※この作品はR-18です。

東方蛇精譚・夜話   作:窓@

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蛇と九尾の狐、の巻

「すっかり膨らんだの」

「だめよ、あなた…お腹、触り方が、やらしい…」

 

明らかに妊娠している、そう分かる、膨らんだ下腹部を、さわさわと夜智王の手が撫で回す。

母子を慈しむ父親の手つきでは、無い。

臍の回りを愛撫され、もう産み月も間近といった風情の紫が、艶めいた声をもらす。

 

「おお、いま動いたぞ?元気な赤子だな」

「やっ、だめ、おっぱい何するの!?」

「こちらもいっそう膨らんだの、うん?張っておるぞ、揉みほぐしてやろう」

 

妊娠し、一回りも二回りも大きくなった乳房、服の上からでもはっきりと分かるそれを、夜智王の手が包む。

 

「ふふ、さっぱり手に収まりきらんようになったのぉ」

「あっ、やっ、だめぇ…そんなに、もんだらぁ」

「もんだら、なんだ?」

「ふぁ、おねがい、あなた、だめよ」

 

優しく乳房全体を揉みほぐされ、紫の顔が見る間に紅潮し、瞳が潤む。

恥じらうように快楽に耐える妊婦。

なんとも言えぬ、背徳的な情景であった。

 

「おやおや、なにやら湿って来たぞ?」

「だからだめ、って…母乳がでちゃうのよぉ」

「それはいかん、どうりで張っておるわけだ…辛かろう?」

 

今、楽にしてやるぞ。

労るような真摯な表情を一変させ、嗜虐的な笑みをうかべた夜智王が袷を開いて、紫の乳房を露にする。

ぼろり、と巨乳がまろび出る、すっかり尖った先端の突起からは、乳白色の液体が染み出していた。

直に乳房に触れ、優しく搾るように揉む。

ひぅっ、と紫が呻き、ぴゅっ、と吹き出した母乳が夜智王の顔にかかる。

舌をぞろりと伸ばし、それを舐めとる蛇の目が、きゅうと歪む。

旨いぞ、と大して旨くもない母乳を極上の甘露のように誉めそやしながら、蛇が口が乳首に吸い付く。

 

「んっ!だめぇ、すっちゃだめよぉ、そんなやらしいすいかた、やめてぇ」

 

いやらしい手つきで搾乳され、母乳を吸われる。

そんな変態的な行為に、紫はいやいやと首を降る。

しかしその腕は夜智王に絡み付き、離なさない。

そんな、口とは裏腹に甘えてくる紫の乳房を、左右均等に吸い続ける夜智王。

 

「んっ…だ、めぇ…おっぱい…すわれて、イ、イっちゃうぅ」

「イっていいぞ?」

「だめよぉ、だめったら…あ…」

 

 

 

 

「っ!」

 

微睡みをすっとばし、紫の意識は急速に覚醒した。

原因は言うまでもなく、淫夢である。

ひどい夢だった

 

「紫は寝顔も可愛いな」

 

枕を紫に提供しているからか、手枕で横臥している夜智王。

淫夢の原因が添い寝していた。

目を覚ました紫の頬に夜智王が接吻し、抱き寄せ、紫の柔らかな肢体を堪能する。

常ならば嫌がる紫だが、放心状態の彼女はされるがままだった。

 

「(夢……最悪……)」

 

ひどい夢だった、妊娠し、この性悪蛇を甘えた声で「あなた」などと呼んでいた、夢の中の自分を思いだし、怖気《おぞけ》が走る。

昨夜、ねちねちと夜智王に責められ、気絶するように眠りに落ちたことを、ぼんやりと思い出す。

無防備な寝姿を見られた、なんとも言えない恥ずかしさが、紫を赤面させる。

 

「こらっ!」

 

乳房に伸びてきた夜智王の手の感触に我に帰り、その手の甲を思いきりつねる。

 

「何してるのよ」

「いまさら照れんでもよいだろう?昨夜はあんなに」

 

皆まで言わせず、紫は夜智王をぐいっと押し退けると、床に放ったままの単を引き寄せ、さっと身に纏う。

 

