【R18】英梨々が処女卒業するまで終わらない話【画像付き】 作:きりぼー
6月になって梅雨入りした。今日も雨がしとしとと降っている。
英梨々は俺のベッドで膝立ちをして窓の外を見ている。まるで幼児が電車に乗っているようだ。
学校帰りに直接来る英梨々は制服を着たままだ。ただ今日は髪の調子が悪いらしくて電車の途中でリボンを解いている。そういうわけでトレードマークのツインテールをやめてストレートヘアーなのだが、ところどころが跳ねている。
「こう毎日雨だと退屈よね」
英梨々は毎年のように梅雨時はそう言うのだが、元来出不精なので気分的なものだろう。俺は勉強をするし、英梨々は漫画を描いているのだ。天気はあまり関係ない。
「お茶が冷めるぞ」
「うん、置いといて」
マグカップには英梨々の持ってきたティーバックのお茶が入っている。ルイボスティーというアフリカのお茶なのだが、そこに香料が添加されている。柑橘系が入っているのがわかるが何種類もあると何がなんだかわからない。美味いのか不味いのかもわからないが、健康には良さそうだ。
英梨々が何をそんなに熱心に外をみているのかわからない。スイッチが入るとスケッチブックにデッサンを始めることもあるが、今日はぼんやりと眺めているだけだ。
「こんな日はよその恋人は部屋で何をしているのかしら?」
それが俺への問いかけなのか、独り言なのかは判断に難しい。言葉の意味を深読みすべきか、聞き流すべきかも悩んでしまう。
「ゲームでもしているんじゃね?」
俺の解答はそんなに間違っていないと思う。それなのに英梨々が振り返って俺を睨んだ。それからまた窓の外を見ている。
「ずずずっ・・・、何か見えるか?」
ルイボスティーを口に含みつつ英梨々の相手をする。雨天で少しメランコリックな気分なのだろう。もしくはただの寝不足かもしれない。
「なんにも面白いものは見えないわね」
「だろうな」
自分の部屋の窓から何が見えるか覚えていない、それぐらいありふれた光景だ。家の庭と道路があるので、隣の家まではそこそこ距離があるので見晴らしはそこまで悪くはない。
角度をつけて覗き込めば英梨々の家へつながる坂道が見えるし、赤い屋根も見える。
「倫也ってチューだけで飽きないの?」
寝不足もあるだろうが、欲求不満もあるようだ。英梨々とファーストキスを交わしてから毎日キスをしている。朝の玄関と夕方の小さい公園でこっそりとキスをする。
恋人らしいといえば恋人らしいが、節度をもってキスをしているため先には進展しない。
「飽きないな。それにまだ飽きるほどキスをしていないだろ?」
「そうかしら?どれくらいで飽きるのよ」
「夏の終わりぐらいだな」
「気長ね」
実際問題として飽きてはいない。毎回ドキドキする。朝の玄関でキスをしている時などはそのまま学校へ行きたくなくなる。英梨々も同じじゃないかと勝手に思っている。
俺はお茶を半分ぐらい飲み終わったので、机の上に参考書とノートを出して勉強の準備を始める。のんびりしていると時間だけが過ぎていく。
「じゃあ倫也。キスの次はどうなるの?」
「それは・・・分岐があるんじゃないか?」
「どんな分岐よ」
「キスを発展させるか、ハグに移行するかだな」
「倫也のゲームは気長よねぇ・・・」
「何しろ付き合うまでに14年ぐらいかかっているからな」
「そうなの?」
「だって俺も英梨々も3歳だっただろ」
「覚えてないけど、年少ってそうだっけ?」
「そうだな」
幼稚園の一番下が年少組で3-4歳だ。俺は英梨々が転園してきた日のことをなんとなく覚えているが、英梨々は忘れているようだ。
英梨々がベッドから降りてきてクッションにペタンと座った。それから冷めてきたお茶を一口飲んだ。
