【注意書き】
・この話の中に行為シーンはありません。
・男臭いシーンはあります。
・マグナ達の冒険活劇の文量が思った以上に伸びてしまったため、物語を知りたい方、もしくはガチホモ要素を楽しんで読んでいる方は閲覧してみてもよいかもしれません。
・一応ルウという娘は出てきます。
-------------
「それじゃあ、結局モーリンは戻らなかったのね…」
「ああ、海岸の軽巡隊にも一応調べてもらったんだが、残念ながらそれらしい情報は見当たらなかった。」
―海賊討伐を終えた朝、フォルテとケイナがいなくなった仲間、モーリンのことを心配している中、マグナはカザミネと話し込んでいた。
「なあカザミネさん。昨日の戦いで分かったと思うが俺たちはああいった戦いに何度も直面するかもしれないんだ。」
「あなたの剣の修行にもってこいじゃないか?」
「そうでござるな…。マグナ殿には釣り竿を買っていただいたり色々と親切にしてもらったでござるからな…」
「拙者も武者修行の一貫としてお主たちに同行願おう。
どうかよろしく頼むでござるよ。」
無事にカザミネが一行の仲間に加わった。喜ぶマグナを横目に、ネスティは昨日彼が海賊討伐を請け負った理由が何となく分かった気がし、ため息をついた。
-------------
―犠牲を払いつつもファナンに蔓延る海賊を討伐したマグナ達は特に行く宛もなかったので、アグラバインの伝言に従い禁忌の森を目指すことにした。
今彼らはまさにファナンの門を出て街道沿いに北へ
向かっている。
「それじゃあ、ミニスは金の派閥の議長の娘だったってことか!?」
ネスティが思わず聞き返す。
「そうらしいぜ。俺はこいつの家庭関係に興味がないから詳しいことは知らないけどな。」
金の派閥は青の派閥と双璧を成す召喚師達の組織である。
二つの派閥の大きな違いは青の派閥は召喚術の知識を追求しており、金の派閥は召喚術を使った商売やお金儲けを主にしていることだ。
金の派閥の議長、ファミィ・マーンはそのママ味から一部の層に絶大な人気を誇る派閥のトップであった。
「それで、なくした召喚石のこともバレたということか…」
「そうなのよ…お母様ったら私のことはなんでもお見通しみたいで、嫌になっちゃう。」
「…でもあなた達と一緒にいることには何にも言われなかったのよ!これからもよろしくね!」
ミニスの身辺事情について話しながら歩いていると、
彼らの目の前から長い白髪を揺らしながら見たことの
ある吟遊詩人が歩いてきた。
「あ!ウルトラSexy衣装のレイムさん!」
マグナが思わず口を開く。
「おやおや、マグナさん。久しぶりですね。
周りにいるのはお仲間さんでしょうか?」
「たくさんの出会いに巡り合えたようでよかったです。」
レイムはマグナに付け加えられた奇怪な渾名にも動じず落ち着いた口調で挨拶を交わす。
「知り合いでござるか?」
「ああ。この人はレイムさん。前に聖王都で会ったんだ。吟遊詩人をしていて色んな場所を練り歩いているらしい。」
「ふふふ…私が説明しようとしたことを全て代弁してくれましたね…。」
レイムはご機嫌な返事をし、一応自らの言葉でももう一度自己紹介をする。
「それで…皆さんはどちらへ向かわれるのですか?」
「ああ、これから禁忌の森に向かおうと思っているんだ。」
「ここから北に進んだところにある場所なんだけど…」
「ほう…北に向かわれるということはトライドラの辺りを通過するのですかね?」
「トライドラ?」
マグナは聞き慣れない地名に戸惑う。
「トライドラは別名三砦都市と呼ばれる街だ。旧王国、帝国と聖王国を隔てる重要な防衛地点でもあるな。」
ネスティがすかさず補足をする。
「全くそんなことも知らないとは…派閥で学んだ座学の知識はどこへやったんだ………」
「う………」
ネスティの言葉にマグナがたじろぐ。俺は座学より実技が得意だったからしょうがないだろ…と言い訳をしたくなるが、更に自分を追い込むだけだと思い、マグナは口を閉じた。
「それで、どうしていきなりトライドラのことを?」
フォルテがレイムに尋ねる。
「ええ、これは風の噂なのですが…どうやらデグレアがトライドラに戦争を仕掛けるらしいのです。」
「…なので、警戒をしておくに越したことはありませんよ…と一言伝えておこうと思いましてね…」
フォルテの表情が一瞬崩れる。何か考え事をしていたのだろうか?
