【完結】 脚が好きだったのでケイト会長のパンストに堪らず自給自足してみる 作:hige2902
なんとしてでも万里さんと芽衣子さんを出獄させなければならない。彼は確たる信念から、自室のベッドに寝転んでそのように思考していた。
裏生徒会員をプリズンから出した事で生まれる結果はそれほど問題視する必要はない。どうも彼が同クラスの女子に話を聞いてみるに、裏生徒会の実態はケイトの話とはだいぶ違うからだ。故に裏生徒会が復権したところで学生がその権力に怯える事はない。
しかしそれは、ケイトが私怨で万里と芽衣子を獄に入れたという事で、その私情を解決しない限りは再び表裏の陥れ合いが始まってしまうだろう。
何より、盗まれた芽衣子の下着の件を解決せずして事態の収束は不可能だ。学生が納得しない。
ケイトが盗んだ事は間違いなさそうだが、だとしてもどうやって。
やがて目覚まし時計が起床時刻を告げた。それを認めると、囚人の朝食を配膳する為に室を出た。
結局、一睡もできなかった。
しかしながら伊達に体力に自信があると言ってのけるだけはあって、一徹くらいはなんでもない。
プリズン内に入り、万里と芽衣子が着席しているテーブルに黙黙と食器を並べる。
「さぞ、いい気分だろうな」
と、芽衣子。皮肉を潜めて言った。
「そんな……まさかこんな事になるなんて」 彼は本心から悲痛に満ちた表情で陰鬱に呻いた。 「いまの万里さんや芽衣子さんの痛ましい姿なんて、見たくなかった」
タイツもニーハイもない。いやスパッツが嫌いなわけではない。だがなんだこのダサいヨコシマは。海賊やウメズカズオだってそのガラは赤白のシャツに留めているというのに。黒や紺などの一般的なスパッツならまた話は別だった。かもしれない。
大きく口を開けて甘噛みしたくなるほどの肉付きの良い芽衣子の太腿を盗み見て、彼は涙を堪える事が出来なかった。仮にこの状態でニーハイを履いたとしても変だ。滑稽すぎる。ヘソあたりまで覆うタイツなどはもう失笑ものだ。タイツの下にスパッツならギリギリなんとかいけそうではあるが……やはりだめだ。いや待てよ ――ひょっとして盗まれた下着というのは――
「おまえ……」
芽衣子はその流れた悲しみの粒に動揺した。万里との協議の結果、彼はケイトの手先だと考えていたからだ。また、そう考えて動かなければ話にならぬ状況。全権は表生徒会が握っているのだから。
「万里さん、いったい会長との間に何があったんですか。教えてください。あなたたちの確執は一連の流れから見て明らかです」
彼の涙ぐんだ問いに答えることなく、万里は黙黙と朝食を取った。
会長、と芽衣子が助け舟を出すも一拍置き、冷徹に口を開く。
「惑わされないで芽衣子。その男がケイトの手先であろうがなかろうが、クズであることには変わりないのだから」 彼に一瞥もくれずに突き放すように続ける。 「あなたは看守らしく黙って仕事をしていればいい、余計な口を利かないで」
脚を犯されたという事もあっては仕方のない万里の態度に、彼は次の言葉が出なかった。言われるがままに口を閉じ、囚人たちが食事を終るのを待ち、食器を回収してプリズンを後にした。
その情けない背中を鉄格子の中から眺める芽衣子が言った。
「彼は何も知らず、本当に利用されていただけかもしれません」
「そうだとしても、いえそうだとしたら彼には何の権限もないわ、ケイトの傀儡なわけだから」
「それでもわれわれとケイトの間の確執を話してもよかったのでは?」
「こちらから情報を開かす必要はない。何を弱味に刑期を延長されるかわからないのだから」
「ケイトは彼に都合の良い嘘を教えるかもしれません。確執についての比較対象が存在しなければ、彼はそれを真とするしかない」
「やめてちょうだい。例えそうだったとしてもやはり、権力のない彼にはどうしようもないのだから」
「なぜそこまで彼を信用しないのですか? 全幅の信頼を置くのは危険ですが、リスクを最小限にする程度に留めるのならば手です」
「それは……」
万理は言いさして顔を赤らめる。言えるわけがない。彼に犯されて女の悦びを教えられたなど。
疼く下腹部を断ち切るようにかぶりを振る。
「それは、彼が……いえ……そんなリスクを負わなくとも、隙さえ見せなければ刑期を満了して出獄する方が確実だから。お願いだから芽衣子、彼の事は口にしないでちょうだい」
「わかりました」
