扉の向こう側 作:竿役アストルフォに脳を焼かれた人
捏造設定が気になるところがあるかもしれませんが、その方がエロいと思ったので許してください。
――三日後の夜。もしかしたら、ボクの部屋、開いてるかもね。
予備会議室の冷たい床から逃げ出したあの日から、その囁きは呪いのように耳の奥へ張りついて離れなかった。
カルデアの時計は、何事もなかったかのように規則正しく時を刻み続けている。
白く無機質な蛍光灯、空調設備の低い唸り、端末を叩く指先の乾いた音。世界は何一つ狂っていなかった。狂ってしまったのは、自分自身の内側だけだった。
*
一日目。
マシュは自室のシャワーブースで、冷水に近い温度のシャワーを浴びていた。
肌を刺す冷たさに身を縮めながら、強く目を閉じ、スポンジで首筋や鎖骨、胸元、そして下腹部を痛いほど擦り上げる。
洗い流したかった。
会議室の床で押しつけられたあの暴力的な熱の感触も、口内を掻き回された唾液の味も、自らの意志で浅ましく懇願してしまった記憶も、すべてを削ぎ落としてしまいたかった。
けれど――冷たい水が肌を濡らすほど、皮膚の奥深くに沈殿した記憶は鮮明さを増していった。
スポンジが胸元をかすめるだけで、服越しに揉み解され、尖った先端を擦り上げられたあの痺れが蘇る。
太腿の付け根に泡を滑らせるだけで、布越しに押し当てられためり込むような硬い質量が、下腹の奥底を重く引き絞るように疼かせる。
冷水の中で鳥肌を立てながら、マシュは自らの表皮の下で、消えることのない残り火がじくじくと燻り続けている事実に絶望していた。
その日の昼食時、食堂で向かい合って座った立香は、いつも通りの穏やかな笑顔でマシュに語りかけてくれた。
「マシュ、少し顔色が悪いみたいだけど、大丈夫? 昨日の訓練、無理させちゃったかな」
「……っ、いえ……! そんなことは、ありません、先輩」
慌てて笑顔を作ろうとしたが、頬の筋肉が強張ってぎこちなくなってしまう。
自分を気遣う先輩の澄んだ瞳を直視することができない。
この無防備な優しさに包まれながら、自分は昨日、白昼の会議室で一サーヴァントの腕に抱かれ、身体の奥底から熱い愛液を零していたのだ。
裏切りの重さが鉛のように胃の腑へと沈み込み、トレイの上の食事は砂を噛むように味を失っていた。
「無理は禁物だよ。何かあったら、いつでも言ってね」
「…………はい」
小さく頷くことしかできない。
言えるはずがなかった。
「アストルフォさんに身体をまさぐられ、絶頂を教え込まれました」などと。
そして何より――その罪悪感で押し潰されそうな胸のすぐ裏側で、「あと二日」と、約束の夜までの時間を無意識に逆算してしまっている自分自身の背徳を、どうして打ち明けることができただろうか。
*
二日目。
侵食は、より深く、日常の隙間を埋め尽くしていった。
管制室でのデータ確認中、背後を通る早足の靴音とともに、スタッフへ指示を与えるオルガマリーの凛とした声が耳をかすめた。
今の自分にはどうしようもなく意識してしまうその声に、マシュの背筋がかすかに強張る。
無意識に手元を止め、振り返る。
そこには、スタッフに手短に指示を与えながら歩いていくオルガマリーと、その後ろを軽やかな足取りでついていくアストルフォの姿があった。
所長の襟元、そのわずかな隙間に施された不自然なファンデーションの痕跡が、マシュの視界を射抜く。
あの夜、アストルフォに激しく吸い付かれ、唾液で濡らされていた場所を隠すためのものだと、嫌でも分かってしまう生々しい境界線。
そして、オルガマリーの斜め後ろ。
アストルフォが、ふとマシュの視線に気づいたように顔を上げた。
「――――」
息が止まりそうになる。
あの会議室での濃密な熱狂、あるいは食堂で見せつけられたような、底知れない笑みを向けられるのだと身構えた。
身体が強張り、指先が冷たく凍りつく。
けれど――。
「あ、マシュ! おつかれー!」
返ってきたのは、あまりにもあっけらかんとした、普段通りの無邪気な声と笑顔だった。
そこにはあの会議室で見せたような昏い情欲も、秘密を暴き立てるような淫らな眼差しも、何一つ宿っていない。
ただの、陽気で人懐っこいサーヴァントとしての笑顔。
「…………え」
通り過ぎていくアストルフォの背中を見送りながら、マシュは呆然と立ち尽くしていた。
怯えていたはずだった。警戒していたはずだった。
なのに――胸の奥にすっと広がったのは、安堵などでは決してなかった。
(……なんで……?)
なぜ、あんなにも普通でいられるのか。
あんなにも深く身体をまさぐり、口内を奪い尽くしておきながら、どうして自分だけがこんなにも狂わされ、あちらは何一つ変わらずにいられるのか。
取り残されたような、残酷なまでの拍子抜け。
そして――胸の奥をチクリと刺した、どうしようもないほどの寂しさ。
その寂しさを自覚してしまった、次の瞬間――。
「――――っ!」
耳の奥まで一気に熱がのぼせ上がり、激しい羞恥が身体を覆う。
喉の奥がカラカラに渇き、胸の鼓動が早鐘を打つ。
怯えていたふりをしながら、あの淫靡な視線で射抜かれることを、どこかで期待してしまっていたのだ。
(……私、何を……何を考えて……っ)
あんな風に、普通に通り過ぎてほしくなかった。
あの無邪気な笑顔ではなく、私を毒するあの瞳で見つめてほしかった――。
浮かんでしまった淫らな本音に血の気が引くのと同時に、下腹の奥がきゅうっと切なく締め付けられ、熱い湿りがじわりと滲み出していく。
否定できない自らの歪みに、背筋を甘い悪寒が貫く。
混乱すればするほど、身体の芯で燻っていた熱は一段と勢いを増し、衣服の内側をじっとりと重くさせていくのを止められなくなっていた。
その夜、自室のベッドに横たわっても、眠りは訪れなかった。
目を閉じれば、暗闇の中にあの桃色の髪と、紫色のあの瞳が浮かび上がる。
シーツをぎゅっと抱きしめ、太腿を強く擦り合わせても、身体の奥で疼く飢餓感は紛れない。
見たいのではない。
もう、覗き見るだけの観察者には戻れない。
あの部屋の扉の向こうで、今度は自分自身があの熱に貫かれ、すべてを奪われる瞬間を――狂おしいほどに渇望してしまっているのだと、認めざるを得なかった。
*
そして――約束の、三日目。
その日のマシュは、自分でも恐ろしいほど「カルデアの日常」から切り離されていた。
管制室でのログ照合作業中も、端末に並ぶ文字列や周囲の職員たちの交わす声が、まるで分厚いアクリル板の向こう側にあるかのように遠くくぐもって聞こえる。
隣に座る立香が「マシュ、このデータの入力、代わろうか?」と気遣わしげに覗き込んできてくれても、その優しさが痛烈な針となって胸を刺すばかりで、相槌を返す声すら掠れてしまいそうだった。
時計の針が進むたび、下半身の奥底に溜まった重みと微熱が、一歩踏み出すごとにじくじくと擦れ合う。
逃げ出したいはずの時間が、一秒ごとに、確実に足音を立てて迫ってくる。
昼下がり、午前の作業を終えたマシュは、立香の少し後ろに並ぶようにしてメイン通路を歩いていた。
行き交うスタッフたちと穏やかに会釈を交わす立香の背中を見つめながら、罪悪感で足取りがわずかに重くなる。
そんな二人の前方から歩いてきたアストルフォは――普段と何一つ変わっていなかった。
「あ、マスター! やっほー!」
駆け寄るように足を止め、人懐っこい笑顔で立香に手を振る。
「アストルフォ。今から訓練?」
「ううん、さっき終わったところ! 今日はね、模擬戦で思いっきり身体動かしてきたんだー」
「そうなんだ、お疲れ様。あんまり無茶しないようにね?」
「えへへ、マスターこそ! ……あ、マシュもお疲れさま!」
屈託のない、明るい声。
立香と他愛のない軽口を交わし、そのついでに向けられた笑顔。
声のトーンも、無邪気な表情も、誰に対しても見せる普段のアストルフォそのものだった。立香も「じゃあ、また後でね」と穏やかに微笑んで手を振り返している。
あまりにも完璧な、カルデアのいつもの日常のワンシーン。
けれど――。
すれ違いざま、立香が再び歩き出したその刹那。
アストルフォが背を向けて立ち去るほんの一瞬だけ、桃色の前髪の隙間から、紫色の瞳がちらりとマシュの視線を掠めた。
「――――!」
喉の奥で息が詰まる。
その底知れぬ熱を湛えた瞳の奥に、ほんの一瞬、言葉にはならない濃密な色が揺らめいたように見えた。
無邪気な会話の裏側で、あの会議室で自分を組み敷いたときと同じ情念が潜んでいたのではないか――。
だが、振り返った先のアストルフォは、すでに何事もなかったかのようにスタッフたちと軽口を叩きながら歩き去っていく。
(……今のは……?)
