ラッキースケベ・トラップダンジョン ~外れスキル『ラッキースケベ』のせいで転生早々追放された俺が、踏破率0%の鬼畜迷宮をエロトラップ化したら、いつの間にか王女と剣聖に激重感情を向けられてました~ 作:マテリ-AL
「はぁああああああああっ!!」
天高く跳躍したリラが大剣を大振りすると、大蛇の八頭が宙を舞う。オルドレアは魔物の合成研究もしていたようで、四層へ降りる階段前には異形の姿に改造された魔物がうじゃうじゃと徘徊していた。
「――ふっ!!」
大蛇の首を切り終えたリラは、着地地点にいたゴーレムを背負ったサラマンダー。その背中のゴーレムへ拳を叩きつけた。リラの十倍以上の大きさを誇る巨岩は容易に砕け、背負っていたサラマンダーも地面に潰れ、ぺっちゃんこになる。
「やはり、リラのスキルも強化されておりますね。リラは武器に筋力強化を乗せるのが得意な分、素手での攻撃はそこまでなのですが……それですらここまで強化されているとは。概算で、強化倍率としては……」
それを見たフィニアは研究者モードに入ったようで、ぶつぶつと呟きながら戦いを続けるリラの様子を観察している。
ここでふと、フィニアの視線が隣に佇むコウヤへ向く。そのまま数秒ほど思考を巡らせたフィニアは……急に電流でも流れたかのように身体を跳ねさせ、勢いよくコウヤへ向き直った。
「――コウヤ様!」
「ど、どうされました、フィニア様」
いきなり力強く声をかけられたコウヤが、戸惑いながら応える。そんなコウヤへフィニアはさらに距離を詰め、感情の高まりを表すように飛び跳ねた。すると、暖簾がめくれて乳首が露出したため、コウヤはわずかに目を逸らす。
「我らは武器の力で強くはなりました。ですがそれでも、オルドレアは何を隠し持っているか分かりません。もし、私とリラだけでは限界が来たとき、コウヤ様にしてほしいことがあるのです!」
「してほしい、こと……?」
「はい! コウヤ様には――スキルを、戦闘用に『使って』頂きたいのです!」
*
四層に降りた三人が見たのは、深淵だった。互いの姿は見える。一歩踏み出せば、硬い地面の感触が足裏から伝わる。それでも、その空間は先の見えない虚空のような黒と無音で構成されていた。
「私が最初に行く。フィニア様とコウヤは後に続いてくれ」
「……気を付けて行きましょう。幻覚の類ではないようですが、どこから敵が出てくるか、分かりません」
周囲を警戒しながらも一歩一歩進む。足音の反響からフロアの広さは大体把握できているが、それでも見えないという負荷を心から消すことはできていないようだ。
だが、そんな緊張はすぐに消えた。
もっと強い緊張に塗りつぶされたのだ。
「オルドレア……!」
幽霊のように青白い肌が、黒でできた世界では発光でもしているかのように目立つ。三人が臨戦態勢に入ると同時にオルドレアも三人に気づいたようで、気さくに手を振った。しかし、その目は一切笑っていなかった。
「やあ。王女様。突然で悪いけどさ、君のことは食べないことにしたよ。そこの蛆虫に随分とたかられたみたいだから、もういいかなって。その代わり――」
オルドレアの金色の眼がぎらりと妖しく光り、硬質化した右腕が鉄槍のように変質する。
「君と印璽を質に取ったことを大々的に広めて、寄ってきた王族を片っ端から食べることにしたよ。魔王軍とは対立してしまうが仕方ない。元々人間と和解なんてした腑抜けの魔王に敬意なんて払ってないしね」
「……そんなこと、させるとでも?」
「逆になんでできないと思うんだい? 僕たち魔族が温情で生かしているだけの――下等種族がさぁっ!!」
侮辱を言い切ると同時に、オルドレアが地面を蹴って三人へ突撃する。そのままコウヤの脳天へ向かって硬質化した腕を振り下ろした。
「――させるかっ!!」
だが、寸前で前に出たリラがその一撃を防いだ。そのまま力任せの押し合いを始めようとするリラを、オルドレアが嘲る。
「はぁ、また君かぁ。あれだけ力の差を見せてやったのに、まだ自分の無力さが分かってないとか……。……うん?」
だが、その途中でオルドレアは眉を顰めた。動かないのだ。どれだけ強く押し込んでも。リラと拮抗したまま。
「はぁっ!!」
リラが剣に体重を預け、押し返す。そうして一瞬のけぞったオルドレアの右腕へ向かって、リラが大きく剣を振り抜いた。
「……がっ!?」
カァンッ!! という快音がして、オルドレアの右腕がひしゃげる。痛みか不快感かで、オルドレアの顔が大きく歪んだ。
『ホーリーストライク!』
それで生まれた一瞬の隙を狙いすまし、フィニアがクリーム色の光弾を撃ち出す。オルドレアの腰に光弾が直撃すると、ジュゥウウという肉が焼けるような音と共にオルドレアの身体が弾き飛ばされた。
「がっ、なんだぁ!? 前はこんな威力、なかったはずだろ……!?」
身を焼く苦痛に、歯を食いしばって耐えるオルドレア。そんな彼の首へ向かって――リラの大剣が振り下ろされた。
「黒牢公オルドレア、覚悟!!」
「――ぐッ、人間風情が、僕を殺せると思うなッ!!」
だが、剣が首へ届く寸前、オルドレアは全身を黒く硬化。地面を無理やりに蹴ってリラの一撃を回避した。そのままオルドレアは、黒鉄の鎧を身に纏うと、フィニアへ突貫した。
