※この作品はR-18です。

東方蛇精譚・夜話   作:窓@

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蛇、ミシャグジ神と人里を堪能す、の巻

「楽しかったね!」

「それはよかったの……」

 

早くも西へと傾きつつある秋の太陽を眺めながら、疲れはてた声で夜智王は首肯した。

人里の団子屋、店の前の椅子に腰掛けた夜智王、その膝の上にちょこんと諏訪子が座っていた。

くたびれた様子で茶をすする夜智王に対し、諏訪子は団子を頬張りながら、嬉しそうに胸に下げたペンダントを弄くっている。

 

「あまり弄ると欠けるぞ」

「大丈夫だよ」

 

七宝焼のペンダントである。

蛇に巻き付かれた蛙という、作者は蛙に恨みでもあるかのようなデザインだが、この上無く諏訪子に似合いであった。

結局軍資金 の確保に里で一番の道具屋「霧雨道具店」で鱗を売りにいった時手に入れたものだ。

 

 

 

 

 

暫くぶりの幻想郷であったので、当代の店主とは面識がなかったが。

ただ「妖怪避けのお守りを売りに来る蛇」

というのを店主は知っていたようで、快く取引に応じてくれた。

団子たらふくと屋台で一杯。

それと饅頭一包み分と賽銭として幾ばくか。

それで買ってくれと鱗を出した夜智王に店主は難色を示した。

安すぎる。と言うのだ。

ただ夜智王を譲らなかった、永遠に効果の有るお守りではないし、効くのはごく下級な妖怪である。

好奇心旺盛で被害に遭いやすい子供。

狙われ易い女。

あとは山で糧を得る猟師に「気休め」として安く売ってくれ。と……

まして鱗などすぐに生えてくるもの、他に金銭を得る方法も無いのでこうして鱗を売るが、正直それは夜智王の趣味ではなかった。

もっと効果の強い物であればともかく、さっきも行ったように気休め程度の上、消耗品なのだ。

だいたいにして効きすぎるお守りを提供したとなれば、夜智王もただではすまない。

眉間にシワを寄せ、柳眉を吊り上げた紫が

「妖怪と人間の均衡がうんたらかんたら」

と説教に来るに違いない。

しかし店主も譲らない。

正当な対価を払わないのは商売人の矜持が許さないらしい。

押し問答をしていると、物珍しそうにキョロキョロと店内を見物していた諏訪子が、件の七宝焼のペンダントをじっと見ていた。

目敏く店主が「お連れ様がご執心のあれを付けるということでどうでしょう?」と切り出した。

夜智王は二つの返事で承諾した。

 

「済んだぞ諏訪子、外で待っておれ」

「は~い」

 

後ろ髪を引かれつつ、諏訪子は先に外に出る。

 

「可愛くお包みしますか?」

「いらん世話だよ女将」

 

店主の連れ合いとおぼしき女性の、からかうような笑顔に辟易しつつ、代金と七宝の入った包みを受けとる。

外で待っていた諏訪子に「待たせたな」声を掛け。

ほいと包みを渡す。

 

「何?」

「店主がおまけをつけてくれた」

 

包みから転がり出たペンダントに諏訪子が眼を輝かせる。

 

「いいの!?」

「無論だ」

「えへへへ」

 

満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに美しい七宝焼を眺める諏訪子。

 

「どれかけてやろうか」

「ちょっと待って」

「っ!」

 

諏訪子が夜智王の髪を二三本引っこ抜く。

ぶわっと夜智王の全身から冷や汗が吹き出す。

 

「えへへへ」

 

笑いながら、ペンダントの紐に夜智王の髪を巻き付けて行く諏訪子。

 

「紐が切れないおまじないだよ」

「そ、そうか……」

「できた、かけて夜智王」

 

嬉しそうに言い、ペンダントを夜智王に渡す。

捧げるように恭しく諏訪子の首にペンダントをかける。

 

「えへへへへ」

 

顔が緩みっぱなしの諏訪子、その笑顔はとても愛らしい。

しかし、祟り神に髪を取られた夜智王は内心穏やかではいられない。

呪いと書いてまじない。

である。

 

「(ワシそろそろ怒ってもいいんではないだろうか?)」

 

人気の無いの所に連れ込み、裸にひん剥いて、ひぃひぃ言わせてやろうか。

邪な感情がもたげる。

しかし

 

「ありがとね夜智王!」

 

眩しいまでの笑顔を浮かべる諏訪子に、あっさりと夜智王は毒気を抜かれた。

 

