因習ハンターのアルガくんは嫁探しばかりに精を出している。 作:山雅将暉
あぁ、幸福です。足が笑うたびに彼が支えてくれる。寄り添った拍子に飛び出した不意打ちにも応えてくれる。斬ろうとしても斬れなくなっていくあなたに安堵と少々の口惜しい思いを抱えて、微笑む唇にキスをする。
取っていた宿に到着するまで何度も続いたやり取り。まだ早朝とも言えない時間だったのが幸いし、我慢の効かない私の姿を見られたのはあなただけ。なんて甘美な響き。私の全てを見せられるのは、斬りたくないと思いながらも斬ってしまうのはあなただけなんです。あの夜をもう一度やり直したい。そうすれば、斬れ味を落とすなんて無粋な答えに辿り着くこともなかったでしょう。
「お"っ////おっほおおお!?////」
あぁでも、そうすれば私を抱いてくれなかったのですか、では何度でも湧き立つ殺意を押し込めましょう。あなたと一つになれるなら斬りたい欲求にさえ逆らえ・・・・・・いえ、それは嘘です。やっぱりあなたを斬りたい。
「あ"っイッグウウウウウウ!////」
押し倒されている今だって、治療行為という名目がなければ我慢できなかったかもしれません。
「っ、抜雲斎テメェ! やる気あんのか!?」
「えへへ♡ないかもしれま———お"っ♡!?」
そうして容易く私の内面を看破したあなたは力強く腰を押し出して魔羅の衝撃を子宮にまで届ける。きっと私の声は襖の間から旅館全体に広がっているでしょう。私たちの愛しあう声が誰かに聞かれている。そしてきっと、きっとその誰かは純愛だと確信するはず・・・・・・あぁ♡でも♡でもでもでも♡そろそろげんか———
「お"ぉお"っ♡!?」
アルガくんの指でお腹グリグリされるの好きぃ♡膣に収めている魔羅の形がこんなにもハッキリと♡
「いいか? 『練』を途切れさせるな。互いに『練』の状態を保ってはじめて“
そう。今私はアルガくんと治療行為を行っている。アルガくんと交わって三日後に別の仕事を入れていた私はアルガくんから心配されて♡回復系の『発』を作るって言ってくれたんですぅ♡
「なのにッ!」
「あ"ッ♡!!?」
足持ち上げられてのピストン効くぅ♡
「テメェはッ!」
「イギッ♡!?」
弱いとこ当たったぁ♡
「一向に『練』をしやがれねえ! なんのつもりだ抜雲斎!? 仕事の日程はもう明日まで迫ってんだろ!? 不調きたしたまま戦う気か!! 俺は絶対に許さねえぞ!」
もっと言ってぇ♡優しいアルガくん好きぃ♡
「だってぇ♡だってえ♡」
“
制約は、①『練』状態の念能力者同士が性行為の快感を通してオーラを回復力促進の強化系の性質に変えて、対象者と発動者の身体を循環する。
快感そのものは互いのオーラを繋ぐケーブル代わりにするための制約です。アルガくんの生来の才能は変化系。他者のオーラを操作することは苦手なので、快感を通して相手のオーラに効果を浸透させるっていう理屈はわかるんです。
けれど②が問題でした。
「二つ目の制約が嫌なんですぅ♡!!」
②この能力の対象は女性に限られる。
「あれって私以外にも能力使えるってことじゃないですかぁ♡!! 私治療行為で夫が寝取られるのは容認できませんッ!!」
断固として認めてはならない制約。これでは仮にハンター協会がアルガくんの能力を認知して、この能力の積極的運用を推進されればアルガくんは浮気し放題になってしまう。
「今からでも二番目の制約を私一人に変えてください! あっ♡なんで大きく♡!? 寝取られるの嫌なのぉ♡」
だから本音をぶつけるしかない。はずなのですが、なぜかアルガくんの魔羅がさらに太く硬くなってしまいました。
「抜雲斎」
なにを言われようと私は抗議しま———-。
「おまえ可愛すぎ」
「はぇ♡?」
