※この作品はR-18です。

もっけさまがくる   作:朱川棗

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もっけさまがくる①

 寒気がして、ぶるりと身を震わせて目が覚めた。

 僅かに瞼を持ち上げた(よう)は、のろのろと両の瞳を彷徨わせた。

 視界は墨が滲んだように薄暗い。瞬きを繰り返すうちに黄色が浮き上がって眼前に広がる。

 投げ出した指先に力を込めると、冷たく湿った木の葉を引っ掻いた。土臭さが鼻腔を刺し、思わず噎せ込む。

 呼吸が落ち着いてから重い体を何とか起き上がらせる。背中の半ばまで伸びた黒橡色の髪がぱらぱらとモスグリーンのタートルネックニットの肩を滑り落ちた。

 ハイウエストのダークブラウンのロングスカートに黒のタイツ。何故か上着も靴も身に着けず、杳は銀杏の葉の上に座り込んでいた。

「ここ……何処?」

 我が身を抱き締めて両腕をさすりながら周囲を見回す。

 小さなグラウンド程の空き地一面に銀杏の絨毯が広げられていた。空き地は影絵のような木立に取り囲まれ、遠くに朱色の鳥居が見えた。

 黄昏時なのか、木立の向こうの空はくすんだセピア色に染まっている。薄ら寒い夕風に木立がざわめき、胸騒ぎを覚えてニットの胸元をぎゅっと握り締めた。

 ふと、木立の外から奇妙な音色が聞こえてきた。

 カンチキ、コンチキという甲高い響きは、祭礼で鳴らされる鉦の音だ。徐々に近づいてくる音に動悸が走り、胸が苦しくなる。

「ん、ふ……ッ」

 背中を丸めて口元を両手で押さえる。

 息苦しさは胸の先の痒みに代わり、月経の最中のように乳房が張って痛い。縮こまった拍子に胸の先が太腿を掠めて大きく肩が跳ねる。

「ひ、ぁ、え……アッ、んぉ!?」

 杳は堪え切れず両手を突き、四つん這いになって全身を震わせた。鉦の音に合わせて中肉中背の体つきがゆっくりと変化する。

 腰のくびれが際立ち、手足首がキュッと細くなる。背中の肉が落ちて、スカートを持ち上げる臀部が艶めかしい円味を帯びる。

 ブラジャーがギチギチと胸周りを締めつけて息が詰まる。杳は必死に背中を搔いてホックを外そうとするも、いよいよ形振り構わずニットを胸の上まで捲り上げてホックを引きちぎった。

 生白い乳房がぷるんッと弾んでまろび出る。

 椀形の膨らみは杳の手で包み込めるBカップから、いやらしく揺れながらみるみるCカップ、Dカップへと重量を増していく。青い果実がたわわに熟れる様を早送りしているようだった。

 色素の薄かった乳輪は、アーモンドペーストをまぶしたような甘い色合いに染まっている。小ぶりだがぷっくりとした乳首はほんのり赤く、若い茱萸の実を連想させた。

「ああっ、ひ、ぅ、ンあぁぁぁぁッ!」

 大ぶりの梨を二つ並べたようなEカップまで膨らみ、乳房の変貌は漸く止まった。

 杳はぺたんと座り込み、くっきりと谷間が出来上がったバストを曝け出したまま肩で息をした。

 二十代前半の、どちらかと言えば地味な顔立ちは、陶然とした表情の所為か妙に婀娜っぽい。きつい印象の吊り目はとろんとふやけ、薄く開いた唇からちらちらと覗く舌の赤さが目を引いた。

 サイズアウトしたブラジャーの肩紐が食い込んで痛い。杳は眉を顰めて逡巡し、ニットの袖から両手を抜いた。

 ブラジャーを脱ぎ、黒のキャミソールとニットだけを着直す。ぴったりとしたデザインのニットの胸元には、Eカップの乳房の丸みと乳首の尖りが隠しようもなく浮かび上がっている。