本当に、あの人は私にあの視線を向けたのか。
それとも――毒されたいと願うあまり、ただの何気ない視線に自分自身の淫らな願望を重ねて、色がついているように見誤っただけなのか。
分からない。
答えの出ない問いに苛まれるほど、身体の芯はドクンと嫌な跳ね方をし、太腿の付け根を包む薄い布地には、じっとりと熱い湿りが重く張りついてしまっていた。
相手が意図していたのか、自分の都合のいい幻覚だったのかすら定かではないのに、その曖昧な一瞥の余熱だけで、身体はすでに境界線を越える準備を完了させている。
もはや、確かめる術は一つしかなかった。
*
そして――夜。
消灯時間を告げるチャイムが、静まり返ったカルデアに低く響き渡った。
自室の薄暗がりの中、マシュはベッドの端に腰掛けたまま、じっと自らの手を見つめていた。
今日一日、立香と交わした会話も、オルガマリーから受けた指示も、すべてが遠い夢の出来事のように現実感を失っていた。
頭の中を占めていたのは、ただ一つの予感だけ。
――あの扉が、開いているかもしれない。
立ち上がるべきではない。
部屋の明かりを消し、毛布を被って朝を待つべきだ。
それがカルデアのデミ・サーヴァントとして、藤丸立香の後輩として、守るべき最後の防壁だった。
「…………っ」
けれど、マシュの足は、吸い寄せられるように床へと下りていた。
誰に強いられたわけでもない。
「所長の様子を確認する」という、都合のいい言い訳すらもう用意していなかった。
自分自身の内側で燃え盛る、どうしようもない熱と飢えを満たすためだけに。
部屋の扉を開ける。
シュウ、と静かに空気が抜ける音とともに、通路の暗がりがマシュを迎えた。
青白い常夜灯だけが点灯する、静まり返った深夜のカルデア。
空調設備の低い唸りだけが横たわる無人の廊下を、マシュの足取りは音もなく進んでいく。
かつてオルガマリーの部屋へ向かっていた足は、何の躊躇もなく別の区画へと進路を取っていた。
サーヴァント居住区画。
奥へ進むにつれて、冷え切ったカルデアの空気の底に、あの微かに甘く湿った匂いが混ざり合ってくる。
その残り香を吸い込むたび、肺の奥から熱い吐息が零れ、下腹部の芯がきゅうっと切なく疼いた。
角を曲がる。
その先、通路の最奥。
アストルフォの、部屋の前。
「――――」
マシュの足が、ぴたりと止まった。
息が詰まり、心臓が胸を突き破りそうなほど激しく脈打つ。
扉は。
あの夜と、まったく同じように。
ほんの数センチだけ、薄暗い室内の光を冷たい床へと漏らしながら――招くように、開いていた。
*
かつてオルガマリーの姿を覗き見た、あの日と同じように。
マシュは音を立てないよう息を殺し、震える爪先をゆっくりと扉の隙間へ寄せていった。
数センチだけ開かれた暗がり。
そこから漏れ出てくる甘く湿った熱気が、冷え切ったカルデアの空気を押し退け、鼻腔をくすぐる。
その残り香だけで下腹の奥がきゅうっと疼き、心臓が痛いほど早鐘を打った。
見てはいけない。
けれど、確かめずにはいられない。
あの日と同じように、今夜もまたオルガマリーが床に跪いているのか。
それとも――。
罪悪感と都合のいい言い訳を胸の中で反芻しながら、マシュは覚悟を決めるように、そっと扉の隙間へ視線を落とした。
けれど――。
そこに広がっていたのは、記憶にある光景ではなかった。
「――――!」
息が止まる。
床に散らばる衣服も、跪く銀灰色の髪も、そこにはない。
薄暗い室内の真ん中。
アストルフォが、すぐ目の前に立っていた。
そして――扉の隙間越しに、まっすぐ、マシュの瞳を捉えていた。
偶然ではない。
まるで、マシュがこの瞬間に隙間を覗き込むことすら正確に予期していたかのように。
視線が絡み合った瞬間、アストルフォの口元が柔らかに緩み、企みが成功した子供のような笑みを浮かべた。
「う……あ……」
声にならない悲鳴が喉に張りつき、マシュの身体が恐怖と熱狂で凍りつく。
――シュウ、と。
静かな駆動音とともに、マシュの目の前で扉が完全にスライドし、大きく開け放たれた。
隠れるための壁も、言い訳にするための隙間も、一瞬にして消え去る。
薄暗い室内の照明を浴びて、マシュの全身が、無防備な深夜の通路に完全に晒し出されていた。
「やっほー、マシュ」
かけられたのは、あまりにもあっけらかんとした、昼間と何一つ変わらない明るい挨拶。
声のトーンも、人懐っこく覗き込む小首の角度も、誰に対しても見せる「普段のアストルフォ」そのものだった。
けれど――。
「…………っ」
マシュの喉が、息を呑んで小さく強張る。
違っていた。
この三日間、食堂ですれ違ったときや、通路で立香と話していたときに見せていた、あの無邪気で清潔な光など微塵も残っていない。
妖しく濁った光を宿す紫色の瞳の奥。
それは、白昼の会議室でマシュを組み敷き、口内を貪り尽くしたときに見せた熱情――それをさらに煮詰めたような、底知れない情欲と独占欲が、色濃くドロドロに渦巻いていた。
視線の圧迫感に射抜かれ、マシュは一歩も動けなくなっていた。
(……入ったら、どうなるか……)
分かっている。理解しすぎているほど、理解していた。
ここから一歩でも足を踏み入れれば、何が行われるのか。
会議室でのあの「服の上から」の蹂躙などでは終わらない。
かつてオルガマリーが晒していたあの痴態のすべてを、今度は自分自身がこの部屋の底でなぞらされることになる。
頭の奥底で、理性が悲鳴のような警鐘を鳴り響かせていた。
逃げるなら、今しかない。
これが、正真正銘、引き返すことのできる最後の分岐点だ。
いま背を向けて自室へ走り去れば、まだ「取り返しのつかない決定的な一線」の手前で踏みとどまることができる。
けれど――。
冷たく叫ぶ理性とは裏腹に、マシュの身体の芯を支配していたのは、どうしようもないほどの期待と劣情だった。
すれ違いざまに浴びせられた視線の余熱、三日間待ち焦がれた飢餓感、そして目の前に立つサーヴァントから漂う甘く湿った匂い。
それらすべてがドロドロに溶け合って下腹の奥を激しく疼かせ、膝の力を奪っていく。
引き返したいはずなのに、足が後ずさりを拒んでいる。
飛び込みたいはずなのに、理性が爪先を引き止めている。
境界線の真上で、破滅的な葛藤に引き裂かれそうになりながら揺らぐマシュ。
そんな彼女の動揺も、内側でせめぎ合う熱のすべてをも見透かしているように――アストルフォは、蕩けたように柔らかく目を細めた。
「来ると思ってた」
確信に満ちた、甘い声。
そして、マシュを逃がさないように瞳を据えたまま、迎え入れるように両手を広げる
「どうしたの? ――入っていいよ」
「――――ッ!」
その言葉が落ちた瞬間、マシュの胸を貫いたのは、強烈な戦慄と甘い痺れだった。
あの会議室ではあれほど傲慢に言葉を奪い、乞わせるまで許さなかったくせに。
いま、アストルフォの手からあっけなく差し出された、絶対的な「許し」。
(……入って、いい……)
その甘美な響きが、張り詰めていた最後の防壁を内側からあっけなく溶かしていく。
抗うための言い訳は、もうどこにも残されていなかった。
「…………っ」
マシュの足が、音もなく床を蹴った。
誰に背中を押されたわけでもない。
自らの意志で、自らの重力に従うように、冷たい廊下から仄暗い室内の闇へと――決定的な一歩を踏み出す。
完全に境界線を越え、マシュの身体が室内に滑り込んだその瞬間。
――シュウ、カチリ。
背後で気密扉が滑らかに閉じ、重厚なロック音が静まり返った密室に落ちた。
世界から完全に切り離された、二人きりの夜の底。
もう、カルデアの光が届く場所へ引き返す道は、完全に閉ざされていた。
*
「…………っ、は……」
施錠の重い金属音とともに、マシュの唇の隙間から、熱く震える吐息が短く零れ落ちた。
羞恥と、恐怖と、そしてそれらを遥かに凌駕する狂おしいほどの興奮と期待。
ない交ぜになった感情が肺を圧迫し、わずかに開いた口元から抜けていく息は、自分でも驚くほど甘い響きを帯びていた。
息を吐き出すたび、閉ざされた部屋の濃密な熱気が肺を満たし、爪先から下腹部へとじわりと痺れが広がっていく。
自ら踏み込んでしまったのだという決定的な事実が、肌の表面を粟立たせるように熱く火照らせていた。
そんなマシュの微かな乱れを、アストルフォは見逃さない。
「…………」
至近距離。
アストルフォは身じろぎもせず、その紫色の瞳を細め、口元に隠しようもない笑みを浮かべながらマシュを見つめていた。
吐息ひとつ、肩の震えひとつ、赤く染まりゆく頬の温度までをも、余すところなく味わい尽くすような眼差し。
マシュが何を恐れ、何を恥じ、そして何を求めてここに立っているのか――そのすべてを掌の上で転がしているような、底知れない愉悦が瞳の奥で色濃く揺らめいている。
「えへへ」
静まり返った部屋に、低く、甘い笑い声が落ちた。
アストルフォは一歩、音もなくマシュへとにじり寄り、羞恥に俯いた顔を覗き込んでくる。
「マシュ、息がすっごく熱いよ? ここに来るだけで、そんなにドキドキしちゃった?」
「……っ、そ、れは……」
「どうしてそんなに顔が赤いの? まだ、なーんにもしてないのに」
わざとらしい無邪気さを装いながら、逃げ道のない問いを突きつけてくる。
耳元をくすぐる声の甘さに、マシュの肩が小さく跳ねた。
羞恥で顔から火が出そうなのに、見つめてくる昏く揺らめく双眸から目を逸らすことすら許されない。
「……アストルフォ、さん……」
「なあに? 言い訳なら、聞かないよ? だって――」
アストルフォはふっと目を細め、マシュの耳元へと唇を寄せた。
触れるか触れないかの距離から吹き込まれる吐息が、マシュの鼓膜を甘く犯していく。
「――マシュはさ、会議室のときみたいに『服の上から触られるだけ』で満足して帰るつもりで、ここに来たんじゃないもんね?」
「――――ッ!」
心臓を直撃する一撃に、マシュの息が詰まる。
図星を突かれた衝撃と、暴かれた欲望の生々しさに、全身の血が沸騰するように熱くなった。
「服の上からじゃ、足りなかったんでしょ? だから、ボクの部屋まで来たんだよね?」
「ちが……っ、そんな……」
「違くないよ。……ねえ、マシュ」
アストルフォはすっと顔を離すと、立ったまま、マシュの周囲をゆっくりと歩き始めた。
静まり返った部屋の床に、カツ、カツ……と、あえて重みを乗せた硬い足音が規則正しく響き渡る。
獲物を追い詰めるように、円を描いて巡る歩み。
その靴音が鼓膜を打つたび、逃げ場のない焦燥感がじわじわとマシュの全身を締め上げていく。
