ラッキースケベ・トラップダンジョン ~外れスキル『ラッキースケベ』のせいで転生早々追放された俺が、踏破率0%の鬼畜迷宮をエロトラップ化したら、いつの間にか王女と剣聖に激重感情を向けられてました~ 作:マテリ-AL
二層に足を踏み入れた三人を待ち構えていたのは、目も眩むほどの光彩だった。壁に埋め込まれた宝石の光量は増し、数百年をかけて万に迫る人命を奪ってきた危険地帯というよりは、夜の歓楽街のような不気味さと下品さを孕んでいる。
「……なんか、別の意味で危険な場所って感じだな」
「この悪趣味さは……オルドレアの嗜好でしょう」
虹色の光に照らされながら、三人はダンジョンの奥へ進んでいく。周囲に敵がいないのを確認したコウヤが、ふと思い立ったように口を開いた。
「……そういえば、そのオルドレアってのはこのダンジョンにいるんだよな? いるとしたら、一番奥か?」
「でしょうね。オルドレアの目的は私を食べること。もし私が道中で死んでも魔物に食べられないよう、私たちを監視でき、なおかつ最も安全な最深部にいるでしょう」
「ふん、所詮ダンジョンの奥で身を縮めているだけの魔族だ。万全な状態なら勝てるだろうが、四層分のトラップで体力を削られると結果が変わるかもしれない、だから貴様の力で――」
「――誰が、誰に勝てるってぇ?」
「……っ!?」
リラが言葉を発し終える前に、三人の間を濃厚な魔力と殺気を含んだ風が通り抜ける。咄嗟に殺気へ目を向けた三人が見たのは、青白い額に無数の青筋を立てた細長い長身の魔族。その身に纏う濃厚な死の気配によって……詳細な特徴を知らないコウヤですら、その正体に確信を持った。
「お前は、オルドレア……?」
「――蛆虫ごときが、高貴なる僕の名を呼ぶんじゃない!!」
「蛆虫って……初対面なのに随分な言いようだな」
何故か余裕のないオルドレアの態度にコウヤが引いていると……フィニアが一歩前に足を踏み出し、恭しく一礼をした。
「――お初にお目にかかります、黒牢公オルドレア。ただいまここにお出ましになったのは、罠に頼ることを諦め、自らの手で私たちを殺すためでしょうか? ……無駄に長く生きている割に随分と、堪え性のない方ですね」
丁寧な言葉遣いでも隠し切れない敵意。そこにはダンジョンを満たしてなお、溢れんばかりの……『憎悪』があった。そんなフィニアを見たオルドレアは先程までとはうってかわって口角を上げ、軽くその手を叩いた。
「あっはっはっは。なーんだ、もう十分にスパイスがかかってるじゃないか。ああ、もう我慢できない――美味しく、頂いてしまおう」
「――行きますよ、リラ!」
「はいっ!!」
リラが大剣を構え、フィニアが魔法陣を展開するのを見たオルドレアは……右手を硬質化させた。
「んー、ま、これで十分か」
「――ほざいていろ!!」
リラが大剣に魔力を込めると、元々巨大な暴力の塊だった剣がさらなる力を纏う。もはや力の奔流とまで言っていいそれが、リラの強靭な膂力を以ってオルドレアへ叩きつけられる。
「あーはいはい。『筋力強化』ね。もう見飽きたよそれ」
「なっ……!?」
だが、渾身の一撃は片手で容易に受け止められた。表情が歪むリラへ、フィニアの声が飛んだ。
「そのまま! 私が仕留めます!」
「っ、はい……!」
『ホーリーレイ!!』
リラの剣を受け止めるオルドレアへ、フィニアの放ったクリーム色のレーザー光線が突き刺さり、その皮膚が焼ける。だが、オルドレアの表情には陰りすら見えず……むしろ恍惚とした笑みに変貌してしまった。
「ああ、素晴らしいよ。この魔力が染み込んだ肉はどれだけの味がするんだろうねえ。ああ、我慢できない……もう、腕の一本ぐらいは食べてしまおう!!」
「――ぐぁっ!? ……フィニア様っ!!」
オルドレアが腕をぶんと振ると、リラの身体が指で弾かれたように吹き飛ぶ。リラの叫びを背にしたオルドレアは、今にも食らいつかんばかりの欲望を滲ませ、フィニアへ一歩一歩近づいた。
「…………っ!」
(どうにか、リラが戻って来るまでオレが時間を稼げないか――!?)
