進め!アシスタント道 作:ろくりん
冬の足音が完全にタワーマンションを包み込み、窓の外では大粒の雪が音もなく舞い散っていた。
しかし、秦谷ヒナの作業部屋の中は、真冬の寒さなど微塵も感じさせないほどの熱気に満ちていた。複数台のパソコンと大型の液晶タブレットがフル稼働して放つ熱と、締め切りという見えない魔物に追われる三人の熱気が混ざり合い、空調の効いた室内を一種のサウナのような状態にしている。
先ほど、早坂ユイとお風呂での激しいリフレッシュえっちを終えた葛城ヨウは、完全に生気を取り戻し、猛烈なスピードで背景のペン入れを進めていた。ユイもまた、憑き物が落ちたようにスッキリとした表情で、自らの担当ページに次々と命を吹き込んでいる。
このままのペースなら、冬コミに向けた100ページという途方もない壁も、なんとか乗り越えられるかもしれない。
ヨウがそんな希望を抱きかけた時だった。
「……ありきたりです。これでは、読者の脳髄を焼き切ることはできません」
部屋の奥のメインデスクで、ヒナが液晶タブレットの画面を睨みつけながら、低く冷たい声を漏らした。
「先生、どうしたんですか。何か問題でも」
ヨウが手を止めて尋ねると、ヒナは深くため息をつき、自らが描いていたラフ画のレイヤーを非表示にした。
「今回の新刊のハイライトとなる、見開き二ページの大ゴマです。ヒロインが極限の快楽に堕ちる瞬間を描こうとしているのですが、何度構図を練り直しても、視覚的なインパクトが足りません。正常位、騎乗位、背面座位……どれも美しくエロティックですが、読者はすでにそれらの『型』を見慣れてしまっている。100ページの大作の核となるには、狂気が足りないのです」
ヒナは立ち上がり、ホワイトボードの前に移動した。
「私が求めているのは、人間の骨格と関節の限界に挑むような、アクロバティックで複雑な絡み構図です。痛みと快感が紙一重で同居し、重力と筋肉の緊張が画面全体から伝わってくるような、未知の体位。それを描かなければ、この作品は完成しません」
ヒナのクリエイターとしての業火が、再び激しく燃え上がっていた。
「なるほど。つまり、また新しい実地検証が必要だということですね」
ヨウが目を輝かせて立ち上がると、ヒナは満足げに頷いた。
「話が早くて助かります、葛城さん。私が頭の中で構築した未知の構図が、現実の肉体で再現可能なのか。そして、その体勢で結合した時、筋肉にどのような負荷がかかり、どのような快感が生まれるのか。それを今から検証します」
「面白そうっ。私、カメラマンやるね」
ユイが即座に一眼レフカメラを手に取り、嬉しそうに跳ね回る。
ヒナはホワイトボードに、簡単な棒人間でその構図を描き出した。
「名付けて『空中背面反らし捻り』です。葛城さんが直立した状態で、私が対面から葛城さんの腰に両脚を絡ませてしがみつきます。そこから、私は上半身を後方へ極限まで反らせ、さらに腰を九十度捻ります。葛城さんは私の太ももを両手で支え、重力で落ちようとする私の身体を空中で保持しながら、下から突き上げるのです」
「……先生、それ、体操選手かシルク・ドゥ・ソレイユの演目ですか」
ヨウはホワイトボードに描かれた、どう見ても人間の関節の限界を超えているであろう複雑なポーズを見て、思わず苦笑した。
「人間の身体は、極限状態において思わぬ柔軟性を発揮するものです。それに、苦しい体勢だからこそ、内部の粘膜が異常な収縮を起こし、未知の快感を生み出すはずです。さあ、葛城さん。服を脱いでください」
「喜んで。先生のインスピレーションのためなら、俺の筋肉が引き千切れても構いませんよ」
ヨウは一切の躊躇いなくスウェットを脱ぎ捨て、全裸になった。お風呂でユイにたっぷりと絞り取られたはずの分身は、ヒナの狂気的な提案と、これから始まる未知の快楽への期待によって、すでに猛々しい硬さを取り戻し始めている。
ヒナもまた、着ていたブラウスとタイトスカートを素早く脱ぎ捨て、完璧なプロポーションを誇る裸体を部屋の照明の下に晒した。彼女の白い肌は、これから始まる実験への興奮で、うっすらと桜色に染まっている。
「いきますよ、葛城さん。まずは私を抱え上げてください」