 ショーツとタイツも尻周りがきつくなったが、流石に脱ぐ勇気は出なかった。ブラジャーを小さく畳んでスカートのポケットに押し込み、よろよろと立ち上がる。

 鉦の音は鳥居の辺りから絶えず聞こえてくるが、そこから動く気配はない。

 乳頭部が熱を帯び、とにかくむず痒い。ショーツが締めつける陰部にも疼きを覚え、無意識に太腿を擦り合わせる。

 ニットの胸元に添えた両手の下で乳首がピンと勃ち上がっている。燻る熱を吐き出し、杳は唇を噛み締めた。

 まるで記憶が墨で塗り潰されたように、自分が誰なのか思い出せない。

 杳という名前と、年齢は二十二、三歳ぐらいだという事しか分からない。家族構成も、住んでいる土地も、職業も、こんな場所にいる理由も、どんなに思い返そうとしても何も浮かばない。

 ただ一つ、あの鉦の音は良くないものだという事ははっきりと感じる。

 異様な肉体の変化は鉦の音で齎されたものだ。鉦の音の正体に捕まったら、更にどうなるか検討もつかない。

「どうしよう」

 逃げようにも何処へ向かえばいいのだろうか。立ち尽くしていると、頭上から羽撃きの音が聞こえた。

 見れば、空き地の上空を翼を広げた黒い影が旋回している。ガァ、ガァと、濁った鳴き声が降ってきた。

「……鴉?」

 猛禽類と見紛う大きさの鴉は幾度か鳴いた後、鳥居の反対方向へ嘴を向けた。「ついて来い」という意味らしい。

 杳は慌てて鴉を追いかけた。銀杏の葉に滑って転びそうになりながら木立に駆け込む。

 乳房が揺れて重く張り詰め、火が点いたように乳首が熱い。

 黒々した木々の下は仄暗く、銀杏の絨毯は途切れて下草に覆われていた。濡れた草を踏んだ刹那、斜め前方へずるんっと体勢を崩した。

「えっ!?」

 下草に隠れて気付かなかったが、木立の先は斜面になっていたのだ。咄嗟に悲鳴を漏らして固く目を瞑ると、真上から乾留液(タール)のように真っ黒な液体が振り注いだ。

 どろりとした生温かい液体は意思を持っているかのように蠢きながら杳を包み込み、下草を散らして斜面を滑り落ちていった。

 斜面を下り切って平地に出ると、真っ黒な覆いがどぷりと解けた。

 アスファルトの地面にへたり込む杳の目の前で液体が鴉のシルエットを形成する。鴉は一声鳴いて舞い上がり、セピア色の夕闇が烟る路地へと飛び立った。

「ま……待って!」

 杳が目覚めた空き地は小高い丘の上にあったらしく、麓には路地が入り組んだ古い街並みが広がっていた。

 奥の細い路地を進むほど、昭和で時が止まったような家々がひしめいていた。どの建物の窓も暗く、ゴーストタウンの如く静まり返っている。

 舗装の罅割れに引っ掛かって足裏のタイツが破けて血が滲む。痛みに顔を顰めながら走り続けていると、路地の先で鴉が慌てふためくように翼をバサバサと振り回していた。

 鴉が滞空している地点の目と鼻の先で路地が途切れ、セピア色の夕陽に照らされた通りが見えた。

 ――金色にくすんだ銀杏の葉が通りを埋め尽くしている。

 杳は息を呑んで立ち尽くした。

 鴉が翼を翻してこちらへ向かってくる。一瞬で融解し液状の影になると、杳を呑み込んだ。

 家と家の隙間に引きずり込まれ、板張りの外壁に押しつけられる。声を出すなと言わんばかりに口元をぴっちりと覆われ、杳は目を白黒させた。

 夕陽が射す路地の外側から、鉦の音が徐々に近づいてくる。

 影の膜の下で全身の肌が粟立った。咄嗟に漏れた悲鳴は影の膜がしっかりと遮ってくれた。

 カンチキ、コンチキと鉦の音が大きくなるにつれて心拍数が跳ね上がる。呼吸が乱れ、黒い膜に覆われた女體が悩ましげにくねる。

「ンっ、ふぅ……ッ」

 両の乳房がググッと盛り上がった。乳首は硬く凝り、乳輪も膨らんでむず痒く疼く。

 蠢動する膜が乳首を転がすように刺激し、視界がハレーションを起こす。

