※この作品はR-18です。

東方蛇精譚・夜話   作:窓@

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蛇と蓬莱人の少女と月の姫、の巻

「(お腹が空いた……)」

 

死とは何人にも平等に訪れる“安らぎ”なのだと。

そうを悟ったのは、蓬莱の薬を飲み、老いることも、死ぬこともなくなって、しばらくのことであった。

最初の頃辛かったのは空腹、餓えだった。

餓死しても死ぬことはない、だが生き返ったところで腹がふくれるわけでもない。

 

「うっ、うぇ……(なんで、なんでこんな辛い思いをしなきゃならないの?)」

 

餓えに負け、野草や木の実を知識もなく食い、毒に中り「いっそ死んだ方がまし」そう思う程に苦しむこともあった。

 

ある時、親切にしてくれた夫婦が有った。

子供が出来ないのだ、と道端で倒れていた妹紅を保護し。

私たちの子にならないか?と言って貰えた時、嬉しくて妹紅は声をあげて泣いた。

しかし

 

「いやっ!やめてっ!いや、いやぁぁぁぁ!」

 

彼らの生業は盗人であった。

人買いに売り飛ばされ、変態男に買われ、凌辱の果てに殺された。

生き返り、絶望のあまり発作的に自ら命を絶っても、果たせず、何度も何度も繰り返すうち、妹紅の心は壊れていった。

 

山野に隠れ、獣のように生きる。

冬になって食べ物がなくなると、遊女の真似事をし春をひさぐことにも慣れた。

 

惨めな生活は、ある老陰陽師に出会うまで続いた。

 

「わしの弟子にならんか?」

 

異形のモノに親しむ陰陽師は妹紅を気味悪がることもなく、生きる術として様々な陰陽の業を、惜しみ無く伝授してくれた。

師としては厳しかったが、普段の生活では孫のように妹紅を慈しんだ。

すっかり他人という生き物を信用出来なくなっていた妹紅も、少しずつ老人に心を開いていった。

不死の身になって約三百年目。

手にしたささやかな安息。

しかし、その安息が永遠に続く事は無かった。

妖怪退治に出掛け、返り討ちに会い老陰陽師は返らぬ人となった。

悲しみよりも怒りが妹紅の心を支配した。

元より素質があったのだろう、老陰陽師の仇を討つのを皮切りに、片っ端から妖怪を殺戮するうち、妹紅の力は増していく。

妖怪退治の謝礼は食うために貰ったが、ただ殺すために、妖怪を殺す、荒れた日々が続いた。

 

夜智王との最初の出会いは、もはや並の妖怪では相手にならない程、妹紅が強くなった頃。

三百年近く経った頃だった。

 

 

 

「あ、あな!なに、して!」

 

顔を真っ赤にした黒髪の少女が、身を寄せ合う二人を指

差し、金魚のように口をぱくぱくさせる。

 

「見てわからないのか?」

 

妙に勝ち誇った様子で妹紅はそう言うと、少女に見せつけるように夜智王の首に腕を回し、しなだれかかる。

 

「とりっ!?とりっ!?」

 

言語中枢が麻痺してしまったのか、まともにしゃべれない黒髪の少女。

 

「(はて、どこかで見たことがある気がするが)」

 

絹糸のように美しい、艶やかな長い黒髪。

ふっくらとした頬、ぱっちりとした目元。

和風の上着とスカートはリボンやレースで飾られているにもかかわらず、少女の纏う雰囲気のせいか?まるで十二単のようにも見える。

一度あったら忘れない、印象的な美少女である。

 

「知り合いか妹紅?」

 

夜智王の問いに、妹紅はわざとらしく、耳元に唇を寄せ、囁くように耳打ちする。

ひどく艶めいたやり取り。

ますます黒髪の少女の白い肌が羞恥に紅く染まっていく。

 

「……なよ竹のかぐや姫」

 

蓬莱山輝夜。

月人の姫でありながら、蓬莱の薬を飲んだ罪で地上に落とされた不死の少女。

道理で見覚えがあるはずだ。

 

