※この作品はR-18です。

囮の実力者になりたくなくて!   作:ボルメテウスさん

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天然

「暑いわね」

 

ベアトリクスはそう言いながらローブの留め具を外した。

 

何気ない動作だった。本当に何気ない。脱いだというより暑いから緩めただけだ。ローブの下の紫色のドレスが露わになる。鎖骨のラインが見える。それだけだ。それだけなのだが。

 

(目のやり場に困るんだが)

 

俺は視線を逸らした。壁の石目を見る。天井の梁を見る。窓の外の通りを見る。見るべきものはいくらでもある。

 

「何見てるの?」

 

「いや何も」

 

「じゃあこっち見なさいよ。話し相手でしょ」

 

ベアトリクスは俺の正面に座り直した。脚を組む。ドレスの裾が少し上がる。太ももが見える。白い。長い。エルフの脚は無駄に美しい。

 

「あのベアトリクスさん」

 

「何?」

 

「妹さんの話の続きを」

 

「そう急がないで。まず落ち着きましょう。お茶でも淹れるわ」

 

ベアトリクスは立ち上がった。立ち上がった拍子にローブが肩から滑り落ちた。周期的に。自然に。だが結果的にドレスの肩紐が片方外れ白い肩がむき出しになった。

 

「あら」

 

彼女は肩紐を直さなかった。直すのを忘れたのか直す必要を感じていないのか。どちらにせよ俺の視線は迷子だ。

 

「お茶、何がいい?」

 

「いや俺は別に」

 

「あるわよ。ハーブティー。リラックス効果あるの」

 

ベアトリスは部屋の隅の棚を開けた。背中が見える。ローブが腰に溜まっている。ドレスの背中が大きく開いている。背中のラインが筋が浮き出るほど綺麗だ。

 

(アルファと似てる。いやアルファよりなだらかというか)

 

見ているだけだ。見ているだけだが。

 

ベアトリクスはやかんを火にかけるために少し背伸びをした。棚が高い位置にあるからだ。背伸びをするとドレスの裾がさらに上がる。太ももの裏が見える。いや見えるというかもう際どい。

 

「届かないわね」

 

「俺が取りますよ」

 

「いいのよ。自分で」

 

さらに背伸びをする。ドレスがずり上がる。俺はもう壁の石目を数えることにした。二十四、二十五、二十六…

 

「あった」

 

ベアトリスがやかんを取り出した。振り返った時、肩紐がもう片方も落ちていた。ドレスの胸元が少し下がる。谷間が見える。深い谷間。

 

「暑いわね本当に」

 

彼女は無意識に胸元を煽いだ。手でパタパタと仰ぐ動作。そのたびに胸が揺れる。揺れる。揺れる。

 

(揺れてる。確実に揺れてる。アルファと同じでデカい。いや比べるなよ俺)

 

「エロゲ、何見てるの?」

 

「石目です。二十八个目があります」

 

「壁見て話すの? 変な子ね」

 

変な子で結構です。変な子でないと生きていけないんですよこの世界では。

 

ベアトリクスはお茶を淹れるためにやかんの前に立った。待っている間、何をするでもなくその場で軽く伸びをした。両腕を上に伸ばす。背中が反る。胸が張られる。ドレスが危ない。非常に危ない。

 

「ふぅ…」

 

息を吐いて腕を下ろす。ドレスが少しズレた。直さない。この人直さない。直す概念がない。

 

「ねえエロゲ」

 

「何ですか」

 

「あなた、女性とこういう部屋で二人きりになるの慣れてる?」

 

「慣れてないです」

 

「嘘ね」

 

「慣れてます」

 

「今度は正直ね」

 

「どっちだよ」

 

ベアトリクスは笑った。楽しそうに。いや楽しそうなのが一番怖い。

 

お茶が沸いた。彼女はカップに注ぎ俺の前に置いた。置く時に身を乗り出した。胸が俺の目の前に来る。谷間が至近距離だ。

 

「はい、お茶」

 

「ありがとう」

 

受け取ろうとしたら手が触れた。ベアトリクスの指先が俺の手の甲に重なる。冷たい。いや温かい。いやどっちだ。

 

「あら、手が温かいわね」

 

「熱いですか?」

 

「いいえ、心地いい温度」

 

ベアトリクスは手を離さなかった。指先が俺の手の甲をなぞる。何気ない動作。おそらく無意識。だが効果は絶大だ。

 

「あのベアトリクスさん、手」

 

「ん? ああごめんなさい」

 

やっと離れた。にやりと笑った。この人わかってやってるのかわからずやってるのか。天然なら最悪だ。対策が打てない。

 

「妹の話に戻るわね」

 

ベアトリクスは俺の向かいに座り直した。脚を組む。今度は逆の脚だ。ドレスの裾がさらに高い位置まで上がる。もう太ももの付け根が見えそうだ。

 

「妹の忘れ形見を探してるって言ったわよね」

 

「はい」

 

「彼女がどこにいるか知らないの。10年以上前に行方不明になって」

 

「10年」

 

「ええ。私が表舞台から姿を消したのもその頃よ。探すために消えたようなものだから」

 

ベアトリクスはお茶を一口飲んだ。カップを持つ手が小さい。指が長い。エルフの手だ。

 

「ねえ、エロゲ。あなたの知ってる人中に私と似たエルフはいる?」

 

直球だった。

 

俺はお茶を吹きそうになった。なんとか飲み込む。喉が熱い。

 

「いないです」

 

「嘘」

 

「なんでわかるんですか」

 

「目が泳いでる。泳がないで」

 

「泳いでません」

 

「泳いでる。魚みたいに」

 

「魚じゃないんですから」

 

「マグロならぬエロゲね」

 

「マグロ関係ないだろ!」

 

ベアトリクスはカップを置いて身を乗り出した。テーブル越しに距離が縮まる。ドレスの胸元がさらに強調される。

 

「教えて。お願い」

 

「お願い」と言いながら手を合わせる。その動作で胸がさらに寄せられる。谷間が深くなる。

 

(お前それわかってやってるだろ!)

 

いやわかってない。この人は天然だ。アルファなら計算でやる。でもこの人は計算がない。純粋に「お願い」しているだけだ。だからこそ質が悪い。

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