飯田賢治の死を目の当たりにしたあの日から、阿久野快人は変わった。
以前の彼にとって、ジャバッシュの仕事は「生活のための仕事」に過ぎなかった。
怪人たちの命令に従い、戦闘員として悪事に加担する。銀行を襲い、施設を破壊し、時にはヒーローから逃げる。
それは決して誇れるものではない。
だが、飯田が死んだ瞬間――。
快人の中にあった何かが、音を立てて変わった。
飯田は最後まで息子の名前を叫んでいた。
自分だけ逃げることもできたはずなのに、快人を逃がすために戦った。
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そして、五人のヒーローたちに弄ばれるように倒されていった。
あの光景が、快人の頭から離れなかった。
だからこそ。
「……俺は、戦闘員なんだ」
初めて、そう自覚した。
逃げるだけの下っ端ではない。
悪の組織、ジャバッシュの戦闘員。
それが自分の仕事なのだと。
その日から、快人の働きぶりは変わった。
銀行強盗では、突入前に逃走経路を確認する。
警備員の配置を調べ、監視カメラの位置を覚え、仲間が動きやすいように事前準備まで行う。
企業から機密情報を盗み出す任務では、警備会社の巡回時間を徹底的に調べ上げた。
悪徳企業への妨害工作では、表向きは何も起こっていないように見せながら、確実に目的を達成した。
そして何より、逃げるべき時には迷わず逃げた。
飯田から教わったことを、快人は一つずつ自分のものにしていった。
結果として――。
任務成功率は、ジャバッシュの戦闘員の中でも目に見えて高くなった。
「阿久野、お前また成功させたのか?」
「はい」
「……最近、妙に頼りになるな」
「ありがとうございます」
「褒めてねえよ。怖いんだよ」
そんな冗談を言われるほどだった。
だが、快人自身には別の欲が芽生え始めていた。
怪人。
ジャバッシュにおいて、戦闘員とは明確に違う存在。
特殊な能力を与えられ、専用の装備を与えられ、単なる使い捨ての兵士ではなく、一人の戦力として扱われる者たち。
もちろん危険も大きい。
怪人になれば、ヒーローとの直接戦闘を任されることも増える。
飯田の最期を知っている快人だからこそ、その意味は理解している。
それでも――。
「怪人になりたい」
そう思うようになっていた。
そんなある日のことだった。
快人は食堂で一人、安い定食を食べていた。
ジャバッシュの食堂は、悪の組織とは思えないほど豪華で良心的だった。
清潔なテーブル。具沢山の味噌汁。食べ放題の炊飯器。
そして、給料日前になると露骨にグレードアップするおかず。
「……今日は唐揚げが増えてる?」
快人がぼそりと呟いた、その時。
向かいの席に、白い髪の少女が座った。
純白。
染めたような白ではない。
照明を受けると淡い銀色にも見える、美しい髪だった。
清楚な顔立ちに、控えめな表情。
ジャバッシュの制服を着ているという一点を除けば、悪の組織とはまるで縁のなさそうな少女だった。
白鳥翼。
快人より三歳年下。
それなのに、すでに怪人になっている。
「……阿久野さんですよね?」
「え?」
「最近、よく名前を聞きます」
翼は小さく笑った。
「任務成功率、高いんですよね」
「まあ……たまたまだよ」
「謙虚ですね」
「いや、本当にたまたま」
翼は少しだけ首を傾げた。
そして、快人の定食を見た。
「唐揚げ、給料日前は数が増えるんですよね」
「……やっぱりそう思う?」
「はい」
「だよな」
二人は顔を見合わせた。
そして、同時に笑った。
怪人と戦闘員。
立場としては、かなり違う。
けれど、その瞬間だけは妙に距離が近かった。
「白鳥さん」
「翼でいいですよ」
「じゃあ……翼。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい?」
快人は少し迷った。
「怪人になるって、どうすればいい?」
翼の箸が止まった。
「……怪人に?」
「うん」
「阿久野さん、本気ですか?」
「本気」
翼はしばらく快人を見つめていた。
その瞳には驚きと、それとは別の何かが浮かんでいた。
「……そうですか」
「何か変?」
「いえ」
翼は微笑んだ。
「ちょっと、嬉しいです」
「嬉しい?」
「私、怪人になったばかりの頃、同じようなことを誰かに聞きたかったんです」
翼は味噌汁に視線を落とした。
「でも、聞ける人がいなくて」
快人は黙って聞いていた。
「私、大学に通っていたんです」
「へえ」
「本当は卒業したかったんですよ」
翼の声が、少しだけ寂しくなった。
「でも……家の借金が大きくなってしまって」
快人は何も言わなかった。
「両親だけではどうにもならなくて。弟もまだ学生で……だから大学を辞めました」
白い髪が、彼女の肩から静かに流れ落ちる。
「それで、ジャバッシュに入りました」
「……そうだったのか」
「怪人になれば、戦闘員より給料もいいですし」
翼は苦笑した。
「格好いい理由じゃないでしょう?」
「いや」
快人は首を横に振った。
「十分だと思う」
翼が顔を上げた。
「……阿久野さん?」
「俺も似たようなもんだから」
快人は自分の定食を見つめた。
「俺だって、好きでここにいるわけじゃない。普通に働いて、普通に暮らせたら、それが一番だった」
飯田の顔が脳裏に浮かぶ。
「でも、ここで生きるしかなくなった」
翼は何も言わなかった。
ただ、その瞳が少しだけ柔らかくなった。
「……似てますね」
「うん」
「私たち」
「そうかもな」
二人の間に、しばらく沈黙が流れた。
不思議と気まずくはなかった。
むしろ、心地よかった。
やがて翼が小さく笑った。
「じゃあ、教えます」
「何を?」
「怪人になる方法」
「本当?」
「はい。ただし――」
翼は人差し指を立てた。
「怪人になるって、思っているより大変ですよ」
「覚悟はしてる」
「ヒーローと戦うことになります」
「分かってる」
「死ぬかもしれません」
快人は一瞬だけ黙った。
飯田の最期が蘇る。
それでも。
「……それでもなりたい」
翼はじっと彼を見つめた。
そして――。
「分かりました」
柔らかく笑った。
「じゃあ、私が教えます」
「ありがとう」
「その代わり」