 下腹部がずくずくと脈打っている。溶けた鉛のような熱が股の間から流れ落ち、ショーツのクロッチ部分をじっとりと湿らせた。

 路地をすぐ出た辺りから鉦の音が聞こえてくる。通りから射す夕陽が不自然に翳り、杳は濡れた瞳を見開いた。

 優に二メートルを超える異形の影がぐねぐねと左右に揺れている。歪な楕円形の頭部、ずんぐりとした巨体。

 鉦の音に合わせて着物の袖らしき影がひらひらと踊る。

 異形の影は路地の入り口に陣取り、けたたましく鉦を打ち鳴らしている。

 杳は、高ぶり続ける快感――女體に備わる本能的な性感だと分かってしまった――に悶絶した。

 スカートにまで染みるほど愛液が溢れて止まらない。今にもはちきれそうな双乳が切なくて堪らず、乳首の先端を掻き毟りたくて体を揺する。

 乳房が膨らんだためにキャミソールが浮き、ニットの内側でずり上がった。

 捲れた裾と乳首が擦れ合い、仰け反った白い喉が隙間風のような嬌声を漏らした。

「ひッ、――!!!!」

 過敏な乳首が容赦なくこすられ、囚われの女身がのたうつ。

 胸の奥から先端まで、ツ――ンッと熱が走り抜けた。

 ぷしゅッと、両の乳首から何かが滲み出した。

 下腹部で燻り続けていた熱が炸裂し、脳裏を真っ白に焼き尽くされる。杳は海老反りになって激しく痙攣した。

 間を置いて脱力した肢体を影の膜が柔軟に抱き止める。異形の影は狂乱めいた鉦の音を響かせながら、路地の奥を覗き込もうとしているかのように太い首を伸ばしていた。

 気絶した杳を隠しながら、影の膜は隙間の限界までズルズルと後退する。

 異形の影はぐねぐねと巨大な頭部を左右に振っていたが、とうとう諦めた様子でゆっくりと路地の入り口から遠ざかっていった。

 鉦の音がすっかり途絶えると、影の膜がどろりと解けた。

 意識を取り戻した杳は噎せ込みそうになるも、咄嗟に口元を片手で覆った。

「は……ぐ、ぅ、んッ」

 息苦しさに涙が滲む。外壁に手を突いて項垂れると、明らかに質量を増した乳房が破らんばかりにニットを押し広げていた。

 ゆっさゆっさと弾む双乳(もろち)はずっしりと重い。片胸だけで西瓜一個分のたわわな膨らみは、Fカップを通り越してGカップに達していた。

 微かなミルク臭が鼻先を掠める。

 見事な球形の盛り上がりの頂きには乳首の凹凸が浮かび、ニットの生地に濃いシミを作っていた。

 ――母乳だ。

 杳は愕然としつつ、ニットの裾を捲り上げた。

 雪を欺く白さの、豊満過ぎる乳房がぶるんッ! と雪崩れ落ちた。

「おッ、ひぅ」

 乳頭部がニットの生地とこすれた衝撃に、甘ったるい掠れ声が零れた。

 厚みと潤みを増したピンクベージュの乳輪。艷やかなマルーンに実った乳首からたらたらと白い乳汁が滴っている。

「あ……う」

 青白い頬がじわじわと紅潮する。

 あまりのいやらしさと羞恥に目眩がした。下腹部――子宮が燃えているように熱くなり、じゅんじゅんと愛液が迸る。

 地面に膝を突いた杳は両足を開き、そろそろとスカートを捲り上げた。

 長い裾をウエストに挟み込む。タイツの破れ目から生白い素肌が覗くむっちりとした太腿を曝け出した。

 タイツの伝線は股間にも及び、クリーム色のショーツのクロッチ部分が丸見えだった。

 ぐっしょりと濡れたクロッチ部分から漏れ出た愛液が幾筋も内腿を伝い落ちる。薄い布地に透ける陰部は、恥丘の膨らみから陰裂の筋までくっきりと浮かび上がり――陰毛らしき翳りが見当たらなかった。

 熱に浮かされたような好奇心に突き動かされ、右手の指先でクロッチ部分を横にずらした。

 くちゅりと粘っこい水音が立つ。

 白磁器のようにつるんと滑らかな陰部が外気に触れる。幼女のような無毛の恥丘の下にはビンビンに勃起した陰核が頭をもたげ、鮮やかなピンクの肉襞は深部にねっとりとした潤みを湛えていた。