時間を稼ぐため恐怖を押し込めてオルドレアへ飛び掛かろうとするコウヤへ、フィニアは手のひらを向けて制止の意を示した。動揺したコウヤが一歩後ろへたじろぐと、フィニアは薄い笑みを浮かべ……魔法陣を展開した。
魔法陣から放たれたのは、膨大なクリーム色の魔力。コウヤにラピスの全力を思い起こさせるほどのそれが、まるでフィニアを守るように周囲を取り巻いている。
だが、オルドレアはそれすら全く意に介さず、その腕を振りかぶった。
「あんまり抵抗しないでよ? 肉の価値を落としたくないんだ」
フィニアの命を奪わんと、剛腕が振るわれる。
同時に、フィニアの力強い詠唱が辺りに響き渡った。
『ホーリー・バインドバリア!!』
フィニアの周囲に光の壁が展開される。だが次の瞬間、オルドレアの腕が光の壁を突き破った。瞬間――オルドレアの身体が、見えない壁に阻まれるように止まってしまった。予想外だったようで、オルドレアの目が見開かれる。
「なぁっ、これは……拘束魔法を結界に混ぜ込んだのか!? この僕が、捕らえられるなんて……っ!?」
「――っ!」
唐突に訪れた好機に、コウヤは目を見開いた。リラも即座に大剣を構え直す。だが、同時に……ある不安要素が、コウヤの脳裏をよぎった。
(いや、この近さ……リラの剣だと、フィニア様を巻き込むんじゃないか!?)
そう、リラの使用武器は巨大な大剣。だが今、フィニアはオルドレアに密着して抑え込むような体勢になっており、リラが全力で攻撃した場合……どうしてもフィニアを巻き込んでしまうのだ。
「…………っ!」
それに気づいたのはリラも同じなようで、剣を構えたまま立ちすくんでいる。そんな彼女へ、フィニアが檄を飛ばした。
「リラ! 今です!! 私ごと……オルドレアを刺し貫きなさい!!」
フィニアの命令があっても……リラは、動けなかった。その顔は冷や汗にまみれ、剣を持つ手は小刻みに震えている。
「私が、フィニア様を……? できない。できるわけがない。そんな、そんな……っ!?」
「――リラ!!」
「……っ、ぅ」
フィニアの叱責によって、ようやくリラの身体は動き出した。だが、その動作はまるで錆びついた人形のようにぎこちなく、心では従おうとしているのに、身体がそれを拒絶しているようだった。
「う、ぁあああああああああっ!!」
絶叫と共にリラがオルドレアの後ろから斬りかかる。オルドレアは軽く舌打ちをすると、足を硬質化させた。
「はぁああ……。肉の質が落ちるから嫌だったんだけど……なっ!」
オルドレアがバリアへ向かって蹴り上げる。パァンッ!! という何かが弾け飛ぶような音がしてバリアが叩き割れ……フィニアの身体が人の背丈数人分もの高さまで舞いあがった。このまま頭から石床へ落ちれば、命はない。
「あ……」
絶望の混じった声がフィニアから漏れるのと、オルドレアがリラの大剣を煩わしそうに引き裂くのは、ほぼ同時だった。
「なっ!? 馬鹿な、私の大剣が!? がぁっ……!?」
砕けた大剣の破片が装束を切り裂き、巨大な生乳が露わになる。オルドレアは硬質化した右手をリラへ突きつけたまま、コウヤへ顔だけ向けた。
「やぁ、蛆虫。やっぱお前、なんにもできないんだな。ほら、なんか芸でもやってみろよ。じゃないと……こいつも王女も、死んじゃうよ?」
オルドレアがコウヤへ嘲るような目線を向ける。しかし、コウヤは落下死寸前のフィニアと今にも殺されそうなリラをどう助けるのかで頭がいっぱいで、目の前の魔族の煽りなんかに割く脳のリソースがほぼなかった。
(んなこと、言われなくても分かってるっての。でも、そんな、情けないオレでも……)
祈るように両手を合わせても、時は流れ続ける。
「なんだ、怯えてんのか。ま、どっちにしても殺すけど――まずはこっちだ」
フィニアの頭が固い地面に叩きつけられそうになるのに合わせるように、オルドレアはリラの胸を貫かんと硬質化した腕を振るう。
二人の死が訪れる、寸前だった。
(フィニア様とリラを――救いたいんだ!!)