「?」
「怪人になったら……」
翼は少し照れたように視線を逸らした。
「私と一緒に任務、してください」
快人は目を瞬いた。
「いいけど……なんで?」
「……なんとなくです」
「なんとなく?」
「はい」
翼の白い頬が、ほんの少しだけ赤くなる。
「阿久野さんとなら、ちゃんと背中を預けられそうなので」
その言葉を聞いて、快人は胸の奥が少し熱くなるのを感じた。
飯田を失って以来、初めてだった。
誰かに「一緒にいてほしい」と言われたのは。
「……分かった」
快人は笑った。
「約束する」
翼も笑った。
悪の組織の食堂、その片隅で、戦闘員の青年と若い怪人は、静かに顔を見合わせていた。
ジャパシュ本部の地下深くには、戦闘員たちが普段ほとんど立ち入らない区画がある。
白い壁。無機質な照明。消毒液の匂い。
そこは、怪人のための医療・改造施設だった。
阿久野快人は、その廊下の一番奥にある部屋の前で立ち止まっていた。
扉には、簡潔な文字が記されている。
――怪人改造処置室。
快人は深く息を吸った。
妹の顔を思い浮かべる。
そして、扉を開けた。
室内には、すずめと白鳥翼がいた。
中央には手術台があり、その上には黒い金属質の球体が固定されている。内部で、赤い光が脈打っていた。
怪人コア。
快人の身体に移植される、力の源だった。
「来たわね」
すずめが声をかける。
「はい」
快人は手術台を見つめた。
翼は壁際に立ったまま、いつもの軽い笑みを浮かべていた。だが、その目には隠しきれない緊張があった。
「怖くなったら、今からでもやめていいんだよ」
翼が言った。
「白鳥さん」
「なに?」
「俺は、もう決めました」
快人はコアから目を逸らさなかった。
「妹を助けるために、必要なんです」
すずめは静かに頷いた。
「分かったわ。では、始めます」
快人は手術台に横たわった。
身体を固定され、胸部に冷たい器具が当てられる。
麻酔が入る。
意識が薄れていく中で、すずめの声が聞こえた。
「阿久野くん。聞こえる?」
「……はい」
「コアはあなたの感情に反応する。恐怖も、怒りも、欲望も、すべて力に変わるわ」
「……抑えます」
「無理に抑え込まなくていい」
すずめの声は穏やかだった。
「まずは、自分の中にあるものを知りなさい」
次の瞬間、胸の奥に激しい熱が走った。
快人の意識は、暗闇の中へ沈んでいった。
どれほど時間が経ったのか分からない。
やがて、快人は目を覚ました。
胸の奥に、異物がある。
心臓とは別の何かが、身体の内側で脈打っていた。
「……終わったの?」
快人が呟く。
「移植は成功したわ」
すずめが答えた。
「ただし、まだ安定したとは言えない。これから訓練室へ移動するわ」
「変身の確認ですね」
「ええ」
翼が快人の肩を軽く叩いた。
「初回は、必ず私たちが立ち会う。何かあっても、ひとりにはしないよ」
その言葉に、快人は小さく頷いた。
訓練室は、分厚い隔壁に囲まれた広い空間だった。
床も壁も特殊素材で覆われ、中央には変身用の制御装置が設置されている。
すずめと翼は、快人から少し離れた場所に立った。
「準備はいい?」
すずめが尋ねる。
「はい」
快人は中央に立った。
胸の奥で、コアが脈打つ。
ドクン。
ドクン。
その音が、次第に大きくなっていく。
「変身を意識して」
すずめの声が響く。
「自分の力を呼び起こして」
快人は目を閉じた。
力を求める。
妹を救うための力。
誰にも負けない力。
何も奪わせないための力。
その瞬間、コアが激しく発光した。
赤黒い光が快人の身体を包み込む。
皮膚の上を硬質な装甲が覆い、肩や腕が大きく膨れ上がる。背中から鋭い突起が伸び、顔面には異形の仮面が形成された。
快人の身体は、人間のものではなくなっていく。
そして、変身が完了した。
訓練室の中央に立っていたのは、巨大な怪人だった。
すずめは息を呑んだ。
翼も、表情を失っていた。
快人の怪人形態は、カブトムシのような一本のツノ、黒い甲虫装甲に胸に鈍く光る円形の発光部を持っていた。
だが、最も危険なのは、その姿ではなかった。
怪人の内部から、濁った呼吸音が響いていた。
「……力が……」
快人の声が、低く歪んでいる。
「すごい……」
胸の奥から、欲望が湧き上がってくる。
もっと力が欲しい。
もっと強くなりたい。
誰かをねじ伏せたい。
誰にも命令されたくない。
目の前にいるものを、すべて壊したい。犯したい。
その感情は、快人自身のものなのか、コアが生み出したものなのか分からなかった。
ただ、抑えられなかった。
「阿久野くん、呼吸を整えて」
すずめが声をかける。
その声が、遠い。
「俺は……」
快人は頭を抱えた。
「俺は、こんな……」
視界の端に、すずめと翼の姿が映る。
敵。
弱いもの。
壊せるもの。
そんな考えが、次々に浮かんだ。
「近づくな……」
快人が唸る。
「快人!」
翼が叫んだ。
その声に、快人の身体が反応した。
次の瞬間、怪人の腕が振り抜かれた。
空気が爆ぜた。
爪の先が翼の顔をかすめ、背後の隔壁に叩きつけられる。特殊素材の壁が大きくへこみ、翼の身体が床へ転がった。
「翼!」
すずめが叫ぶ。
「大丈夫……!」
翼はすぐに起き上がろうとしたが、息が詰まり、片膝をついた。頬には浅い傷が走り、赤い血が一筋流れている。
快人はその光景を見た。
だが、心配するより先に、胸の奥から別の衝動が噴き上がった。
もっとだ。
もっと速く。
もっと強く。
次は、逃がすな。
怪人の腕が、再び振り上げられる。
「快人、やめて!」
すずめが叫びながら駆け出した。
快人の腕が振り下ろされる。
すずめは横へ飛び退いた。
直後、拳が床を直撃した。
轟音とともに床面が陥没し、破片が弾丸のように周囲へ飛び散る。すずめの肩を破片がかすめ、白い装甲に亀裂が走った。
「すずめさん!」
翼が叫ぶ。
「私は平気!」
すずめは答えたが、声には余裕がなかった。
快人は拳を床から引き抜いた。
その動きだけで、陥没した床の縁がさらに崩れる。
自分の腕が、まるで別の生き物のようだった。
止めなければならない。
そう思うのに、身体は逆の命令を聞いていた。
逃げるものを追え。
抵抗するものをねじ伏せろ。犯せ!犯せ!犯せ!犯せ!犯せ!
