進め!アシスタント道 作:ろくりん
記録的な猛暑と数万人規模のオタクたちの熱気が渦巻いた夏の祭典から、二週間が経過していた。
九月に入り、窓の外を吹き抜ける風にはわずかに秋の気配が混じり始めている。都内の高級タワーマンションの八階にある秦谷ヒナの作業部屋は、極限の修羅場を乗り越えた後の、束の間の平穏に包まれていた。
葛城ヨウは、自分専用のサブデスクに向かい、液晶タブレットの上で静かにペンを走らせていた。ブラック企業を脱サラして憧れの同人業界に飛び込んでから、彼の作画技術は確実な進歩を遂げていた。当初はヒナの指示通りに背景のパースを取り、トーンを貼るだけの作業だったが、最近では小物のデザインや、モブキャラクターの下書きまで任されるようになってきている。
「葛城さん。そのモブの顔、もう少し顎のラインをシャープにしてください。私の絵柄との親和性が落ちます」
部屋の奥のメインデスクから、ヒナの的確で容赦のない指示が飛んでくる。
「はい、わかりました。こんな感じですか」
ヨウがすぐさま修正を加えると、ヒナは立ち上がってヨウの背後に回り込み、画面を覗き込んだ。彼女の艶やかな黒髪がヨウの肩に触れ、シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐる。夏のイベント後のホテルでの乱交えっちを経て、三人の距離感は物理的にも精神的にも完全におかしくなっていたが、仕事中のヒナはあくまで厳格なクリエイターだった。
「ええ、良くなりました。アシスタントとしての技術は着実に上がっていますね」
「ありがとうございます。でも、これくらいできないと、次の秋のイベントや冬のコミケで先生の足手まといになっちゃいますから」
ヨウが謙遜しながら答えると、ヒナは腕を組み、不意に深刻そうな表情を浮かべた。
「そう、次のイベントです。私には今、クリエイターとして非常に強い危機感があるんです」
「危機感、ですか。夏のあれだけの大成功の後なのに」
ヨウが首を傾げると、横のマットレスでゴロゴロと漫画を読んでいた後輩アシスタントの早坂ユイが、大きな胸を揺らしながら身を起こした。
「先生、またエロのイデアを追求するとか言い出すの。もう十分エロいと思うけどなぁ」
ユイはあくびをしながら、着ているダボダボのTシャツの襟ぐりから豊かな谷間を無防備に晒している。
「現状維持は退化と同義です」
ヒナはピシャリと言い放ち、部屋の中央に歩み出た。
「確かに、夏のイベントでの三人が絡む構図は、私たちの実地検証の成果もあり、読者から最高の評価を得ました。しかし、いつまでも同じようなシチュエーション、同じような衣装で致しているだけでは、読者の性欲は必ず飽きを迎えます。私たちは常に新しい刺激、新しい表現、そして新しい性癖を開拓し続けなければならないんです」
現役女子高生が真顔で性欲と性癖の開拓について熱弁を振るう姿は、控えめに言って狂気だったが、この部屋ではそれが絶対的な正義だった。
「だから、私は次作に向けて新ジャンルへの挑戦を宣言します」
ヒナが力強く宣言したまさにその時、タイミングを見計らったかのように玄関のインターホンが鳴り響いた。
「葛城さん、荷物を受け取ってきてください」
言われるがままにヨウが玄関に向かうと、そこには宅配便の配達員が、ヨウの背丈ほどもある巨大な段ボール箱を三つも抱えて立っていた。宛名は当然、ヒナの名前になっている。
「先生、これなんですか。めちゃくちゃ重いんですけど」
ヨウが汗をかきながら段ボールを作業部屋に運び込むと、ヒナはカッターナイフを手にして待ち構えていた。
「これこそが、私たちの新たな表現の扉を開くための鍵です」
ヒナは迷いなく梱包用のテープを切り裂き、段ボールの蓋を勢いよく開け放った。
「うおっ」
中を覗き込んだヨウの口から、驚きの声が漏れる。巨大な段ボール箱の底から一番上まで、様々な種類の布製品がぎっしりと詰め込まれていたからだ。
フリルのついたエプロン、透け感のある薄手の生地、エナメル質の光沢を放つボディスーツ。それらはすべて、秋葉原やネット通販で見かけるような、本格的でマニアックなコスプレ衣装の山だった。
「すっごーい。先生、これ全部買ったの。メイド服にチャイナドレス、体操服にスク水まであるよ」
ユイが目を輝かせながら、段ボールの中から次々と衣装を引っ張り出していく。彼女が取り出したチャイナドレスは、スリットが骨盤のあたりまで深く入っており、布地の面積がどう見ても足りていない。
「ええ。読者のフェティシズムを刺激するためには、衣装による視覚的な変化が最も効果的です。布があるからこそ、その下に隠された肌の温もりや、脱がせる時の背徳感が強調される。今回はこれらの衣装を用いて、徹底的に新しいシチュエーションの検証を行います」
ヒナの目は完全にクリエイターのそれに切り替わっていた。
「さあ、ユイ。まずはそのチャイナドレスから着てみてください。葛城さんは、そこに座って私たちの着替えを観察し、生地の質感や身体のラインの出方をしっかりと目に焼き付けてください」
「はーい。アッシーくん、しっかり見ててね」
ユイは全く躊躇することなく、ヨウの目の前で着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。
巨大な双眸を包み込んでいるのは、面積の小さなブラジャーだけだ。彼女はさらにショートパンツも脱ぎ捨て、下着姿のまま赤いチャイナドレスに袖を通し始めた。
