※この作品はR-18です。

悪の秘密結社に転職しました。   作:みなぽん

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砂漠から来た怪人 出稼ぎ怪人 シークケバブの過去と救済

JAPASHにも、人手不足の波は容赦なく押し寄せていた。

 

「戦闘員の応募、減ってるんですよねえ」

 

 人事・戦闘員管理部のデスクで、蜂野すずめは求人状況を眺めながら頭を抱えていた。

 

 かつてなら、悪の秘密結社と聞けば、金に困った者、社会に居場所をなくした者、あるいは単純に世界征服を夢見る変人まで、いくらでも人材は集まった。

 

 だが時代が変わった。

 

 待遇。

 

 福利厚生。

 

 安全管理。

 

 そして何より――命の保証。

 

 悪の組織とはいえ、現場の人間たちも「できれば死にたくない」と考える時代だった。

 

「うーん……困ったなあ」

 

 そんなすずめのもとに、ある日、一件の人材紹介書類が届いた。

 

 海外からの応募者。

 

 元・武装組織所属。

 

 アメリカ軍の掃討作戦によって組織は壊滅。

 

 所属していた怪人製造部門も消滅。

 

 その過程で生み出された改造人間が、一人だけ生き残っていた。

 

「……怪人名、シークケバブ?」

 

 すずめは首を傾げた。

 

「なんか美味しそうね」

 

 その男が日本へやって来たのは、それから数週間後だった。

 

 

 アリ・セークハラ。

 

 年齢は23歳

 

 日本語はまだ片言だった。

 

 そして彼の身体は、普通の人間とは違っていた。

 

 肩から背中にかけて硬質な装甲。

 

 腕には特殊な筋繊維。

 

 体内には熱源を利用したエネルギー器官。

 

 そして口元から吐き出される高熱によって、巨大な鉄板を瞬時に加熱できる。

 

 怪人名は――シークケバブ。

 

 本人は、その名前を聞いたとき、しばらく黙っていた。

 

「……ケバブ?」

 

「そう。あなたの能力から取った名前らしいわ」

 

「ワタシの名前 おもしろい」

 

 アリは苦笑した。

 

 そして彼のJAPASHでの最初の仕事は、意外なことに戦闘ではなかった。

 

「まずは社員食堂の使い方を覚えてね」

 

 すずめに連れられ、アリは社食へ向かった。

 

 扉を開けた瞬間。

 

「本日のA定食、焼き魚と煮物でーす!」

 

「カレー大盛り!」

 

「午後の会議あるから早く食べないと!」

 

 そこには、怪人も戦闘員も研究員も、普通の会社員のように昼食を取る光景が広がっていた。

 

 アリは立ち尽くした。

 

「……?」

 

「どうしたの?」

 

「ここ……JAPASH?」

 

「そうだけど?」

 

「……悪の組織?」

 

「一応ね」

 

 すずめは笑った。

 

 アリは食券を握りしめたまま、しばらく動かなかった。

 

 やがて運ばれてきた料理を見て、目を丸くする。

 

 白いご飯。味噌汁。焼き魚。漬物小さな煮物。

 

 そして、温かいお茶。

 

「……これ、全部で300円?」

 

「社員食堂だからね、ハラール対応もしてるわよ」

 

「…俺らは戦うための道具だぞ。こんなことしなくても、、」

 

「福利厚生、大事だから」

 

 アリは箸を手に取った。

 

 だが、うまく使えない。

 

「こうやって持つのよ」

 

 すずめが笑いながら教える。

 

 何度か失敗したあと、ようやく魚を一切れつまむ。

 

 口へ運ぶ。

 

「……」

 

 アリの動きが止まった。

 

「どうしたの?」

 

「……おいしい」

 

 小さな声だった。

 

 もう一口食べる。

 

「おいしい……」

 

 そして三口目で、アリは俯いた。

 

「……アリ?」

 

「……ごめんなさい」

 

「え?」

 

「……少し、思い出した」

 

 頬を伝う涙を、アリは慌てて手の甲で拭った。

 

「昔、母も……魚を焼いてくれた」

 

 すずめは何も言わなかった。

 

 ただ、彼の隣に座った。

 

 

 それからアリは、少しずつJAPASHに馴染んでいった。

 

 最初は日本人を見るたびに緊張していた。

 

 しかし、誰も彼を珍獣のようには扱わなかった。

 

「アリさん、今日の任務どうだった?」

 

「疲れた」

 

「じゃあ、これ飲む?」

 

「何?」

 

「スポーツドリンク」

 

「……ありがとう」

 

 研究員から菓子をもらい、戦闘員から日本語を教わり、食堂のおばちゃんから「もっと食べなさい」と言われる。

 

 アリにとって、それは奇妙な日常だった。

 

 かつて自分の周囲にいた人間たちは、常に武器を持っていた。

 

 命令する者。

 

 命令される者。

 

 敵か味方か。

 

 生きるか死ぬか。

 

 世界は二つに分かれていた。

 

 だが日本では違った。

 

 怪人がコンビニで弁当を買う。

 

 戦闘員が給料日に喜ぶ。

 

 研究員が残業を嫌がる。

 

 そして悪の組織の社員たちが、仕事終わりに居酒屋へ向かう。

 

 その光景が、アリには不思議で仕方なかった。

 

「アリさんも来る?」

 

 快人に誘われたのは、そんなある夜だった。

 

「居酒屋?」

 

「そう。飯でも食おう」

 

「……行く」

 

 

 赤提灯の下。

 

 小さな居酒屋の座敷で、怪人たちはジョッキを掲げていた。

 

「お疲れー!」

 

「乾杯!」

 

 アリも恐る恐るグラスを持ち上げた。

 

「乾杯……」

 

 料理が次々と運ばれてくる。

 

 焼き鳥。

 

 枝豆。

 

 刺身。

 

 だし巻き卵。

 

 そして、店員が「サービスです」と持ってきた一皿の肉料理。

 

 アリはそれを見て笑った。

 

「ケバブじゃないか!」

 

「嬉しいだろ」

 

 快人が笑う。

 

「……そうだな」

 

 アリも笑った。

 

 しかし、その笑顔は長く続かなかった。

 

 ふと、快人が尋ねた。

 

「アリは、どこの国から来たんだ?」

 

 アリはグラスを見つめた。

 

「……遠いところ」

 

「話したくなければいい」

 

「いや」

 

 アリは首を横に振った。

 

「話す」

 

