※この作品はR-18です。

囮の実力者になりたくなくて!   作:ボルメテウスさん

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彼女との既視感

「美味しそうね」

 

その声が耳の横で響いた時、俺の口にはビッグマグロが半分入っていた。

 

かじりかけのバーガーを口に挟んだまま、俺は固まった。

 

目の前にいるのは金髪のエルフだ。長い金髪。青い瞳。整いすぎた顔立ち。アルファに似ている。いや似ているんじゃない、同じ種類の美しさがある。だがアルファとは違う。もっと自然体で、それでいて油断できない。

 

「……あの、どなたですか」

 

「あなたこそ」

 

彼女は首を傾げた。長い金髪がさらりと流れる。アルファより長い。腰から先へ垂れる金色の川。

 

「私のことを知らない? 10年以上表に出てなかったから当然かしらね」

 

10年。その数字が脳に刺さった。

 

俺はバーガーを口から離した。咀嚼する暇もなかった。飲み込もうとして喉詰めさせかけた。コーラで無理やり流し込む。

 

(10年? 10年前って……)

 

10年前。俺とシドがシャドウガーデンを立ち上げた頃だ。アルファと出会ったのもその時だ。あの時アルファは——

 

肉塊だった。

 

シドが治療して、形を取り戻した。それが10年前だ。ということは。

 

俺の顔から血の気が引くのが自分でもわかった。

 

この人がアルファの親族だとしたら。アルファが「悪魔憑きとして捨てられた」経緯を知っている人物だとしたら。

 

俺たちがアルファを拾ったのが10年前だとしたら。

 

この人が探している「妹の忘れ形見」が——

 

「あ、いや、その」

 

俺の視線が泳いだ。冷や汗が背中を伝う。マグロナルドの冷房が急に Arctic Blizard みたいに感じる。

 

「なんで冷や汗かいてるの」

 

彼女が言った。語調は平坦だが、青い瞳が細められている。ジト眼だ。完全にジト眼だ。アルファが呆れる時と同じ目だ。遺伝子って怖いな。

 

「かいてないです」

 

「顎から滴ってるわよ」

 

「それはマグロのタルタルソースです」

 

「嘘ね」

 

即答だった。さすがエルフ。嘘を見抜く能力が高い。いや普通に見てればわかるレベルだ。

 

「……名前、聞いてもいいですか」

 

「ベアトリクス」

 

ベアトリクス。その名前を聞いて、俺はまた冷や汗をかいた。

 

(ベアトリクス。ベアトリクスってことは、やっぱりアルファの——)

 

「あなた、何か知ってる顔をしてるわね」

 

「してないです」

 

「してる。私の親族の名前を聞いて反応した。その顔」

 

「気のせいです」

 

「気のせいじゃないわね。エルフの目は誤魔化せないの」

 

ベアトリクスは俺の正面に回り込んだ。窓際の席を挟んで向かい側に座る。断りもなく。客じゃないのに。いや席が空いてるからいいのか。

 

「ねえ、あなた名前は?」

 

「……エロゲです」

 

「エロゲ? 変な名前ね」

 

「言わないでください。傷に塩を塗るんで」

 

「傷あるの」

 

「比喩です」

 

ベアトリクスは肘をテーブルにつき、頬杖をついた。青い瞳が俺を真っ直ぐに見ている。観察されている。実験台にされる時と違う種類の視線だ。イータは魔力を見ている。この人は人間を見ている。

 

「エロゲ。一つ聞いていい?」

 

「何を」

 

「私ね、探している人がいるの」

 

ベアトリクスの声が少しだけ低くなった。冗談めかした響きが消える。青い瞳の奥に真剣な光が宿った。

 

「10年以上前に行方不明になった。私とよく似た……妹の忘れ形見を」

 

妹の忘れ形見。

 

その言葉が俺の背筋を凍らせた。

 

妹。アルファの母親だろう。その妹の忘れ形見。つまりアルファだ。

 

この人はアルファを探している。

 

「顔を見たことがあるのかは知らない。でもあなたの反応を見る限り、何か知ってるみたいね」

 

「……何も」

 

「嘘」

 

また即答だった。

 

「エロゲ。嘘つくの本当に下手ね。顔に出すぎなのよ」

 

「……すみません」

 

「謝らなくていい。ただ教えて」

 

ベアトリクスはテーブル越しに身を乗り出した。長い金髪がテーブルに垂れる。青い瞳が至近距離で俺を捉える。

 

「君は、私の顔に見覚えはあるのかい?」

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