「もう十分に報酬は払ったわよね?」

「つまらんことを言うな、これで三度目、平安の昔なら夫婦と成る所だぞ?」

 

後朝の歌でも一首歌いだしそうな夜智王、その目は悪戯小僧のように輝いている。

紫をからかうのが楽しくて仕方ないらしかった。

 

「なぁ紫、片意地を張らんで、もう一戦しようではないか」

「まっぴらごめんよ!こら、どきなさい!」

 

上半身を起こし、身を整える紫の太股にぽすん、と夜智王は頭を乗せる。

極上の膝枕に頬ずりをしながら、愛しそうに、紫の下腹部に手を当てる。

 

「っ!」

 

夢の内容を思い起こさせるような行為に、紫は顔を首まで真っ赤にし、ばしばしと夜智王の頭を叩く。

 

「何をしてるのよ!」

「紫がちゃぁんと孕むように念を送ってるだけだぞ?」

 

馬鹿。と紫が呟く。

 

「そんなに簡単に妊娠するわけないでしょう!」

 

妖怪はその力、長い寿命の代償として、極端に繁殖率が低い。

力を持たぬ人間が地に満ちていったとのは対照的にだ。

それは入ってしまえば自然の摂理であり、人と妖、その天秤を維持する物なのかもしれない。

大妖と称される紫、夜智王とて例外ではなく、むしろその傾向は卑称な妖怪よりも強い。

実際、あちこちで浮き名を流す夜智王が、妖怪相手は勿論、人との間に子を成したという話を聞かないのが、何よりの証拠だった。

つまり、紫と夜智王が一晩交わった程度で、子が出来ることは無いのだ。

 

「あれだけ出せばなんとかなると思うがなぁ」

「馬鹿…」

「うっかり地底で命を落としても、紫がワシの子を孕んでいてくれれば、心残りは無いのだがなぁ」

「え、縁起でもないことを言わないでよ!」

 

さらりと死亡フラグを立てる夜智王に、紫が声を荒げる。

 

「あなたを殺すなんて…」

「分からんぞ?灼熱地獄の炎で焼かれ続ければ、いつかはワシも再生しきれず命落とすだろうさ」

「そんなことは…」

「ワシは害することの禁じられた巫女殿ではないし。お主ら女子のする命名決闘法も段幕ごっこも、ワシら男共にはあまり合わん」

 

いざ戦うとなれば、それは殺し合いよ。

そう淡々と夜智王は言う。

 

「だからちゃんと孕めよ?」

「馬鹿…ふざけないでよ」

「ふざけてなどおらんぞ?」

「そんな天狗でもミシャグジ神でもいいじゃない」

「文には子種をやったこともないし、これからもやらんよ」

 

何故?と問う紫に、夜智王は自嘲的な笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「蛇の子など孕めば、狭量な天狗共が煩いだろう?産まれてくる子にしても合の子、魔縁、鵺と罵られることになる」

「それでもあの娘は良いのではなくて?あなたと添い遂げられるなら」

「楽しそうに新聞を作ってる文がワシは好きなのだよ、あれからそれを取り上げるようなことはしたくない」

 

紫は、押し黙る。

この蛇が妙に憎めないのはこういう所だ。

だが、それと自分が妊娠するのは別問題である。

 

「ミシャクジ様は?」

「それも無しだな、まぁ諏訪子は神だから、あれがその気になれば子は出来るかもしれんが、まそれはなかろうよ」

「なんでよ」

「信仰の不足で、昔より随分弱くなっている。神が子を産むということは霊《たま》を別けるということだ。今の諏訪子には無理さ、下手をすれば消滅する」

「…吸血鬼は?」

「レミリアは、まだ子を産むような体ではないだろうが」

「そうね…」

 

他の女の話などやめよ、といって夜智王はすりすりと紫の太腿を撫でる。

 

「触り方がいやらしいのよ!もうっ」

「だって紫の膝枕が気持ちよすぎるのだ。もう地底のことなど放っておいて、ずぅっとこうしていたい」

「どこに顔を寄せてるのよ!ばかっ!」

 

股座に顔を埋めようとした夜智王の頭をばしんばしんと紫が叩く。

 