あッ♡アルガくんの魔羅が抜けちゃ———。
「お"っほぉぉ"♡!?」
かと思えば一気に奥まで突かれた♡やっぱり正常位好きぃ♡アルガくんの顔見ながら抱かれるの気持ちぃ♡
「少し聞け抜雲斎。“
「しょ、しょんな話聞いてな———あ"っはぁ"ん♡!?」
あぁダメ♡あたまゆるくなってきちゃった♡
「対象以外に使えば俺は生殖能力を完全に失う」
「あえ♡? ・・・・・・・・・・・・うそ。ダメ、ダメダメダメダメダメェ!」
茹だった頭が一気に冷めた。
「ただでさえ私の誓約で妊娠できにくくなってるのにどうしてそんなこと・・・・・・!」
「だからだよ。俺もそれが嫌だからこそこの誓約を組んだ」
誓約は念能力者にとって不利益な分だけ効果を助長させる仕組み。アルガくんがそれを許容できないと感じているからこそ、“
「さすがに一朝一夕で治す効果を制約だけで生み出すのは限度があった。俺がそう感じていたからこの誓約を組むまで“
「なんで・・・・・・なんでそこまで」
私とあなたは一昨日会ったばかりじゃないですか。私はアルガくんを愛しています。でもだからといって同じ分だけ愛されようとは思っていなかった。私はあまりにも早くあなたのことを好きになりすぎたから、あなたも同じように私を想うまでじっくり時間をかけようと・・・・・・そう思っていたのに。
「言っただろ? 俺はもっと抜雲斎の笑顔が見たい。充実した人生を生きてるって顔が見たいんだ」
心が・・・・・・心があったかい。
「そのためにおまえの身体はいつでも万全に整えるつもりだ」
あぁ好き。感情的なものだけじゃない。理性的に好き。
「それにこの能力は房中術を参考に作られている。女以外に性行為できない以上、欠点はなるべく高めておけば、上昇した回復効果だけを良いとこ取りできるだろ?」
わかったよ君の言いたいことが。
「安心しろ。そ———」
上半身を起こして触れるだけのキスをした。理性的な好意が私にオーラを漲らせながら君の唇まで連れていった。オーラが優しい光を放って私を包む。その光をオーラの攻防力移動の要領で傷口に届けた。
“
穴が空いた左腕の傷口とアルガくんの肩の裂傷に筋繊維が伸びていく。少し変な感じがするけれど、それが気にならないほどに私は快感を感じていた。傷口が治っていくという事実はアルガくんが感じている心の快感を裏付けたのだから。どんどん満たされていく心の全てが快感に繋がっていく。最早これは心の性行為。私とアルガくんでなければできない私たちだけの“
「! 驚いた。キスだけでも発動できるのか」
目を見開いたアルガくんに私は頬を膨らませてあたかも不機嫌ですという体で生々しい感触が残る唇を動かした。
「もうわかりました。仮にあなたが操作されて能力を使わされても誓約に抵触しないと考えればリスクヘッジはきちんとしてますし? 私も安心してアルガくんとイチャイチャできますよ。浮気さえしなければ・・・・・・浮気さえしなければ!」
「わかったわかった」
大事なことなので二回言いました。けれどアルガくんがあまりにも簡単に了承するので、なんだか申し訳ない気持ちになってその硬い胸板に額を押し付けた。
「我が儘ばっかり言ってごめんね」
「どうした急に?」
「だって私・・・・・・アルガくんに貰ったばかりですから」
自分でも感じが悪いのはわかってます。私の精神性がどれだけ面倒臭いかも能力を作ったときからわかっているつもりです。だからせめて感謝の気持ちをしっかり伝えようと上目遣いで彼を見上げた。
「ありがと。アルガくんも私をたくさん頼ってくださいね。私にあげられるものはなんでもあげちゃいますから」
ズクンと子宮が持ち上げられる感覚がした。今は穏やかな気分で性衝動に呑まれていないなずなのに急に快感がぁ♡?
