ラッキースケベ・トラップダンジョン ~外れスキル『ラッキースケベ』のせいで転生早々追放された俺が、踏破率0%の鬼畜迷宮をエロトラップ化したら、いつの間にか王女と剣聖に激重感情を向けられてました~ 作:マテリ-AL
コウヤがこの世界に召喚されてから二日目。彼は冒険者ギルドまで来ていた。扉の前に立っているだけでも、強い酒の匂いと怒号じみた喧騒が漏れ聞こえてくる。根無し草となったコウヤが生きていくには、こうした場所に頼るしかない。それも、彼がここへ来た理由の一つではあったが……。
『申し訳ございません。今の私にできるのは、ここまでのようです。ですが、その……自らの力で価値を証明して頂いた際には必ず、迎えにきますので!』
追放直後、追いかけてきた王女様――フィニアにそんなことを言われ、コウヤは王女様がポケットマネーから捻出したと思しき路銀とギルドの紹介状を貰ったのだ。彼自身、自らのスキルにそこまでの価値があると思ってないので、どうしてここまでしてくれるのかを尋ねたところ……。
『伝承を、信じてるだけですよ』
優しい笑みと共にそう返され、それ以上コウヤが聞けることはなかった。そうして彼は王女様に導かれるように、冒険者ギルドを訪れたのだ。
木製の扉を開き、冒険者ギルドへ入る。丁度依頼が張り出される時間だったようで、壁に貼りつけられた多くの羊皮紙へ武器を背負った大男や魔法使いらしきローブを纏った女性が群がっている。
「マジか! このダンジョン、Cランクなのに踏破報酬『竜血晶』かよ! 気前いいなあ!」
「うわ、このダンジョン踏破報酬しょぼすぎでしょ。それ以外の条件は悪くないんだけど……どうしよ」
冒険者は皆、どのダンジョンに潜るかで頭を悩ませている。その光景を見たコウヤは、転生直後にもちらっとダンジョンについての話が出たことを思い出した。どうやらこの国は、ダンジョン産業が盛んなようだ。
逆に言えば、ダンジョンに潜る能力がないコウヤがどの程度働けるのか分からない。不安を胸にコウヤが受付カウンターへ向かうと、胸元の大きく開いた服を着た受付嬢が応対してくれた。短い金髪と人懐っこい笑顔がよく似合う、胸部が特に豊満な女性だった。
「そこの君、大丈夫? なんかすっごくボロボロなんだけど……依頼の報告じゃなくて受注でいいんだよね?」
それが、受付嬢の第一声だった。確かに、コウヤは昨日、ちょっと小銭を落として路地裏へ行ったら女冒険者が着替えているところを目の当たりにして蹴っ飛ばされたり、安宿で隣室の百合カップルが全裸で痴話喧嘩を始め、破壊された壁の下敷きになったりしたが……こんなの彼の人生ではよくある不幸に過ぎない。
……否、厳密に言えば、不幸に女性が絡むのは彼の前世含めて初めてだ。今までのコウヤであれば必ず、王女様から貰った路銀をなくす類の不幸に見舞われていただろう。
「大丈夫です。それより、これ……」
コウヤが王女様からの紹介状を、受付嬢へ向かって差し出す。すると、受付嬢は大きく目を見開き、その身体を硬直させた。
「え!? なにこれ!? ……王族からの紹介状!? てことは君……王族直属の冒険者ってこと!?」
(あ、やばい、なんか凄い勘違いされてる気がする……!)