 少しだけ沈黙してから、彼は語り始めた。

 

「私の祖父……村の長だった」

 

 幼い頃の村。

 

 乾いた大地。

 

 夕暮れになると、家々から煙が立ち上る。

 

 祖父は皆から尊敬されていた。

 

 父も兄たちも、村を守る男として誇りを持っていた。

 

「ある日、突然……イスラファル軍が来た」

 

 最初に聞こえたのは、遠くから響く轟音だった。

 

 人々が空を見上げる。

 

 飛行機。

 

 そして爆発。

 

 村のあちこちで爆発!黒い煙が上がった。

 

「何が起きているのか、誰にも分からなかった」

「わしらの村と女子供を守るんじゃ」

 祖父は銃を取った。兵器と呼べるようなものではない護身用の骨董品

 

 父も取った。

 

 兄たちも武器を手にした。

 

「アリ お前は逃げろ」

 

 そう言われた。

 

「でも、私は……逃げられなかった」

 

 アリの声が震える。

 

「子供だったから、怖くて動けなかった」

 

 やがて地平線から戦車が現れた。

 

 ゆっくりと。

 

 あまりにも巨大な鉄の塊が、土煙を上げながら村へ近づいてくる。

 

 祖父たちは銃を構えた。

 

 しかし、その距離では何もできなかった。

 

「一方的に殺されていった、ひき肉みたいにバラバラにされて」

 

 アリはグラスを握りしめた。

 

「祖父も父も。兄も。」

 

 戦うために立った男たちは、圧倒的な兵器の前で次々と嬲り殺しになった

 

「まるで……射撃場の的だった。敵の兵士は笑いながら村の男たちを殺していた。」

 

 快人は黙って聞いていた。

 

「それから軍隊が村に入ってきた」

 

 アリはそこで一度言葉を止めた。

 

「家が壊された。火がついた。逃げる人たちがいた」

 

 子供の泣き声。

 

 叫び声。

 

 銃声。

 

 煙。

 

 瓦礫。

 

「母さんが、私を押し込んだ」

 

アリの声は、もはや震えではなく、どこか遠い場所から響く機械的な響きを帯びていた。

 

「衣装ダンスの奥。暗くて狭い場所」

 

隙間から見えるわずかな光。そこから覗く部屋の光景は、地獄そのものだった。

 

 

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ドアを蹴破る轟音。泥にまみれた軍靴。

 

母ファーティマと姉パラヤは、アリを隠すと振り返り、何かを叫んだ。それは抵抗の言葉だったのか、命乞いだったのか、アリの耳にはもう届かなかった。

 

男たちが押し入ってくる。銃を手にした兵士。彼らの目には、獣のような濁った欲望がぎらついていた。

 

「見ちゃいけない」

 

アリは思った。しかし、目は隙間に釘付けにされた。動けなかった。息すら忘れていた。

 

兵士の一人がファーティマの髪を掴み、無理やり床に引き倒した。別の男がパラヤを壁に押し付け、服を引き裂く。布が裂ける乾いた音が、アリの鼓膜を突き刺した。

 

母の顔が苦痛に歪む。姉の口から悲鳴が漏れる。

 

そこから先は、アリの理解を超えた時間の連続だった。

 

兵士たちは笑っていた。まるで獲物を前にした野獣のように。彼らは手に持った注射器を母と姉の腕に突き刺した。

 

「これで大人しくなるだろ」

 

誰かが吐き捨てた。

 

液体が流し込まれると、二人の抵抗は急激に弱まっていった。目から光が消え、身体から力が抜け、ぐったりと床に崩れ落ちる。しかし意識はあるようで、その瞳は虚空を見開いたまま震えていた。

 

「ただの牝だろ」

 

「豚め」

 

罵声が降り注ぐ。人間としての尊厳を剥ぎ取るような、汚れた言葉の数々。

 

そして、彼らは倒れた二人の上にのしかかった。

 

アリは見ていた。

 

隙間から覗く光景の中で、最も大切な人たちが、ただの肉の塊として扱われ、穢されていくのを。

 

母の目が、一瞬だけ衣装ダンスの方を向いた気がした。

 

その瞳には何も映っていなかった。ただ涙だけがこぼれ落ちていた。

 

姉の喉から漏れるのは、悲鳴ではなく、壊れた笛のような喘ぎだけ。

 

「ひひひこのババア、犯されて腰振ってるぜ!」男が弾むようにピストンし剛直を打ち込んでいた。

「いやぁ、やめて!やめて!」ファーティマが叫ぶ。

「やめて」という言葉に兵士はあざ笑いながらさらに激しく腰を打ち付けた。

「出して、内に出して孕ませてやるよ」「本望だろ」アリは全身が冷たくなるのを感じた。

 

「わああああ…」姉が叫ぶ。

「お前も奥まで突いてやるからな」

一人の男が指を姉の秘部に突っ込み、卑猥な水音を立てる。

「中に出すぞ!うひぃいいいいっ」ドピュドピュ

裸に裂かれた姉の身体は痙攣し、白い肌には無数の殴打の痕と吸い痕と体液がこびりついていた。

「次は俺がやる!」「待ちきれねえちんぽしゃぶれ」姉は2人がかりで性器をねじ込まれ口を犯される。

男たちの白濁が姉の顔に注がれる。

「んぐっ!うぅ…」涙を流し恥辱に歪むパラヤの顔。

男たちは交替で2人を犯し続けた。

アリは唇を噛みしめた。血が滲むほどに

 

アリは気がつくと、衣装ダンスの扉を自分で押し開けていた。

 

なぜそんなことをしたのか今でも説明できない。あまりの恐怖に隠れていることすら忘れたのか、あるいは目の前で繰り返される光景に身体が勝手に動いたのか。

 

ただ、気づいたときには薄暗い部屋の中へ飛び出していた。

 

「やめろ!」

 

自分の声とは思えないほど高い叫びだった。

 

兵士たちが一斉に振り返る。その顔には驚きと、そしてすぐに嗜虐的な笑みが浮かんだ。

 

「なんだ、ガキかよ」

 

「隠れてたのか」

 

一番近くにいた男の足にアリは掴みかかった。小さな拳で太ももを殴り、蹴り、噛みつこうとした。

 

だが、兵士は片手でアリの髪を掴むと軽々と持ち上げた。

 

「勇気あるじゃねえか」

 

腹部に膝がめり込む。肺の空気が一気に押し出され、視界が白く弾けた。

 