マシュの右側に立つと、アストルフォはピタリと足を止め、体をまっすぐマシュへと向けた。
横顔へ至近距離まで顔を寄せ、肌をかすめるような近さで言葉を落とす。
「マリーのこと、見てたよね」
「――――!」
鼓膜を直接撫で回すような甘い響きに、マシュの肩がぞくりと跳ねる。
再び歩き出したアストルフォは、カツ、とマシュの真後ろへ回り込み、背中に正対するようにぴたりと止まった。
逃げ場のない無防備な首筋へ、ぐっと顔を埋めるように寄せて、熱く湿った息をねっとりと吹き込む。
「あの日、マリーがこの部屋でどうしてたか……マシュはぜーんぶ見てたでしょ?」
呼吸が止まる。
頭の芯を鋭く貫く背徳の記憶。
薄暗い部屋の床、自らの手で衣服を脱ぎ捨て、剥き出しの素肌を汗ばませて跪いていたオルガマリーの姿。
それをマシュが見ていたこと、そして今夜、その光景をなぞるためにここへ来たことまで、すべてを暴き立てるような残酷な宣告。
背後から離れ、カツ、と今度はマシュの左側へと歩みを進めたアストルフォは、再び体を向け、反対側の頬すれすれまで顔を寄せた。
「マリーもね、最初は恥ずかしがってたけど、自分でぜんぶ脱いだんだよ」
足音と密着する吐息で四方を完全に包囲され、マシュは指先一つ動かせない。
そして最後の一歩を踏み出し、再びマシュの真正面に立ったアストルフォは、逃がさないようにその瞳をまっすぐに見据えた。
楽しそうに両手を広げ、小首を傾げて微笑む。
「マシュも、自分で脱げるよね? ……それとも、脱がせてほしい?」
甘い、二者択一。
どちらを選んでも、衣服を剥ぎ取られ、肌を晒す結末からは逃れられない。
けれど、「脱がせてほしい」と乞えば、また会議室のときのように自ら快楽をねだる言葉を吐かされることになる。
「…………っ」
マシュは耐え難い羞恥に唇を噛みしめ、震える指先を胸元のファスナーへと掛けた。
じっと見つめてくるアストルフォの、獲物を品定めするような眼差し。欲望渦巻くその視界の下で、マシュは自らの手で服を滑り落としていく。
一枚、また一枚と布地が床へ落ち、冷たい空気が露わになった肌を撫でる。
けれど、室内の妖しい熱と激しい羞恥のせいで、素肌は冷えるどころか瞬く間に鮮やかな桜色へと火照り、うっすらと艶めかしい汗を滲ませていた。
「わあ……すごいね、マシュ」
アストルフォが目を輝かせて小さく感嘆の息を漏らす。
「肌、すっごく白くて綺麗……それに、服の上からでも大きいなって思ってたけど、脱ぐと本当にすごいね」
「っ……ぁ、や……見ないで、ください……っ」
「やだ。ちゃんと見るよ。だって、こんなに柔らかそうで美味しそうなのに」
制服を脱ぎ捨て、下着だけの姿になったマシュの豊満な胸元。
薄いレースを押し上げるように主張する豊かな質量と、その中心で熱を帯びて硬く尖り始めた先端を、アストルフォの視線が舐め回すように射抜く。
からかいの言葉を浴びせられるたび、マシュの胸元は呼吸に合わせて大きく波打ち、乳房の柔らかな起伏が震える。
恥ずかしさに耐えかねて両腕で隠そうとするが、アストルフォの「隠したら見えないじゃん」という楽しげな声に、マシュの腕は弱々しく力を失い、完全に遮るものをなくしてしまった。
やがて、震える指先が最後の薄い布地を両脚から滑り落とす。
――さらり、と。
床へ落ちた下着。
マシュは完全に生まれたままの姿で、密室の薄暗がりの中に晒されていた。
かつて覗き見たオルガマリーと同じ、何の防壁も持たない、剥き出しの痴態。
太腿をきつく閉じ、赤く染まった顔を伏せて小刻みに震えるマシュを見届け、アストルフォは満足そうに口元を歪めた。
「えへへ、ぜんぶ脱げたね。えらいえらい」
拍手でもしそうな無邪気さで微笑んだあと、アストルフォは一歩踏み込んだ。
「じゃあ――ボクも脱がなきゃね」
「――――」
マシュの息が止まる。
アストルフォは軽やかな手つきで、自らの上衣に手を掛けた。
するりと布地が滑り落ちた瞬間、マシュの目は釘付けになった。
普段の可愛らしい言動や中性的な容姿からは想像もつかない、確かな「男」の身体。
細身でありながら、無駄な肉の一切ない引き締まった胴回り。
サーヴァントとして数々の戦場を駆けてきたことを物語るしなやかで強靭な筋肉の筋が、薄暗い照明を浴びて艶めかしく浮かび上がっている。
そして――アストルフォがためらいなく下衣を脱ぎ捨てた、その刹那。
「――――ッ!」
マシュの喉から、声にならない悲鳴が掠れるように喉の奥で洩れた。
かつて、あの夜に扉の隙間から覗き見た『それ』。
だが、間近で自分自身に向けられたそれは、記憶の残像よりも遥かに太く、重く、圧倒的な質量をもってマシュの視界を支配した。
青黒い血管を浮き上がらせて天を衝く獰猛な剛直。
中性的な美貌を裏切る、剥き出しの「雄」の象徴がそこにあった。
「…………っ」
息を呑んで立ち尽くすマシュを、アストルフォは爪先から首筋までねっとりと舐め回すように見つめた後、ふっと笑って踵を返した。
マシュに背を向け、部屋の奥にあるベッドへとゆっくり歩き出すアストルフォ。
思わず目で追った先に、歩み去る彼の引き締まった背中がまざまざと映し出される。
歩行に合わせて波打つ肩甲骨のしなやかなライン、無駄のない腰のくびれ、そして太腿の裏筋。
可憐な少年の皮を脱ぎ捨てた「一人の男」としての確かな肉体の躍動に、マシュの胸は早鐘を打つように激しく高鳴り、視線を逸らすことすらできなくなる。
ベッドに到達したアストルフォは、縁に腰を下ろし、すらりと伸びた細い両脚をマシュに向けて大きく開いてみせた。
振り返り、開かれた自らの股の間――シーツの隙間をポンポンと手のひらで軽く叩く。
「ここにおいでよ」
無邪気な、けれど逃れられない誘い。
ちょうど人が一人、背中を預けて座れるだけの空間。そこに腰を下ろせば、アストルフォの身体に完全に抱き込まれる形になってしまう。
「…………っ」
マシュの足が、その場でわずかにすくんだ。
素肌のままその腕の中へ自ら飛び込むことの決定的な重さに、胸の奥がきゅっと縮こまる。
そんな躊躇いを見透かすように、アストルフォはもう一度シーツをポンポンと叩き、首を傾げて笑ってみせた。
「ほらほら、早く。冷えちゃうよ?」
急かすようでいて、どこまでも甘く、断る余地を奪うような柔らかな声。
その促しに背中を押されるように、マシュは吸い寄せられるように足を踏み出した。
恐る恐る近づき、アストルフォの太腿の間に、背中を向ける形でゆっくりと腰を下ろす。
――ぺたり
「――っ、ぁ……!」
肌と肌が直接触れ合った瞬間、マシュの背筋を甘い電流が貫いた。
背中に触れるアストルフォの胸板の熱、太腿の外側にぴったりと密着する彼の引き締まった脚の感触。
布地という防壁を一切挟まない生身の体温が、容赦のない密度でマシュの皮膚へ染み渡っていく。
「えへへ、すっごく柔らかい」
背後から回り込んだアストルフォの唇が、マシュの耳元に触れるほどの間近へと寄せられた。
「ふぅ……っ」と吹き込まれる吐息が、逃げ場のない外耳道を直接撫で回すように奥深くまで注ぎ込まれる。
鼓膜を震わせる甘く掠れた響きに、まるで耳の奥から脳を直接犯されているような悪寒が走り、マシュの喉から「ひ……ぅ……っ」と熱い呼気が抜けていく。
アストルフォの両手は、まだ胸や秘所へと急ぐことはしなかった。
マシュの両肩へと置かれた手のひらが、すっと二の腕の外側を撫で下ろし、腕の内側をなぞりながら、胸元と腕の隙間――敏感な両腋の窪みへと滑り込む。
そのまま、両脇腹のくびれを辿り、お腹の上でぴたりと止まる。
そして、腰骨を包み込み、背骨の溝をゆっくりと押し撫でながら、再び最初の両肩へと戻っていった。
「っ……あ……っ、ぁ……ふぅ……っ」
(この、なぞり方……っ)
マシュの背筋を、甘く痺れるような悪寒がぞくりと貫く。
会議室で幾度も繰り返され、抵抗する意志を根こそぎ溶かされた、あの残酷な愛撫の軌道。
けれど――あの時とは、決定的な違いがあった。
布地という遮蔽物は、もう一枚たりとも存在しない。
直接肌を滑る掌のしっとりとした熱、指の腹が皮膚を撫で上げる生々しい質感。
何より、外側からぴたりと挟み込むように密着させられたアストルフォの引き締まった太腿の硬さと、マシュの腰のくびれからお尻の柔らかなふくらみへと、背後から隙間なく押し当てられている、充血し熱を帯びた雄の証の圧倒的な存在感。
遮る布の一切ない素肌越しに、生き物のように熱く張った剛直が、腰回りをじりじりと圧迫し、マシュの骨盤から下腹部の芯へとダイレクトに熱を注ぎ込んでくる。
服越しですら狂わされたあの軌道を、この圧倒的な質量に背後から捕らえられ、逃げ場のない素肌のままなぞられた瞬間――マシュの身体の奥底に沈殿していた記憶の残り火が一気に燃え上がり、皮膚の表面を灼けつくような温度へと跳ね上げた。
耳たぶを「んむ……」と甘く甘噛みされ、ちろり、ちゅぷ、と薄紅色の濡れた舌先で耳裏から輪郭を撫で上げられる。
「ねえ、覚えてるでしょ?」と囁かれる吐息と湿った唇の感触が、背後から押しつけられる硬い熱気とともにダイレクトに耳腔の奥深くに染み渡り、皮膚の内側を掻き乱すように痺れさせる。
二度、三度と、同じ軌道が繰り返される。
肩から、腋、脇腹、お腹、そして背中へ。
なぞられるたびに、皮膚の下の神経がパチパチと音を立てて目覚め、耳元から吹き込まれる熱気と、背中に触れ続ける剛直の熱と重なり合って、あの会議室で植え付けられた熱が鮮烈に蘇っていく。
お腹の上でじらすように静止されるたび、マシュの鼻腔からは「ん、く……ぅ……っ」と甘く掠れた呼気が洩れ、密着した素肌の隙間からじっとりと熱い汗が滲み出して、皮膚同士がぺちゃり、と吸い付くように音を立てた。
触れられていないはずの胸の先端や太腿の付け根が、先回りするようにじくじくと疼き、耐えきれないほどの渇望が身体の内側を満たしていく。
「思い出した?あの時よりもいいでしょ?」
耳の奥を震わせるように低く囁き、アストルフォが喉を鳴らす。
そして記憶をなぞるループを解いて――ようやく、待ち焦がれていた本命へとその手が動き出した。
お腹の上からゆっくりと這い上がった左右の手のひらが、マシュの張りのある豊満な乳房の下縁を、むにゅ、と掬い上げるように包み込んだ。
「ひゃ……っ、ぁ……んん……っ!」
極限まで高められていた皮膚感覚に、直接揉み解される刺激が直撃する。
指の腹で、柔らかな肉の弾力を確かめるように、ゆっくりと、円を描くように解していく。
強く握り潰すのではなく、肌の表面を滑らせ、脂肪の奥深くに潜む神経を優しく揺り起こすような愛撫。