「これって美味しい?」
「わからん」
「わたしもよくわかんないのよねぇ」
「健康には良さそうだよな」
「そうね、リラックスできていいと思うわよ。勉強前だったらカフェインがいいんでしょうけど」
「いや、カフェインは夜に眠れなくなってかえって効率が悪いからな。ちょうどいいよ」
「あたしも夜のコーヒーやめようかしら」
「その方がいいぞ。夜更かしは美容の敵だしな」
「そこまで夜更かししてないわよ」
英梨々は子供の頃は体が弱くてよく学校を休んでいたが、途中からは健康にも気を付けるようになって風邪もひかなくなった。
俺は勉強を始めようと思ったのだが、英梨々はまだ何か話をしたいようだ。
「倫也は3歳の時を覚えているのよね」
「適当だけどな。記憶力だけは人よりも良かったからな」
「何しろ神童ですものね」
「そんな時もあったなぁ・・・」
「今も充分頭いいじゃないの」
「いやぁ、どうだろうな。ただの井の中の蛙だったかもしれないしな」
放任主義というかネグレクトに近い親のおかげで、俺は英梨々の家によくお世話になった。英梨々と大喧嘩をする小3の半ばまでは英梨々の家に通って同じ家庭教師の元で勉強をした。
その先生が理解度によって先に進めてくれたおかげで、小2の時点で中学生の課題を勉強していたのだ。それを知っている英梨々には神童と揶揄されるが、そんな少年は意外と多い事を後から知った。
それに喧嘩した後は塾もいかなかったし、貯金を使い果たすように勉強をしなかったので中学の時点では帳尻が合って周りの凡人と変わらなくなった。
「ねぇ教えなさいよ。どんな風だったか」
「どんな風って?」
「3歳のあたしたちのこと」
「ふむ」
「それとも勉強したい?」
「けじめの問題だからな。でもいいぞ」
俺はイスから立ち上がって、ベッドの方に座った。英梨々が向きを変えて見上げるように座り直す。
「あれは・・・今日と同じように止まない雨が降り続いている日じゃった」
「あっ、ちょっと待って」
英梨々がマグカップをテーブルに置いてから立ち上がった。
「ちょっと倫也、えっとそうね・・・その壁にもたれかかるように足を伸ばして座って」
「うん?」
英梨々に言われた通り俺はベッドの上に足を伸ばして壁にもたれかかった。さっきまでの英梨々と反対の向きだ。
「そしたら、もう少し開脚して」
「開脚?こうか?」
「それでいいわ」
英梨々がベッドに上がってきて俺の前に座って背中を俺にくっつけた。
「おい・・・」
「手を貸しなさいよ」
英梨々が俺の手を掴んで前にもってきた。
「あのな・・・」
「恋人ハグってこんな感じでしょ」
「なるほどな・・・なら、そこの枕をとってくれ、背中にあてておく。壁が痛いんだよ」
英梨々が前かがみに手を伸ばして枕を取って俺に渡した。俺はそれを腰に当てる。
それから二人でもぞもぞと体勢を微調整してしっくりとバックハグを完成させる。
「こんなところね」
「ふむ・・・」
「いいわよ。話を続けて」
「どこまで話したっけか」
「そうね、そろそろ濡れ濡れのアソコにちんぽをつっこみそうなところまでだったわね」
そういう下ネタさえなければなぁ・・・あえて残念美人を目指しているのだろうか。
「英梨々は6月からの転園だったんだよ。みんなはもう教室にいて、俺だけ教室に入らなかったんだ。長靴がいっぱいあるのが面白しろくて、玄関にずっと残って見てたんだよ」
「変な子」
「そうだな。変な子だったな。英梨々と小百合さんが綺麗な傘を差しながら少し離れた場所に立っていたんだ。それが気になっていたのかもしれない」
「ふーん。よく覚えているわね」
「小百合さんが真っ赤な傘でさ、鮮やかなスカーレットっていうのかな。普通の傘とちがって持ちてとかも輝いているだろ。高い傘って」
