生きていることに意味はあるだろうか。
馬鹿げた問いだと八重子は思う。もしも生きていることに意味があるのだとしたら死んでいることに意味はないことになる。ならば、なぜ最後には死ぬとわかっていて人は生きるだろうか。そのように死に
むしろ意味があるのは死の方だと八重子は
八重子は死体である詩帆の胸を口に含み熱心に乳首を吸った。右の乳首を舌先でつついて吸い、左の乳首を幾度も
八重子は詩帆のことが好きだった。詩帆もおそらく八重子のことが好きだったろう。八重子と詩帆はいつも二人きりになれる秘密の場所を見つけては寄り添い、互いを抱きしめてキスをしたものだ。
詩帆はそうした手紙の中で幾度も「死にたい」と記していた。死は
だから殺した。
別におかしな話ではないと八重子は思う。二人にとってはそれが愛だったのだ。
どうでもいいんだ、何もかも。
すっかり
無。
死。
自分は死ぬ前に何をしておくべきだろうかと八重子は考えた。若いうちに死にたいとは思っていた。詩帆のいる世界にいきたい。しかし今何も考えずに死ねば警察などがこの館に押しかけてきて自分たちの遺体を回収し、
そうはさせないと八重子は思う。自分たちは死者として地上にとどまり続け世に暗黒をもたらすのだ。そのためには協力者が必要だと彼女は考えた。死んだ後自分たちの
そして可能ならば大勢の死者が集まる土地を造りたいものだと八重子は考えた。そこでは死者が王であり
死者の王国。自分はそれを築こうと八重子は決心した。それこそが世界に対する、そして生に対する最大の反逆になるはずだ。生きていることそのものを
私は神を
目的の達成にはまず
八重子はそこまで考えたところで寝床から起き上がった。彼女は今無性にセックスがしたかった。死んだ詩帆の体を
八重子は台所までいきコーヒーを
シャワーを浴びた。丁寧に体を洗い歯を磨く。八重子は期待に胸が高まっていくのが自分でもわかった。ブラックローズの娼婦はたいてい年齢が二十代後半から四十代前半だった。どの年齢でも若々しい肌をしており、巧みに八重子に誘いをかけてきて、卓越した技術でいつでも彼女を満足させた。
殺人衝動も高まってきた。誰でもいいから若い娘を殺したいと八重子は願った。だが、と彼女は考える。自分はこの衝動を抑えなければならない。死体を隠すのは手間だし、何より協力者となりうる女まで殺してしまってはいけないからだ。自分は目的のためにこれから長期間に渡って殺しの衝動を耐え忍ぶ必要があるだろう。八重子はそこまで考えたところで思考を手放し、ため息をついた。
まあいい。私には代わりにセックスがある。
八重子は寝室にいきスピーカーで音楽を再生しながら娼婦の到着を待った。ジョナ・ケイガンを聴きコープランドを聴いた。いずれも美しい曲だった。唯一の魂の
インターフォンが鳴った。八重子はバスタオルを体に巻いただけの格好で玄関に出た。扉を開ける。
娼婦は若く背の高い女だった。目が覚めるような青いドレスを着ており胸のあたりが開けていた。
八重子は詩帆の遺体がある部屋とは別の部屋に女を通した。大型のベッドに座り、事を始めた。
八重子は女の乳房を無造作につかみ五指に力を込めて
八重子は思う。いい。とてもいい。
八重子と女はシックスナインの体勢に移った。八重子が下になって女の股を覗き込み、女は八重子の足を開かせて熱心に秘所を舐めた。八重子も女のそこに舌を
次に八重子は仰向けになって女に責めてもらった。ぐっと股を開き中心を女に舐めてもらいながら、同時に女の両手によって乳首をいじられる。三か所から同時に快感が湧き上がってきて八重子の体は震えた。小刻みに体が震え、腰が上下に幾度も跳ねた。
いく。
