「藍、ちょっといい?」
自宅へ戻り、あくびを噛み殺しながらも、紫は式である九尾、藍を呼びつける。
「おかえりなさい紫様、突然飛び出されたので何事かと思いましたが――」
すぐさまやってきた藍に、一言警告して置かなくては、今にも御馳走になるまぶたを叱咤激励し、紫は口を開いた。
「夜智王が来たわ、あなた人里に出る時は気をつけないさいよ」
「や、夜智王……」
「そうよあの厭らしい蛇よ」
「何処です!すぐに殺しましょう!いやだめだあれは殺せない……封印、封印しましょう」
普段の冷静沈着な様子をかなぐり捨てて、なにやら錯乱したように物騒な事を呟く藍。
紫は、眠い頭で、あれ?何事よと思考する。
「ちょ、ちょっと藍?落ち着きなさい藍。どうしたの?」
「橙が万が一あの蛇に捕まったら……なぜ直ぐにその場で封印されなかったのですか紫様!あの蛇のせいで起きた惨事をお忘れなのですか」
なんだ、藍の取り乱しようは、あれか例によって式にしている妖猫のせいか。
「落ち着きなさいよ藍。あれは確かに男女見境なしだけど幼女には手は出さないわ」
「100%ではありません!私の記憶する限り23件の例外があります」
ああああ橙が橙が、と藍はひたすらうろたえている。
「そんなに心配なら探しにいきなさいよ……さっきも言ったけどあんた自身も気を……聞いてないし」
一日の半分は寝て過す。
それが紫の習慣である、つまりもう眠いので後は放っておくことにした。
警告はしたし、殺せないという厄介な能力を別にすれば、純粋な妖力では、夜智王と藍はほぼ同クラスだ、なんとかするだろう。
いい加減藍は橙離れが必要ね。
そうしないと何時まで経っても橙も成長ができない。
「あ、霊夢にも一応警告をしなきゃ」
ああ、自分も人のことは言えないな……
そんなことを考えながら紫は眠りに落ちた。
紫と別れた夜智王は、ぷらぷらと歩き始めた。
ここが幻想郷のどこともしれないが、幸い直ぐに道が見つかったので、道為りに進んでいくことにする。
とりあえず枝を倒し、先端が倒れた方へとだ。
「(さてどうするかな?とにかく酒と人肌が恋しい。鬼が居ないとなると山は天狗の巣窟か?)」
天狗はあまり得意ではない。
天狗は鳥妖とは少し違うのだが、まぁ蛇にしてみれば似たようなものだ。
蛇妖と鳥妖は仲が悪い。これは常識ともいえる。
インド神話のナーガを常食するガルーダのように。あるいは毒蛇をも喰らうゆえに信仰されるマハーマユリ(孔雀王)のように。
蛇にとって鳥は捕食者……天敵なのだ。
夜智王は蛇妖としてはかなり強い部類なので、木っ端天狗や烏天狗程度ならばどうということはないのだが。
「(人に化けて人里にでも行くか?しかしなぁ遊女はおらんだろうしなぁ)」
商売女は後腐れが無くて良い。
ただここの人里の規模を考えると……たぶん居ないだろう。
「(それに久々だ、うっかり死なれも困るしな)」
蛇妖である自分と交われば、相手は少なからず精気を吸われてしまう。
普段は問題なく制御できるが、長いこと封印されいていた今は、少々自身が無い。
そんなことで人を殺したとあっては紫の制裁が怖い。
「(さてどうする?河に行って河童でも釣るか?)」
それともいっそ地底に下りて鬼でも探すか、しかし地底は日の光が恋しくなる。
ままならぬものだ。
しかしこの道はいったい何処へ続いているのだろうか?