「そうね」
「英梨々もみんなが着ているような黄色いレインコートじゃなくって、臙脂に近いような濃い赤のレインコートを着ていて目立っていた。みんなが登園するのを待ってから玄関に近づいてきたんだよ。それから先生と一言二言話してて」
「何も覚えていないわね」
「英梨々は不安そうで小百合さんの後ろに隠れていたからな。玄関に入ってから小百合さんが傘を閉じて、英梨々のレインコートを脱がせたんだ。英梨々は透明に近い淡い白色の長靴で、カラフルな水玉模様がついていた」
「ほんとにそんなに細かいところまで覚えているの?」
「むしろ逆だな。そのスケルトンの水玉の長靴が印象に残っていて、あとは記憶が補足されているのかもしれない」
「へぇ・・・」
「ほら、スケルトンって萌えるだろ」
「その頃からそういう性分なのね」
俺はなんとか冷静に昔話をしているが、目の前の英梨々がいい匂いがしすぎてクラクラする。
しかも英梨々は話を聞きながら俺の指と自分の指を絡めて遊んでいる。英梨々の背中は俺が思っている以上に華奢で細い。寄りかかってきているが重たくはない。
「レインコートを脱いだ時にさ、もうほんとにびっくりしたんだ」
だいぶ記憶が断片的になってしまったが、あの時のことは鮮やかに思い浮かぶ。
「裸だったとか?」
「バカか?」
「そんなに驚くようなことしてたのかしら?」
「あのな・・・金髪だったんだよ」
「当たり前でしょ」
「そりゃ英梨々には当たり前でも、俺からしたらびっくりだったんだよ。金髪なんていうのは絵本の中の天使だけだろ?それで俺は『天使だ!』って驚いて、慌てて教室まで戻ったんだよ」
「怖かったのかしら?」
「そうじゃなくてだな。絵本をとりにいったんだ。『幸福の王子さま』という作品でな。子供向けの簡易バージョンなんだが、それでも文字数がすごく多くて年長のコーナーに置いてあったやつ」
「倫也はまだ3歳よね」
「そうだな。俺は・・・まだ読めなかったと思うけど、目を通して覚えていたのだと思う」
「でも、確かにその絵本なら覚えているわよ。うちにもあるわよね」
「英梨々がその後買ってもらっているからな」
「ふーん・・・あんたはなんでも覚えているわね」
「そうでもないよ。記憶はその辺で止まるからな」
「そうなの?」
「英梨々に絵本を見せて、天使のページを開いたんだ。英梨々がどんな反応だったかも覚えてないけど、英梨々はそれがきっかけでやっと上履きに履き替えたんだよ」
「へぇ・・・口説かれたのね」
「あのな・・・」
この絵本に関するエトセトラはもう少しあるのだが、英梨々が忘れているならそれにこしたことはない。
「じゃあ14年ぶりに後で読んでもらおうかしら」
「もう1人で読めるだろ。なんなら原作読めよ」
「どうしてそういうつれないことを言うのかしらね・・・」
「いでででっ・・・」
英梨々が俺の手の甲をつねった。
「さて、イチャイチャタイムはこの辺で勉強に戻るぞ」
「あんたはいったいどういう理性しているのよ。そのままおっぱい揉みたいとか、押し倒したいとか思わないわけ?」
「今の気分は幼稚園児だからそういうのは割りとないな」
「まったく・・・」
英梨々がずりずりと前に進んでベッドから降りた。俺も同じ様にベッドの端まで移動して立ち上がった。
「実際、絵本の読み聞かせは恥ずかしいだろ」
「そうかしら?やってみたら?そうでもないかもしれないわよ」
「ふむ」
英梨々がクッションに座ってお茶を飲んだ。俺はイスに戻って机に向かって参考書を手に取った。
英梨々が天使かもしれないと思うことがあるのは今もあまり変わらない気がする。さっきも背中に羽があったら邪魔だよなって考えていた。
(了)