「それでは私はこれで………ああ…」
「ひと雨降りそうなので、皆さんお気を付けて………」
レイムは言いたいことを全て言ったのか、用事があるのか、マグナ達の元を離れファナンの方向へと歩いて行った。
「デグレアが宣戦布告…?確かにトライドラとは友好的とは言えない間柄だったが、どうして…?」
「そうよそうよ!動機がなさすぎるわ…!」
ネスティとミニスが戦争の噂について議論する。トライドラは聖王国を守る盾のような役割を果たしている街なので、デグレアの敵意は聖王国に向けられていると見るのが自然であろう。
「ま…トライドラがそう簡単に落とされるとは思わないがねぇ。」
「特に三砦のうちの一つ、ローウェン砦の守備隊長殿は取り分け優秀だからな…」
フォルテが呟く。
「フォルテ、もしかして君はその者と知り合いなのか…?」
「まぁな…少しは縁ってものがあるぜ。」
フォルテの意外な交友関係が垣間見え、皆が彼に注目する。
マグナもガタイの良いフォルテの知り合いは類友と言うべきか、きっとガタイの良い漢なのだと妄想し、目を向ける。
「…なんで皆俺を見るんだよ。とりあえず今は禁忌の森を目指すとしようぜ!」
「とにかく!トライドラのことは心配いらねぇよ。戦争のこともあくまで噂話だからな。」
フォルテは話を深掘りされないようにか、早く目的地に向かうことを促し、一行は彼の言葉に従い禁忌の森を目指すのであった…
ポツポツ………
「ちっ……雨か………」
先ほどまで晴天だった空を雲が覆い、小さな雫が街道の土を濡らしていた………
-------------
「くそっ!雨が酷くなってきたな!」
「これでは満足に歩けないでござるよ!雨宿りできる場所を探すでござる!」
レイムの言葉通りなのか、空から振り注ぐ雨は次第に勢いを増し彼らの行く手を遮った。
「この砦、ボロいけど雨は凌げそうだな!一旦入るぞ!」
「おい!ここは恐らくトライドラ領内の砦だぞ!勝手に入っていいのか!」
「門番もいないし門も開いてる!後で事情を説明すれば大丈夫だろ!先に行くぜ!ネス!!」
マグナ達が入った砦は蜘蛛の巣が張り巡らされ、人気がとても感じられない場所だった。しかし、彼らはこれから恐ろしきものに遭遇することになる…
「…!?こいつは………!!」
彼らが発見したのは兵士の死体であった。
無惨にも身体を切り裂かれ息絶えている。
「この兵装、トライドラの兵士だな…どうやらこの砦で何かあったように思えるぜ…」
フォルテは武器に手を掛け、いつでも抜剣できるよう警戒する。
「こんな恐ろしい場所にはとてもいれないわ!雨に濡れてもいいからもうこんな所さっさと離れましょうよ!」
ミニスがそう言ったときだった。彼らの前に武器を構えた男が現れた。
「おーっと、動くんじゃねぇぞ?この銃で撃ち抜かれたくなかったらな?」
リィンバウムの趣向とは大きく離れたコートを羽織った男は銃を構え、彼らにそう言う。
「おっさん、中々に渋いいい顔をしてるな。俺のタイプだ。そんな物騒なもの降ろして食事でもどうだい?」
マグナは彼の顔つきが気に入ったらしく好意的な反応を示す。
「おっと、そいつはありがとよ。だがまずは俺様の質問に答えてもらおう。」
「お前さんたちは"生きて"んのかい?」
彼から放たれた言葉に一行は疑問を隠せない。
一体何を言っているんだ?このおっさんは?
