マグロナルドのハンバーガーは、この世界で数少ない俺の癒やしだ。
ミドガル王都の大通りに面した赤い看板。黄金のアーチが描かれた馴染み深いロゴ。ミツゴシ商会が展開する飲食チェーンの代表格だ。ガンマの経営手腕には色々と問題があるが、ことマグロナルドに関しては天下一品だと思う。
俺は窓際の席に座り、ビッグマグロセットを頼んでいた。
ビッグマグロ。名前の通りマグロの切り身を挟んだ巨大なバーガー。タルタルソースの酸味とマグロの脂が合わさって絶品だ。ポテトもいい。塩加減が完璧だ。コーラも炭酸が効いてて最高だ。
(ああ、幸せだ)
組織の管理業務から解放され、イータの実験からも逃れ、デルタの狩りにも巻き込まれていない。ただひたすらにジャンクフードを摂取する。これこそが平和だ。これこそが日常だ。
俺はビッグマグロにかぶりついた。タルタルソースが口の端にはみ出る。構わない。今の俺はただの客だ。シャドウガーデンの共同創設者でもなく、魔力タンクでもなく、囮でもない。ただの腹を空かせた男だ。
(たまにはこういう日があってもいいだろ)
ビッグマグロを半分までかじった時だった。
背後の気配が変わった。
正確には気配が現れた。それまで何もなかった空間に、突然質量のある何かが現れた。
(来た)
俺は本能で悟った。またか。また何かが起きる。
だが今回は今までと違う。誘枴犯の気配じゃない。デルタの突撃でもない。イータの実験道具でもない。もっと——質の違う気配だ。
俺は振り返れなかった。ビッグマグロを持ったまま固まっていた。
振り返りたくても振り返れなかった。
気配が近い。すぐ後ろだ。背中の毛が逆立つような圧がある。アルファに似ている。いやアルファとは違う。だが確かに似ている。金髪のエルフが纏うあの独特の気品と圧迫感が、背後から漂っている。
「——美味しそうね」
声がした。
俺の耳のすぐ横で。
降ってきたような声だった。低く、艶やかで、それでいて鋭い。アルファの声に似ているようで、どこか違う。アルファが研ぎ澄まされた刃だとしたら、こちらは鞘に収められた古刀のような響きだ。
「え、あ、はい」
俺はビッグマグロを持ったまま振り返った。
金色が目に入った。
長い金髪。アルファと同じ金色。だが長さが違う。アルファより長い。腰を過ぎてさらに下へ流れている。青い瞳。アルファと同じ碧眼。だが色合いが微妙に違う。アルファが澄んだ空の青だとしたら、こちらは深い湖の青だ。
顔立ちが似ている。いや似ているというより、同じ種類の美しさがある。整いすぎた顔立ち。彫刻のような輪郭。尖ったエルフの耳。
だが決定的に違う点があった。
雰囲気だ。アルファは完璧主義者の冷たさがある。それに対して目の前の人物は、もっと温かいというか、ぬるいというか、人懐っこいというか——いや違う。ぬるくはない。むしろ油断ならない。だがアルファのような鋭利な緊張感がない。