コウヤが訂正するより先に、受付嬢はカウンターから身を乗り出して彼に迫った。
「もしかして、秘密任務とか……!? ねえねえ、だとしたら、アタシに協力できることがあったら言ってよ。何でもやってあげるからさ……」
「そういうのじゃないんで、一旦落ち着いて……」
あまりにもぐいぐいと来る受付嬢にたじろいだコウヤは、手を前に出して制止の意思を示す。すると、前に出した手が受付嬢の服に引っ掛かり……ぷるんっ、と胸元がこぼれ、肌色の巨峰とその頂上にある桃色の突起が露わになった。
「わひゃっ……!」
「わ、悪い……!」
「いいよ、事故だし。……でも変だな。この服、こういうの起きないために保護魔法かかってるはずなんだけど……まあいいか!」
赤面しながら胸を仕舞う受付嬢。どうやら、周囲の冒険者は依頼に夢中だったようで目の当たりにしたのはコウヤだけのようだ。気を取り直した様子で改めて、受付嬢は紹介状をしげしげと眺める。
「うん、やっぱり正真正銘本物だ」
「でも、オレは王族直属とかじゃないんで……」
「へー。言いたくないなら詳しくは聞かないけど……ま、まずは冒険者登録しちゃおうかな!」
受付嬢は慣れた手つきで真っ白なカードを取り出し、コウヤの手に当てた。すると、スキル鑑定のときと同じように、白い表面へ文字が浮かび上がっていく。
カードに文字が完全に浮かび上がったのを確認した受付嬢は破顔して、コウヤへ冒険者カードを差し出した。
「はい! できたよ。えーと……コウヤ君!」
「ああ、ありがとう」
冒険者カードを受け取ったコウヤはまず、しげしげと眺めることにした。
【冒険者カード】
名前:フタバ・コウヤ
冒険者ランク:F
ダンジョン踏破実績:なし
(……うん。冒険者になったばかりだし、こんなもんだろう)
実質的に何も書かれていないカードに、コウヤはある種の納得感を抱き、頷く。だが、一緒にカードを確認していた受付嬢が、首を傾げた。
「……ありゃ、他のところでの実績もない完全なルーキーなのか。じゃあいきなりダンジョンに入るのは酷だね。採取依頼から……」
「――是非、お願いします!」
「わお、めっちゃ乗り気! ギルドに来るのって大体ダンジョンに夢見てるのばっかなのに珍しいなぁ!」
当然だ。今のコウヤに大事なのは一獲千金の夢ではなく、日々を過ごすための安定した仕事なのだから。
*
採取依頼を受けたコウヤは、王都から離れたところにある森へ薬草摘みに来ていた。何故か採取依頼の中で、薬草だけ納品レートが良かったのだ。割高の理由は『需要』らしい。少なくとも、他の依頼と危険度は変わらないそうだ。
森を隅々まで見渡し、指定された薬草を摘んでいく。薬草は色鮮やかなお陰か見つけやすい。一本ずつ引っこ抜いて支給された袋へ詰めていく。そうして、森を進み続けたコウヤは……ある広場で、フード付きのローブを着た少女を見つけた。
少女の髪は、磨き上げられた鉄のような銀灰色だった。そこに一房だけ、青い筋が混じっている。そんな彼女は今、コウヤと同じように薬草を摘んでいる。無防備に足を広げているせいか、脚の間から水色の布がちらりと見えた。
ここでふと、少女が顔を上げた。垂れ下がった髪で目が隠れているせいでどこを見ているかは分からないが、きっとコウヤの存在に気づいただろう。
灰髪の少女は……あ、と小さく呟きを漏らし、身を縮こまらせた。互いに向き合ったまま、気まずい沈黙だけが流れる。
(……あれ? そういえば、オレ以外にこの依頼を受けた人はいないし、ギルド管理地って許可がなければ侵入禁止だったよな? ましてや、そこで採取するなんて……違法採取とかに、ならないか?)
少女がここにいること自体、不自然なことに気づいたコウヤが一歩前へ踏み出して、声をかけようとする。
「えっと……」
「ご、ごご……ごめんなさい! ギルドには、言わないでください……! 何でもしますから……!」
すると、銀灰色の髪をした少女はまるで背中に重しでも乗せられたかのように頭を深く下げ、懇願をしてきた。
「その……お母さんの病気を和らげるのに薬が必要で、薬の原料はここが一番とれて……だから……その……」
女の子は元々気が弱いのか、怯えて身をすくませ、口にする言葉はしどろもどろだ。このまま話が進まなくなることを危惧したコウヤは、両方の手の平を向けて無害さを示し、少女を落ち着かせることにした。
「分かった! ギルドには言わないから、いったん落ち着いてくれ!」
当然、違法採取を見逃すのがいけないことだとはコウヤも分かっていた。だが、こうして誰かに頼りにされると……彼はどうにも断れないようだ。
「ほ、本当ですか……!? ありがとう、ございます……!」
コウヤの言葉に、少女は喜びを露わにしながら再び頭を下げてきた。するとここで、頭を下げる彼女の胸ポケットから何かが落ちた。少女はそれに気づいていなさそうだったので、コウヤがそれを拾い上げ、少女へ差し出そうと顔を上げた瞬間、一陣の風が吹き、少女のローブと前髪がめくれ上がった。
肉付きのよい太ももと水色の下着、そして前髪の奥から現れた瞳が同時に飛び込んできて、コウヤは目のやり場に困ってしまう。なかでも、前髪の奥から現れた瞳は、静かな光を湛えた宝石のように美しかった。思わず、コウヤの目は下着よりもそちらへ引き寄せられる。
風が過ぎ去ったその時、彼女の頬がぼっと燃え上がるかのように赤面し、ローブ……ではなく、前髪を押さえて縮こまった。
「ひぁああああ……! あ、あまり見ないでくださいぃ……!」
……どうやら、彼女にとっては下着より前髪の中を見られる方が恥ずかしいようだ。彼女が縮こまったことで手持ち無沙汰になったコウヤは、つい先ほど拾った落とし物へ視線を落とした。
【冒険者カード】
名前:ルゥリィ・サイレントハート
冒険者ランク:F
ダンジョン踏破実績:Gランク(訓練用ダンジョン)――『5』
(……うん? これ、冒険者カード? ということはこの子、冒険者なのか?)