「そなた月に帰ったのではなかったのか?」

 

のんびりした調子で夜智王が問う。

 

「夜智王、お前あいつと知り合いなのか?」

「都がまだ飛鳥に会った頃だったか?名だたる貴公子を五人も袖にした美姫がいると聞いてな」

 

いったいどんな美女かと、心踊らせながら夜智王は竹取の翁の邸宅に忍び込んだ。

 

「あ、あなた、あの時の蛇さん?」

「人の姿で会うのは初めてだったな。さよ、久しいな、なよたけの姫」

「それで、夜這いでもかけたのか?」

「いや、どんな妖しい姫かと心踊らせて行ったのだがな」

 

随分と愛らしい少女だったので、少しがっかりした。

蛇の姿のまま、幾晩か、おしゃべりだけの逢瀬を重ねたのだ。

 

「がっかりって何よ!失礼ね!!」

 

憤慨する輝夜に、妹紅がぷっと思わず吹き出す。

きっ!と射殺できそうな視線を妹紅に向ける輝夜。

一触即発の事態に夜智王が割って入ってとりなす。

 

「そう怒らんでくれ、なよたけの姫、そなたは美しく、愛嬌のある、可愛らしい女子だ」

 

月から追放された姫は話し上手だった、古い蛇は他愛もないおしゃべりを楽しんだことを良く覚えていた。

 

「ただわしはもっとこう……妖しい美貌の、艶めいた美女が居ると期待していたのでなぁ」

 

つい、と夜智王の視線が輝夜の控えめな胸に向けられる。

視線に気がついた輝夜がさっと胸を腕で隠す。

 

「悪かったわね!胸のおっきな妖艶な美女じゃなくて!」

「いや、そのけしてそなたの体つきは悪くないと思うぞ」

 

胸は控えめだが、別段幼児体型なわけではない。

くびれた腰、まろやかな曲線を描く女らしい体型だと蛇は力説をする。

 

「なんで知ってるのよ!」

「見ればだいたい解る」

「いやらしい事言わないで!」

 

むきー!と輝夜が地団駄を踏む。

千年以上昔、同じ会話をしたことを思い出し、夜智王はからから笑う。

翻弄される輝夜が可笑しいのだろう、妹紅も夜智王に抱きつき必死に笑いを堪えている。

 

「ちょっと妹紅、笑い過ぎじゃないかしら!?人の事を笑えるような体じゃないでしょう」

「ふん」

「なによ、その顔」

「確かにあたしの乳は、慧音や永琳ほど、たわわに実っちゃいないけどな」

 

薄い上着越しに薄い胸を夜智王に押し付ける。

 

「こいつにしっかり開発されてるからな、未通《おぼこ》娘のお前の硬い乳とは違うんだよ」

 

ふにゃり、と確かに見た目よりも柔らかな肉が歪むのが解る。

夜智王の顔もふにゃりとだらしなく歪む。

それがまたひどく輝夜には腹立たしい。

 

「おぼっ、誰がおぼこ娘よ!」

「お前、違うのか?」

「うっ……ぐ、ぐぐぐ」

 

言い合う少女二人。

どうどう、と夜智王が割って入る。

 

「そなたら、仲が悪いのか?」

「そうでもないさ、殺し合う程度には仲がいいよ」

「なんじゃぁそりゃ」

「とにかく輝夜、邪魔だから今日は遠慮してくれ」

「い、嫌よ!」

 

何故か輝夜が反対側から蛇に抱きつく。

 

「おい」

「私だって、それなりでしょう?」

「いやいや、これは極楽だなぁ」

 

両側から美少女に挟まれ夜智王がからからと楽しそうに笑う。

そんな夜智王を挟んで、妹紅と輝夜の視線がかちあい、火花を散らす。

 