「(ま、嬉しそうだし、良しとするか)」

 

そう思うことにした。

どうにも女子供には甘い夜智王であった。

 

 

 

 

 

軍資金も得たので、まずは団子屋で団子を買い食い。

その後は商店を冷やかして回る。

可愛らしいワンピースを当てて「似合う?似合う?」とはしゃぐ諏訪子。

寺子屋を覗き見し「お主も通うか?」と言っては叩かれ、教師役の娘の器量に「ほほぅ」と関心しては叩かれる夜智王。

稗田の阿礼乙女を訪ねて、世間話に興じたり。

夜雀の屋台の出現位置を聞いて回り、早々と準備を始めていないかとあちこちを巡ったり。

夜雀にとっては幸いなことに、屋台は見つからなかった。

気が付けばあっという間に時間は過ぎて黄昏時が近づいていた。

休憩とばかりに再度団子屋に赴き、今に至る。

 

「もー夜智王しゃんとしなよ」

「ワシはもう疲れた」

 

老人の様に背を丸め、ずずずと茶を啜る夜智王。ひどくジジムサく、折角の美男子が台無しである。

 

「(しかし、あの七宝、かなり古い良い物だの・・・あの親父食えんな)」

 

チラリとペンダントに視線を向ける。

恐らく名のある作者の物だが、外の世界では既に失われている事になっているだろう。

道具屋の主人に一杯食わされたのは癪に触るが、諏訪子も喜んでいるし、店主の粋な計らいを素直に褒めるべきか。

 

「聞いてるの!?次は夜雀の屋台を襲うんだからね!」

 

冷やかすのではなかったのか?

そうつっこもうとした夜智王の前に、誰かが立つ。

くいと視線を向けると、そこに早苗が居た。

 

「巫女殿」

「あれ早苗」

 

恐らく二人を捜してあちこちを駆けずり回ったのだろう。

ボロボロで疲れ果てた様子の早苗、頬には涙の痕も見える。

次の瞬間、ぐしゃりと早苗の表情が崩れ、ぼろぼろと泣き始めた。

何せ往来のど真ん中である、目立つことこの上ない。

 

「何?愁嘆場?」

「巫女様相手に?幼女と?」

 

ひそひそと夕飯の買い物に来ていたらしき主婦たちが話し始める。

まずい、このままではまずい。

ひょいと諏訪子を持ち上げ隣に置くと、早苗の手を取り引き寄せる。

 

「何故に泣くのだ巫女殿、ワシは女子の涙が苦手だ、堪忍してくれ」

「うぇ、ひっく……やちおうさんのばかっ!」

 

またか。

唐突な罵声に夜智王は頭を抱える。

何がどうしていきなりワシは罵られているのか。

 

「わたしから…うぇっ…すわこさま、とらないでぇ」

 

……

どうやら仲睦まじく団子を食べている二人を見て、早苗は諏訪子を夜智王に「取られた」と感じたらしい。

 

「(この年にもなって頑是無い幼児の様なことを言われてもなぁ)」

 

ぽかぽかと力の入ってない拳で夜智王の胸を叩く早苗。

諏訪子も、どうしたものか?と言う表情で思案している。

 

「まぁ座れ巫女殿……親父団子と茶……いや甘酒をくれ」

「へい」

 

すでに準備万端で用意していた団子屋の親父が、すっと団子と甘酒を持って来る。

さすが幻想郷の団子屋の親父、只者では無い。

 

「ほれ、食べよ。旨いぞ」

「ひっく!こどもじゃないんですよぉ!ばかにしてぇ……もぐ……おいひい」

 

泣きながら団子を頬張る早苗。

とりあえず泣き止んだ。

子供だ、完全に子供である。

 

「まぁなんだ。別にワシは巫女殿から諏訪子を取ったりはせんからな。安心せい」

「呼び捨て……」

 

じとっっとした目で早苗は夜智王を睨む。

どうしろと言うのだ。

困り果てた夜智王が諏訪子を見る。

やれやれと言わんばかりに諏訪子が首を振る。

バカにされたようで腹立たしいが、ここは諏訪子に任せるほか無い。

 

「大丈夫だよ早苗。夜智王は私のものだけど、諏訪子は夜智王のものじゃないからね」

「何気に酷いのぉ」

 

夜智王のぼやきは無視し、早苗の前に立った諏訪子はよしよしとその頭を撫でてやる。

諏訪子の薄い胸に顔を埋めて早苗はべしょべしょとぐずる。

 