「あ"♡!? なんでまた大きくなってぇ♡」
二日間かけて刷り込まれた快感が帰ってきたぁ♡なんれ♡私いいこと言ったよね♡? なんれ興奮してるのアルガくぅん♡?
「じゃあ俺もちょっと我が儘になってみようか?」
「待っれ♡もう朝らってぇ♡」
呂律が回んない♡傷は回復したのに腰に力入んない♡やばい♡もう朝ごはん運ばれてきちゃうよぉ♡
「きちゃう♡女将さんきちゃうからぁ♡一旦止め———お"ほぉぉ♡!?」
そうして私の身体は下半身が閉じれなくなるまで徹底的に攻められた。終わったときには下半身の感覚が無いに等しく、これから起こるであろう腰の痛みに危機感を抱いていたけれど、ずっと『練』を絶やさなかったおかげか"
———
あの後から記憶が曖昧だ。抜雲斎のあまりにも可愛い上目遣いを見て理性が飛んで、人としての言語を発せなくなるまで抱き潰して、女将さんがなぜかタイミング良く食事を運んでくれて、客室露天風呂でイチャイチャしてたらあっという間に一日経ってチェックアウトしていた。
「鹿取ちゃん、良い人が見つかって良かったねえ」
「な、ななななぜそれを!?」
遅れて女将さんになにをしていたかバレバレだったことに気づき、外界の人々が性事情を隠したがるタチなのを思い出して、抜雲斎にはあとで謝った。
「謝罪は受け取ります。けれど、しばらく顔を合わせられないのでアルガくんは別ルートから現場に向かってください」
「え、仕事手伝っていいのか?」
意外。俺は抜雲斎と仕事することになっていた。なんだか頼られているようで嬉しいなと呑気に考えていたが。
「もちろんです! 私を辱めた分だけこき使いますので覚悟してください!!」
抜雲斎はキレていた。それはもうめちゃくちゃに口角上がりまくっているし、身体から立ち昇るオーラは俺の顕在オーラの半分はあるんじゃないかと思うくらいに荒ぶっていた。
あと公衆の面前で辱めたって言わないでくれ抜雲斎。周囲の人の視線が痛いんだ。
「もし付いてきたら・・・・・・30分口聞いてあげませんから!」
そう言って抜雲斎は先に行ってしまった。30分しか我慢できないところに可愛さを感じる俺の感性は少しおかしいのかも知れん。
さて、電車賃は無えし、大まかな方角だけ調べて走るか。目的地は・・・・・・。
ブー、ブーと携帯から着信音が鳴った。チラッとメールに記された目的地の名前を確認して地図を調べ、方角を把握して走り出す。あぁ、メールは見とかないとな。繊細な抜雲斎のことだ。返信は送った方がいいだろう。
『件名:今回の仕事について。
依頼達成難度はB。ハンター協会がたびたび腕利きのハンターを向かわせてるけど悉く失敗しています。それをもう3ヶ月は続けているので、達成難度が徐々に高まっていった形になります。因みに腕利きのハンターたちはみんな行方不明です。
裏話はここまで。現場はキョウ市。観光地としても有名なヘイアンキョウで“神隠し”が起こっています。私たちの仕事は“神隠し”の原因究明と解決です。
追伸:30秒以内にメール返して』
「30秒!?」
慌てて指を動かして携帯にメッセージを打ちつけていく。
『件名:依頼を受けた理由。
今回の依頼は賞金首ハンターの抜雲斎が受けるにしては調査の面が強い気がするな。依頼達成の賞金が高いとか、故郷であるジャポンの問題を解決したいとか、なにか別の理由があるのか?』
フー、となぜか溜め息を吐いてしまった。まだネット関係の扱いには慣れないな、これから抜雲斎と共に行動する以上情報収集はしっかりできるようにならないとな。
ブー、ブー。
「速くね!?」
3秒かかってなかったぞ!?