「その強さがどういう理屈かは知らないが、僕に戦闘用形態を引き出させるなんて――随分と死にたいらしいなぁ!!」
「フィニア様、危ない!!」
オルドレアの黒き拳とリラの大剣が交差する。だが、黒化した拳は硬度も重量も先ほどまでとは桁違いで、そこへオルドレア自身の膂力まで乗っている。今度はリラが、強く歯を食いしばる羽目になってしまった。
「でぇ? 人間がちょっと強くなったからって、魔族に勝てるだなんて思ってるんじゃないだろうなぁ!!」
オルドレアの連打に段々とリラの剣が押されていく。だが、それでも、リラのその目には一片の陰りもなかった。
「負けるか、負けて、たまるものか……!! 私たちの力で過去を、呪いを、この国の病巣を――断ち切るまでは!!」
「ええ、そうです。誰も欠けずに勝って……未来を、掴むんです!!」
フィニアの光弾が弧を描き、リラを迂回してオルドレアの左腕へ突き刺さる。光弾はオルドレアの左腕の黒化を剥がして青白い肌を露出させるだけの成果しか挙げられず――。
――今のリラにとっては、それで十分だった。
「――――ッはぁ!!」
筋力強化を限界まで引き上げた一撃が、黒化が剥がれた左腕へピンポイントで突き刺さる。完璧に息の合った一撃は見事に……オルドレアの左腕を切り飛ばした。
「…………はぁ? この僕が、人間に?」
不意の一撃を食らったオルドレアの顔に浮かんだのは、困惑だった。今目の前で起こった事象が飲み込めないといったように目を見開き、額には冷や汗まで浮かんでいる。
当然、リラもフィニアも、その好機を見逃すほど愚かではない。
「――リラ!!」
「ええ、必ず!!」
首、胸、腹、腿……戦いにおける急所といえる場所全てを狙い、フィニアの光弾が放たれる。それと同時にリラは最小限の予備動作で、最大限の力が乗るように大剣を構えた。フィニアの光弾がどこに当たっても、そこを必ず断ち切るという覚悟を持って。
「食ら、えぇええええええッ!!」
光弾が胸で弾け、黒き鎧を剥がす。
魂の底からの叫びと共に、リラは青白い胸へ向かって――剣を突き立てた。
『――
だが、その切っ先が肉へ届くことはなかった。
十数本の黒き触腕が剣に絡みつき、その動きを完全に止めていたのだ。
「なっ!? ぐ――!?」
リラは驚愕交じりのままに触腕から無理やり剣を引き抜き、後ろへ飛ぶ。
再びオルドレアへ向き合ったとき、オルドレアは――口に汚物でも入ったかのように唾液を何度も地面へ吐き捨てた。
「……うぷっ、げほっ、げぽっ!! おっえーーっ!!」
リラは改めて攻撃を仕掛けようとしたが、オルドレアの頭上には数十本の触腕が黒光りしながら滞留している。迂闊には近づけない。
「…………ふぅ。……普通、ダンジョンで死んだ奴の血肉と魔力はダンジョンと魔族で折半される。味覚の粗末な魔族にとって、人間の肉や魔力はそれだけで十分な嗜好品なんだ……おえっ」
オルドレアがゆらりと不安定な足取りで立ち上がる。
まだ吐き気は残っているようで、地面に向かって唾を吐き捨てた。
「でも、僕はこれまで王族を除いた全てをダンジョンに渡してきた。おいしいおいしい王族の血肉しか食べたくないから。……でも、僕は今、ダンジョンと魔力をリンクさせた。下卑た肉の味が口いっぱいに広がって、今にも脳天を岩に打ち付けて死にたい気分だ」
伏せられていた顔が、錆びついた歯車のようにぎこちなく持ち上がる。その全貌を見たとき、リラはつい一歩後ろへ下がってしまうほどの衝撃に打たれた。
「――僕の舌を汚した罪は重いぞ!! 穢れた害獣どもがァッ!!」
それは、これまでの怒りがお遊戯に見えるほどの鬼の形相。
顔中に青筋ができあがっており、目は充血、怒髪は天を衝き、身体から溢れ出す魔力は、死神が降り立ったかのような濃密な死の気配を帯びていた。
「――いいえ!! 私たちは人間として――あなたを討ち滅すのです!!」
犬耳のカチューシャを着けたフィニアが対抗するように身体から聖属性の魔力を放出させる。オルドレアはそんなフィニアの機を制すように左手を再生させ、その指を突き立てた。
「――あいつらをお前らと同じ『死』の底へ沈めてやれ!!」
オルドレアの命で数十本の触腕が黒く硬質化し、三人へ襲い掛かる。天を舞い、世界を封じるように交差する黒き触腕の在り方は――まさしく『黒牢』だった。
「――はぁっ!!」
リラが大剣で薙ぎ払い、二人を守るように触腕を両断する。だが、全てを断ち切ることはできず、残った触腕のうち一本がリラの左肩肉を抉った。鮮血が容赦なく辺りへ飛び散る。
「――ぐぅっ!?」
『ホーリー・バインドバリア!!』
それを見たフィニアが瞬時に前に出て結界を展開。残った触腕は結界の持つバインドの力に絡め取られ身動きがとれなくなった。
「――っ! ありがとうございます、フィニア様!」
絡めとられた触腕をリラが断ち切る。地面に落ちた触腕は世界の黒に溶け込むように消滅した。
「じゃあ、あと――九千人分、行こうか」
オルドレアが指を弾くと、先ほどの倍以上の本数の触腕が虚空から現れ、フィニアたちの方を向く。それを見たフィニアは即座に、コウヤへ向かって振り返った。
「――コウヤ様! スキルの『使用』を!!」
「はい!!」
フィニアが叫んだ時にはもう、コウヤは祈りの体勢に入っていた。