床に落とされ、背中から倒れる。蹴りが飛んでくる。肋骨が軋み、胃液が喉までせり上がる。蹴られるたびに身体が跳ね、頭を床に打った。

 

「アリ!」

母の悲鳴が遠くから聞こえた。

 

「やめてください!お願いです!その子だけは!」

 

ファーティマが這いずるようにして兵士の足に縋りついた。裸の身体を晒したまま、ボロボロにされたままそれでも母は頭を床に擦りつけた。

 

「お願いします。何でもします。その子だけは助けてください。どうか、どうか殺さないで…」

 

パラヤもまた、ぼろぼろの身体で地面に額をこすりつけた。

 

「お願い…弟を…弟を…」

 

その姿を見て、アリは叫んだ。

 

「やめろ!やめてくれ!母さん!姉さん!そんなことしないでくれ!」

 

だが、兵士たちは腹を抱えて笑い出した。

 

「なんだ、命乞いか?」

 

「いい女だ。こいつら、まだやれんだな」

 

一人の仰々しい装備の男――階級章をつけた男――が、しゃがみこんで母の顎を掴み上げた。

 

「本当に何でもするのか」

 

ファーティマは涙で濡れた顔を上げ、震える声で応えた。

 

「は、はい…」

 

「お前もだ」男はパラヤを見た。「お前らが進んで犯されるなら、ガキは見逃してやる」

「俺たちを満足させるんだ。売春婦のように腰を振り媚びを売れ!」

 

パラヤは一瞬アリを見た。その目は泣き腫らし、焦点が合っていなかった。だが唇だけがかすかに動いた。

 

「…わかった」

 

「母さん!姉さん!やめろ!」

 

アリは這って母に近づこうとした。しかし横から兵士の足が伸びてきて、顔を踏みつけられた。

 

「お前は黙って見てろ」

 

冷たい軍靴の底が頬を押しつぶす。土と血の味がした。

 

そして男たちは再び母と姉にのしかかった。

 

だが今度は何もかもが違っていた。

 

ファーティマは兵士の手を自ら取り自分の身体へと導いた。

 

パラヤは男を招くように腕を広げ腰を動かした。

 

「もっと…もっと奥まで入れてください」

 

「お前らの精液全部もらうから」

 

二人は叫んだ。絶望的なまでに明るい演技の声で。

 

アリの前で母と姉は歓喜する女を演じ始めた。汚された身体で作り笑いを浮かべ嬌声を上げた。

 

男たちが耳元で囁く卑猥な言葉に頷き自ら腰を振った。自ら足を開き自ら唇を寄せた。

 

「ああ…素敵…もっと…もっと下さい…」

 

母が喘ぐ。その声は演技だった。だがアリにはそれが何よりも残酷な真実に聞こえた。母が必死に自分を守ろうとしていること。そのために人間としての尊厳を自ら踏みにじっていること。

 

アリは動けなかった。顔を踏みつけられたまま見上げるしかなかった。

 

視界の端で母が背中を反らせ男の首に腕を巻きつける。姉が自ら男の上に跨り激しく腰を揺らす。

 

二人の演技が激しくなるたびにアリの心臓が引き裂かれた。

 

「母さん…姉さん…」

 

声が出なかった。ただ涙が止まらなかった。

 

何もできない自分が憎かった。小さすぎた自分が許せなかった。

 

二人は生き残るために最後の武器である身体を使って必死にアリを守ろうとしていた。

 

その姿があまりにも痛々しくてアリは目を閉じたかった。だが閉じることは許されなかった。兵士の足がアリの頭を固定していたから。

 

やがて男たちが満足そうに立ち上がり部屋を出ていくまで母と姉はその演技をやめなかった。

 

扉が閉まる直前ファーティマが振り返った。作り笑いが消えたその顔はただの泣き顔だった。

 

「アリ…生きて」

唇だけがそう動いた。

 

難民キャンプは、生者と死者の境界が曖昧な場所だった。

 

赤土の広場に張り巡らされた天幕の下で、人々は影のように生きていた。水も食料も希望も不足し、あるのは病と絶望と、隣人の弱弱しい呼吸音だけ。

 

ファーティマとパラヤは、キャンプの片隅でうずくまっていた。

あの日から母の目は光を失い、姉は誰とも口をきかなくなった。二人は壊れていた。アリを守るために自らを犠牲にしたその代償は、彼女たちの魂そのものだった。

 

「アリ、行かないで」

 

出発の朝、母が初めて掠れた声で言った。その手はアリの服の裾を弱々しく握っていた。

 

「お兄ちゃん…」

 

姉の唇が震える。

 

「大丈夫だ」

アリは二人の手をそっと解いた。14歳になっていた彼の目には、子供の頃の怯えはもうなかった。あるのは冷たく固い決意だけ。

 

「金を稼いでくる。そうすれば、ここから出られる」

 

仲介人は言った。「仕事」があると。武器を持てば報酬が出ると。家族を養えると。

 

アリにとってそれは救いだった。あの日、衣装ダンスの隙間から見た力のない自分。蹴り飛ばされ、踏みつけられ、何もできなかった無力な子供。

 

もう二度と、誰にも踏みつけさせない。

家族を守れる力が欲しい。金が欲しい。そして何より――あの時の男たちと同じ「力」が欲しい。

 

アリは銃を手に取った。重い鉄の塊は、皮肉なほど手に馴染んだ。

 

それから数年。

アリは「仕事」をこなすうちに、人を殺すことに慣れていった。

仲間たちは彼を「幽霊」と呼んだ。感情を見せず、ただ任務を淡々とこなすから。

 

ある夜、リーダーの男が集まったメンバーに地図を広げた。

 

「次のターゲットはここだ」

 

指で示された場所を見て、アリの心臓が跳ねた。

 

「イスラファル開拓村。入植者たちがのうのうと暮らしている場所だ」

 

そこはアリの故郷だった。

 

かつて彼らが暮らしていた土地。祖父と父と兄が血を流して守ろうとした場所。そして奪われた場所。

 

今はイスラファルの人々が住んでいた。彼らは肥沃な大地を耕し、家を建て、家族で食事を囲んでいる。かつてアリの家族がそうしていたように。

 

「奴らは俺たちの土地を奪い俺たちを殺した。今度は俺たちが取り返す番だ」

 

リーダーの言葉に男たちが歓声を上げる。アリは拳を握りしめた。怒りが体の奥から湧き上がってくる。

 