ヒナがヨウの正面に立ち、両腕をヨウの首に回して軽くジャンプした。
ヨウはヒナの華奢な腰を両手でしっかりと掴み、彼女の身体を軽々と持ち上げる。ヒナはヨウの腰に自らの両脚を固く絡みつかせ、コアラのようにしがみついた。
「ここまでは通常の立ちバックや対面座位と同じです。葛城さん、私の太ももの裏側に両手を回し、しっかりとホールドしてください。これから私が体重を後ろにかけます」
「了解です。絶対に落としませんから、思い切りいってください」
ヨウが両足を踏ん張り、腕の筋肉を隆起させてヒナの身体を支える。
ヒナはヨウの首から腕を離し、腹筋と背筋を極限まで使って、自らの上半身をゆっくりと後方へと倒していった。
「くっ……」
ヒナの口から、苦悶の漏れるような声が上がる。
彼女の身体が床と平行になり、さらにそこから重力に従って頭が下へと下がっていく。ヨウの視点からは、ヒナの豊かな胸が逆さまの状態で大きく持ち上がり、その奥に彼女の顔が見えるという、信じられないほど奇妙でエロティックな光景が広がっていた。
「ここから……さらに、腰を、捻りますっ」
ヒナは逆さまの状態のまま、自らの腰を強引に右方向へと九十度捻った。
「うおっ」
ヨウの腕に、とてつもない負荷がかかる。ヒナの体重だけでなく、捻りによって生じた予測不能なベクトルが、ヨウの体幹を激しく揺さぶる。しかし、ヨウはブラック企業で鍛え上げられたドMな忍耐力と、絶倫アシスタントとしての意地で、その体勢を完璧に維持して見せた。
「すっごーい。二人とも、サーカスみたいっ。先生の腹筋のライン、めちゃくちゃ綺麗に出てるよ」
ユイがカメラを構え、様々なアングルからシャッターを切りまくる。フラッシュの光が、二人の汗ばむ肌を鮮明に照らし出した。
「葛城さん……この体勢のまま……入れて、くださいっ」
頭に血が上り、顔を真っ赤にしたヒナが、逆さまの状態で喘ぐように指示を出した。
「わかりました。いきますよ、先生」
ヨウはヒナの太ももをしっかりと支えたまま、自らの腰を少しだけ前に突き出した。
ヒナの腰が九十度捻られているため、二人の結合部の角度は通常ではあり得ないほど複雑に歪んでいる。ヨウは慎重に自らの熱く硬い先端を、ヒナのたっぷりと濡れた入り口に当てがった。
「んっ……」
角度が急すぎるため、すんなりとは入らない。ヨウがゆっくりと体重をかけて押し込むと、ヒナの内部の肉ひだが、予測不能な方向からヨウの分身を圧迫してきた。
「あっ、あぁっ。葛城さんの……変なところから、擦り上がってくるっ」
ヒナの身体がビクンと大きく跳ねる。
完全に根元まで繋がった瞬間、二人の間に今までにない強烈な電流が走った。
「先生、これ、ヤバいです。中がめちゃくちゃ捻じれてて、俺のが先生の奥の壁に、信じられないくらいの圧力で当たってます」
「ああっ、ダメっ。腰が捻れてるから、お腹の中の筋肉が……強制的に、引っ張られて……そこに、葛城さんの太いのが、ドスンって……ひゃああっ」
ヒナは逆さまの状態で、ヨウの太ももにしがみつくようにして自らの身体を固定した。
「そのまま、動いてっ。重力に逆らって、下から、私を突き上げてっ」
「任せてくださいっ」
ヨウは腕と足腰の筋肉を総動員し、ヒナの全体重を支えながら、下から激しく突き上げるようなピストンを開始した。
パンッ、パンッと、肉が打ち据え合う音が室内に響くが、それは普段のえっちとは全く違う、重く鈍い音だった。
「あっ、ああんっ、ひぃんっ。そこっ、そこ、普段絶対に届かないところっ。お腹が、破れそうぅっ」
ヒナは痛みと快感が完全に混ざり合った、狂気的な絶叫を上げた。
人間の骨格の限界に挑むアクロバティックな体位。筋肉は極度に緊張し、関節は悲鳴を上げている。しかし、その強烈な身体的負荷が、脳内に大量のエンドルフィンを分泌させ、圧倒的な快楽へと変換していくのだ。
「先生の中、熱すぎる。締め付けが尋常じゃないですよっ」
ヨウもまた、信じられないほどの快感に顔を歪めていた。
ヒナの腰が捻られていることで、彼女の内部は螺旋状にヨウの分身を締め上げている。一回突き上げるたびに、360度全方位から極上の摩擦が襲いかかり、ヨウの理性を根こそぎ奪っていく。
