見下ろされたまま、俺は何か言おうとした。
「アルファ、その、俺は別に——」
言葉は最後まで形にならなかった。
唇が、塞がれたからだ。
柔らかい、熱い、湿った何かが俺の口を塞いでいた。
アルファの唇だ。
彼女の顔が近づいてきて、重なって、そのまま——吸い付くように押し付けられた。
思考が、停止した。
止まってしまった、思考が。
柔らかい。とろけるように柔らかい唇が、俺の唇を挟んで押し込んでくる。
鼻先に当たる彼女の肌の熱。閉じた睫毛が震えている。
甘い。彼女の吐息が、唇の隙間から漏れ込んでくる。砂糖菓子のような甘さではない。もっと生々しく、奥底から湧き上がるような甘い匂いだ。
「ん——っ」
声にならなかった。
唇の形が変わる。彼女の舌が、俺の唇を割って滑り込んできたからだ。
ぬるりとした感触。熱い。火傷してしまいそうな程に熱い舌が、俺の口中を無遠慮に這い回る。
れろ、と音がした。
俺の口の中で響く水音。唾液が混ざり合い、ねっとりと糸を引く。
彼女の舌が俺の舌を絡め取り、ねじるように吸い上げる。
じゅる、と露骨な音が喉の奥まで響いた。
これは——何だ。
説教の延長か? 処罰か?
いや、どちらでもない。俺の混乱した脳でもそれはわかる。
これは、所有の儀式だ。
俺の顎が、彼女の手で固定されている。逃げるな、動くな、受け入れろ——そう言われている。
頭を横に向けようとしても、指の力が強すぎて動かない。
唇を閉ようとしても、舌が割り込んで許さない。
アルファの碧眼が、至近距離で開かれた。
潤んだ瞳が、俺を覗き込んでいる。
その目は——笑っていた。
壊れたように、あるいはすべてを諦めたように、それでいて楽しそうに。
ずぞ、と唇が擦れ合う。
彼女の唇の端から、混ざった唾液がつうと伝い、俺の頬を濡らした。
冷たい空気に触れてひんやりとする感触だけが、唯一の現実のアンカーだった。
彼女の胸が俺の胸に押し付けられている。
スライムスーツ越しでもわかる。柔らかく、大きく、熱く、形を変えて押し潰される感触。
呼吸のたびに動く胸が、俺の肺の空気をさらに圧迫していく。
ようやく唇が離れた。
じゅぱっ、と湿った音が部屋に響く。
銀色の糸が俺と彼女の唇の間に伸びて、ぷつりと切れた。
「……っ、は」
酸素が肺に流れ込んだ。
咳き込みそうになるのを堪え、荒い息を吐く。
唇が痺れている。舌も痺れている。頭の中まで痺れていた。
アルファは俺を見下ろしたまま、舌で自分の唇を舐めた。
濡れた唇が燭台の光を反射して艶めかしく光る。
「……口を開くと余計なことを言うから」
彼女は言った。
さらりと。まるで天気の話でもするように。
アルファは言った。さらりと。まるで天気の話でもするように。
「…口を開くと余計なことを言うから」
その言葉は予防線だったのかもしれない。
だが、俺にはそれが最終通告のように聞こえた。
彼女は俺の上に乗ったまま、ゆっくりと顎を上げた。
細められた碧眼が挑発するように光り、唇の端が微かに吊り上がる。
そして次の瞬間——彼女の右手が、自らの黒いスライムスーツの襟元へ伸びた。
布地ではなく、粘性の膜にしか見えない表面に指が触れる。
つ、と爪がそこをなぞった。まるで蛇の鱗を剥がすような動きだった。
ジュル…。
奇妙な音と共に、スーツの首元が左右に裂け始めた。
縫い目のないスーツが、中央から粘つく液体のように分離していく。
蒸れた空気がふわりと広がった。
今までスライムに覆われていた部分から発せられる、むわっとした生温い湿気。汗の匂いとは違う。もっと濃厚で、生命の根源的な芳香のような匂いだ。
喉元が露出した。
陶磁器のように白く滑らかな肌が現れる。わずかに浮かぶ血管さえ透き通っているようで、目に毒だった。
鎖骨のラインが見える。完璧な稜線を描きながら、ゆるやかな谷間を形成していた。
「…なにを凝視してるの?」