彼らは俺たちの死体の上に家を建てた。

彼らは俺たちの悲鳴を聞きながら飯を食らった。

許せない。

絶対に許せない。

 

月のない夜。

アリたちは村を包囲した。

 

「行け!」

 

合図と共に銃撃が始まった。

 

窓ガラスが割れる音。悲鳴。怒号。

かつて自分の村で聞いた音と同じだ。しかし今は自分がその音を奏でる側だ。

 

家に踏み込む。

まだ暖かい食事が並ぶテーブル。

驚いて振り返る初老の男。

その後ろで震える女。

 

「たす…」

 

男が何かを言いかけた瞬間、アリは引き金を引いた。

銃声が響き男が倒れる。

 

あの日と同じだ。

ただ立っていた人間が一方的に殺される。

 

しかし今のアリには同情の余地はなかった。

こいつらは敵だ。

俺たちから全てを奪った者たちだ。

 

「若い女は確保しろ!残りは殺せ!」

 

リーダーの命令が飛ぶ。

アリは別の家へ向かった。そこはかつて村長だった祖父の家があった場所だ。

今は立派な石造りの家が建っている。

 

扉を蹴破る。

居間には家族がいた。

父親らしき男が妻子をかばうように立っている。

 

「出て行け!ここは俺たちの家だ!」

 

男の叫び声を聞いてアリは笑った。

俺たちの家?

それは俺たちがそう叫んだ言葉だ。

 

「違う」

アリは銃口を向けた。

「ここは俺たちの家だ」

 

発砲。

男が崩れ落ちる。

女が悲鳴を上げる。

 

アリは女と子供を見下ろした。

恐怖に歪んだ顔。

あの日母が見せた顔と同じだ。

 

だがアリの心は凍り付いていた。

彼はただ機械的に動いた。

 

家に火をつける。

食器を壊す。

壁に弾痕を刻む。

 

かつて自分が受けた惨禍を今度は自分が与える側として再現する。

暴力の連鎖。

復讐の宴。

 

炎が夜空を照らす中アリは立ち尽くしていた。

足元には死体がある。

周囲では仲間たちが略奪を繰り広げている。

 

これでいいのか?

これが復讐なのか?

 

心の中で何かが問いかける。

だがアリはその声を無視した。

 

奪われたものは取り返さなければならない。

痛みを与えられたなら痛みを返さなければならない。

 

それがこの世界のルールだ。

 

炎の中でアリはかつて祖父が座っていた場所に座り込んだ。

温かい炎が彼の顔を照らす。

 

彼は手についた血を見つめた。

これは自分の血かそれとも他人の血か。

 

もう区別がつかなかった。

 

「報復だ!お前も女の身体を経験しろよ!」

 

「いや!この〇〇の悪魔め!離せ!」

 

女の悲鳴が夜気を切り裂いた。それはアリがかつて耳にした音と同じ周波数を持っていたが、今は彼の心を凍らせる代わりに、奇妙な熱を生み出した。

 

 

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炎に照らされた広場で、仲間たちが獲物を貪っていた。

 

略奪された家具が散乱する中、若い女が男たちに押し倒される。服が裂かれ、白い肌が泥と煤にまみれて露わになる。男たちは笑いながら、まるで獣のように群がっていた。

 

「見ろよアリ! これが勝者の特権だ!」

 

リーダーが女の上にのしかかりながら叫ぶ。

 

アリはそれをぼんやりと見ていた。手にはまだ温かい銃を握りしめている。

 

拒絶感はなかった。あるのは、底なしの暗い穴のような共鳴だけ。

 

目の前で繰り広げられている光景は、あの日彼が衣装ダンスの隙間から見た地獄と寸分違わぬものだった。ただし立場が逆転している。蹂躙される側と蹂躙する側。

 

男が女の脚を強引に開かせる。女は抵抗するが、力の差は絶望的だ。悲鳴が嗚咽に変わり、やがて無表情な喘ぎへと変わっていく。

 

「いや…やめて…お願い…」

 

その声。

 

アリの脳裏にファーティマの顔がフラッシュバックした。

『お願いします…その子だけは…』

 

あの時の母の声。

そして目の前で懇願する女の声。

二つの音が混ざり合い、アリの内側で不協和音を奏でる。

 

「次は俺だ!」

 

「俺もだ! 乳を揉ませろ!」

 

男たちが順番を待ちわびながら笑い合う。その顔には嗜虐的な喜びが張り付いている。かつてアリの母と姉を犯した兵士たちと同じ顔だ。

 

アリは気づいた。

自分の下半身に熱が集まっていることに。

 

それは性的な興奮だった。だが同時に、吐き気を催すほどの自己嫌悪と混ざり合った、腐敗した欲望だった。

 

あの日見せられた極限の屈辱。母と姉が演じさせられた歓喜の嘘。それらがアリの中でねじ曲がり、「力を持つ者はこう振る舞うものだ」という呪いとなって彼を縛り付けていた。

 

復讐だ。

これは復讐なのだ。

彼らが俺たちにしたことを、俺たちは彼らに返しているだけだ。

ならば、俺が加わらない理由はない。

 

「アリ! 何突っ立ってんだ! お前も味わえよ!」

 

男の一人がアリを手招きした。

その足元には、力なく横たわる女がいた。服は引き裂かれ、身体には噛み跡と打撲の痕が赤く残っている。虚ろな目で夜空を見上げている女。

 

アリは銃を地面に置いた。

重いブーツで一歩踏み出す。

 

女の目がアリを捉えた。恐怖に歪む顔。

それはアリが最も愛し、最も傷つけられた母の顔と重なった。

 

「…許して…」

 

震える唇から漏れた言葉は、あの日と同じだった。

 

アリは笑った。引きつった、壊れた笑みだった。

 

「許すわけないだろ」

 

彼は女の上に覆いかぶさった。

 

それは性欲ではなかった。

ただ相手を破壊し尽くしたいという衝動。自分の中にある欠落を埋めるための暴力。

 

アリは女の身体を粗暴に扱った。優しさも愛もない、ただの貫通と摩擦。女が痛みに顔を歪めるたびに、アリの中で何かが砕ける音がした。

 

「どうだ! どうなんだ!」

 

彼は叫びながら腰を打ち付けた。

自分でも何を言っているのか分からなかった。

ただ、この行為によって自分が被害者から加害者へと完全に移行できると思っていた。自分もまた「力を持つ者」の側になれると。

 