『件名:理由の答えは切羽詰まったハンター協会とジャポン。
さっきの話に戻ってしまいますが、すでにプロハンターには27名の推定犠牲者が出ています。そのなかにはシングルの称号を持つハンターも3名含まれます。しかもジャポンではつい先月国内最強の陰陽師(念能力者)が病死したばかりなので、なりふり構っていられなくなったハンター協会とジャポンは特大の武力を求めて私に依頼を出しました。
追伸:次は20秒で。頑張ってね』
「え。ちょちょちょっ、待ってくれ!」
思わず屋根の上で足を止めてしまい、両手指を駆使して湧いた疑問を精一杯入力する。
『件名:神隠しの念能力について。
俺は今、神隠しを大規模な儀式型念能力と認識している。操作系か具現化系、いずれかに特化した能力によって空間にルールを課して外界と隔絶する。もし放出系の転移能力だとすればプロハンターが行方不明って点に違和感が残る。ハンターライセンスには発信機の機能がついているにも関わらず、行方不明ってことは異空間に取り込まれている可能性が高いと考えている。抜雲斎の見解はどうだ?』
ふーーとさっきよりも大きな溜め息が出た。なんだかメールって疲れるな。っていうか、抜雲斎のヤツもしかしてメールでやり取りしたくて別行動をとったのか? ・・・・・・あり得るな。建前と本音をややこしくするのが上手い抜雲斎のことだ、自分でも気づかないうちに欲求を満たしているのかもしれん。
ブー、ブー。
『件名:そこまで考えてなかった』
ガクッと件名を見た瞬間躓きかけてなんとか体勢を立て直し、メールの続きを読む。
『 ただもしそのケースであれば、“八雲蛟”の雲で空間を囲んで“八咫巴”を完成させれば具現化系の『発』でない限り完全に無効化できるはずです。あと、アルガくんの推測は当たっているかも知れません。意図的に“神隠し”を起こそうとした際の失敗例に(生まれ持っての系統が)同系統の念能力者二人がヘイアンキョウに踏み込んだとき、“神隠し”が発動したのは先行した念能力者だけだったそうです』
だから考えてなかったのか・・・・・・。あと補足わかりやす。俺も真似しよ。
『追伸:だから考えてなかったのかと考えたアルガくん、次は10秒以内に返してね』
「バレてる・・・・・・いや待て10秒!?」
再び屋根の上で足を止めた。この国の屋根って瓦でできているおかげか安心してブレーキかけられるな。
『件名:具現化系の発だった場合。
仮に俺の想定通り大規模儀式型念能力だった上で具現化系の発だった場合、俺たちが直接儀式に参加するってことでいいんだな?』
完全に足を止めて自然と打ち込むメールに集中していた。
『件名:私“は”参加します。
さすがに依頼を受けてないアルガくんまでみすみす罠に嵌まる必要はありません。私が異空間に侵入したあと余計な邪魔が入らないように儀式が終わるまでヘイアンキョウに念能力者を入れないでください』
追伸無し・・・・・・か。
『件名:どっちの方がおまえにとって一番助かる?
①共に儀式に参加、②ヘイアンキョウの侵入規制、どっちの方がおまえにとって嬉しい? 因みに俺は①をやりたい。それに細かい条件付きの儀式型は俺の方が詳しい。なにせ経験者だ。このアピールにも靡かないなら俺は勝手に儀式に参加するぜ』
5秒かからなかった。成長したかな。
『件名:キュンときた♡
わかった♡一緒に参加できたら共同作業しようね♡じゃ♡先に参加してます♡』
なんだこれ。ハートマーク? いや待て、それよりも『先に参加してます』ってことは抜雲斎の“八咫巴”が作用しなかったのか。つまり、今回の念能力は具現化系濃厚。
『件名:了解』
「・・・・・・!」
メールを送信できない。電波が完全に遮断されているのか。なるほど、通りで情報が少ないわけだ。
・・・・・・あ、しまった。念能力者が異空間の外から空間を作り上げているケースを考えてなかった。いやだが、そのパターンだと俺の“
「・・・・・・ここか」
目の前の景色は歴史ある観光地そのものだった。ラジョウモンに次々と入場し、メインストリートを真っ直ぐに歩いてゆく観光客たちの様子は平和そのものだ。
歴史に興味のない子どもを連れて中に入る母親、デートに来ている男女、野生味溢れる毛皮のベストを着た巨漢が『凝』をしながらあちこちを見ている。・・・・・・なんだコイツ?