幻想郷の地理などまったく覚えていない夜智王はただ道為りに進んでいるが、辺りの雰囲気がだんだんと寂しくなっていることに、遅まきながら気づく。
道がある以上はこの先には何かがあるはずなのだが……
空を飛べばいいのだろう。出来ないわけではないのだが、好き好んで飛ぶ、ということもない。
「(さて、これはあれか迷子という奴か?)」
まぁ別にいいか。
焦るでも無く、夜智王は道を進んでいく。
何か目的があるわけでもなし。
人と違い空腹で倒れることない。
大抵の妖怪ならば負けることもない。
迷子になろうと困る事はないのだ。
長く生きた妖怪なので、無為に時間を使うことは別段苦痛でもない。
そう思った瞬間
「あら?」
耳に心地よい美声が聞こえた瞬間、背筋に悪寒が走った。
「あらあらあら?」
声と共に、背後に強力な妖気を感じる。
どちらかといえば感覚が鋭い方である自分の背後を、こうも容易く。
しかもこの妖気には覚えがある。
「久しいの幽香」
「なにやら見覚えのある蛇だと思ったわ、やっぱりあんたね夜智王」
振り返ればそこに美女が居た。
風見幽香
昔馴染みの妖怪がにぃ、と嗤った。
夜智王は本能的に戦闘態勢に入った。
これは“そういう”女なのだ。
しかし、それをみて幽香がくすりと笑う。
「何あんた?びびってるの?」
何かが彼女の笑いのツボに入ったのか、こらえ切れぬように笑い出す。
昔の幽香しか知らぬ夜智王は、ぽかーんとバカ面をさらすしかない。
それがまた幽香の笑うを誘ったようで、ばしんばしんと夜智王を叩きながら幽香が笑い続ける。
「のう本気で痛いからやめてくれんか」
「だってあんた、完全に後ろ取られてんのに、戦闘態勢に入るまで何秒掛かってんのよ?ばかじゃない?死ぬの?」
言葉も無い。さすがに百年近く封印されると色々鈍っているのだろう、自分ではイマイチわからんのだが。
「お前さん、随分丸くなったな」
「格下相手に本気を出すほどガキでは無くなったわね」
年月は偉大だ。
あの風見幽香がこんな風に笑うとはなぁ……
しみじみと夜智王は思った。
「いつ幻想郷に来たのよ」
「つい一刻程前だよ、さっそくスキマが注意に来た」
さてどうしたものか?
この女は怖いが美人だし出るところは出てるし、引っ込むべき所は引っ込んでるし、強い妖怪だから多少精気を吸われたって死にやしない。
まさに一晩のお相手にはうってつけなのだが……
前回はそれで、随分酷い目にあったのを思い出す。
背筋に悪寒が走り、睾丸がきゅっと縮む。
大分丸くなったようだが……妖怪というモノはそうそう本質が変わるものではない。
「あんたは相変わらずねぇ?」
考えていることがばればれだ。
コワイコワイ、やはりダメだ。
「私は自分よりよわっちいのに抱かれるのはゴメンよ、雑魚っぽいのがうつるでしょ」
ワシは病気か何かか?と思ったが、口にはしないで置く。
「まぁ良いわ、珍しい花の種が手に入って機嫌がいいから見逃してあげる、さっさと消えないさい」
ふむ、つまりなんだこの先はやはり人里なのか?