手のひらから伝わる熱に蕩かされ、マシュの胸元は波打つように小さく跳ねた。
アストルフォはマシュの首筋に頬をすり寄せながら、器用な指先で中心の硬く尖った先端を、きゅっ、と摘み上げた。
指の腹でころころと転がし、軽く引っ張り、爪の先でかすかに弾く。
「あ、っ……ん、くぅ……っ! アストルフォ、さ……ん……っ、そこ、っ、ひゃぅ……っ!」
「すっごく尖ってきたよ、マシュ。気持ちいい?」
「きもち……っ、いい……です、っ……ぁ、んんっ……!」
十分に温められていた身体は、もはやわずかな刺激すら拒む術を知らない。
胸元を弄ぶ片手をそのままに、もう片方の手がマシュの熱を孕んだ太腿の隙間へと、するりと滑り込むように割り込んできた。
「――――っ、あ……っ、ぁ……!」
拒絶の言葉ではなく、待ち焦がれていた救済に触れたような、切迫した甘い吐息が零れ落ちる。
無意識のうちに太腿の力を抜き、招き入れるようにわずかに隙間を開いてしまうマシュ。
そっと添えられた温かい手のひらが、露わになった秘所を優しく包み込んだ。
指先が割れ目の窪みをそっとなぞるだけで、――くちゅ、ぴちゃ……と、粘着質な水音が静まり返った部屋に小さく弾けた。
溢れ出る愛液を指の腹で塗り広げながら、アストルフォは先端の最も敏感な突起を、親指の腹でじりじりと、けれど絶え間なく円を描いて擦り上げていく。
「あ……っ、ん、あぁっ……! そこ……っ、もっと……っ、ふ、ぁ……っ!」
激しい衝撃ではない。
じわじわと、甘く温かい波が下腹の奥底から全身へと広がっていくような、抗いようのない快楽。
背後から耳元を甘噛みされ、胸を優しく揉み解されながら、下腹部の一点を途切れることなく愛撫され続ける。
優しさに搦め捕られたマシュの身体からは完全に力が抜け、アストルフォの胸元へと全体重を預けて仰け反っていた。
「マシュ、かわいいよ……すっごく、いい匂いがする……」
「あ、っ……ぁ……もう……っ、わたし……っ、おかしく……っ、んくぅぅ……っ!」
甘い痺れが臨界点へと達する。
激痛のような激しさではなく、全身が蕩けて溶け落ちていくような、甘く深い絶頂の波。
「――っ、ぁ……っ、んんぅぅ――っっ!!」
マシュの喉から細く甘い悲鳴が零れ、太腿がびくびくと小さく跳ねた。
アストルフォの腕に抱かれたまま、身体の芯をきゅうっと引き絞るような愛らしい痙攣を繰り返し、マシュは最初の甘い絶頂へと呑み込まれていった。
*
「はぁ……っ、ぁ……ふ、ぅ……っ、は……っ」
甘い絶頂の波が引き、熱い呼気が小刻みにマシュの唇から零れ落ちる。
全身から完全に力が抜け、背後のアストルフォに預けた身体はぐったりと重く沈み込んでいた。
内側をきゅうっと引き絞る微かな痙攣が、太腿の付け根をまだ鈍く脈打たせている。
これで、少しは息をつけるはずだった。
けれど――。
「えへへ……かわいい」
耳元に落ちた甘い囁きとともに、マシュの秘所を包んでいたアストルフォの手は、止まるどころか、むしろ一段と滑らかに動きを再開させた。
――くちゅ、じゅるり……。
「――っ、ひゃぁっ……!? や、だ……っ!」
マシュの背筋が、強烈な電撃に打たれたように跳ね上がる。
絶頂を迎え、極限まで過敏に開ききった粘膜。
触れられるだけで痛いほどの快楽が走るその急所を、アストルフォの指先は逃がすことなく、愛液に浸された窪みの奥へと浅く沈め、先端の突起を親指の腹でちろちろと弾くように擦り上げ始めた。
「だ、め……っ! アストルフォ、さん……っ、もう……っ、やめ……っ、ひぅっ!」
「やめないよ? もっとマシュのかわいいところ、見たいからね」
胸元を揉み解す手も容赦がなかった。
火照りきった先端を強めに摘み上げ、ぐにゅ、と指先で転がされるたび、下腹部の中心を直接引っ張られるような鋭い痺れが走る。
休む暇を与えられない。
敏感になりすぎた神経へ、剥き出しの快楽が波状攻撃のように叩き込まれる。
「あ、っ……ひぅ……っ、や、だ……っ、くちゅ、て……そんな音、立てない、で……っ! また……っ、すぐ、にぃ……っ!」
「いいよ、マシュ。我慢しないで、何回でもイきなよ」
背後から首筋を甘噛みされ、耳の奥へ直接吹き込まれる蕩けた声。
抗う力など最初から残されていなかった。
一度目の絶頂の余熱に油を注がれるように、下腹部の奥底で新たな快楽の濁流が一気に膨れ上がり、堤防を粉々に決壊させる。
「――っ、ぁ……っ、ん、ああぁぁ――っっ!!」
嬌声が喉を突き抜け、マシュの全身がひときわ大きく跳ねて硬直した。
二度目の、そして最初よりも遥かに深く激しい絶頂。
身体の芯からとめどない分泌液を溢れさせながら、マシュの視界は真っ白に弾け飛んだ。
*
「…………っ、は……ぁ……っ、ふぅ……」
二度の絶頂に脳の芯まで焼き尽くされ、マシュの身体からは完全に骨が抜けてしまっていた。
アストルフォの腕がふっと緩められた瞬間、体重を支えきれなくなったマシュの身体は、シーツの上を滑るようにして――。
――ずるり、と。
ベッドの縁から床へと、力なく崩れ落ちた。
「っ……あ……」
冷たい床に、両膝と両手をつく。
四つん這いに近い、無防備でみっともない姿勢。
荒い呼吸を繰り返し、肩を激しく上下させながら、マシュは床の冷たさでわずかに正気を取り戻しかけた。
けれど、顔を上げようとした瞬間――。
(あ…………っ)
頭の中を、冷徹なまでの既視感が貫いた。
ベッドの端に腰掛け、脚を開いて見下ろしてくる、アストルフォ。
そして、その足元の冷たい床に両膝をつき、服を脱ぎ捨てて荒い息を吐きながら跪いている、自分自身。
――かつて、扉の隙間から覗き見た、あの光景。
あの夜、オルガマリーが、すべてを奪われ、痴態を晒して跪いていた、まさにその場所。
いま、自分自身が寸分狂わぬ同じ姿勢で、一サーヴァントの足元にへたり込んでいるという決定的な現実。
見下ろしてくるアストルフォの紫色の瞳が、薄暗闇の中で悦楽に細められた。
「えへへ」
あの夜と同じ、甘く残酷な笑み。
「マシュも、マリーとおんなじ格好になっちゃったね」
「――――っ」
見下ろすアストルフォの声に導かれるように、マシュはゆっくりと顔を上げた。
一瞬、何が目の前にあるかわからなかった。鼻先が触れそうなほどの至近距離に『それ』が迫っていた。
ベッドの縁から突き出された、剥き出しの獰猛な熱の塊。
太く張り詰めた表面には青黒い血管が浮き上がり、先端の割れ目からは透明な先走りの雫を滲ませながら、命を吹き込まれたように拍動し、微かに上下へぴくぴくと跳ねている。
熱気とともに立ち上る濃厚な雄の匂いが、マシュの鼻腔を容赦なく満たした。
息を呑み、金縛りに遭ったように視線が縫い止められる。
オルガマリーが口いっぱいに咥え込まされていた、そのもの。
そんなマシュの乱れる呼気と、逃げられない眼差しを見届け、アストルフォは楽しそうに目を細めた。
片手を小さく揺れる薄紫色の髪へとそっと伸ばし、指先を滑り込ませて愛おしそうに梳きながら、甘い声を落とす。
「今度は――マシュの番だよ」
「――――ッ!」
言外に下された、絶対的な命令。
何をしろと言われているのか、分からないはずがなかった。
(わたしが……これを……口で……っ)
頭のどこかで、倫理が最後の悲鳴を上げる。
けれど、二度の絶頂でドロドロに溶かされた頭蓋と、身体の芯で燻り続ける飢餓感は、もはや拒絶の選択肢を失っていた。
何より――あの夜からずっと、無意識の奥底で知りたがっていたのだ。
オルガマリーがあれほどプライドを捨てて貪り尽くし、喉を鳴らして飲み干していたものの味を。
「……っ、ふ……ぅ……」
熱に浮かされたように、マシュの唇が微かに開く。
アストルフォに頭を優しく撫でられる感触に背中を押されるようにして、マシュは引き寄せられるように顔を寄せた。
逃げ場のない熱気の中、震える薄紅色の舌先が、ちろりと小さく覗く。
そして――。
――じゅる、ちろ……。
先端の窪みへと、マシュは自らの舌を、そっと這わせた。
「――っ、ぁ……」
舌先に触れた、熱く、わずかに塩気を含んだ生々しい味。
マシュは怯えと躊躇いを抱えながらも、拙い手つきと舌先で、熱く張った雄の輪郭を確かめるように舐め上げていった。
根元の引き締まった皮膚から、浮き出た血管の筋をなぞるように、下から上へとゆっくりと舌を這わせていく。
じゅるり、と湿った熱を絡め取りながら押し上げ、傘の裏側の敏感な筋をちろりと撫で上げる。
そして、先端の割れ目から滲む透明な雫を、掬い取るように舌の上へと広げた。
経験のない拙い奉仕。
けれど、舌を滑らせるたびに鼻腔を突く濃厚な匂いと、口内を満たしていく未知の味が、マシュの理性を内側からじわじわと麻痺させていく。
(……怒られて、ない……?)
ふと、不安と羞恥に駆られて、マシュは上目遣いに視線をわずかに持ち上げた。
薄暗がりの中。
アストルフォは、マシュの頭に手を置いたまま、どこまでも優しく、愛おしそうに目を細めて微笑んでいた。
からかうような意地悪さではない。
マシュの拙い奉仕を、その背徳的な献身のすべてを、まるごと肯定して包み込むような温かな笑み。
「――――!」
その微笑みを目にした瞬間、マシュの胸の奥底で、ドクンと甘い衝撃が跳ねた。
受け入れられている。
この人は、私のこのみっともない痴態を、喜んで受け止めてくれているのだと。
認められたという強烈な多幸感と、自ら求めてしまっている背徳の興奮が全身をめぐり、下腹の奥がきゅうっと切なく締め付けられる。
もっと喜んでほしい。
この人のもっと深いところまで、自分の口で味わい尽くしたい――。
熱に浮かされたマシュは、もはや躊躇うことなく、その小さな唇を大きく押し開いた。
――ぬちゅ、じゅるっ……。
熱く湿った口内へ、反り立つ太い先端を、自らの意志で深く咥え込む。
柔らかな唇が肉を包み込み、温かな口腔の粘膜と舌全体で、侵入してきた熱塊を逃がさないようにぎゅうっと吸い上げた。
その瞬間――。
「…………っ、ん」
頭の上から、微かに鼻にかかった、短く熱い呼気が零れ落ちた。
「――――!」
マシュの背筋を、鮮烈な歓喜が貫く。
あの常に余裕たっぷりで、誰をも手のひらで転がすように笑っていたアストルフォが。
初めて、マシュの与えた快感に耐えかねたように、微かに息を漏らし、腰を小さく強張らせたのだ。
その反応を敏感に感じ取った瞬間、マシュの口内からはさらに熱い唾液が溢れ出し、すがるようにアストルフォの細く引き締まった太腿へと両手を添えながら、より深く、貪るようにその熱を吸い上げ始めていた。
――じゅる、ちゅるっ、じゅぽ……ずる、ぬちゅ……!