八重子は詩帆の名を叫びながら絶頂に至った。小さな涙の粒が目の端からこぼれ落ちた。激しい快感が八重子の全身を貫きやがては穏やかになっていった。
その後も女は恋人のように八重子に寄り添ってくれた。
八重子は疲労のために眠りについた。
眠りの中で八重子はふたたび詩帆に会った。穏やかな気持ちで詩帆と隣り合ってソファに座り、コーヒーとケーキを食べた。二人は学校であったことやインターネットで見たことなどを話した。
目が覚める。
隣に女がいなかった。八重子はベッドから起き上がって服を着ると館をさまよって女を探した。女の豊満な乳房に思いを
やがて八重子は詩帆の遺体がある寝室までたどり着いた。その扉を開けると娼婦の女が裸のまま詩帆の体にまたがり、詩帆の首を両手でつかんで絞めているのが見えた。
八重子は
「何をしている」
八重子の問いに女は答えなかった。ただにやりと笑って別のことを言った。
「この詩帆とかいう娘の代わりに私を
「娶る? 娶るとは何だ?」
「あなたが思い描いている死者の王国の計画なんだけど、その中心に私を
八重子は驚いた。死者の王国の計画について知っているのは詩帆だけだったはずだ。その詩帆も今は死んでいるのだから計画は八重子の頭の中にしかない。なぜこの女は知っているのだろうか。
「私なら死後も動くことができるわ。私は普通の人間ではない。あなたのキスと血を受ければ死後も生き続けることができる。だから死者の王国の
八重子は壁に立てかけていた
しかし女は素手で軽々と鋸を受け止めた。刃が皮膚に当たっているにもかかわらずその手のひらからは血の一滴も出ていない。八重子は鋸に力を込めて引こうとしたが、女が指先で刃をつまんだだけで鋸はまったく動かなくなってしまった。
八重子は初めて動揺した。なんだ? 何が起こっている?
女は高笑いを上げた。甲高い笑い声が寝室の中に響き渡り、八重子の心を恐怖で支配した。
女が言った。「この詩帆という娘の首はいただいていくわ。八重子さん。今はあなたを説得しても無駄なようだからおとなしく退くことにします。でもきちんと考えておいてちょうだいね。私をあなたの真の恋人に、妻にすることを」
女が片方の手の人差し指で詩帆の首を横一直線になぞった。するとそれだけで詩帆の首は胴体から切断された。八重子はその技に
すべては数秒のあいだのことだった。八重子も館から出て女を追おうとしたが、外に出た頃にはすでに女の姿は消えており、どの方角に逃げたのかもわからなくなっていた。
八重子はがっくりとうなだれた。館に戻る際に郵便受けに手紙が入っているのを見かけた。それを取る。
手紙を開けると中には手書きの便箋が入っていた。文字を見てすぐに詩帆の書いた字であることに気づく。
八重子は激しく混乱した。なぜ詩帆の書いた手紙が今この時に届く? もう詩帆が死んでから十日が経っているのだ。そもそも、かつて二人はラブレターを直接手で渡していた。郵便で送付したことは一度もなかった。なにせ二人は毎日会っていたのだ。これは一体どういうことだ?
八重子は詩帆の書いた便箋を読んだ。
——やえちゃん。私を殺してくれてありがとう。私はあなたに殺されて嬉しい。私は生前、本当に苦しかったから。家族のことや昔学校であった
——やえちゃんはそんな私にいつも優しくしてくれたよね。頭の洗い方も体の洗い方も知らなかった私と一緒にお風呂に入ってくれて、洗い方を教えてくれた。
——私はやえちゃんの計画していることを応援しているよ。死者の王国だっけ。以前話してくれたよね。むずかしくて私にはその理念も
——やえちゃん。やえちゃんもいつかこっちに来てね。死の世界に。あるいは別の選択もあるかもしれないけれども。そのときは私はきっと