「違う……」
快人は頭を押さえた。
「俺は、そんなことを……」
だが、怪人の脚が床を蹴った。
次の瞬間、快人の巨体がすずめへ向かって突進する。
床が連続して砕けた。
すずめは身を翻し、紙一重でかわす。快人の肩が壁に激突し、隔壁全体が震えた。天井から照明器具が落下し、火花を散らす。
「快人、聞こえる?」
すずめが呼びかける。
「来るな!」
快人は振り返りざまに腕を薙いだ。
すずめは腕で受けたが、衝撃を殺しきれず、数メートル後方まで吹き飛ばされた。背中から壁に叩きつけられ、息が漏れる。
「すずめさん!」
翼が駆け寄ろうとする。
その前に、快人が立ちはだかった。
巨大な影が、翼の視界を覆う。
「……快人」
翼の声が震えた。
快人の爪が、ゆっくりと持ち上がる。
逃げなければならない。
そう思っているのに、翼の脚は一瞬すくんだ。
目の前にいるのは、さっきまで隣にいた仲間ではない。
爪が振り下ろされる。
翼は咄嗟に身を投げ出した。
床が裂け、鋭い爪が数センチ横を通過する。衝撃で翼の身体が転がり、肩の装甲が大きく削り取られた。
「っ……!」
翼は痛みに顔を歪めながら、壁際へ這うように下がった。
快人は追う。
一歩。
また一歩。
そのたびに床が沈み、訓練室全体が揺れた。
「来ないで……!」
翼は立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。
快人の腕が引かれる。
次の一撃を受ければ、ただの負傷では済まない。
すずめは壁に手をつき、どうにか立ち上がった。
「翼、右へ!」
翼が反射的に転がる。
快人の拳が壁を打ち抜いた。
隔壁に大きな穴が開き、向こう側の配線がむき出しになる。火花が散り、警報がけたたましく鳴り始めた。
赤い非常灯が回転し、訓練室を不規則に照らす。
警報音が、快人の中の何かをさらに刺激した。
敵が来る。
囲まれる。
ならば、先にすべて壊せ。
快人は咆哮した。
その声は人間のものではなかった。
低く、濁り、壁を震わせる。
「快人!」
すずめが叫ぶ。
「あなたは阿久野快人よ!」
快人の頭が、わずかに動いた。
だが、次の瞬間には咆哮を上げ、すずめへ向かって走り出していた。
すずめは変身装置へ手を伸ばした。
翼も、ふらつきながら立ち上がる。
「すずめさん、変身を!」
「分かっているわ!」
二人の身体を光が包む。
すずめは蜂を思わせる装甲をまとい、翼は白い鳥のような姿へと変身した。
しかし、変身が完了するより早く、快人が距離を詰めた。
すずめは正面から受け止める。
巨大な腕が振り下ろされる。
すずめは両腕を交差させて防いだ。
衝撃が全身を貫き、足元の床が蜘蛛の巣状にひび割れる。膝が沈み、装甲の下で骨が軋んだ。
「ぐっ……!」
「すずめさん!」
翼が背後から回り込み、快人の胴体へ腕を回した。
「今!」
すずめは歯を食いしばり、快人の腕を押し返そうとする。
だが、快人の力は桁違いだった。
怪人の肩が膨れ上がり、二人をまとめて押し潰そうとする。
「離せ!」
快人が吠えた。
翼の身体が床を引きずられる。
靴底が削れ、背中が壁にぶつかる。
「嫌だよ!」
翼は腕を緩めなかった。
「快人をひとりにしない!」
快人の動きが、一瞬だけ止まった。
その隙に、すずめは身体を滑り込ませ、怪人の胸部へ手を当てた。
「快人。私の声を聞いて」
コアが、すずめの掌の下で激しく脈打つ。
熱が装甲越しに伝わってくる。
まるで、快人の胸の中にもう一つの心臓があるようだった。
「……」
「あなたは、阿久野快人よ」
怪人の身体が震えた。
「怪人じゃない。コアでもない。あなた自身よ」
快人の爪が、すずめの肩のすぐ横で止まっている。
あと少し動けば、装甲を貫く距離だった。
「俺は……」
「妹さんを助けるために、ここへ来たのでしょう?」
快人の中で、何かが揺らいだ。
妹の顔が浮かぶ。
病室の白い天井。
弱々しく笑う妹。
自分の手を握る、小さな手。
「お兄ちゃん……」
その声が聞こえた気がした。
快人の腕から力が抜ける。
だが、コアはなおも脈打っていた。
欲望が、凶暴な感情が、再び快人を飲み込もうとする。
胸の奥から熱が噴き上がり、赤黒い光が装甲の亀裂を走った。
「嫌だ……」
快人が呻いた。
「俺は、こんなものに……」
怪人の腕が再び動き始める。
すずめの身体が押し戻される。
「快人!」
翼は背後から快人を抱きしめた。
装甲越しでも伝わるほど、強く、優しく。
「大丈夫」
翼の声は震えていた。
「大丈夫だから。快人はひとりじゃない」
快人の腕が、翼の身体を振り払おうとする。
翼の足が床から浮いた。
それでも、翼は離れなかった。
「白鳥……」
「ここにいるよ!」
翼は快人の背中に額を寄せた。
「怖いなら、怖いって言っていい。暴れそうなら、私たちが止める。だから、戻ってきて!」