「チッ、ノブナガとフランクリンの野郎どこ行きやがった」
試しに俺も『凝』を使ってみた。ラジョウモンを中心に気持ちの悪い波紋があちこちに展開して目が痛い。念空間の全貌をこの波紋が覆い隠してるってわけか。きな臭くなってきたぜ。
「ん? おいそこのテメー! テメーも『凝』使ってんな! 探しモンか!?」
おっ、ちょうどいい。事情を知ってそうなヤツと話す理由ができた。それにしてもコイツいい声の癖に声量デケェ。あとオーラ量も俺の三分の二はあるな。儀式抜きで一人の人間がここまで念能力を高めている事実は少し感動する。
「ああ。俺はここで合流するはずだった嫁と急に連絡が取れなくなってな。あんたもか?」
巨漢はラジョウモンを過ぎてこっちまで走ってきた。少々威圧感こそあるものの、その表情には若干の冷や汗が浮かんでいた。
「俺もだぜェ。ラジョウモンを先に潜ったノブナガとフランクリンが消えちまってよ。連絡もできねえんだ」
「・・・・・・そいつらも念能力者か?」
そうだぜと力強く男が頷いたことで確信を得た。“神隠し”の発動条件は念能力者であることとラジョウモンを潜ること。だがまだ条件があるはずだ。・・・・・・それに、重なった条件が多ければ多いほど異空間はもっとえげつない効果があると考えるべき。
「自己紹介が遅れたな。俺はアルガ=フロスト。『変化系』だ。嫁の仕事の付き合いでこの現象を解決することになっている。よろしく」
「おいおい、いきなり系統教えんのかよ」
若干引かれているが、これからの話をする際に俺もコイツの系統を聞き出さなければならない。先に言っておいた方が印象いいだろ。
「ヘヘッ、だが気に入ったぜテメーの自己紹介。俺ァウボォーギン。『強化系』だ。ウボォーと呼んでくれ」
「OKウボォー。早速本題に入ろう」
気持ちのいいヤツだな。わざわざ合わせてくれるとは思わなかった。
「まずこの現象は“神隠し”と呼称されている。念能力者がラジョウモンを潜ると“神隠し”が起きる。そんで、同系統のヤツが二人で入ると一人だけが異空間に取り込まれる」
「! だからか! 合点がいったぜ!」
おそらく、ノブナガかフランクリンのどちらかが『強化系』なのだろう。
「まずは軽くいくぞ」
「おう」
一先ず俺たちはラジョウモンに近づき、俺はラジョウモンに向かって右腕を突き出した。
トプン。
空間に右腕が沈んでいく。だが感覚はしっかりと残っているし、強制転移でもない以上『放出系』と『具現化系』の“
「テメーも沈むのか! クッソォ、なんで俺ァいけねェんだ!」
残念がるところじゃねえよな?
「これで俺も条件に当てはまる念能力者ってことになる。・・・・・・っ、これ引いても抜けねえな!」
「なにィ!? ちょっとジッとしてろよ?」
沈んだ右腕を抜けずにいるとウボォーが俺の腰に両腕を回して、地面に軽いクレーターができるまで踏ん張った。
「お、おい、ちょっと待———」
「ウオオオオオオオオオ!!」
「グアアアアア!?」
う、腕が千切れる!! コイツなんて力だ。集落一の怪力『強化系』戦士でもここまでのパワーは無かった! ってか、この異空間どんな制約組んでこの馬鹿力に対抗できる力を作ってやがる!?
