あれからしばらく経った。
この三人のすこしいびつな関係は、我が家もしくはどこか宿泊したりする時以外目立たないようにしてきたつもりだ。
……だが、最近妙に学内にいると変な空気を感じる。それはサークルでも一緒で、みないつもどおりに話しかけてくれるがすこしだけ距離を感じる気がする。
「なぁ、最近のあの視線というか空気、わかるか?」
「あぁ、あれですね。最近少し噂になってるみたいですよ」
「噂?」
「はい、なんでも男一人で女の子二人をはべらかしてるみたいに言われてるみたいです」
「で、なんであんな空気になってるんだ?」
「さぁ?それはわかりませんが学内で噂が流れてるのは確かなようです」
……さて、どうしたものか。今の関係を他者から見た際にこういった噂をたてられるのは考えられる事実ではあった。それを見過ごしていたと言われたら何とも言えない。
「まぁ、あれだな。言及されない限りおとなしくしておくのがいいと思う」
「そうですね。……その、先輩」
「なんだ?」
加藤は耳元に手をやり、ほかに聞こえないようにして囁いた。
「今日、先輩のお家行ってもいいですか?」
「……まぁ、いいけど」
「やった!あっじゃあ、また今夜」
「あ、ああ」
以前より加藤は明るくなったというか他の人から見て話しやすくなったと思う。なんというかあか抜けたとは違うが、朗らかと例えたらいいのだろうか。以前は少し他者との距離が見受けられていたが、今はその距離を少しだけ短く感じる。
今日は特にすることもないので、外に出た。夏の風は過ぎ、秋の匂いが少し混じり始める。そして気づけば冬になり、春になるのだろう。
時間というのはあっという間に過ぎていく。……今の関係も、どこかで決めなくてはいけない。そうわかっているのに決めきれない自分がいた。
◇◇◇
夜の空気は少し冷たく、日が落ちるのが以前より早くなったと感じる。そろそろ衣替えをしないとなと思っていると、玄関のチャイムの音が鳴った。
玄関の扉を開けると、加藤だった。手元にはトートバッグを持ち、ファッションはあまり詳しくないが、気合を入れてるのは見て分かった。
「こんばんわ、先輩」
「あ、ああ。上がれよ」
「はい」
加藤は、玄関で靴を脱ぎ、据え置いてるスリッパを履く。それを見てると加藤と目が合い、加藤はクスリと笑った。その顔を見て、すこしだけ恥ずかしくなり目線を逸らす。
目線を逸らしていると、加藤は荷物を床に置き、抱き着いてきた。とっさの反応は、抱き着いてきた加藤を抱きしめることしかできなかった。
「先輩」
「……なんだ」
「その、お願いがあるんですけど聞いてくれますか?」
お願い?それは一体なんだ?金銭等だったらほかの人を助けるだけの余裕はないし、それ以外だったらものによるとしか言えない。
「……できる範囲だったら」
「先輩だったらすぐにできると思います」
「で、お願いってなんだ?」
「……その、名前で呼んでってわがままですか?」
「いや、それくらいだったらいいけど」
「本当ですか?」
「あぁ。……そういえば、加藤の名前ってなんだっけ?いままで聞いたことあるっけ?」
「ええー……もしかしたら忘れたんですか?」
「……もしかすると忘れたかもしれん」
「……そうだったらすまん」
「ふふっ、まぁいいですよ。とりあえずいろいろ買ってきたんで準備しますね」
そう言うと加藤は、さきほど床に置いたトートバッグを持ち、台所へ向かう。ちらりと見えたものは、バゲットの先端とワインみたいだった。
手慣れた手つきで、ジャガイモとソーセージを切る。ジャガイモは拍子木切り、ソーセージは斜め薄切りにし、家にあったフライパンに冷たい状態で軽く油を引く。
そしてジャガイモを入れ、火をつけると徐々に火が通り、ある程度通ったらソーセージを入れる。ソーセージにもある程度火が通ったら軽く味付けをし、皿に盛られた。
「加藤、前から思ってたけど手際良いよな」
「え、そうですか?」
「あぁ、自分の家で女の子が料理するとは思ってなかったからな」
「そうなんですか。あれっ、ちふゆさんは?」
「ちふゆは料理しないよ。うちで食べる機会があったとしても宅配かコンビニで買ってくることがほとんどだったし」
「へぇ……そうなんですね」
「本人曰く、料理してるよりも勉強してるほうが気が楽と言ってたな」
「前から思ってたんですけど、先輩たちどうやって交際に至ったんですか?なんか聞いてるだけだと接点が見つからないと言いますか」
「あぁ、そう見えてもおかしくないか。まぁ、今度機会があれば話すよ」