「無理するなよ輝夜、ぷるぷる震えてるぞ」

「あなたこそ妹紅、口元がひきつっていてよ」

「これこれ、喧嘩はやめよ」

「ねぇ蛇さん」

「ん?」

「あなた、あの夜、私を連れて逃げるてくれるって言ったじゃない、忘れて?」

「忘れてはいないが、そなたが拒否したのであろう?残される翁と媼に迷惑を掛けたくないとな」

「もう……二人共いないわ、あの時の求婚はまだ有効?」

「おい夜智王、あたしの初めて、無理矢理奪った時の事、忘れてないよな?」

 

ぬぅ、これはまずい、と夜智王は笑顔を引きつらせた。

別段、二人共夜智王のことを本気で好いているわけでもないし、深く愛してるわけでもない。

ただ、互いに張り合って、譲りたくない、負けたく無い相手なのだ。

はて、どうしたものか。

据え膳食わぬは男の恥、だが、男であるが故の矜持プライドというものがある。

 

「二人とも、落ち着いけ、ほれ息を大きく吸って、ゆっくり吐くのだ」

「私は落ち着いてるわ。蛇さんなら、いいもの……蛇さんは私なんて、嫌?」

「おい夜智王」

「妹紅は黙っていて。たしかに胸はそんなにないけど、一生懸命、頑張るから、ね?」

「ぐぬ……」

 

上目使いに涙目で輝夜が迫る。

女の武器の使い方は一流だ。

 

「いいぜ、いつものやり方で、どっちが夜智王と寝るか決めよう」

「下品な言い方しないでよ!……いいわ、こてんぱんにしてあげる」

「お、おいおい、何を始める気だ」

「「殺し合い」」

 

二人の少女は異口同音に言い放ち、外に飛び出した。

おい、待て、と制止するが、竹林の上空に弾幕の花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

「こ、ここは……」

 

ざばっと水音がして二人は意識を取り戻した。

 

良くわからない意地の張り合いから殺し合いが始まり、いつも通り決着はつかず。

相打ちのような格好で二人共死んだはずだった。

共に蓬来の薬を飲んだ蓬莱人だ、本当の意味で死んだわけではないが、一度死んで息を吹き返したわけだが。

妙に暖かいのは、なぜだ?

 

「お風呂?」

 

大岩を穿って作られた凝った趣向の岩風呂。

満たされた温水が心地良い。

 

「おう、少し頭は冷えたか?」

「夜智王」

「って、ちょっと待っては、裸!」

 

慌てて身体を背け、蛇から隠した輝夜がざぶんと湯に肩まで浸かる、だが透明な湯に、白皙の肌が薄紅色に染まっていく様子は隠せなかった。

 

「さっきまで何をするつもりだったのだ姫?食事の用意もしとるから、ゆっくり浸かって、温まるようにな」

 

頭はともかく身体を冷やすのはだめだ、そう言って夜智王は屋内に戻っていく。

はぁっと安堵の息を吐く輝夜を、妹紅がくすくすと笑う。

 

「何よ」

「別に」

「殺すわよ」

「やめとけ、たぶんここは夜智王の領域だ、荒事はご法度だぞ」

 

ぐぅっと身体を伸ばし、妹紅は風呂を堪能する。

普段は水浴びで済ませているが、風呂は良い。

 

「いい湯だな」

「それは、確かね……ねぇ妹紅、あなた、蛇さんとどういう関係なの?」

「色々あって、何年か一緒に暮らしてた……お前こそ、随分と仲が良かったみたいだな」

「色んな公達が言いよって来たけど……蛇さんは、そうね、私の本質に近い所を好きって言ってくれたから」

「女たらしは変わらないな」

 

そうね、と輝夜は返しつつ、思わず隠す気のない妹紅の肢体を凝視してしまう。

裸は普段の殺し合いで服が破れて見たことは有る。体型は自分とそう変わらない。

だが、じぃっと見つめると、確かに自分よりも、なんというかいやらしい体な気がする。

男を知っているから?