「…その間を見るにお前さん達は"生きてる"みたいだな。」
男は銃を降ろし、マグナ達と話をする気になったらしい。
事情の飲み込めない彼らは男から情報を得ることにした…
―男の名前はレナード。リィンバウムの周りにある4つの世界ではない別の世界からやってきた男であった。彼はステイツのロスと言う場所出身らしいが、ここにいる者は誰もその地名にピンと来なかった。
「それで…この砦に現れた召喚師に俺を召喚した野郎は殺され、今ここにいるって訳だ。」
ネスティは彼の話を聞き、顔を背けたくなる。
(召喚師が殺されてしまった時点で彼は元の世界に送還できない、いわばはぐれ召喚獣だ…元の世界に戻りたがっている彼にこのような真実を伝えることはできない………)
「それでよ…その召喚師って言うのが顔色が悪いゾンビみてぇな奴でなぁ。そいつが何か唱えるといきなり旅人の死体が動き出したんだよ。」
召喚師であるネスティとミニスは死体が動くからくりを感覚的に理解する。恐らくは召喚獣を憑依させて死体を操っているのだろう…と
マグナはそんな考えなど浮かぶはずもなく、話を真剣に聞くカザミネの横顔を見て奇怪な笑みを浮かべている。
「あの野郎は今もまだ俺様を狙って………!?」
「伏せろ!!」
突然レナードが手に持った銃を発砲する。
彼が撃った先は先ほどまで兵士の死体があった場所。
そこには確かに死んでいた兵士が立っていた。
「ウガァァァァ……」
銃弾に貫かれ、兵士の死体が倒れる。
「何度も立ち上がりやがって…これでもう死んだか?」
レナードは煙草をふかしながら言う。
「駄目だ!召喚獣が憑依している以上、術者本人を倒さない限りはこいつはまた復活する!」
ネスティが声を挙げた。
そのとき、砦の影から奇妙な肌の色の男が現れた。
生気のない紫色の肌が只者ではないことを予感させる。
「カーカッカッカ!まだ生きていたのか、この親父は!」
「こいつだ…!俺様の言った野郎ってのは…!」
「ワシの名はガレアノ。屍人使いさぁ。」
ガレアノと名乗るその男は奇妙な笑い声と共にマグナ達に敵意を向ける。
「カカカッ!ワシに出会ってしまったことがお前たちの運の尽き。この砦と同じ運命を辿ってもらうぞ…!」
彼の呪文に応え周りの死体たちが一斉に動き出す。
「こんな気持ち悪い肌の色の野郎は俺の視界から消えろ!」
マグナ達は武器を取り、屍人使いガレアノとの戦いが始まった………
-------------
「くたばりやがれ…!この外道が!!」
「ギィャアアァァァ!!!」
レナードの銃に撃ち抜かれ、ガレアノは砦の上から転落する。
マグナ達は蘇る死体に苦しめられながらも何とかガレアノに勝利した。
「やっと終わったのね…雨の中戦ったから全身びしょ濡れよ。」
ケイナが呟く。
「僕たちとレナードさん以外の生存者はいなかった。」
「そして後から分かったことだがここはスルゼン砦。トライドラの三砦のうちの一つだ。」
「あの屍人使いがデグレアの関係者なのかは不明だが、スルゼン砦が落とされてたっていうのはだいぶ不味い事実だな…」
「とりあえず今日は一旦ファナンに戻ろう。スルゼン砦が既に落とされていたことをファミィさんに伝えなければ。」
ネスティとフォルテの言うとおり、一行は禁忌の森に行くのはまた日を改めることにし、一旦はファナンに戻ることとした…
―ファナンにあるモーリンの道場。モーリンから合鍵を貰っていたマグナ達は彼女が帰ってくるかもしれないと淡い期待を抱きながら、今日はここに泊まることにした。
夜、道場の一室で男二人の話し声が聞こえる。
「へぇ、そのロスって場所には面白いものがたくさんあるんだな。」
「おうよ。映画なんてのは一度は見ておいたほうが絶対いいぜ。」
「レナードさんの話は面白いなぁ。さっき言ってたコーラとポップコーンって食べ物も食べてみたいな。」
「はは…お前さんと話してるとロスにいる娘のことを思い出すよ。ああ、俺様にはお前さんとちょうど同じくらいの歳の娘がいてだな………」
マグナとレナードの楽しげな声が道場の廊下に響く。
幼い頃から派閥に滞在し、聖王都の外にあまり出たことのないマグナにとって、レナードから聞く異世界の話はどれも新鮮なものであった。
「…なあレナードさん。ガレアノの一件は解決したけどこれからどうするんだ?」
「そうだなぁ…とりあえず先のことは決まってないが…食っていければいいと思ってるぜ。」
「それなら、俺たちと一緒に来ないか?レナードさんの銃の腕があれば俺たち大助かりなんだけど…」
…レナードは少し考えたのち、首を縦に振った。
「いいだろう。俺様としてもこの世界の常識ってモンが分からず困っていたところだ。社会勉強だと思ってあんた達のところに居させてくれや。」
「おお!助かります!!」
マグナは心の中でガッツポーズをした。
中年パパ属性刑事がまさか自身のパーティに加わるなど思っても見なかったためだ。
(これで俺の理想のパーティ像に一歩近付いたぜ!)