汗と血と泥の匂い。

女の嗚咽。

男たちの笑い声。

燃え盛る家の爆音。

 

アリはその混沌の中で激しく動いた。意識が飛びそうになるほどの強烈な刺激。しかし感じるのは快楽ではなく、ただの痛みだけだった。

 

やがて果てた瞬間。

アリは女の上に崩れ落ちた。

 

静寂が訪れたわけではない。まだ周囲では略奪が続いている。だがアリの世界では音が消えた。

 

彼はゆっくりと身体を起こした。

足元の女は動かない。ただ震えながら涙を流している。

 

アリは自分の手を見た。

震えていた。

 

興奮は冷め失せていた。後に残ったのは、底なしの寒気と自己嫌悪だけ。

 

自分は何をしたのだろうか。

彼らと同じことをしただけではないか。

あの日最も憎んだ行為を、自らの手で再現しただけではないか。

 

「はは…」

 

乾いた笑いが漏れた。

涙が出そうだったが出なかった。感情が麻痺していた。

 

アリはズボンを直し、よろめきながら立ち上がった。

炎が彼の影を長く地面に映し出す。その影は歪んでいて、怪物のように見えた。

 

彼は自分が怪物になってしまったことを悟った。

銃を持ったからではない。

誰かを殺したからではない。

 

この空虚な暴力の中に身を投じ、その毒を自分の血として受け入れてしまったからだ。

 

「おいアリ! 次はあっちだぞ!」

 

リーダーの声が飛んでくる。

アリは振り返った。

仲間たちが新たな獲物を追い詰めている。

 

彼は銃を拾い上げた。

もう後戻りはできなかった。

この地獄の中で生きるには、悪魔になるしかなかったのだ。

 

アリは再び闇の中へ歩き出した。

その背中には、もう人間の温もりは残っていなかった。

そして彼は密かに暗躍していた中国の軍事顧問団の捧げで、人造人間への改造手術を受けることになった。

共産圏の技術で作られた地下工場は、生身の人間を解体し再構築する屠殺場だった。

 

麻酔なしの手術台の上で、アリは自分の肉が削ぎ落とされ硬質な合金へと置き換えられていくのを感じていた。肩甲骨に埋め込まれた排熱ダクトが呼吸をするたびに唸りを上げ、腕の筋繊維は特殊なセラミック製のワイヤーで再縫合された。そして最大の改造は体内に組み込まれた高熱エネルギー器官だ。それは心臓の傍らに寄生する新たな臓器のように脈打ち、アリの血液を沸騰させる程の熱量を生み出した。

 

実験の日。アリが口から吐き出した灼熱の奔流は、装甲板を瞬時に赤熱させ溶鉄の海へと変えた。

 

技術者たちは歓喜した。「完璧だ! 対戦車級の熱線だ!敵のMBTLを破壊できる!」

 

彼らはアリにコードネームを与えた。

シークケバブ。

肉を串刺しにして焼く料理の名前。それはアリの能力を示すと同時に、彼がもはや人間ではなく焼かれる側から焼く側へと反転したことを象徴していた。

 

アリは鉄の腕を握りしめた。痛みはない。あるのは底知れぬ力だけ。かつて自分を踏みつけた軍靴を粉砕できる力。戦車すらもスクラップにできる力。

 

これで守れる。もう誰も奪わせない。

 

だがその誓いは、復讐の炎によって歪められていた。

 

 

イスラファル国境。雪が降り積もる静寂な町。

 

その平和を引き裂いたのは、アリたち武装組織の襲撃だった。

 

「殺せ! 異教徒を皆殺しにしろ!」

 

雪原を赤く染めながら、兵士たちは町へなだれ込む。しかし抵抗は熾烈だった。イスラファル軍の守備隊が教会を拠点に立てこもり、機関銃の雨を降らせた。兵士たちが次々と倒れていく。

 

「チッ……ならば!」

 

アリが前へ出た。銃弾が彼の装甲に当たり火花を散らすが貫けない。彼は教会の正面に立つと深く息を吸い込んだ。体内のエネルギー器官が極限まで回転し全身のパイプが赤熱する。

 

「シークケバブ……!」

 

口から吐き出されたのは極彩色の熱線だった。

 

数千度の炎が教会の石壁を舐めるとそこから白煙が上がり溶け始めた。守備兵たちの悲鳴が聞こえる。ガラスが割れ木材が爆発的に発火する。

 

「あははははは! 燃えろ! 燃え尽きろ!」

 

アリは笑った。高熱によって空気が歪む中で彼は狂喜していた。かつて爆撃機から降ってきた地獄の業火を今自分が振りまいているのだ。

 

教会の屋根が崩れ落ちる。中から火だるまになった人影が転がり出てくる。それをアリは容赦なく更なる炎で焼き尽くした。肉が焦げる臭い。かつて兄たちがひき肉にされて消えた匂いと同じだ。

 

「見たか! これが力だ!」

 

守備兵が全滅すると略奪が始まった。

 

 

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アリは崩れ落ちた教会の聖堂へ足を踏み入れた。そこには神に祈りを捧げていた市民たちが震えていた。女たち。子供たち。老人たち。

 

彼らはアリにとって敵だった。自分の家族を奪った者たちの同類。

 

「お願い……助けて……」

 

一人の女が十字架にすがりつきながら懇願した。

 

その姿を見てアリの中で何かが弾けた。あの日衣装ダンスの隙間から見た母の姿が重なる。しかし今の彼には同情など微塵もなかった。あるのは歪んだ征服欲だけ。

 

「助けてだと?」

 

アリは赤熱した手で女の首を掴み持ち上げた。女は苦悶の表情を浮かべ足をばたつかせる。

 

「俺の母もそう言ったさ! だが誰も助けなかった!」

 

彼は女を祭壇の上に投げ落とした。石造りの祭壇が熱を帯び女の肌が焼ける音がした。

 

「やめて! お願い!」

 

「うるさい!」

 

アリは女の上に覆いかぶさった。彼の装甲はまだ熱を帯びていた。女の服が焦げ肌が赤く腫れ上がる。

 

「ああああっ!」

 

「叫べ! もっと叫べ!」

 

アリは女を犯した。それは性交ではなかった。破壊だった。貫通だった。熱された鉄の楔で相手を刺し貫く行為。

 

周囲では他の兵士たちも同様に女たちを犯していた。聖堂は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 

「神よ……なぜ……」

 