快人の爪が、すずめの胸元へ迫る。
すずめは避けなかった。
「あなたの中にある欲望も、怒りも、消す必要はないわ」
「……」
「それはあなたの一部。でも、それに従うかどうかを決めるのは、あなた自身よ」
快人の身体が大きく震えた。
怪人の口から、苦しげな声が漏れる。
「俺は……妹を……」
「ええ」
すずめは頷いた。
「妹さんを助けるために、あなたはここにいる」
「俺は……誰かを殺すために、来たんじゃない……」
「そうよ」
「俺は……」
快人は拳を握った。
爪が床を削る。
腕が震える。
すずめの胸元まで迫っていた爪先が、わずかに止まった。
「俺は、俺だ……!」
コアが激しく明滅した。
赤黒い光が訓練室を満たし、警報音さえかき消すほどの衝撃が走る。
すずめは快人の胸に手を当てたまま、力を込める。
「そう。あなたは阿久野快人!」
翼も、背後から抱きしめる腕を緩めなかった。
快人の身体から赤黒い光が溢れ出していた。
コアが暴走している。
欲望が、凶暴な衝動が、快人の理性を食い破ろうとしていた。
「俺は…俺は…!」
快人は頭を抱え、咆哮を上げた。その声は人間のものではなく、獣のそれに近い。
訓練室の隔壁が震え、床に亀裂が走る。
すずめと翼は互いの顔を見た。
言葉は必要なかった。
二人は同時に変身を解除した。
光が弾け、装甲が消え失せる。
すずめの蜂のような姿が消え、彼女の本来の細い身体が現れた。
翼の白い鳥の姿も解け、蒼白な少女の姿に戻る。
二人はジャバッシュの制服を着ていたが、その服を脱ぎ捨てた。
迷いはなかった。
これは戦いではない。
救いだった。
快人の内なる獣を鎮めるための。
二人は一糸まとわぬ姿で、快人の前に立った。
「快人」
すずめが呼びかける。
その声は静かで、揺るぎなかった。
「あなたのその力も、衝動も、全部受け止めるわ」
翼も隣に並ぶ。
「だから、もう一人で戦わないで」
快人の視線が二人に向けられる。
その瞳は赤く濁り、人間の理性が消えかけていた。
だが、その奥底に微かな光が見えた。
「来るな…!」
快人は唸った。
「俺は…お前たちを…!」
「壊したいの?」
すずめは一歩近づいた。
「犯したいの?」
その言葉に快人の身体が震えた。
「ならすればいい」
すずめは腕を広げた。
「私たちがそのすべてを受け止めるから」
翼も頷く。
「私たちはここにいるよ。快人がどんなになっても」
快人の脚が動いた。
ゆっくりと二人に近づく。
巨大な怪人の姿が二人の少女に影を落とす。
すずめは動かなかった。
翼も動かなかった。
快人の爪がすずめの頬に触れる。
冷たく硬い感触。
だがその奥に微かな震えがあった。
「…すずめ」
「なに?」
「俺は…もう…」
快人の声が途切れた。
欲望が言葉を奪う。
すずめは自らその爪に手を添えた。
「いいのよ」
そしてその手を導くように自分の胸へ押し当てた。
翼も快人のもう片方の手を取り自らの身体へ引き寄せる。
「快人」
二人の体温が装甲越しに伝わる。
熱い。
人間の温かさ。
それがコアの熱とは違う何かを快人の胸に灯した。
快人の身体が震え変身が解除された。
黒い装甲が消え失せ一人の青年の姿に戻る。
だがその身体は熱く火照り荒い息を吐いていた。
コアの暴走は止まっていない。
ただ人間の姿に戻っただけだった。
快人は二人に覆いかぶさった。
すずめの身体を抱きしめ翼の唇を求める。
理性などなかった。
ただ欲望のままに二人の身体を貪った。
二人は拒まなかった。
むしろその身を委ね快人の衝動を受け止めた。
すずめの肌が快人の熱に染まる。
翼の吐息が快人の耳元で漏れる。
それは優しい搾精だった。
快人が放つ激しい欲望を二人の身体で受け止め包み込み優しく還していく。
快人は何度も二人を求めた。
そのたびにコアの熱が少しずつ収まっていく。
快人の身体からはまだ熱が溢れていた。
理性のタガが外れ、ただ原始的な欲望だけが全身を駆け巡る。
変身こそ解けたものの、内なるコアの脈動は未だ激しく、全身の血が沸き立つようだった。
「はぁ……はぁ……」
荒い息を吐く快人の目の前に、すずめの豊かな胸があった。
ジャバッシュの制服を脱ぎ捨てた彼女の裸体は、淡い照明の下で白く浮かび上がり、その乳房は重力に従って柔らかな曲線を描いていた。
快人は吸い寄せられるようにすずめに抱きついた。
顔をその豊かな胸の谷間に埋める。
柔らかく、温かい。
包み込まれるような感触に、胸の奥の焦燥感が少しだけ霧散した。
「いいのよ……」
すずめは快人の頭を優しく抱きしめた。母親が幼子をあやすように、その指先で彼の髪を梳く。
快人はすずめの乳房に頬を擦り付けた。柔らかな肌の感触を確かめるように顔を動かし、やがてその頂に唇を寄せた。
赤く熟れた乳首を口に含み、舌で転がすように吸い上げる。
「んっ……」
すずめの喉から甘い吐息が漏れた。