 

「おい、変な目で見ないでくれ、気持ち悪い」

「痛かった?」

「は?」

「やっぱり最初は痛いんでしょう?あと、私達ってほら傷が治るわけでしょ?どう、どうなるのよ……」

 

何年生きようと、心は年頃の少女なのだ、興味津々といった様子で輝夜が聞いてくる。

 

「お前とこんな話をする日がくるなんてなぁ」

 

隔世の感を覚えつつ、にやりと笑った妹紅は輝夜にそっと耳打ちする。

ぽんっと輝夜が首まで羞恥に染まって真っ赤になる。

 

「そんなんであいつを誘惑しても無駄じゃないか?」

「し、信じられない……」

「何が信じられんのだ?」

「ひっ!」

 

音もなく現れた夜智王に吃驚したのか、跳び跳ねるように妹紅を盾にして輝夜が身を隠す。

 

「何を言ったのだ妹紅」

「女同士の話だ、秘密に決まってるだろう?」

「やれやれ、まぁいいか……せっかくだから乾杯しよう」

「何で裸なのよ!ちょっと待って!せめて湯帷子!!」

「ここはわしの風呂だぞ?」

 

きゃーきゃーと騒ぐ輝夜を無視し、夜智王は風呂に入る。

 

「結局呑むのか」

「少し試したい酒があってな、感想を聞きたい」

 

そう言い、夜智王は妹紅の杯に酒を注ぐ。

注がれた酒が見る間に凍っていく。

 

「みぞれみたいだな」

「さよ、氷結酒とか、みぞれ酒というらしい、夏場の方がいいかもしれんが、風呂に入りながらも良さそうでな、溶けん内に呑ってくれ」

 

妹紅がくい、と杯を傾けて一息に干す。

ほぉっと白い息を吐き出す。

 

「ああ……いいな、氷菓子みたいだ、おかわり」

「わ、私も」

 

興味がわいたのか、夜智王の裸から目を背けつつ輝夜も杯を受け取り、上品に一口呑む。

 

「素敵、良いわ、これ」

「気に入ってくれたようで何よりだ」

「おかわり」

「あたしも頼む」

「これ、どうやって作るのかしら?」

「ゆっくりと、本来は酒が凍ってしまう温度よりも低く酒を冷やすのだ、こうして注ぐとみぞれ状になる、洋風に言えば酒のしゃぁべっと、だな」

 

冷却の術を細かく制御できなければ作るのは難しいだろうな。と夜智王。

 

「難しそうね」

「月の賢者殿に相談するのだな」

 

そんなとりとめないの話をしつつ、一杯また一杯と杯を重ねて行く。

 

「あのね、へびさん、わたし、うれしかったのよ」

「うん?」

「あのとき、いっしょににげよう、っていってくれて、すごくうれしかった」

「そうか」

「でも、おじいさんたちに、めいわくかけたくないから、はい、っていえなかった、あなたが、それをわかってくれて、それも、すごくうれしかった」

「姫、フラついとるが大丈夫か?」

「うん?らいじょうぶ」

 

大丈夫ではなさそうだなぁ、と夜智王は苦笑いする。

全身を真っ赤にした輝夜は、すでに妹紅にすがりつくようにして上体を支えている有り様だ。

妹紅の方は大分迷惑そうだが、邪険に振り払わないあたり、たしかにそんなに仲が悪いわけではないようだ、と夜智王は納得した。

 

「おい輝夜、飲み過ぎだ、あとのぼせてないか?」

「へいきよ」

「いや、だめだろ、もう上がって水でも飲んで寝てろ」

「いやっ!」

「なんでだよ」

「あらひいなくなったら、ふらひでやらひいことするんれひょ!」

 

あたしもっ!

と酔っぱらいが喚く。

 

「おい夜智王、めんどくさいから、お前抱いてやれよ」

「嫌だよ、酔った勢いでなど、姫はどうせ未通だろ?」

 

初めてはちゃんとした、と言いかけて夜智王はばつが悪そうに妹紅を見る。

 

「気にすんなよ」

「すまん」

「いいって、どうせ膜も元に戻っちまうからな、要は慣れだよ」

 

そう言い、妹紅は夜智王との昔を思い出し始めた。

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