―やがて戦闘の疲れからか、道場の灯りも徐々に消え波の音だけがさざめく静かな夜が彼らを包んだ………
-------------
「ここが禁忌の森の入口か。」
マグナ達は、屍人使いの報告を終わらせ、当初の目的であった禁忌の森に到着していた。
「入口って言っても全面木々に覆われててどこから入ればいいか分からねぇけどな…」
そんなことを呟きながら一行は森の中に歩みを進める………
―深い緑の帳が頭上を覆い、あちこちから聞こえる鳥や獣の遠鳴きがこの森がただならぬ気配を湛えていることを告げていた。禁忌の森。その名が示す通り一歩踏み込めば生きて帰ってくることは困難とも言われる曰く付きの森だ。
一行は獣道とも呼べない、かろうじて踏み固められた土の上を進んでいた。後方には大剣を背負ったフォルテ。その隣にはどこか落ち着かない様子のケイナがぴったりと寄り添うように歩いている。
「ねえ、フォルテ……」
ケイナは声を潛めて前を歩く他の面々をちらりと見やった。マグナやネスティ達は四人は少し前を歩いている。
「どうしたんだ、ケイナ。何か気になることでもあったか?」
フォルテは優しい声音で問いかけながら、太い木の根に足を取られないよう彼女の腕をそっと支えた。
「あの……うちのパーティにいる女性ってどんどんいなくなってないかしら…?」
その言葉に、フォルテは小さく息を吐き苦笑いを浮かべた。
「……まあ、そうとも言えなくもないよな。」
ケイナは少し言いにくそうに、フォルテのマントの端を指先で摘まんだ。
「アメル、モーリン、ネスティから聞いたけどハサハっていう子もいたらしいわ。今までパーティにいた女の子たちはみんないなくなっちゃって…」
「次はあたしがどこかに攫われるんじゃないかって不安になるわ…」
「はは、それは大丈夫だ。お前は色気がないからな。」
フォルテは安心させるように彼女の肩をポンと叩いた。
「一言余計よ…!」
ケイナはフォルテをぶつが、その言葉に少し安心感を覚える。
「もしかしてお前はマグナが悪いとでも思ってるのか?」
ケイナは無言で少し頷く。
「確かにマグナは……ちょっと変わってる。何せ、男にしか興味がねぇからな。女に対する当たりも少し強いしな。だけどお前さんは俺の隣にいる。それはマグナも重々承知してるし何も問題は起こらねぇよ。それに、ああ見えて腕は確かだし信頼はできる」
「そう、なのかな……」
ケイナは少しだけ胸を撫で下ろしそれでも不安が完全に消えたわけではないのか、フォルテの太い腕にそっと自分の手を添えた。
一方、少し前を歩く五人の間にも、森の重苦しい空気とは裏腹にどこか気の抜けた会話が流れていた。
「しかし、湿度が高いでござるな。刀の手入れを怠るとすぐに錆びてしまいそうでござるよ…」
カザミネがうんざりしたように襟元を緩める。細身の衣装の下には無駄なく鍛え上げられたしなやかな肉体が覗く。その仕草を、マグナは舐め回すように――実際視線でねっとりと撫で回すように――見つめていた。
「ふぅん……いい体してるよなぁ、カザミネ。今度その刀の手入れとやらを、俺にも教えてくれよ。"手取り足取り"』、じっくりとな。」
マグナはわざとらしく自分の唇を舐め、粘着質な水音を響かせた。その視線はカザミネの腰から尻にかけてのラインを這い回る。
「はは、拙者の刀の手入れは精神統一が肝要。マグナ殿には些か退屈かもしれないでござるよ。」
カザミネはあくまで爽やかに、その粘つく視線をさらりとかわす。彼はマグナの視線の意味を半分も理解していない。ただの親愛の情だと信じて疑わない清々しいまでのノンケだった。
「お前さんは……なんだか変わってるよな…」
レナードが紫煙を細く吐き出しながら呆れたように言った。咥え煙草の先端がオレンジ色に明滅する。
「ねえマグナ。あなたは召喚師なんだしもう少し召喚術の鍛錬をしたほうがいいんじゃない?」
ミニスは彼の言ういやらしい言葉を理解せず、召喚師らしい戦闘スタイルを提案する。