「オラァ! ・・・・・・ダメか。強制力の強え能力だぜ」
「あ、危ねえ。腕逝くとこだった」
咄嗟に右腕全体を『凝』で保護してなけりゃ完全に終わってた。
「オメェもなかなか頑丈だなアルガ。今度腕相撲しようぜ!」
「・・・・・・次があればな」
あ〜、なんかどっと疲れたぜ。これから俺ここに侵入して“神隠し”解決しないといけないってのに。
「フゥ、まあとにかく俺はこの異空間の中を調べる。ウボォーの仲間の特徴を教えてくれ。中で連携を取りたい」
「おう。ノブナガはちょんまげと着流し、フランクリンは長い耳たぶと口の端と顎に縫い跡がある」
「それ会話できるのか?」
「まあアイツは口もデケェからな」
“も”ってことはフランクリンは相当な大柄だな。覚えておこう。
「じゃあ一先ず俺は中に入る。一応この現象を引き起こしてる念能力者が外に居る場合に備えてウボォーも目を光らせておいてくれ」
「わかった。そっちは任せたぜ!」
望外の幸運だな。これだけ強力な念能力者がいる以上、外は大丈夫だ。思う存分中を調べられる。あとは意を決して踏み込むだけ。
ドプン・・・・・・チャポン。
やはり入る分には抵抗はない。ただ、もう一度さっきの空間に手を伸ばしても擦り抜ける。・・・・・・そういや、“八雲蛟”の雲が『特質系』の『発』にも作用するか聞いてなかったな。
『件名:了解』
ピッ。
よし。さっきのメッセージも無事に送れた。異空間内であればメールのやり取りは可能。それにしてもこの空間過ごしやすいな。ジャポンは気温が高くてまい・・・・・・・・・・・・。
「おかしくねえか?」
俺の身体は極寒地帯に適応した超寒冷特化の肉体。それが暑さすら感じず、涼しさすら感じない絶妙な気温は少なくともジャポンでは実現できないはず。
もう一度周囲を確認する。ヘイアンキョウにあるはずのないビル群、僅かに降り注ぐ雪の結晶、そして今し方潜ったラジョウモンが遥か南に聳え立っている。ラジョウモンから続く築地塀もまたおかしなサイズアップが実現し、西を見ても東を見ても壁に囲まれている。
「・・・・・・念能力でも喰らったか」
とうとう自分の意識さえも疑いはじめたそのとき、ボンッと天使の羽を持ったミニマムマスコットが目の前に現れた。
『否ッ! 我らのルールは説明を受けていない参加者の攻撃は許可しない!』
「・・・・・・・・・・・・」
『凝』。うん、間違いなく念獣。疑うまでもなく念獣。よし、とりあえずいろいろ話してもらおう。
「説明?」
『然り! 汝が参加した儀式・・・・・・“
・ルール①
死遊回生とは生者と死者の陣営に別れて行われる殺し合いである。どちらかの陣営の参加者が全滅するまで死遊回生は終わらない。
「生者はともかく死者ってのは?」
『いい質問だ。死者陣営は死遊回生制作者が死者の念によって生き返らせた選りすぐりの英雄! 非業の死を遂げた聖女! 大陸を蹂躙した皇帝! 神話の世界を戦い抜いた戦士! ・・・・・・なのだが、今教えた参加者たちはすでに脱落している。現在の参加者のことは情報規制の問題で教えられぬのだ』
考えられているな。死者が過去の人間である以上、生者側は死者の名を知るだけで情報的なアドバンテージがとれる。それを規制することで死遊回生はここまで長期間の儀式となったわけか。
いや、長期化している理由はそれだけじゃねえはずだ。あとから補充された俺や抜雲斎のような存在が大きな要因となっていると言われた方が3ヶ月も続いたことも納得できる。
あとはこのマスコットにどれだけ情報規制されているかを確認したいところだが、それはルールを全て把握してからだな。
「OK。続きを教えてくれ」
『お安い御用!』
・ルール②