聞きたいが。
何がきっかけでこの女のご機嫌が麗しく無くなる可能性もある、ここはさっさと退散しよう。
「まぁなんだ、一人寝が寂しい時と夏の夜の寝苦しい時は呼んでくれ」
それでもセールストークを止められんのは蛇の性、困ったもんである。
「間に合ってるわ」
幸い何もされず幽香とは別れることが出来た。まことに僥倖だった。
幽香と別れて半刻(一時間)も歩いただろうか。
遠目に妙なものが見えた。
「(洋館?はて以前には無かった気がするな……しかし血の様に真っ赤とは良い趣味ではないか)」
興味が沸いた。
夜智王は遠目に見える洋館へと飛んだ。
館の手前十丈(30m)程手前で地面に降りる。
近くで見るとかなり立派な洋館だと解かる、手入れが行き届いている所を見ると誰かが住んでいるのだろう。
こんな人里離れた場所だ、無論只者ではないだろう。
「(西洋渡りの妖かの……さて別嬪ならばいいのだが)」
立派な門扉を見やれば、そこに門番が……寝ていた。
「……」
普通「何故門番が寝ているんだ?」とまともな神経の持ち主ならば思うだろう。
生憎この蛇は「まともな神経の持ち主」ではなかった。
「(ほうほうほう、これは眼福じゃな)」
門扉の横に置かれた長椅子に座り、幸せそうに寝ている門番。
人ではない、妖怪だ。
燃える様な赤い髪、大陸風の顔立ち、美しい少女である。
だが、例によってそれの視線は顔には向いていない。
「(スキマ程ではないが……良いモノをもっておるな)」
人民服のようなチャイナドレスのような不思議な服。
その胸部を押し上げる双丘をまったりと眺める。
半そでからまろびでた二の腕、深いスリットからこぼれる太ももへと視線を移していく。
何か武術の類をするのだろう、引き締まった体は健康的な美に溢れている。
胸もバカみたいにデカイのではなく、引っ込むべき所が引っ込んでいるゆえの巨乳。
「(いいな、まずこの娘にするか)」
するりと、足音もさせずに門番娘の横へと移動し、しゃがみこむ。
下から覗き込むと、まさに絶景であった。
惜しむらくは、これだけの体と露出のある服装にもかかわらず、少々色気に乏しいことか。
幸せそうに眠る姿には艶かしいものがまるでない。
そのうち鼻ちょうちんでもふくらますのではないだろうか?それでは折角の別嬪が台無しだろう。
「(ああ、でもこれは実に堕し甲斐のありそうな女だ)」
美しい紅い髪をちょいとつまみ上げる、普段は隠されているうなじに唇を這わせたら、この女はどんな声で鳴くだろうか。
この健全そうな少女を淫靡な妖婦に変えたらどんなに素敵だろうか。
想像するとゾクゾクとする。
「(しかし、起すには忍びないほどに幸せそうな顔で寝ておるなぁ)」
無理も無い。
こんな小春日和の、風も穏やかな昼下がりだ。
本性が蛇だけあって夜智王も日なたで寝るのは好きである。
ともすれば、女を抱くよりも好きかも知れない。
「(こちらも眠くなってきたの)」
門番の横に腰を降ろすと、夜智王は塀に背中を預け、一眠りすることにした。
どれ程時が経っただろうか。
隣で身じろぎする気配で蛇は目を覚ました。
「ひっ!」
こちらに気が着いたのだろう、素っ頓狂な悲鳴を上げて椅子から飛び上がった少女が身構える。
やはり武術の心得があるのだろう、その構えには隙がない。
「まぁそんなに身構えんでくれんかの」
「ど、どちら様でしょう!紅魔舘に何か御用が!」
この紅い洋館は紅魔舘というのか、そのまんまだな、と蛇は思う。
「ただの通りすがりの妖怪じゃよ、別段この館に用事は無いの」
「え?」
「今ワシは用があるのはそなたよ」
「え?私?」
「おお、ワシは夜智王、夜に智慧の智、王様の王で夜智王じゃ、見ての通り蛇妖じゃよ」
蛇の真意を測りかねた門番少女は目をくるくるさせている。