「僕もそう思うな。君は剣で戦ってばかりだし脇見が多く危なっかしい。全く…その分気を遣う僕の身にもなってくれよ…」
マグナはしかめっ面をし二人の言葉を聞き流そうとする。
今持ってる召喚石はがしゃどくろと言うシルターンの妖怪のみ。俺は当然骸骨はタイプじゃないし視界に入るだけでげんなりするから使いたくないんだよ…!
「だからネス!俺だってガチムチの召喚獣が…」
彼がそう言いかけたとき、レナードの鋭い声が森に響く。
「おいお前さん達止まれ!前方に家があるぞ!」
彼らの目の前にこじんまりとした家があった。
家の脇には畑がついており、人が住んでいるかのような痕跡が見られる。
「ここが、アグラじいさんの言ってた家なのか?」
マグナが家の玄関に向かって走ろうとしたその時、声が響いた。
「アフラーンの一族が古き盟約によりて今命じる……」
「……来たれ!!」
「…!?」
紫色の眩い光と共に召喚獣が彼らの目の前に現れる。
おばけや天使のような見た目のその召喚獣たちは可愛らしい見た目でとてもマグナの望むような獣ではない。
「…この魔力、サプレスの召喚術か。」
ネスティが放たれた光の色から瞬時に分析する。
「立ち去りなさい!悪魔の手先たち!」
召喚獣の後ろには少女が立っていた。
褐色の肌に豊かな胸元をかろうじて覆うだけの白い布、腰には透けるような薄布を巻いただけの際どい衣装。長い黒髪が森を吹く風に揺れる。
「いやいや、俺たちはただの旅人で…」
「そんなこと言ってもルウは騙されませんからね!」
「みんなお願い!やっちゃって〜!!」
彼らの弁明に聞く耳も持たず、ルウと名乗るその少女は呼び出した召喚獣と共にマグナ達に襲い掛かってきた。
「ちっ、なんだこの女は…!力ずくで鎮圧するぞ!」
"抵抗しなければ容赦なくやられる"と察したマグナ達は武器を取り、彼女と戦うことを決意したのであった………
-------------
「くそっ、キリがねぇな!」
レナードが弾を撃ち尽くし、煙草を咥え直しながら悪態をつく。
「拙者もそろそろ刀が鈍ってきたでござる……」
カザミネが息を切らせながら、それでも正確な太刀筋で天使型の召喚獣を薙ぎ払う。
「あぁ…たまらないな…」
マグナは汗を拭きながらカザミネの汗で光る雄々しい腕やレナードの煙草を加えた渋い横顔を見て高揚している。
「マグナ!!右から来るぞ!!」
ネスティの怒声が飛ぶ。
「君はバカか!?戦闘中に脇見をするなと先ほど言ったばかりだろう!!」
「わ、悪い悪い!」
マグナは慌てて剣を握り直し、目の前にいたおばけ型の召喚獣を蹴散らす。
「お互い消耗が激しいな…しかし術者の頭数の多さは召喚獣に依存している…」
ネスティは冷静に戦況を分析し、フォルテに指示を飛ばす。
「フォルテ、あの少女を狙え!彼女を抑えれば周りの召喚獣も無力化できるはずだ!」
「よし!任せときな!ケイナ、援護頼むぜ!」
フォルテが大剣を構え、ケイナと連携してルウの元へ突撃する。
戦いは激しさを増し両者ともに消耗していたが、ネスティの的確な指揮によってここで決着がついた。
「はぁ……はぁ……」
ルウは膝をつき、サモナイト石を握りしめたまま荒い息を吐いていた。
「これで終わりだ。」
フォルテが大剣を収め、一歩前に出る。
「待て。」
ネスティが手を挙げて制止した。彼は静かにルウの前に歩み寄り、膝をついて視線を合わせる。
「君はルウと言ったね。僕たちは君の敵じゃない。誤解を解きたい。」
ルウは警戒した目つきでネスティを見つめる。
「……嘘よ。そうやって懐に入り込んでルウに取り憑く気でしょう……」
「取り憑くつもりなら君を気絶させてからさっさとそうしてるさ。君も召喚士ならなんとなく分かるだろう?」
「う…」
ネスティの言葉に、ルウの表情がわずかに揺れた。
「とにかく、一度落ち着いて話をさせてくれ。全員武器を納めるから。」
ルウはネスティの真摯な姿勢に感化されたのか、落ち着きを取り戻してこう言った。
