※この作品はR-18です。

囮の実力者になりたくなくて!   作:ボルメテウスさん

8 / 10
背中合わせの友情

「…動けない」

 

俺は悟った。背中に、柔らかいけれど絶対に動かないものが張り付いている。

 

「エロゲ様…申し訳ありません。私の背中にも、エロゲ様の背中が…」

 

ガンマの声が、背中のすぐ後ろから聞こえる。距離ゼロ。

 

俺たち今、背中合わせでくっついている。スライムスーツ越しとはいえ、女性の背中の体温と感触がダイレクトに伝わってくる。いやスライムってそもそも体温伝えるのか? 伝えるな。めちゃくちゃ温かい。そして柔らかい。背中だけど。

 

「イータ。これどうなってるんだ」

 

俺は首を捻って、機械をいじっているイータを見た。

 

「…成功」

 

「成功じゃないだろ! 離れられないじゃないか!」

 

「…それが、目的」

 

「目的って何だよ!」

 

「…魔力の…循環。…エロゲの魔力がガンマへ。ガンマの魔力がエロゲへ。…背中の接点が、回路。…離れると、回路が切れる」

 

「切れていいから離してくれ!」

 

「…ダメ。…データ、取る」

 

イータはクリップボードにペンを走らせ始めた。完全に観察モードだ。

 

ガチャリ。

 

重い金属扉が開く音がした。

 

入ってきたのは、長い金髪を怒りで逆立てたアルファだ。碧眼が燃えている。いや物理的に魔力の塊が瞳の奥で爆発しているレベルだ。

 

「イータ!!」

 

地鳴りのような声だった。

 

「…アルファ様」

 

「何をしたの」

 

アルファは俺とガンマの惨状を一瞥し、それからイータを睨みつけた。

 

「実験です」

 

「見ればわかるわよ! なぜエロゲとガンマがくっついているのか聞いてるの!」

 

「…魔力交換。…背中合わせで、循環。…離れられない」

 

イータは淡々と答える。

 

「離れられないって、どういうこと?」

 

「…離れると、死ぬかも」

 

「「は?」」

 

俺とガンマの声が重なった。

 

「…今、二人の魔力回路が完全にリンクしてる。…無理に離すと、回路が逆流して…双方の魔力核が崩壊する」

 

「崩壊って!」

 

アルファが額に手を当てた。深いため息。

 

「つまり、安全に離す方法は?」

 

「…ない」

 

「ないの!?」

 

「…今のところ。…調査が必要」

 

「いつできるの!」

 

「…3日」

 

「3日もこのままなのか!?」

 

俺は叫んだ。3日間、このドジっ子経営担当と背中合わせで過ごすのか? 風呂は? トイレは? 寝る時は?

 

「エロゲ様…私も…その…困りますわ」

 

ガンマの声が震えている。背中の体温が少し上がった気がする。恥ずかしいのか焦りか。

 

「イータ。責任取りなさい」

 

アルファの声が冷たくなった。

 

「…3日かかる」

 

「早くしなさい。3日経っても解けなかったら、あなたを縛り上げて実験台にするわよ」

 

「…やりがい、ある」

 

「褒めてないわよ!」

 

アルファは苛立ちを隠さず、俺たちの方へ歩いてきた。

 

「エロゲ。ガンマ。苦労かけるわね」

 

「いや、アルファ。どうやって生活するんだこれ」

 

「…這うしかないですわね」

 

ガンマが言った。

 

「這う? お前這えるか?」

 

「エロゲ様が前に。私が後ろ。…亀みたいに」

 

「亀かよ!」

 

俺はガンマの肩——いや背中——を押して前のめりになった。バランスを取るのが難しい。背中の感触がずりっと動く。スライムの摩擦が低い音を立てた。

 

「んっ…エロゲ様、急に動かないでください。…背中が擦れて…」

 

「擦れるか?」

 

「はい。…なんだか、変な感じが…」

 

ガンマの声が上ずった。背中越しに彼女の心臓の音が聞こえる気がする。ドクンドクンと早くなっている。

 

「あーあ。とりあえず、部屋に戻るか」

 

「無理ですわ。扉、通れません」

 

「通れるだろ。横になれば」

 

「横になっても、厚みが…」

 

確かに。俺とガンマの背中合わせだと、かなりの厚みがある。

 

「じゃあ、ここで3日過ごすのか?」

 

「…丁度いい。観察しやすい」

 

イータがにこりと笑った。笑ってない。目が笑ってない。

 

「アルファ。なんとかしてくれ」

 

俺はアルファに助けを求めた。

 

「…3日よ。耐えなさい」

 

「耐えろってお前!」

 

「私が交代で見てるから。不便でしょうけど」

 

「不便じゃない! 災難だ!」

 

「文句言わない。あなたが囮になるって言ったんでしょ。これも修行よ」

 

「どんな修行だよ!」

 

俺は絶叫した。背中のガンマも小さく悲鳴を上げた。ずり落ちそうになって、俺の背中に強く押し付けられる。柔らかい感触が背骨を圧迫する。

 

「エロゲ様…しっかり…」

 

「しっかりできるか!」

 

「あ…すみません。…胸が、背中に当たって…」

 

「当てるな!」

 

俺たちはもつれ合い、床に倒れ込んだ。

 

「あぐっ!」

 

「きゃっ!」

 

背中合わせのまま床に転がる。天井が見えた。イータの顔が覗き込んでいる。

 

「…良好な反応。…記録」

 

「記録すんな!」

 

俺の受難はまだ始まったばかりだった。

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