「ほんとですか?」

「本当だよ」

 

ぽんぽんと早苗の背中を叩いてやる諏訪子。

どうみても姉妹(諏訪子が妹だ)にしか見えない二人だが、諏訪子の表情には母性のようなものが垣間見えた。

まるで母子だの、と夜智王は思った。

 

「やれやれ、泣く子には敵わんな……諏訪子、今日はお開きにしよう、今宵はたっぷりと巫女殿を甘えさせてやれ」

「仕方ないね……しばらく用事があって私も神奈子もちょくちょく留守にするから、時々早苗の相手をしてあげてよ夜智王」

 

ただし夜の相手はまだ早いからね?と物騒なことを言う諏訪子。

それは御免だと言ったろう。神奈子殿に殺される。

 

「じゃぁまたね」

「ああ、またな」

 

しゃっくりをあげる早苗を慰めながら諏訪子は去っていった。

 

「……」

 

一人残された夜智王に、周囲の視線が集まる。

巫女と幼女を巡る謎の三角形、一体どういう状況だったのか意味不明である。

ただ団子屋の親父だけが、酸いも甘いも知り尽くした様なしたり顔で酒を一杯出してくる。

黙って受け取った夜智王はそれを一気に呷ると、多少色を付けた代金を置いて立ち上がる。

 

「迷惑をかけたな親父」

「いえ」

「馳走になった」

「ありがとうございやした」

 

ハードボイルドに決めて歩き出す夜智王。

しかし周囲のひそひそ話しと好奇の視線は止む事がなかった。

 

 

 

 

 

これ以上人里に留まるとロクなことにはならない。

人の噂も七十五日、あっという間では無いか、冬も近い冬眠している間に消えるはずだ。

まぁ冬眠はしない夜智王だが。

すっかり暗くなった夜道を、当ても無く夜智王は歩く。

さて今宵の床はどうするか。

神社は当面御免だ。

すでに諏訪子とのことは耳の早い天狗には届いているだろうから、文のご機嫌を取っておくべきだろうが・・・神社のある山には向かいたくない。

あと以外にも悋気持ちの文と会うのがちと怖い。

先刻立ち寄った稗田家にでも泊めてもらうか。

しかし当代の阿求は幼すぎて手を出す気にもならない、一人寝は寂しい。

紅魔舘に行って美鈴としっぽり、と思ったが……場所が分からない。

文に山まで連れて行ってもらったのが仇になった。

 

「夜雀の屋台でも探すか」

 

結局そうなるのか。

と嘆息していると、前方にぼうっと人魂が見えた。

珍しい、亡霊でも迷い出たか。と目を凝らす。

この際亡霊でも女ならば良いかもしれん、一晩語り明かすにはうってつけの相手かもしれぬ。

だが、夜智王の思惑に反し、前方から現れたのは、人魂を伴った一人の少女だった。

可愛らしい少女だ、諏訪子程は幼くないが、女というにはまだまだ程遠い。

おかっぱ髪にカチューシャ。

下は緑色のスカートと白いフリル。

上は白い袖の膨らんだ半そでのシャツで、緑色のチョッキのような物を来ていて、胸元のリボンが可愛らしい。

暗がりに浮かび上がる肌の白さに夜智王は驚く。

あれは……人か?亡霊か?

いずれにせよ大小二本の刀を帯刀している。

その歩みには隙が無く、相当に使うことがすぐに分かった。

 

「(はてあの刀、見覚えがあるな)」

「誰です!」

 

思案している夜智王に気が付いたのか少女が身構えて誰何の声をあげる。

 

「夜に人里の外をうろうろするとは……さては妖怪!」

「お、鋭いのお主」

「……人里近くで何を物色していた!」

 

何やらおかしな勘違いをしているらしい。

刀の柄に手をかけた少女を見て、夜智王は頬を掻く。

 

「ワシは人里を襲う――」

 

なんて考えてもいない、そう続けようとする。

しかし、少々言い方が悪かった。

「襲う」と言った辺りで完全に勘違いした少女が叫ぶ。

 

「問答無用!」

 

少女は身を低く沈めると、大地を蹴り夜智王へと肉薄する。

一瞬で二人の距離が縮まる、特殊な歩法を使っているのだろうか、速い。

気合の声を上げながら、少女は鯉口を切る。

刀身が月光を反射し闇夜を切り裂く。

一挙手一刀足、間合いに入った瞬間迷わず抜刀、横薙に夜智王の胴を目掛けて切りつけた。

 

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