「……わかった。ルウの家に来て。そこで話を聞くから。」
―ルウのすみか。そこは木の実や薬草が干してあり、生活の匂いがする居心地のよい家だった。ルウは一行に木の器に入れた水を差し出した。
「ありがとう」
ネスティが一口飲んでから、真剣な表情で話し始める。
マグナは壁にもたれかかりながらちらりとルウの際どい衣装に目をやったが、すぐに興味を失って視線を外す。
(やっぱり女はダメだな………)
代わりに、水を飲むカザミネの動く喉仏をじっと見つめる。
(う〜ん、カザミネはやっぱり色気があるなぁ…)
「僕たちはレル厶の村で、アグラバインという男に会った。彼は村を襲った黒の旅団を一人で足止めし燃える村の中に消えた……彼が残した伝言を頼りに僕たちはここに来たんだ。」
ルウは黙って聞いている。
「彼によるとこの森にはアメルという娘の親族が住んでいるらしいんだ。一応聞いておくが…君は何か心当たりがあったりしないか?」
ルウは驚いた表情をした後、口を開いた。
「う〜ん…そんな人はいないはずよ。」
ルウの口から放たれた言葉にその場にいた者たちがたじろぐ。
「どうしてそんなことが言えるんだ!?」
「だって禁忌の森は悪魔の住む森よ?人間がとても住める環境じゃないわ。」
「ルウはそんなに森の深くじゃない所に護衛獣と一緒に暮らしているから大丈夫だけど、少なくとも普通の人がいれるような場所ではないわ。」
「…それに森の奥には結界があってそこには更に凶悪な悪魔が封じ込められてなるって話だわ。」
ルウは持ち前のこの森に関する知識をつらつらと話し、彼らを納得させようとする。
「きっとその情報は嘘なのよ。そのアメルって子を安心させるためにその人がついたね…」
「…とにかく禁忌の森には何もないはずよ。あなた達が道中悪魔に出くわさなかっただけでも奇跡なんだから、早めにここから立ち去った方がいいわよ。」
ここまで来たのに得られた結果はこれか…と誰もが顔を沈める。その時、マグナがルウに話しかけた。
「本当に…アグラじいさんの言ったことは嘘なのか…?彼の秘密はこの森にはないのか………?」
「ほんとうよ!ルウ嘘つかないもん。」
ルウはまっすぐとした瞳でそう言った。
「う、嘘だと言ってくれよ…?アグラじいさんの残してくれた言葉が全て嘘だったなんて…」
「俺は信じないからなっ!!!」
「待つんだ!マグナ!」
ネスティの呼びかけに振り向くこともなく、マグナはすみかを出て森の奥へと走り去っていった。
-------------
―走る。走る。心臓が張り裂けそうなほどに。マグナは無我夢中で森の中を駆けていた。
アグラじいさんの伝言が嘘だった?そんなはずがない。ロッカの言葉を経由してはいたが、あのじいさんは確かに燃え盛る村の中で俺たちに託したんだ。
「絶対に何かあるはずだ…じいさんの為にも俺が必ず秘密を見つけてみせる…!!」
伝言には秘密など一言もなかったが、マグナの固執した思考が伝言の内容を書き換えてしまった。
―森の奥へ進むにつれ木々の密度が濃くなり、差し込む月明かりさえも遮られていく。何かが蠢く気配。しかし不思議とマグナに危害を加えるものは何もいなかった。
そして、それは突然目の前に現れた。
森の中にぽっかりと空いた空間。その中心に立つ一本の古木。幹には、深々と斧が突き刺さっていた。
「これは……まさか……!」
マグナは駆け寄り斧の柄を握った。使い込まれた木製の柄は、手にしっくりと馴染む。刃には見覚えのある刻印があった。
「間違いない……アグラじいさんの斧だ……!」
心臓が高鳴る。マグナは斧をそのままに周囲を見渡した。斧が刺さっているということは、ここでじいさんは何かをしていた。木を切ろうとしたのか?いや違う。この斧は目印だ。何かを隠した場所の。
「この木の根元……!」
マグナは地面に膝をつき両手で土を掘り始めた。湿った土が爪の間に入り込む。小石で指先が切れ血が滲む。それでも彼は止まらなかった。
(あるはずだ……何かが……!)