少女が冒険者だと知ったコウヤは、まず目の前の彼女が本当にルゥリィ本人なのか確かめることにした。コウヤの中に、ある疑念が生まれ始めていたのだ。
「……えっと、ルゥリィで、いいのか?」
「あ、は、はい……!」
名前を呼ばれたルゥリィが反応したことで、コウヤの中にあった疑念がはっきりとしたものになる。
「――なんで、冒険者カード持ってるのに依頼を受けずに来ているんだ? 採取依頼って、冒険者になりたてのオレでも受けられるんだが?」
「ぇ……ぁ……それは、その……」
コウヤがルゥリィへ冒険者カードが見えるように突きつける。コウヤの言葉を受けたルゥリィは、身体をさらに硬直させ、口をぱくぱくと開け閉めするだけだった。
それを見たコウヤは、先程の母親の病気の件も含めルゥリィに何か複雑な事情があることを察し、これ以上首を突っ込まないことにした。
「……言いたくなかったら、言わなくてもいいや。それよりオレは採取に戻るから、まあ、好きにしててくれ」
「は、はいっ……!」
若干力の戻ったルゥリィの声を背に、コウヤは薬草採取へ戻った。
――瞬間、地面がぐらりと揺れる。
「…………っ!?」
驚く間もなく、地面は脈動を続け……まるで地の中に秘められた力が解放されるかのように、大穴が開いた。ルゥリィの、ほぼ真後ろに。
「え、ぁ、きゃぁっ……!」
大穴から強烈な吸引力が発生し、ルゥリィを穴の奥へ引きずり込む。今にも穴に飲みこまれそうになった彼女は、コウヤへ向かって手を伸ばし……。
「たす、けて……!」
微かに、だが、確実に、声を絞り出した。
コウヤは、知っている。彼のスキルはどうしようもない外れスキルで、誰かを助ける力なんてないと、分かっている。
なのに――助けを求められたら、誰かに必要とされたら、応えたくなってしまう。
「……ああ、畜生ッ!!」
揺れる地面を踏みしめて駆け出し、ルゥリィの手を掴む。だが、コウヤ一人の力だけでは大穴の吸引力には抗いきれず――。
「うわぁ……っ!!」
「きゃぁあああ……っ」
二人まとめて、大穴に飲みこまれてしまった。
*
コウヤが目を覚ますと、そこは岩壁に囲まれた洞窟だった。藍色の岩壁には、魔力に反応して光を放つ鉱石が点在していた。そのおかげで、周囲を見渡せる程度の明るさは確保されている。
「う、うぅん……」
ルゥリィの声がした方を向くと……またローブがめくれており、水色の三角布で隠れた小ぶりなお尻が目に入ってきたので、コウヤは咄嗟に視線を逸らした。だが、彼女にとってはそれどころではなかったようだ。周囲を見渡すうちに段々とその表情が絶望に染まっていく。
「どうしましょう。私たち……『違法ダンジョン』に飲みこまれてしまいました……!」
「――違法ダンジョンって、合法のダンジョンもあるのか!?」
コウヤはつい、突っ込んでしまった。
だって……ダンジョンに違法も合法もなくないか!?