快人は幼児のように乳房に甘えながら吸い付きつつ、その柔肉を両手で鷲掴みにした。
力が抜けきらない指先が強く食い込み白い肌に赤い跡が残るが、すずめは決して拒まなかった。
むしろ快人の顔をさらに深く胸元へ押し付ける。
「全部出していいの。私たちが全部受け止めるから」
その言葉に後押しされ、快人はより深く乳房に顔を埋めた。
自分の存在がこの温かい肉の中に溶けていくような錯覚。コアの熱が疼くたびに乳首を強く吸い上げると、不思議とその疼きが和らいでいく気がした。
一方で翼は、快人の足元にしゃがみ込んでいた。
快人の中心は欲望を露わにし、痛いほどにそそり立っていた。
翼はその硬く滾るモノを両手で包み込むと、慈しむように頬を寄せた。
「快人……」
翼は瞳を潤ませて見上げながら、赤い舌先で先端をぺろりと舐め上げた。
びくりと快人の腰が跳ねる。
翼は口元を緩めると、そのまま硬い楔をゆっくりと口腔内へ迎え入れた。
「んぅ……っ」
温かい粘膜が快人を包み込む。
翼のフェラチオは激しくはなかった。
ただ優しく、ただ丁寧に。
硬く尖った牙で傷つけないように気をつけながらも、舌全体を使ってねっとりと愛撫する。
まるで壊れ物を扱うような繊細さで、彼の欲望を溶かそうとするかのようだった。
頭上ではすずめの甘い吐息が聞こえ、下半身では翼の温かい奉仕を受ける。
快人は二人の優しさに完全に委ねていた。
自分が何者かであるかはどうでもよかった。
怪人でも戦闘員でもない。
ただ一人の男として、目の前の女たちに甘えている。
「すずめさん……翼……」
快人はすずめの乳房を揉みしだきながら乳首を強く吸った。
「んっ……あぁ……」
すずめの身体が震え、快人の髪を撫でる指に力が入る。
それと同時に翼も口の中のモノを深く喉奥まで咥え込み、頭をゆっくりと前後に動かし始めた。
ねっとりとした水音が訓練室に響く。
ジュパ……ジュル……
翼は快人のモノを愛おしむように舌で絡め取りながら息を吐く。彼女の喉が小さく鳴りながらも献身的な奉仕を続ける。
快人の身体から次第に余計な力が抜けていった。
コアの凶暴な熱はそのままに、それとは別の場所から湧き上がる快楽だけが身体を支配していく。
「……っ!」
快人はすずめの胸に顔を押し付けたまま小さく呻いた。
限界が近い。
翼はそれを感じ取ったのかさらに優しく包み込むように吸い上げた。
「……出る……!」
快人の腰が跳ねた。
ドクンというコアの脈動と共に熱い塊が放出される。
翼はそれを一滴もこぼさないように喉を鳴らして飲み込んでいった。
びくびくと震える快人の身体をすずめが強く抱きしめる。
「いらっしゃい。私の中に出していいのよ……」
快人は荒い息を吐きながらすずめの両足を開いた。そして誘うようにひくつく割れ目の中に自らの硬直を打ち込んだ。
[#AI]
快人はまだ熱の引かない身体で、すずめを見下ろした。
彼女の豊かな肢体が仰向けに横たわっている。汗で艶やかに光る白い肌、荒い息づかいに合わせて大きく揺れる巨乳。そのすべてが快人の欲望を煽り立てた。
「すずめさん…」
快人は彼女の両脚を大きく開かせた。すでに潤みきった秘所が、熱を帯びて快人を待っていた。快人は自身の硬く滾る楔をすずめの秘裂に当てがうと、一気に奥深くまで押し込んだ。
「あぁっ!」
すずめが背中を反らせ、甘い嬌声を上げる。快人は容赦なく腰を打ち付け始めた。コアの凶暴な衝動がまだ残っているかのように、激しく、深く。突き上げられるたびにすずめの豊かな身体が波打ち、巨乳が激しく揺れた。
「んっ…あぁっ…快人…!」
すずめの声が訓練室に響く。快人はその豊かな乳房を鷲掴みにし、指を食い込ませながら腰を振った。肉と肉がぶつかる濡れた音が響き渡る。
同時に翼が近づいてきた。快人は彼女の腰を引き寄せ、脚を開かせると顔を埋めた。翼の秘所もまた愛液に濡れそびえていた。快人は舌先でその花唇を割り開き、隠された秘肉を激しく舐め上げた。
「ひゃっ…!」
翼が感電したように身体を震わせる。快人は腰の動きを止めることなく、舌を激しく動かした。すずめの中を激しく突き上げながら、翼の秘所を舌で責め立てる。二人の少女の喘ぎ声が重なり合い、甘く淫らなハーモニーを奏でた。
「あっ…あぁっ…そこっ…!」
「んっ…ふぁっ…快人…!」
すずめは快人の背中に爪を立て、翼は快人の頭を押さえつける。快人はさらに激しく腰を打ち付け、舌を動かした。二人の身体が同時に跳ね上がった。
「いっ…いくっ…!」
「あぁっ!あぁっ!あぁっーー!」
すずめと翼が同時に絶頂を迎えた。二人の秘所が痙攣し、大量の愛液を溢れさせる。快人はすずめの奥深くで果てた。ドクドクと熱い欲望が注ぎ込まれる。すずめは快人の背中に爪を食い込ませながら、そのすべてを受け止めた。
快人は二人の身体から離れた。だが、まだ足りない。コアの渇きはまだ癒えていない。