了解したがしかし、芽衣子にはこれが機に思えて仕方がなかった。また、仮に刑期を終えても裏生徒会に落ち度があったという汚点は消えない。会長である万里がそれを抱えて学生背活を送ることなどは、芽衣子には耐えられそうにもない。
もしも下着の件が、ケイトが仕組んでいたことであると明るみに出れば非は向こうにある。全校生徒にそう知らしめることが出来るのであれば、彼に助力を請う事に迷いはない。
故に芽衣子は行動に出た。放課後の校内清掃の際に脚を挫いた。ふりをして保健室へ行くので同行するように彼に願い出る。
万里からしてみれば彼と二人きりなど気が気ではないが、ダサいスパッツでは彼も手を出そうなどとは思わない。
万里に悟られては事なので、芽衣子は彼の肩を借りてえっちらおっちらと保健室へ向かった。
豊満な胸の横乳の感触とかぐわしい汗の匂いが何とも言えない。だがニーハイはない。
養護教諭の処置を受け、再び労働に戻る途中で芽衣子がゆっくりと口を開いた。
「おまえはケイトをどう思っているのだ」
「どうって、ちょっとおっちょこちょいで可愛らしいとしか」
彼はメールの指示で履歴を消すように記していなかった点を思い出して言った。
「後はやっぱり、裏生徒会員の人と仲良くしてもらってほしいですね」
「だがおまえの想像している通り、わたしと会長、ケイトの間には確執がある」
「教えてください、力になれるかもしれません」
「確認したい。おまえは本当にケイトの手先なのか? いやこんなことを聞いても意味などない事は理解している」
「おれは、万里さんも芽衣子さんも会長もプリズンに入ってほしくないです。だから芽衣子さんも危惧してはいるでしょうけど、会長が仕組んだ裏生徒会の失脚についても、なんとかうまく処理できればなあって思ってるだけです」
そうか、と芽衣子は足を止めて彼に向き直る。
「わたしはおまえを信用して言う訳ではない。話すことでデメリットが発生せず、事態の好転の可能性があるから伝えるだけだ」
短く息を整えて続けて言った。
「簡潔に述べる。小学生のころ、わたしはケイトにイジメられていた。理由はわからない、無いのかもしれんが。それを会長……万里会長に助けてもらった。おそらくそれが気に入らなくて、いまもわれわれを目の仇にしているのだろう」
「そうだったんですか……でも、だとしたら非は会長の方にあります。少なくとも裏生徒会は不当に陥れられたのですから」
「本当にこの状況をひっくり返すつもりか」
「ま、だいたいは何とかなりそうです。万里さんのお父さんが理事長をやってるみたいだし」
「頼む、わたしにできることがあれば何でも言ってくれ」
「本当ですか!? いやそれはおいといて、もしも会長が芽衣子さんたちに謝罪したら許してくれます?」
「ううむ、それは。出方次第だ」
「イジメ云云については、おれは完全に部外者なんであれこれ言うつもりはないので」
その後、彼は物静かに監督を続け、囚人をプリズンへ収容してから理事長室へと向かった。
「理事長、万里さんの事で少しお話があります……」
そこで彼が口にした内容は恐ろしく冷酷で、通常の人間には到底真似の出来ぬ所業だった。
「本気なのか、ね」
理事長は脂汗を一筋流し、粘るように言った。
「じぶんはもう覚悟ができています。あとは理事長が許していただけるならば」
ふうむ、重厚に唸り、指を組んだ。ややあって、好きにするがいいと口を開く。
その言葉に彼は深深と頭を下げ、退室した。
許可は得た。娘が不当に囚人に身を落としているのならば、動くのが親心なのかもしれない。
勝負は翌朝だ。ケイトが企画した、朝会時に裏生徒会が彼を冤罪によって投獄した事実を謝罪する場、そこで合切にケリをつける。
下着の行方を説明し、裏生徒会の非を帳消しにする。それが出来るのは、唯一の男子学生である彼にしかできないのだ。
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朝露の香りが残るグラウンドに、八光学園の全生徒が整列していた。マンモス校と呼ばれるだけあってその人数が並ぶさまは壮観だ。
そんな中、朝礼台の近くで並ぶ生徒が数人。彼と表裏の生徒会の面面。ただ、万里と芽衣子は学園の不名誉の証である囚人服に身を包んでいた。
教師陣の話が終わり、いよいよ万里が謝罪の言葉を口にする番が回ってくる。密やかなざわめき、それに好奇と侮蔑の視線を受けながら朝礼台の階段を上った。絞首台のように。
屈辱を噛み殺して、万里は彼が下着を盗んでいないにもかかわらず投獄したことを謝罪した。冤罪であったと。