「さすがにちと痛いぞ紫」

「あんたがいけないんでしょう!」

「わかったわかった、もういやらしいことはせんから、もう一眠りしよう、朝と呼ぶにはまだ早い時間だ」

「もうっ!」

 

夜智王が紫を抱き寄せたまま横になり、あっと今に意識を手放し、寝息を立て始める。

逞しいというには夜智王の体は細すぎたが、それでもその腕に収まり、胸に抱かれると、妙な安心感が全身を包む。

元々一日の半分は眠って過ごす紫である、睡魔には弱い。

 

「ばか…」

 

何度目かの幼稚な罵りを呟きつつ、眠りに落ちていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に可愛い寝顔だな」

 

すっかり太陽も昇りきったあたりで夜智王は目を覚ます。

腕の内の紫は、すやすやと眠っている。

夜智王と相対する時は常に険しい目も、小憎たらしいことばかり言う口も、今はただ愛らしい寝顔となっている。

 

「のぉ九尾、何もせんから、その殺気を向けるのはやめんか?」

 

紫の寝顔を愛でつつ、暢気な声で夜智王はそう言った。

全身の毛が逆立つような強烈な殺気が、夜智王にのみ向けられている。

発しているのは、言うまでも無く紫の忠実な式、九尾の妖孤、八雲藍であった。

染み出すように、部屋の片隅に現れた藍は、険しい表情で夜智王を睨んでいる。

 

「…さっさと地底に向かえ」

「合意の上での情交だぞ。紫とて女子だ、ただただ男に甘えたい時もあるのさ、察してやれ」

「うるさい、八つ裂きにされたくなければ、今すぐ紫様から腕をどけろ」

「やれやれ。なぁ九尾?お主がワシを憎く思うのは―」

「うるさい!」

「はぁ…まったく」

 

取り付く島もない藍に、ぼりぼりと頭を掻き、寝具から這い出した夜智王は、一張羅の着流しを纏い、まずは寝覚めの一杯と、杯に酒を満たし干す。

空になった杯を再度酒で満たし、ついと藍に向ける。

 

「呑むか?」

 

殺意のあまり、狐の本性を露にし、獣の目で睨む藍。

言うまでも無く、否であった。

 

「さよか」

 

自分で杯を空にし、夜智王は立ち上がる。

 

「では紫によしなにな」

 

すやすやと眠る紫の番を頼むと、背後に痛烈な視線を感じつつ夜智王は我が家を後にする。

我がことながら、嫌われたな、と苦笑いを浮かべる。

紫の式になったばかりの藍とは、別に仲は悪くなかったのだ。

 

「紫が悪いのだ」

 

厄介事の報酬に紫との交わりを要求した時。

紫はよほどに嫌だったのだろう、藍に後を任せて逃げ出した。

健気な式は、さすがは狐、夜智王ですら見抜けぬ程完璧に紫に化けて、その身を差し出したのだ。

別に紫はそこまでしろとは言っていなかっただが、なんとかなるだろう、という楽観が藍にもあったようだった。

なにせ彼女はかの傾国「白面金毛九尾の狐」の娘、蛇の一匹や二匹と思うのも無理は無い。

ただ、少々相手が悪かった。

 

「まさか、玉藻の娘のくせに、生娘だとはなぁ」

 

紫だと思って散々に愛したので、少々刺激が強すぎた。

変化が解けて正体を現した藍に慌てた夜智王は、やむなしと彼女に暗示をかけて忘れさせようとした。

これがまずかった。

元々、完璧に紫になりきる為に自己暗示をかけていた藍の術と、夜智王の術が絡んだ結果。

藍には「無理矢理夜智王に乱暴された」そんな記憶が残ってしまったのだ。

以来、すっかり嫌われ、憎まれている。

自身とは縁の薄かった母親と仲の良かったという夜智王を、藍は密かに慕っていた、それだけに憎悪も深まる。

文の時と同じパターンだった。

 

「いずれなんとかせんとなぁ」

 

そんな事を思いながら、夜智王はまず間欠泉が沸いたという博霊神社へと飛んだ。

 

 

 




藍さまが玉藻前の娘なんてぇのは言うまでも無く独自設定です
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