老婦人の祈りなど届くはずもなかった。兵士に突き倒されその汚れた肉棒をねじ込まれる。

 

「ひぎぃいいい!」

 

「ほらよ異教徒め! 子孫を孕ませてやるよ!」

 

男たちの笑い声。女たちの悲鳴。燃える聖堂の爆音。

 

アリはその全てに酔いしれていた。

 

力こそ全て。

弱者は強者に蹂躙されるのがこの世界の理だ。

自分はもう衣装ダンスに隠れる弱い子供ではない。

全てを焼き払い全てを犯す悪魔そのものだ。

 

「ははは……ははははは!」

 

アリは祭壇の上で女を激しく突き上げながら叫んだ。

 

だがその笑い声はどこか空虚だった。

彼の心にはかつて母が流した涙と同じ温度の冷たいものがへばりついていた。

 

女の目が虚空を見開いている。あの日母がそうしていたように。

 

その瞬間アリの手が止まりそうになった。

 

しかし彼は激しく頭を振った幻影を追い払うように。

 

「違う! 俺は悪魔だ! 人間じゃない!」

 

彼はさらに激しく腰を打ち付けた。相手を壊すことでしか自分を保てない悲しい獣のように。

 

やがてアリは果てた。

聖堂の冷たい石の上で彼は女の体から離れた。

 

女は動かなかった。

ただ其の目から涙が一筋だけ流れていた。

 

アリはそれを見なかった。

彼は踵を返し炎の中へと歩き出した。

 

彼の背中からは蒸気が上がっていた。

それは涙のように見えたかもしれない。

しかしシークケバブに涙腺はなかった。

 

あるのは永遠に消えることのない業火とその虚無だけだった。

 

空は晴れていた。

あまりにも青すぎる空だった。アリはその日、拠点の屋上で空を仰いでいた。この国の空はいつも皮肉なほど美しい。爆破と虐殺の翌日でさえ澄み切った青を掲げていた。

「アリ! 降りて来いよ! 飯だぞ!」

下から仲間の声がした。

「ああ」

アリは手すりから身を離した。屋上から見下ろす拠点は旧ソ連の軍事施設を改装したものだった。分厚いコンクリートの壁、地下の武器庫、通信設備。ここなら空爆にも耐えられる。そう信じていた。

食堂では二十数人の戦友たちが食事を囲んでいた。煮豆と羊肉の炒め物。粗末な飯だが皆笑っていた。

「アリ、お前また女漁りに行ったんだって?」

「行ってない」

「嘘つけ! 昨晩の村の女、いい肌してたぞ」

「お前ら……」

アリは苦笑した。この男たちとの時間は、不思議と悪くなかった。彼らは皆どこか壊れていた。故郷を失い家族を失い、復讐だけを糧に生きる残骸たち。アリと同じ匂いがした。

「なあアリ、戦争が終わったら何する?」

「終わるのか? これが」

「いつかは終わるさ」

「……わからない」

「俺は牧羊師になる。親父と同じようにな」

「お前、羊飼い向きじゃないだろ」

「うるせえ!」

笑い声が食堂に響いた。その瞬間、アリは珍しく穏やかな気持ちになっていた。

 

そしてその瞬間、世界が終わった。

 

最初は音だった。

アリの改造聴覚がいち早く捉えた高周波の振動。上空から降ってくる何か。大量の何か。

「何だ……?」

顔を上げた瞬間、天井が白く弾けた。

いや天井が消えた。

爆音が世界を白く染め上げた。衝撃波がアリの身体を宙に浮かせ壁に叩きつける。コンクリートの壁が紙のように剥がれ鉄骨がきしんだ音を立ててねじ曲がる。

「何が起きた——」

二発目が落ちた。

食堂のあった区画。

アリは瓦礫の下から這い出した。耳鳴りが酷い。視界が赤い。自分の血だ。

空を見上げた。

高高度を飛ぶ機影。アメリカ軍の無人攻撃機MQ-9リーパー。三機。そして上空にはさらに高くB-52の重たい影。

精密誘導爆弾が次々と落下してくる。一発一発が拠点の区画を正確に捉え確実に破壊していく。地下の武器庫が誘爆し大地が隆起した。

「みんな……!」

アリは食堂のあった場所へ走った。

そこにはもう食堂はなかった。

あったのは瓦礫と、肉の塊だけ。

「おい……おい……!」

瓦礫を掘り返す。出てきたのは半身が吹き飛んだ戦友の死体だ。さっきまで羊飼いになるんだと笑っていた男の顔はもう原型をとどめていなかった。

さらに掘る。

出てきたのは焼け焦げた腕。皮膚が炭化し剥がれ落ち中の筋肉が赤黒く覗いている。

アリは自分の手を見た。同じだ。仲間たちの焼けた肉は、アリがこれまで焼いてきた人々と同じ匂いを放っていた。

「あ……あ……」

三発目。四発目。爆撃は容赦なく続いた。アリの改造身体は耐えた。分厚い装甲とエネルギー器官が衝撃と熱を分散させた。しかし生身の人間たちは一瞬で肉塊に変わった。

リーパーのカメラが地上を捉えている。衛星回線を通じてバージニア州の基地でコーヒーを啜る操作員が画面上の赤い点を一つずつ消していく。ゲームのキャラクターを消すように。駆除するように。

アリは瓦礫の山に座り込んだ。

周囲には仲間たちの残骸が散らばっている。頭部だけが転がっている男。内臓が絡みついた鉄骨。下半身がない女戦士の死体。かつて教会でアリが犯した女と同じ目で天を見開いている。

焼けている。

全員が焼けている。

まるで串刺しにして焼かれた肉のように。まるで——ケバブのように。

その思考が浮かんだ瞬間アリは笑った。

笑いながら涙が出た。

改造されたはずの目から、まだ涙が出た。

「ケバブ……俺たち……ケバブか……」

焼く側が焼かれた。

犯す側が駆除された。

力を持つ者が力を持たない者を踏みつける。その力を持つ者が、さらに上の力によって踏みつけられる。

アリは空を仰いだ。

青い空。

何も変わっていない空。

神がいるとすれば、神はずっとこうやって上から見下ろしているだけなのだ。人間が串刺しにされ焼かれ犯され殺されるのを。興味もなく。

爆撃は一時間で終わった。

何もかも終わった。

アリは灰の中を歩いた。かつて拠点だった場所はクレーターになっていた。コンクリートの破片と鉄くずと肉片が混ざり合い、区別がつかない。

生きているのはアリだけだった。

改造人間だから。人間をやめたから。だから生き残った。

「生き残った……」

その言葉はアリの胸に重く沈んだ。

なぜ生き残ったのか。

生き残って何をするのか。

復讐か。もう十分した。教会で女を犯し村を焼き守備兵を溶かした。しかし腹の底の冷たさは消えなかった。復讐は復讐を生み、暴力は暴力を呼び、その連鎖の果てにあったのは灰だけだった。

