ハロウィン当日。町中を歩くと、意外と盛り上がっていることに気づく。
昔は、ハロウィンはそこまで盛り上がっていなかったらしいが、今は変わったのだろう。商店街の和菓子屋もかぼちゃを模した菓子を売っているし、中華料理屋の軒先にも切り抜いて加工されたかぼちゃが飾ってある。
待ち合わせのホテルは、以前使った少し高めのホテルをちふゆが予約した。さすがに今回も出させるのはと思い、自分の意見をそのまま伝えたが、断固として払わせてくれなかった。
理由を聞くと、
「当日を楽しみにしてて。それとお返しは当日の頑張りで考えるわ」
そう言われると、言い返す言葉が分からなかった。当日を楽しみにしておけ、ということらしい。
ホテルのカウンターでカードキーを受け取る。事前に予約の名義を俺の名前で登録してあったからかすんなりと受け取れた。エレベーターに乗り、目的の階のボタンを押すと、ぐんと上昇する感覚が身体に響く。
しばらく揺られると、目的の階に着いた。相変わらずこのホテルは装飾等もこだわっているのか、偽物なのか本物なのかはわからなかったが絵画等もポツポツと置かれて、己の場違い感は否めなかった。
カードキーを挿し、ドアノブをひねる。
相変わらず、このホテルはもてなしのこころというかアメニティ含め、きっちりしているなと思う。ベッドは大きめのものが二つあるが、ちふゆがホテル側に予約する際に要望したのだろう。ベッドは二つくっついて、一つの大きなベッドになっていた。
部屋に備え付けてあるチェアーに座って休んでいると、備え付けの電話が鳴り、お連れ様が起こしになられました、と言われた。しばらくすると、手にすこし大きな紙袋を持って、ちふゆと加藤が部屋に入ってきた。
「来たわよ」
「こんばんわ、先輩」
「そんな遅い時間じゃないけどな。……その袋は?」
「今日着る服よ。それとあなたの分も用意したわ」
「き、着るのか……」
「ふたりで選んだんですよ。多分サイズもちょうどいいと思います」
そう言われると、逃げる隙が分からなくなった。……諦めよう。人生は、そういう時もある。
「そういえば、どこで着替えるんだ?」
「大丈夫よ。この部屋、ウォークインクローゼットで一人づつだったら普通に着替えることができるわ」
「そうか。じゃあ、だれから着替えるんだ?」
「私はとくに順番は希望はないけれど」
「その、わたしは最後がいいです……」
「わかった。じゃあ、どうする?」
「そうね、じゃあ私から先に着替えるわ」
そう言うとちふゆは紙袋を持って、ウォークインクローゼットの中に入った。加藤と二人、特に話すことはなかったが、二つくっついたベッドに隣同士座った。
「先輩、その……」
「なんだ?さすがにまだ何もしないぞ?」
「その、ですね……実は、最後に着替えるのを選んだ理由がありまして……」
「理由?」
「まぁ、それは後々のおたのしみということで」
「あぁ、わかった」
しばらくすると、ちふゆがウォークインクローゼットから出てきた。メイク等は変わっていなかったが、タイトワンピースというんだったか。身体のラインが際立つ一枚モノのワンピースを着て、髪形の分け目を少し変えていたがそれがいつもより印象を変えていた。
「おまたせ」
「お、おう」
「その、どうかしら?」
「似合ってるぞ?……ちなみに今回のコンセプトは?」
「昼下がりの団地妻よ」
なんだそのコスプレのコンセプトは?今まで生きてきて見たことも聞いたこともない。そもそもそれはアリなのか?
そんなことを頭の中でぐるぐると回っていると、ちふゆは手に持っていた紙袋をこちらに差し出した。……どうやら、これに着替えろということらしい。
「いちおうわからないこともあるかもと思って指示書を入れてるわ」
「似合うと思いますよ、先輩」
「あ、ああ。わかった」
紙袋を渡され、クローゼットに入る。クローゼットの中は、すこし手狭だったが、なんとか着替えることは出来るようだった。紙袋の中を確認する。
「……これってスーツ?」
いちおう袋に入っていた白いワイシャツに袖を通し、スラックスに足を通す。ネクタイを締め、ジャケットを羽織る。指示書には、髪をジェルで固め、伊達メガネをつけるようにと書いてあったので、その通りにする。
着替えを終え、クローゼットから出て二人のもとへ行く。二人の姿が見えると、目が点になるとはこのことを言うのだろう。二人とも微動だにしなかった。似合っていないのならそう言ってくれると助かるんだが……
「せ、先輩。その、すごい、似合ってます!」
「ええ、いい感じよ」
「そ、そうなのか?二人とも反応がなかったからどうなんだろうと思ってたんだが」
「その、逆よ。思った以上に似合ってて驚いたわ」
「で、ですね」
自分ではわからないが、二人が似合っていると言ってるならそれでいいのかもしれない。
「あの、ちなみにコレのコンセプトは?」
「英国紳士よ」
「え、英国紳士?」
「そうよ。悪くないでしょ?」
「似合ってますよ、先輩」
「ありがとう。次は加藤、着替えてきていいぞ」
「わ、わかりました」
加藤がクローゼットの中に入る。ちふゆと二人、特に話すこともなく、加藤が着替え終えるのを待っていた。
「き、着替え終えました……」
クローゼットから細い声が聞こえた。どうやら、加藤が言ったみたいだがなぜか出てこない。……なにかあったのだろうか?