「わかりました」
二人で軽く話しながらも、加藤はバゲットを切ってオーブントースターで軽く温め、チーズを切る。トーストが温まると、家にある少し大きめの皿に並べ、横に先ほど切ったチーズを添え、その上からすこしだけオリーブオイルをかけた。
……短時間でできたとは思えないほどに、豪華な見た目だった。かかった時間は、30分もかかってないと思う。
出来上がった料理を皿ごと持ち、リビングのテーブルに置く。さきほど買っていたワインを開けようと手に取る。ワインの栓は、コルクではなくスクリュータイプで軽くひねると栓が開いた。よかった、コルクだったら買い出しに行かないといけなかった。
加藤はエプロンを脱ぎ、軽く畳んで対面に座る。いちおう見栄を張って以前ワイングラスを買っていたのはいいのか悪いのか今回は良い方向に走ったと思う。
グラスにワインを注ぎ入れる。
「じゃあ、乾杯」
「はい、乾杯です」
口に含んだワインは、甘くなくスッキリとしていた。だが、あまり飲み慣れないのか少し考えた。
「……これは、おいしいで合ってるのか?」
「お口に合いませんでしたか?」
「いや、今までワインって飲む機会があまりなかったからな。飲みやすいとはお思う」
「そういえば、サークルの飲み会とかでもビールがやっぱり多いですからね」
「大学生でワインを開けてるのもなかなか見ないだろうしなぁ」
「それもそうですね」
その後も、グラスが乾くことはなく、加藤が持ってきていた一本を丸々全部二人で飲んだ。そうなると、すこしだけ気分もよくなる。
「せんぱい……」
「なんだ?」
「その、ですね。また、お願いがあるんですが」
「……多分だけどそれはこっちから言ったほうがいいやつか?」
「ふふっ、そうかもしれません」
「……するか」
「はい」
対面に座っていた加藤は、すっと立ち上がり、ベッドに座る。それに吸い込まれるようにして、隣に座った。
加藤の肩に軽く触れると、加藤は目をつむり、すこし顔を上げる。唇を重ね、最初はかるくだったが、徐々に激しくなっていく。息をするのも忘れるように重なっていくと、加藤の顔は先ほどより赤くなっていた。唇を離すと、加藤は息を整えながら、唇を指でなぞる。
加藤は、耳元でささやく。
「せんぱい❤今日は、いつもよりかわいい下着つけてきたんですよ❤みたいですか?」
首を縦に振る。
加藤は、口角を少し上げた。上着を脱がずにペロンとめくると、加藤のいつものイメージとは少し違う、大人びた下着だった。刺繍が凝っていて、気合を入れたのもわかる。
「その、かわいいですか?」
「あぁ、かわいい」
「いつものわたしとどっちが好きですか?」
「……すごい答えにくいな」
「どっちですか?」
「……いつもかわいいけど、今日はさらに増してかわいい」
「ふふっ、ありがとうございます」
笑った加藤は上機嫌のようだった。よかった、選択肢は間違ってなかった。
「加藤、シャワー浴びなくていいのか?」
「あっ、それもそうですね。でもどうしよう……先輩にまだ全部見せてないです」
「じゃあ、あれだ。脱衣所で脱がずにここで脱げばいいんじゃないか?」
「……先輩って前から思ってたんですけどちょっと変態ですよね」
「男はみんなそうなんだよ」
「ふふっ、そういうことにしておきますね」
加藤は着ていた服を脱ぐ。上下はわかれているタイプの服みたいで、スカート状になっているものをウエストにあるホックを外し、ジッパーを下す。
さきほどと刺繍のデザインが似てるショーツ。いつもよりきわどいか?と思うくらいには攻めたデザインをしていた。
「見ててくださいね」
加藤は半周身体を回す。お尻をこちらに向ける形になると、その行動の意味が分かった。
お尻の肉の部分、いわゆる臀部の部分が丸見えだった。
いわゆるTバッグというやつだ。
「ど、どうですか?」
「いいな。すごくいい」
「そ、そうですか」
加藤の顔は後ろを向いて見えなかったが、いやではなかったらしい。目の前にあるお尻に触れようと手を伸ばすと、加藤はすっと避けた。
「さすがにこれ以上は恥ずかしいです」
そう言うと、そそくさと脱衣所に早足で行ってしまった。すこし、惜しいなと思ってしまった。
ちふゆと加藤、どっちが好みだい?
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ちふゆ
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加藤