 パイパンの秘部との間にそそり立つGカップの爆乳が淫靡に波打つ。ひくんと腰が跳ねると、膝下から液状の影がにゅるんと伸び上がった。

「あっ、ふおッ!?」

 生温かいゲルのような影の膜が陰部と両乳房にぺったりと貼りついた。接触部分を柔々と揉まれ、杳の喉がひゅっと鳴る。

 瞬時に口を塞がれ、甘やかな苦鳴を揉み消された。

 母乳をたっぷりと漲らせた乳房を優しく揉みしだかれ、陰部全体を包み込まれて円を描くように愛撫される。杳は顔を真っ赤にして咽び泣き、黒橡色の髪を振り乱して身悶えた。

「――っ、――!!」

 高みに上り詰めて間もない女體は呆気なく陥落し、絶え間ない絶頂を味わわされる。背をしならせてよがると、豊乳が激しく縦揺れした。

 カクカクと膝が笑い、母乳と愛液がしとどに溢れる。力が抜けても全身が小刻みに震え、快感の波が打ち寄せる。

 頽れた杳を建物の隙間から引っ張り出すと、液状の影は更に細い路地へと滑り込んだ。

 夕闇が一際濃く翳る路地は、大人が一人ようやっと通れるほど狭かった。崩れかけたような古い家並みが続き、一軒の民家の前までやって来た。

 ――玄関灯にぼんやりと明かりが点いている。

 ガラスの引き戸の内側からも光が漏れていた。絶頂に追いやられたまま杳が瞬くと、がらりと引き戸が開いた。

 液状の影が一瞬で地面に吸い込まれる。呆然と座り込んだところを逞しい腕に引っ張り上げられた。

 男だ。

 杳と同じ年頃の、錆のように赤茶けた短い髪が特徴的な青年だった。

 垂れ目がちな双眸も色素が薄く、榛色に光ながら憎々しげに睨みつけてくる。その眼差しに、強烈な既視感を覚えた。

 ダークカラーのフード付きパーカーとデニムのボトム、白い素足。背丈はずば抜けて高くないが、がっちりとした精悍な体つきだと見て取れる。

 青年は神経質そうな眉をキリキリと吊り上げ、「この、馬鹿女」と冷たく吐き捨てた。

「なんでお前がこんな所にいやがる」

「え、あ、何」

「チッ。しかもとっくに術中に嵌りやがって。母乳が出たって事は媚毒が回り切った証拠じゃねぇか」

 骨張った青年の右手が左乳房をきつく握り潰す。キュッと乳首を指で挟まれて引っ張られ、杳は短く啼いた。

「あッ、やァ!」

 ぽろりと涙が零れ落ちる。青年が「んべ」と舌を出し、涙の粒ごと眼球を舐めた。

 びっくりして固まると、ボトムが汚れるのも構わず三和土に座り込んだ青年の膝を跨ぐように抱え上げられた。

 左乳房を緩慢に揉みしだかれ、背筋を痺れるような感覚が駆け抜けた。青年の左手が肉付きの良い尻たぶを撫で回し、無防備に晒されたままの真っ白な恥丘を掌でさするように愛撫する。

「ひっ、や、ああッ、ンぃ」

「雌牛みてぇな乳にパイパンとか特殊性癖過ぎんだろ、あの化生」

 鉦の音の幻聴が聞こえ、一瞬で血の気が引いた。

 青褪める杳に榛色の目を眇めると、青年は労るように腰回りを撫ぜた。

「お前を追いかけ回してる奴は、化け銀杏だ」

「化け銀杏……?」

「樹齢千年の大銀杏の化生だよ。古い銀杏の木には乳根っていう垂れ下がった瘤みてぇなのが出来るんだが、昔はこれを産女(うぶめ)の乳に見立ててありがたがる風習があったんだ。乳根のある大銀杏を拝むと母乳の出が良くなるってな」