やっぱり、彼がそんなことするはずないと思った。などと無責任きわまる大衆的な声が雑草のように芽生えてはなびく。
拳を握りしめる万里の背を見て、彼は朝礼台の階段に足を掛けた。隣にいたケイトがその行動に訝しんだが、慌てて止めるのも体裁のない話。黙殺する。
彼はスタンドマイクを引き寄せた。怪訝な表情を見せる万里を無視して決意を告げる。
「先ほどの万里さんの謝罪には誤りがあります」
「あなた、何を言って」
戸惑う万里を無視して彼は続ける。内容は生徒のざわめきを掻き消す鋭さを持っていた。
「それはおれが下着を盗んでいないという点です。これは同時に、この場で謝罪しなければならない事でもあります。おれが下着を盗んだ事は事実であり、それを隠していました」
「だってあなた、あれは男性用のTバックで……言っている意味がわからないわ」
「ええ、ですから盗んだんですよ。腹痛を理由に授業を抜け出し、男性用のTバックを……理事長のTバックをね」
うろたえる全校生徒の疑念を万里は無意識にこぼして代弁する。
「え? なん、で。パパの下着、を?」
「それはおれがホモだからです」
一瞬の沈黙の後、グラウンドは混乱の渦と化した。黄色い悲鳴と嫌悪の呟きと落胆の声、写メを撮る音。有名な進学校である八光学園で唯一の男子学生というだけでも話題になる彼が、同性愛者だと告白した瞬間。すぐにでもこの事実はネットワーク上に広まってしまうだろう事は想像に容易い。
万里とケイトだけが、それが嘘であると身体でも理解している。バイなのかもしれないが、女性の脚への執着心からその線は消えるし、盗むなら下着ではなく靴下のはずだ。
「あなた……」
声を失った万里を一瞥して小さく笑い、彼は続けて言った。
「たしかに裏生徒会の捜査はずさんだったかもしれませんが、おれが下着ドロであることは事実です。少なくとも冤罪じゃあない。万里さんたちが受ける罰は、プリズン行きほどではないはずです。芽衣子さんの下着はおそらく誰かが更衣室で間違えて履いてしまい、引っ込みがつかなくなったのでしょう。しかしそんなことは、裏生徒会の勘違いを利用して不正に出獄したおれに比べればたいした事ではありません。この場を借りて謝罪します」
全校生徒のバッシングを受けながら、彼は深深と頭を下げた。
これしかなった、裏生徒会の冤罪の汚点を残さずに出獄させる方法は。だからこれでいい、これからホモだと言われ続けようとも構わない。彼は自分を犠牲にしてでも、タイツとニーハイを取ったのだ。
朝礼台を降りると、ケイトが凍てつく視線で彼を睨みつけていた。芽衣子はよくやってくれたと友情にも似た感情を抱く。それほど遠くない距離で理事長が寡黙の中に微笑を見せている。目じりが下がるとポールニューマンに似てるなと、彼は再びプリズンへ連行される道すがらに思った。みつ子が目を輝かせているのを極力無視して。
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「どういうことなの!」
放課後、ケイトは刑に服している彼に詰め寄った。
「裏切ったわね! 万里たちを助けて、わたしの計画が台無しじゃない!」
「落ち着いてくださいよ」
「これが、落ち着いていられるかあ」
ケイトは彼の胸ぐらを掴み上げて頭を揺さぶろうと思ったが、びくともしないので諦めて息を整える。そういえば体力に自信があるとか言っていた。そうこうしている内に、万里と芽衣子がプリズンの扉を開けて入って来た。
「見苦しいわよ、ケイト」
「万里……」
「おれが呼んだんですよ、どうして万里さんたちと敵対しているのかを、会長の口から聞きたかったし」
「わたしは、芽衣子の下着がなくなったことに関しては何も知らないわ。そもそも、更衣室で万里たちに持ち物を検査されたけど何も出てこなかったし」
「そうですか? 芽衣子さんの下着を履いてから、自分の下着を身に着けたんじゃないですか。Tバックなのだから、パッと見て普通の下着を履いているようにしか」
ケイトはぎくりと擬音が聞こえそうなほど身体をこわばらせた。スパッツの下にタイツを履いたらダサいよなあという閃きが生んだ推測であることは黙っておく。
「ま、証拠はないですけど。おれは単純に、裏生徒会は悪であるという会長の言葉を信じて万里さん達をプリズンに入れる手伝いをしました。けれども裏生徒会が悪であるという前提が崩れた以上、万里さん達が囚人に身を落としている姿を見たくはないんです。陥れる会長も……会長、いったいどうしてそれほどまでに万里さんたちを敵対視するんですか」