コウヤが強く願う。
それに呼応するように、コウヤの右手から魔力が溢れ出す。
その魔力は、コウヤ自身すら知覚できない速さで石床へと染み込み――まるで迷宮そのものを侵食するように、四方へ広がっていった。
『
――瞬間、世界が少しだけ、ねじ曲がった。
ごぽんっ。
いきなり巨大なスライムが地面から湧き出し、落下するフィニアを飲み込む。粘度の高いスライムは落下のエネルギーを完璧に減衰させ、フィニアの身体には傷一つつくことはなかった。
どぴゅっ。
同時に白濁したローションが壁から発射され、リラの巨乳を白く染め上げる。オルドレアの一撃はつるてかに光るリラの胸でぬるんと滑り、勢いを殺しきれなかったオルドレアは綺麗に一回転して地面にすっころんだ。
そう、いとも簡単に、二人の少女は絶体絶命の危機から救われたのだ。
「が……あぁ?」
「なんだ、これ?」
コウヤもオルドレアも、何が起きたのか理解できずに固まる。数瞬だけ、世界から時間が消えた。
「――――っ!!」
(いや、二人がまだ助かるかもしれないなら――!)
混迷に満ちた状況で、先に動いたのは――コウヤだった。
スライムへ手を突っ込み、中で揺蕩うフィニアの手を掴む。
「……よし、抜けた!」
どうやら、このスライムは布を好んで食べるらしい。フィニアの冒険者装をみるみるうちに分解し、餌にしている。逆に言えばフィニア自身に興味はないようだ。コウヤが手を引くと、半分ほど分解された服だけをスライムの中に残し、あられもない姿のフィニアを簡単に引き抜くことができた。
「大丈夫ですか、フィニア様!」
「けほっ、けほっ。は、い……」
オルドレアの一撃とスライム内での窒息のせいか、まともに立っていられないほどフィニアの意識は朦朧としている。全裸姿のフィニアをお姫様抱っこしたコウヤは……呆然とするリラへ向かって、声を荒げた。
「逃げるぞ!」
「逃げるって……どこに……!?」
「せめて、あの魔族の目が届かない場所だ!」
コウヤが駆け出すと、リラもその後を追う。
「――待てよ、蛆虫!! その肉に……タカるんじゃねえ!!」
だが、コウヤがフィニアの身体に触れたことによる怒りでオルドレアは正気を取り戻し、両足を硬質化させ、コウヤを追いかけるように駆け出した。
瞬間――ズボォッ!! という音と共にオルドレアの身体が穴に落ちる。丁度オルドレアが踏み込んだ先に、落とし穴があったのだ。
「……ぐへっ!?」
困惑交じりの叫びをあげる魔族へ目を向けず走るコウヤとリラは……前方に緑色の光、転移の罠があるのを見つけてしまった。
「コウヤ、あれに乗るぞ! 貴様のスキル、信じるからなっ!!」
「え、あ、あぁ!」
魔法陣に乗った瞬間、三人の姿が消え、同時に転移罠自体も役目を終えたかのように消える。ただ一人、後に残されたオルドレアは……。
「は????????」
思考がクラッシュしたような声をあげ、穴から這い上がれないでいた。
*
三人が転移した先にあったのは、泉だった。薄明りでは対岸すら見通せない、湖とも言えるほどの大きさを誇る泉のほとりで三人は安堵の息を吐きながら、その場にへたり込んだ
「はぁ……っ!」
「ふぅ……」
フィニアはコウヤから借りた上着を身体へ掛けて大切な部分を隠し、リラは裂けた騎士服の前を開き、泉の水で胸に付着した白濁した粘液を洗っている。二人とも、その表情は憔悴に満ちていた。
「……うぅ」
(……なんだ、この倦怠感。確かにフィニア様を抱えて全力疾走したが、こんな身体が動かなくなるものなのか?)