それぞれの陣営には生まれ持った念系統6種類の生命体が所属しており、同系統の念能力者が参加することは認められない。
なるほど。だからウボォーは弾かれたのか。・・・・・・ただ、生命体ってのが気にかかるな。なにか恐ろしい怪物でも参加できるようにするためのルールに思えてならない。
・ルール③
死遊回生で死者が出るたびに1時間のカウントダウンがはじまる。カウントダウンが終了するまで片方の陣営の参加者が全滅していなければ儀式失敗と見做し、再度参加者が補充される。
「それは死者陣営もだよな?」
『是! どちらか一方にだけ補充要員が偏ることは有り得ない!』
・ルール④
ルール③のケースに至った際、補充要員が選定されるまで各陣営の一切の攻撃行為を禁止する。
やべえな。ここまで長引かせるためのルールを組んでいるのは、制作者が儀式の長期化によって起こり得るなにかを目的にしている可能性が高い。すでに時間がかかり過ぎている以上、なにが起こってもおかしくねえ。
・ルール⑤
死者陣営が勝利した場合は第二の生を与える。
・ルール⑥
生者陣営が勝利した場合は儀式から解放され、全ての死者陣営から3名を自由にピックアップして生き返らせることができる。
・ルール⑦
参加者の必需品は全て死遊回生が賄う。必要な物資はンジェルに告げることで用意される。
“生き返らせる”ね。この言い方なら十中八九制御能力はねえだろうな。仮に使役できるとすれば『操作系』の『発』を強引に作らされることになる。『変化系』にとってはマイナス要素が多すぎる。これまでのルールで公平性はかなり重視しているように思えるし、ある意味これも公平な報酬と言えなくもないか。
「気をつけなきゃいけねえところは生者陣営を生き返らせることはできないって点だな」
『その通り!』
そこだけは少し不公平だな。まあ不思議じゃねえか。死遊回生の制作者はどうにも死の念を利用することに長けている・・・・・・・・・・・・まずいな、どうしてその可能性に思い至らなかった!
「ンジェル。これまでの生者陣営の脱落者を数値化してくれるか」
『承知した!』
ンジェルの身体からブルーライトが放出され、空中に情報が記載されてゆく。
・生者陣営統計脱落者。
『強化系』担当22名。
『変化系』担当19名。
『具現化系』担当33名。
『特質系』担当4名。
『操作系』担当0名。
『放出系』担当31名。
『具現化系』と『放出系』への殺意が凄いな。そして、案の定居たな。3ヶ月間一度も脱落しなかったヤツ。『操作系』ってのも納得だ。死遊回生の運営にこれ以上なく適した能力を作っているだろう。
死者の念の操作。
「ンジェル。『操作系』担当の念能力を教えてくれ」
『否! 情報規制に引っかかる!』
「味方陣営であってもか?」
『例外はない!』
無理だとは言わねえんだな。この儀式に参加した時点で念能力を把握されていると考えておいたほうがいいな。
「わかった。それなら死者陣営の脱落者をさっきと同じように数値化してくれ」
『承った!』
・死者陣営統計脱落者。
『強化系』担当2名。
『変化系』担当5名。
『具現化系』担当11名。
『特質系』担当0名。
『操作系』担当15名。
『放出系』担当0名。
嘘だろ。なんつー層の厚さだ。ここまで差が生まれているとは思わなかった。
「ンジェル。この情報を調べた生者陣営はいたか?」
『現参加者にはいない!』
「じゃあ『操作系』担当以外の生者陣営に共有しといてくれ」
『承った!』
OK。こちらからの情報共有は規制されていないってことだな。気掛かりなのは生者陣営の『特質系』担当と死者陣営の『強化系』担当。おそらくそれぞれの脱落者が少ない理由に直接起因しているはずだ。相当な腕利きだろうな。警戒していて損はない。それに、さすがに儀式の制作者でもないのに一度も脱落していない担当はないだろう。