揶揄うような声。だけど、アルファの碧眼は微動だにせず俺を捉えたまま。
彼女の指がさらに動く。
ジュル…ジュルル…
スライムスーツは彼女の意志に従い、胸元へと溶解していく。
ねっとりとした黒い粘液が皮膚を伝い滴り落ち、シーツに黒い染みを作る。その過程が生々しい。
布地だったものが、ただの液体へと変わり果てていく。
重力に従って、谷間を埋めていた層が剥がれ落ちた。
現れたのは——息を呑むほどの光景だった。
まるで新雪を纏った丘陵のような双丘が、惜しみなく目の前に出現する。
淡く桜色に染まった頂き。呼吸のたびに微かに上下する動きに合わせて、質量がありながらも柔らかそうに波打つ乳房。あまりに神聖で、あまりに淫猥だった。
俺は無意識に生唾を飲んだ。
喉仏が上下するのが自分でもわかる。
心臓が耳元で暴れ回っている。
アルファは満足げに微笑んだ。
濡れた唇が妖しく弧を描き、伸ばされた両腕が俺の両耳を覆うように添えられる。
彼女の身体がさらに近づき、張り詰めた双丘が俺の胸板に押し付けられた。
ずむっ、と柔らかく重たい感触が広がる。
温かい。体温が高いのか、とても温かい。弾力があって、それでいて指が沈みこんでしまいそうな柔らかさ。
そして——先端の固い蕾がこすり合わされ、皮膚の表面をくすぐる。
「見惚れてる?」
至近距離で囁かれる声。
吐息がかかり、耳殻が熱を持つ。
答えられるわけがない。
眼球が固定されてしまったかのように動かない。その神々しい二つの盛り上がりから、どうしても目が離せなかった。
アルファはゆっくりと頭を下げた。
金髪が俺の胸元にかかり、擽るような刺激を与える。
そして。
柔らかい唇が、俺の耳朶をついばんだ。
「んっ——」
ゾワッと電流が背筋を走る。
湿った暖かい感触が耳を這い回る。浅く歯を立てられたり、舌先で穴を軽く抉られたり。
ぞくり、ぞくりと皮膚の下の神経が粟立つ。
「私ばかり見てないで…ちゃんと感じて?」
囁きと共に、彼女の左手が俺のシャツの裾に潜り込んできた。
冷たい指先が腹部を撫でる。
ぞくりと肌が泡立つ。
シャツが捲り上げられ、彼女の指が少しずつ上方へ這い上がる。
肋骨の凹凸をなぞられ、胸の中心にある小さな粒を見つけられるまで時間は掛からなかった。
指先でそっと摘まれた瞬間。
ぴくん、と全身が跳ねる。
「あ…っ」
声が漏れた。
まるで自分の声じゃないみたいに甲高くて情けない。
アルファは愉快そうに喉を鳴らした。
「可愛い声ね…」
そのまま彼女の唇が、俺の首筋へと下降していく。
濡れた唇が喉を滑り、鎖骨をしゃぶり、肌に印をつけようとするかのように吸い付く。
ぢゅっ、と吸いつかれた場所に痕が残るのがわかった。
所有の証。刻印。俺は彼女のものなのだと教え込まれるような感覚。
俺の視線の先では、揺れる双丘の先端が桃色に熟れていた。
アルファの動きに合わせてぷるんと震えながら、空気を孕んだように尖っていく。
——もう我慢できない。
理性の糸が焼き切れそうになる音がした。
アルファの舌が、俺の胸の突起を丹念に舐めていた。
ぬるりとした感触。火傷しそうなほど熱い舌先が円を描きながら敏感な粒を転がし、ちゅうっと吸い付かれる。
ぴりっと痺れるような快感が背筋を駆け上がり、俺は息を詰めた。
彼女の両手が俺の体幹をしっかりと押さえ込みながら、柔軟な肢体がしなやかに躍動する。
背中に感じる鍛えられた筋肉の緊張と弛緩。騎乗位とは異なる体重の預かり方で、密着感と一体感が異常なレベルだった。
「んっ…はぁ…気持ち良い…?」
熱い吐息と共に漏れる囁き。
返事の代わりに喉が鳴ってしまう。
下腹部で蠢く肉の感触に集中すればするほど、脳が快楽信号でショートしそうだ。
「いい子…もっと感じて。全部受け止めてあげる」
アルファの唇が俺の乳首を咥え直した瞬間——ずぶん! と衝撃が走る。