静まり返った部屋の底に、マシュの小さな口腔が肉壁を擦り上げる湿った水音が響き渡る。
咥えきれないほどの太さに唇を限界まで押し広げられ、口角からは溢れ出た唾液と先走りの混ざり合った粘着質な雫が、糸を引いて冷たい床へとぽたぽたと滴り落ちていく。
アストルフォの引き締まった太腿にしがみつきながら、夢中で舌を絡め合わせるマシュ。
「んむ、ちゅ……っ、じゅるる……」と無我夢中で吸い上げるその頭の上から、徐々に熱を帯び、荒く濁っていくアストルフォの呼気がダイレクトに降り注いでいた。
アストルフォは口元に余裕めいた笑みを浮かべ、マシュの頭を優しく撫で続けている。
だが、その表情とは裏腹に、マシュの口内で熱を帯びる剛直は限界まで硬度を増し、青黒い血管を浮き彫りにして熱く張り詰めていた。
マシュの舌が敏感な裏筋を這い上がるたび、アストルフォの細い腰が無意識にびくりと跳ね、膝の筋肉がギュッと引き絞られる。
「っ……あ……マシュ、上手……っ」
喉の奥から掠れた声が漏れ、アストルフォの指先が無意識にマシュの髪をぎゅっと強く握り込む。
その反応が、マシュの背筋を甘く痺れさせた。
アストルフォの指先に籠もる強さ、掠れた吐息、そして口の中で跳ね上がる太い熱。
自分の舌先一つでこの人が乱れているという生々しい手応えが、マシュの内側の情欲に油を注ぐ。
もっと、もっとこの人を蕩けさせたい――。
「――んっ、んぐぅぅ……っ、じゅるるるっ……!」
熱に浮かされたマシュは、さらに深く、喉奥の粘膜までを使って肉塊を迎え入れ、舌全体で敏感な傘の裏をぎゅうっと強く搾り上げるように激しく吸い立てた。
互いの熱と息遣いが混ざり合い、二人の興奮が加速度的に跳ね上がっていく。
やがて――。
「っ……ぁ、く……っ、マシュ……っ、ふ、ぅ……っ、もう……いくよ……っ!」
快楽に耐えかねた甘く掠れた喘ぎが、アストルフォの唇から漏れ落ちた。
あの夜、オルガマリーの頭を引き寄せたときとまったく同じように、アストルフォの細い指先がマシュの後頭部をぐっと掴み、自らの股間へと深く押し当てた。
「――――っ!?」
逃げ場を完全に塞がれたその瞬間。
――どくっ、どぷっ、どく、どぷ……っ!!
マシュの舌の上、喉の奥深くを直接打ち据えるように、熱い奔流が一気に爆発した。
これまでに経験したことのない、圧倒的な熱量と強烈な雄の匂い。
次から次へと勢いよく放たれる濃密な塊が口腔内を瞬く間に満たし、溢れんばかりの質量となってマシュの喉元を侵食する。
「……んむぅ……っ! ん、く……っ、ふぅ……っ! じゅ……っ!」
あまりの熱さと独特の苦味、そして息の詰まる圧迫感に、本能的な拒絶反応で思わず吐き出しそうになる。
けれど――。
(出したら……だめ……っ!)
頭を優しく抱え込むアストルフォの体温。
ここで吐き出してしまえば、せっかく手に入れたこの人との繋がりが消えてしまうような焦燥感。
マシュは目をきつく閉じ、喉の奥の痙攣を必死にねじ伏せるようにして――。
――ごくり。
喉を大きく上下させ、その熱い奔流を、胃の腑へと力強く飲み下した。
一度では収まらず、続けて、もう一度。
――こく、と。
口腔を満たしていたすべてを飲み干し、射精を終えたアストルフォの指先からふっと力が抜ける。
頭を抑え込まれていた圧迫感と、口内を埋め尽くしていた太い熱からようやく解放されたマシュは、息を整えながら、ゆっくりと顔を上げた。
上気した頬、涙で潤んだ瞳。
そして、自分から促すように、小さく唇を押し開いてみせた。
「…………ぁ……」
薄紅色の舌を少しだけ突き出し、綺麗に空になった口内を、見上げるようにアストルフォへと晒す。
唇の端には、飲みきれずに零れた一筋の白い雫が艶めかしく光っていた。
そのマシュの姿を見下ろしたアストルフォは、驚いたように目を丸くしたあと――これ以上ないほど甘く、蕩けた笑顔を浮かべた。
「……すごいね、マシュ」
アストルフォはマシュの濡れた唇の端を親指の腹でそっと拭い、自らの舌先でちろりと舐め取りながら、耳元へと甘い賞賛を落とした。
「マリーでも、初めてのときは吐き出しちゃったのに。……マシュは、ぜんぶ飲めちゃうんだ」
「――――ッ!!」
頭の芯を、激しい痺れが突き抜けた。
オルガマリーができなかったことを、自分はやり遂げたのだという背徳的な優越感。
比べられ、特別な存在として褒められたという強烈な多幸感が、マシュの全身を甘く麻痺させていく。
恥ずかしいはずなのに、下腹の奥底からは今まで以上に熱く重い分泌液が止めどなく溢れ出し、身体中がさらなる快楽を求めて疼き狂っていた。
「えらいね、マシュ……すっごくいい子だ」
アストルフォの優しい声とともに、床にへたり込んでいたマシュの両脇へ、しなやかな腕が差し入れられた。
ふわりと身体が浮き上がる。
膝の力が抜けて立つことすらままならないマシュの身体は、抱き上げられるようにして、そのまま柔らかなベッドの中央へと引き上げられた。
*
シーツの柔らかな沈み込みに包まれ、マシュの全身から完全に力が抜けていく。
二度の絶頂と、床での濃密な口内奉仕。すべてを出し切った身体は鉛のように重く、指先一本すら自力で持ち上げることができそうもない。
汗ばんだ素肌が冷たい空気に晒されて微かに震えるなか、ベッドの上へと上がってきたアストルフォが、マシュの足元に膝をついた。
――ぎし、とベッドのスプリングがきしむ。
アストルフォはマシュの汗ばんだ太腿の内側へと両手を伸ばし、脱力して閉じきらない両脚を、ゆっくりと、けれど有無を言わさぬ力強さで左右へ押し開いていった。
「きゃ……っ」
完全に無防備に晒された秘所。
その開かれた両脚の隙間へと、アストルフォは膝立ちのまま自らの腰を深く割り込ませていく。
骨盤同士がごつりと触れ合うほどの密着感。
そして――マシュの太腿の付け根と湿り気を含んだ割れ目に、先ほど飲み干したばかりのはずの『それ』が、じっとりと熱い重みをもって押し当てられた。
(うそ……っ、もう、こんなに……っ)
射精を終えた直後だというのに、萎える気配など微塵もない。
むしろ、マシュの唾液と吐息に濡れたそれは、口内で暴れていたときよりも一段と熱く、青黒い血管を浮き彫りにして熱気を放ちながら、マシュの秘所の入り口をじりじりと擦り上げていた。
下半身の逃げ場を完全に奪われたマシュの上へ、アストルフォはゆっくりと上体を倒し、頭の両脇に手をついて真上から覆いかぶさってきた。
視界のすべてがアストルフォの影で塗り潰される。
真上から射抜いてくる紫色の瞳には、すべてを手中に収めた抑えようのない喜悦が濡れていた。
至近距離から直撃する剥き出しの獰猛な質量と、覆いかぶさる影の重圧。
マシュの胸の奥底で、狂おしいほどの期待と情欲、そして――ほんのわずかな本能的な恐怖がせめぎ合う。
これを、服の遮蔽も何もなく、自分の身体のいちばん奥深くまで受け入れるのだ。
貫かれてしまったら、二度と「マシュ・キリエライト」としては戻れなくなるという、底なしの暗闇を覗き込むような戦慄。
けれど、下腹部の奥はそんな恐怖を置き去りにするように、じくじくと甘く疼き、熱い雫を際限なく溢れ出させていた。
そんなマシュの怯えと昂ぶりを、アストルフォは見透かしていた。
さらに上体を低く沈め、濡れた唇でマシュの耳たぶをちろりと舐め上げながら、甘く掠れた声を落とす。
「ねえ、マシュ」
「…………っ、は……ぃ……っ」
「ここから先、ボクがマシュに何をするか……もう、ぜんぶ分かってるよね?」
逃げ道を塞ぐ、わかりきった確認作業。
答えを知り尽くしているくせに、あえてマシュ自身の口から言わせようとする残酷な誘導。
耳元に吹き込まれる熱い吐息と、秘所の割れ目をじゅぷ、じゅぷ……と弄ぶように擦りつけられる剛直の熱が、マシュの思考をドロドロに溶かしていく。
「……っ、わ……わたし、を……っ」
「うん、マシュを?」
「アストルフォ、さんの……っ、それで……っ、つらぬく、の……ですよね……っ?」
羞恥に頬を真っ赤に染め上げながら、掠れた声で白状するマシュ。
自ら快楽をねだるようなその言葉を聞き届けた瞬間、アストルフォの唇がこれ以上ないほど凶悪に歪んだ。
「そうだよ。マリーと同じように、マシュのここも、ボクのでぜーんぶめちゃくちゃにしてあげる」
アストルフォの手が下へと伸び、濡れそぼる秘所の割れ目をぐっと左右に押し広げる。
そして、熱く反り立つ先端を、潤みきったマシュの膣口へとあてがった。
――くちゅり。
湿った結合部から、淫らな水音が部屋の静寂に小さく弾けた。
溢れ出た雫と先走りが混ざり合い、ぬちゅ、と粘つく小さな音を立てた。
「…………っ、ぁ……」
マシュの喉から、切迫した熱い呼気が漏れる。
押し当てられている先端から伝わるのは、圧倒的な熱量と、芯まで固く焼き締められた存在感。
布地越しでも、口内でも味わったその凶暴な質量が、いま、自らのもっとも無防備な急所の入り口を押し広げようとしている。
ベッドのシーツを両手で強く握りしめ、マシュの全身が強張る。
拒絶したいわけではない。むしろ、身体の芯は狂おしいほどにその侵入を待ち望んでいる。
それなのに、未知の質量を受け入れる恐怖が、太腿の内側の筋肉を硬直させていた。
「マシュ」
真上から、アストルフォの柔らかな声が落ちてくる。
紫色の瞳をわずかに細め、困ったふりをしながらも、その口元には隠しようもない余裕の笑みが浮かんでいた。
「力、抜いて? ……そんなにギュッてしてたら、入らないよ?」
「……っ、ぁ……アストルフォ、さん……っ、わたし……」
「大丈夫、痛くしないから。……ね?」
アストルフォはマシュの額に張りついた薄紫色の前髪を優しく払うと、ちゅっ、と額へ愛撫のような軽い口づけを落とした。
マシュがその甘さに息を呑んだ、その隙を突くように――。
――じゅちゅ……、みち、みちり……。
「――っひ、ぁ……っ!?」
鋭い摩擦熱とともに、先端の膨らみが、狭い入り口の抵抗をものともせず滑らかに割り込んできた。
引き裂かれるような圧迫感。
マシュの背筋がびくりと跳ね上がり、喉の奥で息が詰まる。
「あは……っ、すごい……すっごく吸い付いてくる」
言葉の端を一瞬だけ熱く掠れさせながらも、アストルフォは満足げに目を細めた。
抵抗するように狭まるマシュの肉壁の締め付けを、心地よい締め具のように受け止めながら、空いた手でマシュの強張る太腿の内側を優しく撫でさすり、力を抜かせていく。
そして、一定の滑らかな重みで自らの熱を沈め込んでいく。
――ぬちゅ、ずぶ、ずぶぶ……っ。
「あっ、く……ぅ……っ、や……っ、ふ、ぁ……っ! まだ……っ、こんな……っ!」
「まだ半分だよ? ……ほら、マシュからも迎えに来てよ」
耳元にちろりと舌先を這わされ、意地悪く囁かれる。
アストルフォが腰をわずかに揺らすたび、肉壁が押し広げられ、内側の襞が一本残らず彼の剛直に巻き付き、吸い付いていくのが分かってしまう。
痛覚に近い強烈な圧迫感。けれどそのすぐ裏側から、全身の神経を痺れさせるような濃密な快楽が、じわじわと湧き上がってくる。
(あ……っ、これ……っ)
マシュの脳裏に、あの夜の光景が暴力的な鮮明さでフラッシュバックした。
薄暗い部屋で、自ら跨がり、言葉を失って顎を反らせていたオルガマリーの姿。
あのとき所長の胎内を押し広げていたものと、まったく同じ熱、同じ太さ、同じ硬さ。
(あの人も……こんな……こんな熱いもので、貫かれて……っ)
覗き見るだけだったはずの「あの光景」の真ん中に、いま自分自身が立たされている。
所長が奪われ、啼かされていたものの正体を、自分自身の肉体で余すところなく味わわされているという絶対的な現実。
その背徳の深さに頭が真っ白に染まりかけるなか、アストルフォは満足げに目を細め、最後のひと押しをぐっと滑り込ませた。
――ずちゅり、ごちゅっ……!