「いいよいいよーっ。先生、すっごいエロい顔してるっ。苦しいのに気持ちよさそうな、最高の表情だよっ」
ユイが床に這いつくばるようにしてカメラを構え、下からのアングルで二人の結合部とヒナの逆さまの顔を激写していく。
「葛城さんっ、もっとっ。もっと激しくっ。腕の力、抜かないでっ」
「抜くわけないでしょっ。先生が満足するまで、何度でも突き上げてやりますよっ」
ヨウは自らの筋肉の限界を超え、狂ったような速度で腰を打ち付けた。
ヒナの逆さまになった胸が激しく上下に揺れ、汗が彼女の額からヨウの膝へと滴り落ちる。視覚、触覚、そして筋肉の疲労感。すべてが極限状態の中で融合し、二人の脳髄を真っ白に染め上げていく。
「ああっ、もうダメっ。私、こんな体勢で、お腹の中かき回されて……イッちゃうっ。限界突破して、イッちゃううぅぅっ」
ヒナは全身の筋肉を硬直させ、逆さまの状態で強烈な絶頂を迎えた。
彼女の内部が、狂ったような痙攣を起こし、ヨウの分身を千切らんばかりの力で螺旋状に締め上げてくる。
「俺も、出ますっ。先生の奥の奥にっ」
ヨウはその極上の圧力に導かれ、ヒナの最も深い、未開のスポットに向けて、渾身の力を込めて自らの欲望を解き放った。
ドクン、ドクンと脈打つたびに、熱く濃密な液体がヒナの捻じれた内部へと勢いよく注ぎ込まれていく。重力に逆らうようにして下から打ち込まれた白濁は、ヒナの子宮の奥深くにまでダイレクトに到達し、彼女の身体をさらに大きくビクンビクンと跳ねさせた。
「んあぁぁぁぁっ……」
ヒナの口から、魂が抜けていくような、長く甘い吐息が漏れた。
放出が終わり、ヨウの腕の筋肉が限界を迎えて限界に達した。
「先生、おろしますよ」
ヨウはヒナの背中をゆっくりと支えながら、彼女の身体をマットレスの上へと静かに横たわらせた。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
ヒナは仰向けの状態で大の字になり、荒い呼吸を繰り返している。全身が汗でびっしょりと濡れ、その肌は極限の快楽によって濃いピンク色に染まっていた。ヨウもまた、ヒナの隣に倒れ込み、肩で激しく息をしている。
「……すっごい。二人とも、汗だくだね。でも、最高の写真が撮れたよ」
ユイがカメラのモニターを見せながら、興奮冷めやらぬ様子で二人に近づいてきた。
画面には、筋肉を限界まで緊張させてヒナを支えるヨウの力強い肉体と、逆さまの状態で苦痛と快楽に顔を歪ませるヒナの、あまりにも生々しくエロティックな姿が完璧に収められていた。
ヒナは荒い息を吐きながら、その写真の数々をじっと見つめた。
そして、やがて彼女の唇に、深く、満足げな笑みが浮かんだ。
「……完璧です。筋肉の緊張、重力に逆らう肉の歪み、そして痛みが快感へと反転する瞬間の、この絶望的なまでに淫らな表情。これこそが、私の求めていた『狂気』です」
ヒナはゆっくりと上体を起こし、ヨウの方を向いた。
「葛城さん。あなたの強靭な肉体と、私の要求に絶対に応えてくれる献身性がなければ、この構図は永遠に私の脳内だけの幻で終わっていました。本当に、素晴らしいアシスタントです」
「先生の作品のためなら、これくらい朝飯前ですよ。腕はちぎれそうですけどね」
ヨウが苦笑しながら答えると、ヒナはヨウの額の汗を優しく指先で拭ってくれた。
「この写真をベースにすれば、間違いなく読者の性癖を破壊する見開きが完成します。少し休憩したら、すぐにこの熱を原稿に叩き込みましょう」
「はいっ。俺も、まだまだ描けますよ」
ヨウは力強く頷いた。
人間の限界に挑むアクロバティックな実地検証は、三人の肉体を極限まで酷使したが、同時に彼らのクリエイティビティをかつてない次元へと引き上げた。
冬の大型イベントに向けた100ページの壁は、もはや恐怖の対象ではなく、彼らの狂気と快楽を証明するための巨大なキャンバスとなっていた。
外の雪はさらに勢いを増しているが、タワーマンションの作業部屋の熱気は、さらにその温度を上げながら、終わりのない修羅場の夜へと続いていくのだった。