「つまり、サークルの後輩の子と酔った勢いで関係を持った、と」
「……申し訳ありません」
シャワーを浴びてバスタオルを胸元に巻いたちふゆの前で反省の弁を練っている。もちろん、こちらにせめてタオルを巻くなどの人権を語る隙もあらず、生まれたままの姿で正座をさせられている。
「あなた、人にやられて嫌なことはしないって言葉を知らない?これは幼稚園児でもわかることなのだけれどそこのところどうなのかしら」
「ほんとうにおろかなことをしました。……ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なにかしら」
「ちふゆさん、怒ってます?」
「……怒ってはいないわ」
あっ、怒ってる。表情では読めないがこれは烈火のごとく怒りがメラメラと燃えている。ちふゆがこんなにわかりやすく感情を出しているのは初めて見たかもしれない。
かわいいと思ったと同時に、怒らせる原因を作ったのは俺だった。それは、だれが見ても聞いてもはい、やイエスとしか言わないであろう。
そんなことを考えていると、ちふゆは大きくため息をひとつ吐いた。スマホをみて、何かを確認するとしばらく操作をしていた。しばらく、沈黙の時間だったが、ちふゆが一言。
「雨は、もうすぐやみそうね」
そう言うとちふゆは立ち上がり、家に置いてあった予備の服に着替え始める。いったいどうしたんだろうと思っていると、ちらりとこちらを見てまた一言。
「外に出るから、早くあなたも着替えなさい」
どうやら拒否権はないようである。
◇◇◇
あの日、先輩に言った言葉が妙に頭の中で繰り返してしまう。
≪私は二番目でもいいんです。私の身体を好きに使ってもいいです。ただ、お願いがあります≫
≪はい、私をきらいにならないでください≫
……どうしてあんなことを言ったんだろう。口から出た言葉は取り返しがつかず、それでもと考えて足掻いたところで事実は変わらない。
ベッドで枕に顔を埋め、バタバタと脚を動かす。気を許したらぶり返してしまう。
「はぁ……先輩。会いたいなぁ」
それはどういった意味で言っているのか。ほかのだれかに聞かれてもわからないかもしれない。でも、いまは。ただ、ただ、先輩に会いたいという気持ちでいっぱいだった。
そんなことをひとり考えていると、スマホが通知で震えた。
こんな時間に誰だろうと確認すると先輩からだった。
『今夜ここに来れるか?』
メッセージアプリにはそう書いてあった。どこだろうと添付されていたマップアプリを確認すると、すこしお高めのホテルだった。ホームページで確認すると正直学生の身分だとちょっと割に合わないような値段と格式だ。
……これはどっちに捉えるべきだろうか?
先輩からお誘いされている?あの先輩が?確かにうれしいけど先輩ってこういう時って自分から誘ってくることはないはず。
でも、正直お誘いはうれしい。
……決めた。先輩のところに行こう。そうと決まれば今持ってる中で一番かわいい下着と服を決めるまではいつもよりも早かった。
メイクもいつもよりちょっとだけ気合を入れて、いつも先輩と会うときにつけてる香水をつける。先輩にかわいいとちょっとでも長く思ってもらえるように。最後にお気に入りのリップを唇に塗って、急いで家を出た。
空は雲間から月の光がさしていた。それは、まるで舞台のスポットライトのように照らしてくれているような気がした。
ホテルへ着くと、受付に問い合わせる。事前に、部屋番号を教えてもらっていたのでフロントマンはすんなりと受け付けてくれた。手続きを終え、エレベーターに乗り、目的のフロアまで上昇する。
エレベーターの扉が開くと、まっすぐ教えてもらった部屋の前まですこし早足で進んでいった。ノックを数回すると、すぐに扉が開いた。
先輩だった。
勢いあまって抱き着きそうになったが自制をし、部屋の中に入る。カーペットが敷いてある奥へ行くと、綺麗な女の人がソファーに座っていた。
……え?
理解が及ばないと思考が止まるとは聞いたことがあるけれど、実際に直面するのは初めてだった。いったいどういうことだろう。
綺麗な女の人は、こちらを見ると少し微笑んで口を開いた。
「こんばんわ。あなたが加藤さんね?」
いやな心臓の跳ね方がした。ものすごく嫌な予感だ。綺麗な女の人は、先輩の腕を抱くようにして、こう言った。
「この人の彼女の小山ちふゆよ、よろしく加藤さん」
頭の中が真っ白になる感覚ってこんななんだなと胸の痛みと共に思った。
うそだったらどれだけよかったのだろう。
これが眠っている時に見る夢で現実はそうじゃない。
そんなことばかりが頭の中で駆け巡った。
「ごめんなさい、実はあなたを呼んだのは彼じゃなくて私なの」
「……どういうことですか」
「そうね、それを説明するよりも」
そういうと彼女は、先輩に顔を近づけていく。
うそうそうそうそ
やめてと口から裂けるように出そうになったが、なにもだれも止まらなかった。
先輩と小山といったこの人が甘く、熱く、激しく、唇を重ねた。正直、頭はまったくといっていいほど働かなかった。ただ、目の前にある現実を直視することしかできなかった。
先輩が私の知らない彼女と名乗る人と唇を重ねている現実に、吐き気すらも催してしまうが、小山と名乗った人は先輩の唇から離れるとこう言った。
「選びなさい。今ここで一緒に絡むか、それとも全部あきらめて家に帰るか」
……いったい何を言っているんだろう。そんなの、そんなの……!
先輩の顔を見てみると、先輩も聞いてなかったのだろう。ぎょっとした顔をしていた。一瞬目が合った。その目をみて、行動は決まった。
一歩、また一歩と先輩のほうへ足を進めていった。
ちふゆと加藤、どっちが好みだい?
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ちふゆ
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加藤