この儀式の制作者候補は未だ一度も脱落していない生者陣営の『操作系』担当と死者陣営の『放出系』と『特質系』担当の線が濃厚だな。この三つの系統の“
「・・・・・・・・・・・・まだ想定が甘い気もするが、こればっかりは戦ってみねえとわからねえな」
それにしても空間を弄る力を持つ念能力者を探すのは骨が折れそうだ。吹雪が涼しいぜ〜。いつの間にディヤ集落水準の気候に変わったんだか。
『他に質問はないか? 無ければ儀式を開始する!』
「OK。準備はできた」
ンジェルが力強く頷くと空に巨大な時計と文字が浮かんだ。
『これより! 第58回死遊回生を開始する! 死者も生者も一切妥協なく殺し合え!』
抜雲斎には感謝しねえとな。この仕事、思っていたより俺に向いてそうだ。
「因習狩り・・・・・・開始だ」
能力作り過ぎたのでここに載せときます。あと、アルガくんがここまで能力を作れたのはディヤ集落で重ねたしきたりというマイナス要因の分だけ念の容量(メモリ)を大幅に増やしているからです。
◯アルガ=フロスト
・念系統「変化系」
<永世氷塊>
変化系の発。オーラを極低温下の冷気に変化させる能力。
<戦士魂杖>
具現化系の発。オーラを貯蓄し、所持者の能力発動体ともなる杖の具現化。具現化できる数は4つまで(アルガとしきたりを共にし、帰ってこなかった命の数)。モース硬度10倍の氷の武器をサイズ関係なく形成できる。
*制約
①“戦士魂杖”の運用は武器の生成に限られる代わりにオーラの消費効率が抜群になる。
②“戦士魂杖”が武器の形を作れるのは一度の具現化につき一度までとする代わり、生成速度を極限まで高める。(但し“戦士魂杖”が四本あることをお忘れなく)
<終末氷塊>
変化系と強化系複合の発。自身のオーラを基に氷結した対象のオーラ耐久力を氷同然に変化させて圧力を強化し、永世氷結で生成した全ての氷とともに砕く能力。
*制約
・この能力は氷結させたものにしか作用しない。(絶対的な破壊効果)
<黄昏時は山羊蜜酒で>
変化系の発。アルガと対象のオーラを快楽で繋ぎ、回復力を促進させるオーラに変化させ、一瞬で治癒してしまう能力。
*制約
①発動中は対象者使用者ともに常時『練』状態を維持しなければならない。(オーラの変化効率の上昇)
②この能力は女性としか使えない。(回復効果上昇)
※誓約
女性以外に能力を使えばアルガは繁殖能力を失う。
◯鹿取抜雲斎
・元清凛隊メンバー
・賞金首ハンター(シングル)
・念系統『具現化系』
<八雲蛟>
「豊かな巴で呑み込んで」を解号に具現化する蛇の彫物が刃に為されている薙刀の斬魄刀。斬魄刀が発する雲を自在に操り、雲は抜雲斎の意志次第で破壊不能。そして包み込んだものは生者以外の時間が流れない念空間へと呑み込まれ、決して揺るがない不変の時を与えられる。
具現化系と変化系、操作系の複合発。
*制約
・『八雲蛟』の能力がある限り妊娠確率が大幅に低下する。
・『八雲蛟』の雲で害を与えることはできない。
・上記二つの制約の恩恵として、雲は『具現化系』以外の『発』を通さない。
<行雲流水・八咫巴>
*制約
・念空間“行雲流水・八咫巴”に引き込める対象は雲で囲んだものに限られる。
・念空間“行雲流水・八咫巴”に取り込んだものは、保存した一塊の雲自体を解除しなければ取り出すことができない。(そのため取り込むときも取り出すときも一気にやる必要がある)
・念空間に取り込める生命体は二体までだが、念空間に取り込んだ自身を含む対象の『発』は『具現化系』以外使用できなくなる。