「それは……」
いいどもるケイトに芽衣子が言った。
「彼は、自らがホモであるとまで、しかも全校生徒の前で言ってのけた。われわれの確執を取り除きたい一心でな。おまえが今後もわれわれと敵対するか否かはともかく、対立する理由を聞く権利はあると思うが? すでにツイッターとやらでも彼はおもちゃにされているぞ……主にそっち方面で」
見るがいいと放られた携帯端末のツイッターのクライアント画面を覗く。
『ホモって毛むくじゃらの熊っぽいイメージがあったけど意外だ』
『ノンケだけど、こいつになら掘られてもいい』
『ちょっと八光学園行ってくる』
「すでに学園周辺にそれらしき不審者が数人目撃されている」
ケイトは強く目をつむり、痛みを絞るように口を開いた。
「わたしが小学生だった頃……好きな子がいて…………それで、告白したんだけど」
「それで?」
と彼。好きな子と聞いてちょっと居心地が悪い。
「……振られちゃったの」
「それのどこに万里さんたちとの関係が?」
「その子、そいつは……芽衣子の方が好きなんだって! おっぱいが大きいから! それで芽衣子に嫌がらせをしちゃってたら万里が出張ってきて、なんかもう引っ込みがつかないじゃない!」
「そ、そんなことでわたしたちを……」
呆れる万里に彼が諭すように。
「嫌がらせをするという行為を肯定はしませんが、気持ちはわからないでもないです。もしもおれが女性に告白したとして、別の男の方がちんこが大きいからと振られたら、けっこう立ち直るのに時間がかかるレベルです。で、どうするんですか、会長」
「どうって、何がよ」
「まだ万里さんたちに嫌がらせを続けるのか、ここで謝るのかって事ですよ」
それは、と言いさしてケイトはちらと万里たちを見やる。
引っ込みがつかなくなったと自分でも言ってしまった通り、いつまでも敵対視していても仕方のないことはわかっているつもりだ。だが、プライドが謝罪することを妨害する。そういう高飛車な性格なのだ。それは自分が一番よくわかっている。
もじもじするケイトに芽衣子が口を開く。
「いまだにわれわれを憎んでいるという事は、まだ好きなのか?」
「だ、誰がよ」
「だから、おまえが振られた男の事をまだ好きなのだな、と確認した。嫌がらせを続ける理由は、おまえの心の中にその男の影が残っているという事じゃないのか?」
「ばばば、ばか。こいつの前でなんてことをぉおお!?」
彼が最後に覚えているのは、ケイトがこちらを見やって驚愕している姿だった。というのも、なぜかはしらないが芽衣子の質問の意図を理解した瞬間に彼は泡を吹いて白目向いてぶっ倒れたからだ。
だから、その後ケイトが万里たちに謝罪したかどうかを彼は知らない。けれども表裏の生徒会がほどなくして合併したという報を聞くに溝は埋まったらしい。
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「昨日は本当にびっくりしたわ。あんた、急に倒れちゃうんだもん」
「なぜかはわかりませんけど、会長に好きな人がいる可能性が高いと考えた瞬間に意識が遠のいて」
昼食がてらの面会の席で、まったりとケイトは砂糖とミルクありありのコーヒーを飲み、彼は差し入れのサンドウィッチを貪り食っていた。
「ていうか、生徒会が一本化したってことは、いまの生徒会には会長が二人いるんですか? 万里さんと会長の二人が」
「んー、まーそれは万里に譲ったわ。陥れたのはわたしの方なんだし」
急にそっぽを向き、顔をほんのりと上気させて縦ロールの毛先を弄んで言った。
「だから、そーね、わたしはもう会長じゃないわけだけど」 ちらりと彼を盗み見る。
「へー、じゃあ会長は万里さんの補佐って感じなんですか」
「うんだからわたしはもう会長じゃないんだけどね万里のほうが会長なんだけどね」
「そうなんですか。ところで相談があるんですけど、ここのベッドもうちょっと寝心地いいやつに変えてくれませんか? 会長の方から万里さんに伝えてくれると助かるんですけど」
「だからおまえおい!」
看守の花が我慢できずに怒声をあげた。
「さっきから会長じゃないって言ってるだろ! というかわかれよ!」
「え? ああ、そうでした。つい癖で。失礼しました」
咳払いの後、彼は言った。
「ケイトさん」
むふー、と満足そうにプリズンを後にするケイトに花は、なんだあの可愛い生き物はとときめいた。