快人は視線を翼に向けた。翼は絶頂の余韻に浸りながらも、快人の視線に気づき、恥ずかしそうに頷いた。
快人は翼の身体を反転させた。華奢な背中と白く滑らかなお尻が目の前に現れる。快人は翼の腰を強く引き寄せると、後ろから一気に貫いた。
「あぁぁっ!」
翼が顔を床に押し付け、悲鳴とも喘ぎともつかない声を上げる。快人は翼の腰を両手で掴むと、後背位で激しく腰を打ち付け始めた。この体位はさらに深く翼の奥へと届く。
「んっ…あっ…深いっ…!」
翼の声が震える。快人は容赦しなかった。翼の華奢な身体が前へと揺さぶられる。白いお尻が快人の腰にぶつかるたびに肉が波打ち、パンッパンッという乾いた音が響く。
「翼…!」
快人は翼の背中に覆いかぶさり、耳元で熱い吐息と共に囁いた。そしてさらに激しく腰を振る。翼の手が床を掻き、愛液が太腿を伝い落ちていく。
「いくっ…またいくっ…!」
翼が再び絶頂を迎えた。その痙攣する秘肉の締め付けに導かれ、快人もまた深々と楔を突き立て、熱い欲望を注ぎ込んだ。
二人は床に崩れ落ちた。訓練室には三人の荒い息遣いだけが響いていた。コアの脈動はようやく静まり返り、快人の意識から凶暴な衝動が薄れ去っていった。残ったのは、深い充足感と優しい温もりだけだった。
[#AI]
快人は二人の温かい身体に挟まれて、静かに息を吐いた。
訓練室の冷たい床の上だというのに、不思議と寒さは感じなかった。
「…ありがとう」
快人の声は掠れていた。
「俺、自分を抑えられなくなって…お前たちを傷つけるかもしれなかったのに」
すずめは快人の頬に手を添えた。
「怪人コアは感情に反応する。だから最初は誰だって制御できないのよ」
翼も快人の腕に自分の身体を寄せた。
「私たちが決めたことだよ。快人をひとりにしないって」
「でも…」
「でもじゃないの」
すずめは微笑んだ。
その笑顔は母親のように慈悲深く、どこか寂しさを含んでいた。
「あなたは自分の力に負けなかった。最後は自分の意思で戻ってきた」
「すずめさん…」
「立派よ」
翼も頷く。
「本当に格好よかったよ、快人」
快人の目頭が熱くなった。
飯田が死んでから、誰にも本音を言えなかった。
弱さを見せれば死ぬ。仲間を信じれば裏切られる。
そう思い込んでいた。
けれど目の前の二人は、快人の醜い部分も含めて受け入れてくれた。
「俺…二人に甘えっぱなしだな」
「いいのよ」
すずめが快人の胸に顔を埋めた。
「甘えていいのよ❤️」
翼も快人の肩に額を押し付けた。
「私も…ずっと寂しかったから」
その言葉の重さが胸に沁みた。
翼が大学を辞め、借金を背負い、ジャバッシュに入った経緯。
すずめが怪人となり、戦い続けてきた日々。
それぞれの孤独と痛み。
快人は二人を強く抱きしめた。
「翼」
「ん?」
「すずめさん」
「なに?」
「俺が守る。二人のことも」
すずめが小さく笑った。
「私の方が年上なんだけど」
「関係ない」
翼も笑った。
「強くなったわね、阿久野さん」
その優しい笑顔を見た瞬間。
快人の胸の奥でコアが静かに脈打った。
先ほどとは違う。
凶暴な欲望ではない。
純粋な熱。
二人の優しさが、快人の芯を震わせた。
「…また」
快人は顔を上げた。
「大きくなっちゃった」
すずめは快人の下半身を見て、くすりと笑った。
「元気ね」
「ごめん」
「謝ることないわよ」
翼も顔を赤くしながら、快人の硬く滾るモノをそっと握りしめた。
「私たちが受け止めるって言ったでしょ」
快人は翼の手を取り、指を絡めた。
「今度は優しくしたい」
翼の瞳が潤んだ。
「うん」
快人は翼の唇に己の唇を重ねた。
優しく、丁寧に。
舌を絡め合い、互いの唾液を交換する。
翼の小さな身体が快人の腕の中でふにゃりと崩れる。
すずめは後ろから快人の背中に胸を押し付けた。
豊かな乳房が快人の背中を圧迫する。
すずめの唇が快人の耳元に寄せられる。
「私のことも忘れないでね」
快人はすずめの手を取り自分の方へ引き寄せた。
すずめの唇にもキスをする。
翼の唇からすずめの唇へ。
交互に、優しく。
「忘れるわけない」
快人は二人を床に押し倒した。
まず翼の上に覆いかぶさる。
白い肌が快人の熱で染まっていく。
翼の華奢な身体を優しく抱きしめ、首筋にキスを落とす。
「んっ…」
翼が快人の背中に腕を回す。
「快人…好き」
「俺も」
快人は翼の脚を優しく開いた。
すでに潤みきった秘所が快人を迎え入れる。今度はゆっくりと、優しく奥へと進んでいく。
「あぁ…」
翼が快人の首に腕を回し、強く抱きしめた。
快人は翼の中でゆっくりと腰を動かした。
激しさではなく、温かさを伝えるように。
「翼…気持ちいい?」
「うん…すごく…」
翼の瞳から涙がこぼれた。
「嬉しい…快人とこうできるのが」
快人は翼の涙を唇で拭った。