なぜかコウヤも、まるで身体の奥にあった活力を根こそぎ絞り取られたように、力が入らない。
誰も何も口にしない。
水滴の落ちる音だけが響く時間が、数分ほど続いただろうか。
「コウヤ様」
「どうされましたか、フィニア様」
「……まずは、お礼を言わせてください」
「お礼?」
コウヤの問い返しに、フィニアは深く頷いた。その表情は真剣そのもので、これから話すことが、決して冗談ではないとコウヤに予感させる。
「はい、コウヤ様がいなければ……我らは二人ともあの黒牢公に敗れ、無為な死を迎えていたでしょう。そんな中命を拾えたのは、間違いなくコウヤ様のお陰です。本当に、ありがとうございます!」
「いや、そんな……オレは何もしてないですよ。逃げられたのはただの偶然。運が良かっただけです」
「……運が、良かった。……ええ! そうかもしれませんね!」
「……?」
ぱぁと表情を晴らしたフィニアの意図が分からず首を傾げるコウヤだったが……はっと何かを思い出すと、フィニアに渋い顔を向けた。
「それよりフィニア様。その、もう少し御身を大切に……。先程オルドレアごと自分を斬らせようとしましたでしょう。オルドレアを倒せても、代償としてフィニア様が亡くなるのであれば、それは――」
「――成功ですよ。元々私は、このダンジョンから生きて帰るつもりはありません。遺書も既に書き上げ、自室の引き出しに仕込んでおります」
「…………えっ」
無感情に放たれた回答に、コウヤが呆気にとられてしまう。驚きよりも先に「どうして」という疑問が勝ったようだ。言葉を続けられなかったコウヤへ、フィニアが問いかけた。
「……前提を共有しましょうか。例えばですが、『オルドレアから上手く逃げ回り、ダンジョン最奥にある白王紋を地上に持ち帰った』。これは、探索成功ですか?」
「え、それは、成功じゃ……」
「いえ、失敗です。『白王紋』を取り返しても、オルドレアからすれば脅迫の道具を一つ失っただけ。別の方法で、子々孫々にわたって我が国は食い物にされるでしょう。お母様のように。
――そんなこと、許していいわけありませんよね?」
とうとうとしたフィニアの語り口に、コウヤは聞き覚えがあった。先程のクイズの五問目でフィニアがした……未来を排した、無感情な回答。それでコウヤは気づいた。フィニアは最初から一言も、「白王紋を取り戻したい」とは言っていない。
「確かに、そうかもしれませんが。もっと、やり方が……」
「……ああ、安心してください。私が死んだ責任をコウヤ様やリラに問わないよう、遺書に書いておりますので――」
「――そういうことじゃなくて! フィニア様に、望む未来はないんですか!?」
「……っ、それ、は」
語気を荒くしたコウヤの言葉に、無感情だったフィニアの瞳が大きく揺れる。フィニアはぐっと拳を握りしめると……顔を地面に向けたまま、口を開いた。
「あり、ません。あの脅迫状を見た時、私は未来を捨て、国に殉じる覚悟をしたんです。した、はずなんです……っ!」
今にも泣き出しそうなフィニアを前に、コウヤは何も返せなかった。
「……もう、……やめて、くれ」
だが、ここで……転移してからずっと何も発さなかったリラが立ち上がった。コツン、と小石の蹴られる音がして、二人の視線がそちらへ向かう。リラの顔は真っ青で、何かを堪えるように強く唇を噛み、握りしめられた手からは鮮血が滴っていた。
「……どうしたんだ、リラ?」
あまりに異様なその様子に、コウヤが心配そうに問いかける。声をかけられたリラは行き場のない感情を、地面に叩きつけるように叫んだ。
「――もう、やめてくれ!! 私は……知らなかった! 何も知らなかったんだ! 一番傍にいたのに、フィニア様の苦しみも、死の覚悟をしていたことすら……っ!」
耳を塞ぎ、目を閉じて放たれたそれは明確な『拒絶』の意思。心からの悲嘆を解放したリラは、逃げるように走り去ってしまった。
「わたしは、私は――従者失格だ!!」
「――ち、違います、リラ! 私は……っ!!」
立ち上がったフィニアが、後を追いかける。立ち上がった拍子に身体を覆っていた上着が肩から滑り落ちたが、フィニアはそれを拾おうともしなかった。
「うぅ……」
だが、足取りが覚束ないせいか蛇行してしまい、追いつける気配すらない。
「フィニア様、大丈夫ですか……!?」
見かねたコウヤがフィニアへ近づいたその時、フィニアはぶんと首を振り、真っすぐにリラの背中を指し示した。
「私ではなく、リラを追ってください! コウヤ様の中和なしにこのダンジョンの罠にかかると死の危険があります!」
「いや、ですが、フィニア様を独りにするというのは……」
「大切な友達なんです!! 絶対に、死んでほしくないんです!!」
「…………! 分かりました!」
フィニアの魂からの絶叫に背を押され、コウヤはリラを追って走り出した。
【罠解説】
『フクダケトカススライム』
服だけを溶かして食べるスライム。
『ローショントラップ』
女の子めがけて白濁した粘液を吹きかけるトラップ。