俺の先端が柔らかく濡れきった肉襞に一気に飲み込まれた。吸い付くような熱い内壁が竿全体を包み込み、搾り取るような蠕動運動が始まっている。
「はっ…あ゛っ…!!」
思わず喉奥から低い呻き声が洩れた。
脊椎を雷が貫くような甘い痺れに耐えきれず、足指をぎゅっと握り締める。
「ふふ…すごいくらい硬い…」
耳元で蕩けた声が響いた。
腰を使って円を描くように馴染ませてくるアルファ。内部がぎゅうっと締まっては緩み、また締め付けてくる。無数の襞が螺旋状に絡みつきながら扱き上げてきていた。
「ほら…私のここ…あなた専用になってるの…分かるでしょ?」
淫らな告白と共に激しく腰を打ち下ろされる。
パン! 乾いた破裂音が寝室に反響し、肉と肉とがぶつかり合う鮮烈な刺激が下半身を支配していく。
汗ばむ肌の擦れ合い。互いの体温で湯気さえ立ちそうなくらい熱かった。
「んぁっ! ふぅ…奥…深くまで届いてる…」
アルファが恍惚の表情で背中を反らす。結合部から透明な蜜液が飛沫となって散り、二人の脚を濡らす。それでも抽送運動は止まず——むしろ加速していた。
俺の亀頭は彼女の子宮口近くまで何度も押し付けられてしまっている。子宮自体が貪欲に先端を迎え入れるかの如く吸い付いてきていて、亀頭冠周辺の神経群は狂おしいほど敏感になり始めていた。
「アルファ…もう無理…止めてくれ…っ」
情けない懇願だったけれど本心だ。
しかし彼女は慈愛に満ちた笑みを浮かべて拒否する。
「ダメよ。まだまだこれからじゃない…一緒にイってね?」
そう言うや否や根本まで完全没入してきた状態でグリングリンと回すように動かすものだからたまらない。カリ首周りをごっそり掻き出される感覚に腰がガクブルしてしまう始末であった。
「あうっ! そんなにされたらすぐに出ちゃうっ!」
「いいよ…出したい時は我慢せずに好きなタイミングで出してちょうだい」
慈悲深くもあり残酷でもある提案を受け入れるしかなくなってしまった時点で負け確定なのだと思い知らされて愕然となった刹那───!
「じゃあ…遠慮なくいただきます」
突然彼女が全力での垂直ピストンへ移行し始めた。
ばぢゅんどっぱん!
卑猥すぎる粘着質な水音と共にはしたない嬌声混じりの喘ぎ声も連鎖する。
俺は完全にアルファに主導権を奪われていた。
腰が浮きそうになるほどの快感を堪えて彼女の動きに合わせるしかない状況だ。
アルファは艶やかな表情を保ちつつも目だけは爛々としていてまさに飢えた獣そのものだった。
「そろそろ限界でしょう?我慢しても辛いだけよ?ほら…全部出して」
そう促しながらさらに加速する上下動。膣内の締め付けも一段階激しさを増して亀頭に強く圧力をかけてきた。
こっちはもう限界なんてとうに越えてるのに一向におさまる気配はないどころかますます昂ぶる一方だった。
しかも奥へ叩きつけるたびに「ぐぽっ…ぐっぷ」と音さえ聴こえそうで羞恥心まで煽ってくる始末だ。
「もう無理だって…許して…アルファ…出ちゃうよぉ……っ!」
弱々しく哀願するも全く受け入れてくれる様子がないどころかむしろ嬉しそうに微笑んでからさらに深く突き刺さってくる。 子宮口めがけてズドンッ!とぶつけられた瞬間全身から電流が駆け巡り脳内麻薬大量放出状態となり思考能力喪失寸前まで追い込まれてしまうほど壮絶なものであった。
そして遂には抑えきれなくなった堰が崩壊し溜まり続けていた滾りが爆発するように噴出した……
ドクドクと脈打ちながら放出される熱い迸り。それと同時に子宮内部まで満たされるような幸福感を得ることができたもののすぐに虚脱感に襲われてしまった俺であった。
肩で息をしてぐったりした様子を見せる俺に対してなおも余裕の笑みを浮かべている彼女。ただならぬ気配を感じたのである。
「はいお仕置き完了…と、言いたいところだけどまだ足りないわ」
「え…マジかよ…」
俺が呆然とそう呟いた瞬間、さらに深く沈められ再開されたのであった。