「――っ、ぁ……あぁぁ――っっ!!」
子宮口の硬い手応えに、先端が真正面からぶつかり、深くめり込んだ。
最深部を打ち据えられた衝撃に、マシュの全身が総毛だつ。
根元まで。
余すところなく、完全に呑み込まれた。
互いの恥骨が隙間なく打ち合わさり、結合部から逃げ場を失った愛液が、こぽり、と零れ落ちる。
「…………っ、ふ……」
その瞬間、アストルフォの整った眉がわずかに寄った。
マシュの腰骨を掴む指先にぐっと力が籠もり、内壁から容赦なく吸い付いてくる熱い締め付けに、喉の奥で小さく息を詰まらせる。
快感を噛み殺すように、ほんの数秒だけ腰の動きを静止させ――やがて、小さく熱い呼気を吐き出して、いつもの軽やかな笑みを浮かべた。
*
「……えへへ。ぜんぶ、入っちゃった」
わずかに声の端を濁らせながらも、アストルフォは細めた眼差しでじっとマシュの顔を見下ろしてくる。
最深部を完全に支配された圧迫感に、マシュは荒い息を吐きながら、涙で滲む瞳でアストルフォを見上げるしかなかった。
「っ……あ……っ、アストルフォ、さ……っ、これ……っ、ふ……ぁ……っ」
言葉にすらならなかった。
ただ身の内を埋め尽くす圧倒的な太さと熱に押し広げられ、マシュはシーツを握りしめ、浅く熱い息を漏らすことしかできない。
下腹部を直接持ち上げられるような質量に、喉の奥で息が詰まり声が途切れてしまう。
そんなマシュの、余裕を完全に奪われた顔を――アストルフォは至近距離から見つめ据えていた。
口元には柔らかい笑みを浮かべながらも、その双眸の奥には、濁るほどに煮詰められた情欲と、手中に収めた獲物を味わい尽くす支配の熱が昏く揺らめいている。
苦しげに息を呑み、赤く上気して震えるマシュの表情を、舐め回すように見つめていた。
「大丈夫、痛くないよ。……息を吐いて? ほら、ボクに合わせて、ふーって……そう、上手」
耳朶をくすぐるように低く囁きながら、アストルフォはマシュの額に張りついた前髪を払い、汗ばんだ素肌にちゅっと軽い口づけを落とした。
その労わるような優しい響きに、マシュの強張っていた胸元から、すっと力が抜ける。
言われるがまま、縋るように唇を微かに開き――。
「……ふ、ぅ…………っ……」
熱い呼気を、吐き出した。
肺腑の空気が抜け落ち、下腹部の強張りまでもが無防備に弛緩した瞬間――アストルフォは腰骨を捉える両手にじわりと重みを乗せ、ゆっくりと腰を後退させた。
――ずるるっ……。
「――っ、ぁ……ふ、くぅ……っ!?」
肺から息を吐ききった無防備な隙間に、引き抜かれる太い熱が内側を激しく擦り上げていく。
吐息と一緒に、内臓も、身の内の芯さえもすべて外へと引きずり出されてしまうような強烈な錯覚。
抗う術もなく身体の奥底をごっそりと掻き出される感覚に、マシュの背筋がぞくりと粟立った。
緩んだばかりの肉襞を擦り剥くように、剛直がずるりと引かれていく。
過敏に充血した襞のひとつひとつが、張った表面に浮き出た血管の起伏に吸い付くように絡みつき、引きずり出されそうな鋭い摩擦に爪先が跳ね上がる。
先端の張り出した傘が、狭まった入り口の手前を内側からぐっと引っかけ、引き絞るように擦り上げていく瞬間――。
最も太い起伏が、狭く濡れそぼる膣口の縁を内側から押し広げ、ほとんど抜け落ちてしまいそうな極限の際まで引き抜かれた。
「……っ、や……ぁ……っ」
ぽっかりと空洞を残されそうな圧倒的な喪失感に、マシュは無意識のうちにシーツを指先で掻きむしり、逃げていく熱を零すまいと腰をわずかに浮かせてすがりついてしまう。
「あは、腰動いちゃってるよ?」
耳元に落ちた、艶めいた笑みを含んだ声。
自らの肉体が晒した無意識の反応を暴かれ、マシュの頬が一気に血の気と熱気で灼かれ、抗議の言葉を吐き出そうとしたその隙を突くようにして。
――みち、ずぶぶ……ごちゅりっ!
「――っ、う、ぐ……っ、あ……ぁっ!?」
抜け落ちる寸前で留められていた熱が、逃げ道を塞ぐような重みを伴って、再び奥処へと一気に滑り込まされた。
引き抜かれかけたことで外へと引っ張られていた内壁ごと、力任せに奥へと押し戻され、裏返るように巻き込まれていく。
後退によって狭まり密着していた内側を、先端の固い頭部が押し分け、左右へと強引に掻き分けていく感触。
幾重にも折り重なっていた粘膜を力強く剥ぎ取り、濡れそぼる迷路を押し広げながら、奥へ、さらに奥へと割り込んでくる。
最初の一撃で境界を解かれた肉壁は、もう異物を拒むだけの硬さを保てなくなっていた。分泌液を際限なく滲ませながら、柔らかく蕩けた襞が、割り込んでくる筋や起伏を逃すまいと貪欲に吸い付いて離さない。
引き伸ばされた膣壁が、侵入してくる熱塊の太さ、張り出した血管の筋、頭部のくびれに至るまでを隙間なく写し取り、内側の形そのものをアストルフォの剛直へと作り替えられ、覚え込まされていく。
「――っ、ふ……ぁ……っ、あつ、い……っ、こんな……っ、あ……っ、ふぅ……っ」
己の肉体がその熱に屈服し、馴染まされていく圧倒的な圧迫感と、擦れ合う粘膜から迸る甘い電流に、マシュの喉からは形にならない嬌声が途切れ途切れに溢れ出た。
そして――。
最奥で子宮口を押し込まれた鈍い余韻を残したまま、アストルフォはもう腰を止めようとはしなかった。
「……ん、ふ……っ」
アストルフォの唇から、低く熱い呼気が漏れる。
引き抜き、沈める往復の間隔が、ひと呼吸ごとに短く、密度を増していく。
最初は肉の伸縮を確かめるようだったストロークが、徐々に鋭く、力強い推進力を帯びて襞を掻き分けていく。
――ぬちり、じゅぷ、ずずっ……!