「ちょ、ユイちゃん。いくらなんでも目の前で生着替えは」
ヨウが顔を赤くして視線を逸らそうとすると、ヒナが冷ややかな声で制止した。
「目を逸らさないでください。服を着る過程、脱ぐ過程の肉体の動きも重要な資料です。アシスタントなら、どんな状況でも対象を観察する冷静さを持ってください」
冷静さを持てと言われても、目の前で極上の爆乳美少女が身体をくねらせながらチャイナドレスを着ているのだ。ヨウの下半身は、ヒナの指示とは裏腹に全く冷静さを保てず、急速に熱を帯びて反り上がり始めていた。
「んしょっ、と。どうかな、アッシーくん」
ユイがチャイナドレスのファスナーを上げ、くるりと振り返った。
本来なら身体のラインにぴったりと沿うはずのドレスだが、ユイの規格外の胸のせいで、胸元の布地がはち切れんばかりに引っ張られている。さらに、深く入ったスリットからは健康的な太ももが付け根まで露わになっており、動くたびに下着のレースがチラチラと見え隠れしていた。
「……すっごく似合ってる。というか、布が可哀想なくらい胸がキツそうだけど」
「えへへ、そうだね。なんか息苦しいかも」
ユイが胸を強調するように身体を寄せると、ヒナはタブレットを片手に鋭い視線を送った。
「なるほど。チャイナドレスは胸の張りとスリットからの脚線美がポイントですね。葛城さん、スリットから覗く太ももの付け根のラインを、下からのアングルで確認してください」
「えっ、下からですか」
「早く。検証です」
言われるがままにヨウが床に膝をつき、下からユイの脚を見上げると、そこにはまさに絶景が広がっていた。スリットの隙間から見える滑らかな肌と、下着の布地が作る絶対領域。ヨウの男性ホルモンが爆発的に分泌されるのを感じる。
「じゃあ、次は私が着替えます。葛城さんはそのままの位置で待機してください」
ヒナはそう言うと、自らの白いブラウスのボタンを外し始めた。
ユイに続いて、今度はヒナの生着替えである。彼女が選んだのは、オーソドックスなメイド服だった。しかし、市販のコスプレ衣装であるため、スカートの丈は異常に短く、胸元も大きく開いている。
ヒナの華奢で引き締まった身体にメイド服が包まれると、普段のクールな女子高生とは全く違う、従順で倒錯的な雰囲気が醸し出された。
「お帰りなさいませ、ご主人様。……どうですか、葛城さん。フリルの重なり具合と、絶対領域のバランスは」
ヒナがスカートの裾をわずかに摘み上げて一礼すると、ヨウの脳内で何かが完全にショートした。
「最高です。完璧です。もう、このまま一生見ていたいです」
ヨウが鼻息を荒くして答えると、ヒナは満足げに頷いた。
しかし、検証はこれだけでは終わらなかった。
「では、次はスクール水着。その次は体操服とブルマです。ユイ、どんどん着替えますよ」
「はーい。アッシーくん、瞬きしちゃダメだからね」
そこからは、まさにヨウにとって天国と地獄が表裏一体となったような時間が続いた。
美少女二人が次々とマニアックなコスプレ衣装に着替え、ヨウの目の前でポーズをとる。布越しに伝わる肉感、透け感、そして脱ぎ着の際に見え隠れする生々しい肌。ヨウの視覚は極限まで刺激され、下半身は今にも爆発しそうなほどに膨れ上がっていた。
「はぁ、はぁ……先生、ユイちゃん。もう俺、限界なんですけど」
大量の着せ替えを鑑賞させられ、ヨウが床にへたり込んで荒い息を吐いていると、ヒナが最後の段ボール箱から一着の衣装を取り出した。
それは、真っ白なナース服だった。
しかし、ただのナース服ではない。胸元は谷間が完全に見えるほど大きく開き、スカートは太ももの半分も見えないほどの超ミニ丈。さらに、透け感のある素材で作られており、下着のラインがはっきりとわかるような過激な代物だった。
ヒナはそれを手に取ると、自らのメイド服を脱ぎ捨て、ゆっくりとナース服に袖を通した。
純白のナース服に包まれたヒナの姿は、清純さと淫靡さが奇跡的なバランスで同居していた。ナースキャップを頭に乗せ、彼女の黒曜石のような瞳がヨウを真っ直ぐに見下ろす。
「葛城さん。鑑賞による視覚的なデータ収集は十分に行えました。ここからは、次のステップに進みます」
ヒナはナース服のポケットから、本物の聴診器を取り出して首にかけた。
「次のステップって」
「実地検証です。ただ衣装を見るだけでは、本当のエロは描けません。このナース服がどのように脱がされ、布がどのように肌と擦れ合うのか。それを、実際の行為を通して確かめる必要があります」
ヒナの言葉の意味を理解し、ヨウの心臓が早鐘のように鳴り始めた。
「つまり、俺が患者役になって、先生と」
「そうです。葛城さん、あなたは働きすぎで身体に異常をきたしている患者です。私が、その火照った身体を徹底的に診察してあげます」
ヒナはクールな表情のまま、聴診器の先端をヨウの胸板にピタリと押し当てた。
冷たい金属の感触と、ナース服越しに伝わってくるヒナの甘い匂い。ヨウの限界を超えていた理性が、ついに完全に吹き飛んだ。
「はいっ。よろしくお願いします、ヒナ先生」
ブラック企業を辞めてアシスタントになったはずが、気がつけばコスプレ着せ替え人形の鑑賞者となり、さらには診察プレイの実験台にされている。
この職場の常識の無さと、それを遥かに凌駕する極上のエロティシズム。ヨウはもう、この理不尽で最高なアシスタント道から抜け出すことなど、絶対にできないと確信していた。
ドタバタでエロチックな第二章、飽くなき性癖の探求が、いよいよ本格的に幕を開けようとしていた。