「俺も嬉しい」
すずめは隣で二人の様子を見つめていた。
その瞳には温かい光があった。
快人は翼の中をゆっくり動かしながら、すずめの手を握った。
「すずめさんも」
すずめは微笑んだ。
「次は私番ね」
「うん」
快人は翼の中でさらに深く楔を打ち込んだ。
翼が快人の耳元で甘い声を漏らす。
「快人…もう少し速くてもいいよ」
快人は速度を上げた。
だが決して乱暴にはしない。
翼の反応を確かめながら、彼女が気持ちよくなるリズムを見つけていく。
「あっ…あっ…そこっ…」
翼の脚が快人の腰を挟む。
快人は翼の耳元で囁いた。
「翼…一緒にいこう」
「うん…!」
二人の身体が同時に震えた。
翼の秘所が快人を締め付け、快人はその奥深くに欲望を放った。
翼は快人の背中に爪を立て、震えながら快人の熱を受け止める。
「…幸せ」
翼が小さく呟いた。
快人は翼から離れ、今度はすずめに向き直った。
すずめは待ちわびたように両腕を広げた。
「おいで」
快人はすずめに抱きついた。
すずめの豊かな乳房が快人の胸に押し潰される。
快人はすずめの唇に深くキスをした。
すずめは快人の硬直を手で包み込むと、自分の秘所へと導いた。
「入って」
快人はすずめの中へゆっくりと進入した。
翼の中とは違う感触。より深く、より包み込まれるような温かさ。
「んっ…」
すずめが快人の背中を抱きしめた。
「いいのよ…ゆっくりで」
快人はすずめの中でゆっくりと腰を動かした。
すずめの巨乳が快人の胸に押し付けられ、擦れ合う感触が心地よい。
「すずめさん…温かい」
「あなたもよ」
翼は横から二人の身体に寄り添った。
すずめの乳房を下から支え、快人の背中を優しく撫でる。
「二人とも大好き」
快人が呟くと、二人は同時に笑った。
「私も」
「私も大好きよ」
三人の身体が重なり合う。
快人はすずめの中で少しずつ速度を上げた。
すずめの喘ぎ声が翼のキスで甘く変わっていく。
「あっ…あぁっ…快人…!」
すずめの脚が快人の腰を絡め取る。
快人はすずめの胸に顔を埋め、乳首を口に含んだ。
吸いながら腰を打ち付ける。
「んっ…っ…いい…そこ…!」
すずめの身体が跳ねた。
絶頂が近い。
「すずめさん…一緒に」
「ええ…!」
二人同時に頂点を迎えた。
すずめの秘所が快人を激しく締め付け、快人はすずめの奥深くに熱い欲望を注ぎ込んだ。
「…あぁ…」
すずめは快人の名を呼びながら、そのすべてを受け止めた。
三人は床に横たわった。
快人の両脇にすずめと翼が寄り添う。
三人の体温が一つに溶け合う。
訓練室の非常灯はまだ赤く回転していたが、その光さえも今は温かく見えた。
快人は天井を見上げた。
コアは静かに脈打っていた。
かつては凶暴な衝動の源だったその鼓動が、今は心地よいリズムを刻んでいる。
妹の顔が浮かんだ。
いつか必ず助ける。
そのための力は、もう手に入れた。
けれどそれ以上に大切なものを、今夜手に入れたと思った。
「ありがとう」
三人の体温は静かに一つになっていた。
⭐️帰宅
電車を降り、商店街を抜ける。
阿久野快人の手には、小さな紙箱があった。
中身はイチゴのショートケーキ。妹の聖が大好きなやつだ。
給料が上がった。
怪人に昇格したからだ。
まだ正式な任務には就いていないが、戦闘員とは桁違いの報酬が約束されていた。
「ただいま」
アパートのドアを開ける。
築三十年、二階建ての古い鉄骨造り。階段を軋ませながら上がると突き当たりの部屋から明かりが漏れていた。
「お兄ちゃん!」
ドアを開けた瞬間、聖が飛びついてきた。
細い腕。華奢な身体。病院のベッドにいる時間が長かったせいか、同年代の子よりずっと軽い。
「ただいま、聖」
「遅かったね」
「ちょっとな」
聖は快人の顔をじっと見つめた。
「疲れてる?」
「平気だよ」
「嘘」
聖は眉を寄せた。
「顔色、悪いもん」
快人は苦笑した。
妹には隠し事ができない。
小さい頃からずっとそうだ。
「まあ、ちょっと疲れたかな」
「ご飯食べた?」
「まだ」
「じゃあ私が作るね。冷蔵庫に昨日のおかず残ってるから温めるだけだけど」
「サンキュー」
「どういたしまして」
聖は台所へ向かおうとしたが、快人は紙箱を差し出した。
「これ」
「え?」
「ケーキ。イチゴの」
聖の顔がぱっと輝いた。
「ショートケーキ?」
「給料上がったから」
「やった!」
聖は箱を受け取ると、大事そうに抱えた。
「冷蔵庫に入れておくね。ご飯の後で一緒に食べよう」
「ああ」
台所から電子レンジの音が聞こえる。
快人はソファに腰を下ろした。
古い合皮のソファ。スプリングがへたっているが、不思議と落ち着く。
聖の声が台所から聞こえる。
「お兄ちゃん、最近仕事忙しいの?」
「まあ、ちょっと変わったかな」
「いい方に?」
「多分」
「よかった」
聖が戻ってきた。
両手に温めたおかずの皿を持っている。