「あ、っ……そ、こ……だ、めぇ……っ! アストルフォ、さ……っ、はや、い……っ」
「マシュのなか、すっごく熱いよ……。動かすたびに、どんどん吸い付いてくる」
アストルフォはマシュの腰骨を掴んでいた両手にぐっと重みを乗せ、逃げ場を塞ぐように自らの骨盤を打ち当て始めた。
浅く引いては、子宮の入り口を抉るように深く打ち据える。
短く刻まれる鋭い衝撃が下腹部の芯を絶え間なく揺らし、マシュの喉からは、もはや言葉にならない甘い吐息が途切れることなく溢れ出していく。
――ぎし、ぎし、と軋むベッドの骨組み。
――ばち、じゅぷ、ぬちり……と、汗ばんだ下腹部同士が打ち合わされ、泡立った飛沫が隙間から弾け飛ぶ摩擦音。
結合部から立ち上る生々しい熱気が、二人の素肌の隙間に閉じ込められ、逃げ場のない濃密な湿度となって肌を包み込んでいく。
アストルフォの額や鎖骨にも玉のような汗が滲み、荒い呼吸とともに引き締まった胸板が上下していた。
マシュの内壁が締め上げてくる熱さに自身も息を乱しながらも、細められた眼差しはマシュの表情を逃がさない。
「マシュ、声……すっごく可愛いよ」
耳元に注ぎ込まれる熱い息混じりの声とともに、アストルフォの腰の動きがさらに一段、速度を跳ね上げた。
深く打ち据えられるたびに、マシュの豊かな胸が大きく波打ち、先端の硬い突起が擦れ合う。
「ひゃぅ、っ……あ、ぁぁっ……! もう……っ、だめ……っ、きちゃう……っ!」
快楽の過負荷に耐えかねたマシュは、首筋を震わせて小さく顎を持ち上げた。
熱狂に霞む視界の先、至近距離で見下ろしてくるアストルフォの、濡れた薄紅の唇が瞳に飛び込んでくる。
荒い呼気とともに開閉し、甘い吐息を零すその唇を見つめた瞬間――すでに情欲へと塗り替えられていたマシュの身の内に、抗いようのない衝動が突き上げていた。
恥じらいも理性の防壁も、とうに快感の濁流に押し流されている。
ただ目の前の熱を貪りたいという本能のまま、熱で紅潮しきった唇を微かに開き、すがるように舌先を覗かせた。
「……ん……っ、アストルフォ、さ……っ、口……っ、キス……して……っ」
身体を貫かれたまま、自ら口づけをねだる熱を孕んだ懇願。
その乱れきった姿を見下ろし、アストルフォは楽しげに目を細めた。
「ほんとにマシュはかわいいなあ」
支配欲に顔を歪ませたアストルフォは上体を沈めると、健気に待ち焦がれていたマシュの唇を遠慮なく貪った。
「……んむぅ……っ! ん、く……っ、ふ……ぁ……っ、ちゅ、じゅる……っ」
塞がれた唇の隙間から、押し殺した熱い吐息と水音が漏れる。
下から突き上げられるピストンの衝撃と同時に、濡れた舌先が口内へと滑り込んできた。
逃げ場のない口腔の奥深くまで割り込まれ、ぬめりを帯びた舌同士が擦れ合って熱い唾液を分かち合う。
「……んむ、ちゅ……っ! アス……ん、くぅ……っ、あっ、そ……こ……っ、んちゅ、ふ、ぁ……っ」
膣内に甘美な快楽を塗りたくられながら、同時に口の中までも余すところなく熱で満たされていく。
シーツを握りしめていたマシュの指先から力が抜け、熱に浮かされたようにその両腕が持ち上がった。
汗ばんだアストルフォの首筋へと震える腕を回し、逃がすまいとするように囲いをつくる。
互いの唇をさらに強く押し重ね、上下から完全にその質量で貫かれながら、マシュの喉からは「ん、くぅ……っ!」と熱い呼気が漏れていた。
首を抱き寄せただけでは、もう身の内の熱情を抑えきれない。
芯を突き上げられる衝撃に身を任せるだけでは足りない。
マシュは踵をシーツへ強く押し当てると、震える腰を跳ね上げるようにして、迎え入れるように腰を浮かせた。
――じゅる、ぐちゅ、ずぶりっ……!
「……んむ、んぅぅ……っ! ちゅる、んんっ……!」
押し込まれる剛直を、さらに奥へと貪るように自ら腰を擦り上げる。
アストルフォの動きに合わせて引き、突き出される熱を迎え入れるたび、子宮の入り口を激しく擦り潰すような強烈な摩擦が奔った。
ただ急所を抉られる痺れが欲しくて、マシュは我を忘れて腰を揺すり、自ら結合の深さを貪っていく。
「……っ、ふ……マシュ……っ、じぶんから……っ」
塞がれた唇の隙間から、アストルフォの吐息が漏れる。
その余裕の揺らぎさえも、今のマシュには届かない。
内壁が熱狂のままに痙攣し、侵入している肉塊を締め上げながら、下から激しく腰を打ち当てていく。
――ばちっ、じゅぷぷ、ぐちゅり……!
肉と肉がぶつかり合う生々しい衝突音が、切迫した乱打となって室内に響き渡る。
内側を削り取られるような快楽が限界を超えて積み重なり、下腹部の奥底が引き絞られていく。
「ん、むぅぅ……っ! ん……っ、あ……っ、んーーーっ……!!」
塞がれた口の奥で、甲高い声が熱い吐息となって弾けた。
激しく跳ね上がったマシュの背が強張って硬直し、内壁の襞が一斉に波打って、アストルフォの剛直を締め壊さんばかりに吸い付いて痙攣する。
自ら腰を動かして手に入れた絶頂。
マシュの全身が激しい震えに支配され、結合部からは堰を切ったように熱い愛欲が溢れ出していった。
*
激しく波打っていたマシュの背から力が抜け、シーツへと沈み込む。
塞がれていた唇が解かれ、奪われ尽くした口腔から、熱く乱れた呼気が濁流のように零れ落ちた。
「……は、ぁ……っ、ふ……っ、ぁ……」
熱に浮かされ、焦げつくような呼吸を繰り返しながら、マシュの濁った瞳が天井を仰ぐ。
自ら腰を跳ね上げ、恥も外聞もなく呑み込まれてしまった絶頂。
その痺れと激しい脱力感に全身を浸されながらも――マシュの下腹部は、ある異様な感触を捉えていた。
抜けていない。
それどころか、自らの膣腔の最深部を、鋼のように硬い熱塊が、なおも容赦のない太さで押し広げたままでいる。
内壁の収縮を力任せに押し返すように、力強く波打ち、激しい熱量を放ち続けている肉塊。
――まだ、終わっていない。
自分だけが先に高みへと放り出されただけで、内側を貫く相手の熱は何ひとつ解放されていないという冷徹な事実。
先ほど喉の奥を塞いだあの膨大な熱は、まだ一度も爆発を迎えていないのだ。
「……あっ、すと、るふぉ……さ……ん……?」
困惑に揺れる瞳で、のしかかる影を見上げた。
アストルフォはマシュの腰骨を掴んだまま、静かにその表情を見下ろしていた。
荒い呼気を漏らしながらも、双眸の奥には、濁った情欲と溢れ出る愉悦が揺らめいている。
唇の端を吊り上げ、アストルフォは唐突に、まるで他愛のない世間話でもするかのように問いかけた。
「ねえ、マシュ」
耳元に落ちる、軽やかで残酷な囁き。
「マリーとボクは違うけどさ……マシュとボクだと、どうなのかな?」
「……え……?」
一瞬、意味を理解できずにマシュの思考が白く凍りつく。
普通の人間であるオルガマリーと、サーヴァントであるアストルフォ。
そして、デミ・サーヴァントである、自分――。
「人間とサーヴァントの間じゃ、何も残らないよね。……でもさ、サーヴァントの身体を持ったマシュのなかに、ボクが注ぎ込んだら……どうなると思う?」
「――っ、ぁ……」
突きつけられた言葉の意味が、じわりと熱い電流のように脳髄へ染み渡っていく。
人間とサーヴァントではありえない、サーヴァント同士の結合の先。
胎の奥に刻まれ、取り返しのつかない何かが芽吹くかもしれないという、かすかな戦慄。
けれど――すでに限界まで蕩かされ、犯し抜かれたマシュの身体は、その恐怖すらも背徳の悦楽として貪欲に呑み込んでいた。
拒絶の叫びは喉の奥で溶け落ち、代わりに湧き上がったのは、この男にすべてを奪われ、染め上げられたいという抗いようのない服従願望。
アストルフォはマシュの頬を指先でなぞりながら、試すように甘く囁きを重ねた。
「マシュは、どうしたい?」
選ばせる問いかけ。
言葉で答えられるはずもなかった。
けれどマシュの身体は、意識よりも遥かに正直に、その答えを知っていた。
汗の馴染んだ素肌がシーツを擦る音を立てて、マシュの両脚がせり上がる。
持ち上げられたしなやかな太ももが、アストルフォの腰を逃すまいとするように、きつく絡みついた。
内壁がきゅうと締めつけ、奥処で脈打つ昂ぶりを貪欲に抱きしめ直す。
言葉以上の肯定。
自ら種を受け入れることを決めたその肉体の反応を確かめながらも、アストルフォはすぐに動こうとはせず、昏い光を宿した瞳でマシュを見下ろし続けた。
獲物に、自らの口で逃げ道を塞がせるための、最後の念押し。
「いいんだね?」
耳元に注ぎ込まれる、逃げ場のない問い。
絡めた両脚にさらにぎゅっと力を込め、マシュは熱に潤んだ瞳をまっすぐにアストルフォへと向けた。
わずかに震える唇が、屈服の証を紡ぎ出す。
「……はい。……中で、出してっ…ください……っ!」
その言葉が落ちた瞬間、アストルフォの口元が歓喜に歪んだ。
「あは……っ、マシュ、だいすきだよ――っ!」
その弾けた声が、最後の枷を外す引き金となった。
アストルフォはマシュの腰を両手で強く引き寄せ、密着した下腹部を叩きつけるようにして激しく腰を突き動かし始めた。
――ばちゅん、ばちゅん、ばちゅん、……っ!
容赦のない乱打。
絡められたマシュの太ももごと、身体が大きく跳ね上げられる。
すでに一度達して過敏になりきった内壁の襞を、限界まで膨張した剛直が擦り潰し、抉るように奥処へとめり込んでいく。
浅く引いては、子宮口を砕かんばかりに強く打ち据える。
短く鋭い衝撃が幾度も連打されるたび、マシュの口元からは、息とも声ともつかない甘い嬌声が漏れ出た。
「ひ、ぁ……っ! アストルフォ、さ……っ、あ、ぁぁっ……!」
「マシュ……っ、すごい、ギュウギュウに……っ、吸い付いて……っ!」
アストルフォから滴り落ちる熱い汗が、マシュの胸元へと落ちて弾け、混ざり合う。
荒れ狂う呼吸と、結合部から飛び散る飛沫の音。
互いの素肌が激しく打ち合わされ、重なり合い、あらゆる熱気がふたりを包み込んでいく。
ただ一方的に注ぎ込むだけではない。
マシュもまた、アストルフォの首筋に腕を強く絡ませ、突き上げられる衝撃に合わせて自らの腰を激しく揺すり上げていた。
奥へ、もっと奥へ。
子宮の入り口を開いてそのすべてを迎え入れようと、痙攣する内壁が貪欲に這い回り、筋や起伏を吸い絞る。
そんなマシュの乱れきった顔を見下ろし、アストルフォは我慢ならないといったように顔を寄せ、その唇を深く奪い去った。
――んむ、ちゅ……じゅぷ、れるぅっ……!