「名乗ったのじゃ、そなたの名前も教えてくれんかの」
「ホンメイリンです。紅に美しい鈴とかいて紅美鈴です。中国じゃありませんよ?」
なんじゃそれは?と首を傾げつつ蛇はころころと笑った。
「美鈴か綺麗な名前じゃの」
「あ、ありがとうございます」
美鈴はどうやら悪い妖怪ではないらしい、と判断したのか、構えを解くとペコリと頭を下げる。
妙に嬉しそうである。
「立ち話もなんじゃ、ほれ」
ぽんぽんと先刻まで美鈴が座っていたところを叩く。
「は、はぁ」
それ私の椅子です、と内心では思いつつも美鈴は腰を下ろす事にした。
無理矢理押し入る白黒の魔法使い、パパラッチのような烏天狗に比べれば、すこぶる良い人だし、美人だし、名前のことも褒めてくれたし。
すっかり油断しきった美鈴が椅子にストンと腰を下ろす、そのタイミングにきっちり合わせて、蛇が平行移動した。
すっぽりと美鈴を抱きすくめる形になる。
「ひゃぁ!」
「おー美鈴はぬくたいのぉ」
「ななななにをするんですかー!」
「何って、抱っこ?」
「なんで抱っこするんですかー!」
「ワシ蛇だから寒いのは苦手なんじゃよ、すっかり日も落ちてきたし、人肌が恋しかったのだ」
美鈴も女性としては長身な方なのだが、蛇は身の丈六尺(約180cm)はある、すっぽりと美鈴を抱きかかえることができる。
細い腰と胴に手をわまし、柔らかく抱きしめる。
「ふふ、美鈴は本当にぬくいの~」
一方でいきなり抱きかかえられた美鈴は、驚きと羞恥で大パニックに陥っていた。
そこへ
「ひっ!」
服の上からだが、夜智王の手がへそのあたりをさわさわと撫でている。
「やっ、やめてください!」
「うん?気持ち悪いか?」
「そうではないですけど!ひゃっ!」
気持ち悪くは無い、くすぐったいだけだ。
「妙な態勢で寝て居ったから体が凝っておるだろう、ひとつ按摩をしてやろう」
「そ、そんなトコ凝ってません~」
美鈴の耳元に口を寄せた夜智王がささやくよう言う。
耳に掛かる息のくすぐったさに、おもわずビクリと震えてしまう。
「(何……?なんか甘い……匂いが)」
酒のような甘ったるい匂いがする、その匂いのせいだろうか、美鈴の肌が紅潮し、まるで酒に酔ったかのように。
「(頭が……ぼぉっとして……なに?……コレ)」
「気持ちようなってきたかな?」
とろんとした様子で夜智王に背中を預けてきた美鈴。
夜智王はへその下あたりなどを中心に、あちこちを揉み解す。
それらは一般的に性的な欲求を増進するツボ、と言われている所だ。
「あ…あぁ……ダメですぅ」
夜智王の左手が服越しでも自己主張をする美鈴の乳房にそっと触れた。
同時に右手がスリットから内股へと伸びる。
ごくごく柔らかく夜智王の左手が乳房を揉む。
「よい乳だな」
「あ!…や……めぇ」
「やめて良いのか?」
左手が蠢く度に乳房がいやらしく形を変える。
マッサージをするように、柔らかく、全体を揉み続ける夜智王。
これはあくまで按摩なのだといわんばかりに、先端の敏感な突起には触れようとしない。
右手は内股を柔らかくなぞりながら、少しずつ上をと伸びていった。
服越しではなく直接肌の上をなぞりながら再び、下腹部を中心にマッサージを始める。
「どうした?なぜ首を振る」
左の乳房ばかりを執拗に揉まれているのがもどかしくてたまらないのだ。
だが、羞恥心がそれを口にすることを躊躇わさせる。美鈴はただ幼子のように涎を誑しながら首をイヤイヤと左右に振るしかできない。
「あっ!……」
唐突に夜智王の両の手が美鈴の体から離れる。
「嫌なのだろう?ワシは女子が嫌がる事はせんようにしておるのだ」
ひどい。
こんな風にしておいて――
「お願いです……つ」
続きを。
そう美鈴の唇が紡ごうとした瞬間。
風を切って何かが飛来した。