのに。
「英梨々。好きだよ」
「うん」
「どんなに言葉を重ねても伝わらないかもしれないけど、好きだよ」
「うん」
「千年ぐらい彷徨った感じがするぐらい好きだよ」
「そうね」
「きっと原作が間違っているんだと思うぐらい好きだよ」
「なんの話よ」
「だからさ、18歳になったら結婚しよう」
「・・・っ!」
「今はプロポーズの準備を何もしてないから、改めてちゃんとするから」
「・・・それで」
「だから、俺と付き合ってよ」
「しょがないわね」
英梨々が俺に右手の甲を差し出した。俺はそれを右手で軽く支えてキスをする。
「キスはもう少し明るいところでしよう・・・」
「・・・そうね。ここはまずいわね」
「ああ、ほんとにまずい・・・そろそろ出るか・・・」
換気口はあれど、心臓がドキドキして体に悪い。ここは我慢するところじゃない、発散する場所だということがわかった。
(了)
今回は挿絵がありません
生成AIと仲良くなれない時も多いです
2人以上の生成だとまだまだポンコツというか、マッチョな男になりがちなのであきらめました
そういうわけで今回は関係ない英梨々をおとどけです
【挿絵表示】