アリは瓦礫の中に座り込んだ。

三日間動かなかった。

空腹も喉の渇きも改造身体は耐え忍んだ。ただ思考だけが止まらなかった。

母の顔が浮かぶ。姉の声が聞こえる。祖父の背中が見える。兄たちの笑顔がよぎる。そして——衣装ダンスの隙間から見たあの光景。兵士に犯される母と姉。そして自分が犯した女たちの顔。焼いた人々の悲鳴。

全てが混ざり合い一つの渦になってアリの中を回り続けた。

「どこへ行けばいい」

問いに答える者はいなかった。

四日目の朝、アリは立ち上がった。

瓦礫の中から一つだけ無事だった通信端末を拾い上げた。画面は割れていたがまだ動いた。電波を探す。弱い信号が一つ。

ニュース記事が流れた。

『日本。悪の秘密結社JAPASH。戦闘員募集。待遇改善。福利厚生完備。命の保証あり』

アリはその画面をしばらく見つめた。

命の保証。

その文字が妙に眩しかった。

「日本……」

遠い国。

海の向こう。

戦争のない国。

自分の汚れた手が通用しないかもしれない国。

アリは端末を握りしめた。

もう戦いたくなかった。

復讐したくなかった。

犯したくなかった。

焼きたくなかった。

それは根拠のない希望だった。自分がしてきたことを考えれば、人間に戻れる資格などない。しかしアリはその微かな光に縋った。暗闇の中で唯一見えた細い光だった。

アリは端末の応募フォームに片言の日本語で打ち込んだ。

 

名前:アリ・セークハラ

年齢:23

国籍:無し

経歴:武装組織所属(壊滅)

特技:火力

備考:働きます。何でもやります。命の保証があるなら。

 

送信ボタンを押した。

数週間後、JAPASH人事部の蜂野すずめのデスクにその書類が届いた。

「……怪人名、シークケバブ?」

すずめは首を傾げた。

「なんか美味しそうね」

 

 

居酒屋の赤提灯が、涙で滲んで揺れていた。

 

語り終えたアリは、まるで糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

テーブルに突っ伏し、肩を震わせて嗚咽を漏らす。その声は、大人の男のものとは思えないほど弱々しく、あの衣装ダンスの暗闇で震えていた14歳の少年のままだった。

 

「うぅ……うぁぁぁぁ……」

 

止まらなかった。何年も、いや何十年も、胸の奥の闇に押し込めていたものが、一度に決壊したかのようだった。自分が焼かれた仲間のこと。自分が焼いた人々のこと。犯した女のこと。そして、何より自分を守るために壊れていった母と姉のこと。全てが混ざり合い、喉から溢れ出していた。

 

快人をはじめとする同僚たちは、言葉を失って黙っていた。掛ける言葉が見つからなかった。ただ、彼が吐き出すのを待つことしかできなかった。

 

ふと、アリの頭に温かくて柔らかい感触が包み込まれた。

蜂野すずめの両手だった。

彼女は隣の席から身を乗り出し、アリの頭をそっと自分の豊かな胸へと引き寄せた。

 

「いいのよ、アリ」

 

すずめの声は、夜の冷気の中でただ一つの暖炉の火のように温かかった。

アリの頬は、彼女の柔らかな乳房に押し当てられた。ほのかに香る石鹸の匂いと、肌の温もり。それは戦場の硝煙や血の匂いとは対極にある、平和な日常の香りだった。

 

すずめは、アリの背中を、リズムを取るように優しく撫でた。

トントントン。まるで寝つかない子供をあやすように。

その手つきの優しさに、アリの嗚咽はさらに激しくなったが、次第にそのリズムに合わせるように深く長い呼吸へと変わっていった。

 

気づけば、店の外に出ていた。

夜風が冷たいが、すずめがアリの肩を抱いて歩いていた。アリは彼女の腕にしがみつくようにして歩いている。まるで、手放せば闇の底へ落ちてしまうと恐れているかのように。

 

「終電、なくなっちゃったね」

すずめが空を見上げながら言った。

「……ごめんなさい」

「謝ることないわ。今日はもう帰れないから、近くのビジネスホテルに泊まりましょ」

 

手続きを済ませ、狭いビジネスホテルの部屋に入ると、アリはすぐにすずめに抱きついた。

強い力だった。戦車をも砕く改造人間の腕。だがその抱擁は、暴力ではなく、どうしようもない孤独の求愛だった。

すずめの腰に回されたアリの腕は、決して離れることを拒否していた。

 

 

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「アリ……」

すずめは、その強い力を受け止めながら、ベッドの縁に腰を下ろした。アリは彼女の膝に顔を埋めるようにして縋りついている。

 

「離さないで……お願い……」

「ええ、離さないわ」

「暗いところに……一人にしないで……」

「大丈夫。ここにいるわ」

 

すずめは、アリの髪を優しく撫でながら、ブラウスのボタンに手をかけた。

迷いはなかった。彼女は人事・戦闘員管理部の責任者として、また一人の大人として、今この壊れかけた魂を救うために自分にできる最も原始的で確かな母性を与えようとしていた。

 

ブラウスを開き、豊かに膨らんだ乳房を露わにする。

アリは潤んだ瞳でそれを見上げた。それは破壊の対象ではなく、完全な受容の象徴だった。

 

「おいで、アリ」

 

すずめはアリの頭を再び胸元へと導き、乳首を彼の唇に寄せた。

アリは震える口を開き、その柔らかな先端を含んだ。

 

チュパ……チュパ……

 

赤ん坊のような吸啜音が、静かな部屋に響く。

アリの口から、かつて人を焼き尽くした灼熱の吐息は出なかった。あるのは、ただ切実に愛を求める弱々しい吸い付きだけ。

すずめの乳房の柔らかさがアリの乾き切った心を潤していく。

 

「いい子……いい子よ……」

 

すずめはアリの頭を優しく抱き、背中を一定のリズムで撫で続けた。

アリの身体から、長年の緊張と恐怖が少しずつ溶け出していく。改造された鋼鉄の身体の中に残っていた最後の人間の部分が、今この瞬間だけ救われたような気がした。

 