 化け銀杏も、元々そうした信仰によって長らく霊験あらたかな神木として敬われてきた存在らしい。

 しかし、とうとう寿命を迎えて倒木の危険性が出てきたため、今年の秋が暮れたら伐採される事が決まった。

「だが、奴さんは大人しく切り倒されるつもりはなかったのさ。自分が落とした銀杏(ぎんなん)を食べた人間の女に取り憑いて、子種を孕ませて受肉しようと企んだんだ」

 まるでホラーやファンタジーのような話だ。

 だが、杳の肉体は現に変貌を遂げ、いきなり母乳を分泌するようになった。ごくりと唾を飲み込むと、青年は左右の手を入れ替えて右乳房を捏ね回す。

「ンッ、ふ……」

 やんわりとした手つきに焦れったい快感を覚えた。指先でつぷつぷと乳頭部をつつかれ、杳の目からまた涙が転がり落ちる。

 軽く目尻を吸われて肩が跳ねる。青年は杳の体を抱き寄せると、低く耳打ちした。

「お前の他に化け銀杏に憑かれた女が三人、既に死んでる」

「え――」

「千年経た木霊の呪いに普通の人間が耐えられる筈がねぇんだよ。先に肉体が崩壊するか、それとも精神をぶっ壊されるか……どっちにしろ、化け銀杏の慰み物にされた挙句まともな死に方は出来やしねぇ」

 硬直していると、青年は苦々しく表情を歪めた。

「天文学的な確率で、お前は白羽の矢に当たっちまった。化け銀杏の呪いに対する耐性を持ち合わせてたんだ、偶々(・・)な」

 杳はぎゅっと青年のパーカーを握り締め、恐る恐る打ち明けた。

「あの、私、今までの事を殆ど思い出せないの。自分の名前と……大体の年齢くらいしか。これって、呪いの影響なの?」

 青年は瞠目し、くしゃりと顔を歪めた。

「ああ、十中八九な。精神への負荷が記憶障害として出たんだ。……クソッ」

 毒づく言葉の裏側に、杳への気遣いを感じた。慰めるように乳房を揉まれ、女の唇が甘い吐息を震わせる。

 零れ落ちる乳汁が青年の指を伝う。

 右手の指先で陰裂の肉襞をすりすりとなぞられて、杳は堪らず青年にしがみついた。

「あっ……ン、ひゃあ!」

「杳」

 ドロドロに甘い蜂蜜を耳の穴に流し込まれるような声が囁く。

 涙目を見開いて息を詰めると、青年が腫れ上がった乳輪を指の腹でくるくると撫でた。

「俺は昔、お前に借りた恩がある。今こそ返させてくれねぇか」

「お、ん、ぅ?」

「俺ならお前を助けられる。体や記憶を元に戻す事は難しいが――身の安全だけは、必ず」

 青年の右手指が陰裂の内側へ浅く潜り込み、熱い泥濘をぬちゃりと掻き回す。杳ははっきりと悦びに啼いた。

「俺は化生退治が家業なんだ。大銀杏のある土地の所有者からの依頼で、化け銀杏の退治を請け負った。依頼を成功させて、絶対にお前を助ける」

 彼の名前を思い出せない事がもどかしい。青年の体にしなだれかかるように体重を預けると、喉仏の浮かんだ首がごくんと鳴った。

「名前、教えて? 貴方の名前」

「……斗南(となみ)病葉(わくらば)、斗南」

「斗南――君?」

 斗南は面映ゆそうに口を引き結んだ。

 何となく君付けがしっくり来る気がしたのだが、正解だったようだ。

「お前の名前は都築(つづき)杳。俺と同学年(タメ)で二十二。……学生なのか社会人なのかは知らねぇ。悪いな」

「私達、子供の頃の知り合い……学校の同級生だったとか?」

「似たようなもんだ。思い出話なら幾らでもしてやるよ」

 なあ杳、と斗南が強請るように名前を呼んだ。

 下腹部がカッと熱くなる。何年もの間、恋い焦がれた相手に向ける熱情が凝縮された声音だった。

 榛色の瞳が食い入るように見つめてくる。鼻先を触れ合わせ、斗南が問うた。

「化け銀杏が子種を植えつける前に雄の性を持つ他者とまぐわえば、折角の苗床を汚されたと思い込んで万が一捕まったとしても手を出されずに済むかもしれねぇ。だから……俺に、お前を抱かせてくれ」

 迷いは浮かばなかった。

 記憶喪失状態の自分にとって初対面の相手にも等しいのに、斗南が自分を裏切る事は天地が引っ繰り返ってもあり得ないと確信していた。

 杳はとろんと微笑んだ。

「うん」

 勢い良く唇に噛みつかれた。

 全てを分け与え、暴き立て、貪り合おうとするような、深い口づけだった。

 

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