「……っ!? ん、むぅ……っ、ん、くぅ……っ!」
肌の境界が溶け落ち、互いの熱情と快楽が境目なく溶け合っていく。
マシュが内壁を締め上げ、舌を吸い返すたびにアストルフォの腰の動きが鋭さを増し、アストルフォが奥を抉るたびにマシュの身体が狂おしく歓喜に震える。
互いの昂まりが油を注ぎ合い、登りつめる快感の波が、一息ごとに限界の頂へとふたりを押し上げていく。
塞がれた唇の隙間から、切迫した吐息が混ざり合う。
「ん、む……っ、もう……っ、だめ……っ!」
「……っ、んむ……っ! マシュ、ぜんぶ……っ!」
腰の打ち付けが、もはや隙間のないほど切迫した乱打へと変わる。
――どすっ、ばちん、ずぶりっ……!
限界まで引き絞られた下腹部の奥底が、同時に焼け付くような臨界点へと達した。
「……んーーーっ、ふーっ、んぐぅ……っ!!」
「――っ、く、ぅ……っ!」
唇を押し潰すように重ね合わせたまま、最奥の子宮口に先端が力任せに押し当てられた、まさにその瞬間。
ふたりの喉の奥の絶叫が重なり合い、世界が白く弾け飛んだ。
激しい痙攣とともに、アストルフォの剛直の先端から、煮えたぎるような熱い精液が勢いよく迸り出た。
――どくん、じゅぶ、びゅくっ……!
一筋、二筋と、無防備に開かれた子宮口の奥深くへと直接撃ち込まれていく。
一度では収まらない。
脈打つ肉塊が激しく跳ねるたびに、濃密な種が容赦のない圧力で胎内へと注ぎ込まれ、膣腔の隅々までを真っ白な熱で満たしていく。
同時にマシュの全身も激しく痙攣し、内壁の襞が一斉に波打って、注ぎ込まれる熱塊を逃すまいと狂ったように吸い付いて収縮した。
子宮の奥に直接刻み込まれる生々しい拍動と、熱い奔流。
雄の子種をその身に受け入れるという圧倒的な背徳感のなかで、マシュの瞳は白く濁り、口内にも下腹部にも相手の熱を抱え込んだまま、どこまでも深い絶頂の底へと沈み落ちていった。
*
どれほどの時間が流れたのか。
激しい痙攣の波がようやく凪ぎ、ふたりを包むシーツの上に、途切れがちで熱い呼気だけが落ちていく。
重なり合っていた唇が名残惜しそうに離れると、細く結ばれた銀色の糸が、ぷつりと切れて汗ばんだ肌へと落ちた。
「……は、ぁ……っ、ふ……ぅ……」
胎内を焼き尽くすような熱の残滓に浸され、マシュは焦点の定まらない瞳で天井を見つめていた。
下腹部の奥深くに注ぎ込まれ、満ち足りてなお溢れ出る重い塊。
男の白濁をその身に注ぎ込まれてしまったという、後戻りのできない罪の重みと、それを自ら望んで迎え入れた甘美な痺れが、ひと息ごとに全身の血の巡りへと溶けていく。
アストルフォはマシュの首筋に顔を埋めたまま、小さく身を震わせて息を整えていた。
けれど――その腕がマシュの腰を解放することはなく、むしろ逃げ場を塞ぐように、いっそう深く抱き寄せられる。
「……あっ、すと、るふぉ……さ……ん……?」
わずかに正気を取り戻したマシュの喉から、掠れた声が漏れ出た。
最奥に打ち込まれたままの剛直。
射精を終えてなお抜け落ちる気配はなく、それどころか、収縮を繰り返す柔らかな肉襞のぬくもりを吸い上げて、再び内側からじわりと熱い硬さを取り戻し始めている。
「……ん、なぁに? マシュ」
首筋に落とされる、熱い吐息混じりの囁き。
顔を上げたアストルフォの瞳には、疲労の色など微塵もなく、濁るほどに濃密な愛欲が揺らめいていた。
笑みを唇に刻み、まだ白濁と余韻に濡れそぼる結合部を、内側から確かめるように小さく抉る。
「――っ、ひ、ぁ……っ!?」
敏感になりすぎた芯を擦られ、マシュの爪先が跳ね上がった。
「ボクはサーヴァントだから、これくらいじゃ全然足りないんだよね」
濡れた前髪を優しく払い、アストルフォの指先が、まだ震えるマシュの唇をなぞる。
「……朝まで、いっぱいいっぱい、ボクので満たしてあげるね」
「あ……っ、ま、だ……っ、んむ……っ――」
抗う言葉は、再び重なり合った唇のなかに呑み込まれて消えた。
軋み始めるベッドの鈍い音と、重なり合う微かな水音が、白み始める気配のない夜の闇の中へ、どこまでも果てしなく溶け込んでいった。
*
カルデアの朝は、昨日と何ひとつ変わらずに始まった。
管制室の端末が規則的な作動音を刻み、マシュはいつものように立香の半歩後ろを歩く。
「おはよう、マシュ」
「おはようございます、先輩」
乱れのない制服に、整った敬礼。
誰の目にも、いつも通りの忠実な後輩にしか映らない。下腹部の奥に澱のように残る熱い重みも、歩くたびに擦れ合う太ももの痺れも、完璧な仮面の下に覆い隠されていた。
向かいから、軽やかな足取りでアストルフォが駆けてくる。
「おはよー、マスター!」
「おはよう、アストルフォ」
ふたりが言葉を交わすそのわずかな隙間、アストルフォがふとマシュへ視線を投げた。
マシュもまた、眼鏡の奥からその瞳を静かに捉え返す。
伏せられた睫毛の陰から送られたのは、すべてを明け渡した女だけが知る、密やかな流し目。
アストルフォの口元が、立香の死角で小さく吊り上がった。
一瞬の共犯の合図。誰も気づくはずのないその視線の交差を、ただひとり見咎めた者がいた。
「……マシュ、ちょっといいかしら」
唐突に掛けられた声に、マシュの肩が微かに跳ねた。
立ち止まり、背後を振り返る。そこにはタブレット端末を胸に抱え、探るような視線を向けるオルガマリーの姿があった。
「はい、所長。何でしょうか」
動揺を押し殺し、マシュはいつもの淀みない声音で応じる。
そんなふたりの様子に、前を歩いていた立香が足を止めた。
「所長、マシュに何か用事ですか?」
「ええ。悪いけど、マシュを少し借りるわよ。あんたは先に訓練室へ行ってなさい」
「了解です。じゃあマシュ、また後で訓練室でね」
立香は何の疑いも持たずに頷くと、隣のアストルフォを促して歩き出す。
アストルフォもまた、「はーい、待ってるよー!」と無邪気に手を振り、立香の隣を軽やかに駆けていった。
去り際、アストルフォがちらりとこちらへ投げかけた視線には、すべてを見透かしたような昏い色が混ざっている。
マシュは小さく息を呑み、遠ざかっていくふたりの背中を見送った。
通路に残されたオルガマリーは、立香たちの姿が角を曲がって消えたのを見届けると、手短に顎をしゃくった。
「……ついてきなさい」
拒絶を許さない短い指示のまま、オルガマリーは人通りの途絶えた小部屋へとマシュを引き入れた。
気密扉が閉まり、静寂が落ちる。
オルガマリーはマシュの前に立つと、腕を組み、静かにその全身を見つめた。
怒りや咎め立ての色はない。その瞳に浮かんでいたのは、すべてを察した者特有の、淡い労わりだった。
「……ぎこちない歩き方。それに、さっきの目」
短く落とされた言葉に、マシュの肩が微かに跳ねる。
けれどオルガマリーは小さく息を吐き、静かに首を振った。
「責める気はないわ。あいつの手口は知っているもの。……ただ、体調管理には気をつけなさい。デミ・サーヴァントとはいえ、あいつの熱を無茶に受け止め続けたら、身体がもたないわよ」
所長としての建前を崩さぬまま、けれど滲み出る痛切な案じの響き。
マシュは胸元を押さえ、小さく頭を垂れた。
「……はい、所長。ご心配をおかけして、申し訳ありません」
「いいわ。訓練に戻りなさい」
オルガマリーは踵を返し、開閉パネルへと手を伸ばした。
扉が静かに開き、白く無機質な通路の光が室内に差し込む。その境界に立ったまま、オルガマリーは振り返ることなく、自嘲するように口元を綻ばせた。
「……ま、今夜あたり、廊下でばったり顔を合わせるかもしれないけれどね」
乾いた囁きを残し、背を向けて歩き去っていく足音。
取り残されたマシュは、胎の奥に燻る消えない熱を確かめるように下腹部に手を当て、静かにその背中を見送った。
*
消灯時間をとうに過ぎたカルデアの通路は、深い海底の底のように冷え切っていた。
日中の喧噪が嘘のように静まり返り、規則的な空調の低い唸りだけが、無機質な白い壁の間を漂っている。
深夜の巡回か、あるいは寝付けぬまま部屋を出てしまったのか。
人影のない通路を、誰かの足音が静かに響いていた。
硬い靴底がリノリウムを打つ単調な音。
眠りに就いた基地の規律を守るように、淡々と進んでいたその足が――ある区画の角を曲がったところで、ふと止まった。
通路の先、並び立つ居住区の扉のひとつ。
完全に閉ざされているはずの分厚いパネルが、わずか数ミリだけ、鍵を降ろされずに隙間を残していた。
「……?」
密閉された隙間から、細く、頼りなく漏れ出ている薄暗いオレンジ色の光。
見過ごして通り過ぎるには、あまりに不自然な綻びだった。
管理室へ連絡を入れるか、あるいは立ち去るべきか。
理性が促す躊躇いをよそに、静寂の奥から届いた微かな音に、その人物の耳朶がぴくりと震えた。
――ぎし、ぎし……。
――じゅぷ、ぬちり……ん、くぅ……っ。
空調の駆動音に紛れ、空気の膜を震わせて届く、生々しい摩擦の響き。
ベッドの軋み。熱気を帯びて絡み合う粘膜と吐息の音。
誰かが苦しげに息を呑み、甘く濁った嬌声を押し殺す微かな波が、冷たい通路の空気をわずかに灼き乱していた。
夜の闇に隠された、カルデアの清潔な規律を冒涜する密やかな熱情。
それが何であるかを悟った瞬間、胸の奥が冷たく締めつけられ、同時に、抗いようのない好奇と背徳の熱が全身の血を騒ぎ立てる。
立ち去るべきだという規律の警告は、すでに意味をなさなくなっていた。
吸い寄せられるように、影が一歩、前へと踏み出す。
音を立てぬよう慎重に、けれど逃れられない引力に引かれるようにして、漏れ出る光の筋へと近づいていった――――。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
あれも入れたい、これも入れたいの繰り返しで凄く長くなってしまい反省しております。
次に作る際には、何回かに分けて読みやすくなるようにしてみます。
次回の案としては
普段から蹂躙されているけどそろそろぷっつんして逆襲しそうな藤丸君
VS
表面サドで気質もサドだけど無茶苦茶にされたい願望持ちのサドマゾ酒呑ちゃん
あたりを考えています。