「どうした加藤。出てこないのか?」
「……その、着替え終えてわかったんですが思った以上にこれはやばいかもです」
「まぁ、そんなに気にしなくていいんじゃないか?いいから出て来いよ」
加藤は顔だけを扉を開け、顔だけを見せた。顔の上にはすこし大きめの動物を模した耳をつけている。あれは、何の耳だ?
そんなことを考えていると、加藤はさらに顔を赤くする。
「……その、あれだ。気にしないから出て来いよ」
そう言いながらクローゼットのほうへ足を進める。それは予想外の行動だったのか、加藤は身体をびくりとし、クローゼットの中に戻ろうとしたが、足が引っかかったのだろう。ふらつき、体勢を整えようとしたが、バランスが悪かったのだろう。
意図せずして扉から姿を現した。
加藤は、かなり小さめの黒いビキニを着ていた。いわゆるマイクロビキニというやつなのだろうが、それだけではなく、後ろ側からしっぽのようなものがちらちら見えている。
「そ、その、やっぱり恥ずかしいです」
「……自分で選んだんだろ?」
「そ、それはそうなんですけど……その、思った以上にサイズが小さくて色々見えてまして……」
そう言われ、加藤を頭からつま先まで見る。……たしかに、胸はほぼ輪郭が肌色だし、手で隠しているが、ボトムスの部分は、さらにきわどく、うっすらとアンダーヘアーが見えていた。
「うぅ……さすがに一度試着すればよかった」
「その、あれだ。ちふゆが待っているからいくぞ。というかそのしっぽ、どうなっているんだ?」
「……じつは、その、中に入れてるんです」
「中?でも……あー、そっちかー」
「ネットで注文したら、これが届きまして……その、前から興味があったのは事実だったので、すこしづつ慣らしていってといったかんじです」
「そうか……」
自分で弄ろうとは思わないが、そこは個人の趣味嗜好と言われたら何とも言えない。加藤の嗜好にそれがたまたま該当したのかもしれない。
加藤の手を取り、ちふゆのもとへ行く。スマホを触っていたちふゆがこちらをみると、一瞬ギョッとした顔をした。気もちはわかる。たしかに、インパクトは強い。
「す、すごい衣装ね」
「ちふゆ、あまり言ってあげるな……」
「うう……」
加藤は、しゃがみ込み、動こうとしなかった。まだ恥ずかしさが勝っているのだろう。
「その、なんだ。似合ってると思うぞ?」
「この衣装は今日限りです。さすがに恥ずかしすぎます」
「そ、そうか。まぁ、でもあれだ」
「……なんですか?」
「正直、その、すごくエロいと思う」
そう言われた加藤は、顔を赤くする。……生理現象とはいえ、いつもよりさらに大きくなっている感覚は自分の身体なのでいやでも感じる。
「そ、そうですか」
「あと、二人にお願いがあるんだが聞いてくれるか?」
「内容次第よ」
「で、ですね」
「その、三人でする前にだな、二人でキスしてるところを見せてくれませんか?」
「え」
「……どういう了見かしら」
「正直に言う。見たい。ただ、それだけだ」
二人は、瞬時にして目を合わせ、近寄る。どうやら、話し合いをするみたいだ。しばらく、こそこそとこちらに聞こえないようにしていたが、二人はこちらを見て、同時にため息をつく。
ダメだったか?と思っていたが、二人はそれぞれ口を開く。
「その、あれですよ、先輩。あとでお願いを聞いてくれるんだったらしてもいい、ですよ?」
「等価交換というやつね。私も同意見よ」
「大丈夫な範囲だったらこちらも頑張る」
「そんな難しいことは言わないわよ」
「はい、私も同じです」
二人はそう言うと、クスリと笑った。……これを見れるんだったら、少しのお願いでも悪くはないと思う。
二人の距離は少しづつ、縮まる。加藤とちふゆは互いの腰に手を回し、さらに距離を詰める。
目を合わせ、加藤のほうがすこし背丈が小さいので背伸びする形になったが、ちふゆもそれに合わせて、軽くかがんだ。
ふたりの唇が重なった。
ちふゆと加藤、どっちが好みだい?
-
ちふゆ
-
加藤