そして、指先が布に触れた。
「……ッ!」
慎重に土を取り除いていく。それは布の包みだった。油紙に包まれたそれを取り出し、マグナは震える手で開いた。
中から出てきたのは……
「こ、これは……!!!」
マグナの目が大きく見開かれた。
それは、一枚のタンクトップ。使い込まれ何度も洗濯されたのか生地は薄くなっている。そして何より……
(ごくり…)
無意識にマグナは唾を飲み込んだ。
そのタンクトップには汗の染みがくっきりと残っていたのだ。何年も前に埋められたはずなのに、油紙に包まれていたせいかその染みはまるで昨日ついたかのように生々しく残っている。それを彼はそっと顔に近づけた。
「……ッ…ぁ……」
彼は思わず目を閉じた。アグラバインの肉体を思い起こさせる男の汗の匂い。それは何年もの時を経てなお彼の鼻腔をくすぐり、脳髄を直接揺さぶるような力を持っていた。
(アグラじいさん……あなたは……俺にこんな最高のご褒美を残してくれたのか……)
マグナの頬が紅潮し、息が荒くなる。彼は周囲を見渡した。誰もいない。木々だけが静かに彼を見下ろしている。
「……少しだけ……少しだけなら……いいよな……」
彼はタンクトップを大切そうに畳み直し、そっと自分の頬に押し当てた。ごわごわとした布の感触。そして立ち上る男の匂い。
(はぁ……はぁ……じいさん……あんたの汗の匂い……最高だぜ……)
彼はその場にしゃがみ込みタンクトップを顔に押し当てたまま深く、深く息を吸い込んだ。
(スゥゥゥゥ……)
空気と一緒に、布に染み込んだ汗の残り香が彼の肺を満たしていく。
「……ッ…たまんねぇな……」
彼は恍惚の表情を浮かべ、何度も何度もその匂いを吸い込んだ。彼の脳内にはアグラバインの姿が鮮明に蘇る。汗で光る日に焼けた肌力強い腕、そしてあの優しい笑顔。
(じいさん……俺…見つけたよ………)
彼の身体が熱くなる。しかし彼はふと我に返った。
「……いや、だめだ。これはここで楽しむものじゃない。これは……俺だけの宝物だ……」
マグナはタンクトップを再び油紙で丁寧に包み、上着の内ポケットに大事そうにしまい込んだ。心臓の上でそれはずっしりと重く、そして暖かかった。
「それに……これで証明できる。アグラじいさんの伝言は嘘じゃなかった。じいさんの秘密はここに眠っていたんだ……」
―そして彼は来た道を引き返し始めた。仲間たちにこのことを伝えなければ。それにあの不敬なルウって女にも、アグラじいさんが嘘つきじゃなかったってことを知らしめてやらねぇと。
彼の足取りは軽かった。上着の下にあるタンクトップの重みが彼に力を与えていた。
(待ってろよみんな……今戻るぜ。)
奇妙なことに、森の魔物たちは彼のことを見て見ぬふりをしていた。まるで彼が何かに守られているかのように。
マグナに言わせてみれば、それは恐らくアグラバインの
タンクトップの加護なのだろう。