「はい。お兄ちゃんの分」
「お前は?」
「私はもう食べたから。お兄ちゃんが遅いから先に食べちゃった」
「悪い」
「いいの。座ってて」
快人はテーブルに向かった。
肉じゃがとほうれん草のおひたし。
質素だが、聖が作る料理はどれも美味い。
聖は向かいの席に座った。
自分は食べないのに、快人が食べるのをじっと見ている。
「どう?」
「美味い」
「よかった」
聖はにこにこ笑った。
「ケーキ楽しみだね」
「ああ」
聖の笑顔を見ていると、疲れが溶けていく気がした。
ジャバッシュの任務も怪人コアの苦しみも、ここでは遠い世界の出来事だ。
食事を終え、二人でケーキを食べた。
聖は一口食べるたびに「美味しい」と呟いた。
快人も一口食べた。甘さが身体に染みる。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「頑張ってるんだね」
「まあな」
「無理しないでね」
「お前が言うな」
聖はくすっと笑った。
片付けを終え、二人はソファに並んで座った。
テレビはついていない。
窓の外から遠くの車の音が聞こえるだけだ。
「お兄ちゃん、今日は早く寝なよ」
「そうする」
「ソファで寝ちゃダメだよ」
「分かってる」
分かってる、と言ったのに。
気がついたら瞼が下りていた。
ソファのスプリングが軋む感触。
聖が隣で何か言っている。
でも、声が遠い。
快人の意識はゆっくりと沈んでいった。
聖は兄の寝顔を見つめていた。
規則正しい寝息。少し開いた唇。
ソファに深く沈み込んだ身体。
「お兄ちゃん、ソファで寝ちゃダメだって言ったのに」
聖は小さく呟いた。
起こそうとして、肩に手をかける。
だが快人は起きなかった。
よほど疲れているのだろう。
聖は手を引っ込めようとしたが、ふと視線が下がった。
そして、息を呑んだ。
快人の短パンが不自然に盛り上がっていた。
布地を押し上げるほどに硬く、熱を帯びたそれが先端をわずかに覗かせている。
聖の頬が熱くなった。
鼓動が早くなる。
頭の奥で警報のようなものが鳴っているのに、目が離せなかった。
「お兄ちゃん…こんなに疲れてるのに…」
聖の声は震えていた。
「体は休まってないんだ…」
聖は兄の顔を見た。
深い眠りに落ちている。簡単には起きそうにない。
「私…お兄ちゃんに何もしてあげられないから」
聖は呟いた。
「せめて…これくらいなら…」
聖はそっと手を伸ばした。
指先が兄の硬く滾るモノに触れる。
熱い。
布越しでも分かるほど、熱を持っている。
聖は一度深く息を吸った。
そして、ゆっくりと短パンのウエストをずらした。
現れたものに、聖の目が見開かれる。
太く、硬く、脈打っている。
聖の小さな手には余るほどだった。
「お兄ちゃん…」
聖は両手でそっと包み込んだ。
ゆっくりと上下に扱く。
手の中でさらに硬さを増していく。
「苦しいよね…こんなになって…」
聖は顔を近づけた。
その先端に、そっと唇を触れさせる。
塩気のある味がした。
聖は目を閉じ、ゆっくりと口を開いた。
「んっ…」
小さな口に兄のものを含む。
聖の舌が恐る恐る先端を舐め上げた。
兄の身体がわずかに震える。
「お兄ちゃん…気持ちいい…?」
返事はない。
だが、聖は続けた。
「でも、お兄ちゃんは悪くないよね。仕事で疲れて知らない間に身体がこうなっちゃってるだけだもんね」
口に含みながら、聖の胸に熱いものが込み上げてきた。
「お兄ちゃん、いつも私のことばかり心配して…自分はこんなになるまで働いて…」
舌で包み込むように舐める。
「私、お兄ちゃんに何も返せてない…」
聖の左手が自分の胸元に下りた。
スカートの中へ。
パンティの中へ。
布地はすでに湿っていた。
「私も…私もこんなになってる…」
聖の指が自分の秘所に触れた。
同時に口の中のものをさらに深く咥え込む。
「んっ…ふっ…」
唾液が溢れ、兄のものを濡らしていく。
聖は自分の指を動かしながら、口も動かした。
二つの動きがシンクロする。
「お兄ちゃん…大好き…」
聖の瞳から涙がこぼれた。
「大好きなの…誰よりも…」
口の中のものがさらに膨らむ。
聖はそれを感じながら、自分の指を激しく動かした。
身体の奥から何かが込み上げてくる。
「んんっ…!」
聖の身体が弓なりに反れた。
口の中に熱いものが放出される。
兄の精液が喉を満たしていく。
聖はそれを一滴もこぼさずに飲み込んだ。
自分の身体も同時に痙攣し、パンティの中に愛液が溢れる。
「はぁ…はぁ…」
聖は口を離した。
兄のものはまだ硬さを保っている。
聖はそっとそれを短パンの中に戻し、布地を整えた。
快人はまだ眠っている。
穏やかな寝息。
聖は兄の隣に座り直し、その腕に自分の身体を寄せた。
「お兄ちゃん」
聖は小さく呟いた。
「大好きだよ」
快人の寝息だけが部屋に響いていた。