「アリ❤️ 全てを受け止めてあげる」

 

すずめの唇が、アリの耳元で囁いた。

その声は、かつて母ファーティマが衣装ダンスの隙間から見せた最後の愛の表情と重なり、そしてそれを超えて、生きた温もりとしてアリを包み込んだ。

 

「私を日本のお母さんだと思って甘えていいのよ❤️」

 

その言葉に、アリの目から再び大粒の涙が溢れ出した。

罪の意識も、喪失の痛みも、全てが許される場所なんてこの世にはないと信じていた。しかし今、この温かい乳房に抱かれながら、アリはただの子供に戻っていた。

 

「お母さん……」

 

アリはすずめの胸に顔を強く押し付け、涙と共に吐き出しながら、心の底から叫んだ。

「お母さん……お母さん……!」

 

すずめは何も言わず、ただ微笑んで、泣きじゃくる怪人の頭を優しく揺らしながら抱き続けた。アリの若い精は強く反応した。

「あらあら、この子ったらおちんちん固くして、こんなおばさんに興奮しちゃったの?」

 

「ごめんなさい…なんか…勝手に…」

アリは顔を真っ赤にして目を逸らそうとした。成人男性の反応でありながらその仕草は恥じらう少年のようであった。

 

すずめは優しく微笑んだ。その瞳には責める色も軽蔑もなかった。ただ深い慈愛だけがあった。彼女はアリの頬に手を添え再び自分の方を向かせた。

 

「謝らないで。元気な証拠よ」

すずめは空いた片手をそっと下へと伸ばした。ズボンの上からアリの硬くなった屹立をそっと掌で包み込む。

「ひぅっ…!」

アリの身体がビクンと跳ねた。

 

「こんなに辛い思いをしてきたのね。こんなに我慢してきたのね」

すずめは労わるように優しく揉みしだいた。改造された硬質なボディの下で唯一生身のまま残されたその部分は熱く脈打っていた。

 

「すずめさん…」

「いいのよ。私が気持ちよくしてあげる」

 

すずめはアリのズボンと下着をゆっくりと下ろした。弾け出た男の証を前にしても彼女は穏やかな手つきでそれを握りしめた。

 

「っあ…!」

 

指先が敏感な先端を擽る。アリはすずめの胸に顔を埋めたまま甘い吐息を漏らした。かつて女を犯した時の暴力的な欲望とは何もかも違っていた。そこには自分を委ねることしかできない純粋な快感だけがあった。

 

すずめは乳首を含ませたまま手を上下に動かした。

ゆっくりと丁寧に。彼が受けた傷を癒やすように。

 

「んっ…あぁ…お母さん…!」

「そうよ。もっと甘えていいの」

 

速度が少しずつ上がる。掌の中でアリのモノがさらに硬く膨張していく。

アリはすずめの乳房に強く吸い付きながら腰を無意識に振り始めた。

 

「いい子…凄いね…いっぱい出しなさい」

「くっ…うぅ…!」

 

アリの身体が弓なりに反った。

そして深い吐息と共に大量の白濁が弾け飛んだ。

すずめの手を汚しながらビクビクと脈打ち続ける。

 

アリは果てた後もすずめの胸に顔を預けたまま動かなかった。

荒い呼吸が次第に落ち着いていく。

 

すずめは汚れた手をハンカチで拭うとアリの頭を優しく撫でた。

 

「少し楽になった?」

「…はい」

アリの声はどこか透き通っていた。しかし逸物は再び硬度を取り戻す。

「ふふふしょうがない子ね❤️次は私の中で搾り取ってあげるわ」すずめは妖艶に笑いアリの上に跨った

深夜のビジネスホテル。

狭いシングルベッドの上で二人の肢体が重なり合った。

布団の下から漏れる熱い吐息。肌と肌が擦れ合う微かな水音。

 

すずめはアリを導いた。暴力的な侵入ではなくただ優しく包み込むように。

アリがすずめの奥深くへ沈んでいくたび彼の目からはまた涙がこぼれ落ちた。

 

「んっ…あぁ…」

「大丈夫…全部受け止めるから…」

 

すずめはアリの首に腕を回し唇を重ねた。

深く優しい口づけ。アリはすずめの腰に手を回しその温もりを確かめるように強く抱きしめた。

 

突き上げるたびにアリの中の暗闇が少しずつ晴れていくような気がした。

罪の意識が消えたわけではない。傷が癒えたわけでもない。

しかしこの温かい身体の中だけは自分が許されているような気がした。

 

「すずめさん…母さん…母さん!母さん!」

「はい…母さんはここにいるわ…」

 

二人は優しく呼び合いながら頂きへと向かった。

それは獣のような交尾ではなくただ互いを確かめ合うような慈愛に満ちた交わりだった。

 

やがて訪れた絶頂。

「ああ、すずめ母さん 精子出る!ああああっ!」ドピュドピュドピュ

アリはすずめの奥深くで果てた。すずめは腰をぎゅっと押し付けてそれを受け止めた。

「あああ、、イク、、出てる すごいビュービューって、私を妊娠させるつもり❤️」

全身の力が抜けそのまますずめの胸に顔を埋める。

 

「ありがとう…ございます…」

「ふふ…おやすみなさいアリ」

 

すずめは満足そうに微笑むとアリの髪を優しく撫でた。

アリはすぐに深い眠りに落ちた。

初めて見る穏やかな寝顔だった。

 

翌朝。

アリは目を覚ました。

隣にはもうすずめはいなかった。

ただ枕元にメモが置かれていた。

 

『遅刻するわよ。今日も元気に出社しましょう。社食の焼き魚美味しいから❤️ すずめ』

 

アリはそのメモを握りしめた。

胸の奥の冷たさはまだ完全には消えていなかった。

しかし昨日までとは明らかに何かが違っていた。

 

窓の外から朝日が差し込んでいた。

眩しかった。

 

アリは立ち上がり制服に袖を通した。

そして部屋を出た。

 

外の空気は冷たかった。

でも今のアリにはそれが心地よかった。

 

これからも悪夢を見る夜は来るだろう。

罪の記憶に苛まれる日も来るだろう。

 

しかし今はこう思えた。

 

生きていこう。

この温かい場所で。

 

アリはJAPASH本社ビルへと歩き出した。

その背中にはもう迷いはなかった。

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